説明

セメントクリンカの製造方法

【課題】脱硫スラグをセメントクリンカの原料として用いたセメントクリンカの製造方法、石灰石の使用量を低減できミネラライザーとなる物質を用いなくても安定した低温焼成が可能なセメントクリンカの製造方法を提供する。
【解決手段】石灰石、粘土、ケイ石、鉄原料を原料としたセメントクリンカの製造方法であって、前記原料に加えて脱硫スラグを原料の一部として用い、前記脱硫スラグの原単位が30〜400kg/tであることを特徴とするセメントクリンカの製造方法。脱硫スラグは、カルシウム分をCaO換算で40重量%以上、硫黄分を0.50〜10重量%、フッ素分を0.03〜2.0重量%を含むものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硫スラグを原料の一部として用いたセメントクリンカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、セメントは焼成物であるセメントクリンカに石膏を添加し粉砕して製造され、セメントクリンカは石灰石、粘土、ケイ石、鉄原料と言った原料をセメントキルン中で1450℃程度の高温で焼成して製造される。焼成燃料として石炭、重油、廃プラ等の廃棄物が用いられるが、高温焼成のため大量の燃料が消費され、燃料の燃焼に伴い大量のCOが発生する。また、石灰石を主原料としているため、これの800℃付近での熱分解(脱炭酸)に伴い大量のCOも発生する。
【0003】
このようなセメント製造技術に特有なCO発生機構がある中で、昨今の地球温暖化問題、環境負荷低減等の観点から、セメント業界でもCOの発生量を削減する方法について種々検討してきている。例えば、石灰石はセメントクリンカ中のカルシウム分と関係しているため、セメントクリンカ中のCS量を少なくした低熱ポルトランドセメントが開発されているが、結果的には、CSの含有量が多い早強ポルトランドセメントと比べ、石灰石の使用量(原単位)はあまり変わらない。また、原料(セメント焼成原料)にCaF等のミネラライザーを添加し、焼成温度を下げることも検討されている。しかし、ミネラライザーの品質、安定供給、効果の安定性といった面で不安がある。
【0004】
一方、製鋼プロセスの溶銑予備処理で発生する産業副産物である脱硫スラグについても、高炉スラグ等の他のスラグと同様、その再利用について種々検討されてきている。しかし、硫黄やフッ素を含有するため、セメント分野での再利用については高炉スラグほど進んでいない。
【0005】
セメント分野への再利用については、例えば、特許文献1に、フライアッシュや高炉水砕スラグ等による混合セメントを用いたセメント組成物におけるアルカリ刺激剤としての利用が記載されている。また、特許文献2には、特定の脱硫スラグと水硬性物質とからなる六価クロム低減材が記載されている。
【0006】
セメントクリンカの原料への利用は、提案はされているものの、脱硫スラグを用いたセメントクリンカの製造については、ほとんど検討されていない。特許文献3には、セメント原料として好適に用いることができるようにするための溶銑予備処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−306359号公報
【特許文献2】特許第3877583号公報
【特許文献3】特開2001-262213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、脱硫スラグの再利用については種々検討されているものの、セメント分野への再利用についてはあまり検討されておらず、特に大量処理が可能なセメントクリンカの原料としての利用についてはほとんど検討されていない。特許文献3の発明技術により得られる脱硫スラグは、セメント原料用として特別に製造した特殊なものであるからして、一般の脱硫スラグを用いたセメントクリンカの製造技術については、依然として明らかにはなっていない。
【0009】
また、上記の通り、セメントクリンカの製造においては、CO発生量の削減の観点から、石灰石の使用量(原単位)の低減、低温焼成の推進といったことを図る必要がある。
【0010】
本願発明は、これらの課題の解決を図ったものであり、脱硫スラグをセメントクリンカの原料として用いたセメントクリンカの製造方法、石灰石の使用量を低減できミネラライザーとなる物質を用いなくても安定した低温焼成が可能なセメントクリンカの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の請求項1に係るセメントクリンカの製造方法は、「石灰石、粘土、ケイ石、鉄原料を原料としたセメントクリンカの製造方法であって、前記原料に加えて脱硫スラグを原料の一部として用い、前記脱硫スラグの原単位が30〜400kg/tであることを特徴とするセメントクリンカの製造方法」である。
【0012】
セメントクリンカの種類は、市販セメントに用いられているセメントクリンカであれば特に限定されず、好適には、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントに用いられているセメントクリンカである。
【0013】
本発明のセメントクリンカ製造方法は原料に特徴を有し、従来の石灰石、粘土、ケイ石、鉄原料に加え、脱硫スラグを原料の一部として用いる。脱硫スラグを用いることによって、石灰石の使用量を低減できると共に、ミネラライザーを用いなくても低温焼成が可能となる。
【0014】
原料中、脱硫スラグの原単位は30〜400kg/tである。30kg/t未満では、石灰石使用量の低減、ミネラライザーを用いない低温焼成が十分図れない。また、400kg/tを超えると、焼成し難くなったり排ガス中のSOxが増えたりする。セメントクリンカの製造装置(焼成装置)、製造方法(焼成方法)は従来通りである。
【0015】
本願の請求項2に係るセメントクリンカの製造方法は、「前記セメントクリンカ中のCS量が70〜80%であることを特徴とする請求項1に記載のセメントクリンカの製造方法」である。
【0016】
本発明者らは、先に、セメントクリンカ中のCSの含有量が70%を超える高活性セメントクリンカを発明した(特願2010−216942)が、本発明のセメントクリンカの製造方法をこの高活性セメントクリカの製造に適用することは好ましい。CSの含有量が70%を超える高CSのセメントクリンカを得ようとすると石灰石の使用量を多くし高温焼成しないとならないが、脱硫スラグを用いることにより石灰石の使用量を低減でき低温焼成もできるので、本発明の効果が顕著となる。CSの含有量が80%を超えるものは、上記脱硫スラグの原単位を満たし難くなるので好ましくない。
【0017】
本願の請求項3に係るセメントクリンカの製造方法は、「前記脱硫スラグは、カルシウム分をCaO換算で40重量%以上、硫黄分を0.50〜10重量%、フッ素分を0.03〜2.0重量%を含むものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のセメントクリンカの製造方法」である。
【0018】
脱硫スラグはカルシウム分を多く含むため石灰石の代替となるが、石灰石の低減効果を得るためには、カルシウム分をCaO換算で40重量%以上含む脱硫スラグを用いるのが好ましい。また、脱硫スラグの特徴の一つとして多量の硫黄分含有があるが、硫黄分の含有量は0.50〜10重量%が好ましい。0.50重量%未満のものでは脱硫スラグを多量に用いないとミネラライザーとしての効果が得られ難く、多量に用いると原料調合がし難くなる。
【0019】
また、10重量%を超える含有量のものを用いると混和量を少なくせざるを得ず、そうすると石灰石の代替としての効果が小さくなる。また、脱硫スラグはフッ素分も含むが、フッ素分を0.03〜2.0重量%を含むものを用いるのが好ましい。0.03重量%未満のものではミネラライザーとしての役目が不十分となり易い。2.0重量%を超えるものではセメントキルン中の焼成レンガやセメントクリンカの品質に悪影響を及ぼす可能性がある。
【発明の効果】
【0020】
本発明のセメントクリンカの製造方法によれば、原料(焼成原料)に用いる石灰石の量を低減できる。また、ミネラライザーを用いなくても従来の焼成温度より低い温度でセメントクリンカを焼成できるため燃料の使用量を低減できる。これらの低減により、COの発生量を削減できる。必ずしもミネラライザーを用いる必要はないので、その分のコスト削減、ミネラライザーの品質、安定供給、効果の安定性といった面で不安の解消、その他のミネラライザーを単独で用いることによる悪影響の解消も図れる。また、脱硫スラグを大量処理できるので、廃棄処分する量を削減できる。
【0021】
以上のように、種々の観点で環境負荷低減に貢献した形でセメントクリンカを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を一つの実施形態例に沿って、より詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0023】
まず、本発明で用いる脱硫スラグについて説明する。
[脱硫スラグ]
高炉から出銑された溶銑には、鋼の品質に悪影響を及ぼす硫黄分が高濃度で含まれているため、脱硫剤を用いて脱硫処理が行われる。脱硫剤には種々あるが、安価であることから石灰を主成分とするCaO系脱硫剤(CaO−CaF)が多く用いられる。この脱硫処理により得られるスラグが脱硫スラグ(CaO系脱硫スラグ)であり、カルシウム分を多く含む他、硫黄分やシリカ分やアルミナ分や鉄分を含み、微量のフッ素分も含む。
【0024】
次に、本発明のセメントクリンカの製造方法について説明する。
[セメントクリンカの製造]
【0025】
(1)原料の調合
本発明の特徴はセメントクリンカの原料にあり、従来の石灰石、粘土、ケイ石、鉄原料に加え、上記脱硫スラグを用いる。各原料は、製造するセメントクリンカの種類(鉱物組成、化学組成)に基づき配合設計され、従来のセメントクリンカ製造における原料調合工程(各原料の計量、原料ミルでの混合粉砕、ブレンディングサイロでの混合等)により調合される。脱硫スラグはカルシウム分を多く含むので石灰石の代替として再利用する。また、鉄分、シリカ分、アルミナ分も含むので、粘土、ケイ石、鉄原料の各量も減らす方向で調整される。
【0026】
脱硫スラグは、前記理由により原単位が30〜400kg/tの範囲で加えられ他の原料と混合される。また、前記理由によりカルシウム分をCaO換算で40重量%以上、硫黄分を0.50〜10重量%、フッ素分を0.03〜2.0重量%を含むものが好ましい。
【0027】
本発明では焼成は低温焼成であるが、そのための従来のようなミネラライザー(鉱化剤、融剤)となる物質(CaF、NaF、MgF、NaSiF、MgSiF、BaF、CaSO、CaSO・2HO等)の添加は必ずしも必要ない。脱硫スラグ中に含まれる硫黄分とフッ素分がミネラライザーの役目を果たすからである。
【0028】
本発明のセメントクリンカの製造方法は、前記の通り、セメントクリンカ中のCSの含有量が70%を超える高活性セメントクリンカ(特願2010−216942参照)の製造に好適である。CS>70%とCSが多くCSの少ない高活性セメントクリンカが焼成し易くなる。
【0029】
(2)クリンカ焼成
調合されたセメントクリンカの原料(調合原料)は、焼成装置に送られクリンカ焼成される。焼成装置は、従来のセメントクリンカ焼成装置(セメントキルン、プレヒータ等)でよく、焼成方法も従来通りである。焼成温度は1240〜1410℃が好ましく、従来より100〜200℃低い低温焼成にできる。これによって石炭等の燃料の使用量を減らせるので、COの発生量を抑制できる。クリンカ焼成されたセメントクリンカは、従来通り冷却され粗砕される。
【0030】
(3)セメントクリンカ
本発明の製造方法で製造できるセメントクリンカの種類は特に限定されず、セメントクリンカ中のC3S量が30〜50%の低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、50〜70%の普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント等の種々のセメントクリンカである。前記の通り、中でもセメントクリンカ中のCSの含有量が70%を超える高活性セメントクリンカ(特願2010−216942参照)、特に70〜80%の高活性セメントクリンカの製造に本発明の製造方法を用いることは好ましい。高活性セメントクリンカは、高活性セメントの製造に用いられるセメントクリンカであって、ボーグ式での計算値による鉱物組成が、CS>70%、CS<5%となるものである。
【0031】
(4)セメントクリンカの試製
本発明の効果を確認するために、電気炉によりクリンカ焼成を行い、各種セメントクリンカを試製した。
【0032】
1)使用原料
石灰石、粘土、ケイ石、鉄原料は従来からセメント製造に用いられている工業原料を使用した。脱硫スラグは、カルシウム分、硫黄分、フッ素分の異なる3種類のものを用いた。表1に化学成分とその割合(wt%)を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
2)原料調合
各試製セメントクリンカにおける各原料の配合(原単位)を表2に示す。試製1、試製5、試製9、試製13、試製17は脱硫スラグを含まない比較品であり、これら以外は本発明の実施品である。調合は、100℃で乾燥した各原料を乳鉢で混合して行った。石灰石、粘土、ケイ石、鉄原料は予めディスクミルで粉砕したものを用いた。なお、表2中のCS量は、ボーグ式で計算した試製セメントクリンカ中の割合(%)を示す。
【0035】
添加する脱硫スラグの量が多いほど、石灰石と粘土の使用量を大きく減らせることがわかる。
【0036】
3)クリンカ焼成
各調合原料を粒径30mm程度の大きさにペレット化し、このペレットを電気炉に入れ昇温速度10℃/minで昇温して1200〜1450℃の範囲の最大温度で5時間保持して焼成した。得られた試製セメントクリンカは、電気炉から取出した後室内に放置して急冷し、その後、250rpmボールミルで75μm篩が全通となるように粉砕した。粉砕した各試製セメントクリンカの遊離石灰量を測定して、遊離石灰量が1%となる温度を求め、それを最適焼成温度とした。最適焼成温度を表2に、得られた試製セメントクリンカの主要化学成分の割合を表3に、これに基づく主要鉱物組成の割合を表4に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
上記表2より、脱硫スラグの量(原単位)が増えるほど、最適焼成温度は下がることがわかる。
【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
[セメントクリンカの性能]
上記各試製セメントクリンカの性能を確認するために、試製1〜12のセメントクリンカに二水石膏をSO換算で2.2重量%となるように添加して混合粉砕し、ブレーン値3300cm/g程度の試製セメントを各々作成した。試製13〜20については二水石膏をSO換算で2.2重量%となるように混合粉砕して、ブレーン値4500cm/g程度の試製セメントを作成した。作成した試製セメントは、JISモルタルによる圧縮強度試験をJIS R 5201に準じて行った。材令3日、7日、28日での試験結果を表5に示す。
【0042】
【表5】

【0043】
上表からわかるように、脱硫スラグをセメントクリンカの原料(調合原料)に用い従来より100〜200℃低い温度でクリンカ焼成(低温焼成)しても、各々同程度のCS量の従来品(試製1、試製5、試製9、試製13、試製17)と比べ、遜色ない強度発現となる。
【0044】
本発明のセメントクリンカの製造方法は、従来、処分に困っていた脱硫スラグの大量処理が図れると共に、CS量が70〜80%の高活性セメントクリンカを安定して得られるようにした点で、その意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石灰石、粘土、ケイ石、鉄原料を原料としたセメントクリンカの製造方法であって、前記原料に加えて脱硫スラグを原料の一部として用い、前記脱硫スラグの原単位が30〜400kg/tであることを特徴とするセメントクリンカの製造方法。
【請求項2】
前記セメントクリンカ中のCS量が70〜80%であることを特徴とする請求項1に記載のセメントクリンカの製造方法。
【請求項3】
前記脱硫スラグは、カルシウム分をCaO換算で40重量%以上、硫黄分を0.50〜10重量%、フッ素分を0.03〜2.0重量%を含むものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のセメントクリンカの製造方法。

【公開番号】特開2012−197197(P2012−197197A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62040(P2011−62040)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(592037907)株式会社デイ・シイ (36)