説明

セスキテルペン合成酵素遺伝子及び該遺伝子を利用したセスキテルペンの製造方法

【課題】ファルネシル二リン酸からセスキテルペンの合成に必要な酵素遺伝子を取得し、それを利用してセスキテルペンを製造することを課題とする。
【解決手段】新規なβ-カリオフィレン合成酵素遺伝子、新規なゲルマクレンD合成酵素遺伝子、新規β-オイデスモール合成酵素遺伝子、新規β-クベベン合成酵素遺伝子、新規β-エレメン合成酵素遺伝子、新規α-ネオクロベン合成酵素遺伝子、新規α-フムレン合成酵素遺伝子、並びに/又は新規リナロール合成酵素遺伝子と新規ネロリドール合成酵素遺伝子を取得し、これらの遺伝子を宿主に導入してセスキテルペンを製造することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトに有用な生理活性のあるセスキテルペンの一種であるβ-カリオフィレン、ゲルマクレンD及びβ-オイデスモールをファルネシル二リン酸から合成するタンパク質、該タンパク質をコードする遺伝子、並びに該遺伝子を利用したセスキテルペンの製造方法に関する。
さらに、本発明は、ヒトに有用な生理活性のある(セスキ)テルペンの一種であるβ-クベベン、β-エレメン、α-ネオクロベンとα-フムレン、及び/又は、リナロールとネロリドールをファルネシル二リン酸(リナロールのみゲラニル二リン酸)から合成するタンパク質、該タンパク質をコードする遺伝子、並びに該遺伝子を利用したセスキテルペン(リナロールのみモノテルペン)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソプレノイド(テルペノイドとも呼ばれる)は、23,000種を超える自然界で最も多様な化合物の集団である。そして、イソプレノイドは、3,000種以上のセスキテルペンを含んでいる。イソプレノイドの中には、医薬品、農薬、機能性食品、香料、又はこれらの原料として用いられているなど産業上有用なものが多く含まれている。
しかしながら、イソプレノイド、特にセスキテルペンは、自然界における蓄積量は一部の例を除いて少なく、単品を多量調製するには莫大なコストと労力を必要とするものが多い。したがって、遺伝子組換え微生物又は植物を利用したバイオテクノロジーによる多量生産のための開発研究が盛んに行われてきた。
【0003】
大腸菌は、遺伝子組換えの技術や材料、遺伝子情報が最も充実した微生物である。よって、近年、組換え大腸菌を用いてイソプレノイドを多量生産しようとする技術開発の研究が盛んである。
大腸菌はメバロン酸経路を持っておらず、非メバロン酸経路[2-C-メチル-D-エリストール4-リン酸(以後、MEPと記載する場合がある)を経由するのでMEP経路とも呼ばれる]により最初のイソプレノイド基質であるイソペンテニル二リン酸(イソペンテニルピロリン酸とも呼ばれる;以後IPPと記載する場合がある)が作られる。
IPPは、IPPイソメラーゼ(以後Idiと記載する場合がある)によりジメチルアリル二リン酸(以後、DMAPPと記載する場合がある)に変換され、DMAPPはファルネシル二リン酸(以後、FPPと記載する場合がある)合成酵素(シンターゼ;synthase)によりIPPと順次縮合することにより、炭素数10のゲラニル二リン酸(以後、GPPと記載する場合がある)、炭素数15のFPPに変換される。GPPから分岐して揮発成分であるモノテルペンが作られる。さらに、FPPから分岐して、セスキテルペンやトリテルペンが作られる。FPPはゲラニルゲラニル二リン酸(以後、GGPPと記載する場合がある)合成酵素によりIPPとさらに縮合して炭素数20のGGPPが合成される。このGGPPから分岐して、ジテルペンやカロテノイド(テトラテルペン)が合成される。
【0004】
大腸菌は、上記のテルペンは合成しないので、これらのイソプレノイドを大腸菌に合成させるためには、FPPからそのイソプレノイドまでの合成を担う生合成酵素遺伝子(群)を大腸菌に導入し、発現させる必要がある。
ウコギ科(Araliaceae)やショウガ科(Zingiberaceae)に属する植物には、食用/薬用植物が多い。たとえば、ウコギ科には、オタネニンジン(Panax ginseng)、ウコギ(Acanthopanax sieboldianus)、コシアブラ(Acanthopanax sciadophylloides Franch. et Sav.)、タラノキ(Aralia elata)、ウド(Aralia cordata)等が含まれ、ショウガ科には、ショウガ(生姜;Zingiber officinale Roscoe)ハナショウガ[花生姜; Shampoo ginger; Zingiber zerumbet Smith]、ミョウガ(Zingiber mioga)、紫ウコン(ガジュツ;Curcuma zedoaria Roscoe)、ウコン(秋ウコン;Curcuma longa L.)等が含まれる。
ショウガ科(Zingiberaceae)の代表作物であるショウガ(生姜;Zingiber officinale)は、熱帯アジア原産の多年草であり、食材や生薬として広く用いられている。ショウガからは、セスキテルペン合成酵素として、ゲルマクレンD合成酵素(germacrene D synthase)遺伝子(ZoGeD)、β-ビサボレン合成酵素(β-bisabolene synthase)遺伝子(ZoTps1)、及びγ-アモルフェン合成酵素(γ-amorphene synthase)遺伝子(ZoTps5)が単離され、その構造と機能解析が行われた(参照:特許文献1、非特許文献1、2)。
また、同じショウガ属植物であるハナショウガ(Zingiber zerumbet)からは、α-フムレン合成酵素(α-humulene synthase)遺伝子(ZzZSS1)やβ-オイデスモール(β-ユーデスモール)合成酵素(β-eudesmol synthase)遺伝子(ZzZSS2)が単離され、その構造と機能解析が行われた(参照:非特許文献3、4)。ショウガ科植物では、これら以外のセスキテルペン合成酵素(及びその遺伝子)は知られていなかった。なお、ウコギ科植物では、セスキテルペン合成酵素(及びその遺伝子)は全く知られていなかった。
【0005】
大腸菌はメバロン酸経路を有さないが、メバロン酸経路の酵素の遺伝子群(メバロン酸経路遺伝子群)を大腸菌に導入し発現させる研究も行われた。柿沼氏らは、メバロン酸経路のD-メバロン酸(D-mevalonic acid;D-mevalonate)以降の酵素であるメバロン酸キナーゼ(mevalonate kinase)、ホスホメバロン酸キナーゼ(phosphomevalonate kinase)、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(diphosphomevalonate decarboxylase)、及び2型のIPPイソメラーゼ(IPP isomerase)等をコードする遺伝子群[ストレプトミセス(Streptomyces)属CL190株由来;非特許文献5;Accession no AB037666;以後、単に「メバロン酸経路遺伝子群」と呼ぶ場合がある]を、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)由来のカロテノイド生合成遺伝子群[crtEcrtBcrtIcrtYcrtZ;FPPからゼアキサンチン(zeaxanthin)を作るのに必要な生合成遺伝子群]とともに大腸菌に導入し、発現させた(参照:非特許文献6)。
【0006】
前記組換え大腸菌は、D-メバロン酸ラクトン(D-mevalonate lactone;以後、D-メバロノラクトン、メバロノラクトン又はMVLと記載する場合がある)を培地に基質として加えて培養することにより、効率的にゼアキサンチンを合成することができた(参照:非特許文献6)。また、メバロン酸経路遺伝子群を、ハナショウガのα-フムレン合成酵素遺伝子(α-humulene synthase;ZzZSS1)とともに大腸菌に導入し発現させると、その組換え大腸菌は0.5 mg/mLのMVLを培地に基質として加えて培養することにより、1 mLあたり1 mgのα-フムレンを生産することが示された(参照:非特許文献7)。
また、メバロン酸経路遺伝子群とα-フムレン合成酵素遺伝子(ZzZSS1)に加えて、出芽酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来の1型のIPPイソメラーゼ(IPP isomerase)遺伝子(Scidi)を大腸菌に導入し発現させると、α-フムレンの生成量が、Scidi遺伝子が無い場合より若干上昇することが示された(参照:非特許文献7)。
なお、メバロン酸経路遺伝子群を導入すること無しに、ZzZSS1遺伝子を大腸菌に導入し発現させても、α-フムレンの生成は全く検出されなかった(参照:非特許文献7)。又はナショウガのβ-オイデスモール合成酵素遺伝子(ZzZSS2)をメバロン酸経路遺伝子群とともに導入し発現させると、その組換え大腸菌はMVLを培地に基質として加えて培養することにより、1 mLあたり100 μgのβ-オイデスモールを生産することが示された(参照:非特許文献4)。したがって、メバロン酸経路遺伝子群(時に、Scidi遺伝子も加えて)を大腸菌に導入し発現させること、及び培地にMVL等のメバロン酸経路遺伝子群の基質を添加して培養することにより、結果的に、その組換え大腸菌内におけるFPPの生成量を多いに増量させることが示された。
【0007】
したがって、FPPを基質とするセスキテルペン合成酵素(sesquiterpene synthase;sesquiterpene cyclase)遺伝子、又はcrtE(GGPP合成酵素遺伝子)から始まるカロテノイド生合成遺伝子群を同時に導入し、発現させることにより、これらの産物であるセスキテルペン又はカロテノイドを効率的に製造することが可能であることが明らかとなった(参照:非特許文献7、8)。さらに、この系を利用すると、新規に取得された、又は機能が未知のセスキテルペン合成酵素遺伝子配列の機能解析を行うことができる(参照:非特許文献8)。
すなわち、この遺伝子配列を発現するように導入した組換え大腸菌がセスキテルペンを生産しているかどうかを調べることができる(大腸菌は元々セスキテルペンを生産しない)。セスキテルペンが生産されている場合は、そのセスキテルペンの化学構造を解析することにより、そのセスキテルペン合成酵素遺伝子配列は、FPPからその化学構造を持つセスキテルペンの産物を合成する酵素をコードする遺伝子であることが同定されるからである。セスキテルペンは植物や微生物等(植物が主体)からすでに7,000種以上が単離されているが、まだ、多くのセスキテルペン合成酵素遺伝子が未知である。
以上により、今後、この系により、同遺伝子の機能解析が進むものと期待される(参照:非特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-125272
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】S. Picard, M. E. Olsson, M. Brodelius, P. E. Brodelius, Arch. Biochem. Biophys. 452: 17-28, 2006
【非特許文献2】M. Fujisawa, H. Harada, H. Kenmoku, S. Mizutani, N. Misawa, Planta, 232: 121-130; Erratum, 232: 131, 2010
【非特許文献3】F. Yu, S. Okamoto, K. Nakasone, K. Adachi, S. Matsuda, H. Harada, N. Misawa, R. Utsumi, Planta 227: 1291-1299, 2008
【非特許文献4】F. Yu, H. Harada, K. Yamasaki, S. Okamoto, S. Hirase, Y. Tanaka, N. Misawa, R. Utsumi, FEBS Lett 582: 565-572, 2008
【非特許文献5】M. Takagi, T. Kuzuyama, S. Takahashi, H. Seto, J. Bacteriol., 182: 4153-4157, 2000
【非特許文献6】K. Kakinuma, Y. Dekishima, Y. Matsushima, T. Eguchi, N. Misawa, M. Takagi, T. Kuzuyama, H. Seto, J. Am. Chem. Soc., 123: 1238-1239, 2001
【非特許文献7】H. Harada, F. Yu, S. Okamoto, T. Kuzuyama, R. Utsumi, N. Misawa, Appl. Microbiol. Biotechnol. 81: 915-925, 2009
【非特許文献8】H. Harada, N. Misawa, Appl. Microbiol. Biotechnol. 84: 1021-1031, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、FPPからセスキテルペンの合成に必要な新規酵素遺伝子を取得すること、及び取得した新規遺伝子を利用してセスキテルペンを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、以下のように鋭意研究を行った。
(i)MVLからセスキテルペンの基質であるFPPを多量に作らせるため、ストレプトミセス(Streptomyces)属CL190株(非特許文献5;Accession no AB037666)から単離されたメバロン酸経路遺伝子群、すなわち、メバロン酸キナーゼ(MVA kinase)、ホスホメバロン酸キナーゼ(PMVA kinase)、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(DPMVA decarboxylase)、及びIPPイソメラーゼ(IPP isomerase; 2型)をコードする遺伝子を発現するためのプラスミドpAC-Mev、及びこれらの遺伝子群に加えてさらにサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)から単離されたIPPイソメラーゼ(IPP isomerase; 1型)をコードする遺伝子(Scidi)を発現するためのプラスミドpAC-Mev/Scidi{いずれも大腸菌ベクターpACYC184を使用;クロラムフェニコール(Cm)耐性;非特許文献7}を作製した。そして、これらのプラスミドを用いて大腸菌を形質転換し、Cmを含む寒天培地上で生育する組換え大腸菌を得た。
(ii)コシアブラの新芽又は紫ウコンの根茎から抽出した全RNAからcDNAを合成し、さらにPCRによって単離された、いくつかの全長の(セスキ)テルペン合成酵素遺伝子配列を大腸菌発現用ベクターに挿入し、プラスミド{その1例のプラスミド名はpET-AsTps1、pET-AsTps2a、pET-AsTps2b、pET-CzTps1a、及びpET-CzTps1b;いずれもアンピシリン(Ap)耐性}を作製した。
上記プラスミドの各々を(i)で作製したプラスミドを有する組換え大腸菌に導入して、MVL、Ap及びCmを含む培地で培養し、生成したセスキテルペンを分析することにより、FPPを変換してβ-カリオフィレンを合成するβ-カリオフィレン合成酵素(シンターゼ)遺伝子、FPPを変換してゲルマクレンDを合成するゲルマクレンD合成酵素(シンターゼ)遺伝子、及びFPPを変換してβ-オイデスモールを合成するβ-オイデスモール合成酵素(シンターゼ)遺伝子を新規に見出した。
(iii)(ii)で取得したβ-カリオフィレン合成酵素遺伝子、ゲルマクレンD合成酵素遺伝子、及びβ-オイデスモール合成酵素遺伝子の大腸菌発現用プラスミド(それぞれ、pET-AsTps1、pET-AsTps2a若しくはpET-AsTps2b、並びにpET-CzTps1a若しくはpET-CzTps1b)のいずれか1つのプラスミドを、(i)で作製したプラスミドを有する組換え大腸菌に導入して、MVL、Ap及びCmを含む培地で培養することにより、β-カリオフィレン、ゲルマクレンD、及び/又はβ-オイデスモールを製造する方法を提供することができた。
(iv)ウコギ(ヒメウコギ)、タラノキ、ウド、又はコシアブラ(いずれもウコギ科に属する)の新芽から抽出した全RNAからcDNAを合成し、さらにPCRによって単離された、いくつかの全長の(セスキ)テルペン合成酵素遺伝子配列を大腸菌発現用ベクターに挿入し、プラスミド{その1例のプラスミド名はpET-AsiTps1a、pET-AsiTps1b、pET-AsiTps1c、pET-AsiTps1d、pET-AeTps1a、pET-AeTps1b、pET-AcTPS1a、pET-AcTPS1b、pET-AcTPS1c、pET-AcTPS1d、pET-AcTPS2及びpET-AscTps3;いずれもアンピシリン(Ap)耐性}を作製した。
上記プラスミドの各々を(i)で作製したプラスミドを有する組換え大腸菌に導入して、MVL、Ap及びCmを含む培地で培養し、生成した(セスキ)テルペンを分析することにより、FPPを変換してβ-カリオフィレンを合成する(ii)とは別のβ-カリオフィレン合成酵素(シンターゼ)遺伝子、FPPを変換してβ-クベベンを合成するβ-クベベン合成酵素(シンターゼ)遺伝子、FPPを変換してβ-エレメンを合成するβ-エレメン合成酵素(シンターゼ)遺伝子、FPPを変換してα-ネオクロベンとα-フムレンを合成するα-ネオクロベン/α-フムレン合成酵素(シンターゼ)遺伝子、及びGPP及びFPPを変換してそれぞれ、リナロール及びネロリドールを合成するリナロール/ネロリドール合成酵素(シンターゼ)遺伝子を新規に見出した。
(v)(iv)で取得したβ-カリオフィレン合成酵素遺伝子、β-クベベン合成酵素遺伝子、β-エレメン合成酵素遺伝子、α-ネオクロベン/α-フムレン合成酵素遺伝子、リナロール/ネロリドール合成酵素遺伝子の大腸菌発現用プラスミド(それぞれ、pET-AsiTps1a、pET-AsiTps1b、pET-AsiTps1c若しくはpET-AsiTps1d、pET-AeTps1a若しくはpET-AeTps1b、pET-AcTPS1a、pET-AcTPS1b、pET-AcTPS1c若しくはpET-AcTPS1d、pET-AcTPS2、並びにpET-AscTps3)のいずれか1つのプラスミドを、(i)で作製したプラスミドを有する組換え大腸菌に導入して、MVL、Ap及びCmを含む培地で培養することにより、β-カリオフィレン、β-クベベン、β-エレメン、α-ネオクロベン及びα-フムレン、並びに/又はリナロールとネロリドールを製造する方法を提供することができた。
【0012】
本発明は以下の通りである。
「1.以下の(1)〜 (7)のいずれか1に示す遺伝子;
(1)配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-オイデスモールに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3) 配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-オイデスモールに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号15又は17に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号15又は17に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつファルネシル二リン酸をβ-オイデスモールに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6) 配列番号15又は17に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7) 配列番号15又は17に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子。
2.以下の(1)〜(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するβ-オイデスモール合成酵素;
(1)配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-オイデスモールに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3) 配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-オイデスモールに変換する活性を有するアミノ酸配列。
3.以下の(1)〜 (7)のいずれか1に示す遺伝子;
(1)配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-エレメンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3) 配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-エレメンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号46、48、50又は52に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号46、48、50又は52に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつファルネシル二リン酸をβ-エレメンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6) 配列番号46、48、50又は52に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7) 配列番号46、48、50又は52に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子。
4.以下の(1)〜(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するβ-エレメン合成酵素;
(1)配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-エレメンに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3) 配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-エレメンに変換する活性を有するアミノ酸配列。
5.以下の(1)〜 (7)のいずれか1に示す遺伝子;
(1)配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3) 配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号5、26、28、30又は32に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号5、26、28、30又は32に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6) 配列番号5、26、28、30又は32に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7) 配列番号5、26、28、30又は32に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子。
6.以下の(1)〜(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するβ-カリオフィレン合成酵素;
(1)配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3) 配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を有するアミノ酸配列。
7.以下の(1)〜 (7)のいずれか1に示す遺伝子;
(1)配列番号8又は10記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号8又は10記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号8又は10に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をゲルマクレンDに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3) 配列番号8又は10記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号8又は10に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をゲルマクレンDに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号7又は9記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号7又は9記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号6に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6) 配列番号7又は9記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7) 配列番号7又は9記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子。
8.以下の(1)〜(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するゲルマクレンD合成酵素;
(1)配列番号8又は10記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号8又は10記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号8又は10に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をゲルマクレンDに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3) 配列番号8又は10記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号8又は10に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をゲルマクレンDに変換する活性を有するアミノ酸配列。
9.以下の(1)〜 (7)のいずれか1に示す遺伝子;
(1)配列番号39又は41記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号39又は41記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号39又は41に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-クベベンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3) 配列番号39又は41記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号39又は41に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-クベベンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号38又は40記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号38又は40記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつファルネシル二リン酸をβ-クベベンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6) 配列番号38又は40記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7) 配列番号38又は40記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子。
10.以下の(1)〜(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するβ-クベベン合成酵素;
(1)配列番号39又は41記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号39又は41記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号39又は41に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-クベベンに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3) 配列番号39又は41記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号39又は41に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-クベベンに変換する活性を有するアミノ酸配列。
11.以下の(1)〜 (7)のいずれか1に示す遺伝子;
(1)配列番号55記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号55記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号55に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をα-ネオクロベンとα-フムレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3) 配列番号55記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号55に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をα-ネオクロベンとα-フムレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号54記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号54記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつファルネシル二リン酸をα-ネオクロベンとα-フムレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6) 配列番号54記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7) 配列番号54記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子。
12.以下の(1)〜(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するα-ネオクロベン/α-フムレン合成酵素;
(1)配列番号55記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号55記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号55に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をα-ネオクロベンとα-フムレンに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3) 配列番号55記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号55に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をα-ネオクロベンとα-フムレンに変換する活性を有するアミノ酸配列。
13.以下の(1)〜 (7)のいずれか1に示す遺伝子;
(1)配列番号62記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号62記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号62に記載のアミノ酸配列と実質的同質のゲラニル二リン酸及びファルネシル二リン酸をそれぞれ、リナロールとネロリドールに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3) 配列番号62記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号62に記載のアミノ酸配列と実質的同質のゲラニル二リン酸及びファルネシル二リン酸をそれぞれ、リナロールとネロリドールに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号61記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号61記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつゲラニル二リン酸及びファルネシル二リン酸をそれぞれ、リナロールとネロリドールに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6) 配列番号61記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7) 配列番号61記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子。
14.以下の(1)〜(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するリナロール/ネロリドール合成酵素;
(1)配列番号62記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号62記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号62に記載のアミノ酸配列と実質的同質のゲラニル二リン酸及びファルネシル二リン酸をそれぞれ、リナロールとネロリドールに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3) 配列番号62記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号55に記載のアミノ酸配列と実質的同質のゲラニル二リン酸及びファルネシル二リン酸をそれぞれ、リナロールとネロリドールに変換する活性を有するアミノ酸配列。
15.前項1、3、5、7、9、11、13のいずれか1項以上に記載の遺伝子を導入した組換え大腸菌。
16.前項1、3、5、7、9、11、13のいずれか1項以上に記載の遺伝子に加えて、以下の(1)〜(2)の遺伝子を導入した組換え大腸菌;
(1)メバロン酸又はメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群、
(2)イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子。
17.メバロン酸又はメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群及びイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子が、ストレプトミセス属CL190株由来の遺伝子及び/又はサッカロミセス・セレビシエ由来の遺伝子である前項16に記載の組換え大腸菌。
18.前項15〜17のいずれか1項に記載の組換え大腸菌を、メバロン酸及び/又はメバロノラクトンを含む培地で培養して得られる培養物又は菌体からβ-カリオフィレン、ゲルマクレンD、β-オイデスモール、β-クベベン、β-エレメン、α-ネオクロベン及びα-フムレン、並びに/又は、リナロール及びネロリドールを得ることを特徴とする、セスキテルペンの製造方法。」
【発明の効果】
【0013】
本発明は、β-カリオフィレン、ゲルマクレンD、β-オイデスモール、β-クベベン、β-エレメン、α-ネオクロベンとα-フムレン、及び/又はリナロールとネロリドールを、FPP(リナロールのみGPP)を基質として合成するタンパク質(酵素)及び該タンパク質をコードする遺伝子を提供することができた。
本発明によれば、β-カリオフィレン、ゲルマクレンD、β-オイデスモール、β-クベベン、β-エレメン、α-ネオクロベン及びα-フムレン、並びに/又はリナロールとネロリドールを大腸菌等で効率的に製造することができた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】コシアブラ(Acanthopanax sciadophylloides Franch. et Sav.)の(a)新芽及び(b)展開しきった古い葉を表す図。バーは5 cmを表す。
【図2】AsTPS1、AsTPS2a及びAsTPS2bと既知のショウガ科植物由来セスキテルペン合成酵素(シンターゼ)のアミノ酸配列アラインメントを表す図。ZoGDSはZ. officinale Roscoe由来ゲルマクレンD合成酵素(AAX40665)を示す。 ZzZSS1及び ZzZSS2は、それぞれ、Z. zerumbet Smith由来のα-フムレン合成酵素(BAG12020)及び β-オイデスモール合成酵素(BAG12021)を示す。全てのタンパク質に共通するアミノ酸は黒塗りで示した。縮重オリゴヌクレオチドプライマーに対応する配列の下部に矢印を付した。セスキテル合成酵素に高度に保存されているRxR、DDxxD、(N/D)Dxx(S/T)xxxEモチーフはアスタリスクで示した。
【図3】プラスミドpET-AsTps1、pET-AsTps2a、及びpET-AsTps2bの構造を表す図。AsTps1のORFに相当するcDNA(1,668 bp)、AsTps2aのORFに相当するcDNA(1,668 bp)、及びAsTps2bのORFに相当するcDNA(1,668 bp)が、それぞれ、ベクターpETDuet-1のNdeI-XhoI間に挿入されている。
【図4】GC-MSを用いた大腸菌のセスキテルペン生成物の分析結果を表す図。(a)AsTps1を含むプラスミドpET-AsTps1とプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム。新規なピーク1を矢印で示した。(b)AsTps1を含まないベクターpET21aとプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株酢酸エチル抽出液のクロマトグラム(コントロール)。(c)aの矢印で示したピーク1(上図)及びβ-カリオフィレンの標準品(下図)のマススペクトル。
【図5】GC-MSを用いた大腸菌のセスキテルペン生成物の分析結果を表す図。zuAsTps2aを含むプラスミドpET-AsTps2aとプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム。(a)AsTps2aを含むプラスミドpET-AsTps2a及びプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム。新規なピーク2を矢印で示した。(b)AsTps2bを含むプラスミドpET-AsTps2bとプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム。新規なピーク3を矢印で示した。(c)AsTps2を含まないベクターpET21aとプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株酢酸エチル抽出液のクロマトグラム(コントロール)。(d)(a)および(b)の矢印で示したピーク2及び3(上、中図)及びゲルマクレンDの標準品(下図)のマススペクトル。
【図6】本発明で生産可能なセスキテルペンである、β-カリオフィレン、ゲルマクレンD、及び、β-オイデスモールの化学構造とファルネシル二リン酸(FPP)からの生合成を示す図。図中のAsTPS2はAsTPS2a又はAsTPS2bを示し、CzTPS1はCzTPS1a又はCzTPS1bを示す。
【図7】紫ウコン(ガジュツ;Curcuma zedoaria Roscoe)の植物体及び各器官[葉(leaf)、根茎(rhizome)及び根(root)]を表す図。バーは5cmを表す。
【図8】CzTPS1a及びCzTPS1bと既知のショウガ科植物由来セスキテルペン合成酵素(シンターゼ)のアミノ酸配列アラインメントを表す図。ZoGDSはZ. officinale Roscoe由来ゲルマクレンD合成酵素(AAX40665)を示す。 ZzZSS1及び ZzZSS2は、それぞれ、Z. zerumbet Smith由来のα-フムレン合成酵素(BAG12020)及び β-オイデスモール合成酵素(BAG12021)を示す。全てのタンパク質に共通するアミノ酸は黒塗りで示した。縮重オリゴヌクレオチドプライマーに対応する配列の下部に矢印を付した。セスキテルペン合成酵素に高度に保存されているRxR、DDxxD、(N/D)Dxx(S/T)xxxEモチーフはアスタリスクで示した。
【図9】プラスミドpET-CzTps1a及びpET-CzTps1bの構造を表す図。CzTps1aのORFに相当するcDNA(1,644 bp)及びCzTps1bのORFに相当するcDNA(1,644 bp)が、それぞれ、ベクターpETDuet-1のNdeI-KpnI間に挿入されている。
【図10】GC-MSを用いた大腸菌のセスキテルペン生成物の分析結果を表す図。(a)CzTps1aを含むプラスミドpET-CzTps1aとプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム。新規なピーク4を矢印で示した。(b) pET-CzTps1bとプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム。新規なピーク5を矢印で示した。(c)CzTps1を含まないベクターpET21aとプラスミドpAC-Mevを保持する大腸菌株のドデカン抽出液のクロマトグラム(コントロール)。(d)(a)及び(b)内で 矢印で示したピーク4及び5(上、中図)及びβ-オイデスモール標準品(下図)のマススペクトル。
【図11】ウコギ科(Araliaceae)のヒメウコギ(ウコギ;Acanthopanax sieboldianus)の新芽と古い葉を表す図。バーは5 cmを表す。
【図12】AsiTPS1a、AsiTPS1b、AsiTPS1c及びAsiTPS1dと既知のショウガ科植物由来セスキテルペン合成酵素(シンターゼ)のアミノ酸配列アラインメントを表す図。ZoGDSはZ. officinale Roscoe由来ゲルマクレンD合成酵素(AAX40665)を示す。 ZzZSS1及び ZzZSS2は、それぞれ、Z. zerumbet Smith由来のα-フムレン合成酵素(BAG12020)及び β-オイデスモール合成酵素(BAG12021)を示す。全てのタンパク質に共通するアミノ酸は黒塗りで示した。縮重オリゴヌクレオチドプライマーに対応する配列の下部に矢印を付した。セスキテルペン合成酵素に高度に保存されているRxR、DDxxD、(N/D)Dxx(S/T)xxxEモチーフはアスタリスクで示した。
【図13】プラスミドpET-AsiTps1a、pET-AsiTps1b、pET-AsiTps1c及びpET-AsiTps1dの構造を表す図。AsiTps1aAsiTps1bAsiTps1c及びAsiTps1dのORFに相当するcDNA(いずれも1,671 bp)が、それぞれ、ベクターpETDuet-1のNdeI-XhoI間に挿入されている。
【図14−1】GC-MSを用いた大腸菌のセスキテルペン生成物の分析結果を表す図。(a)プラスミドpET-AsiTps1a、(b)プラスミドpET-AsiTps1b、(c)プラスミドpET-AsiTps1c、(d)プラスミドpET-AsiTps1dを保持し、さらにプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム。新規なピーク6〜9を矢印で示した。(e) AsiTps1を含まないベクターpET21aとプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム(コントロール)。
【図14−2】(f)(a)〜(d)内で 矢印で示したピーク6〜9(最上図〜下から2番目の図)及びβ-カリオフィレン標準品(最下図)のマススペクトル。
【図15】本発明で生産可能なセスキテルペンである、β-カリオフィレン(β-Caryophyllene)、β-クベベン(β-Cubebene)、β-エレメン(β-Elemene)、α-ネオクロベン(α-Neoclovene)、及び、α-フムレン(α-Humulene)の化学構造とファルネシル二リン酸(FPP)からの生合成を示し、さらにリナロール(Linalool)の化学構造とゲラニル二リン酸(GPP)からの生合成を示す図。図中のAsiTPS1はAsiTPS1a、AsiTPS1b、AsiTPS1c又はAsiTPS1dを示し、AeTPS1はAeTPS1a又はAeTPS1bを示し、AcTPS1はAcTPS1a、AcTPS1b、AcTPS1c又はAcTPS1dを示し、AcTPS2はAcTPS2のみを示し、AscTPS3はAscTPS3のみを示す。
【図16】ウコギ科(Araliaceae)のタラノキ(Aralia elata)の新芽と古い葉を表す図。バーは5 cmを表す。
【図17】AeTPS1a及びAeTPS1bと既知のショウガ科植物由来セスキテルペン合成酵素(シンターゼ)のアミノ酸配列アラインメントを表す図。ZoGDSはZ. officinale Roscoe由来ゲルマクレンD合成酵素(AAX40665)を示す。 ZzZSS1及び ZzZSS2は、それぞれ、Z. zerumbet Smith由来のα-フムレン合成酵素(BAG12020)及び β-オイデスモール合成酵素(BAG12021)を示す。全てのタンパク質に共通するアミノ酸は黒塗りで示した。縮重オリゴヌクレオチドプライマーに対応する配列の下部に矢印を付した。セスキテルペン合成酵素に高度に保存されているRxR、DDxxD、(N/D)Dxx(S/T)xxxEモチーフはアスタリスクで示した。
【図18】プラスミドpET-AeTps1a及びpET-AeTps1bの構造を表す図。AeTps1a及びAeTps1bのORFに相当するcDNA(いずれも1,665 bp)が、それぞれ、ベクターpETDuet-1のNdeI-XhoI間に挿入されている。
【図19】GC-MSを用いた大腸菌のセスキテルペン生成物の分析結果を表す図。(a)プラスミドpET-AeTps1a、(b)プラスミドpET-AeTps1bを保持し、さらにプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム。新規なピーク10、11を矢印で示した。(c) AeTps1を含まないベクターpET21aとプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム(コントロール)。(d)(a)、(b)内で 矢印で示したピーク10、11(上図、中図)及びβ-クベベン(データベース)(β-cubebene;下図)のマススペクトル。
【図20】ウコギ科(Araliaceae)のウド(Aralia cordata)の新芽と古い葉を表す図。バーは5 cmを表す。
【図21】AcTPS1a、AcTPS1b、AcTPS1c及びAcTPS1d、及びAcTPS2と既知のショウガ科植物由来セスキテルペン合成酵素(シンターゼ)のアミノ酸配列アラインメントを表す図。ZoGDSはZ. officinale Roscoe由来ゲルマクレンD合成酵素(AAX40665)を示す。 ZzZSS1及び ZzZSS2は、それぞれ、Z. zerumbet Smith由来のα-フムレン合成酵素(BAG12020)及び β-オイデスモール合成酵素(BAG12021)を示す。全てのタンパク質に共通するアミノ酸は黒塗りで示した。縮重オリゴヌクレオチドプライマーに対応する配列の下部に矢印を付した。セスキテルペン合成酵素に高度に保存されているRxR、DDxxD、(N/D)Dxx(S/T)xxxEモチーフはアスタリスクで示した。
【図22】プラスミドpET-AcTps1a、pET-AcTps1b、pET-AcTps1c及びpET-AcTps1d、及びpET-AcTps2の構造を表す図。AcTps1aAcTps1bAcTps1c及びAcTps1d、及びAcTps2のORFに相当するcDNA(いずれも1,668 bp)が、それぞれ、ベクターpETDuet-1のFseI-XhoI間に挿入されている。
【図23−1】GC-MSを用いた大腸菌のセスキテルペン生成物の分析結果を表す図。(a)プラスミドpET-AcTps1a、(b)プラスミドpET-AcTps1bを保持し、(c)プラスミドpET-AcTps1cを保持し、(d)プラスミドpET-AcTps1dを保持し、さらにプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム。新規なピーク12〜15を矢印で示した。(e) AcTps1を含まないベクターpET21aとプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム(コントロール)。
【図23−2】(f)(a)〜(d)内で 矢印で示したピーク12〜15(最上図〜下から2番目の図)及びβ-エレメン(β-elemene;標準品)(最下図)のマススペクトル。
【図24】GC-MSを用いた大腸菌のセスキテルペン生成物の分析結果を表す図。(a)プラスミドpET-AcTps2を保持し、さらにプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム。新規なピーク16、17を矢印で示した。(b) AcTps2を含まないベクターpET21aとプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム(コントロール)。(c)(a)内で 矢印で示したピーク17(上図)及びα-フムレン(α-humulene;標準品)(下図)のマススペクトル。(d)(a)内で 矢印で示したピーク16(上図)及びα-ネオクロベン(α-neoclovene;データベース)(下図)のマススペクトル。
【図25】AscTPS3(この図ではAsTPS3と記載)と既知のショウガ科植物由来セスキテルペン合成酵素(シンターゼ)のアミノ酸配列アラインメントを表す図。ZoGDSはZ. officinale Roscoe由来ゲルマクレンD合成酵素(AAX40665)を示す。 ZzZSS1及び ZzZSS2は、それぞれ、Z. zerumbet Smith由来のα-フムレン合成酵素(BAG12020)及び β-オイデスモール合成酵素(BAG12021)を示す。全てのタンパク質に共通するアミノ酸は黒塗りで示した。縮重オリゴヌクレオチドプライマーに対応する配列の下部に矢印を付した。セスキテルペン合成酵素に高度に保存されているRxR、DDxxD、(N/D)Dxx(S/T)xxxEモチーフはアスタリスクで示した。
【図26】プラスミドpET-AscTps3の構造を表す図。AscTps3のORFに相当するcDNA(いずれも1,749 bp)が、それぞれ、ベクターpETDuet-1のNdeI-KpnI間に挿入されている。
【図27】GC-MSを用いた大腸菌のモノテルペン/セスキテルペン生成物の分析結果を表す図。(a)プラスミドpET-AscTps3を保持し、さらにプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム。新規なピーク18、19を矢印で示した。(b) AscTps3を含まないベクターpET21aとプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム(コントロール)。(c)(a)内で 矢印で示したピーク18(上図)及びリナロール(linalool;標準品)(下図)のマススペクトル。(d)(a)内で 矢印で示したピーク19(上図)及びネロリドール(nerolidol;標準品)(下図)のマススペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0016】
(1.メバロン酸経路遺伝子群)
培地中に添加されたD-メバロノラクトン(D-mevalonolactone;MVL;自然にD-メバロン酸に変換される)を利用するためには、それを基質とするメバロン酸キナーゼから始まる4つのメバロン酸経路遺伝子、すなわち、メバロン酸キナーゼ(mevalonate kinase;MVA kinase)、ホスホメバロン酸キナーゼ(phosphomevalonate kinase; PMVA kinase)、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(diphosphomevalonate decarboxylase;DPMVA decarboxylase)とIPPイソメラーゼ(Idi;IPP isomerase)が必要である。
Idiには互いに構造が異なる、1型(type 1)と2型(type 2)のものが存在している。どちらのIdiを用いてもよいが、本発明者らは下記実施例では両方のIdiを用いた。本発明者らが実施例で用いたストレプトミセス(Streptomyces)属CL190株由来のメバロン酸経路遺伝子群(非特許文献5;Accession no AB037666)では、MVA kinase、DPMVA decarboxylase、PMVA kinase、2型IPP isomerase遺伝子がこの順番で遺伝子群を形成していたので、この遺伝子群をそのままの形で大腸菌ベクターpACYC184[クロラムフェニコール(Cm)耐性]に挿入し、プラスミドpAC-Mevを作製した(参照:非特許文献7)。
本遺伝子群に含まれる2型idi遺伝子に加えて、1型のidi遺伝子(たとえばサッカロミセス・セレビシエのScidi)をさらに加えると、組換え大腸菌内でFPPの生産量が若干増量されることが公知であるので(参照:非特許文献7)、プラスミドpAC-MevにScidi遺伝子も挿入したプラスミドpAC-Mev/Scidiを作製し(参照:非特許文献7)、該プラスミドを実施例で用いた。
また、メバロン酸経路遺伝子群のソースに関し、発明者らは、下記実施例ではストレプトミセス属CL190株由来のものを用いたが、酵母や他の細菌由来の相当遺伝子群を用いることもできる(参照:非特許文献8)。
また、本実施例では、培地中にD-メバロノラクトン(MVL)を添加し、それを基質とするメバロン酸キナーゼから始まる4つのメバロン酸経路遺伝子を用いた。しかし、さらに上流のメバロン酸経路遺伝子群も同時に導入し、上流の酵素の基質を添加することも可能である。例えば、発明者らは、以前、D-メバロノラクトンより安価なアセト酢酸塩(たとえばlithium acetoacetate)を資化できるメバロン酸経路遺伝子群を組換え大腸菌に導入し、アセト酢酸塩を培地に添加して、α-フムレン等のイソプレノイドを効率生産できることを確認している(参照:非特許文献7)。
【0017】
{2.セスキテルペン合成酵素(セスキテルペンシンターゼ)}
セスキテルペンは、植物や微生物等(植物が主体)からすでに7,000種以上が単離され、化学構造は公知である。しかし、多くのセスキテルペン合成酵素(シンターゼ)遺伝子が未知である(参照:非特許文献8)。触媒機能が明らかになっている植物等のセスキテルペン合成酵素(及びそれをコードする遺伝子)の例として、アメリカオオモミ(ベイモミ;grand fir)から単離されたδ-セリネン合成酵素やγ-フムレン合成酵素遺伝子(C. L. Steele, J. Crock, J. Bohlmann, R. Croteau, Sesquiterpene synthases from grand fir (Abies grandis). Comparison of constitutive and wound-induced activities, and cDNA isolation, characterization, and bacterial expression of δ-selinene synthase and γ-humulene synthase. J. Biol. Chem. 273:2078-2089, 1998)がある。
ウコギ科(Araliaceae)に属する植物由来のセスキテルペン合成酵素(及びその遺伝子)は公知ではなかった。ショウガ科(Zingiberaceae)に属する植物では、ショウガ(生姜;Zingiber officinale)から、セスキテルペン合成酵素としてはゲルマクレンD合成酵素(germacrene D synthase)遺伝子(ZoGeD;非特許文献1)、β-ビサボレン合成酵素(β-bisabolene synthase)遺伝子(ZoTPS1;特許文献1、非特許文献2)、γ-アモルフェン合成酵素(γ-amorphene synthase)遺伝子(ZoTPS5;特許文献1)が単離され、その構造と機能解析が行われた。また、同じショウガ属植物であるハナショウガ(Shampoo ginger; Zingiber zerumbet)から、α-フムレン合成酵素(α-humulene synthase)遺伝子(ZzZSS1)やβ-オイデスモール合成酵素(β-eudesmol synthase)遺伝子(ZzZSS2)が単離され、その構造と機能解析が行われた(参照:非特許文献3、4)。ショウガ科植物では、これら以外のセスキテルペン合成酵素(及びその遺伝子)は公知ではなかった。
本発明では、コシアブラ(Acanthopanax sciadophylloides Franch. et Sav.)の新芽、及び、紫ウコン(ガジュツ;Curcuma zedoaria Roscoe)の根茎(rhizome)に発現している種々のセスキテルペン合成酵素遺伝子候補の全長cDNA断片を取得した。これらのcDNA断片を大腸菌ベクターpETDuet-1(Novagen社製;アンピシリン(Ap)耐性)に挿入したプラスミド(一例がpET-AsTps1、pET-AsTps2a、pET-AsTps2b、pET-CzTps1a、及びpET-CzTps1b)を作製した。
【0018】
(3.プラスミドを導入した大腸菌の培養及びセスキテルペンの生産)
上記「2」で作製した、セスキテルペン合成酵素遺伝子候補の全長cDNA断片を大腸菌ベクターpETDuet-1(Novagen社製)に挿入したプラスミド(一例がpET-AsTps1、pET-AsTps2a、pET-AsTps2b、pET-CzTps1a、及びpET-CzTps1b;Ap耐性)の各々について、上記「1」で作製したプラスミドpAC-Mev/Scidi(Cm耐性)と共に大腸菌BL21(DE3)に導入し、ApとCmの2つに薬剤に対して耐性の組換え大腸菌を作製した。
得られた組換え大腸菌を、D-メバロノラクトン(MVL;濃度の1例は0.5 mg/mL)を培地に加えて培養を行った。その際、大腸菌に導入されたセスキテルペン合成酵素遺伝子候補のcDNA断片が実際にセスキテルペン合成酵素を合成できる場合は、その合成酵素の働きにより、組換え大腸菌はセスキテルペンを生産するようになる。
プラスミドpET-AsTps1を有する組換え大腸菌がβ-カリオフィレンを合成すること、すなわちそのプラスミドに挿入されたcDNA(AsTps1遺伝子と命名;この塩基配列は配列番号5に示されている)がβ-カリオフィレン合成酵素(AsTPS1;このアミノ酸配列は配列番号6に示されている)を合成する(コードする)こと、及びプラスミドpET-AsTps2a又はpET-AsTps2bを有する組換え大腸菌がゲルマクレンDを合成すること、すなわちそのプラスミドに挿入されたcDNA(AsTps2a又はAsTps2b遺伝子と命名;この塩基配列は配列番号7又は9に示されている)がゲルマクレンD合成酵素(AsTPS2a又はAsTPS2b;このアミノ酸配列は配列番号8又は10に示されている)を合成する(コードする)こと、及びプラスミドpET-CzTps1a又はpET-CzTps1bを有する組換え大腸菌がβ-オイデスモールを合成すること、すなわちそのプラスミドに挿入されたcDNA(CzTps1a又はCzTps1b遺伝子と命名;この塩基配列は配列番号15又は17に示されている)がβ-オイデスモール合成酵素(CzTPS1a又はCzTPS1b;このアミノ酸配列は配列番号16又は18に示されている)を合成する(コードする)ことを見出した。
【0019】
(4.大腸菌の株及び遺伝子組換え実験方法)
下記実施例では、大腸菌B株のBL21(DE3)を用いた。しかし、大腸菌の株には、大腸菌K12株のJM109(DE3)など種々の株が存在するので、大腸菌の株としてBL21(DE3)に限定されるものでない。
また、下記実施例では、組換え大腸菌の培養培地として、LB培地を利用したが、大腸菌の培養培地としては、2x YT培地、TB培地等多くの培地が存在するので、LB培地に限定されるものでない。
また、遺伝子組換え実験方法としては、下記実施例で示されているメーカーによる実施マニュアル以外に、多くの手引書が存在している。たとえば、Sambrook and Russel, Molecular Cloning A Laboratory Manual (Third edition) Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001が例示できる。本手引書は包括的であり、通常の遺伝子組換え実験方法以外に、大腸菌株の種類、ベクターの種類、培養法等が示されているので、参考にして実験を行うことができる。
【0020】
(A)β-カリオフィレン合成酵素遺伝子
本発明のβ-カリオフィレン合成酵素遺伝子は、(1)配列番号6記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、(2)配列番号6記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、最も好ましくは1〜5個が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性と実質的同質の活性有するポリペプチドをコードする遺伝子、(3) 配列番号6記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性と実質的同質の活性有するポリペプチドをコードする遺伝子、(4)配列番号5記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、(5)配列番号5記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性と実質的同質の活性有するポリペプチドをコードする遺伝子、(6) 配列番号5記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、(7) 配列番号5記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子を、含む。
【0021】
上記(1)の遺伝子は、コシアブラから得られたβ-カリオフィレン合成酵素をコードする遺伝子である。該β-カリオフィレン合成酵素は、ファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を持つ。上記(1) の遺伝子には、後述するAsTps1のほか、AsTps1と同一のポリペプチドをコードするが、塩基配列の異なる遺伝子も含まれる。
上記(2)の遺伝子は、コシアブラから得られたβ-カリオフィレン合成酵素に対して酵素活性を失わせない程度の変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子である。このような変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異をも含む。人為的変異を生じさせる手段としては、部位特異的変異誘発法(Nucleic Acids Res. 10, 6487-6500, 1982)などを挙げることができる。変異したアミノ酸の数は、通常は、20アミノ酸以内であり、好ましくは10アミノ酸以内であり、更に好ましくは5アミノ酸以内であり、最も好ましくは3アミノ酸である。変異を導入したポリペプチドが酵素活性を保持しているかどうかは、例えば、変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子を大腸菌等に導入し、発現させ、その大腸菌等がβ-カリオフィレンを生成することができるかどうか調べることによりわかる。特に、配列番号6に記載のアミノ酸配列には、RxR(266-268番目のアミノ酸)、DDxxD(303-307番目のアミノ酸)、(N/D)Dxx(S/T)xxxE(448-455番目のアミノ酸)というセスキテルペン合成酵素に高度に保存されているモチーフが含まれている。これらのモチーフに変異が導入されると酵素活性が失われる可能性が高いので、変異はこれらのモチーフ以外のアミノ酸に導入されることが好ましい。
また、図2には、β-カリオフィレン合成酵素(AsTPS1)と既知のショウガ由来のセスキテルペン合成酵素の共通するアミノ酸が示されているが(黒塗りにされたアミノ酸)、これらのアミノ酸はセスキテルペン合成酵素の活性に重要な役割を果たしている可能性があるので、変異はこれらのアミノ酸以外のアミノ酸に導入されることが好ましい。
上記(3)の遺伝子に関し、「配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性と実質的同質の活性」とは、ファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を有することを意味し、その活性程度が、配列番号6に記載のアミノ酸配列のファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換すると比較して強くても弱くてもよい。
また、同一性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information)等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算することができる。
上記(4)の遺伝子は、ApTps1と命名されたコシアブラから得られたβ-カリオフィレン合成酵素遺伝子である。
上記(5)の遺伝子は、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる遺伝子である。この遺伝子における「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、通常、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の37℃でのハイブリダイゼーション及び1×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による37℃での洗浄処理といった条件であり、好ましくは、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の42℃でのハイブリダイゼーション及び0.5×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による42℃での洗浄処理といった条件であり、更に好ましくは、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の65℃でのハイブリダイゼーション及び0.2×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理といった条件である。ハイブリダイゼーションを利用することにより得られたDNAが、活性を有するポリペプチドをコードするかどうかは、例えば、そのDNAを大腸菌等に導入し、発現させ、その大腸菌等がβ-カリオフィレンを生成することができるかどうか調べることによりわかる。ハイブリダイゼーションにより得られるDNAは、上記(4)の遺伝子(配列番号3)と通常、高い同一性を有する。高い同一性とは、90%以上の同一性、好ましくは95%以上の同一性、更に好ましくは98%以上の同一性を指す。
上記(6)の遺伝子は、配列番号5記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、最も好ましくは1〜10個、さらに最も好ましくは1〜5個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子である。
上記(7)の遺伝子は、配列番号5記載の塩基配列からなるDNAと90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子を、含む。
【0022】
(A')β-カリオフィレン合成酵素(ファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を有するタンパク質)
本発明のβ-カリオフィレン合成酵素は、(1)配列番号6記載のアミノ酸配列、(2)配列番号6記載のアミノ酸配列において、1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、最も好ましくは1〜5個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を有するアミノ酸配列、(3) 配列番号6記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を有するアミノ酸配列を、含む。
なお、ペプチドの変異の導入において、当該ペプチドの基本的な性質(物性、機能、生理活性又は免疫学的活性等)を変化させないという観点からは、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。
【0023】
(B)ゲルマクレンD合成酵素遺伝子
本発明のゲルマクレンD合成酵素遺伝子は、(1)配列番号8又は10記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、(2)配列番号8又は10記載のアミノ酸配列において、1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、最も好ましくは1〜5個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号8又は10に記載のアミノ酸配列が有するファルネシル二リン酸をゲルマクレンDに変換する活性と実質的同質の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、(3) 配列番号8又は10記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号8又は10に記載のアミノ酸配列が有するファルネシル二リン酸をゲルマクレンDに変換する活性と実質的同質の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、(4)配列番号7又は9記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、(5)配列番号7又は9記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号8又は10に記載のアミノ酸配列が有するファルネシル二リン酸をゲルマクレンDに変換する活性と実質的同質の活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、(6) 配列番号7又は9記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、(7) 配列番号7又は9記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子を、含む。
上記(1)の遺伝子は、コシアブラから得られたゲルマクレンD合成酵素をコードする遺伝子ある。このゲルマクレンD合成酵素は、ファルネシル二リン酸をゲルマクレンDに変換する活性を持つ。上記(1)の遺伝子には、後述するAsTps2a又はAsTps2bのほか、AsTps2a又はAsTps2bと同一のポリペプチドをコードするが、塩基配列の異なる遺伝子も含まれる。
上記(2)の遺伝子は、コシアブラから得られたゲルマクレンD合成酵素に対して酵素活性を失わせない程度の変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子である。配列番号8又は10に記載のアミノ酸配列には、RxR(264-266番目のアミノ酸)、DDxxD(301-305番目のアミノ酸)、(N/D)Dxx(S/T)xxxE(445-452番目のアミノ酸)というセスキテルペン合成酵素に高度に保存されているモチーフが含まれている。これらのモチーフに変異が導入されると酵素活性が失われる可能性が高いので、変異はこれらのモチーフ以外のアミノ酸に導入されることが好ましい。
上記(4)の遺伝子は、AsTps2a又はAsTps2bと命名されたコシアブラから得られたゲルマクレンD合成酵素遺伝子である。
上記(5)の遺伝子は、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる遺伝子である。
【0024】
(B')ゲルマクレンD合成酵素(ファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を有するタンパク質)
本発明のゲルマクレンD合成酵素は、(1)配列番号8又は10記載のアミノ酸配列、(2)配列番号8又は10記載のアミノ酸配列において、1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、最も好ましくは1〜5個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号8又は10に記載のアミノ酸配列が有するファルネシル二リン酸をゲルマクレンDに変換する活性と実質的同質の活性を有するアミノ酸配列、(3) 配列番号8又は10記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号8又は10に記載のアミノ酸配列が有するファルネシル二リン酸をゲルマクレンDに変換する活性と実質的同質の活性を有するアミノ酸配列を、含む。
【0025】
(C)β-オイデスモール合成酵素遺伝子
本発明のβ-オイデスモール合成酵素遺伝子は、(1)配列番号16又は18記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、(2)配列番号16又は18記載のアミノ酸配列において、1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、最も好ましくは1〜5個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列が有するファルネシル二リン酸をβ-オイデスモールに変換する活性と実質的同質の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、(3) 配列番号16又は18記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列が有するファルネシル二リン酸をβ-オイデスモールに変換する活性と実質的同質の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、(4)配列番号15又は17記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、(5)配列番号15又は17記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列が有するファルネシル二リン酸をβ-オイデスモールに変換する活性と実質的同質の活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、(6) 配列番号15又は17記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、(7) 配列番号15又は17記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子を、含む。
上記(1)の遺伝子は、紫ウコンから得られたβ-オイデスモール合成酵素をコードする遺伝子である。このβ-オイデスモール合成酵素は、ファルネシル二リン酸をβ-オイデスモールに変換する活性を持つ。上記(1)の遺伝子には、後述するCzTps1a又はCzTps1bのほか、CzTps1a又はCzTps1bと同一のポリペプチドをコードするが、塩基配列の異なる遺伝子も含まれる。
上記(2)の遺伝子は、紫ウコンから得られたβ-オイデスモール合成酵素に対して酵素活性を失わせない程度の変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子である。配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列には、RxR(264-266番目のアミノ酸)、DDxxD(301-305番目のアミノ酸)、(N/D)Dxx(S/T)xxxE(445-452番目のアミノ酸)というセスキテルペン合成酵素に高度に保存されているモチーフが含まれている。これらのモチーフに変異が導入されると酵素活性が失われる可能性が高いので、変異はこれらのモチーフ以外のアミノ酸に導入されることが好ましい。
上記(4)の遺伝子は、CzTps1a又はCzTps1bと命名された紫ウコンから得られたβ-オイデスモール合成酵素遺伝子である。
上記(5)の遺伝子は、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる遺伝子である。ハイブリダイゼーションにより得られるDNAは、上記(4)の遺伝子(配列番号9)と通常、高い同一性を有する。高い同一性とは、90%以上の同一性、好ましくは95%以上の同一性、更に好ましくは98%以上の同一性を指す。
【0026】
(C)β-オイデスモール合成酵素(ファルネシル二リン酸をβ-オイデスモールに変換する活性を有するタンパク質)
本発明のβ-オイデスモール合成酵素は、(1)配列番号16又は18記載のアミノ酸配列、(2)配列番号16又は18記載のアミノ酸配列において、1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、最も好ましくは1〜5個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列が有するファルネシル二リン酸をβ-オイデスモールに変換する活性と実質的同質の活性を有するアミノ酸配列、(3) 配列番号16又は18記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列が有するファルネシル二リン酸をβ-オイデスモールに変換する活性と実質的同質の活性を有するアミノ酸配列を、含む。
【0027】
(D−1)組換え大腸菌
本発明の組換え大腸菌は、上記β-カリオフィレン合成酵素遺伝子、上記ゲルマクレンD合成酵素遺伝子、及び/又は上記β-オイデスモール合成酵素遺伝子を導入し、発現させたものである。
また、本発明の組換え大腸菌は、好ましくは、β-カリオフィレン合成酵素遺伝子、ゲルマクレンD合成酵素遺伝子、及び/又はβ-オイデスモール合成酵素遺伝子に加えて、(1)メバロン酸又はメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群、及び(2)イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子を導入し、発現させたものである。
これらの遺伝子を大腸菌に導入し、発現させることにより、メバロン酸又はメバロノラクトンからβ-カリオフィレン、ゲルマクレンD及びβ-オイデスモールの製造が可能になる。
【0028】
(D−2)組換え大腸菌以外の宿主
本発明のセスキテルペンの製造方法において、組換え大腸菌以外の宿主としては、昆虫系、酵母系、植物細胞系、無細胞系(コムギ胚芽等)等を使用することができる。
これらの宿主においても、適切な各合成酵素遺伝子を導入することにより、組換え大腸菌系と同様に、β-カリオフィレン、ゲルマクレンD及び/又はβ-オイデスモールの製造が可能になる。各宿主に必要な合成酵素遺伝子は、以下の通りである。
酵母系:本発明のβ-カリオフィレン合成酵素遺伝子、ゲルマクレンD合成酵素遺伝子及び/又はβ-オイデスモール合成酵素遺伝子を、酵母発現用ベクターを用いて、酵母に導入し発現させることにより、これらのセスキテルペンの製造が可能になる。なお、HMG-CoAレダクターゼ(HMG-CoAからメバロン酸を作る酵素)遺伝子を共発現させることにより、目的のセスキテルペン生産量が向上させることができると考えられる。
昆虫系:本発明のβ-カリオフィレン合成酵素遺伝子、ゲルマクレンD合成酵素遺伝子及び/又はβ-オイデスモール合成酵素遺伝子を、昆虫発現用ベクターを用いて、昆虫に導入し発現させることにより、これらのセスキテルペンの製造が可能になる。なお、HMG-CoAレダクターゼ遺伝子を共発現させることにより、目的のセスキテルペン生産量が向上することができると考えられる。
植物系:本発明のβ-カリオフィレン合成酵素遺伝子、ゲルマクレンD合成酵素遺伝子及び/又はβ-オイデスモール合成酵素遺伝子を、植物発現用ベクターを用いて、植物に導入し発現させることにより、これらのセスキテルペンの製造が可能になる。なお、HMG-CoAレダクターゼ遺伝子を共発現させることにより、目的のセスキテルペン生産量が向上することができると考えられる。加えて、パーティクルガンによる葉緑体の形質転換により葉緑体内に、直接、外来遺伝子を導入し発現させる場合は、イソペンテニル二リン酸(IPP)イソメラーゼ(1型及び/又は2型)遺伝子を共発現させることにより、目的のセスキテルペン生産量が向上することができると考えられる。
【0029】
(E−1)イソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群
イソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群としては、前述したストレプトミセス属CL190株由来のメバロン酸経路遺伝子群(参照:非特許文献5)を用いることができるが、これ以外にも出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来のメバロン酸経路遺伝子群(V. J. J. Martin, D. J. Pitera, S. T. Withers, J. D. Newman, J. D. Keasling, Nature Biotechonosy, 21: 796-802, 2003)、細菌ストレプトコッカス・プノイモニエ(Streptococcus pneumoniae)由来のメバロン酸経路遺伝子群(S. H. Yoon, Y. M. Lee, J. E. Kim, S. H. Lee, J. H. Lee, J. Y. Kim, K. H. Jung, Y. C. Shin, J. D. Keasling, S. W. Kim, Biotechnology & Bioengineering, 94: 1025-1032, 2006)なども用いることができる。
【0030】
(E−2)イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子
イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子としては、前述したストレプトミセス属CL190株由来の2型のイソペンテニル二リン酸(IPP)イソメラーゼ遺伝子(参照:非特許文献5)や出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来の1型のIPPイソメラーゼ遺伝子(S. Kajiwara, P. D. Fraser, K. Kondo, N. Misawa, Biochemical Journal, 324: 421-426, 1997)を用いることができるが、これ以外にも大腸菌由来の2型のIPPイソメラーゼ遺伝子(V. J. J. Martin, D. J. Pitera, S. T. Withers, J. D. Newman, J. D. Keasling, Nature Biotechonosy, 21: 796-802, 2003)、緑藻ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)由来の1型のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子(前述のJ. J. Martinらの文献、及び前述のS. Kajiwaraらの文献)なども用いることができる。
【0031】
(F)セスキテルペンの製造方法
本発明のセスキテルペンの製造方法は、上記組換え大腸菌を、メバロン酸及び/又はメバロノラクトンを含む培地で培養して得られる培養物又は菌体からβ-カリオフィレン、ゲルマクレンD、及び/又は、β-オイデスモールを得ることを特徴とする。
使用する培地は、メバロン酸又はメバロノラクトンを含み、大腸菌の培養に適したものであれば特に限定されず、前述したLB培地、2x YT培地、TB培地などにメバロン酸又はメバロノラクトンを添加したものを使用することができる。
培地中のメバロン酸又はメバロノラクトンの濃度は、培地1リットル当たり、約0.1〜5 gが好ましく、約0.5〜1 gがより好ましい。培地中のpHは、約6.0〜8.0が好ましく、約6.6〜7.6がより好ましい。培養は、通常、約20〜30℃で約1〜3日間行えばよい。
以上の培養により、β-カリオフィレン、ゲルマクレンD、及び/又はβ-オイデスモールが生成する。
【0032】
β−カリオフィレン、ゲルマクレンD、及び/又はβ-オイデスモールを含む生成物は、常法により精製され得る。例えば、必要に応じ遠心分離、濾過等の処理を施して菌体等の懸濁物を除去し、次いで一般的な抽出溶剤、例えば酢酸エチル、クロロホルム、メタノール等の有機溶剤で抽出し、有機溶剤を減圧下で除去し、そして減圧蒸留、クロマトグラフィー、イオン交換樹脂、又は吸着性樹脂等の処理を行うことにより精製され得る。
【0033】
(G)β-カリオフィレン、ゲルマクレンD、又はβ-オイデスモールの生理活性
本発明の製造方法により製造できるβ-カリオフィレン、ゲルマクレンD、又はβ-オイデスモールはヒトにおいて種々の有益な生理活性を有している。
β-カリオフィレン(β-Caryophyllene)はマリファナ(大麻)にも含まれており、これまでの詳細な研究により、痛みや炎症、アテローム性動脈硬化症、骨粗しょう症などの治療に、この成分を利用できることがほぼ実証された。チューリッヒ工科大学のGertschらは、β-カリオフィレンの天然分子が、「カンナビノイド受容体・2型」(CB2)と呼ばれるタンパク質を活性化することを突き止めた(J. Gertsch, M. Leonti, S. Randuner, I. Racz, J.Z. Chen, X.Q. Xie, K.H. Altmann, M. Karsak, A. Zimmer, PMAS, 105: 9099-9104, 2008)。
なお、カンナビノイドは、大麻に含まれる化学物質の総称である。活性化されたCB2は、免疫系を落ち着かせ、骨量を増やし、痛みの信号を遮断する。この際に、一般にマリファナの作用とされる多幸感をもたらしたり、中枢神経系に作用を及ぼすようなことは無い。
ゲルマクレンD(germacrene D)はイランイランというハーブに多く含まれていることが知られており、鎮静作用、抗アレルギー作用、通経作用等の働きがあることが知られている。
β-オイデスモール(β-eudesmol)には抗血管新生作用があり、また、胃酸の分泌を抑える働きがあることが知られている(L.C. Chiou, J.Y. Ling C.C. Chang, Eur J Pharmacol 13: 151-156, 1995)。
また最近、β-オイデスモールが冷涼感受容体(ヒト冷受容チャネルTRPA1; Transient Receptor Potential Ankyrin 1)の活性化を行うことが明らかにされた(小原一朗、北尾紗代子ら、岡田紘幸ら、3C29p03、日本農芸化学会2012年度大会)。
【0034】
(H)β-クベベン、β-エレメン、α-ネオクロベン、α-フムレン、リナロール、又はネロリドールの生理活性
本発明の製造方法により製造できるβ-クベベン、β-エレメン、α-ネオクロベン、α-フムレン、リナロール、又はネロリドールはヒトにおいて種々の有益な生理活性を有している。
β-エレメン(β-elemene)には抗腫瘍や癌予防の効果があることが報告されている。β-エレメンは例えば、肺がん細胞や胃がん細胞の増殖または活性化を、アポトーシス誘導によって阻害することが示されている(G. Wang, X. Li, F. Huang, J. Zhao, H. Ding, C. Cunningham, J.E. Coad et al, Cell Mol Life Sci 62: 881-893, 2005; J. Liu, Y. Zhang, J. Qu, L. Xu, K. Hou, J. Zhang, X. Qu, Y. Liu, BMC Cancer 11: 183 2011)。
α-フムレン(α-humulene)には抗炎症作用があることが報告されている(A.P. Rogerio, E. L. Andrade, D.F.P. Leite, C.P. Figueiredo J.B. Calixto, British J Pharmacology 158: 1074-1087, 2009)。
リナロール(linalool)は、ラベンダー、スズラン、ベルガモット様の芳香をもつため、大量に香料として利用されている。また、ビールの香り成分の主体でもある。
ネロリドール(nerolidol)も香り成分の1つである。
β-クベベン及びα-ネオクロベンの生理機能は特に報告されていない。この大きな原因は、これまで、これらのセスキテルペンを多量に調製出来るソースがなかったからだと考えられる。したがって、本発明による方法により多量生産することができるので、今後、種々の生理機能試験を行うことにより、β-クベベン及びα-ネオクロベンについて新たな生理活性を見出すことができる。
【0035】
以下に具体例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【実施例1】
【0036】
(コシアブラ由来のセスキテル合成酵素遺伝子cDNA配列の決定)
コシアブラ(Acanthopanax sciadophylloides Franch. et Sav.)の新芽(図1a)から、RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いて全RNAを抽出した。SMARTer RACE cDNA amplification kit (Takara Bio社製) を用いて、製造元の指示に従い、全RNA 1.0 μgからcDNAを調製した。非特許文献4に記された高等植物のセスキテルペン合成酵素の保存ドメインの配列に基づく縮重オリゴヌクレオチドプライマー対[フォワード:5'-TTYCGAYTIYTIMGRMARCAIGG-3'(配列番号19) 及びリバース:5'-TAIGHRTCAWAIRTRTCRTC-3'(配列番号20)]を用いて、非特許文献4に記載の条件でcDNAを鋳型としたPCRを行い、544 bpの増幅断片を得た。
得られた増幅断片をpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)を用いてクローン化し塩基配列を決定した。全長cDNAを単離するために、上述のSMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Takara Bio社製)、オリゴヌクレオチドプライマー[KS2.5race:5'- AGACGCTCAAGGTGAGAGGTGGTGAA -3'(配列番号1)及びKS2.3race:5'- TCGCAAGAGATAGAGTGGTGGAGTGC -3'(配列番号2)]及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、製造元の指示に従い断片を5'末端および3'末端に向かって伸長させ、全長cDNA配列を決定した。
【実施例2】
【0037】
(3種類の全長セスキテルペン合成酵素遺伝子cDNAの単離と構造解析)
実施例1で得られた全長cDNA配列に特異的なオリゴヌクレオチドプライマー対KS2. Nde-F{5'- AGACAGACATATGGCCGCGATTCTTCAGG -3'(配列番号3)、下線はNdeI認識部位を示す}及びKS2. Xho-R{5'- GAGGTACCTCGAGTTATATTCGAACAGCATCTATGAGCAC -3' (配列番号4)、下線はXhoI認識部位を示す}及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、コシアブラcDNAを鋳型としたPCR(反応組成:製造元の指示に従った;反応条件:変性94℃で2分間、次に、94℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で4分間を5サイクル、次いで94℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で4分間を25サイクル)を行った。
得られたDNA断片はプラスミドpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)によりクローン化し、塩基配列を決定した。これらのcDNAヌクレオチド配列を配列番号5、7及び9に、該cDNAによりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号6、8及び10に示す。また、配列番号5により特定される遺伝子(cDNA)をAsTps1と命名し、AsTps1がコードする配列番号6により特定されるタンパク質(ポリペプチド)をAsTPS1と命名した。さらに、配列番号7及び9により特定される遺伝子(cDNA)をそれぞれAsTps2aおよびAsTps2bと命名し、AsTps2a及びAsTps2bがコードする配列番号8及び10により特定されるタンパク質(ポリペプチド)をそれぞれ、AsTPS2a及びAsTPS2bと命名した。
【0038】
AsTps1は、1,668 bpのオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、推定555アミノ酸残基、分子量64.4 kDa、及びpI 5.58のタンパク質(AsTPS1)をコードしていた。GenBank/EMBL/DDBJデータベースに対する相同性検索により、AsTPS1は既知セスキテルペン合成酵素であるヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)由来ゲルマクレンD合成酵素(germacrene D synthase)と61%、同β-カリオフィレン合成酵素(β-caryophyllene synthase)と 61%、キウイフルーツ(Actinidia deliciosa)由来ゲルマクレンD合成酵素(germacrene D synthase)と60%のアミノ酸配列一致度(アミノ酸配列の同一性;identity)を示した。
一方、AsTps2aは、1,668 bpのORFを含み、推定555アミノ酸残基、分子量64.8 kDa、及びpI 5.80のタンパク質(AsTPS2a)をコードしていた。相同性検索により、AsTPS2aは既知セスキテルペン合成酵素であるヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)由来ゲルマクレンD合成酵素(germacrene D synthase)と64%、同β-カリオフィレン合成酵素(β-caryophyllene synthase)と 63%、キウイフルーツ(Actinidia deliciosa)由来ゲルマクレンD合成酵素(germacrene D synthase)と61%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。
また、AsTps2bは、1,668 bpのORFを含み推定555アミノ酸残基、分子量64.6 kDa、及びpI 5.92のタンパク質(AsTPS2b)をコードしていた。相同性検索により、AsTPS2bは既知セスキテルペン合成酵素であるヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)由来ゲルマクレンD合成酵素(germacrene D synthase)と63%、同β-カリオフィレン合成酵素(β-caryophyllene synthase)と 62%、キウイフルーツ(Actinidia deliciosa)由来ゲルマクレンD合成酵素(germacrene D synthase)と61%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。
AsTPS1、AsTPS2aおよびAsTPS2b三者の相同性は、AsTPS1とAsTPS2aが85%、AsTPS1とAsTPS2bが84%、AsTPS2aとAsTPS2bが99%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。AsTPS2aとAsTPS2bの違いは4つのアミノ酸置換、すなわち94番目のAspからGlyへの置換(Asp94Gly、以下同様)、Glu213Gly、Ala269Thr、Leu547Serによるものだった。既知セスキテルペン合成酵素との相同性から、AsTPS1、AsTPS2aおよびAsTPS2bは、被子植物のセスキテルペンおよびジテルペン合成酵素の群であるTPS-aサブファミリー(J. Bohlmann, G. Meyer-Gauen, R. Croteau (1998) Plant terpenoid synthases: molecular biology and phylogenetic analysis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:4126-4133 参照のこと)に属することが分かった。さらにAsTPS1、AsTPS2aおよびAsTPS2bは、セスキテルペン合成酵素に高度に保存されているRxR、DDxxD、(N/D)Dxx(S/T)xxxEというモチーフを含んでいた(図2)。
一方、通常の既知セスキテルペン合成酵素とは異なり、AsTPS1、AsTPS2a及びAsTPS2bは、色素体輸送(transit)ペプチドを有することが予測された。これら3種のタンパク質とこれらと相同性の高い既知酵素におけるアミノ酸配列の比較(アライメント;alignment)を図2に示した。
【実施例3】
【0039】
(コシアブラ由来の3種類のセスキテルペン合成酵素遺伝子の機能解析)
コシアブラ由来の3種類のセスキテルペン合成酵素遺伝子であるAsTps1AsTps2a、及びAsTps2b全長cDNA配列のそれぞれを、これらが挿入されたプラスミドから制限酵素NdeI-XhoIで切り出し、大腸菌ベクターpETDuet-1(Novagen社製)のマルチクローニング部位(MCS2)のNdeI-XhoI部位に連結して、pET-AsTps1、pET-AsTps2a、及びpET-AsTps2bを作製した(図3)。プラスミドpET-AsTps1、pET-AsTps2a、pET-AsTps2bのうちいずれか1つ、及びプラスミドpAC-Mev/Scidi(非特許文献7)を用いて大腸菌BL21(DE3)の形質転換を行い、得られた組換え大腸菌の培養を行い、培養後の大腸菌の菌体からのセスキテルペンを抽出し、さらにガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)を行った。これらの方法は非特許文献2、3、4、7に記載の通りである。
【0040】
GC-MSを用いた分析の結果、AsTps1を含まないベクターpET21a及びプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株酢酸エチル抽出液のクロマトグラム(コントロール)では、いずれのセスキテルペンの生成も確認されなかったのに対し、プラスミドpET-AsTps1及びプラスミドpAC-Mev/Scidi を含む大腸菌を用いた実験区では、菌体からの酢酸エチル抽出液中に新規なピークが見られた。マススペクトルの比較により、このピーク(ピーク1)はβ-カリオフィレン(β-caryophyllene)であることを確認した(図4)。
そこで、β-カリオフィレンの標品(和光純薬工業)と重ねうちしたところ、GC分析による保持時間が完全に一致した。
以上の結果から、AsTps1がβ-カリオフィレン合成酵素(β-caryophyllene synthase)をコードする遺伝子であることが判明した。なお、β-カリオフィレンを複数のセスキテルペン成分の1つとして合成するセスキテルペン合成酵素遺伝子は知られているが(たとえば非特許文献3のZzZZS1)、本酵素遺伝子のように、β-カリオフィレンを単一の主要テルペン成分として合成できるものは従来知られていなかった。
また同様に、AsTps2を含まないベクターpET21aとプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム(コントロール)では、いずれのセスキテルペンの生成も確認されなかったのに対し、プラスミドpET-AsTps2aとpET-AsTps2bのどちらか一方及びプラスミドpAC-Mev/Scidi を含む大腸菌を用いた実験区では、菌体からの酢酸エチル抽出液中に新規なピークが観察された。マススペクトルの比較により、このピーク(ピーク2及びピーク3)はゲルマクレンD(germacrene D)であると考えられた(図5)。そこで、ゲルマクレンDの標品と重ねうちしたところ、GC分析による保持時間が完全に一致した。
以上の結果から、AsTps2a及びAsTps2bはゲルマクレンD合成酵素(germacrene D synthase)をコードする遺伝子であることが判明した。β-カリオフィレン及びゲルマクレンDの化学構造は図6に示されている。
また、以上の結果より、プラスミドpET-AsTps1とプラスミドpAC-Mev/Scidiを導入した大腸菌を用いて、β-カリオフィレンの選択的な生産が、さらに、プラスミドpET-AsTps2aとpET-AsTps2bのどちらか一方及びプラスミドpAC-Mev/Scidiを導入した大腸菌を用いて、ゲルマクレンDの選択的な生産が可能であることを確認した。一般に、セスキテルペン合成酵素は複数個のセスキテルペンを同時に合成する傾向にあるので、AsTps1AsTps1b又はAsTps2bのように、ほぼ単一のセスキテルペンの生成を触媒する酵素遺伝子は珍しい。
【実施例4】
【0041】
(紫ウコン由来のセスキテルペン合成酵素遺伝子cDNA配列の決定)
紫ウコン(ガジュツ;Curcuma zedoaria Roscoe)の根茎(rhizome;図7)から、RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いて全RNAを抽出した。SMARTer RACE cDNA amplification kit (Takara Bio社製) を用いて、製造元の指示に従い、全RNA 1.0 μgからcDNAを調製した。非特許文献4に記された高等植物のセスキテルペン合成酵素の保存ドメインの配列に基づく縮重オリゴヌクレオチドプライマー対[フォワード:5'-TTYCGAYTIYTIMGRMARCAIGG-3'(配列番号19) 及びリバース:5'-TAIGHRTCAWAIRTRTCRTC-3'(配列番号20)]を用いて、非特許文献4に記載の条件でcDNAを鋳型としたPCRを行い、813 bpの増幅断片を得た。得られた増幅断片をpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)を用いてクローン化し塩基配列を決定した。全長cDNAを単離するために、上述のSMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Takara Bio社製)、オリゴヌクレオチドプライマー[UN3.5race:5'- AGCTCTTCTGCTCGAATCGACGACAC-3'(配列番号11) 及びUN3.3race:5'- ACTTTTGCTCGAGATCGAGTGGTGGA-3'(配列番号12)]及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、製造元の指示に従い断片を5'末端および3'末端に向かって伸長させ、全長cDNA配列を決定した。
【実施例5】
【0042】
(紫ウコンより2種類の全長セスキテルペン合成酵素遺伝子cDNAの単離と構造解析)
実施例4で得られた全長cDNA配列に特異的なオリゴヌクレオチドプライマー対UN3.Nde-F(5'- AGACAGACATATGGAGAAGCAATCGACCAGTACTC -3'(配列番号13)、下線はNdeI認識部位を示す)及びUN3.Kpn-R(5'- GAGGTACGGTACCTTAAATAGGTACTGATTCGACCAACACC -3'(配列番号14)、下線はKpnI認識部位を示す)及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、紫ウコンcDNAを鋳型としたPCR(反応組成:製造元の指示に従った;反応条件:変性94℃で2分間、次に、94℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で4分間を5サイクル、次いで94℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で4分間を25サイクル)を行った。得られたcDNAはプラスミドpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)によりクローン化し、塩基配列を決定した。
これらのcDNAヌクレオチド配列を配列番号15、17に、該cDNAによりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号16、18に示す。また、配列番号15及び17により特定される遺伝子(cDNA)をCzTps1a及びCzTps1bと命名し、CzTps1aおよびCzTps1bがコードする配列番号16及び18により特定されるタンパク質(ポリペプチド)をそれぞれ、CzTPS1a及びCzTPS1bと命名した。
CzTps1aは、1,644 bpのオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、推定547アミノ酸残基、分子量64.0 kDa、及びpI 5.35のタンパク質(CzTPS1a)をコードしていた。GenBank/EMBL/DDBJデータベースに対する相同性検索により、CzTPS1aは既知セスキテルペン合成酵素であるハナショウガ(Zingiber zerumbet)由来α-フムレン合成酵素(α-humulene synthase)と66%、同β-オイデスモール合成酵素(β-eudesmol synthase)と 63%、ショウガ(Zingiber officinale)由来ゲルマクレンD合成酵素(germacrene D synthase)と59%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。また、本発明によるコシアブラ由来β-カリオフィレン合成酵素(AsTPS1)及び同ゲルマクレンD合成酵素(AsTPS2a、AsTPS2b)とはそれぞれ45%、45%、44%のアミノ酸配列一致度を示した。
一方、CzTps1bは、1,644 bpのオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、推定547アミノ酸残基、分子量64.1 kDa、及びpI 5.41のタンパク質(CzTPS1b)をコードしていた。GenBank/EMBL/DDBJデータベースに対する相同性検索により、CzTPS1bは既知セスキテルペン合成酵素であるハナショウガ(Zingiber zerumbet)由来α-フムレン合成酵素(α-humulene synthase)と66%、同β-オイデスモール合成酵素(β-eudesmol synthase)と 63%、ショウガ(Zingiber officinale)由来ゲルマクレンD合成酵素(germacrene D synthase)と59%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。また、本発明によるコシアブラ由来β-カリオフィレン合成酵素(AsTPS1)及び同ゲルマクレンD合成酵素(AsTPS2a、AsTPS2b)とはそれぞれ45%、45%、44%のアミノ酸配列一致度を示した。CzTPS1a及びCzTPS1bの相同性は、99.6%のアミノ酸配列一致度(identity)であった。両者の違いは2つのアミノ酸置換、すなわち118番目のGlnからArgへの置換(Gln118Arg、以下同様)、およびAla418Thrによるものだった。既知セスキテルペン合成酵素との相同性から、CzTPS1aおよびCzTPS1bは、被子植物のセスキテルペン及びジテルペン合成酵素の群であるTPS-aサブファミリーに属することが分かった。さらにCzTPS1a及びCzTPS1bは、セスキテルペン合成酵素に高度に保存されているRxR、DDxxD、(N/D)Dxx(S/T)xxxEというモチーフを含んでいた(図8)。
一方、通常の既知セスキテルペン合成酵素と同様に、CzTPS1a及びCzTPS1bは、色素体輸送(transit)ペプチドを含まないことが予測された。これら2種のタンパク質とこれらと相同性の高い既知酵素におけるアミノ酸配列の比較(アライメント;alignment)を図8に示した。
【実施例6】
【0043】
(紫ウコン由来の2種類のセスキテルペン合成酵素遺伝子の機能解析)
紫ウコン由来の2種類のセスキテルペン合成酵素遺伝子CzTps1a及びCzTps1b全長cDNA配列のそれぞれを、これらが挿入されたプラスミドから制限酵素NdeI-KpnIで切り出し、大腸菌ベクターpETDuet-1(Novagen社製)のマルチクローニング部位(MCS2)のNdeI-KpnI部位に連結して、pET-CzTps1a及びpET-CzTps1bプラスミドを作製した(図9)。
プラスミドpET-CzTps1a又はpET-CzTps1bのどちらか一方及びプラスミドpAC-Mev/Scidi(非特許文献7)を用いて大腸菌BL21(DE3)の形質転換を行い、得られた組換え大腸菌の培養を行い、培養後の大腸菌の菌体からのセスキテルペンを抽出し、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)を行った。これらの方法は非特許文献2、3、4、7に記載の通りである。
GC-MSを用いた分析の結果、CzTps1を含まないベクターpET21a及びプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム(コントロール)では、いずれのセスキテルペンの生成も確認されなかったのに対し、培養中にプラスミドpET-CzTps1a又はpET-CzTps1bのどちらか一方及びプラスミドpAC-Mev/Scidi を含む大腸菌を用いた実験区では、菌体からの酢酸エチル抽出液中に新規なピークが見られた。マススペクトルの比較により、このピーク(ピーク4及び5)はβ-オイデスモール(β-eudesmol)であると考えられた(図10)。
そこで、β-オイデスモールの標品(和光純薬工業)と重ねうちしたところ、GC分析による保持時間が完全に一致した。以上の結果から、CzTps1a及びCzTps1bはβ-オイデスモール合成酵素(β-eudesmol synthase)をコードする遺伝子であることが判明した。β-オイデスモールの化学構造は図6に示されている。
また、以上の結果より、プラスミドpET-CzTps1a又はpET-CzTps1bのどちらか一方及びプラスミドpAC-Mev/Scidiを導入した大腸菌を用いて、β-オイデスモールの選択的な生産が可能であることが示された。
なお、β-オイデスモールを単一の主要テルペン成分として合成できるものは従来、ハナショウガから単離されたβ-オイデスモール合成酵素遺伝子(ZzZSS2)のみが知られていた(参照:非特許文献4)。我々が今回、紫ウコンより単離した遺伝子(CzTps1a又はCzTps1b)はZzZSS2と同様の機能を持つテルペン合成酵素遺伝子であるが、これら2種類の遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列はかなり異なっていた(63%のアミノ酸一致度)。むしろ、CzTPS1a又はCzTPS1bは構造上、ハナショウガから単離されたα-フムレン合成酵素ZzZSS1 (参照:非特許文献3)に近かった(66%のアミノ酸一致度)ので、本発明の遺伝子(CzTps1a又はCzTps1b)の機能を推定することはできなかった。したがって、本発明の遺伝子はその構造と機能上、新規遺伝子であると言える。
【実施例7】
【0044】
(ヒメウコギ由来のセスキテルペン合成酵素遺伝子cDNA配列の決定)
ヒメウコギ(ウコギ;Acanthopanax sieboldianus)の新芽(図11a)から、RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いて全RNAを抽出した。SMARTer RACE cDNA amplification kit (Takara Bio社製) を用いて、製造元の指示に従い、全RNA 1.0 μgからcDNAを調製した。非特許文献4に記された高等植物のセスキテルペン合成酵素の保存ドメインの配列に基づく縮重オリゴヌクレオチドプライマー対[フォワード:5'-TTYCGAYTIYTIMGRMARCAIGG-3'(配列番号19) 及びリバース:5'-TAIGHRTCAWAIRTRTCRTC-3'(配列番号20)]を用いて、非特許文献4に記載の条件でcDNAを鋳型としたPCRを行い、592 bpの増幅断片を得た。
得られた増幅断片をpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)を用いてクローン化し塩基配列を決定した。全長cDNAを単離するために、上述のSMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Takara Bio社製)、オリゴヌクレオチドプライマー[surugaGDS.5race:5'- GCGATTTAAGACGCTCAAGGTGAGAGG -3'(配列番号21)及びsurugaGDS.3race:5'- TCGCAAGAGATAGAGTGGTGGAGTGC -3'(配列番号22)]及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、製造元の指示に従い断片を5'末端および3'末端に向かって伸長させ、cDNA配列を決定した。得られた5'末端配列情報をもとに、新たに合成したオリゴヌクレオチドプライマー[UK1.5-RACE.326:5'- ACGGTGTGAAGATCGTCGTCATTTCC-3'(配列番号23)]を用いてさらに5'末端に向かって伸長させ、全長cDNA配列を決定した。
【実施例8】
【0045】
(4種類の全長セスキテルペン合成酵素遺伝子cDNAの単離と構造解析)
実施例7で得られた全長cDNA配列に特異的なオリゴヌクレオチドプライマー対UK1. Nde-F{5'- AGACAGACATATGGCCACGTATCTCCAGG -3'(配列番号24)、下線はNdeI認識部位を示す}及びUK1. Xho-R{5'- GAGGTACCTCGAGTTATATTTGAACTGGATCTATGAGCAC -3' (配列番号25)、下線はXhoI認識部位を示す}及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、コシアブラcDNAを鋳型としたPCR(反応組成:製造元の指示に従った;反応条件:変性94℃で2分間、次に、94℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で2分間を5サイクル、次いで94℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で2分間を25サイクル)を行った。
得られたDNA断片は、プラスミドpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)によりクローン化し、塩基配列を決定した。これらのcDNAヌクレオチド配列を配列番号26、28、30及び32に、該cDNAによりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号27、29、31及び33に示す。また、配列番号26、28、30及び32により特定される遺伝子(cDNA)をそれぞれAsiTps1a、AsiTps1b、AsiTps1c及びAsiTps1dと命名し、AsTps1aAsiTps1bAsiTps1c及びAsiTps1dがコードする配列番号27、29、31及び33により特定されるタンパク質(ポリペプチド)をAsiTPS1aAsiTPS1bAsiTPS1c及びAsiTPS1dと命名した。
AsiTps1aは、1,671 bpのオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、推定556アミノ酸残基、分子量64.7 kDa、及びpI 5.57のタンパク質(AsiTPS1a)をコードしていた。GenBank/EMBL/DDBJデータベースに対する相同性検索により、AsiTPS1aは既知セスキテルペン合成酵素であるミツバウコギ(Eleutherococcus trifoliatus)由来α-コパエン合成酵素(α-copaene synthase)と97%、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)由来ゲルマクレンD合成酵素(germacrene D synthase)と 63%、同β-カリオフィレン合成酵素(β-caryophyllene synthase)と62%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。
AsiTps1bは、1,671 bpのORFを含み、推定556アミノ酸残基、分子量64.6 kDa、及びpI 5.64のタンパク質(AsiTPS1b)をコードしていた。相同性検索により、AsiTPS1bは既知セスキテルペン合成酵素であるミツバウコギ由来α-コパエン合成酵素と97%、ヨーロッパブドウ由来ゲルマクレンD合成酵素と 63%、同β-カリオフィレン合成酵素と62%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。
AsiTps1cは、1,671 bpのORFを含み推定556アミノ酸残基、分子量64.6 kDa、及びpI 5.57のタンパク質(AsiTPS1c)をコードしていた。相同性検索により、AsiTPS1cは既知セスキテルペン合成酵素であるミツバウコギ由来α-コパエン合成酵素と97%、ヨーロッパブドウ由来ゲルマクレンD合成酵素と 64%、同β-カリオフィレン合成酵素と63%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。
また、AsiTps1dは、1,671 bpのORFを含み推定556アミノ酸残基、分子量64.6 kDa、及びpI 5.62のタンパク質(AsiTPS1d)をコードしていた。相同性検索により、AsiTPS1dは既知セスキテルペン合成酵素であるミツバウコギ由来α-コパエン合成酵素と97%、ヨーロッパブドウ由来ゲルマクレンD合成酵素と 63%、同β-カリオフィレン合成酵素と62%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。
AsiTPS1a、AsiTPS1b、AsiTPS1c及びAsiTPS1dの4者の相同性については、AsiTPS1aとAsiTPS1bが99.6%、AsiTPS1aとAsiTPS1cが99.6%、AsiTPS1aとAsiTPS1dが99.6%、AsiTPS1bとAsiTPS1cが99.3%、AsiTPS1bとAsiTPS1dが99.3%、AsiTPS1cとAsiTPS1dが99.3%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。AsiTPS1aとAsiTPS1bの違いは2つのアミノ酸置換、すなわち36番目のLeuからProへの置換(Leu36Pro、以下同様)と、Asp42Glyによるものだった。AsiTPS1aとAsiTPS1cの違いは2つのアミノ酸置換、すなわちAsn39Serと、Phe235Leuによるものだった。また、AsiTPS1aとAsiTPS1dの違いは2つのアミノ酸置換、すなわちMet64Valと、Tyr158Hisによるものだった。既知セスキテルペン合成酵素との相同性から、AsiTPS1a、AsiTPS1b、AsiTPS1cおよびAsiTPS1dは、被子植物のセスキテルペンおよびジテルペン合成酵素の群であるTPS-aサブファミリー(参照:J. Bohlmann, G. Meyer-Gauen, R. Croteau (1998) Plant terpenoid synthases: molecular biology and phylogenetic analysis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:4126-4133 )に属することを確認した。
さらにAsiTPS1a、AsiTPS1b、AsiTPS1cおよびAsiTPS1dは、セスキテルペン合成酵素に高度に保存されているRxR、DDxxD、(N/D)Dxx(S/T)xxxE {NSE/DTEモチーフと呼ばれる} というモチーフを含んでいた(図12)。
一方、AsiTPS1a、AsiTPS1b、AsiTPS1c及びAsiTPS1dは、通常の既知セスキテルペン合成酵素とは異なり、色素体輸送(transit)ペプチドを有することが予測された。これら4種のタンパク質とこれらと相同性の高い既知酵素におけるアミノ酸配列の比較(アライメント;alignment)を図12に示した。
【実施例9】
【0046】
(ヒメウコギ由来の4種類のセスキテルペン合成酵素遺伝子の機能解析)
ヒメウコギ由来の4種類のセスキテルペン合成酵素遺伝子であるAsiTps1aAsiTps1bAsiTps1c及びAsiTps1d全長cDNA配列のそれぞれを、これらが挿入されたプラスミドから制限酵素NdeI-XhoIで切り出し、大腸菌ベクターpETDuet-1(Novagen社製)のマルチクローニング部位(MCS2)のNdeI-XhoI部位に連結して、pET-AsiTps1a、pET-AsiTps1b、pET-AsiTps1c、及びpET-AsiTps1dを作製した(図13)。プラスミドpET-AsiTps1a、pET-AsiTps1b、pET-AsiTps1c及びpET-AsiTps1dのうちいずれか1つ、及びプラスミドpAC-Mev/Scidi(非特許文献7)を用いて大腸菌BL21(DE3)の形質転換を行った。さらに、得られた組換え大腸菌の培養を行い、培養後の大腸菌の菌体からのセスキテルペンを抽出し、さらにガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)を行った。これらの方法は非特許文献2、3、4、7に記載の通りである。
GC-MSを用いた分析の結果、AsiTps1を含まないベクターpET21a及びプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株酢酸エチル抽出液のクロマトグラム(コントロール)では、いずれのセスキテルペンの生成も確認されなかったのに対し、プラスミドpET-AsiTps1a、pET-AsiTps1b、pET-AsiTps1c、pET-AsiTps1dのうちいずれか1つ、及びプラスミドpAC-Mev/Scidi を含む大腸菌を用いた実験区では、菌体からの酢酸エチル抽出液中に新規なピークが見られた。マススペクトルの比較により、このピーク(図14中のピーク6、ピーク7、ピーク8、ピーク9)はβ-カリオフィレン(β-caryophyllene)であることを確認した。
そこで、β-カリオフィレンの標品(和光純薬工業)と重ね打ちしたところ、GC分析による保持時間が完全に一致した。
よって、AsiTps1aAsiTps1bAsiTps1c及びAsiTps1dがβ-カリオフィレン合成酵素(β-caryophyllene synthase)をコードする遺伝子であることが判明した。β-カリオフィレンの化学構造は図15に示す。
さらに、以上の結果より、プラスミドpET-AsiTps1a、pET-AsiTps1b、pET-AsiTps1c及びpET-AsiTps1dのうちいずれか1つと、プラスミドpAC-Mev/Scidiを導入した大腸菌を用いて、β-カリオフィレンの選択的な生産が可能であることを確認した。一般に、セスキテルペン合成酵素は複数個のセスキテルペンを同時に合成する傾向にあるので、AsiTps1aAsiTps1bAsiTps1c及びAsiTps1dのように、ほぼ単一のセスキテルペンの生成を触媒する酵素遺伝子は珍しい。
なお、実施例3で確認された、コシアブラ(Acanthopanax sciadophylloides)由来のAsTps1遺伝子もβ-カリオフィレン合成酵素(β-caryophyllene synthase)をコードする遺伝子である。ウコギ(ヒメウコギ)由来のAsiTps1aAsiTps1bAsiTps1c及びAsiTps1d遺伝子にコードされるβ-カリオフィレン合成酵素は、このAsTps1遺伝子遺伝子にコードされるβ-カリオフィレン合成酵素と90%以上のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。たとえば、AsiTPS1aはAsTPS1と42アミノ酸が異なり、両者のアミノ酸配列一致度(identity)は92.4%であった。
【実施例10】
【0047】
(タラノキ由来のセスキテルペン合成酵素遺伝子cDNA配列の決定)
タラノキ(Aralia elata)の新芽(図16a)から、RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いて全RNAを抽出した。SMARTer RACE cDNA amplification kit (Takara Bio社製) を用いて、製造元の指示に従い、全RNA 1.0 μgからcDNAを調製した。非特許文献4に記された高等植物のセスキテルペン合成酵素の保存ドメインの配列に基づく縮重オリゴヌクレオチドプライマー対[フォワード:5'-TTYCGAYTIYTIMGRMARCAIGG-3'(配列番号19) 及びリバース:5'-TAIGHRTCAWAIRTRTCRTC-3'(配列番号20)]を用いて、非特許文献4に記載の条件でcDNAを鋳型としたPCRを行い、588 bpの増幅断片を得た。得られた増幅断片をpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)を用いてクローン化し塩基配列を決定した。全長cDNAを単離するために、上述のSMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Takara Bio社製)、オリゴヌクレオチドプライマー[Aral. germ.D5. 5race:5'- TGCACCCTAAGATGTGTTGCCACGTA -3'(配列番号34) 及びAral. germ.D5. 3race:5'- TGCAAGGGATAGAGTGGTGGAGTGCT -3'(配列番号35)]及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、製造元の指示に従い断片を5'末端および3'末端に向かって伸長させ、全長cDNA配列を決定した。
【実施例11】
【0048】
(タラノキより種類の全長セスキテルペン合成酵素遺伝子cDNAの単離と構造解析)
実施例10で得られた全長cDNA配列に特異的なオリゴヌクレオチドプライマー対TR1.Nde-F(5'- AGACAGACATATGGCTGCTTATCTTCAGGCTTC -3'(配列番号36)、下線はNdeI認識部位を示す)及びTR1.Xho-R(5'- GAGGTACCTCGAGTTATATTGGAACAGGATCTACGAGC -3'(配列番号37)、下線はXhoI認識部位を示す)及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、タラノキcDNAを鋳型としたPCR(反応組成:製造元の指示に従った;反応条件:変性94℃で2分間、次に、94℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で4分間を5サイクル、次いで94℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で2分間を25サイクル)を行った。得られたcDNAはプラスミドpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)によりクローン化し、塩基配列を決定した。
これらのcDNAヌクレオチド配列を配列番号38、40に、該cDNAによりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号39、41に示す。また、配列番号38及び40により特定される遺伝子(cDNA)をAeTps1a及びAeTps1bと命名し、AeTps1a及びAeTps1bがコードする配列番号39及び41により特定されるタンパク質(ポリペプチド)をそれぞれ、AeTPS1a及びAeTPS1bと命名した。
AeTps1aは、1,665 bpのオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、推定554アミノ酸残基、分子量64.3 kDa、及びpI 5.77のタンパク質(AeTPS1a)をコードしていた。GenBank/EMBL/DDBJデータベースに対する相同性検索により、AeTPS1aは既知セスキテルペン合成酵素であるミツバウコギ(Eleutherococcus trifoliatus)由来α-コパエン合成酵素(α-copaene synthase)と82%、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)由来ゲルマクレンD合成酵素(germacrene D synthase)と 67%、同β-カリオフィレン合成酵素(β-caryophyllene synthase)と65%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。
一方、AeTps1bは、1,665 bpのORFを含み、推定554アミノ酸残基、分子量64.3 kDa、及びpI 5.84のタンパク質(AeTPS1b)をコードしていた。GenBank/EMBL/DDBJデータベースに対する相同性検索により、AeTPS1aは既知セスキテルペン合成酵素であるミツバウコギ由来α-コパエン合成酵素と82%、ヨーロッパブドウ由来ゲルマクレンD合成酵素と 67%、同β-カリオフィレン合成酵素と65%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。
AeTPS1a及びAeTPS1bの相同性は、99.8%のアミノ酸配列一致度(identity)であった。両者の違いは1つのアミノ酸置換、すなわち539番目のMetからArgへの置換によるものだった。既知セスキテルペン合成酵素との相同性から、AeTPS1a及びAeTPS1bは、被子植物のセスキテルペン及びジテルペン合成酵素の群であるTPS-aサブファミリーに属することを確認した。さらに、AeTPS1a及びAeTPS1bは、セスキテルペン合成酵素に高度に保存されているRxR、DDxxD、(N/D)Dxx(S/T)xxxE {NSE/DTEモチーフと呼ばれる} というモチーフを含んでいた(図17)。
一方、AeTPS1a及びAeTPS1bは、通常の既知セスキテルペン合成酵素とは異なり、色素体輸送(transit)ペプチドを有することが予測された。これら2種のタンパク質とこれらと相同性の高い既知酵素におけるアミノ酸配列の比較(アライメント;alignment)を図17に示した。
【実施例12】
【0049】
(タラノキ由来の2種類のセスキテルペン合成酵素遺伝子の機能解析)
タラノキ由来の2種類のセスキテルペン合成酵素遺伝子AeTps1a及びAeTps1b全長cDNA配列のそれぞれを、これらが挿入されたプラスミドから制限酵素NdeI-XhoIで切り出し、大腸菌ベクターpETDuet-1(Novagen社製)のマルチクローニング部位(MCS2)のNdeI-XhoI部位に連結して、pET-AeTps1a及びpET-AeTps1bプラスミドを作製した(図18)。
プラスミドpET-AeTps1a又はpET-AeTps1bのどちらか一方及びプラスミドpAC-Mev/Scidi(非特許文献7)を用いて大腸菌BL21(DE3)の形質転換を行い、得られた組換え大腸菌の培養を行い、培養後の大腸菌の菌体からのセスキテルペンを抽出し、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)を行った。これらの方法は非特許文献2、3、4、7に記載の通りである。
GC-MSを用いた分析の結果、AeTps1を含まないベクターpET21a及びプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム(コントロール)では、いずれのセスキテルペンの生成も確認されなかったのに対し、培養中にプラスミドpET-AeTps1a又はpET-AeTps1bのどちらか一方及びプラスミドpAC-Mev/Scidi を含む大腸菌を用いた実験区では、菌体からの酢酸エチル抽出液中に新規なピークが見られた。マススペクトルの比較により、このピーク(図19中のピーク10及び11)はβ-クベベン(β-cubebene)であると考えられた(図19)。
GC分析における該ピーク(ピーク10及び11)のマススペクトルとデータベース中のクベベンマススペクトルとの一致度が96%と高く、かつGC分析に用いたDB-Wax カラムでのGC retention indices (RI) 値(参照:H.S. Choi, M. Sawamura (2000) Composition of the Essential Oil of Citrus tamurana Hort. ex Tanaka (Hyuganatsu). J. Agric. Food Chem. 48:4868-4873)が該ピークでは1549に対しβ-クベベンの文献値では1552とほぼ一致したことから、該ピークはβ-クベベンであると推定された。
よって、AeTps1a及びAeTps1bはβ-クベベン合成酵素(β-cubebene synthase)をコードする遺伝子であると推定された。β-クベベンの化学構造は図15に示す。
以上の結果より、プラスミドpET-AeTps1a又はpET-AeTps1bのどちらか一方及びプラスミドpAC-Mev/Scidiを導入した大腸菌を用いて、β-クベベンの選択的な生産が可能である。
【実施例13】
【0050】
(ウド由来のセスキテルペン合成酵素遺伝子cDNA配列の決定)
ウド(Aralia cordata)の新芽(図20)から、RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いて全RNAを抽出した。SMARTer RACE cDNA amplification kit (Takara Bio社製)を用いて、製造元の指示に従い、全RNA 1.0 μgからcDNAを調製した。非特許文献4に記された高等植物のセスキテルペン合成酵素の保存ドメインの配列に基づく縮重オリゴヌクレオチドプライマー対[フォワード:5'-TTYCGAYTIYTIMGRMARCAIGG-3'(配列番号19) 及びリバース:5'-TAIGHRTCAWAIRTRTCRTC-3'(配列番号20)]を用いて、非特許文献4に記載の条件でcDNAを鋳型としたPCRを行い、538 bpの増幅断片を得た。
得られた増幅断片をpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)を用いてクローン化し塩基配列を決定した。全長cDNAを単離するために、上述のSMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Takara Bio社製)、オリゴヌクレオチドプライマー[UD1.5race:5'- CATGCCCTTCACATCTTCCACAATG -3'(配列番号42)及びUD1.3race:5'- GCCTCGTTACTCTCTTGCACGGATCA -3'(配列番号43)]及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、製造元の指示に従い断片を5'末端および3'末端に向かって伸長させ、全長cDNA配列を決定した。
【実施例14】
【0051】
(5種類の全長セスキテルペン合成酵素遺伝子cDNAの単離と構造解析)
実施例13で得られた全長cDNA配列に特異的なオリゴヌクレオチドプライマー対UD1. Fse-F{5'- AGACAGAGGCCGGCCACATGGCCCTAACAGTTACATCTAATGA -3'(配列番号44)、下線はFseI認識部位を示す}及びUD1. Xho-R{5'- GAGGTACCTCGAGTTATCCCTCAATGGGCACAGG -3' (配列番号45)、下線はXhoI認識部位を示す}及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、ウドcDNAを鋳型としたPCR(反応組成:製造元の指示に従った;反応条件:変性94℃で2分間、次に、94℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で4分間を5サイクル、次いで94℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で2分間を25サイクル)を行った。
得られたDNA断片はプラスミドpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)によりクローン化し、塩基配列を決定した。これらのcDNAヌクレオチド配列を配列番号46、48、50、52及び54に、該cDNAによりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号47、49、51、53及び55に示す。また、配列番号46、48、50及び52により特定される遺伝子(cDNA)をAcTps1aAcTps1bAcTps1c及びAcTps1dと命名し、AcTps1aAcTps1bAcTps1c及びAcTps1dがコードする配列番号47、49、51及び53により特定されるタンパク質(ポリペプチド)をそれぞれAcTPS1a、AcTPS1b、AcTPS1c及びAcTPS1dと命名した。
さらに、配列番号54により特定される遺伝子(cDNA)をAcTps2と命名し、AcTps2がコードする配列番号55により特定されるタンパク質(ポリペプチド)を、AcTPS2と命名した。
AcTps1aは、1,668 bpのオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、推定555アミノ酸残基、分子量64.3 kDa、及びpI 5.30のタンパク質(AcTPS1a)をコードしていた。GenBank/EMBL/DDBJデータベースに対する相同性検索により、AcTPS1aは既知セスキテルペン合成酵素であるキクニガナ(Cichorium intybus)由来ゲルマクレンA合成酵素(germacrene A synthase)と59%、シロバナニガナ(Ixeris dentata var. albiflora)由来グアイアジエン合成酵素(guaiadiene synthase)と 59%、ヒマワリ(Helianthus annuus)由来ゲルマクレンA合成酵素 3(germacrene A synthase 3)と58%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。
AcTps1bは、1,668 bpのORFを含み、推定555アミノ酸残基、分子量64.3 kDa、及びpI 5.41のタンパク質(AcTPS1b)をコードしていた。GenBank/EMBL/DDBJデータベースに対する相同性検索により、AcTPS1bは既知セスキテルペン合成酵素であるキクニガナ由来ゲルマクレンA合成酵素と59%、シロバナニガナ由来グアイアジエン合成酵素(guaiadiene synthase)と 59%、ヒマワリ由来ゲルマクレンA合成酵素 3と59%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。
AcTps1cは、1,668 bpのORFを含み、推定555アミノ酸残基、分子量64.2 kDa、及びpI 5.47のタンパク質(AcTPS1c)をコードしていた。GenBank/EMBL/DDBJデータベースに対する相同性検索により、AcTPS1cは既知セスキテルペン合成酵素であるキクニガナ由来ゲルマクレンA合成酵素と59%、シロバナニガナ由来グアイアジエン合成酵素)と 59%、ヒマワリ由来ゲルマクレンA合成酵素 3と58%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。
AcTps1dは、1,668 bpのORFを含み、推定555アミノ酸残基、分子量64.2 kDa、及びpI 5.41のタンパク質(AcTPS1d)をコードしていた。GenBank/EMBL/DDBJデータベースに対する相同性検索により、AcTPS1cは既知セスキテルペン合成酵素であるキクニガナ由来ゲルマクレンA合成酵素と59%、シロバナニガナ由来グアイアジエン合成酵素と 59%、ヒマワリ由来ゲルマクレンA合成酵素 3と58%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。
一方、AcTps2は、1,668 bpのORFを含み、推定555アミノ酸残基、分子量64.4 kDa、及びpI 5.11のタンパク質(AcTPS2)をコードしていた。相同性検索により、AcTPS2は既知セスキテルペン合成酵素であるキクニガナ(Cichorium intybus)由来ゲルマクレンA合成酵素(germacrene A synthase)と59%、シロバナニガナ(Ixeris dentata var. albiflora)グアイアジエン合成酵素(guaiadiene synthase)と 59%、ヒマワリ(Helianthus annuus)由来ゲルマクレンA合成酵素 3(germacrene A synthase 3)と58%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。
AcTPS1a、AcTPS1b、AcTPS1c及びAcTPS1dの4者の相同性は、AcTPS1aとAcTPS1bが99.1%、AcTPS1aとAcTPS1cが98.4%、AcTPS1aとAcTPS1dが99.1%、AcTPS1bとAcTPS1cが98.9%、AcTPS1bとAcTPS1dが99.6%、AcTPS1cとAcTPS1dが98.9%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。AcTPS1aとAcTPS1bの違いは5つのアミノ酸置換、すなわち17番目のGlyからSerへの置換(Gly17Ser、以下同様)、Glu131Lys、Thr322Ser、Pro508Ser、Phe516Lysによるものだった。AcTPS1aとAcTPS1cの違いは9つのアミノ酸置換、すなわちSer126Pro、Glu131Lys、Phe174Lys、Thr322Ser、Glu481Val、Pro508Ser、Phe516Lys、Val525Ile、Val543Ileによるものだった。AcTPS1aとAcTPS1dの違いは5つのアミノ酸置換、すなわちGlu131Lys、Met151Thr、Thr322Ser、Pro508Ser、Phe516Lysによるものだった。AcTPS1bとAcTPS1cの違いは6つのアミノ酸置換、すなわちSer17Gly、Ser126Pro、Phe174Lys、Glu481Val、Val525Ile、Val543Ileによるものだった。AcTPS1bとAcTPS1dの違いは2つのアミノ酸置換、すなわちSer17Gly、Met151Thrによるものだった。AcTPS1cとAcTPS1dの違いは6つのアミノ酸置換、すなわちPro126Ser、Met151Thr、Lys174Phe、Val481Glu、Ile525Val、Ile543Valによるものだった。一方、AcTPS1a、AcTPS1b、AcTPS1c及びAcTPS1dの4者とAcTPS2との相同性については、AcTPS1aとAcTPS2が94.1%、AcTPS1bとAcTPS2が94.2%、AcTPS1cとAcTPS2が93.9%、AcTPS1dとAcTPS2が94.2%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。AcTPS1a、AcTPS1b、AcTPS1c、AcTPS1dの四者とAcTPS2との違いは31個のアミノ酸置換、すなわちGln30His、Thr44Ala、Lys50Asn、Phe122Tyr、Leu154Phe、Arg163Lys、His220Tyr、Leu230Ile、Val252Ile、Leu299Val、Ile302Leu、Ser322Thr(AcTPS1aもSer322Thrのアミノ酸置換を有する)、Gln335Glu、Phe367Leu、His368Gln、Ser390Ile、His410Asp、Ile412Val、Gly421Asp、Ser446Ala、Val453Ala、Ser455Arg、Pro456Gln、Lys459Gln、Lys461Arg、Thr465Ile、Ser466Gly、Val519Ala、Val525Ile(AcTPS1cもVal525Ileのアミノ酸置換を有する)、Leu532Phe、Thr533Alaによるものだった。既知セスキテルペン合成酵素との相同性から、AcTPS1a、AcTPS1b、AcTPS1c、AcTPS1dおよびAcTPS2は、被子植物のセスキテルペンおよびジテルペン合成酵素の群であるTPS-aサブファミリー(参照:J. Bohlmann, G. Meyer-Gauen, R. Croteau (1998) Plant terpenoid synthases: molecular biology and phylogenetic analysis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:4126-4133)に属することを確認した。
さらにAcTPS1a、AcTPS1b、AcTPS1c、AcTPS1d及びAcTPS2は、セスキテルペン合成酵素に高度に保存されているRxR、DDxxD、(N/D)Dxx(S/T)xxxE {NSE/DTEモチーフと呼ばれる} というモチーフを含んでいた(図21)。
一方、AcTPS1a、AcTPS1b、AcTPS1c、AcTPS1d及びAcTPS2は、通常の既知セスキテルペン合成酵素とは異なり、色素体輸送(transit)ペプチドを有することが予測された。これら5種のタンパク質とこれらと相同性の高い既知酵素におけるアミノ酸配列の比較(アライメント;alignment)を図21に示した。
【実施例15】
【0052】
(ウド由来の5種類のセスキテルペン合成酵素遺伝子の機能解析)
ウド由来の5種類のセスキテルペン合成酵素遺伝子であるAcTps1aAcTps1bAcTps1cAcTps1d及びAcTps2全長cDNA配列のそれぞれを、これらが挿入されたプラスミドから制限酵素FseI-XhoIで切り出し、大腸菌ベクターpETDuet-1(Novagen社製)のマルチクローニング部位(MCS2)のFseI-XhoI部位に連結して、pET-AcTps1a、pET-AcTps1b、pET-AcTps1c、pET-AcTps1d及びpET-AcTps2を作製した(図22)。プラスミドpET-AcTps1a、pET-AcTps1b、pET-AcTps1c、pET-AcTps1d、pET-AcTps2のうちいずれか1つ、及びプラスミドpAC-Mev/Scidi(非特許文献7)を用いて大腸菌BL21(DE3)の形質転換を行い、得られた組換え大腸菌の培養を行い、培養後の大腸菌の菌体からのセスキテルペンを抽出し、さらにガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)を行った。これらの方法は非特許文献2、3、4、7に記載の通りである。
【0053】
GC-MSを用いた分析の結果、AcTps1を含まないベクターpET21a及びプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株酢酸エチル抽出液のクロマトグラム(コントロール)では、いずれのセスキテルペンの生成も確認されなかったのに対し、プラスミドpET-AcTps1a、pET-AcTps1b、pET-AcTps1c、pET-AcTps1dのいずれか1つ、及びプラスミドpAC-Mev/Scidi を含む大腸菌を用いた実験区では、菌体からの酢酸エチル抽出液中に新規なピークが見られた。マススペクトルの比較により、これらのピーク(図23中のピーク12、13、14及び15)はβ-エレメン(β-elemene)であることを確認した(図23)。
そこで、β-エレメンの標品(AvaChem Scientific社製)と重ね打ちしたところ、GC分析による保持時間が完全に一致した。
以上の結果から、AcTps1aAcTps1bAcTps1c及びAcTps1dがβ-エレメン合成酵素(β-elemene synthase)をコードする遺伝子であることを確認した。
また同様に、AcTps2を含まないベクターpET21aとプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム(コントロール)では、いずれのセスキテルペンの生成も確認されなかったのに対し、プラスミドpET-AcTps2及びプラスミドpAC-Mev/Scidi を含む大腸菌を用いた実験区では、菌体からの酢酸エチル抽出液中に新規なピークが観察された。マススペクトルの比較により、これらのピーク(図24中のピーク16及び17)はα-ネオクロベン(α-neoclovene)、α-フムレン(α-humulene)であると考えられた(図24)。そこで、α-フムレンの標品と重ねうちしたところ、ピーク17のGC分析による保持時間が完全に一致した。
GC分析におけるピーク16のマススペクトルとデータベース中のα-ネオクロベンマススペクトルとの一致度が99%と非常に高かったことから、該ピークはα-ネオクロベンであると推定された。
これにより、AcTps2はα-ネオクロベン/α-フムレン合成酵素(α-neoclovene/α-humulene synthase)をコードする遺伝子であると考えられた。α-ネオクロベン及びα-フムレンの化学構造は図15に示す。
以上の結果より、プラスミドpET-AcTps1a、pET-AcTps1b、pET-AcTps1c、pET-AcTps1dのいずれか1つ、及びプラスミドpAC-Mev/Scidiを導入した大腸菌を用いて、β-エレメンの選択的な生産が、さらに、プラスミドpET-AcTps2とプラスミドpAC-Mev/Scidiを導入した大腸菌を用いて、α-ネオクロベン及びα-フムレンの生産が可能であることを確認した。
【実施例16】
【0054】
(コシアブラ由来のモノテルペン/セスキテルペン合成酵素遺伝子cDNA配列の決定)
コシアブラ(Acanthopanax sciadophylloides)の新芽(図1a)から、RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen社製)を用いて全RNAを抽出した。SMARTer RACE cDNA amplification kit (Takara Bio社製) を用いて、製造元の指示に従い、全RNA 1.0 μgからcDNAを調製した。非特許文献4に記された高等植物のセスキテルペン合成酵素の保存ドメインの配列に基づく縮重オリゴヌクレオチドプライマー対[フォワード:5'-TTYCGAYTIYTIMGRMARCAIGG-3'(配列番号19) 及びリバース:5'-TAIGHRTCAWAIRTRTCRTC-3'(配列番号20)]を用いて、非特許文献4に記載の条件でcDNAを鋳型としたPCRを行い、598 bpの増幅断片を得た。得られた増幅断片をpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)を用いてクローン化し塩基配列を決定した。全長cDNAを単離するために、上述のSMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Takara Bio社製)、オリゴヌクレオチドプライマー[sciad.lina.5race:5'- GCCATTAATCCACCGATGTCTTCTCC-3'(配列番号56) 及びsciad.lina.3race:5'- TTTCCAGGTGGTGGAAGGACTTAGGC-3'(配列番号57)]及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、製造元の指示に従い断片を5'末端および3'末端に向かって伸長させ、cDNA配列を決定した。得られた5'末端配列情報をもとに、新たに合成したオリゴヌクレオチドプライマー[linalool.5-RACE.332:5'-GATGCCTAGCCGTTGCATGGTATCAA -3'(配列番号58)]を用いてさらに5'末端に向かって伸長させ、全長cDNA配列を決定した。
【実施例17】
【0055】
(コシアブラより1種類の全長モノテルペン/セスキテルペン合成酵素遺伝子cDNAの単離と構造解析)
実施例16で得られた全長cDNA配列に特異的なオリゴヌクレオチドプライマー対KS4.Nde-F(5'- AGACAGACATATGGTTTCATATCATAATCCTTTAGAAG -3'(配列番号59)、下線はNdeI認識部位を示す)及びKS4.Kpn-R(5'- GAGGTACGGTACCTTAATACAGGGAACCCTCAAGG -3'(配列番号60)、下線はKpnI認識部位を示す)及びAdvantage2 Polymerase Mix(Clontech社製)を用いて、コシアブラcDNAを鋳型としたPCR(反応組成:製造元の指示に従った;反応条件:変性94℃で2分間、次に、94℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で2分間を5サイクル、次いで94℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で2分間を25サイクル)を行った。得られたcDNAはプラスミドpGEM-T Easy Vector System(Promega社製)によりクローン化し、塩基配列を決定した。
これらのcDNAヌクレオチド配列を配列番号61に、該cDNAによりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号62に示す。また、配列番号61により特定される遺伝子(cDNA)をAscTps3と命名し、AscTps3がコードする配列番号62により特定されるタンパク質(ポリペプチド)をAscTPS3と命名した。
AscTps3は、1,749 bpのオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、推定582アミノ酸残基、分子量67.0 kDa、及びpI 5.67のタンパク質(AscTPS3)をコードしていた。GenBank/EMBL/DDBJデータベースに対する相同性検索により、AscTPS3は既知モノテルペン/セスキテルペン合成酵素であるヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)由来リナロール/ネロリドール合成酵素(linalool/nerolidol synthase)と58%、サルナシ(Actinidia arguta)由来リナロール合成酵素(linalool synthase)と 58%、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)由来葉緑体型ネロリドール合成酵素1(nerolidol synthase 1, chloroplastic-like)と59%のアミノ酸配列一致度(identity)を示した。
既知テルペン合成酵素との相同性から、AscTPS3は、RRx8W モチーフを欠くモノテルペン合成酵素の群であるTPS-gサブファミリーに属することを確認した(参照:N. Dudareva, D. Martin, C. M. Kish, N. Kolosova, N. Gorenstein, J. F?ldt, B. Miller, J. Bohlmann (2003) (E)-β-Ocimene and Myrcene Synthase Genes of Floral Scent Biosynthesis in Snapdragon: Function and Expression of Three Terpene Synthase Genes of a New Terpene Synthase Subfamily. Plant Cell 15:1227-1241)。さらにAscTPS3は、モノテルペン/セスキテルペン合成酵素に高度に保存されているRxR、DDxxD、 (N/D)Dxx(S/T)xxxE {NSE/DTEモチーフと呼ばれる}というモチーフを含んでいた(図25)。
一方、AscTPS3は、通常の既知モノテルペン合成酵素と同様に、色素体輸送(transit)ペプチドを有することが予測された。このタンパク質とこれらと相同性の高い既知酵素におけるアミノ酸配列の比較(アライメント;alignment)を図25に示した。
【実施例18】
【0056】
(コシアブラ由来の1種類のモノテルペン/セスキテルペン合成酵素遺伝子の機能解析)
コシアブラ由来の1種類のモノテルペン/セスキテルペン合成酵素遺伝子AscTps3全長cDNA配列のそれぞれを、これらが挿入されたプラスミドから制限酵素NdeI-KpnIで切り出し、大腸菌ベクターpETDuet-1(Novagen社製)のマルチクローニング部位(MCS2)のNdeI-KpnI部位に連結して、pET-AscTps3プラスミドを作製した(図26)。
プラスミドpET- AscTps3及びプラスミドpAC-Mev/Scidi(非特許文献7)を用いて大腸菌BL21(DE3)の形質転換を行い、得られた組換え大腸菌の培養を行い、培養後の大腸菌の菌体からのモノテルペン/セスキテルペンを抽出し、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)を行った。これらの方法は非特許文献2、3、4、7に記載の通りである。
GC-MSを用いた分析の結果、AscTps3を含まないベクターpET21a及びプラスミドpAC-Mev/Scidiを保持する大腸菌株の酢酸エチル抽出液のクロマトグラム(コントロール)では、いずれのモノテルペン/セスキテルペンの生成も確認されなかったのに対し、培養中にプラスミドpET- AscTps3及びプラスミドpAC-Mev/Scidi を含む大腸菌を用いた実験区では、菌体からの酢酸エチル抽出液中に新規なピークが見られた。マススペクトルの比較により、これらのピーク(図27中のピーク18及び19)はリナロール(linalool)及びネロリドール(nerolidol)であると考えられた(図27)。
そこで、リナロール及びネロリドールの標品(シグマアルドリッチ社製)と重ね打ちしたところ、GC分析による保持時間が完全に一致した。
以上により、AscTps3はリナロール/ネロリドール合成酵素(linalool/nerolidol synthase)をコードする遺伝子であることが判明した。リナロールの化学構造は図15に示されている。
また、以上の結果より、プラスミドpET-AscTps3及びプラスミドpAC-Mev/Scidiを導入した大腸菌を用いて、リナロール及びネロリドールの選択的な生産が可能であることが示された。
【0057】
(総論)
本発明では、β-カリオフィレン合成酵素、ゲルマクレンD合成酵素、β-オイデスモール合成酵素、β-クベベン合成酵素、β-エレメン合成酵素、α-ネオクロベン/α-フムレン合成酵素、及びリナロール/ネロリドール合成酵素の新規遺伝子配列を取得した。さらに、該新規合成酵素は、他の合成酵素とは相同性が低いことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明により、医薬品、農薬、機能性食品、香料など、又はこれらの原料に用いられるβ-カリオフィレン、ゲルマクレンD、β-オイデスモール、β-クベベン、β-エレメン、α-ネオクロベン、α-フムレン、リナロール又はネロリドールを効率的かつ容易に製造することが可能になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)〜 (7)のいずれか1に示す遺伝子;
(1)配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-オイデスモールに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3) 配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-オイデスモールに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号15又は17に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号15又は17に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつファルネシル二リン酸をβ-オイデスモールに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6) 配列番号15又は17に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7) 配列番号15又は17に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子。
【請求項2】
以下の(1)〜(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するβ-オイデスモール合成酵素;
(1)配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-オイデスモールに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3) 配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号16又は18に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-オイデスモールに変換する活性を有するアミノ酸配列。
【請求項3】
以下の(1)〜 (7)のいずれか1に示す遺伝子;
(1)配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-エレメンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3) 配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-エレメンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号46、48、50又は52に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号46、48、50又は52に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつファルネシル二リン酸をβ-エレメンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6) 配列番号46、48、50又は52に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7) 配列番号46、48、50又は52に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子。
【請求項4】
以下の(1)〜(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するβ-エレメン合成酵素;
(1)配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-エレメンに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3) 配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号47、49、51又は53に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-エレメンに変換する活性を有するアミノ酸配列。
【請求項5】
以下の(1)〜 (7)のいずれか1に示す遺伝子;
(1)配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3) 配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号5、26、28、30又は32に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号5、26、28、30又は32に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6) 配列番号5、26、28、30又は32に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7) 配列番号5、26、28、30又は32に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子。
【請求項6】
以下の(1)〜(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するβ-カリオフィレン合成酵素;
(1)配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3) 配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号6、27、29、31又は33に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を有するアミノ酸配列。
【請求項7】
以下の(1)〜 (7)のいずれか1に示す遺伝子;
(1)配列番号8又は10記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号8又は10記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号8又は10に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をゲルマクレンDに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3) 配列番号8又は10記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号8又は10に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をゲルマクレンDに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号7又は9記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号7又は9記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号6に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-カリオフィレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6) 配列番号7又は9記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7) 配列番号7又は9記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子。
【請求項8】
以下の(1)〜(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するゲルマクレンD合成酵素;
(1)配列番号8又は10記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号8又は10記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号8又は10に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をゲルマクレンDに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3) 配列番号8又は10記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号8又は10に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をゲルマクレンDに変換する活性を有するアミノ酸配列。
【請求項9】
以下の(1)〜 (7)のいずれか1に示す遺伝子;
(1)配列番号39又は41記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号39又は41記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号39又は41に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-クベベンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3) 配列番号39又は41記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号39又は41に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-クベベンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号38又は40記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号38又は40記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつファルネシル二リン酸をβ-クベベンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6) 配列番号38又は40記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7) 配列番号38又は40記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子。
【請求項10】
以下の(1)〜(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するβ-クベベン合成酵素;
(1)配列番号39又は41記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号39又は41記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号39又は41に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-クベベンに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3) 配列番号39又は41記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号39又は41に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をβ-クベベンに変換する活性を有するアミノ酸配列。
【請求項11】
以下の(1)〜 (7)のいずれか1に示す遺伝子;
(1)配列番号55記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号55記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号55に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をα-ネオクロベンとα-フムレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3) 配列番号55記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号55に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をα-ネオクロベンとα-フムレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号54記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号54記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつファルネシル二リン酸をα-ネオクロベンとα-フムレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6) 配列番号54記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7) 配列番号54記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子。
【請求項12】
以下の(1)〜(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するα-ネオクロベン/α-フムレン合成酵素;
(1)配列番号55記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号55記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号55に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をα-ネオクロベンとα-フムレンに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3) 配列番号55記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号55に記載のアミノ酸配列と実質的同質のファルネシル二リン酸をα-ネオクロベンとα-フムレンに変換する活性を有するアミノ酸配列。
【請求項13】
以下の(1)〜 (7)のいずれか1に示す遺伝子;
(1)配列番号62記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号62記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号62に記載のアミノ酸配列と実質的同質のゲラニル二リン酸及びファルネシル二リン酸をそれぞれ、リナロールとネロリドールに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3) 配列番号62記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号62に記載のアミノ酸配列と実質的同質のゲラニル二リン酸及びファルネシル二リン酸をそれぞれ、リナロールとネロリドールに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号61記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号61記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつゲラニル二リン酸及びファルネシル二リン酸をそれぞれ、リナロールとネロリドールに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、
(6) 配列番号61記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1〜50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7) 配列番号61記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子。
【請求項14】
以下の(1)〜(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するリナロール/ネロリドール合成酵素;
(1)配列番号62記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号62記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号62に記載のアミノ酸配列と実質的同質のゲラニル二リン酸及びファルネシル二リン酸をそれぞれ、リナロールとネロリドールに変換する活性を有するアミノ酸配列、
(3) 配列番号62記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ配列番号55に記載のアミノ酸配列と実質的同質のゲラニル二リン酸及びファルネシル二リン酸をそれぞれ、リナロールとネロリドールに変換する活性を有するアミノ酸配列。
【請求項15】
請求項1、3、5、7、9、11、13のいずれか1項以上に記載の遺伝子を導入した組換え大腸菌。
【請求項16】
請求項1、3、5、7、9、11、13のいずれか1項以上に記載の遺伝子に加えて、以下の(1)〜(2)の遺伝子を導入した組換え大腸菌;
(1)メバロン酸又はメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群、
(2)イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子。
【請求項17】
メバロン酸又はメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群及びイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子が、ストレプトミセス属CL190株由来の遺伝子及び/又はサッカロミセス・セレビシエ由来の遺伝子である請求項16に記載の組換え大腸菌。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれか1項に記載の組換え大腸菌を、メバロン酸及び/又はメバロノラクトンを含む培地で培養して得られる培養物又は菌体からβ-カリオフィレン、ゲルマクレンD、β-オイデスモール、β-クベベン、β-エレメン、α-ネオクロベン及びα-フムレン、並びに/又は、リナロール及びネロリドールを得ることを特徴とする、セスキテルペンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23−1】
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【図23−2】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2013−63063(P2013−63063A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−186804(P2012−186804)
【出願日】平成24年8月27日(2012.8.27)
【出願人】(511169999)石川県公立大学法人 (12)
【Fターム(参考)】