説明

セメントキルン抽気ガスの処理方法

【課題】塩素バイパスダストの発生量を低減し、塩素バイパス設備での塩素除去効率を上昇させるとともに、塩素バイパスダストの塩素分、カルシウム分の含有率を安定化させ、セメントへ添加した場合のセメント品質の不安定化等を防止する。
【解決手段】セメントキルン2の窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部Gを冷却しながら抽気し、抽気ガスG1から粗粉D1を分離し、微粉D2を含む抽気ガスG2から微粉を捕集するにあたり、抽気ガスG1に同伴するダスト(D1+D2)の濃度、又は抽気ガスG1から粗粉D1を分離するサイクロン(分級機)4の分級点を調整することにより、微粉D2の塩素濃度を10質量%以上、CaO濃度を35質量%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントキルン抽気ガスの処理方法に関し、特に、塩素を除去するため、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より抽気した燃焼ガスを処理する方法に関する。
【0002】
従来、セメント製造設備におけるプレヒータの閉塞等の問題を引き起こす原因となる塩素を除去する塩素バイパス設備が用いられている。近年、廃棄物のセメント原料化又は燃料化によるリサイクルが推進され、廃棄物の処理量が増加するに従い、セメントキルンに持ち込まれる塩素等の揮発成分の量も増加し、塩素バイパスダストの発生量の増加や、塩素バイパス設備での塩素除去効率の低下等の問題が発生している。
【0003】
また、回収した塩素バイパスダストを処理する際にも、該ダストの塩素分、カルシウム分(CaO)の含有率が安定しないため、セメントへ添加した場合に、セメント品質の不安定化や、ダスト水洗処理時の設備能力の不足等の問題も生じている。
【0004】
一方、特許文献1には、セメントキルン抽気ガスから回収した微粉ダストのハンドリング性を高めるため、プレヒータの最下部又はセメントキルンの窯尻部の排ガスの一部を抽気する際に、抽気ガスの温度を950℃〜1150℃の範囲に保持し、この抽気ガスを塩素化合物の融点以下に冷却した後、固気分離手段において分級粒度を15μm〜30μmの範囲に調整し、それ以下の微粉ダストを抽気ガスから捕集・除去することにより、回収する微粉ダストの量を50〜150g/m3Nの範囲に保持しつつ、捕集された微粉ダストの塩素濃度を5〜20%の範囲に調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−89994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、塩素バイパスダストの発生量を低減し、塩素バイパス設備での塩素除去効率を上昇させるとともに、塩素バイパスダストの塩素分、CaOの含有率を安定化させ、セメントへ添加した場合のセメント品質の不安定化等を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、セメントキルン抽気ガスの処理方法であって、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、該抽気ガスから粗粉を分離し、微粉を含む抽気ガスから該微粉を捕集するにあたり、前記冷却しながら抽気されたガスに同伴するダストの濃度、又は前記冷却しながら抽気されたガスから粗粉を分離する分級機の分級点を調整することにより、前記微粉の塩素濃度を10質量%以上、CaO濃度を35質量%以下とすることを特徴とする。
【0008】
そして、本発明によれば、前記ダストの濃度、又は分級機の分級点を調整することにより、塩素バイパスダストの発生量を低減し、塩素バイパス設備での塩素除去効率を上昇させることができるとともに、微粉(塩素バイパスダスト)の塩素分、CaOの含有率を安定させることができる。そのため、微粉をセメント添加した場合にセメント品質の不安定化を防止することができ、ダスト水洗処理時に設備能力が不足したり、過大な設備の設置を回避することができる。
【0009】
上記セメントキルン抽気ガスの処理方法において、前記冷却しながら抽気されたガス中のダスト濃度を120g/m3N以下とすることができる。これにより、微粉の塩素濃度を10質量%以上とすることができる。
【0010】
また、前記微粉の10μm通過分を測定し、前記冷却しながら抽気されたガスから粗粉を分離する分級機の分級点を調整することにより、微粉の塩素濃度及びCaO濃度を調整することができる。微粉の10μm通過分と微粉の塩素濃度及びCaO濃度とは相関があるため、10μm通過分を測定して分級機の分級点を調整することで微粉の塩素濃度及びCaO濃度を効率よく調整することができる。
【0011】
さらに、前記微粉の10μm通過分を80質量%以上とすることで、塩素濃度を10質量%以上、CaO濃度を35質量%以下とすることができる。
【0012】
上記セメントキルン抽気ガスの処理方法において、前記セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より抽気されるガス量を、該キルン排ガス流路を流れる燃焼ガスの0.1容量%以上30容量%以下とすることができ、抽気されるガス量が増加しても、微粉の塩素濃度及びカルシウム(CaO)濃度を好ましい範囲に維持することができる。
【0013】
上記セメントキルン抽気ガスの処理方法において、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気する抽気装置の冷却風量、又は/及び該抽気装置の抽気口の上下に設置した邪魔板の挿入長さを調整することにより、前記冷却しながら抽気されたガス中のダスト濃度を120g/m3N以下とすることができる。
【0014】
また、本発明は、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気する抽気装置であって、抽気されたガス中のダスト濃度を測定するダスト濃度測定器と、該ダスト濃度測定器によって測定されるダスト濃度を120g/m3N以下に調整するダスト濃度調整手段とを備えることを特徴とする。本発明によれば、抽気ガス中のダスト濃度を120g/m3N以下に調整することで、後段で回収される微粉(塩素バイパスダスト)の塩素分、CaOの含有率を安定させることができ、微粉の塩素濃度を10質量%以上とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、塩素バイパスダストの発生量を低減し、塩素バイパス設備での塩素除去効率を上昇させるとともに、塩素バイパスダストの塩素分、カルシウム分の含有率を安定化させ、セメントへ添加した場合のセメント品質の不安定化等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明にかかるセメントキルン抽気ガスの処理方法を適用した塩素バイパス設備を示す概略図である。
【図2】図1の塩素バイパス設備を構成するプローブの抽気口の上下に設置された邪魔板を示す概略図である。
【図3】塩素バイパス設備のプローブ(抽気装置)の入口ダスト濃度と、塩素バイパスダストの塩素濃度の関係を示すグラフである。
【図4】塩素バイパスダストの10μm通過分と塩素濃度の関係を示すグラフである。
【図5】塩素バイパスダストの10μm通過分とCaO濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明にかかるセメントキルン抽気ガスの処理方法を適用した塩素バイパス設備を示し、この塩素バイパス設備1は、セメントキルン2の窯尻から最下段サイクロン(不図示)に至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部Gを冷却しながら抽気するプローブ3と、プローブ3で抽気した抽気ガスG1に含まれるダストの粗粉D1を分離する分級機としてのサイクロン4と、サイクロン4から排出された微粉D2を含む抽気ガスG2を冷却する熱交換器5と、熱交換器5からの抽気ガスG3を集塵するバグフィルタ6と、熱交換器5及びバグフィルタ6から排出されたダスト(D3+D4)を貯留するダストタンク7と、バグフィルタ6からの排ガスG4を大気へ放出する排気ファン8等で構成される。
【0019】
上記構成により、セメントキルン2の燃焼ガスの一部をプローブ3で冷却しながら抽気すると、塩素化合物の微結晶が生成され、抽気ガスG1に含まれるダストの微粉側に塩素が偏在しているため、サイクロン4で分級した粗粉D1をセメントキルン系に戻す。一方、サイクロン4によって分離された微粉D2を含む抽気ガスG2は、熱交換器5に導入されて抽気ガスG2と媒体との熱交換が行われる。熱交換によって冷却された抽気ガスG3は、バグフィルタ6に導入され、バグフィルタ6において抽気ガスG3に含まれるダストD4が回収される。バグフィルタ6で回収されたダストD4は、熱交換器5から排出されたダストD3とともにダストタンク7に一旦貯留された後、塩素バイパスダストD5としてセメント粉砕ミル系に添加する。
【0020】
上記塩素バイパス設備1の全体構成及びその動作は、従来の塩素バイパス設備と同様であるが、本発明は、上記構成において、抽気ガスG1に同伴するダスト(粗粉D1+微粉D2)の濃度、又はサイクロン4の分級点を調整することにより、微粉D2の塩素濃度を10質量%以上、CaO濃度を35質量%以下とすることを特徴とする。
【0021】
抽気ガスG1に同伴するダスト(粗粉D1+微粉D2)の濃度の調整は、抽気ガスG1中のダスト濃度を測定する装置、例えば光散乱方式ダスト濃度計や光透過式ダスト濃度計を設置し、連続で検出するとともに、その測定結果より、ダスト濃度が高い場合には、プローブ3の冷却風量を増加したり、図2に示すように、プローブ3の抽気口の上下に設置され、プローブ3の抽気口付近のセメントキルン2からプレヒータへの上昇気流の流れに変化をつけることによって、燃焼ガスの一部Gに同伴して持ち込まれるダストの量を減少させる邪魔板3a、3bの挿入長さL等を調整することで行う。また、上記ダスト濃度の調整操作にあたって、制御装置を導入し、自動的に所定のダスト濃度を得ることのできるシステムとして稼働することもできる。
【0022】
また、サイクロン4の分級点の調整は、抽気ガスG2に同伴するダスト(微粉D2)の粒度分布を連続測定できる装置を設置したり、微粉D2又はダストD4を採取して粒度分布を測定することにより、サイクロン4の入口に設けた可変絞りの開度を調節したり、一次空気量を調節し、所定のサイクロン入口流速となるようにすることで行う。さらに、その粒度の調整操作にあたって制御装置を導入し、自動的に所定の分級点を得ることのできるシステムとして稼働することもできる。
【0023】
尚、抽気ガスG1に同伴するダスト(粗粉D1+微粉D2)の濃度は、プローブ3とサイクロン4との間のダクトに配置された測定部10で測定し、微粉D2の10μm通過分は、サイクロン4と熱交換器5との間のダクトに配置された測定部11又はバグフィルタ6で集塵されたダストの排出部に配置された測定部12等で測定する。
【0024】
上述のように抽気ガスG1に同伴するダストの濃度を調整することにより、プローブ3の入口ダスト濃度と、微粉D2の塩素濃度は、図2に示すような関係となり、プローブ3の入口ダスト濃度が低くなる程、微粉D2の塩素濃度が高くなり、プローブ3の入口ダスト濃度を120g/m3N以下とすることにより、微粉D2の塩素濃度を10質量%以上とすることができる。
【0025】
また、図3に示すように、微粉D2の10μm通過分と塩素濃度とは相関があり、10μm通過分が多くなる程塩素濃度が高くなり、サイクロン4の分級点を調整して微粉の10μm通過分を80質量%以上とすることで、塩素濃度を10質量%以上とすることができる。
【0026】
さらに、図4に示すように、微粉D2の10μm通過分とCaO濃度とは相関があり、10μm通過分が多くなる程CaO濃度が低くなり、サイクロン4の分級点を調整して微粉の10μm通過分を80質量%以上とすることで、CaO濃度を35質量%以下とすることができる。
【0027】
上述のように、抽気ガスG1に同伴するダスト(粗粉D1+微粉D2)の濃度又はサイクロン4の分級点を調整することにより、塩素バイパスダストD5の発生量を低減し、塩素バイパス設備1での塩素除去効率を上昇させることができるため、セメントキルン2の窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より抽気されるガス量を、該キルン排ガス流路を流れる燃焼ガスの30容量%程度に増加させることも可能となる。
【符号の説明】
【0028】
1 塩素バイパス設備
2 セメントキルン
3 プローブ
4 サイクロン
5 熱交換器
6 バグフィルタ
7 ダストタンク
8 排気ファン
10〜12 測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、該抽気ガスから粗粉を分離し、微粉を含む抽気ガスから該微粉を捕集するにあたり、
前記冷却しながら抽気されたガスに同伴するダストの濃度、又は前記冷却しながら抽気されたガスから粗粉を分離する分級機の分級点を調整することにより、前記微粉の塩素濃度を10質量%以上、CaO濃度を35質量%以下とすることを特徴とするセメントキルン抽気ガスの処理方法。
【請求項2】
前記冷却しながら抽気されたガス中のダスト濃度を120g/m3N以下とすることを特徴とする請求項1に記載のセメントキルン抽気ガスの処理方法。
【請求項3】
前記微粉の10μm通過分を測定し、前記冷却しながら抽気されたガスから粗粉を分離する分級機の分級点を調整することを特徴とする請求項1又は2に記載のセメントキルン抽気ガスの処理方法。
【請求項4】
前記微粉の10μm通過分を80質量%以上とすることで、塩素濃度を10質量%以上、CaO濃度を35質量%以下とすることを特徴とする請求項3に記載のセメントキルン抽気ガスの処理方法。
【請求項5】
前記セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より抽気されるガス量を、該キルン排ガス流路を流れる燃焼ガスの0.1容量%以上30容量%以下とすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のセメントキルン抽気ガスの処理方法。
【請求項6】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気する抽気装置に導入する冷却風量、又は/及び該抽気装置の抽気口の上下に設置した邪魔板の挿入長さを調整することにより、前記冷却しながら抽気されたガス中のダスト濃度を120g/m3N以下とすることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のセメントキルン抽気ガスの処理方法。
【請求項7】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気する抽気装置であって、
抽気されたガス中のダスト濃度を測定するダスト濃度測定器と、
該ダスト濃度測定器によって測定されるダスト濃度を120g/m3N以下に調整するダスト濃度調整手段とを備えることを特徴とする抽気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−41223(P2012−41223A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182701(P2010−182701)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)