説明

セメントコンクリート材料分離低減剤

【課題】 セメントコンクリートは水に対する比重差の大きい骨材やセメントを含む混合物であるため、水がブリーディングして材料分離を生じ易い。材料分離を防止するために水溶性高分子や、水溶性高分子と高性能AE減水剤とを添加する方法が知られているが、セメントコンクリート混和物の流動性が低下し、コンクリート混和物を投入する際の作業に支障をきたしたり、充填不良によるコンクリート強度低下、表面荒れを生じるという問題があった。本発明はコンクリート混和物の流動性を低下することなく材料分離を抑制することのできるセメントコンクリート材料分離低減剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明のセメントコンクリート材料分離低減剤は、炭素数12〜14の脂肪酸カリウム塩60〜90重量%、炭素数16〜18の脂肪酸カリウム塩10〜40重量部とからなる混合脂肪酸カリウム塩80〜95重量部と、シリカを含む自己乳化型シリコーンオイル20〜5重量部とからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメントコンクリートの材料分離を抑止することができるセメントコンクリート材料分離低減剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートはセメント等の結合材、粗骨材や細骨材等の骨材、水等の材料の混和物であるが、骨材の比重は約2.5以上、セメントは水と接触した初期でも比重が2.0以上であるのに対し、水の比重は1.0であることから、コンクリート混和物中の骨材やセメントと水とが分離して水が表面に浮いてくる所謂ブリーディングを生じ易い。コンクリート材料の分離が生じると、コンクリート硬化物に沈みやひび割れが生じ、コンクリート強度が低下するという問題がある。コンクリート材料の分離を低減化するためには、粗骨材に小粒で丸みを帯びたものを選択するとともに、細粒分が多い細骨材を選択して用いたり、特許文献1に記載されているように水溶性高分子を添加してコンクリート混和物に粘性を付与することで分離を防止する方法が提案されている。また特許文献2に記載されているように、水溶性高分子と高性能AE減水剤とを併用することで、コンクリート混和物中の材料分離を低減化する方法も提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−306153号公報
【特許文献2】特開平3−237049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特定の粗骨材や細骨材を選択して用いると、原料コストの大幅な上昇を招くという問題がある。また水溶性高分子を添加するとコンクリート混和物の流動性が大幅に低下する結果、ポンプによるコンクリート混和物の圧送作業に支障をきたしたり、充填不良によるコンクリートの強度低下や表面肌荒れを招いたり、凝結時間の大幅な遅延を生じる等の虞があり、特に高流動性コンクリート混和物の場合には、流動性低下は大きな問題であった。本発明は従来の問題点に鑑みなされたもので、コンクリート混和物の流動性を低下させることなく材料分離を低減化することができるコンクリート材料分離低減剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、
(1)炭素数12〜14の脂肪酸カリウム塩60〜90重量%、炭素数16〜18の脂肪酸カリウム塩10〜40重量部とからなる混合脂肪酸カリウム塩80〜95重量部と、シリカを含む自己乳化型シリコーンオイル20〜5重量部とからなることを特徴とするセメントコンクリート材料分離低減剤、
(2)炭素数12〜14の脂肪酸カリウム塩が重量比で、炭素数12の脂肪酸カリウム塩:炭素数14の脂肪酸カリウム塩=50〜100:50〜0の割合で含む上記(1)のセメントコンクリート材料分離低減剤、
(3)炭素数16〜18の脂肪酸カリウム塩が重量比で、炭素数16の脂肪酸カリウム塩:炭素数18の脂肪酸カリウム塩=0〜80:100〜20の割合で含む上記(1)又は(2)のセメントコンクリート材料分離低減剤、
(4)自己乳化型シリコーンオイル中にシリカを2〜8重量%含有する上記(1)〜(3)のいずれかのセメントコンクリート材料分離低減剤、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のセメントコンクリート材料分離低減剤は、コンクリート混和物の流動性を低下することなくコンクリート材料の分離を低減化することができる。本発明のコンクリート材料分離低減剤を添加したコンクリート混和物は、流動性が良好で均一性の高いペースト状態を維持し、ポンプによる圧送性、充填性が良好であるため、均一で高強度を有するとともに、滑らかな表面の硬化体を形成することができる。また本発明のコンクリート材料分離低減剤は、コンクリート混和物に対して少ない添加量で分離を低減化することが出来る等の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のセメントコンクリート材料分離低減剤(以下、単に「分離低減剤」と呼ぶことがある。)において、炭素数12〜14の脂肪酸カリウム塩を構成する脂肪酸としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれでも良く、また直鎖脂肪酸であっても分岐脂肪酸であっても良い。炭素数12〜14の脂肪酸としては、直鎖飽和脂肪酸ではドデカン酸(ラウリン酸)、トリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸)等が、分岐飽和脂肪酸ではメチルウンデカン酸、メチルドコサエン酸、ジメチルドデカン酸等が、不飽和脂肪酸ではドデセン酸(ラウロレイン酸、リンデル酸等)、トリデセン酸、テトラデセン酸(ミリストレイン酸)等が挙げられるが、直鎖飽和脂肪酸が好ましく、特にラウリン酸、ミリスチン酸が好ましい。また炭素数16〜18の脂肪酸カリウム塩を構成する脂肪酸も、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれでも良く、また直鎖脂肪酸であっても分岐脂肪酸であっても良い。炭素数16〜18の脂肪酸としては、直鎖飽和脂肪酸ではヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸(マルガリン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)等が、分岐飽和脂肪酸では、メチルペンタデカン酸、エチルテトラデカン酸、プロピルトリデカン酸、メチルヘキサデカン酸、エチルペンタデカン酸、メチルヘプタデカン酸、エチルヘキサデカン酸等が、不飽和脂肪酸ではヘキサデセン酸(パルミトレイン酸)、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸(ペトロセリン酸、ペトロエライジン酸、エライジン酸、オレイン酸)、オクタデカジエン酸(リノール酸等)、オクタデカトリエン酸(リノレン酸等)等が挙げられるが、直鎖飽和脂肪酸が好ましく、特にパルミチン酸、ステアリン酸が好ましい。
【0008】
本発明の分離低減剤は、上記炭素数12〜14の脂肪酸カリウム塩を60〜90重量%、炭素数16〜18の脂肪酸カリウム塩を10〜40重量%含有するが、炭素数12〜14の脂肪酸カリウム塩75〜85重量%、炭素数16〜18の脂肪酸カリウム塩15〜25重量%含有することがより好ましい。炭素数12〜14の脂肪酸カリウム塩が90重量%を超える場合(炭素数16〜18の脂肪酸カリウム塩が10重量%未満の場合)には、コンクリート混和物の粘性が低くブリーディングを生じ易くなる。また炭素数12〜14の脂肪酸カリウム塩が60重量%未満の場合(炭素数16〜18の脂肪酸カリウム塩が40重量%を超える場合)には、分離低減剤のコンクリート混和物中での分散性が低下し、コンクリート混和物に十分な流動性、材料分離低減効果を付与できない。
【0009】
本発明において炭素数12〜14の脂肪酸カリウム塩としては、炭素数12の脂肪酸カリウム塩と炭素数14の脂肪酸カリウム塩とを、重量比で炭素数12の脂肪酸カリウム塩:炭素数14の脂肪酸カリウム塩=50〜100:50〜0の割合で含有する混合物が好ましく、特に炭素数12の脂肪酸カリウム塩:炭素数14の脂肪酸カリウム塩=50〜70:50〜30の割合の混合物が好ましい。炭素数12の脂肪酸カリウム塩と炭素数14の脂肪酸カリウム塩との割合が、炭素数12の脂肪酸カリウム塩:炭素数14の脂肪酸カリウム塩=50〜100:50〜0の範囲から外れると、コンクリート混和物に対して均一分散し難くなるとともに、コンクリート混和物が起泡し易く取り扱い難くなる。
【0010】
また炭素数16〜18の脂肪酸カリウム塩としては、炭素数18の脂肪酸カリウム塩を20重量%以上含有するものが好ましく、炭素数16〜18の脂肪酸カリウム塩中の炭素数18の脂肪酸カリウム塩の割合が20重量%以上であると、より優れたブリーディング防止効果が発揮される。
【0011】
本発明の分離低減剤は、上記脂肪酸カリウム塩と共にシリカを含む自己乳化型シリコーンオイルを含むことにより、脂肪酸カリウム塩をコンクリート混練物に添加したことによる起泡を防止できるとともに、特定の脂肪酸カリウム塩との相乗的作用によってコンクリート混練物の材料分離低減効果が大幅に向上する。シリカを含む自己乳化型シリコーンオイルとしては、シリカを2〜8重量%含むものが好ましい。シリカとしては親水性シリカ、疎水性シリカのいずれも使用できるが、特に疎水性微粉末シリカが好ましい。シリカ含有率が2重量%未満であるとコンクリート混練物の起泡を十分に防止できないとともに、優れた材料分離低減効果が発揮されない。またシリカ含有率が8重量%を超えるとシリカが分離沈降し、このような多量のシリカを含む自己乳化型シリコーンオイルは混合脂肪酸カリウム塩とも均一に混合しなくなる。自己乳化型シリコーンオイルとしては、ジメチルシロキサンのメチル基の一部を親水性のポリオキシアルキレン基で置換したポリオキシ変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、フルオロアルキル変性シリコーンオイル等の親水基を有する変性シリコーンオイルや、ジメチルシリコーンオイル等の疎水性シリコーンオイルに乳化剤を配合して乳化性を付与したもの等が挙げられる。また自己乳化性を有するポリオキシアルキレン変性シリコーンオイルに、少量の乳化剤を配合して用いても良い。乳化剤としては非イオン型界面活性剤、カチオン型界面活性剤、アニオン型界面活性剤、水溶性高分子等を用いることができるが、低起泡性非イオン型界面活性剤が好ましい。
【0012】
本発明の分離低減剤は、前記混合脂肪酸カリウム塩80〜95重量部と、シリカを含む自己乳化型シリコーンオイル20〜5重量部とからなる。シリカを含む自己乳化型シリコーンオイルが5重量部未満であると、セメントコンクリート混和物に必要とする粘性を付与することができず、材料分離低減効果が発揮されない。また20重量部を超えるとセメントコンクリート混和物中における均一分散性が低下する結果、材料分離低減効果が発揮されなくなる。
【0013】
本発明の分離低減剤は、AE減水剤としての作用も有しているが、セメントコンクリート混和物に添加する際に高性能AE減水剤との併用が好ましい。高性能AE減水剤としては、ナフタレン系、メラミン系、ポリカルボン酸系、アミノスルホン酸系等等のAE減水剤が挙げられる。本発明の分離低減剤のセメントコンクリート混和物への添加量が多すぎると、コンクリートの水和反応の遅延を招いて必要とする圧縮強度を得るための養生時間が長くかかる虞があるため、有効成分換算セメント比で0.03〜0.2重量%が好ましい。
【実施例】
【0014】
以下、実施例、比較例挙げて本発明を更に詳細に説明する。実施例、比較例においてコンクリート混練物に添加した配合物の組成を表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
実施例1〜3、比較例1〜4
ポルトランドセメント170重量部、炭酸カルシウム80重量部、砂340重量部、砕石410重量部、水85重量部に、ポリカルボン酸型高性能AE減水剤を1重量部、表1に示す混合脂肪酸カリウム塩と、シリカを4重量%含む自己乳化型シリコーンオイルとの混合物を0.13重量部添加し、JIS A−5308及びA−5364に従って高流動コンクリート混和物を調製した。コンクリート調製過程の状態、調製後のコンクリートの状態、コンクリート混和物を型に投入する際の作業性、投入したコンクリート表面状態、硬化したコンクリートの状態を評価した結果を表2に示した。
【0017】
【表2】

【0018】
実施例4
ポルトランドセメント160重量部、砂390重量部、砕石450重量部、水80重量部に、ポリカルボン酸型高性能AE減水剤を1重量部、実施例1で用いたと同様の混合脂肪酸カリウム塩とシリカを含む自己乳化型シリコーンオイルとの混合物を0.1重量部添加し、スランプコンクリートを調製した。コンクリート調製過程の状態、調製後のコンクリートの状態、コンクリート混和物を型に投入する際の作業性、投入したコンクリート表面状態、硬化したコンクリートの状態を評価した結果を、分離低減剤未添加の対照品の結果とともに表3に示した。
【0019】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数12〜14の脂肪酸カリウム塩60〜90重量%、炭素数16〜18の脂肪酸カリウム塩10〜40重量部とからなる混合脂肪酸カリウム塩80〜95重量部と、シリカを含む自己乳化型シリコーンオイル20〜5重量部とからなることを特徴とするセメントコンクリート材料分離低減剤。
【請求項2】
炭素数12〜14の脂肪酸カリウム塩が重量比で、炭素数12の脂肪酸カリウム塩:炭素数14の脂肪酸カリウム塩=50〜100:50〜0の割合で含む請求項1記載のセメントコンクリート材料分離低減剤。
【請求項3】
炭素数16〜18の脂肪酸カリウム塩が重量比で、炭素数16の脂肪酸カリウム塩:炭素数18の脂肪酸カリウム塩=0〜80:100〜20の割合で含む請求項1又は2記載のセメントコンクリート材料分離低減剤。
【請求項4】
自己乳化型シリコーンオイル中にシリカを2〜8重量%含有する請求項1〜3のいずれかに記載のセメントコンクリート材料分離低減剤。

【公開番号】特開2007−1833(P2007−1833A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186024(P2005−186024)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(591151705)東海商事ブロック工業株式会社 (1)
【出願人】(000109897)トーケン樹脂化学株式会社 (2)