説明

セトリングタイム測定装置

【課題】評価対象信号をサンプリングすることにより高精度にセトリングタイムを測定する。
【解決手段】制御装置101は、サンプリング回路103を前記評価対象信号107の周期に同期した所定の時点でサンプリングするとともに、予め設定したサンプリング回数に達した後またはホールドコンデンサの出力電圧の変動が所定値以下になった後は、前記サンプリング時点を予め設定した所定時間だけ遅延した時点に再設定し、この再設定した時点でサンプリングを再開するとともに、前記ホールドコンデンサの、前記予め設定したサンプリング回数に達した時点またはホールドコンデンサの出力電圧の変動が所定値以下になった時点における出力電圧の変化の履歴をもとにセトリングタイムを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セトリングタイム測定装置に係り、評価対象信号の変動が所定値以内に収まる時間であるセトリングタイムを精密に測定できるセトリングタイム測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、測定対象である評価対象信号を第1のDACアンプ(D/Aコンバータ+アンプ)に入力するとともに第2のDACアンプに前記評価対象信号とは逆位相の信号を入力し、更に前記第1および第2のDACアンプの出力の和をオシロスコープで測定することによりセトリング特性を測定することが示されている。また、前記第1および第2のDACアンプの出力に時間差を付与することにより測定精度を向上させることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−201150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の技術においては、前述のように、前記第1および第2のDACアンプの出力に時間差を付与することにより、測定精度を向上させることはできる。しかし、付与する前記時間差を波形の形を精密に維持したままコントロールすることは困難であり、このため、測定精度の向上には限度がある。
【0005】
本発明はこれらの問題点に鑑みてなされたもので、セトリングタイムの測定誤差を抑制して、高精度に測定可能なセトリングタイム測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するため、次のような手段を採用した。
【0007】
評価対象信号の変動が所定値以内に収まる時間であるセトリングタイムを測定するセトリングタイム測定装置であって、前記評価対象信号をサンプリングするサンプリング回路と、該サンプリング回路の出力を平滑するホールドコンデンサと、該ホールドコンデンサの出力を測定する測定器と、前記サンプリング回路および測定器を制御する制御装置を備え、前記制御装置は、前記サンプリング回路を前記評価対象信号の周期に同期した所定の時点でサンプリングするとともに、予め設定したサンプリング回数に達した後またはホールドコンデンサの出力電圧の変動が所定値以下になった後は、前記サンプリング時点を予め設定した所定時間だけ遅延した時点に再設定し、この再設定した時点でサンプリングを再開するとともに、前記ホールドコンデンサの、前記予め設定したサンプリング回数に達した時点またはホールドコンデンサの出力電圧の変動が所定値以下になった時点における出力電圧の変化の履歴をもとにセトリングタイムを算出する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、以上の構成を備えるため、セトリングタイムの測定誤差を抑制して、高精度にセトリングタイムを測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】セトリングタイム測定装置を示す図である。
【図2】サンプリング回路の詳細を示す図である。
【図3】タイミング発生器の詳細を説明する図である。
【図4】第2の実施形態を説明する図である。
【図5】サンプリング回路の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。図1は、セトリングタイム測定装置を示す図である。図において、101は制御装置、102は例えばDACアンプ等の被測定物、103はサンプリング回路であり、被測定物102から出力される評価対象信号107をサンプリングする。104はデジタルマルチメータ等の直流電圧測定器であり、サンプリング回路の出力信号108を高精度に測定する。
【0011】
101aはパルス発生回路、101bはタイミング発生器であり、パルス発生回路が発生したパルを分周してタイミング信号106を生成する。101cは測定装置全体を制御する制御器、101dは測定結果を表示する表示器である。
【0012】
タイミング発生器101dは被測定物102を制御して、評価対象信号107を所定の周期で発生させ、発生した評価対象信号をサンプリング回路103に供給する。測定器104はサンプリング回路でサンプリングされた評価対象信号を測定する。制御器101cは測定結果(DC電圧)を取り込む。また、取り込んだ結果を基にセトリングタイムを演算する。
【0013】
図2は、サンプリング回路103の詳細を示す図である。パルス発生回路201は極性の異なるサンプリングパルスを生成し、生成された正側および負側のパルスがDCカットコンデンサ203a、202bを介してパルストランス203の1次巻線203aに入力される。
【0014】
パルストランス203は出力側に2つの2次巻線203b、203cがあり、2次巻線203a、203bは電流制限抵抗204a、204bを介してスイッチング回路205にサンプリングパルスを入力する。211はバイアス電源であり、サンプリングパルスがOFFのときスイッチング回路205がOFFするようにバイアスをかけてある。すなわちスイッチング回路を構成するダイオード205a、205b、205c、205dに逆バイアスを印加している。
【0015】
電流制限抵抗204a、204b間には、スイッチング回路を構成するダイオード205a、205b、205c、205dを接続し、ダイオード205a、205cの接続点は評価対象信号入力端212に接続する。また、ダイオード205b、205dの接続点はホールドコンデンサ207に接続し、オペアンプ208に入力される。オペアンプは1倍増幅のボルテージフォロアである。
【0016】
ここで、スイッチング回路205、パルストランス203およびバイアス電源211はフローティング状態にある。このため回路の動作点は評価対象信号212のレベルに依存するが、安定動作のために高抵抗213a、213bを介してオペアンプ208の出力に接続しておく。
【0017】
図3はタイミング発生器101bの詳細を説明する図である。図3において、301は発振器、302は発振器301の出力を分周するカウンタ、303はサンプリングパルス生成部であり、カウンタ302の出力をもとに評価対象信号に同期したサンプリングパルスを生成する。304は被測定物制御信号生成部であり、被測定物を制御して所定のタイミングで評価対象信号107を繰り返し生成させる。305は測定タイミング生成部であり、サンプリング回路でサンプリングされた評価対象信号を、測定器104により測定するタイミングを制御する。
【0018】
図5は、サンプリング回路103の動作を説明する図である。図5(a)に示すように評価対象信号107は制御装置101によって制御された繰り返しパルスである。また、タイミング発生器101bから出力するタイミングパルスにしたがって生成されるサンプリングパルス302,303,304は評価対象信号107と同期している。
【0019】
前記タイミングパルスはパルス発生回路201に入力され、パルス発生回路201の出力はパルストランス203に入力される。
【0020】
その結果、図5(b)に示すように、評価対象信号107に対して特定のポジション(例えば、評価対象信号の立ち上がり期間の一部である時点t1ないしt2期間)を第1ポジションサンプリングパルス302により連続して複数回(例えば20000回)サンプリングすることができる。サンプリング回数を十分に確保することにより、すなわちサンプリング回路の出力を測定する測定器の出力が安定したときの電圧を測定することにより、評価対象信号を前記ポジションでサンプリングした場合における直流電圧を取得することができる。
【0021】
次に、図5(c)に示すように評価対象信号107をサンプリングするポジションを変更してサンプリングを行う。例えば、評価対象信号の立ち上がり期間の一部である時点t2ないしt3期間を第2ポジションサンプリングパルス303により連続して複数回(例えば20000回)サンプリングする。これにより、評価対象信号を前記ポジションでサンプリングした場合における直流電圧を取得することができる。
【0022】
次に、図5(d)に示すように評価対象信号107をサンプリングするポジションを変更してサンプリングを行う。例えば、評価対象信号の立ち上がり期間の一部である時点t3ないしt4期間を第3ポジションサンプリングパルス304により連続して複数回サンプリングする。これにより、評価対象信号を前記ポジションでサンプリングした場合における直流電圧を取得することができる。
【0023】
次に、このようにして取得した直流電圧の値(サンプリング結果直流電圧305)をもとに評価対象信号のセトリングタイムを演算する。
【0024】
前述のように、直流電圧として読み取り可能な時間(例えば20000回のサンプリングを行う時間)が経過した後、次のポジションに移動する。第1ポジションサンプリング302は評価対象信号107の立上り開始点に同期させ、第2ポジションサンプリング303は1ポジション分シフトする。シフト量は期待する時間分解能に依存する。本実施形態では5nsである。
【0025】
この動作を評価対象信号107の1サイクル分繰り返し、ポジション位置を横軸にして記録したサンプリング結果直流電圧108をグラフ化するとパルス波形が再生される。この再生波形をもとにセトリングタイムを計算することができる。
【0026】
図4は、第2の実施形態を説明する図である。図4において206はスイッチング回路205の後段に配置したスイッチング回路である。スイッチング回路205の後段に更にスイッチング回路を接続することにより、スイッチング回路205を構成するダイオードに形成された浮遊容量を介してホールドコンデンサ207に伝送されるフィードスルーノイズの影響を小さくすることができる。
【0027】
すなわち、スイッチング回路205とスイッチング回路206との接続点にホールドコンデンサ214を追加して、入力に加わる大振幅の入力信号により発生するフィードスルーノイズを一旦ホールドコンデンサ214で受け止め、さらにサンプリング回路206で再サンプリングを行いホールドコンデンサ207にサンプリング結果をホールドすることにより大幅にフィードスルーノイズの影響を小さくできる。
【0028】
フィードスルーノイズの大きさはスイッチング回路205を構成する4つのダイオードの接合容量とホールドコンデンサ207の容量比で発生する。入力信号の振幅をVi、前記ダイオードの接合容量の合計をCi、ホールドコンデンサ207の容量をChとするとノイズ電圧Vnは以下の式の通りである。
【0029】
Vn=Vi×Ci/(Ch+Ci)
ここで、Ciを1pF、Chを1nF、とするとVnはViの約1000分の1であり12bit精度である。これ以上の精度を要求する場合ホールドコンデンサの容量Chを大きくしていく必要があり、この場合はサンプリング回路のセトリングスピードが低下する。したがってセトリングスピードを維持しつつフィードスルーノイズを小さくすることが要求される場合においては本実施形態の回路は有効である。この例の場合においては同じ定数で20bit精度が確保できる。
【0030】
以上説明したように、本実施形態によれば、セトリングタイム測定装置を、評価対象信号をサンプリングするサンプリング回路と、サンプリング回路の出力をホールドするコンデンサの出力を計測する測定器で構成し、評価対象信号の複数サイクルの波形を複数のサンプリングポジションでサンプリングし、その結果を複数サイクル(例えば20000回)に渡って積分することにより、評価対象信号を高精度に再生することができる。そして、この再生波形をもちいて、セトリングタイムを高精度に測定することができる。また、サンプリング回路を構成するスイッチング回路を2段に構成することにより、サンプリング回路を構成するダイオードの浮遊容量により発生するノイズを抑制することができる。これにより、セトリング測定誤差を抑制し、高精度なセトリングタイムの評価が可能となる。
【符号の説明】
【0031】
101 制御装置
102 被測定物
103 サンプリング回路
104 測定器
201 パルス発生回路
202a、202b DCカットコンデンサ
203 パルストランス
204a、204b 電流制限抵抗
205 第1スイッチング回路
206 第2スイッチング回路
207 ホールドコンデンサ
208 オペアンプ
209 測定器
211 DC電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象信号の変動が所定値以内に収まる時間であるセトリングタイムを測定するセトリングタイム測定装置であって、
前記評価対象信号をサンプリングするサンプリング回路と、該サンプリング回路の出力を平滑するホールドコンデンサと、該ホールドコンデンサの出力を測定する測定器と、前記サンプリング回路および測定器を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記サンプリング回路を前記評価対象信号の周期に同期した所定の時点でサンプリングするとともに、予め設定したサンプリング回数に達した後またはホールドコンデンサの出力電圧の変動が所定値以下になった後は、前記サンプリング時点を予め設定した所定時間だけ遅延した時点に再設定し、この再設定した時点でサンプリングを再開するとともに、前記ホールドコンデンサの、前記予め設定したサンプリング回数に達した時点またはホールドコンデンサの出力電圧の変動が所定値以下になった時点における出力電圧の変化の履歴をもとにセトリングタイムを算出することを特徴とするセトリングタイム測定装置。
【請求項2】
請求項1記載のセトリングタイム測定装置において、
サンプリング回路は、サンプリングパルスが供給される1次巻線と、第1および第2の2次巻線を備えたパルストランスと、
前記第1および第2の2次巻線間に直列に接続した第1および第2のダイオードと、第1および第2の2次巻線間に直列に接続した第3および第4のダイオードからなるスイッチング回路と、
前記第1ないし第4のダイオードに前記第1および第2の2次巻線を介して逆バイアスを印加する直流電源を備え、
前記第1および第2のダイオードの接続点を入力端子、前記第3および第4のダイオードの接続点を出力端子とすることを特徴とするセトリングタイム測定装置。
【請求項3】
請求項2記載のセトリングタイム測定装置において、
前記第3および第4のダイオードの接続点と出力端子の間に、前記第1および第2の2次巻線間に直列に接続した第5および第6のダイオードと、第1および第2の2次巻線間に直列に接続した第7および第8のダイオードからなるスイッチング回路を備えたことを特徴とするセトリングタイム測定装置
【請求項4】
評価対象信号を該評価対象信号の周期に同期した所定の時点でサンプリングをくりかえし、予め設定したサンプリング回数に達した時点以降またはホールドコンデンサの出力電圧の変動が所定値以下になった時点以降は、前記サンプリング時点を予め設定した所定時間だけ遅延した時点に再設定し、この再設定した時点でサンプリングを再開する操作を繰り返すとともに、前記ホールドコンデンサの、前記予め設定したサンプリング回数に達した時点またはホールドコンデンサの出力電圧の変動が所定値以下になった時点における出力電圧の変化の履歴をもとにセトリングタイムを算出することを特徴とするセトリングタイム測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−282084(P2010−282084A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136294(P2009−136294)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000233295)日立情報通信エンジニアリング株式会社 (195)
【Fターム(参考)】