説明

セメントコンクリート硬化体の製造方法

【課題】 乾燥収縮が少なく曲げひび割れ強度が高く、ひび割れ抵抗性の高い、乾燥収縮低減剤を浸透させたセメントコンクリート硬化体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 セメントを含有してなるセメント組成物と、水とを混練してセメントコンクリートを調製し、それを用いてセメントコンクリート硬化体を成形し、脱型後、乾燥収縮低減剤中に浸漬し、乾燥収縮低減剤の浸透深さを、セメントコンクリート硬化体の表面から0.5〜5mmとするセメントコンクリート硬化体の製造方法、セメント組成物が、セメントと膨張材からなるセメント組成物100部中、セメント80〜97部と膨張材20〜3部である、また、水/セメント組成物比が45〜61%である、さらに、防水剤又は撥水剤を塗布してなる、そして、乾燥収縮低減剤中に浸漬する時間が3日以内である前記セメントコンクリート硬化体の製造方法を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥収縮低減剤中に浸漬し、その表面から乾燥収縮低減剤を浸透させたセメントコンクリート硬化体の製造方法に関する
発明でいうセメントコンクリートは、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートを総称するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、骨材性状の悪化やポンプ圧送の確保等から、セメントコンクリート硬化体は、その製造時、所定のワーカビリティーを確保するために、必要以上の水量とセメントが使用されるため乾燥収縮量が大きくなっている。
そのため、ひび割れを生じ、構造物の美観、耐久性を損なう恐れがあった。
この課題を解決するために、乾燥収縮低減剤をセメントに混和する方法や乾燥収縮低減剤をセメントコンクリート硬化体に含させる方法が提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−035360号公報
【特許文献2】特開2002−193686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これら従来の方法では、乾燥収縮低減剤空気連行性を有するために、細骨材の粒度、ミキシング時間、ミキサの形式、練り量、温度、及び運搬時間等の影響を受け、セメントコンクリートの空気量の調整と排水の泡立ちに人と時間がかかるという課題があった。
また、乾燥収縮低減剤を含させる方法は、セメントコンクリート硬化体を使用するために、空気量調整等は要らなくなるが、噴霧や塗布では浸透が不充分で乾燥収縮低減効果が得られず、ひび割れが生じる恐れがあった。
【0005】
本発明は、特定の方法よって、前記課題を解消できる知見を得て完成するに至ったものである
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は、セメントを含有してなるセメント組成物と、水とを混練してセメントコンクリートを調製し、前記セメントコンクリートを用いてセメントコンクリート硬化体を成形し、脱型後、乾燥収縮低減剤中に浸漬し、乾燥収縮低減剤の浸透深さを、前記セメントコンクリート硬化体の表面から0.5〜5mmとするセメントコンクリート硬化体の製造方法であり、前記セメント組成物が、セメントと膨張材からなるセメント組成物100質量部中、セメント80〜97質量部と膨張材20〜3質量部である前記セメントコンクリート硬化体の製造方法であり、水/セメント組成物比が45〜61質量%である前記セメントコンクリート硬化体の製造方法であり、さらに前記セメントコンクリート硬化体の表面に、防水剤又は撥水剤を塗布してなる前記セメントコンクリート硬化体の製造方法であり、乾燥収縮低減剤中に、前記セメントコンクリート硬化体を浸漬する時間が3日以内である前記セメントコンクリート硬化体の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の、乾燥収縮低減剤中に浸漬し、乾燥収縮低減剤を0.5〜5mm浸透させて製造したセメントコンクリート硬化体は、乾燥収縮が少なく曲げひび割れ強度が高く、ひび割れ抵抗性の高いものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳しく説明する。
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0009】
本発明で使用する乾燥収縮低減剤は、ノニオン系界面活性剤の一種で、通常、純分99%以上の液体で、セメントコンクリート硬化体(以下、単にセメント硬化体という)中の細孔にある水に溶解して、蒸発するときの表面張力を低下させるものである。
乾燥収縮低減剤の基本構造は、ポリオキシアルキレン重合物を有し、末端に低級アルコール、フェノール、及びアミノ結合物を付加したものである。
具体的には、ポリプロピレングリコール、エチレンオキシドメタノール付加物、エチレンオキシド・プロピレンオキシドブロック重合物、エチレンオキシド・プロピレンオキシドランダム重合物、グリコールのシクロアルキル基付加物、グリコールの両端にメチル基を付加した付加物、グリコールのフェニル基付加物、グリコールにメチルフェニル基を付加したブロック重合物、グリコールの両端にエチレンオキサイドメタノールを付加した付加物、及びグリコールにジメチルアミンを付加した付加物等が使用可能である。
【0010】
セメント硬化体は、低熱、普通、早強、及び超早強等の各種ポルトランドセメント、これらのポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュなどを混合した各種混合セメントのセメントと水等とを使用して水和し硬化したものである。
【0011】
硬化とは、セメントが凝結状態において終結を終了した以降をいう。
また、浸透は、拡散によるため、細孔が小さくなると時間がかかるので、材齢初期に行なうことが好ましい。
【0012】
本発明では、乾燥収縮低減剤中に、セメント硬化体を浸漬し、セメント硬化体に乾燥収縮低減剤を浸透させるものである。
乾燥収縮低減剤に、セメント硬化体を浸漬する時間は、特に限定されるものではないが、最大で3日間浸漬することが好ましい。
【0013】
セメント硬化体表面からの乾燥収縮低減剤の浸透深さは0.5〜5mmであることが必要である。浸透深さが0.5mm未満では乾燥収縮低減効果が少なく、5mmを超えると浸透に時間や労力を要する場合や強度が低下する場合がある。
【0014】
乾燥収縮低減剤を浸透させたセメント硬化体の若材齢時は、表面に水が存在すると水に乾燥収縮低減剤が溶出しやすく、乾燥収縮低減効果が低減する場合がある。
その対処として、セメント硬化体製造時に、あらかじめ防水剤を混和する方法やセメント硬化体表面から乾燥収縮低減剤を浸透深さ0.5〜5mm浸透させた後に、表面から、防水剤を塗布又は散布する方法等があり、塗布する方法が経済的である。
【0015】
塗布する防水剤しては、無機質の珪酸ナトリウムや、合成ゴムラテックスや樹脂エマルジョンなどの有機質の各種ポリマーデスパージョンが挙げられる。
合成ゴムラテックスとしては、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、及びメタクリル酸メチルブタジエンゴムなどが挙げられ、樹脂エマルジョンとしては、ポリアクリル酸エステル、アクリル酸エステルスチレン、ポリプロピオン酸ビニル、エチレン酢酸ビニル、ポリプロピレン、アスファルト、パラフイン、及びエポキシなどが挙げられる。
防水剤の使用量は、セメント硬化体表面に対して、10〜200g/m2となるように塗布又は散布することが好ましい。10g/m2未満では防水効果が少ない場合があり、200g/m2を超えると不経済である。
【0016】
また、混和する防水剤しては、シリカやシリカフュームなどの珪酸質、ジルコニア化合物、ステアリン酸やオレイン酸等の高級脂肪酸化合物、及びパラフインなどが使用可能であり、その使用量は一義的に規定されるものではないが、セメント100部に対して、0.2〜15部が好ましい。0.2部未満では防水効果が少ない場合があり、15部を超えると流動性や強度の低下を生じる場合がある。
【0017】
本発明では、乾燥収縮低減剤を浸透深さ0.5〜5mm浸透させたセメント硬化体に撥水剤を塗布又は散布することは、若材齢時、セメント硬化体表面に水が存在する場合、水に乾燥収縮低減剤が溶出することを防止する面から好ましい。
撥水剤としては、有機溶剤系アクリルシリコーン、有機溶剤系アルキルアルコキシシラン、エマルジョン系アルキルアルコキシシラン、及びエマルジョン系シラン・シロキサンなどが挙げられる。
撥水剤の使用量は、セメント硬化体表面に対して、10〜200g/m2となるように塗布又は散布することが好ましい。10g/m2未満では撥水効果が少ない場合があり、200g/m2を超えると不経済である。
【0018】
本発明において、セメント80〜97部と膨張材20〜3部からなるセメント組成物を含有するセメントコンクリートを使用して製造したセメント硬化体の表面から乾燥収縮低減剤の浸透深さを0.5〜5mmにしたものは、ひび割れに対する抵抗性が大きくなる面から好ましい。
【0019】
膨張材としては、エトリンガイト系、エトリンガイト・石灰複合系、及び石灰系等があり、いずれも使用可能である。
膨張材の粒度は特に限定されるものではないが、通常、ブレーン比表面積値で2,000〜4,000cm2/gが好ましい。2,000cm2/g未満では未反応物が長期間残存して耐久性が低下する場合があり、4,000cm2/gを超えると水和反応が早く、所定の膨張が得られない場合がある。
膨張材の使用量は、セメント80〜97部に対して、20〜3部が好ましく、セメント85〜95部に対して、15〜5部がより好ましい。膨張材が3部未満では収縮低減効果が少ない場合があり、20部を超えると膨張量が大きすぎて強度が低下する場合がある。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実験例に基づいてさらに説明する。
【0021】
実験例1
表1に示すセメントと膨張材αの合計100部と、細骨材200部とをミキサに投入し30秒空練りし、その後、水45部を添加し90秒練り混ぜモルタルを調製した。
調製したモルタルを用い、JIS
A 6202「コンクリート用膨張材」に準じ4×4×16cmに成形て供試体を得た。材齢1日後に脱型し、成形した供試体と乾燥収縮低減剤Aをポリ袋に入れ、乾燥収縮低減剤中に、供試体を浸漬し、浸透深さの試験を行った。
所定の浸透深さに達した後、供試体の周りの乾燥収縮低減剤を拭き取り、水を用いて材齢14日まで養生し、乾燥収縮量を測定した。結果を表1に併記する。
【0022】
<使用材料>
セメント :普通ポルトランドセメント、3種混合品
膨張材α :エトリンガイト系膨張材、市販品
細骨材 : 川砂、5mm下、比重2.60
乾燥収縮低減剤A:エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体、市販品
【0023】
<測定方法>
浸透深さ :脱型した4×4×16cmの供試体と乾燥収縮低減剤をポリ袋に入れ、供試体を乾燥収縮低減剤中に浸積し、密封し、供試体表面からの変色深さをノギスを用いて測定
乾燥収縮量:JIS A 6202「コンクリート用膨張材」に準じて測定
【0024】
【表1】

【0025】
実験例2
表2に示すセメントと膨張材を用いて、乾燥収縮低減剤を浸透深さ2mmまで浸透させ、乾燥収縮量と圧縮強度を測定したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0026】
<測定方法>
圧縮強度 :JIS A 6202「コンクリート用膨張材」に準じて測定
【0027】
【表2】

【0028】
実験例3
表3に示すセメントと膨張材を用いて、乾燥収縮低減剤を浸透深さ2mmまで浸透させた供試体に、表3に示す防水剤を150g/m2塗布し、皮膜を形成後、供試体体積の100倍の水道水中に7日養生した後に、乾燥収縮量を測定したこと以外は、実験例1と同様に行なった。結果を表3に併記する。
【0029】
<使用材料>
防水剤A :スチレンブタジエン
防水剤B :ポリアクリル酸エステル
防水剤C :エチレン酢酸ビニル
防水剤D :パラフイン
【0030】
【表3】

【0031】
実験例4
乾燥収縮低減剤を浸透深さ2mmまで浸透させた供試体に、表4に示す撥水剤を150g/m2塗布したこと以外は、実験例3と同様に行なった。結果を表4に併記する。
【0032】
<使用材料>
撥水剤a :有機溶剤系アクリルシリコーン
撥水剤b :有機溶剤系アルキルアルコキシシラン
撥水剤c :エマルジョン系アルキルアルコキシシラン
撥水剤d :エマルジョン系シラン・シロキサン
【0033】
【表4】

【0034】
実験例5
セメント282kg/m3、膨張材β20kg/m3、水184kg/m3、細骨材846kg/m3、及び粗骨材956kg/m3と、AE減水剤を標準添加量用いて練り混ぜた。
練り混ぜと養生は20℃、80%RHで行い、目標スランプ18cm、空気量4.5±0.5%になるように調整した。
打設1日後に脱型し、乾燥収縮低減剤液中に浸漬し、コンクリート表面から浸透させその深さが2mmになるように3日間浸漬し、その後、乾燥収縮量と曲げひび割れ強度を測定した。結果を表6に示す。
比較のため、乾燥収縮低減剤のわりに、水道水を使用し比較を行なった。
【0035】
<使用材料>
膨張材β :エトリンガイト・石灰複合系膨張材、市販品
粗骨材 :川砂利、密度2.71
AE減水剤:主成分ポリオール系、市販品
乾燥収縮低減剤B:低級アルコールアルキレンオキシド付加物
【0036】
<測定方法>
曲げひび割れ強度:乾燥収縮量を測定した材齢6ケ月の供試体を用い、JIS A 1106「コンクリートの曲げ試験方法」に準じて測定
【0037】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントを含有してなるセメント組成物と、水とを混練してセメントコンクリートを調製し、前記セメントコンクリートを用いてセメントコンクリート硬化体を成形し、脱型後、乾燥収縮低減剤中に浸漬し、乾燥収縮低減剤の浸透深さを、前記セメントコンクリート硬化体の表面から0.5〜5mmとするセメントコンクリート硬化体の製造方法。
【請求項2】
前記セメント組成物が、セメントと膨張材からなるセメント組成物100質量部中、セメント80〜97質量部と膨張材20〜3質量部である請求項1に記載のセメントコンクリート硬化体の製造方法。
【請求項3】
水/セメント組成物比が45〜61質量%である請求項1又は請求項2に記載のセメントコンクリート硬化体の製造方法。
【請求項4】
さらに前記セメントコンクリート硬化体の表面に、防水剤又は撥水剤を塗布してなる請求項1〜請求項3のうちのいずれか一項に記載のセメントコンクリート硬化体の製造方法。
【請求項5】
乾燥収縮低減剤中に、前記セメントコンクリート硬化体を浸漬する時間が3日以内である請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項に記載のセメントコンクリート硬化体の製造方法。

【公開番号】特開2008−260687(P2008−260687A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184402(P2008−184402)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【分割の表示】特願2003−23931(P2003−23931)の分割
【原出願日】平成15年1月31日(2003.1.31)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】