説明

セメント分散剤、コンクリート混和剤およびセメント組成物

【課題】他のセメント吸着成分やコンクリートの改質を目的として添加される混和剤を含む様々なセメント混和剤によって吸着を阻害されにくく、高い流動性、作業性を発揮でき、安価なAE減水剤を高配合できるセメント混和剤、さらには、これらのセメント混和剤を使用して成る、セメント組成物、さらには、該組成物を用いたセメント構造物を提供することにある。
【解決手段】共重合体および/またはその塩を主成分とするセメント混和剤であって、共重合体を構成するポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体のオキシアルキレン基の平均付加モル数mが1〜25であり、共重合体の重量平均分子量が10000〜45000の範囲内にあり、かつ、セメント吸着成分および/またはセメント吸着阻害成分を併用可能なセメント混和剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント混和剤、コンクリート混和剤およびセメント組成物に関する。さらに詳しくは、セメントペースト、モルタル、コンクリートといったいわゆるセメント配合物において、セメントの分散性能を向上させて、その流動性を高め、良好な作業性を与えるセメント分散剤またはおよび該セメント分散剤を含有してなるコンクリート混和剤またはセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの施工性ならびに耐久性を向上させるためには、コンクリート中の単位水量を減らすことが有効である。しかしながら、単位水量を減少させると、コンクリートの流動性が低下し、作業性を損なうことが知られている。そのため、単位水量を減少した際にも、コンクリートの効率的な作業性を確保するためには、セメント粒子を分散させる働きを持つ様々な分散剤が使用されている。
【0003】
このような分散剤としては、リグニンスルホン酸系やオキシカルボン酸系などのAE減水剤や、ナフタレンスルホン酸系や、アミノスルホン酸系、ポリカルボン酸系などの高性能AE減水剤が市販されている。これらの中でも、グラフト鎖にオキシアルキレン基などを持つ水溶性カルボン酸系ポリマーを主成分としたポリカルボン酸系高性能AE減水剤は、最も高い減水率を得られるという優れた特徴が知られている(特許文献1〜4)。したがって、高性能AE減水剤は、水/セメント比が低く、単位水量の低い、より高い減水率が要求される領域で使用されてきた。
【0004】
しかし、近年では、コンクリート用骨材やセメントの品質低下が進行し、高性能AE減水剤が汎用されるようになってきている。これは、モルタルやコンクリートは、材料の僅かな質の違いによって影響を受けるため、材料の質によっては、十分な流動性を得られなかったり、練り上がりのコンクリート粘性が増大したりするなど、作業性が悪化する諸問題が生じるためである。
【0005】
環境問題にともなった天然骨材の枯渇問題により、従来の良質な川砂、川砂利、海砂などが供給困難となり、砕砂、砕石などをコンクリート用骨材として使用されていることや、廃棄物ゼロエミッションなどの環境負荷低減への取り組みとして、石炭灰や溶融スラグの混入、焼却灰からの原料抽出、再生骨材といった再生材料の利用が加速しているため、高性能AE減水剤の適用範囲がますます拡大している。
【0006】
この様な背景、ならびに、高性能AE減水剤の技術進歩による安価高性能減水剤の出現によって、従来は、リグニンスルホン酸系などのAE減水剤が使用されていた減水率10〜20%の領域においても、最も高い減水率を得られるポリカルボン酸系などの高性能AE減水剤が使用されるようになってきている。しかし、高性能AE減水剤は、AE減水剤よりも高価であり、比較的減水率の低いAE減水剤使用領域では使用し難いため、高性能AE減水剤から発揮される高い性能を持つ、より安価な減水剤の開発が求められていた。
【0007】
一方、AE減水剤として多く用いられているリグニンスルホン酸塩、もしくはその誘導体を主成分とするもの、および、オキシカルボン酸を主成分とするものの他は、天然物由来成分であり、生分解性能を持つことが知られている。また、リグニンスルホン酸系の減水剤の多くは、亜硫酸パルプ蒸解排液などの有効使用にも繋がり、高性能AE減水剤よりも環境負荷軽減の効果が高く、有効利用が求められている。
【0008】
セメント混和剤は、コンクリートの諸性質を維持するため、様々な混和剤が添加される。例えば、WO99/62838に示されるように、リグニンスルホン酸塩とポリカルボン酸系減水剤など、様々な混和剤を混合したセメント混和剤が使用されている。しかしながら、ポリカルボン酸系に代表される高性能AE減水剤は、リグニンスルホン酸系やオキシカルボン酸系といったセメントへの吸着特性を持つ他混和剤によって、その性能が阻害されることが知られている。これは、他混和剤が、セメントへ吸着することによってポリカルボン酸系減水剤のセメントへの吸着が阻害されること、または、他混和剤との相溶性によって、ポリカルボン酸系減水剤がセメントへ吸着し難くなることなどによって生じている。
【0009】
したがって、AE減水剤や、その他セメント吸着成分を高性能AE減水剤と併用することは、必ずしも高い効果を発揮するものではなく、高性能AE減水剤の配合量を低減させることは困難であった。つまり、安価なAE減水剤を高配合でき、および/またはその他セメント吸着成分からなる改質剤を併用した場合でも、安価で高い減水効果を発揮する混和剤が求められていた。
【0010】
【特許文献1】特開平9−86990号公報
【特許文献2】特開2005−281022号公報
【特許文献3】特開平11−157898号公報
【特許文献4】特開2003−146717号公報
【特許文献5】国際公開WO99/62838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、他のコンクリート混和剤によって吸着を阻害されにくく、高い流動性、作業性を発揮でき、かつ安価なAE減水剤を高配合できるセメント分散剤を提供することにある。すなわち、併用できる他のコンクリート混和剤の種類を限定せず、広くコンクリートの改質を目的として添加されるさまざまな混和剤と併用した場合にも減水率や流動性、作業性などの効果が阻害されにくいセメント混和剤を提供することにある。さらには、これらのセメント混和剤を使用して成る、セメント組成物、さらには、該組成物を用いたセメント構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記諸問題を解決するために検討を重ねた結果、特定の単量体からなる共重合体および/またはその中和塩であるセメント分散剤を用いることによって、上記課題を解決することを見出した。
【0013】
すなわち本発明は下記の発明を提供するものである。
〔1〕 下記に示す(a)および(b)および(c)を共重合して得られる共重合体であり、(a):(b):(c)の含有割合が、5〜90重量%:5〜90重量%:0〜50重量%(ただし、(a)+(b)+(c)=100重量%)でかつ、重量平均分子量が、10000〜45000である共重合体および/または該共重合体をアルカリ性物質で中和して得られる共重合体塩を含有することを特徴とするセメント分散剤。
(a):一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体。
【化1】

(一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を、R2Oはオキシエチレン基、またはオキシプロピレン基を、mは1〜25の整数を、R3は水素または炭素数1〜3のアルキル基をそれぞれ示す。)
(b):一般式(2)で表されるカルボン酸系単量体。
【化2】

(一般式(1)中、R4,R5,R6は水素、メチル基または(CH2nCOOM (nは、0〜2の整数を示す。)を、Mは水素原子、一価金属原子、二価金属原子、アンモニウム基または有機アミン基をそれぞれ示す。)
(c):(a)および/または(b)と共重合可能なその他の単量体。
〔2〕 前記一般式(1)のmが、1〜10の整数である〔1〕に記載のセメント分散剤。
〔3〕 〔1〕または〔2〕に記載のセメント分散剤と、他のコンクリート混和剤とを含むことを特徴とするコンクリート混和剤。
〔4〕 前記他のコンクリート混和剤が、セメント吸着成分であり、かつ、前記共重合体および/または該共重合体をアルカリ性物質で中和して得られる共重合体塩と当該セメント吸着成分の配合比が、1:1〜10であることを特徴とする〔3〕に記載のコンクリート混和剤。
〔5〕 前記他のコンクリート混和剤が、セメント吸着阻害成分であり、かつ、前記共重合体または該共重合体をアルカリ性物質で中和して得られる共重合体塩と当該セメント吸着阻害成分の配合比が、1:0.01〜0.5であることを特徴とする〔3〕に記載のコンクリート混和剤。
〔6〕 〔1〕または〔2〕に記載のセメント分散剤および/または〔3〕〜〔5〕のいずれか一項に記載のコンクリート混和剤を含有することを特徴とするセメント組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセメント分散剤は、上記共重合体および/または該共重合体塩を主成分とするので、セメントに混和した際にセメント粒子に優れた吸着性を示し、セメント粒子を分散させるため、高い流動性、作業性を発揮することができる。この優れた性質は、上記共重合体および/または該共重合体塩のほかに他のコンクリート混和剤を含んだ場合にも阻害され難く、高い流動性、作業性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明において、コンクリート混和剤とは、生コンクリートおよび硬化コンクリートの性能向上、新しい機能の付与、作業性の改善などを目的として添加する剤で、コンクリート中の容積が無視できるものをいい、具体的には、AE剤(空気連行剤)、減水剤、凝結・硬化促進剤、凝結・硬化遅延剤、増粘剤、防錆剤、発泡剤・起泡剤、膨張剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤などをいう。また、本発明において、セメント分散剤とは、JIS A0203「コンクリート用語」に規定される「減水剤」と同義であり、AE減水剤、高性能AE減水剤などが含まれる。具体的には、AE減水剤としては、リグニンスルホン酸類、芳香族スルホン酸類、メラミンスルホン酸類、オキシカルボン酸類、高性能AE減水剤としてはポリカルボン酸類などがある。
本発明によるセメント分散剤は、下記の共重合体および/または該共重合体をアルカリ性物質で中和して得られた共重合体塩を主成分とするものである。
【0016】
共重合体は、以下の(a)、(b)および(c)成分を共重合して得られる共重合体である。すなわち、前記一般式(1)で示されるポリアルキレングリコール(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜90重量%、好ましくは30〜90重量%、さらに好ましくは40〜80重量%、一般式(2)で示されるカルボン酸系単量体(b)5〜90重量%、好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは20〜60重量%、(a)または(b)と共重合可能なその他の単量体(c)0〜50重量%、好ましくは0〜30重量%(ただし、(a)+(b)+(c)=100重量%)の比率で反応して得られる共重合体である。
【0017】
前記一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表す。このうち、メチル基が好ましい。また、一般式(1)中、R2Oはオキシエチレン基、またはオキシプロピレン基を表す。R2Oの繰り返しが2以上の場合(一般式(1)のmが2以上の場合)、オキシエチレン基(エチレングリコール)とオキシプロピレン基(プロピレングリコール)とが混在していてもよい。混在していることにより、共重合体の側鎖の親水性と疎水性のバランスがとれ、疎水性度を調整することができるので好ましい。混在している場合には、ブロック状の付加であってもよく、ランダム状の付加であってもよい。一般式(1)中、mは1〜25の整数を表し、1〜10の整数であることが好ましい。一般式(1)中、R3は水素または炭素数1〜3のアルキル基を表し、メチル基が最も好ましい。
【0018】
前記一般式(2)中、R4,R5,R6は水素、メチル基または(CH2nCOOMを示す。ここでnは、0〜2の整数を表す。このうち水素とメチル基が好ましく、特に、R4およびR6が両方水素であり、R5はメチル基であることが好ましい、また、一般式(2)中のMは水素原子、一価金属原子、二価金属原子、アンモニウム基または有機アミン基を表す。このうち水素原子であることが好ましい。
【0019】
本発明で用いられる一般式(1)で示されるポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)としては、具体的には、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリオキシアルキレングリコール(メタ)アクリレート(アルキレンオキシド部分がプロピレンオキシドとエチレンオキシドのブロックまたはランダム付加となっているもの)、ヒドロキシエチルモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリル酸エステル類などがある。このうち、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。(a)成分がポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートの場合、その側鎖に疎水性を有することが好ましく、具体的には一般式(1)に関し説明したとおり、平均付加モル数(一般式(1)中のm)が1〜25、好ましくは1〜10、さらに好ましくは3〜7の(アルコキシ)(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレートが好ましい。平均付加モル数が、25より大きいと、他のコンクリート混和剤と併用した際に、本発明のセメント分散剤の機能は発揮されにくくなる。これらのアルキレングリコール部はエチレングリコールとプロピレングリコールを併用して疎水性度を調整したものが好ましく、末端基によっても疎水性度を調整することができる。これらのアルキレングリコール部は、疎水性度の高いものが好ましく、ブロック状に付加されていてもランダム状に付加されていてもかまわない。さらに、これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0020】
本発明で用いられる、一般式(2)で示されるカルボン酸系単量体(b)は、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸等のカルボン酸類、またはこれらの塩、例えば、一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩を挙げることができる。これらは、1種または2種以上用いることができ、これらの中で特にアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、またはこれらの塩が好ましい。
【0021】
本発明で用いられる単量体(a)および/または単量体(b)と共重合可能な単量体(c)は、前記ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)、および/または前記カルボン酸系単量体(b)と共重合可能な単量体である。単量体(c)の例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルなど(メタ)アクリル酸の低級アルコールエステル類、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸と低級ジオールとのエステル類、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル類の(メタ)アクリル酸と低級ジオールモノアルキルエーテルとのエステル類、マレイン酸、フマル酸などのジカルボン酸とアルコールとのモノエステルあるいはジエステル類、(メタ)アクリルアミド類の不飽和アミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、ビニルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸類、および、これらの金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、スチレンなどの芳香族ビニル類、アリルフェノールなどの芳香族アリル類が挙げられる。このうち、アリルフェノールが好ましく、特に4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホンの3および3´位をアリル置換した化合物が好ましい。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0022】
本発明の主成分である上記共重合体は、公知の方法によって製造することができる。共重合体は、溶媒中での重合や塊状重合などの方法により行うことができる。
【0023】
使用される溶媒としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;シクロヘキサン、n−ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;酢酸エチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などが挙げられる。原料単量体および得られる共重合体の溶解性の面から、水および低級アルコールからなる群から選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0024】
共重合は、各単量体と重合開始剤を各々反応容器に連続滴下しても良いし、単量体の混合物と重合開始剤を各々反応容器に連続滴下しても良い。また、反応容器に溶媒を仕込み、単量体と溶媒の混合物と、重合開始剤溶液を各々反応容器に連続滴下してもよいし、単量体の一部または全部を反応容器に仕込み、重合開始剤を連続滴下してもよい。
【0025】
共重合に使用する重合開始剤は、水溶媒中では過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩;あるいは、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどの水溶性有機過酸化物を用いることができる。この際、亜硫酸水素ナトリウム、モール塩などの促進剤を併用することもできる。また、低級アルコール、芳香族単炭化水素、脂肪族炭化水素、エステル類あるいはケトン類を溶媒とする際には、ベンゾイルパーオキサイドやラウリルパーオキサイドなどのパーオキサイド;クメンパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド;アゾビスイソブチロニトリルなどの芳香族アゾ化合物などが使用できる。この際、アミン化合物などの促進剤を併用することもできる。さらに、水−低級アルコール混合溶剤を用いる場合には、前述の重合開始剤あるいは重合開始剤と促進剤との組合せの中から適宜選択して使用することができる。重合温度は、用いる溶媒や、重合開始剤によって適宜異なるが、通常50〜120℃の範囲で行われる。
【0026】
また、共重合においては、必要に応じて連鎖移動剤を用いて分子量を調整することができる。使用される連鎖移動剤としては、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、および、2−メルカプトエタンスルホン酸などの既知のチオール系化合物が挙げられる。これらは、1種または2種以上を用いることができる。
【0027】
共重合体を水溶媒中で共重合する場合、重合時のpHは通常不飽和結合を有する単量体の影響で強酸性となるが、これを適当なpHに調整してもよい。しかし、エステル系の単量体がエステル結合を有し、これが不安定になるためpHは8以上が好ましい。また、pH調整に用いるアルカリ性物質に特に限定はないが、通常NaOH、Ca(OH)2などが一般的である。pH調整は、重合前の単量体に対して行ってもよいし、重合後の共重合体溶液に対して行ってもよい。また、これらは重合前に一部のアルカリ性物質を添加して重合を行った後、さらに共重合体に対してpH調整を行ってもよい。
【0028】
このようにして得られた共重合体は、そのままでもセメント分散剤の主成分として使用できるが、必要に応じてこれに換えて、或いは共重合体のほかにさらにアルカリ性物質で中和して得られる共重合体塩を、セメント分散剤の主成分として用いても良い。このようなアルカリ性物質としては特に限定はないが、通常NaOH、Ca(OH)2など、一価金属および二価金属の水酸化物、塩化物および炭素塩などの無機物;アンモニア;有機アミンなどが好ましいものとして挙げられる。
【0029】
また、共重合体またはその塩の重量平均分子量は、5000〜45000であることが好ましい。5000未満であると、セメント分散性が低く、リグニンスルホン酸系またはオキシカルボン酸系などのAE減水剤を上回る減水率が得られなかったり、流動性や作業性が改善されなかったり、セメント分散剤としての目的の効果が十分に発現されない。また、45000を超えると、凝集作用を示すため作業性の低下を招いたり、他のコンクリート混和剤と併用する場合は、他のコンクリート混和剤のセメント粒子に対する単位面積あたりの吸着量が高くなり、求められる分散性能が得られないおそれがある。より好ましくは10000〜30000、更に好ましくは10000〜25000に設定する必要がある。なお、本発明における共重合体及びそのアルカリ塩における重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてポリエチレングリコール換算する公知の方法にて測定できる。
【0030】
GPCの測定条件として特に限定はないが、例として以下の条件を挙げることができる。
測定装置;東ソー製
使用カラム;Shodex Column OH−pak SB−806HQ、SB−804HQ、SB−802.5HQ
溶離液;0.05mM硝酸ナトリウム/アセトニトリル 8/2(v/v)
標準物質;ポリエチレングリコール(東ソー製、GLサイエンス製)
検出器;示差屈折計(東ソー製)
【0031】
本発明のセメント分散剤は、上記共重合体および/または該共重合体塩を主成分とするので、セメントに混和した際にセメント粒子に優れた吸着性を示し、セメント粒子を分散させるため、高い流動性、作業性を発揮することができる。この優れた性質は、上記共重合体および/または該共重合体塩のほかに他のコンクリート混和剤を含んだ組成物とした場合にも阻害され難く、高い流動性、作業性を発揮することができる。
【0032】
ここで他のコンクリート混和剤とは、上述した本発明のセメント分散剤以外のコンクリート混和剤自体、またはその主成分を意味する。他のコンクリート混和剤は、界面活性作用がありセメント粒子に自ら吸着する成分(以下、セメント吸着成分ということがある)、または、一般的なセメント分散剤と相溶性がありそれらのセメント粒子への吸着を阻害する成分(以下、セメント吸着阻害成分ということがある)をいう。
【0033】
セメント吸着成分は、セメントに添加した際にセメント粒子に吸着する成分であり、かつ、本発明のセメント分散剤よりもセメントへの吸着速度が速いもの、および/または、セメント粒子に対する単位面積あたりの吸着量が高いものが好ましい。このようなコンクリート混和剤は、通常はセメント分散剤に分類されるものが多い。具体的には、例えば、セメントに対して固形分で0.1重量%添加時に、室温(20℃)下5分間でセメントへの吸着率が70%以上であるものを挙げることができる。好ましくはセメントへの吸着率が80%以上である。具体的には、セメント分散剤としては、オキシカルボン酸系セメント分散剤(減水剤)、リグニンスルホン酸系分散剤(減水剤)、または、グリセリン誘導体や糖変性物などのポリール系分散剤(減水剤)、ナフタリン系分散剤(減水剤)、芳香族アミノスルホン酸系分散剤(減水剤)、アミノメラミンスルホン酸系分散剤(減水剤)などが挙げられる。流動化剤としては、芳香族スルホン酸系流動化剤、メラミン系流動化剤、スチレンスルホン酸系流動化剤などが挙げられる。増粘剤としては、セルロース系水溶性高分子などポリサッカライド増粘剤が挙げられる。遅延剤としては、オキシカルボン酸塩、糖誘導体などの有機酸塩が挙げられる。
【0034】
このようなセメント吸着成分は、一般的なポリカルボン酸系分散剤と共にセメントに添加すると、ポリカルボン酸系分散剤のセメントへの吸着を阻害し、ポリカルボン酸系セメント分散剤が本来発揮すべきである減水率が発揮されず、流動性や作業性の低下を招く。また、モルタルおよびコンクリートの性状に影響を及ぼすほどの過剰添加される状況を生み、流動性の変動が大きくなったり、セメントの水和が阻害されたりする諸問題が生じる。しかしながら、本発明の共重合体又はその塩を含むセメント分散剤では、ポリカルボン酸系分散剤でありながら、それらのセメント吸着成分によって阻害されにくく、または阻害されないため、高い減水率を発揮し、流動性や作業性が良好となる。なお、セメント分散剤はモルタルやコンクリート中のセメント粒子以外にも吸着するが、一般にその吸着はセメント粒子に比べると少ないため、セメントに対する吸着量によって規定することで実質支障はない。
尚、セメントへの吸着率の算出は、実施例において吸着率を求めるのに用いる式で算出することができる。
【0035】
他のコンクリート混和剤としてセメント吸着成分を併用する場合、前記共重合体または該共重合体をアルカリ性物質で中和して得られる共重合体塩は、他のポリカルボン酸系セメント分散剤を用いる場合と比較してセメント吸着成分をより多く配合することができる。前記共重合体または該共重合体をアルカリ性物質で中和して得られる共重合体塩に対して、セメント吸着成分を配合比で、1:1〜10程度まで配合しても、本発明のセメント分散性能の低下を招くことはない。コンクリート混和剤の過剰添加される状況を回避し、モルタルおよびコンクリートの諸性状に影響を与えない点からすれば、1:1〜5であることがより好ましい。本発明の共重合体および/または該共重合体をアルカリ性物質で中和して得られる共重合体塩をセメント吸着成分とともに上記範囲で用いると、特にリグニンスルホン酸系セメント分散剤を用いた場合には、本発明の共重合体および/またはその塩を単独で添加して得られる以上の流動性が得られ、また、他の吸着成分を用いた場合にも流動性の低下が少ない。しかも、吸着率の変化も最小限に抑えることができる。
【0036】
セメント吸着阻害成分は、通常のポリカルボン酸系セメント分散剤をセメントに添加した際にセメント粒子への吸着を阻害する成分であることが好ましい。このようなものとしては、例えば、消泡剤、気泡剤、乾燥収縮低減剤や低級アルコール類などが挙げられる。具体的には、室温下(20℃)で、本発明のセメント分散剤以外のポリカルボン酸系セメント分散剤と相溶性が良く、そのセメントへの吸着率をΔ10%以上阻害するコンクリート混和剤を挙げることができる。セメント吸着阻害成分としては、低分子量の界面活性剤、または、溶剤などの表面張力を下げる成分があり、乾燥収縮低減剤としては、一般式(3)で示される化合物を主成分とするものが挙げられる。
7−(AO)l−R8 ・・・(3)
(一般式(3)中、R7、R8は水素基、アルキル基、フェニル基、シクロアルキル基などを、Aはアルキレン基、ないし、2種のアルキレン基の共重合を、lは整数をそれぞれ示す。)
【0037】
このようなセメント吸着阻害成分を、本発明のセメント分散剤以外のポリカルボン酸系セメント分散剤と共に添加すると、セメント分散剤が本来持つ減水率が得られず、流動性や作業性の低下を招く。また、セメント分散剤がモルタルおよびコンクリートの性状に影響を及ぼすほどの過剰添加される状況を生み、流動性の変動が大きくなったり、セメントの水和が阻害されたりする諸問題が生じる。しかしながら、本発明の前記した共重合体または/および共重合体塩を含むセメント分散剤の場合、このようなセメント吸着阻害成分によって阻害されず、それ単独で添加した場合と同様の高い減水率を発揮し、流動性や作業性が良好となる。なお、セメント分散剤はモルタルやコンクリート中のセメント粒子以外にも吸着するが、一般にその吸着はセメント粒子に比べると少ないため、セメントに対する吸着量によって規定することで実支障はない。
【0038】
他のコンクリート混和剤としてセメント吸着阻害成分を、本発明のセメント分散剤と併用する場合、前記共重合体または該共重合体をアルカリ性物質で中和して得られる共重合体塩は、他のポリカルボン酸系セメント分散剤を用いる場合と比較してセメント吸着阻害成分をより多く配合することができる。前記共重合体または該共重合体をアルカリ性物質で中和して得られる共重合体塩に対して、セメント吸着阻害成分を配合比で、1:0.01〜0.5程度まで配合しても、本発明のセメント分散性能の低下を招くことはない。コンクリート混和剤の過剰添加される状況を回避し、モルタルおよびコンクリートの諸性状に影響を与えない点からすれば、1:0.01〜0.2であることがより好ましい。本発明の共重合体および/または該共重合体をアルカリ性物質で中和して得られる共重合体塩をセメント吸着阻害成分とともに上記範囲で用いると、吸着率の変化が少ない。
【0039】
本発明のセメント分散剤はそのままセメント分散剤として使用できるが、さらに他のセメント分散剤、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張剤、防水剤、遅延剤、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、効果促進剤、消泡剤などの公知のコンクリート混和剤との併用も可能である。
【0040】
本発明のセメント分散剤およびコンクリート混和剤のセメントへの添加量は、セメント重量に対する共重合体および/または共重合体塩の添加量で、通常は0.1〜1.5重量%(固形分添加率)であり、好ましくは0.1〜1.0重量%である。上記添加量とすることにより、セメント中で高い吸着性を発揮し、セメントに良好な流動性、作業性を与え、優れたセメント組成物を得ることができる。
【0041】
また、本発明のセメント分散剤およびコンクリート混和剤が対象とするセメントは特に限定されず、普通ポルトランドセメント、ビーライト高含有セメント、アルミナセメント、各種混合セメントなどの水硬セメントを挙げることができる。また本発明のセメント分散剤およびコンクリート混和剤は、石膏などのセメント以外の水硬材料などに用いることができる。
本発明のセメント分散剤およびコンクリート混和剤は、品質の低いコンクリート用骨材やセメントを使用した場合に生じるコンクリート混和剤の使用量増加の際にも、さまざまなコンクリートの改質を目的として添加される各コンクリート混和剤各々の性能を阻害しないため、モルタルおよびコンクリートの諸性状に影響を及ぼすほどのコンクリート混和剤の過剰添加を回避することが可能である。また、コンクリート混和剤相互の性能を阻害しにくいため、AE減水剤のような比較的減水率の低いコンクリート混和剤を高配合した状態においても、高性能AE減水剤に求められる高い減水率を発揮することができ、価格は安価に提供することができる。ここでいうセメントには、コンクリート混和剤の使用量の増加が確認されているエコセメント(JIS R 5214)なども含む。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。なお、例中特に断りの無い限り%は重量%を、また、部は重量部を示す。
【0043】
[実施例1]
セメント分散剤(1)の製造
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管および滴下装置を備えたガラス反応容器に水874部を仕込み、攪拌下で反応容器を窒素置換し、窒素雰囲気下で100℃に昇温した。その後、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数4個、ブロック付加)425部、メタクリル酸75部、水125部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム14部および水287部の混合液を各々2時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合物の水溶液を得た。この液を30%NaOH水溶液でpH7に調整し、重量平均分子量8300の共重合体水溶液からなる本発明のセメント分散剤(1)を得た。
【0044】
[実施例2]
セメント分散剤(2)の製造
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管および滴下装置を備えたガラス反応容器に水811部を仕込み、攪拌下で反応容器を窒素置換し、窒素雰囲気下で100℃に昇温した。その後、メトキシポリオキシアルキレンメタクリレート(アルキレンオキシドはプロピレンオキシドとエチレンオキシドのブロック付加、平均付加モル数5個、プロピレンオキシド平均付加モル数2個、エチレンオキシド平均付加モル数3個)350部、メタクリル酸150部、水125部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム18部および水359部の混合液を各々2時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合物の水溶液を得た。この液を30%NaOH水溶液でpH7に調整し、重量平均分子量14000の共重合体水溶液からなる本発明のセメント分散剤(2)を得た。
【0045】
[実施例3]
セメント分散剤(3)の製造
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管および滴下装置を備えたガラス反応容器に水768部を仕込み、攪拌下で反応容器を窒素置換し、窒素雰囲気下で100℃に昇温した。その後、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数4個、ブロック付加)300部、メタクリル酸200部、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホンの3または3´位をアリル置換した化合物4部、水125部を混合したモノマー水溶液(1)と、過硫酸アンモニウム20部および水408部の混合液(2)を各々2時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合物の水溶液を得た。この液を30%NaOH水溶液でpH7に調整し、重量平均分子量15800の共重合体水溶液からなる本発明のセメント分散剤(3)を得た。
【0046】
[実施例4]
セメント分散剤(4)の製造
ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートとして、エチレンオキシドの平均付加モル数が8個のメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートを用いた他は、実施例1と同様の操作を行って本発明のセメント分散剤(4)を得た。その内容を表1にまとめて示す。
【0047】
[実施例5]
セメント分散剤(5)の製造
ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートとして、エチレンオキシドの平均付加モル数が8個のメトキシポリオキシエチレンモノメタクリレートを用いた他は、実施例2と同様の操作を行って本発明のセメント分散剤(5)を得た。その内容を表1にまとめて示す。
【0048】
[実施例6]
セメント分散剤(6)の製造
ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートとして、エチレンオキシドの平均付加モル数が8個のポリオキシエチレンメタクリレートを用いた他は、実施例5と同様の操作を行って本発明のセメント分散剤(6)を得た。その内容を表1にまとめて示す。
【0049】
[比較例1〜3]
セメント分散剤(7)〜(9)の製造
ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートとして、エチレンオキシドの平均付加モル数が26個のメトキシポリエチレンモノメタクリレートを用いたことの他は、実施例1〜3と同様の操作を行って比較のセメント分散剤(6)〜(8)を得た。その内容を表1にまとめて示す。分子量の調整は、連鎖移動剤の添加速度もしくは、添加量を調整することによって行った。
【0050】
[比較例4]
セメント分散剤(10)の製造
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管および滴下装置を備えたガラス反応容器に水915部を仕込み、攪拌下で反応容器を窒素置換し、窒素雰囲気下で100℃に昇温した。その後、メトキシポリエチレンモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数90個)350部、メタクリル酸150部、2−メルカプトエタノール2部、水125部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム12部および水240部の混合液を各々2時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合物の水溶液を得た。この液を30%NaOH水溶液でpH7に調整し、重量平均分子量32000の共重合体水溶液からなる比較のセメント分散剤(10)を得た。
【0051】
【表1】

【0052】
(表1の脚注)
MPEMA:メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート
MPAMA:メトキシポリオキシアルキレンメタクリレート
PEMA:ポリオキシエチレンメタクリレート
MAA:メタクリル酸
【0053】
[実施例7〜12および比較例5〜9]
吸着率測定試験1
本発明のセメント分散剤(1)〜(6)とリグニンスルホン酸系セメント分散剤 LG剤(日本製紙ケミカル株式会社製 サンフローRH)を併用した際の、セメント分散剤のセメントへの吸着率(実施例7〜12)と、比較のセメント分散剤(7)〜(10)とLG剤とを併用した際の、セメント分散剤の吸着率(比較例5〜8)とでセメントへの吸着率を比較した。
【0054】
表2に示す各セメント分散剤を、共重合体水溶液0.2%(固形分換算:セメントに対する重量%)となるように調製し、さらにこれにリグニンスルホン酸系セメント分散剤 LG剤 0.04%(固形分換算:セメントに対する重量%)となるように添加したコンクリート混和剤を調製し、これらに対し水/セメントの比が1となるように水を加える。次いで、所定量のセメントを加えて室温下で5分間攪拌後、吸引濾過装置を用いて濾液を採取し、この濾液中のセメント分散剤の残存量をRI屈折率計で測定した。以下の式に定義するように、添加した各セメント分散剤の量と、濾液中に残存するセメント分散剤濃度の差からセメントへ吸着したセメント分散剤の量を算出し、吸着率とした。
【数1】

【0055】
また、LG剤を併用していない場合のセメント分散剤の吸着率を100として、LG剤を併用した場合の吸着率の変化率を、吸着率変化率とした。なお、添加したセメント分散剤がすべてセメントへ吸着したと仮定した場合の吸着率は、100となる。吸着率測定試験の結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
(表2の脚注)
LG剤:リグニンスルホン酸系セメント分散剤(日本製紙ケミカル株式会社製、サンフローRH)
−:吸着率変化率算出基準値
【0058】
表2から、本発明のセメント分散剤(1)〜(6)は、単独でも充分な吸着率を示す。また、セメント分散剤(1)〜(6)は、LG剤と併用した場合にも、比較のセメント分散剤(7)〜(10)とLG剤とを併用した場合の吸着率変化率を比較して、明らかに吸着率の変化が少ない。したがって、本発明のセメント混和剤はセメント吸着成分によってセメントへの吸着を阻害されず、高い減水率を発揮することがわかる。
【0059】
[実施例13〜18および比較例10〜14]
モルタル試験1
本発明のセメント分散剤(1)〜(6)の共重合体水溶液とリグニンスルホン酸系セメント分散剤 LG剤を併用した場合(実施例13〜18)と、セメント分散剤(7)〜(10)の共重合体水溶液とLG剤を併用した場合(比較例10〜13)とで、モルタルフロー値を比較した。
【0060】
試験に使用した材料および配合は、セメント:普通ポルトランドセメント三種(宇部三菱セメント株式会社製、太平洋セメント株式会社製、株式会社トクヤマ製)等量混合660g、比重3.16;水:水道水330g;細骨材:掛川産陸砂1706g、比重2.58、表面水0.5%の配合割合に従った。モルタルは細骨材、セメント、水および表3に示したセメント分散剤を投入してモルタルミキサーによる機械練りで調製した。その後、底面の直径20cm、上面の直径10cm、高さ30cmの中空円筒のミニスランプコーンに詰め、ミニスランプコーンを垂直に持ち上げた際のテーブルに広がったモルタルの直径を2方向について測定し、この平均をフロー値とした。結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
(表3の脚注)
LG剤:リグニンスルホン酸系セメント分散剤(日本製紙ケミカル株式会社製、サンフローRH)
【0063】
表3から、本発明のセメント分散剤(1)〜(6)は単独でも高性能AE減水剤として求められる充分なフロー値を示した。さらに、セメント分散剤(1)〜(6)をLG剤を併用した場合は、比較セメント分散剤(7)〜(10)とLG剤を併用した場合のフロー値を比較して、フロー値が高く、本発明のセメント分散剤が高い減水率、高い流動性を示すことがわかる。
【0064】
[実施例19〜24および比較例15〜19]
吸着率測定試験2
本発明のセメント分散剤(1)〜(6)とオキシカルボン酸系分散剤のうちグルコン酸ナトリウム溶液 GL剤(扶桑化学工業株式会社製 C−PARN)を併用した際の、セメント分散剤のセメントへの吸着率(実施例19〜24)と、比較のセメント分散剤(7)〜(10)とGL剤とを併用した際の、セメント分散剤の吸着率(比較例15〜18)とでセメントへの吸着率を比較した。
【0065】
共重合体水溶液0.2%(固形分換算:セメントに対する重量%)、グルコン酸ナトリウム溶液 GL剤 0.04%(固形分換算:セメントに対する重量%)となるように表4に示したセメント混和剤を添加し、水/セメントの比が1となるように水を加える。次いで、所定量のセメントを加えて室温下で5分間攪拌後、吸引濾過装置を用いて濾液を採取し、この濾液中のセメント分散剤の残存量をRI屈折率計で測定した。添加した各セメント分散剤の量と、濾液中に残存するセメント分散剤濃度の差からセメントへ吸着したセメント分散剤の量を算出し、吸着率とした。また、GL剤を併用していない場合のセメント分散剤の吸着率を100として、GL剤を併用した場合の吸着率の変化率を、吸着率変化率とした。なお、添加したセメント分散剤がすべてセメントへ吸着したと仮定した場合の吸着率は、100となる。吸着率測定試験の結果を表4に示す。
【0066】
【表4】

【0067】
(表4の脚注)
GL剤:グルコン酸ナトリウム系セメント分散剤(扶桑化学工業株式会社製、C−PARN)
−:吸着率変化率算出基準値
【0068】
表4から、本発明のセメント分散剤(1)〜(6)は、GL剤と併用した場合にも、比較のセメント分散剤(7)〜(10)とGL剤とを併用した場合の吸着率変化率を比較して、明らかに吸着率の変化が少ない。したがって、本発明のセメント混和剤はセメント吸着成分によってセメントへの吸着を阻害されず、高い減水率を発揮することがわかる。
【0069】
[実施例25〜30および比較例20〜24]
モルタル試験2
本発明のセメント分散剤(1)〜(6)、(10)および(11)の共重合体水溶液とGL剤を併用した場合(実施例25〜30)と、セメント分散剤(7)〜(10)の共重合体水溶液とGL剤を併用した場合(比較例20〜23)とでモルタルフロー値を比較した。
【0070】
試験に使用した材料および配合は、セメント:普通ポルトランドセメント三種(宇部三菱セメント株式会社製、太平洋セメント株式会社製、株式会社トクヤマ製)等量混合660g、比重3.16;水:水道水330g;細骨材:掛川産陸砂1706g、比重2.58、表面水0.5%の配合割合に従った。モルタルは細骨材、セメント、水および表5に示したセメント混和剤を投入してモルタルミキサーによる機械練りで調製した。その後、底面の直径20cm、上面の直径10cm、高さ30cmの中空円筒のミニスランプコーンに詰め、ミニスランプコーンを垂直に持ち上げた際のテーブルに広がったモルタルの直径を2方向について測定し、この平均をフロー値とした。結果を表5に示す。
【0071】
【表5】

【0072】
(表5の脚注)
GL剤:グルコン酸ナトリウム系セメント分散剤(扶桑化学工業株式会社製、C−PARN)
【0073】
表5から、本発明のセメント分散剤(1)〜(6)とGL剤とを併用した場合は、比較セメント分散剤(7)〜(10)とGL剤を併用した場合のフロー値を比較して、フロー値が高く、本発明のセメント分散剤が高い減水率、高い流動性を示すことがわかる。
【0074】
[実施例31〜36および比較例25〜28]
吸着率測定試験3
本発明のセメント分散剤(1)〜(6)と乾燥収縮低減剤/耐久性改善剤であるグリコエーテル系セメント混和剤 EG剤(株式会社フローリック社製 ヒビガード)を併用した際の、セメント分散剤のセメントへの吸着率(実施例31〜36)と、比較のセメント分散剤(7)〜(10)とEG剤とを併用した際の、セメント分散剤の吸着率(比較例25〜28)とでセメントへの吸着率を比較した。
【0075】
共重合体水溶液0.2%(固形分換算:セメントに対する重量%)、EG剤 0.02%(固形分換算:セメントに対する重量%)となるように表6に示したセメント混和剤を添加し、水/セメントの比が1となるように水を加える。次いで、所定量のセメントを加えて室温下で5分間攪拌後、吸引濾過装置を用いて濾液を採取し、この濾液中のセメント分散剤の残存量をRI屈折率計で測定した。添加した各セメント分散剤の量と、濾液中に残存するセメント分散剤濃度の差からセメントへ吸着したセメント分散剤の量を算出し、吸着率とした。また、EG剤を併用していない場合のセメント分散剤の吸着率を100として、EG剤を併用した場合の吸着率の変化率を、吸着率変化率とした。なお、添加したセメント分散剤がすべてセメントへ吸着したと仮定した場合の吸着率は、100となる。吸着率測定試験の結果を表6に示す。
【0076】
【表6】

【0077】
(表6の脚注)
EG剤:グリコエーテル系乾燥収縮低減剤(株式会社フローリック製 ヒビガード)
−:吸着率変化率算出基準値
【0078】
表6から、本発明のセメント分散剤(1)〜(6)は、EG剤と併用した場合にも、比較のセメント分散剤(7)〜(10)とEG剤とを併用した場合の吸着率変化率を比較して、明らかに吸着率の変化が少ない。したがって、本発明のセメント混和剤はセメント分散剤のセメントへの吸着を阻害する成分による阻害を受けず、高い減水率を発揮することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記に示す(a)および(b)および(c)を共重合して得られる共重合体であり、(a):(b):(c)の含有割合が、5〜90重量%:5〜90重量%:0〜50重量%(ただし、(a)+(b)+(c)=100重量%)でかつ、重量平均分子量が、10000〜45000である共重合体および/または該共重合体をアルカリ性物質で中和して得られる共重合体塩を含有することを特徴とするセメント分散剤。
(a):一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体。
【化1】

(一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を、R2Oはオキシエチレン基、またはオキシプロピレン基を、mは1〜25の整数を、R3は水素または炭素数1〜3のアルキル基をそれぞれ示す。)
(b):一般式(2)で表されるカルボン酸系単量体。
【化2】

(一般式(1)中、R4,R5,R6は水素、メチル基または(CH2nCOOM (nは、0〜2の整数を示す。)を、Mは水素原子、一価金属原子、二価金属原子、アンモニウム基または有機アミン基をそれぞれ示す。)
(c):(a)および/または(b)と共重合可能なその他の単量体。
【請求項2】
前記一般式(1)のmが、1〜10の整数である請求項1に記載のセメント分散剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセメント分散剤と、他のコンクリート混和剤とを含むことを特徴とするコンクリート混和剤。
【請求項4】
前記他のコンクリート混和剤が、セメント吸着成分であり、かつ、前記共重合体および/または該共重合体をアルカリ性物質で中和して得られる共重合体塩と当該セメント吸着成分の配合比が、1:1〜10であることを特徴とする請求項3に記載のコンクリート混和剤。
【請求項5】
前記他のコンクリート混和剤が、セメント吸着阻害成分であり、かつ、前記共重合体または該共重合体をアルカリ性物質で中和して得られる共重合体塩と当該セメント吸着阻害成分の配合比が、1:0.01〜0.5であることを特徴とする請求項3に記載のコンクリート混和剤。
【請求項6】
請求項1または2に記載のセメント分散剤および/または請求項3〜5のいずれか一項に記載のコンクリート混和剤を含有することを特徴とするセメント組成物。

【公開番号】特開2009−242197(P2009−242197A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92823(P2008−92823)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(502368059)日本製紙ケミカル株式会社 (86)
【Fターム(参考)】