説明

セメントカプセル製品及びその製造方法、アンカー筋の定着方法

【課題】工場から使用現場に至る輸送環境や保管状態の影響を極力無くし、輸送や保管されるセメントカプセルの吸湿と破損を確実に防止することができるセメントカプセル製品を提供する。
【解決手段】複数本のセメントカプセル13が並列して密接するように袋体12内に設けられ、袋体12内のエアを減圧して袋体12内にセメントカプセル13が密封され、セメントカプセル13を密封する袋体12が形状と大きさが適合する箱11内に収容されるセメントカプセル製品10であり、袋体12のシール部122は箱11の開放側に設け、シール部122が直下で切断された状態で、袋体12の延ばした上縁124が箱11の側壁112より高い位置となるように構成すると好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカー筋定着用のセメントカプセルを収容するセメントカプセル製品及びその製造方法、セメントカプセル製品を用いるアンカー筋の定着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート躯体にアンカー筋を定着する際に、紙など透水性材料で形成されるカプセル本体内にセメントや急結材を所定割合で配合して詰めたセメントカプセルが用いられている(特許文献1参照)。このセメントカプセルは、現場で所定時間水に浸漬された後、コンクリート躯体の削孔内に挿入され、そこにアンカー筋を叩き込んで破壊される。破壊されたセメントカプセル内のセメントは削孔内に充填されて硬化し、これによりアンカー筋が定着される。
【0003】
このセメントカプセルは、非常に吸水性が高く、湿気を帯びやすいと共に、削孔内ですぐに崩れるように脆いものである。そのため、図5に示すように、ビニールシート2の上に、複数本のセメントカプセル1が縦横に並列して密接するように設けられ、これらのセメントカプセル1がビニールシート2で巻くようにして包装され、包装したビニールシート2の所要箇所にテープ3を貼って固定される。更に、セメントカプセル1を包装したビニールシート2は、段ボールの箱4内に収容されて梱包され、この状態でセメントカプセル1を出荷・搬送して現場で使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−30036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようにビニールシート2でセメントカプセル1を包装して箱4内に梱包する構成では、工場から使用現場に至る輸送環境や保管状態によっては、セメントカプセル1が吸湿して使用不能になることがある。また、包装状態のビニールシート2内でセメントカプセル1が移動し易くなっていると共に、包装状態のビニールシート2の側面と底面を支持して箱4に収容して梱包するため、箱4を大きめにする必要性から、そのビニールシート2自体も箱4内で移動し易くなっている。そのため、セメントカプセル1が破損して使用不能になることがあった。また、作業現場においてセメントカプセル1の保管に要するスペースも箱が大きくなれば大きくなり、その使用時には、作業現場が足場上等であれば、大きめの箱と浸漬水の容器を並べて置く必要があるため邪魔で、こうした作業現場の省スペース化も求められていた。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、工場から使用現場に至る輸送環境や保管状態の影響を極力無くし、輸送や保管されるセメントカプセルの吸湿と破損を確実に防止することができる省スペース型のセメントカプセル製品及びその製造方法、セメントカプセル製品を用いるアンカー筋の定着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセメントカプセル製品は、複数本のセメントカプセルが並列して密接するように袋体内に設けられ、前記袋体内のエアを減圧して前記袋体内に前記セメントカプセルが密封され、前記セメントカプセルを密封する前記袋体が形状と大きさが適合する箱内に収容されることを特徴とする。
この構成によれば、セメントカプセルを包む袋体内を減圧して密封することにより、セメントカプセルに対する工場から使用現場に至る輸送環境や保管状態の影響を極力無くし、輸送や保管されるセメントカプセルの吸湿を確実に防止することができ、セメントカプセルの使用可能な期間を延ばすことができる。また、従来のビニールシートで包装する構成では、セメントカプセルが袋体内で1本1本個別に動くことができたが、袋体内の減圧、密封により、袋体内の複数本のセメントカプセルを一体化することができ、輸送中及び保管中に、強度と耐久性を増してセメントカプセルの破損を確実に防止することができる。また、袋体としてビニールシートのような側面のだぶつきを無くし、且つ袋体内の減圧によりセメントカプセル同士の隙間を無くすことができ、箱を小さくして梱包費、輸送費を削減することができる。また、セメントカプセルの大小を問わずに適用することが可能であり、汎用性に優れる。また、現場で袋体内に水を入れて浸漬することができ、別途に配置するバケツ等に水を入れて浸漬する必要がなく、作業性を高めることができると共に現場での作業スペースも小さくすることができる。
【0008】
本発明のセメントカプセル製品は、前記袋体のシール部が前記箱の開放側に設けられ、前記シール部が直下で切断された状態で、前記袋体の延ばした上縁が前記箱の側壁より高い位置となるように構成されていることを特徴とする。
この構成によれば、外側にこぼれないように袋体内に水を入れて簡単に浸漬する状態にすることができ、作業性を一層高めることができる。
【0009】
本発明のセメントカプセルの製造方法は、箱内に形状と大きさが適合する袋体を収容する工程と、前記袋体内に複数本のセメントカプセルを並列して密接するように設ける工程と、前記袋体の開口から前記袋体内のエアを減圧吸引すると共に、前記開口をヒートシールして、前記複数本のセメントカプセルを並列し密接した状態で前記前記袋体内に密封する工程とを備えることを特徴とする。
この構成によれば、セメントカプセルを包む袋体内を減圧して密封することにより、セメントカプセルに対する工場から使用現場に至る輸送環境や保管状態の影響を極力無くし、輸送や保管されるセメントカプセルの吸湿を確実に防止することができ、セメントカプセルの使用可能な期間を延ばすことができる。また、従来のビニールシートで包装する構成では、セメントカプセルが袋体内で1本1本個別に動くことができたが、袋体内の減圧、密封により、袋体内の複数本のセメントカプセルを一体化することができ、輸送中及び保管中に、強度と耐久性を増してセメントカプセルの破損を確実に防止することができる。また、袋体としてビニールシートのような側面のだぶつきを無くし、且つ袋体内の減圧によりセメントカプセル同士の隙間を無くすことができ、箱を小さくして梱包費、輸送費、保管や使用に必要なスペースを削減することができる。また、セメントカプセルの大小を問わずに適用することが可能であり、汎用性に優れる。また、現場で袋体内に水を入れて浸漬することができ、別途に配置するバケツ等に水を入れて浸漬する必要がなく、作業性を高めることができると共に現場での作業スペースも小さくすることができる。また、これらの工程により、所定配置のセメントカプセルを袋体内に簡単に密封して所定配置で箱に収容することができる。
【0010】
本発明のアンカー筋の定着方法は、本発明のセメントカプセル製品の前記袋体を前記箱の開放側で切断する工程と、前記箱に収容されている前記袋体内に前記切断した開口から水を入れ、前記袋体内の前記セメントカプセルを所定時間浸漬する工程と、前記浸漬した前記セメントカプセルをコンクリート躯体の削孔内に挿入して、前記削孔にアンカー筋を打設する工程とを備えることを特徴とする。
この構成によれば、使用時に機能上要求される親水性や脆さが確実に維持されているコンパクトなセメントカプセルを浸漬水容器を別途用いる必要なくアンカー筋の定着に用いることができ、必要なアンカー筋の定着強度を作業性良く確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セメントカプセルに対する工場から使用現場に至る輸送環境や保管状態の影響を極力無くし、輸送や保管されるセメントカプセルの吸湿と破損を確実に防止することができ、保管や使用に必要なスペースを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による実施形態のセメントカプセル製品の斜視図。
【図2】(a)は箱に収容された袋体内へのセメントカプセルの収納を示す斜視説明図、(b)は袋体内のエアの減圧吸引とヒートシールを示す斜視説明図。
【図3】(a)は箱に収容された袋体内への水入れを示す斜視説明図、(b)は袋体内で水に浸漬されたセメントカプセルの取り出しを示す斜視説明図。
【図4】セメントカプセル製品のセメントカプセルによるアンカー筋の取付手順を示す断面説明図。
【図5】(a)は従来の並列配置されたセメントカプセルのビニールシートによる包装を示す斜視説明図、(b)は包装したビニールシートへのテープの貼着を示す斜視説明図、(c)はセメントカプセルを包装したビニールシートの箱への収容を示す斜視説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態のセメントカプセル製品及びその製造方法〕
次に、本発明による実施形態のセメントカプセル製品とその製造方法について説明する。
【0014】
本実施形態のセメントカプセル製品10は、図1に示すように、上側が蓋部111で開閉可能になっているダンボール箱等の直方体形の箱11と、箱11と形状と大きさが適合し、箱11内に収容されるビニール袋等の袋体12と、袋体12内に並列して密接するように設けられている複数本のセメントカプセル13とから構成される。
【0015】
袋体12は、図2に示すように、箱11と大きさが適合する直方体形の袋状であり、上側が開口121になっている状態から、上側の開口121をヒートシールしてシール部122を形成して構成される。シール部122は、蓋部111を開けて開放される箱11の開放側、図示例では上側に配置して設けられる。また、シール部122の直下で袋体12を切断して開口123を形成した状態における、袋体12の延ばした状態の上縁124は、箱11の側壁112より高い位置となるように構成されており、後述するセメントカプセル13の使用時に外側にこぼれないように袋体12内に水を入れて簡単に浸漬する状態にすることを可能にしている。
【0016】
袋体12内のエアは減圧されており、複数本のセメントカプセル13は、前述の並列、密接の配置の状態のままで全体として一体化し、袋体12内に密封されている。そして、このセメントカプセル13を密封した状態の袋体12が箱11内に収容され、蓋部111を閉じてテープ14を貼着して閉状態の蓋部111が固定される。
【0017】
セメントカプセル13は、和紙や不織布等の親水性材料で形成される筒状のカプセル本体で、無機系のプレミックスドライモルタル等の定着材を包んで構成され、水に所定時間浸漬して吸水させると、所定時間経過後に硬化するようになっている。複数本のセメントカプセル13は、図示例では5行5列の行列配置で並列して設けられている。
【0018】
本実施形態のセメントカプセル製品10を製造する際、換言すればセメントカプセル13を梱包する際には、図2(a)に示すように、蓋部111を開いた状態の直方体形の箱11内に、形状と大きさが適合する直方体形の袋体12を隅部を合わせるようにして収容する。袋体12の大きさは、箱11の内部の大きさとほぼ同一で、袋体12と箱11の内部との間に隙間が殆どできない程度である。また、袋体12の開口121は箱11の開放側である上側に配置する。その後、袋体12内に、複数本のセメントカプセル13を密接するように並列に配置して収容し、複数行、複数段で配設する。
【0019】
次いで、図2(b)に示すように、袋体12の開口121をヒートシールしてシール部122を形成していくと共に、開口121の一部を残した部分から吸気チューブ21等を介して袋体12内のエアを減圧吸引し、その減圧吸引後に開口121の残った部分をヒートシールして、開口121を連続的に閉塞するシール部122の形成を完了する。この減圧吸引により、複数行、複数段で並列に配置されたセメントカプセル13は、互いに隙間がないように密接して全体として一体化した状態で袋体12内に密封される。これらの工程により、所定配置のセメントカプセル13を袋体12内に簡単に密封して所定配置で箱11に収容することができる。
【0020】
本実施形態のセメントカプセル製品10及びその製造方法によれば、セメントカプセル13を包む袋体12内を減圧して密封することにより、セメントカプセル13に対する工場から使用現場に至る輸送環境や保管状態の影響を極力無くし、輸送や保管されるセメントカプセル13の吸湿を確実に防止することができる。また、従来のビニールシートでセメントカプセルを包装する構成では、セメントカプセルが袋体内で1本1本個別に動くことができたが、袋体12内の減圧、密封により、袋体12内の複数本のセメントカプセル13を一体化することができ、輸送中及び保管中に、強度と耐久性を増してセメントカプセル13の破損を確実に防止することができる。
【0021】
また、袋体12としてビニールシートのような側面のだぶつきを無くし、且つ袋体12内の減圧によりセメントカプセル13同士の隙間を無くすことができ、箱11を小さくして梱包費、輸送費、使用や保管に必要なスペースを削減することができる。また、セメントカプセル13の大小を問わずに適用することが可能であり、汎用性に優れる。また、現場で袋体12内に水を入れ、そのままセメントカプセル13を浸漬することができ、別途に配置するバケツ等に水を入れて浸漬する必要がなく、作業性を高めることができると共に現場での作業スペースも小さくすることができる。
【0022】
〔実施形態のアンカー筋の定着方法〕
次に、上記実施形態のセメントカプセル製品10を用いたアンカー筋の定着方法について説明する。
【0023】
先ず、図3(a)に示すように、セメントカプセル製品10の箱11の蓋部111を開放し、その開放側において、箱11の側壁112の上端と略平行に延びるシール部122の直下でシール部122に沿うように袋体12をカッター等で切断し、開口123を形成して袋体12を立ち上げる。この際、切断の目印となるシール部122が箱11の開放面に位置することにより、適切な開口123を簡単且つ確実に形成することができる。
【0024】
袋体12の立ち上げにより、袋体12の上縁124は箱11の側壁112の上端よりも高い位置に位置する。そして、箱11に収容されているままの袋体12内に、切断した開口123から水Wを入れ、袋体12内のセメントカプセル13を所定時間水Wに浸漬する。
【0025】
その後、図3(b)に示すように、水Wへの浸漬で吸水したセメントカプセル13を袋体12内から取り出して使用する。即ち、図4に示すように、コンクリート躯体31の所定位置に墨出しを行って穿孔ドリル等で長孔状の削孔32を形成し、この削孔32内に浸漬して取り出したセメントカプセル13を挿入する。そして、セメントカプセル13が挿入されている削孔32内にアンカー筋41を打設し、アンカー筋41でセメントカプセル13を破断して定着材131を流出させ、削孔32とアンカー筋41との間の空隙に定着材131を充填する。充填した定着材131は所定時間の経過に伴って硬化する。
【0026】
削孔32に定着したアンカー筋41のボルト部411等の一部は、削孔32から外部に突出し、そこにナット等の必要な取付物42が取り付けられる。
【0027】
本実施形態のアンカー筋の定着方法によれば、使用時に機能上要求される親水性や脆さが確実に維持されているセメントカプセル13を浸漬水容器を別途用いる必要なくアンカー筋41の定着に用いることができ、必要なアンカー筋41の定着強度を作業性良く確実に得ることができる。
【0028】
〔実施形態の変形例等〕
本明細書開示の発明は、各発明や実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含むものである。そして、下記変形例も包含する。
【0029】
例えば袋体12内に収容されるセメントカプセル13の2本以上の複数本など適宜である。また、箱11や袋体12の形状や構成は本発明の趣旨の範囲内で適宜であり、例えば円筒形の箱11にこの形状と大きさに適合する袋体12を位置を合わせて収容配置し、この袋体12内に全体として略円柱状になるように複数本のセメントカプセル13を並列して設ける構成等とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、例えばアンカー筋定着用のセメントカプセルを保管、輸送する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1…セメントカプセル 2…ビニールシート 3…テープ 4…箱 10…セメントカプセル製品 11…箱 111…蓋部 112…側壁 12…袋体 121、123…開口 122…シール部 124…上縁 13…セメントカプセル 131…定着材 14…テープ 21…吸気チューブ 31…コンクリート躯体 32…削孔 41…アンカー筋 411…ボルト部 42…取付物 W…水



【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のセメントカプセルが並列して密接するように袋体内に設けられ、
前記袋体内のエアを減圧して前記袋体内に前記セメントカプセルが密封され、
前記セメントカプセルを密封する前記袋体が形状と大きさが適合する箱内に収容されることを特徴とするセメントカプセル製品。
【請求項2】
前記袋体のシール部が前記箱の開放側に設けられ、
前記シール部が直下で切断された状態で、前記袋体の延ばした上縁が前記箱の側壁より高い位置となるように構成されていることを特徴とする請求項1記載のセメントカプセル製品。
【請求項3】
箱内に形状と大きさが適合する袋体を収容する工程と、
前記袋体内に複数本のセメントカプセルを並列して密接するように設ける工程と、
前記袋体の開口から前記袋体内のエアを減圧吸引すると共に、前記開口をヒートシールして、前記複数本のセメントカプセルを並列し密接した状態で前記前記袋体内に密封する工程と、
を備えることを特徴とするセメントカプセル製品の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載のセメントカプセル製品の前記袋体を前記箱の開放側で切断する工程と、
前記箱に収容されている前記袋体内に前記切断した開口から水を入れ、前記袋体内の前記セメントカプセルを所定時間浸漬する工程と、
前記浸漬した前記セメントカプセルをコンクリート躯体の削孔内に挿入して、前記削孔にアンカー筋を打設する工程と、
を備えることを特徴とするアンカー筋の定着方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−136235(P2012−136235A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288524(P2010−288524)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【Fターム(参考)】