説明

セメントスラリー及び石炭灰の利用方法

【課題】強度が要求される薄肉の部材や突起等のある複雑な形状を有する部材等の薄部を有するセメント二次製品の型枠への充填性に優れ、常温常圧養生でも翌日脱型が可能で、脱型時の破損が少ないセメントスラリーを提供する。
【解決手段】薄肉の部材や突起等のある複雑な形状を有する部材等のセメント二次製品の成形に用いられる、セメントスラリーであって、セメントスラリー100重量部に対して石炭灰と高炉スラグの合計重量が60重量部以上で、かつセメントスラリー100重量部に対して石炭灰35〜55重量部、高炉スラグ10〜25重量部、セメント10〜20重量部、及び石炭灰と高炉スラグとセメントの合計量100重量部に対して高性能減水剤0.01〜1.5重量部、比重1.0〜3.0の短繊維0.1〜3.0重量部から成るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄肉の部材や突起等のある複雑な形状を有する部材等の薄部を有するセメント二次製品の成形に用いられるセメントスラリーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気事業などの石炭燃焼で副生される石炭灰の多くは、使用用途がなく埋め立て処分されており、一部はセメントを焼成する際の原料である粘土の代替として用いられ、またセメント混和材などに使用されている。しかしながら、国内においては、近年セメント及びコンクリート生産量が大幅に減少してきており、セメント産業で使用される石炭灰量も減少しており、早急な有効利用方法の開発が望まれている。
【0003】
また、近年、石炭灰の添加量を多くした漁礁用海洋土木構造物等が開発されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、石炭灰の添加量を多くすると強度低下が大きいため、強度が要求される部材等においては、石炭灰の添加量を多くすることは困難であった。また、強度発現性を向上させるため混練水量を少なくすると、材料の混練り性及び型枠への充填性を悪化させる原因となっていた。
【特許文献1】特許第2745446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の如き問題点に鑑み、石炭灰の添加量を多くしても、強度発現性が良好で、材料の混練り性及び型枠への充填性に優れるセメントスラリーが望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、主たる目的は、強度が要求される薄肉の部材や突起等のある複雑な形状を有する部材等の薄部を有するセメント二次製品の型枠への充填性に優れ、常温常圧養生でも翌日脱型が可能で、脱型時の破損が少ないセメントスラリーを提供すること、また、石炭灰を多く使用することができる新たな石炭灰の利用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、薄部を有するセメント二次製品の成形に用いられ、セメント、石炭灰、高炉スラグ、高性能減水剤、短繊維及び水を含有するセメントスラリーであって、セメントスラリー100重量部に対して石炭灰と高炉スラグの合計重量が60重量部以上で、かつセメントスラリー100重量部に対して石炭灰35〜55重量部、高炉スラグ10〜25重量部、セメント10〜20重量部、及び石炭灰と高炉スラグとセメントの合計量100重量部に対して高性能減水剤0.01〜1.5重量部、比重1.0〜3.0の短繊維0.1〜3.0重量部から成ることを特徴とするセメントスラリーに関するものである。
【0007】
ここで、「薄部を有するセメント二次製品」とは、厚みが概ね5cm程度以下となるような部位を有するセメント二次製品を指し、薄板状の部材を含むことは無論のこと、例えばレンガ等の扁平な立体形状を有する部材も含まれる概念とする。加えて、この「薄部を有するセメント二次製品」が、一般的なボルトの頭部及び軸部の形状を模したボルト状の突起部や、自然石の形状を模した凹凸形状からなる自然石状の突起部など、各種形状の突起部を具備することを妨げない。なぜなら、例えば、「ボルト状の突起部」の頭部が軸部に比して薄肉であればこの頭部が「薄部」に相当し、「自然石状の突起部」であればその先端部が「薄部」に相当する等、断面視した際に他の部分に比して薄肉である部分が「薄部」に相当するからである。
【0008】
本発明における石炭灰としては、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」に規定されたもののみならず、原粉などの利用範囲の限られたものも使用できる。
【0009】
石炭灰の混合量としては、廃棄物利用の観点からできるだけ多く使用することが好ましいが、セメント二次製品の強度や耐久性等の点から、セメントスラリー100重量部中35〜55重量部が好ましい。
【0010】
本発明の趣旨からは、石炭灰の可能な限りの大量使用が理想であるが、短期強度を求められるセメント二次製品などにおいては、石炭灰単独での廃棄物使用量には限界がある。一方、財団法人日本環境協会が認定しているエコマーク商品類型No.109「タイル・ブロックVersion2.0」では、産業廃棄物を使用した常温成形品の場合、60%の使用を認定基準としているので、本発明においても、成形体中の廃棄物使用量60重量部以上を推奨するものである。そこで、高炉スラグを併用することにより、さらに多い廃棄物使用量と製品強度の確保の両立をすることが好ましい。
【0011】
本発明における高炉スラグは、JIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に規定されているものを使用できる。
【0012】
この高炉スラグの混合量としては、石炭灰の大量使用の観点から、セメントスラリー100重量部中10〜25重量部が好ましい。
【0013】
なお、特に良好な充填性と混練り性とを確保するには、高炉スラグの混合量は、セメントスラリー100重量部中15〜25重量部であることが好ましい。
【0014】
本発明におけるセメント成分は、一般にモルタルやコンクリートに用いられる普通、早強、超早強、中庸熱などのポルトランドセメントや、廃棄物を原料とするエコセメントや、またアルミナセメントやジェットセメントを使用したような超速硬性のセメントを使用することができる。早強や超早強ポルトランドセメント、アルミナセメントやジェットセメントを使用したような超速硬性のセメントの使用が、強度発現性の観点から好ましい。
【0015】
セメントの混合量としては、石炭灰の大量使用の観点から、セメントスラリー100重量部中10〜20重量部が好ましい。
【0016】
また、高性能減水剤としては、JIS A 6204「コンクリート用化学混和剤」に例示されるナフタレンスルフォン酸塩系、メラミンスルフォン酸塩系、ポリカルボン酸塩系、リグニン系などを主成分とする液体及び粉末状の公知の高性能減水剤を使用することができる。
【0017】
このうちナフタレンスルフォン酸塩、メラミンスルフォン酸塩、ポリカルボン酸塩のうち2種類以上を使用することが、施工性および強度発現性の上から好ましい。
【0018】
高性能減水剤の混合量としては、石炭灰と高炉スラグとセメントの合計量100重量部に対して0.1〜1.5重量部が好ましい。
【0019】
短繊維としては、比重1.0〜3.0のもの、例えば、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維などの有機系繊維やガラス繊維、フライアッシュファイバーなどの無機系繊維が例示できる。
【0020】
ただし、本発明は複雑な形状のセメント二次製品部材成形を目的としており、良好な充填性を確保するために、流動性に富む材料としている。したがって、セメントペーストの比重と大きく異なり、分離が発生しやすい比重3.0以上のスチールファイバー等は好ましくない。
【0021】
短繊維の混合量としては、石炭灰と高炉スラグとセメントの合計量100重量部に対して、比重1.0〜3.0の短繊維0.1〜3.0重量部が好ましい。
【0022】
なお、特に良好な充填性と混練り性とを確保するには、短繊維の混合量は、石炭灰と高炉スラグとセメントの合計量100重量部に対して、比重1.0〜3.0の短繊維0.1〜1.0重量部であることが好ましい。
【0023】
繊維長としては、細部への充填性から3mmから12mmまでが好ましい。
【0024】
これらの材料を適切に配合することによって、骨材を使用しない、通常ではひび割れや欠損が発生し、製品として使用できないようなペースト状態でも薄肉の部材や突起等のある複雑な形状の部材にも成形することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように本発明の、セメント、石炭灰、高炉スラグ、高性能減水剤、比重1.0〜3.0の短繊維からなるセメントスラリーによれば、大量のJIS規格外の石炭灰を使用して環境問題に対応した、なおかつ成形性と耐久性に優れたセメント二次製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0027】
成形性を評価するために、図1、図2に示す突起部13、14を有する複雑な形状のセメント二次製品たるプレート1を作製し、その充填性と脱型時の保形性とを評価した。
【0028】
(1)まず、具体的にプレート1の構成について説明する。
【0029】
このプレート1は、特開2003−225025号記載の育成部材と同様、アラメ、カジメ、クロメといった多年生褐藻類の藻場を造成するに際して用いられるものであって、例えば約10cm×25cmの平面視概略長方形状をなし3cm程度の厚みを有し、その重量は約1.5〜2kgの一体成型品である。そして、このプレート1には、中央部に厚み方向に貫通する直径2cm程度の貫通孔11を設けており、上面における前記貫通孔11の両側端部側にそれぞれ瘤状に表面を隆起させた隆起部12を形成している。さらにこの隆起部12の裾部分には、一般的なボルトの頭部及び軸部の形状を模したボルト状突起部13をそれぞれ4つずつ上方に突出させて設けている。このボルト状突起部13は、ボルトの頭部に相当する上端部が軸部に相当する下端部よりも平面視形状が大きい所謂オーバーハング形状を有している。また、このボルト状突起部13の基端よりも高位置となる隆起部12の表面に自然石の形状を模した凹凸形状からなる複数の自然石状突起部14を上方に突出させて設けている。これらボルト状突起部13及び自然石状突起部14を含む隆起部12は、アラメ等の根を活着させてアラメ等を育成するための育成部としての機能を有するものである。
【0030】
なお、このプレート1の上面における両側端部には、プレート1の長手方向と略合致する方向に上方に開口する種糸Tを掛止するための一対の切り込み部25aを備えた、木製の小片25を、当該プレート1の成型時に予め埋め込んで固定しているが、この小片25を、ボルト状突起部13や自然石状突起部14等とは別体の木製のものとせず、それら突起部13、14等と一体に形成するようにしてもよい。
【0031】
(2)プレート1の成形には、次に示す使用材料を使用した。
【0032】
<使用材料>
セメント:早強ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製)
高性能減水剤:マイティ100(花王社製)
シーカメントFF86/100(日本シーカ社製)
短繊維:ビニロン繊維(クラレ社製)
消泡剤:アデカネートB−211F(旭電化工業社製)
スラグ粉末(高炉スラグ):高炉スラグ粉末(住友金属社製)
石炭灰:フライアッシュ(九州電力社製)
水:上水
そして、次に示す試験方法で試験を行った。
【0033】
(3)試験方法
本発明のセメントスラリーたる実施例6〜10と、これら実施例と比較するためのセメント組成物たる比較例1〜5とを生成すべく、回転数1100rpmのハンドミキサーを使用し、表1の配合で、水に混合粉体(セメント、高性能減水剤、短繊維、消泡剤、スラグ粉末、石炭灰)を投入し、3分間混練りした。次に、実施例6〜10及び比較例1〜5に係るセメント組成物を、図1、図2に示すプレート1の形状に成形できる弾性体型枠に、混練り物を流し込み、翌日まで養生した後、脱型した。成形及び養生は、20℃85%RH中で行った。そして、混練り時の練り性と、脱型時の充填性及び突起部の破損状況を目視で確認し、評価した。
【0034】
また、JIS R 5201(セメントの物理試験方法)の10(強さ試験)に準じて、材齢1、28日の曲げ強度及び圧縮強度を測定した。なお、実施例8〜10と比較例3、4及び5とについて曲げ強度及び圧縮強度の測定を行い、実施例6、7及び比較例1、2については測定を省略している。評価結果及び測定結果を表2に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
比較例1について、破損は無く、充填性及び混練り性も良好であるが、エコマーク認定に必要な廃棄物添加量の基準をクリアしていない。
【0038】
比較例2について、エコマーク認定に必要な廃棄物添加量の基準をクリアし、充填性も良好であるが、破損があり、また、混練り性も良好でない。
【0039】
比較例3について、エコマーク認定に必要な廃棄物添加量の基準をクリアしているが破損があり、充填性及び混練り性が良好でない。
【0040】
比較例4について、エコマーク認定に必要な廃棄物添加量の基準をクリアし、また、充填性及び混練り性も良好であるが、破損が見られる。
【0041】
比較例5について、エコマーク認定に必要な廃棄物添加量の基準をクリアしているが、破損があり、また、充填性及び混練り性も良好でない。
【0042】
一方、本発明のセメントスラリーたる実施例6及び実施例7について、充填性及び混練り性が良好でないものの、エコマーク認定に必要な廃棄物添加量の基準をクリアし破損もない。
【0043】
また、本発明のセメントスラリーたる実施例8〜10は、表2からも明らかなように、エコマーク認定に必要な廃棄物添加量の基準をクリアし、破損も無く、また、充填性及び混練り性も良好である。
【0044】
また、実施例8〜10は、強度においても、材齢1日の曲げ強度で4N/mm2、圧縮強度で15N/mm2を超える値となり、セメント二次製品製造時に必要な強度が十分に確保されており、また、材齢28日の曲げ強度で7N/mm2、圧縮強度で40N/mm2を超える値となり、製品として十分な強度を有している。
【0045】
すなわち、セメントスラリー100重量部に対して石炭灰と高炉スラグの合計重量が60重量部以上で、かつセメントスラリー100重量部に対して石炭灰35〜55重量部、高炉スラグ10〜25重量部、セメント10〜20重量部、及び石炭灰と高炉スラグとセメントの合計量100重量部に対して高性能減水剤0.01〜1.5重量部、比重1.0〜3.0の短繊維0.1〜3.0重量部から成る、セメントスラリーによれば、大量のJIS規格外の石炭灰を使用して環境問題に対応した、なおかつ成形性と耐久性に優れたセメント二次製品たるプレート1を提供することができる。
【0046】
また、前記高炉スラグを、前記セメントスラリー100重量部に対して15〜25重量部とすれば、混練り性及び充填性を向上することができる。
【0047】
また、前記短繊維を、前記石炭灰と高炉スラグとセメントの合計量100重量部に対して、0.1〜1.0重量部とすれば、同様に、混練り性及び充填性を向上することができる。
【0048】
なお、本発明は、以上に詳述した実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態におけるセメント二次製品を示す全体斜視図。
【図2】同実施形態におけるセメント二次製品を示す平面図および側面図。
【符号の説明】
【0050】
1・・・・セメント二次製品(プレート)
13・・・突起(ボルト状突起部)
14・・・突起(自然石状突起部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄部を有するセメント二次製品の成形に用いられ、セメント、石炭灰、高炉スラグ、高性能減水剤、短繊維及び水を含有するセメントスラリーであって、
セメントスラリー100重量部に対して石炭灰と高炉スラグの合計重量が60重量部以上で、かつセメントスラリー100重量部に対して石炭灰35〜55重量部、高炉スラグ10〜25重量部、セメント10〜20重量部、及び石炭灰と高炉スラグとセメントの合計量100重量部に対して高性能減水剤0.01〜1.5重量部、比重1.0〜3.0の短繊維0.1〜3.0重量部から成ることを特徴とするセメントスラリー。
【請求項2】
前記高炉スラグを、前記セメントスラリー100重量部に対して15〜25重量部としたことを特徴とする請求項1記載のセメントスラリー。
【請求項3】
前記短繊維を、前記石炭灰と高炉スラグとセメントの合計量100重量部に対して、0.1〜1.0重量部としたことを特徴とする請求項1記載のセメントスラリー。
【請求項4】
前記高性能減水剤が、ナフタレンスルフォン酸塩、メラミンスルフォン酸塩及びポリカルボン酸塩のうち1種類若しくは2種類以上よりなる請求項1乃至3いずれか記載のセメントスラリー。
【請求項5】
前記短繊維が、ビニロンよりなる請求項1乃至4いずれか記載のセメントスラリー。
【請求項6】
石炭灰を、セメントスラリー100重量部に対して石炭灰と高炉スラグの合計重量が60重量部以上で、かつセメントスラリー100重量部に対して石炭灰35〜55重量部、高炉スラグ10〜25重量部、セメント10〜20重量部、及び石炭灰と高炉スラグとセメントの合計量100重量部に対して高性能減水剤0.01〜1.5重量部、比重1.0〜3.0の短繊維0.1〜3.0重量部と成るよう調整し、これを薄部を有するセメント二次製品の成形に用いることを特徴とする石炭灰の利用方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−282406(P2006−282406A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100844(P2005−100844)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【Fターム(参考)】