説明

セメントコンクリートの中性化促進方法

【課題】 十分な中性化を低コストでかつ短時間に行うことができるセメントコンクリートの中性化促進方法を提供する。
【解決手段】 セメント中のカルシウム分と化学反応してカルシウム塩に変化する物質(例えば、陰イオン系界面活性剤)を用いて、セメントコンクリートからカルシウム分を除去する。例えば、陰イオン系界面活性剤水溶液中にセメントコンクリートのリサイクル材(骨材)を浸漬してリサイクル材表面のセメントペーストを除去する。また、陰イオン系界面活性剤水溶液中に漁礁用のセメントコンクリートを浸漬して漁礁用セメントコンクリートを中性化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントコンクリートの中性化(劣化)を促進する方法、特に、例えば、セメントコンクリートのリサイクルやセメントコンクリートの漁礁作りなどに好適なセメントコンクリートの中性化促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、限られた資源の有効利用の観点から、各種材料のリサイクルへの関心が非常に高まっている。セメントコンクリートのリサイクルもその一つである。
【0003】
セメントコンクリートのリサイクルで特に問題となる点は、骨材の表面にセメントペーストが除去できずに残ってしまうことである。骨材の表面にセメントペーストが残存すると、セメントの吸水率が大きくなり、これを使用したコンクリートは強度が小さくなる。そこで、従来は、骨材間をすり合わせることにより、骨材の表面に付着しているセメントペーストを剥ぎ取る(除去する)ようにしている。
【0004】
また、セメントコンクリートの漁礁は、表面のアルカリ分が溶出するのに2〜3年かかるため、海に投入してから数年後に、藻や貝類が付着し始める。これは、セメントコンクリート中の無機物や有機物が溶出し中性化するのに2〜3年かかることを意味している。特に、セメント中のシリカ(Si)やアルミニウム(Al)、カリウム(K)、鉄(Fe)などの金属、およびセメント中の添加剤などの有機物が溶出する。これにより藻や貝類が付着しづらくなっている。これに対する対策は、特に講じられていないのが現状である。
【0005】
しかし、上記先行技術は、文献公知発明に係るものではないため、記載すべき先行技術文献情報はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、セメントコンクリートのリサイクルにおいて、骨材間をすり合わせて骨材表面のセメントペーストを剥ぎ取る作業は、電気代などに多大のコストがかかるのみならず、十分にセメントペーストを剥ぎ取ることができないという問題がある。
【0007】
また、セメントコンクリートの漁礁作りにおいては、海に投入してから数年後に藻や貝類が付着し始めることに対して、現状では何らの対策も講じられていない。もちろん、その間は、海に投入されたセメントコンクリートは漁礁として機能していない状態にあり、資源の有効利用の観点からは問題がある。
【0008】
これらは、いずれも、限られた資源の有効利用の観点からは看過できない問題であり、今日、有効な対策を講ずることが求められている。
【0009】
この点、本発明者は、後で詳述するように、今まであまり解明されていなかったセメントコンクリートの脱カルシウム化およびアルコール生成について鋭意検討を重ねた結果、その原因とメカニズムを究明するに至った。そして、得られた知見を基に、その応用技術として、セメントコンクリートの中性化(劣化)を促進する方法を考案し、この方法がセメントコンクリートのリサイクル(セメントペーストの除去)やセメントコンクリートの漁礁作りに適していることに考え至ったのである。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、例えば、セメントコンクリートのリサイクルやセメントコンクリートの漁礁作りなどに好適な、十分な中性化(劣化)を低コストでかつ短時間に行うことができるセメントコンクリートの中性化促進方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のセメントコンクリートの中性化促進方法は、セメント中のカルシウム分と化学反応してカルシウム塩に変化する物質を用いて、セメントコンクリートからカルシウム分を除去する、ようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、セメントコンクリートに対して、十分な中性化(劣化)を低コストでかつ短時間に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
まず、本明細書で使用する用語を説明しておく。
【0015】
「セメント」とは、無機質の膠着材で、水硬性セメントと気硬性セメントに大別される。水硬性セメントとしては、ケイ酸カルシウムを主成分とするポルトランドセメントが最も一般的で、化学組成は、各元素の酸化物として、SiO20〜25%、Al4〜6%、Fe2〜4%、CaO 62〜66%、MgO 1〜2%、SO1.5〜3.5%である。通常、セメントと言えば、このポルトランドセメントを指すことが多い。また、セメントには、用途に応じて性質(強度や耐久性など)を改善するために、各種の混和材(混合材とも呼ばれる)を混ぜたものがある。これは、普通セメントに対して混合セメントと呼ばれる。
【0016】
「コンクリート」とは、セメント、砂、砂利または砕石を適当な割合で混ぜ水と練り合わせて硬化させたものである。コンクリートには、性能改善のために、しばしば、減水剤、AE(空気連行)剤、発泡剤、防凍剤など、各種の混和材が少量添加される。
【0017】
以下では、建造物や舗装などを含むセメントコンクリート構造物に最も一般的に使用されるポルトランドセメントコンクリートを例にとって説明する。ここでは、簡単化のため、「ポルトランドセメントコンクリート」を、単に「セメントコンクリート」または「コンクリート」と呼ぶことにする。
【0018】
次いで、本発明の原理となる新しい知見について詳細に説明する。
【0019】
本発明者は、他の研究者と共に(以下「本発明者ら」という)、鋭意研究の結果、環境ホルモンであるフタル酸エステル類が自動車のタイヤから出て、セメントコンクリートの中に呼吸により浸透し、内部の高アルカリ中でエステルの加水分解が生じ、エステルのカルシウム塩(脱カルシウム化)やシックハウスの原因の一種のアルコールが生成されることを見出した。
【0020】
これは、長年の間エンジニアの頭を悩ませてきた、なぜアルコールが脱カルシウム化したコンクリート中に存在するのか、脱カルシウム化したコンクリート中のアルコールはどこから来るのか、コンクリートの急速脱カルシウムの原因は何か、大気汚染の考え得る主原因は何か、という問いに答えるものである。
【0021】
具体的には、本発明者らは、自動車タイヤの成分であった、空気中に浮遊しているジ−2(エチルヘキシル)フタレート(DEHP)が、コンクリート中で加水分解され、コンクリート中でDEHPから2−エチル−1−ヘキサノール(2E1H、アルコール)が生成され、コンクリートの脱カルシウム化を引き起こしたことを発見した。
【0022】
以下では、脱カルシウム化したコンクリート中の複数種のアルコールの存在、および、コンクリート中のフタル酸エステルと水酸化カルシウムの間の化学反応について説明する。また、13C−NMR(核磁気共鳴分析)およびGC−Mass(ガスクロマトグラフィ質量分析)を用いてコンクリート中のDEHPの加水分解のメカニズムについても明らかにする。
【0023】
DEHP、ジ−n−ブチルフタレート(DBP)、ジ−オクチルフタレート(DOP)、2E1Hなどのフタル酸エステルやアルコールは、環境ホルモンや、シックビル症候群(SBS)の原因化学物質である。これらは人間やコンクリート構造物に対して有害である。今日、大気汚染の原因の一部は、コンクリート中のこれら有機物成分であると考えられている。
【0024】
すなわち、建物から放出されるホルムアルデヒドその他の揮発性有機化合物(VOC)と関係がある症状は、シックハウス症候群(SHS)と呼ばれ、SHSには、シックビルディング症候群(SBS)や多種化学物質過敏症(MCS)が含まれると考えられている。
【0025】
本発明者ら、ポルトランドセメントコンクリートが、自動車タイヤの可塑剤であるDEHPのアルカリ加水分解に起因して2E1Hを放出することを発見した。このとき、DEHPは、空気中からセメントコンクリートに浸透し、加水分解によって脱カルシウム化をもたらす。
【0026】
最近、日本では、新築または改装された建物の屋内汚染物質が健康の関心事項になっている。2E1Hは、欧米ではポリ塩化ビニルの裏張りを持つ市販の家具またはカーペットから放出される屋内汚染物質として認知されており、μg/mの濃度域で過敏な個人に急性の症状をもたらす可能性があると考えられている。実際、建物の占有者には、中枢神経系、呼吸系、および粘膜刺激に関する症状に苦しんでいる者がいる。
【0027】
また、23〜33年間屋外で空気にさらされた脱カルシウム化したコンクリートの試料から、ガスクロマトグラフィ質量分析(GC−Mass)を用いて、2E1HおよびDEHPの化学成分が観察された。今や日本中のどこでも、空気中のDEHP(38〜790mg/m)を検出することができる。これは、2E1Hが、強アルカリ(pH=12)コンクリートにおいてDEHPから生成され、コンクリートから放出されたことを示唆している。
【0028】
本発明者らは、コンクリートに作用する自動車の影響を調査するために、非常に交通が激しい高速道路の構造物を観察することから始めた。その結果、本発明者らは、DEHPやDBPなどのフタル酸エステルが、日本国内40箇所で採取したすべての脱カルシウム化したコンクリート試料(脱カルシウム最大深さ:15cm/24年)のH−核磁気共鳴(H−NMR)スペクトルに存在することを発見した。
【0029】
脱カルシウム化したコンクリートの標本B(当時の組成:水/セメント=40.5%、ポルトランドセメント:360kg/m、スランプ:6cm)を、1日当たり40000台の交通量をほこる高速道路の中央分離帯から採取した。この高速道路は、33年前に大阪市で建設されたものである。この高速道路コンクリート標本Bに、フェノールフタレイン液(エタノール:99.9%、フェノールフタレイン:0.1%)を吹き付けたところ、ピンク色にならなかった。これは、当該コンクリート標本のpHが12から10.0以下に低下していた(コンクリートの脱カルシウム化)ことを意味する。なお、脱カルシウム化したコンクリートの標本Bは、砕石や砂を除いたセメントペーストが主体となるように、粒径0.074mm未満の粉末に粉砕した。
【0030】
また、本研究のため、脱カルシウム化したコンクリートの標本Bに加えて、ビチューメン(ストレートアスファルト:透過度(penetration grade)80/100)、ディーゼル排気微粒子(DEP)、タイヤ(夏タイヤ)、および全浮遊物質(TSM)の試料を採取した。ここで、DEPの試料は、つくばにある(財)日本自動車研究所のダイリューショントンネル(堀場製、DLT−24150W)によって採取した。TSMの試料は、1998年7月の8日間、ハイボリュームサンプラ(柴田科学製、10121/min)を用いて、札幌のメインストリートから約1km離れた北海道大学の6階建ビルの屋上で採取した。
【0031】
高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)にかけるため、各試料を、ベンゼン−メタノール溶液(体積比:1:1)に溶解した後、ノルマルヘキサンに再度溶解して可溶性の化合物を得た。そして、DEP、ビチューメン、タイヤ、脱カルシウム化したコンクリートの試料B、およびTSMに対する最後の抽出から得た物質(油成分)を、HPLC(日本分光製、内径10mm、長さ250mmのカラム、クロロホルム溶液の速度:5.0ml/min)によって、飽和炭化水素、単環芳香族化合物、二環芳香族化合物、および極性化合物に分類した。極性化合物以外の各化合物は、屈折率(RI)検出器およびUV検出器を用いて収集し、極性化合物は、クロロホルムによって採取した。HPLCによって分類された極性化合物の試料は、ガスクロマトグラフィ質量分析(GC−Mass)法(内径0.32mm、長さ30mのカラム、カラム温度:50〜280℃)によって特徴付けた。
【0032】
表1は、TSM、タイヤ、ビチューメン、脱カルシウム化したコンクリート(B)、およびDEPの各試料に対する、HPLCによって分類・特定された極性化合物の主な化学成分を示している。表1によれば、脱カルシウム化したコンクリートの試料Bは、ある種のフタル酸エステル(DBP、DEHP、DOP、TPD)、アミド(パルミトレイン酸アミド:C1529CONH、パルミチン酸アミド:C1531CONH、オレイン酸アミド:C1733CONH、ステアリン酸アミド:C1735CONH)、およびパラフィン成分を含んでいる。例えば、図1に示すように、脱カルシウム化したコンクリート(B)中の極性化合物のスペクトル(図1(A)参照)は、自動車タイヤのスペクトル(図1(B)参照)と驚くほど類似している。
【0033】
【表1】

【0034】
空気中の水分はコンクリートの中に浸透するはずであり、本発明者らは、物理的な呼吸作用によって空気中の水分が確かにコンクリートの中に浸透し水蒸気または液体の水としてコンクリートの内部に残ることを発見した。温度の変化により、コンクリートの表面と内部との間で温度の差や遅れが生じ、この呼吸作用を生み出す。これは、呼吸作用によって、すり減ったタイヤゴムの超微粒子やその他空気中の物質が、表1に示すように、コンクリートの中に捕捉されることを意味する。
【0035】
また、脱カルシウム粉末状コンクリート(B)の試料中のアルコール成分を分析するために、GC−Mass試験も行った。このとき、アルコール成分は、室温で30分間、超音波装置によってメタノール溶液から抽出した。DEHP、DBP、2−メチルプロパン酸、2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンチル(エステル部分を持つアルコール)、2−メチルプロパン酸、1−イソプロピル−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル(エステル部分を持つアルコール)、および2E1H(アルコール)は、TPDおよび/またはDEHPから分解されたものであり、脱カルシウム化した試料Bの中には見つかったが、未劣化コンクリートA(水/セメント=41%、スランプ:13cm、セメント:18.8%、粉砕石:43%、砂:31.1%、ポルトランドセメント)の中には見つからなかった。これは、エステル部分を持つアルコールがTPDから生成されたことを示唆している。
【0036】
TPD(0.05g、10000ppm)を室温で、未劣化コンクリートAの粉末試料(5g)に加えた場合には、TPDから生成される、2−メチルプロパン酸、2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンチル、および、2−メチルプロパン酸、1−イソプロピル−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピルが、GC−Massを用いて混合物中にも見つかった。また、DEHP、DBP、またはDOP(おのおの、0.05g、10000ppm)を室温で、未劣化コンクリートA(5g)の粉末試料にそれぞれ加えた場合には、DEHP、DBP、またはDOPからそれぞれ生成される、2E1H、ブタノール、またはオクタノールのアルコール類が、GC−Massを用いて混合物中にも見つかった。
【0037】
試料中のフタル酸エステルのカルシウム塩を分析するために、CP/MAS13C−NMR(BRUKER MSL300、共鳴周波数:75.47MHz、スキャン数:20000)分析を行った。この試験のために、脱カルシウム化したコンクリート(B)の粉末試料を調製した。図2は、フタル酸エステルのカルシウム塩(図2(A)参照)、脱カルシウム化したコンクリート(図2(B)参照)、および未劣化コンクリート(図2(C)参照)に対する13C−NMR分析のスペクトルを示している。我々の実験室では、フタル酸エステルの標準カルシウム塩を、フタリックモノポタシウム塩(phthalic monopotassium salt)と塩化カルシウムとの化学反応から作った。180ppmのピークは、−C=OO−の部分と同定され、124、129、131、136、144ppmのピークは、DEHPのカルシウム塩中のベンゼンの炭素と同定された。強アルカリ状態のコンクリートに含まれる同種のエステルは加水分解されたと考えられる。
【0038】
室温で脱カルシウム化したコンクリート(B)の薄層(20〜30ミクロン)試料中のフタル酸エステルのカルシウム塩を分析するために、電子プローブマイクロ分析(EPMA、JOEL JXA−8900)を行った。試料は炭素で覆った。100ミクロン平方の覆った試料に対して、酸素(O)とカルシウム(Ca)の両方のマッピング分析を行った。100ミクロン平方の微小点における、酸素成分(O:41.5%)とカルシウム成分(Ca:25.1%)の比率(O:Ca=41.5/16:25.1/40=4.1:1)を計算した。試験結果として、いくつかの微小点(約10ミクロン)に対して4という比率が得られた。この値は、フタル酸エステル(C6H4(COO)2Ca、O:Ca=4:1)のカルシウム塩の比率(4)と同じである。
【0039】
得られた結果から、本発明者らは、13C−NMRおよびGC−Massを用いて、フタル酸エステルのカルシウム塩セメントおよびある種のアルコールは、次の反応式によってコンクリート中に生成された、との結論を下した。
【化1】

ここで、
アルキル部分:R=C(DBPの場合)、C17(DOP、DEHPの場合)
アルコール:COH:ブタノール(DBPの場合)、C17OH:2E1H(DEHPの場合)、C17OH:オクタノール(DOPの場合)
【0040】
また、コンクリート中のある種のアミドも、コンクリート中の強アルカリ下において加水分解され、アンモニアガスを放出し、ある種のカルシウム塩を生成した。2E1H、DBP、DEHP、DOPもまた、環境ホルモンおよび/またはSBSの原因の一つである。このような化学物質は、未劣化コンクリートAには決して見つからなかったが、表1に示すように、脱カルシウム化したコンクリート構造物では検出された。
【0041】
DBPやDEHP、DOPなどの成分は、自動車のタイヤに含まれている。したがって、自動車は、コンクリート構造物における脱カルシウム化およびアルコール生成の主原因であると考えられる。また、可塑剤や減水剤などのコンクリートへの混和剤についても、呼吸作用によってコンクリートの中に浸透し、コンクリートに対する脱カルシウム化およびアルコール生成を促進するものと考えられる。
【0042】
本発明者は、上記の新しい知見(セメントコンクリートにおける脱カルシウム化およびアルコール生成の原因とメカニズム)を基に、その応用技術として、セメントコンクリートの中性化促進方法を考案した。
【0043】
すなわち、本発明は、上記の反応を利用するものであって、セメント中のカルシウム分と化学反応してカルシウム塩に変化する物質(例えば、陰イオン系界面活性剤、ならびに各種の塩でカリウム塩やナトリウム(ソーダ)塩、アンモニア塩など)を用いて、対象物となるセメントコンクリートからカルシウム分を除去することにより、当該対象物となるセメントコンクリートの中性化(脱カルシウム化)を促進するものである。
【0044】
以下、本発明の適用例として、例えば、本発明をセメントコンクリートのリサイクル(セメントペーストの除去)に適用した場合と、セメントコンクリートの漁礁作りに適用した場合についてそれぞれ説明する。
【0045】
(適用例1)
本適用例は、本発明をセメントコンクリートのリサイクルに適用した場合である。
【0046】
上記のように、コンクリートのリサイクルで問題となる点は、骨材の表面にセメントペーストが残存することであり、骨材間をすり合わせてセメントペーストを剥ぎ取るという従来の方法では、作業のコストが大きく、十分にセメントペーストを剥ぎ取ることができないという問題がある。
【0047】
そこで、本適用例では、骨材表面のセメントペーストを除去するために、セメント中のカルシウム分と化学反応してカルシウム塩に変化する物質(例えば、陰イオン系界面活性剤、ならびに各種の塩でカリウム塩やナトリウム(ソーダ)塩、アンモニア塩など)を使用する。この原理は、例えば、陰イオン系界面活性剤を使用すると、陰イオンとセメントペースト中のカルシウム分とが反応して、セメントペースト中のカルシウム分がカルシウム塩として析出する、つまり、セメントペーストが溶解するという現象を利用している。
【0048】
陰イオン系界面活性剤としては、例えば、石鹸の一種であるラウリン酸ソーダを挙げることができる。また、その他の陰イオン系界面活性剤として、例えば、カルボン酸塩(R−COO)や、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS、R−CSO)、硫酸エステル塩(R−SO)、リン酸エステル塩(RO(CHCHO)PO)などを挙げることができる。
【0049】
例えば、実験によれば、ラウリン酸ソーダ500ppm中に常温20℃で8時間浸漬しただけで、セメントコンクリートの全重量が0.17%減少した。
【0050】
したがって、この原理を利用すると、例えば、陰イオン系界面活性剤水溶液中にセメントコンクリートのリサイクル材を浸漬するだけで表面のセメントペーストを剥がすことができ、低い作業コストで、十分にセメントペーストを剥ぎ取ることができる。
【0051】
なお、本適用例では、セメント中のカルシウム分と化学反応してカルシウム塩に変化する物質を含む水溶液中に、セメントコンクリートのリサイクル材を浸漬するようにしているが、これに限定されるわけではなく、前記物質を高濃度に含む空気中に、セメントコンクリートのリサイクル材を浸漬するようにしてもよい。
【0052】
また、セメントには、通常、性能改善のため、各種の混和材が添加されている。添加されるセメント混和材の種類は、例えば、次の通りであり、用途に応じて適宜選択される。
【0053】
凝結促進剤:
1)塩素系:塩化カルシウム
2)非塩素系:亜硝酸塩、硝酸塩、ロダン塩、チオ硫酸塩、ギ酸塩、トリエタノールアミン
凝結遅延剤:
3)有機および無機化合物:リグニンスルホン酸塩、オキシカルボン酸塩、糖、糖酸化物、ケイフッ化物
減水剤:
4)リグニンスルホン酸塩、グルコン酸塩、界面活性剤、ナフタリンスホン酸とホルマリン縮合物の塩、メラニンスルホン酸とホルマリン縮合物の塩
高性能減水剤:
5)減水剤と同じ
AE減水剤:
6)リグニンスルホン酸塩、オキシカルボン酸塩
高性能AE減水剤:
7)AE減水剤、特殊リグニン、カチオンまたは両性化合物、徐放性化合物
流動化剤:
8)ナフタリンスルホン酸とホルマリン縮合物の塩、メラニンスルホン酸とホルマリン縮合物の塩、ポリカルボン酸化合物
増粘剤・保水剤:
9)メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキサイド、アクリル系高分子化合物
特殊水中コンクリート用混和剤:
10)セルロース系(例えば、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース)、ポリアクリル酸系、ポリアクリルアミド系
収縮低減剤:
11)非イオン系界面活性剤
急結剤:
12)無機塩類、例えば、アルミン酸ソーダ、ケイ酸ソーダ、炭酸ソーダ
発泡剤:
13)金属アルミニウム粉末
気泡剤:
14)AE剤、またはタンパク分解物
防水剤:
15)高級脂肪酸系の撥水剤、微粉末鉱物、高分子エマルジョン、凝結促進剤
鉄筋防錆剤:
16)亜硝酸カルシウム
ポリマーコンクリート用混和剤:
17)セメント混和用ポリマーディスパージョン
プレパックドコンクリート用混和剤:
18)発泡剤、減水剤、増粘剤、遅延剤
水和熱低減剤:
19)デキストリン
【0054】
上記のように、陰イオン系界面活性剤、ならびに各種の塩でカリウム塩やナトリウム(ソーダ)塩、アンモニア塩などは、セメント中のカルシウム分と化学反応して内部でカルシウム塩に変化し、セメントの脱カルシウム化(中性化)を引き起こすため、これらの物質のセメントコンクリート中への添加剤としての使用は控えるのが好ましい。
【0055】
(適用例2)
本適用例は、本発明をセメントコンクリートの漁礁作りに適用した場合である。
【0056】
上記のように、セメントコンクリートの漁礁は、表面のアルカリ分が溶出するのに2〜3年かかり、その後、藻や貝類が付着し始めるため、海に投入してから数年間は漁礁として機能しないという問題がある。
【0057】
そこで、本適用例では、表面のアルカリ分を早期に溶出させるために、セメント中のカルシウム分と化学反応してカルシウム塩に変化する物質(例えば、陰イオン系界面活性剤、ならびに各種の塩でカリウム塩やナトリウム(ソーダ)塩、アンモニア塩など)を使用する。この原理は、適用例1で説明した通りである。
【0058】
例えば、陰イオン系界面活性剤水溶液中にセメントコンクリートを浸漬すると、ナトリウム(Na)に加えてセメント中のカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)などが溶出するため、短期間で、上記化学反応が終了する。これはセメントコンクリートが中性化することを意味する。したがって、その後、中性化したセメントコンクリートを海に投入すると、数ヶ月で藻や貝類などが付着するようになる。
【0059】
このように、本適用例によれば、例えば、陰イオン系界面活性剤水溶液中に漁礁用のセメントコンクリートを浸漬することにより、短期間に当該セメントコンクリートを中性化することができ、海に投入してから比較的短期間で漁礁として機能させることができる。
【0060】
なお、本適用例では、セメント中のカルシウム分と化学反応してカルシウム塩に変化する物質を含む水溶液中に、漁礁用のセメントコンクリートを浸漬するようにしているが、これに限定されるわけではなく、前記物質を高濃度に含む空気中に、漁礁用のセメントコンクリートを浸漬するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係るセメントコンクリートの中性化促進方法は、例えば、セメントコンクリートのリサイクルやセメントコンクリートの漁礁作りなどに好適なセメントコンクリートの中性化促進方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】(A)ガスクロマトグラフィ質量分析による脱カルシウム化したコンクリート(B)中の極性化合物のスペクトルを示す図、(B)ガスクロマトグラフィ質量分析による自動車タイヤのスペクトルを示す図
【図2】(A)フタル酸エステルのカルシウム塩に対する13C−NMR分析のスペクトルを示す図、(B)脱カルシウム化したコンクリートに対する13C−NMR分析のスペクトルを示す図、(C)未劣化コンクリートに対する13C−NMR分析のスペクトルを示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント中のカルシウム分と化学反応してカルシウム塩に変化する物質を用いて、セメントコンクリートからカルシウム分を除去する、セメントコンクリートの中性化促進方法。
【請求項2】
前記物質は、陰イオン系界面活性剤である、請求項1記載のセメントコンクリートの中性化促進方法。
【請求項3】
セメント中のカルシウム分と化学反応してカルシウム塩に変化する物質を含む水溶液中または前記物質を高濃度に含む空気中にセメントコンクリートのリサイクル材を浸漬して前記リサイクル材の表面のセメントペーストを除去する、セメントコンクリートのリサイクル方法。
【請求項4】
セメント中のカルシウム分と化学反応してカルシウム塩に変化する物質を含む水溶液中または前記物質を高濃度に含む空気中に漁礁用のセメントコンクリートを浸漬して前記漁礁用セメントコンクリートを中性化する、セメントコンクリートの漁礁製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−7628(P2007−7628A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−195209(P2005−195209)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】