説明

セメントパネルの製造方法

【課題】 湾曲した形状を有している場合でも、厚さが均一で、かつ、強度の高いセメントパネルを製造可能な方法を提案すること。
【解決手段】 湾曲したセメントパネル10′を製造するにあたって、セメントスラリーを成形して平板状の成形体10を形成した後、多数の孔が開口する吸着面を備えた減圧吸着装置5によって成形体10を吸着保持して成形体10を型部材3の凸曲面35上に載置し、成形体10をその自重により湾曲させた後、硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントを主原料とするセメントパネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、セメントを主原料とするブロックやパネルなどのセメント製品は、型枠内や平型枠内にセメントスラリーを流し込み、それを型内で乾燥、硬化させる方法が一般的である。従って、このような方法で湾曲した形状のセメントパネルを製造するには、型枠の内側に湾曲面を形成しておき、そこにセメントスラリーを流し込むことになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の製造方法では、湾曲した形状のセメントパネルを製造する際に、以下に挙げるような問題が発生する。
【0004】
まず、型枠を用いた製造方法では、狭くて湾曲した隙間内にセメントスラリーを流し込むため、気泡が混入しやすく、かつ、型枠内にセメントスラリーを注入した後、気泡を除去することが困難である。特に、製造しようとするセメントパネルの厚さが薄いほど隙間が狭くなるので、このような問題は顕著となる。それ故、この方法で製造したセメントパネルには、気泡による空洞が多数発生し、強度が低いという問題点がある。
【0005】
一方、平型枠を用いた製造方法では、型枠を用いた場合に比べて、気泡が混入しにくく、かつ、セメントスラリーを流し込んだ後、振動などを加えれば、気泡を容易に除去することができるという利点がある。しかしながら、湾曲した形状のセメントパネルを製造する際に用いられる平型枠では、その底面部が湾曲しているため、厚さが一定になるようにスランプの低いセメント材料を用いることになるが、このようなセメント材料を用いた場合でも、振動を加えて気泡を除去しようとするとセメントスラリーに流動が起こり、セメントパネルの厚さが不均一になってしまうという問題がある。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、湾曲した形状を有している場合でも、厚さが均一で、かつ、強度の高いセメントパネルを製造可能な方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解消するために、本発明では、湾曲したセメントパネルを製造するにあたって、セメントスラリーを成形して平板状の成形体を形成する成形工程と、前記成形体を型部材の湾曲成形面上に載置し、前記成形体をその自重により前記湾曲成形面に沿って湾曲させる湾曲工程と、前記湾曲成形面上で前記成形体を硬化させる硬化工程とを行うことを特徴とする。
【0008】
本発明では、セメントスラリーを成形して平板状の成形体を形成した後、この成形体を未硬化あるいは半硬化の状態で型部材の湾曲成形面上に載置する。その結果、成形体は、その自重により湾曲成形面に沿って湾曲するので、それを硬化させれば、湾曲したセメントパネルを製造できる。このように本発明によれば、セメントスラリーから成形体を形成する際には、通常の平型枠などを用いればよいので、成形体内に気泡が混入しにくく、かつ、気泡が混入した場合でも振動を加えるだけで気泡を除去できる。従って、本発明に係る方法で製造したセメントパネルには、気泡に起因する空洞が発生しにくいので、強度が高い。また、本発明では、セメントスラリーから成形体を形成した後、湾曲させるので、セメントスラリーを流し込む平型枠の底面部が湾曲している必要がない。それ故、スランプの高いセメント材料を用いることができ、かつ、このようなセメント材料を用いた場合でも、振動を加えて気泡を除去しようとした際、セメントスラリーの流動によって成形体の厚さが不均一になることがない。よって、本発明によれば、厚さが均一なセメントパネルを製造することができる。
【0009】
本発明において、前記湾曲工程では、前記成形体を前記湾曲成形面上に載置する際、多数の孔が開口する吸着面を備えた減圧吸着装置によって前記成形体の上面を吸着保持して当該成形体を前記湾曲成形面上に搬送した後、前記減圧吸着装置による吸着を解除することが好ましい。このような方法で成形体を扱えば、成形体が未硬化あるいは半硬化の状態でも、成形体を容易に取り扱うことができ、かつ、成形体が崩れることもない。
【0010】
本発明において、前記湾曲工程では、前記減圧吸着装置によって前記成形体の上面を吸着する際、当該成形体の下面にシートを積層しておき、前記成形体を前記湾曲成形面上に載置する際、前記シートも前記湾曲成形面上に載置することが好ましい。このように構成すると、減圧吸着装置によって成形体を吸着、保持した際、シートによって減圧状態が確実に維持されるので、減圧吸着装置によって成形体を確実に吸着、保持することができる。
【0011】
本発明において、前記成形工程では、前記成形体を形成する際、平型枠の底面に前記シートを配置しておき、当該シート上に前記セメントスラリーを供給することが好ましい。このように構成すると、減圧吸着装置によって成形体を吸着する際、成形体の下面にシートを積層する手間を省くことができる。
【0012】
本発明において、前記成形工程では、前記平型枠の底面に前記シートを配置する際、当該シートを、上面に通気口が開口する基台上に配置することが好ましい。このように構成すると、減圧吸着装置によって成形体を吸着、保持する際、シートを基台から容易に離脱させることができる。
【0013】
本発明において、前記減圧吸着装置によって前記成形体の上面を吸着することにより前記成形体から水分を部分的に除去して前記成形体の脱水を行うことが好ましい。このように構成すると、セメントスラリーを成形して平板状の成形体を形成した後、成形体を搬送しながら脱水工程を行うことができる。
【0014】
本発明において、前記湾曲成形面は、中央が盛り上がった凸状湾曲面であり、前記湾曲工程では、前記成形体を前記湾曲成形面上に載置する際、前記湾曲成形面上に楔状のスペーサ部材を載置して前記型部材の上面側を平面にしておき、前記スペーサ部材の上面側に前記成形体を載置した後、前記型部材と前記成形体との間から前記スペーサ部材を引き抜くことが好ましい。このように構成すると、減圧吸着装置による吸着を解除して減圧吸着装置から未硬化あるいは半硬化の成形体を離脱させる場合、成形体が平面に載置されることになるので、成形体を直接、湾曲成形面上に載置する場合と比較して、成形体が崩れることをより確実に防止することができる。
【0015】
本発明において、前記湾曲成形面は、中央が凹んだ凹状湾曲面であり、前記型部材は、上面に前記凹状湾曲面を構成する楔状の型部材であり、前記湾曲工程では、平面上に前記成形体を載置した後、当該平面と前記成形体との間に前記型部材を挿入することが好ましい。このように構成すると、減圧吸着装置による吸着を解除して減圧吸着装置から未硬化あるいは半硬化の成形体を離脱させる場合、成形体が平面に載置されることになるので、成形体を直接、湾曲成形面上に載置する場合と比較して、成形体が崩れることをより確実に防止することができる。
【0016】
本発明において、前記成形工程では、前記成形体中に、補強繊維がクロス状に編まれた補強繊維シートを少なくとも1枚埋設させることが好ましい。
【0017】
本発明において、前記成形工程では、前記セメントスラリー中に炭素繊維を分散させておくことが好ましい。この場合、前記炭素繊維は、長さが2mm以下、かつ、直径が15μm以下の炭素短繊維であることが好ましい。炭素繊維をセメント組成物に混入すると、その物性、特に曲げ強度の向上が図れるが、このような用途において、一般的に、炭素繊維の長さが長いほど物性は向上すると言われており、一般に使用されている炭素繊維の長さは3mm以上のものが多く、一般に市販されている炭素短繊維の多くは、長さが3mm〜30mmのものである。しかしながら、長さが3mm〜30mmの炭素繊維をセメントスラリー中に配合すると、0.3%あるいは0.5%程度から、炭素繊維同士が絡み合って団塊となった部分(以下、ファイバーボールという)の発生がみられ、均一な分散が困難である。その結果、ファイバーボールが発生した部分では、強度がほとんど無くなるため、炭素繊維入りセメントスラリーは、薄板の製造に適していない。しかるに、このような技術的思想とは反対に、セメントに混入する炭素短繊維を極微細(長さ2.0mm以下、直径15μm以下)にすれば、炭素短繊維を多量に配合しても、ファイバーボールが発生せず、今まで以上の曲げ強度や圧縮強度を確保できるという知見を得た。また、セメントスラリー中に従来の炭素短繊維を混入すると、炭素短繊維同士の絡みつきが原因で、粘り以外の性状変化を起こしやすいが、炭素短繊維を極微細にすると、セメントスラリーの性状が低下することがなく、かつ、セメントスラリーの硬化時における収縮が極端に減るため、寸法精度の良い製品を得ることができることが確認できた。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、湾曲した形状のセメントパネルを製造するにあたって、セメントスラリーを成形して平板状の成形体を形成した後、この成形体を未硬化あるいは半硬化の状態で型部材の湾曲成形面上に載置する。その結果、成形体は、その自重により湾曲成形面に沿って湾曲するので、それを硬化させれば、湾曲したセメントパネルを製造できる。このように本発明によれば、セメントスラリーから成形体を形成する際には、通常の平型枠などを用いればよいので、成形体内に気泡が混入しにくく、かつ、気泡が混入した場合でも振動を加えるだけで気泡を除去できる。従って、本発明に係る方法で製造したセメントパネルには、気泡に起因する空洞が発生しにくいので、強度が高い。また、本発明では、セメントスラリーから成形体を形成した後、湾曲させるので、セメントスラリーを流し込む平型枠の底面部が湾曲している必要がない。それ故、スランプの高いセメント材料を用いることができ、かつ、このようなセメント材料を用いた場合でも、振動を加えて気泡を除去しようとした際、セメントスラリーの流動によって成形体の厚さが不均一になることがない。よって、本発明によれば、厚さが均一なセメントパネルを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したセメントパネル製造装置およびセメントパネルの製造方法の一例を説明する。
【0020】
[実施の形態1]
(セメントパネル製造装置の構成)
図1は、本発明の実施の形態1に係るセメントパネル製造装置の概略斜視図である。
【0021】
図1において、本形態のセメントパネル製造装置1は、湾曲した形状のセメントパネルを製造するものであり、セメントスラリーから平板状の成形体を形成するための平型枠2と、所望の凸曲面35(湾曲成形面)を上面に備えた型部材3と、平型枠2で形成した成形体を未硬化あるいは半硬化の状態で型部材3まで搬送するための搬送機構4とを有している。
【0022】
平型枠2では、セメントスラリーから平板状の成形体を成形する際、その底面にはシート8が配置される。このシート8は、耐水性の他に、可撓性も備えており、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、アクリル、ポリカーボネート、フッ素樹脂などの樹脂製シートを用いることができる。耐水性と可撓性とを備えていれば、ベニヤ板や厚紙などに耐水加工を施したものを用いてもよい。また、平型枠2が配置される基台60の上面には、外部と連通する複数の通気口61が開口している。通気口61には不図示の空気供給機構を接続して、通気口61から空気を放出するように構成してもよい。
【0023】
本形態では、型部材3の他にも、一対の楔状のスペーサ部材71、72が用いられる。これらのスペーサ部材71、72はいずれも、上面71a、72aが平面であるが、下面は、型部材3の凸曲面35に対応する凹曲面になっている。このため、型部材3の凸曲面35の上にスペーサ部材71、72を被せると、型部材3の上方に平面が形成されることになる。
【0024】
本形態において、搬送機構4は、減圧吸着装置5と、この減圧吸着装置5を上下および水平方向に移動させる駆動装置(図示せず)とを有している。減圧吸着装置5は、上面中央に真空吸引口511が開口している金属製のプレート51と、このプレート51の下面に取り付けられた吸引パッド52と、プレート51の真空吸引口511に接続された真空吸引機構(図示せず)とを有している。吸引パッド52には、その厚さ方向に貫通する多数の孔が形成されており、これらの孔は、プレート51の真空吸引口511に繋がっている。従って、後述するように、吸引パッド52を成形体の上面に密着させて真空吸引すれば、成形体を吸着保持することができる。なお、本形態では、未硬化あるいは半硬化の状態の成形体を吸着保持するため、吸引パッド52については、成形体を吸着保持した際に、成形体が壊れないように、かつ、セメント材料が吸引されて成形体から離脱しないように、孔の径や配置位置などが設定されている。また、吸引パッド52は、成形体の上面全体を覆うことのできる大きさを備えている。
【0025】
(セメントパネルの製造方法)
図2(a)ないし(e)は、本発明を適用したセメントパネルの製造方法を示す説明図である。
【0026】
図1および図2を参照して説明すると、上方が凸の一定厚のセメントパネルを製造するに当たっては、本形態では、まず、図2(a)に示す成形工程において、セメント材料、水、その他の材料を配合したセメントスラリーを平型枠2に打設し、平板状の成形体10を形成する。その際、平型枠2内のセメントスラリーに振動を加えてセメントスラリーに混入している気泡を取り除くとともに、成形体10が一定の厚さになるようにセメントスラリーの上面をブレードなどで均す。なお、平型枠2の底面にはシート8を配置しておく。
【0027】
次に、成形体10に対する湾曲工程では、まず、成形体10を未硬化のまま、あるいは半硬化させた後、図2(b)に示すように、搬送機構4において、減圧吸着装置5を下降させて減圧吸着装置5を成形体10の表面に密着させる。この状態で、真空吸引機構(図示せず)を作動させて、減圧吸着装置5によって成形体10を吸引保持する。なお、この作業の前に平型枠2を取り外しておくことが望ましい。ここで、成形体10を半硬化状態とするには、平型枠2内で放置してもよいが、平型枠2から外した成形体10を複数枚、一括して保管しておき、所定のタイミングで次の工程に移せばよい。次に、搬送機構4において、図2(c)に示すように、減圧吸着装置5を上昇させた後、水平移動および下降させて成形体10をスペーサ部材71、72の上面71a、72aまで搬送し、次に、吸着保持を解除した後、図2(d)に示すように、減圧吸着装置5を上昇させる。その結果、成形体10がスペーサ部材71、72の上面71a、72a(平面)に載置される。その間、シート8は、成形体10の下面に積層された状態にある。次に、スペーサ部材71、72を、基台70上をスライドさせて成形体10と型部材3との間から引き抜く。その結果、図2(e)に示すように、未硬化あるいは半硬化の状態の成形体10は、自重により、シート8とともに型部材3の凸曲面35に沿って湾曲する。
【0028】
しかる後に、硬化工程において、成形体10を硬化させれば、上方に湾曲した一定厚のセメントパネル10′を得ることができる。
【0029】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、湾曲した形状のセメントパネル10′を製造するにあたって、セメントスラリーを成形して平板状の成形体10を形成した後、この成形体10を未硬化あるいは半硬化の状態で型部材3の凸曲面35(湾曲成形面)に載置する。その結果、成形体10は、その自重により凸曲面35に沿って湾曲するので、それを硬化させれば、湾曲したセメントパネル10′を製造できる。このように本形態によれば、セメントスラリーから成形体10を形成する際には、通常の平型枠2を用いればよいので、成形体10内に気泡が混入しにくく、かつ、気泡が混入した場合でも振動を加えるだけで気泡を除去できる。従って、本形態に係る方法で製造したセメントパネル10′には、気泡に起因する空洞が発生しにくいので、強度が高い。また、本形態では、セメントスラリーから成形体10を形成した後、湾曲させるので、底面部が湾曲している型部材を用いる必要がない。それ故、スランプの低いセメント材料、およびスランプの高いセメント材料のいずれをも用いることができ、かつ、このようなセメント材料を用いた場合でも、振動を加えて気泡を除去しようとした際、セメントスラリーの流動によって成形体の厚さが不均一になることがない。よって、本発明によれば、厚さが均一なセメントパネル10′を製造することができる。
【0030】
また、湾曲工程において、成形体10を型部材3の凸曲面35上に載置する際、凸曲面35上に楔状のスペーサ部材71、72を載置して型部材3の上面側を平面にしておくので、減圧吸着装置5による吸着を解除して減圧吸着装置5から未硬化あるいは半硬化の成形体10を離脱させる場合、成形体10が平面に載置されることになる。それ故、成形体10を直接、凸曲面35上に載置する場合と比較して、成形体10が崩れることをより確実に防止することができる。
【0031】
さらに、湾曲工程において、成形体10を型部材3に載置する際、多数の孔が開口する吸着面を備えた減圧吸着装置5によって成形体10の上面を吸着保持し、搬送する。従って、成形体10が未硬化あるいは半硬化の状態でも、成形体10を容易に取り扱うことができ、かつ、成形体10が崩れることもない。しかも、減圧吸着装置5によって成形体10の上面が吸着されるので、成形体10から水分が除去され、成形体10の脱水が行われる。従って、成形体10を搬送しながらその脱水工程を同時に行うことができる。
【0032】
また、減圧吸着装置5によって成形体10の上面を吸着する際、成形体10の下面にシート8が積層されているので、成形体10を吸着、保持した際、シート8によって減圧状態が確実に維持されるので、減圧吸着装置5によって成形体10を確実に吸着、保持することができる。また、成形体10は、下面にシート8が積層された状態でスペーサ部材71、72の上に配置されるので、スペーサ部材71、72をスムーズに引き抜くことができ、成形体10が崩れることがない。しかも、シート8は、成形体10を形成する際、平型枠2の底面に配置されるので、減圧吸着装置5によって成形体10を吸着する際、成形体10の下面にシート8を積層する手間を省くことができる。また、平型枠2の底面にシート8を配置した際、シート8は、上面に通気口61が開口する基台60上に配置されるため、減圧吸着装置5によって成形体10を吸着、保持する際、シート8と基台60との間に空気が容易に入り込むので、シート8を基台60から容易に離脱させることができる。
【0033】
[実施の形態2]
図3は、本発明の実施の形態2に係るセメントパネル製造装置の概略斜視図である。図4(a)ないし(e)は、本発明の実施の形態2に係るセメントパネルの製造方法を示す説明図である。なお、本形態は、基本的な構成が実施の形態1と同様であるため、共通する部分については同一の符号を付して図示することにして、それらの説明を省略する。
【0034】
図3において、本形態のセメントパネル製造装置1は、下方に湾曲した一定厚のセメントパネルを製造するものであり、平型枠2と、所望の凹曲面95(湾曲成形面)を上面に備えた型部材9と、平型枠2で形成した成形体を未硬化あるいは半硬化の状態で型部材3まで搬送するための搬送機構4とを有している。本形態でも、実施の形態1と同様、平型枠2では、セメントスラリーから平板状の成形体を成形する際、その底面にはシート8が配置される。また、平型枠2が配置される基台60の上面には、外部と連通する複数の通気口61が開口している。
【0035】
本形態において、型部材9は、上面に凹曲面95(凹状湾曲面)を構成する一対の楔状の型部材92、93とから構成され、これらの型部材92、93は、上面が平面の基台70上に配置されている。
【0036】
このように構成したセメントパネル製造装置を用いてセメントパネルを製造する方法を、図3および図4を参照して説明する。まず、本形態では、実施の形態1と同様、図4(a)に示す成形工程において、セメント材料、水、その他の材料を配合したセメントスラリーを平型枠2に打設し、平板状の成形体10を形成する。その際、平型枠2の底面にはシート8を配置しておく。
【0037】
次に、成形体10に対する湾曲工程では、まず、成形体10を未硬化のまま、あるいは半硬化させた後、図4(b)、(c)、(d)に示すように、搬送機構4の減圧吸着装置5によって成形体10をシート8とともに吸着保持して成形体10を基台70の上面(平面)に載置する。次に、型部材92、93を、基台70上をスライドさせて、成形体10と基台70上との間に差し込む。その結果、図4(e)に示すように、未硬化あるいは半硬化状態の成形体10は、自重により、シート8とともに型部材92、93の凹曲面95に沿って湾曲する。
【0038】
しかる後に、硬化工程において、成形体10を硬化させれば、凹状に湾曲した一定厚のセメントパネル10′を得ることができる。
【0039】
このように構成した場合も、セメントスラリーから成形体10を形成する際には、通常の平型枠2を用いればよいので、成形体10内に気泡が混入しにくく、かつ、気泡が混入した場合でも振動を加えるだけで気泡を除去できる。従って、本形態に係る方法で製造したセメントパネル10′には、気泡に起因する空洞が発生しにくいので、強度が高い。また、本形態では、セメントスラリーから成形体10を形成した後、湾曲させるので、底面部が湾曲している型部材を用いる必要がないので、厚さが均一なセメントパネル10′を製造することができるなど、実施の形態1と同様な効果を奏する。
【0040】
また、湾曲工程において、成形体10を凹曲面95上に載置する際、型部材92、93を外して、成形体10の載置面を平面(基台70の上面)にしておくので、減圧吸着装置5による吸着を解除して減圧吸着装置5から未硬化あるいは半硬化の状態の成形体10を離脱させる際、成形体10が崩れることを確実に防止することができる。
【0041】
[他の実施の形態]
図5は、本発明で用いた炭素短繊維のセメントスラリーへの混入前の状態を拡大して示す説明図である。図6は、本発明に係る炭素繊維補強セメントパネル中に炭素短繊維が分散している状態を拡大して示す説明図である。図7は、本発明を適用した炭素繊維補強セメントパネルにおいて、補強繊維シートと炭素繊維補強セメント組成物とが一体化している様子を模式的に示す説明図である。図8(a)、(b)は、本発明を適用した炭素繊維補強セメントパネルではクラックが入ったときでも層間剥離が発生しない様子を模式的に示す説明図、および従来の炭素繊維補強セメントパネルにクラックが入ったときに層間剥離が発生する様子を模式的に示す説明図である。
【0042】
上記実施の形態で用いるセメントスラリーとしては、炭素繊維などが配合されていないもの、炭素繊維が配合されているもののいずれを用いてもよい。但し、炭素繊維を配合する場合には、炭素繊維として、長さが2mm以下、かつ、直径が15μm以下の炭素短繊維を用いることが好ましい。このような炭素短繊維のセメントスラリーへの混入前の状態における拡大写真を図5に示し、セメントパネルに混入した後の炭素短繊維の状態の拡大写真を図6に示す。このような炭素短繊維の配合量は、セメントに対して0.3%以上、好ましくは0.5%以上であることが好ましい。配合量が0.3%未満ではその効果が十分でない。また、0.5%以上であれば、強度などの向上が顕著である。ここで、炭素短繊維の長さは、0.2mm以上、かつ、1.5mm以下であることが好ましい。炭素短繊維の長さが0.2mm未満のものは取扱いにくく、かつ1.5mmを超えると、高濃度に配合した際、ファイバーボールが発生するおそれがある。また、炭素短繊維の径は10μm以下であることが好ましく、このような炭素短繊維によれば、セメントスラリー中での炭素短繊維の分散性などをより向上することができる。例えば、直径が7μm、長さが0.2mm以上、かつ、1.5mm以下の炭素短繊維を用いると、セメントに対して3%〜8%といった高い濃度で炭素繊維を配合しても、ファイバーボールが発生せず、得られた炭素繊維補強セメント組成物としては、破壊曲げ強度で30N/mm2以上、圧縮強度では100N/mm2以上の炭素繊維補強セメント組成物を得ることができる。よって、トンネルなどコンクリート施設の補強工事において補強パネルの板厚を従来品の2分の1程度まで薄くできるため、従来では建築限界を超えるために不可能であった補強工事等にも有効な手段となり得る。
【0043】
また、本発明では、成形工程において、成形体10の中に、補強繊維がクロス状に編まれた補強繊維シートを埋設させてもよい。このような補強セメントパネルでは、補強繊維が編まれた補強繊維シートが埋設されているため、曲げ強度を向上でき、かつ、クラックの発生を確実に防止することができる。その場合、成形工程では、セメントスラリーを敷設する第1の工程と、このセメントスラリー上に補強繊維シートを敷設する第2の工程と、補強繊維シートの上に前記のセメントスラリーを敷設する第3の工程とを行う。その結果、補強繊維シートが1枚、埋設された成形体10を得ることができる。成形体10中に補強繊維シートを複数枚、埋設させるには、前記第1の工程と前記第2の工程をこの順に少なくとも2回繰り返した後、前記第3の工程を行えばよい。なお、補強繊維シートとしては、天然繊維あるいは合成繊維を編んだものを用いることができるが、補強繊維シートとして、炭素繊維からなるものを用いれば、セメントパネルの強度をさらに向上することができる。
【0044】
ここで、補強繊維シートと前記の炭素繊維とを併用する場合には、セメントスラリーに添加した炭素短繊維の長さ寸法より6倍以上の間隔をもって補強繊維が編まれた補強繊維シートを用いればよい。逆にいえば、補強繊維シートにおける補強繊維の間隔の1/6倍以下の長さの炭素短繊維を用いることが好ましい。このように構成すると、炭素短繊維入りのセメントスラリーは、炭素短繊維とともに補強繊維シートの狭い間隙を自由に移動できるので、硬化後、図7に模式的に示すように、補強繊維シートと炭素繊維補強セメント組成物とが一体化し、剥離などが発生しない。すなわち、図8(a)に示すように、このように構成した炭素繊維補強セメントパネルでは、たとえクラックが発生した場合でも、補強繊維シートを境にした剥離が発生せず、優れた強度を示す。よって、トンネルなどコンクリート施設の補強工事において補強パネルの板厚を従来品の2分の1程度まで薄くできるため、従来では建築限界を超えるために不可能であった補強工事等にも有効な手段となり得る。それに比較して、補強繊維の間隔(11mm)に対して、例えば、長さが1/6倍以上(5mm、10.0mm)の炭素短繊維を用いた場合には、図8(b)に示すように、クラックが入った際、補強繊維シートを境にした層間剥離が発生し、補強繊維シートよりも表面側が脱落しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態1に係るセメントパネル製造装置の概略斜視図である。
【図2】(a)ないし(e)は、本発明の実施の形態1に係るセメントパネルの製造方法を示す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係るセメントパネル製造装置の概略斜視図である。
【図4】(a)ないし(e)は、本発明の実施の形態2に係るセメントパネルの製造方法を示す説明図である。
【図5】本発明で用いた炭素短繊維のセメントスラリーへの混入前の状態を拡大して示す説明図である。
【図6】本発明に係る炭素繊維補強セメントパネル中に炭素短繊維が分散している状態を拡大して示す説明図である。
【図7】本発明を適用した炭素繊維補強セメントパネルにおいて、補強繊維シートと炭素繊維補強セメント組成物とが一体化している様子を模式的に示す説明図である。
【図8】(a)、(b)は、本発明を適用した炭素繊維補強セメントパネルではクラックが入ったときでも層間剥離が発生しない様子を模式的に示す説明図、および従来の炭素繊維補強セメントパネルにクラックが入ったときに層間剥離が発生する様子を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0046】
1 セメントパネル製造装置
2 平型枠
3、92、93 型部材
5 減圧吸着装置
8 シート
35 凸曲面(湾曲成形面)
60、70 基台
61 通気部
71、72 スペーサ部材
71a、72a スペーサ部材の上面
95 凹曲面(湾曲成形面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲したセメントパネルを製造するにあたって、
セメントスラリーを成形して平板状の成形体を形成する成形工程と、
前記成形体を型部材の湾曲成形面上に載置し、前記成形体をその自重により前記湾曲成形面に沿って湾曲させる湾曲工程と、
前記湾曲成形面上で前記成形体を硬化させる硬化工程と
を行うことを特徴とするセメントパネルの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記湾曲工程では、前記成形体を前記湾曲成形面上に載置する際、多数の孔が開口する吸着面を備えた減圧吸着装置によって前記成形体の上面を吸着保持して当該成形体を前記湾曲成形面上に搬送した後、前記減圧吸着装置による吸着を解除することを特徴とするセメントパネルの製造方法。
【請求項3】
請求項2において、前記湾曲工程では、前記減圧吸着装置によって前記成形体の上面を吸着する際、当該成形体の下面にシートを積層しておき、前記成形体を前記湾曲成形面上に載置する際、前記シートも前記湾曲成形面上に載置することを特徴とするセメントパネルの製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記成形工程では、前記成形体を形成する際、平型枠の底面に前記シートを配置しておき、当該シート上に前記セメントスラリーを供給することを特徴とするセメントパネルの製造方法。
【請求項5】
請求項4において、前記成形工程では、前記平型枠の底面に前記シートを配置する際、当該シートを、上面に通気口が開口する基台上に配置することを特徴とするセメントパネルの製造方法。
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれかにおいて、前記減圧吸着装置によって前記成形体の上面を吸着することにより前記成形体から水分を部分的に除去して前記成形体の脱水を行うことを特徴とするセメントパネルの製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかおいて、前記湾曲成形面は、中央が盛り上がった凸状湾曲面であり、
前記湾曲工程では、前記成形体を前記湾曲成形面上に載置する際、前記湾曲成形面上に楔状のスペーサ部材を載置して前記型部材の上面側を平面にしておき、前記スペーサ部材の上面側に前記成形体を載置した後、前記型部材と前記成形体との間から前記スペーサ部材を引き抜くことを特徴とするセメントパネルの製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、前記湾曲成形面は、中央が凹んだ凹状湾曲面であり、前記型部材は、上面に前記凹状湾曲面を構成する楔状の型部材であり、
前記湾曲工程では、平面上に前記成形体を載置した後、当該平面と前記成形体との間に前記型部材を挿入することを特徴とするセメントパネルの製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかにおいて、前記成形工程では、前記成形体中に、補強繊維がクロス状に編まれた補強繊維シートを少なくとも1枚埋設しておくことを特徴とするセメントパネルの製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、前記成形工程では、前記セメントスラリー中に炭素繊維を分散させておくことを特徴とするセメントパネルの製造方法。
【請求項11】
請求項10において、前記炭素繊維は、長さが2mm以下、かつ、直径が15μm以下の炭素短繊維であることを特徴とするセメントパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−181924(P2006−181924A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379245(P2004−379245)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(505003894)
【出願人】(505003919)
【出願人】(505003920)
【出願人】(505003931)
【出願人】(505005371)
【Fターム(参考)】