説明

セメント分散剤の製造方法

【課題】より少ない添加量でセメントを効率よく分散できるイタコン酸が主鎖骨格となるセメント分散剤の製造方法を提供する。
【解決手段】無水イタコン酸を重合してポリ無水イタコン酸を得る工程(A)と、得られたポリ無水イタコン酸と特定のアルコールとをエステル化させる工程(B)とを有する、セメント分散剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメント分散剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント分散剤としてポリカルボン酸系分散剤が用いられている。ポリカルボン酸系分散剤は、例えば、ポリアルキレングリコールメタクリル酸エステルとメタクリル酸との共重合体、アリルアルコールのアルキレンオキシド付加物とマレイン酸の共重合体等が代表的な構造として挙げられる。
【0003】
これらの製造方法としては、主鎖となる重合体にポリアルキレングリコールをグラフトする方法や不飽和結合を有する単量体を共重合する方法等が知られている。例えば、特許文献1には、添加効果で従来品より優れ、かつ製造技術面でも簡素で問題の少ない新タイプのセメント分散剤を提供することを課題とし、数平均分子量が1,000〜5,000で、無水マレイン酸に対するスチレンの共重合比が1〜5のスチレン・無水マレイン酸共重合体と、ポリアルキレンオキシドモノアルキルエーテルとの反応生成物、及び/又は該反応生成物の塩を含有するセメント分散剤が開示されている。そして、この分散剤の製造方法として、スチレン・無水マレイン酸共重合体へのポリアルキレンオキシドモノアルキルエーテルの付加反応が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、分散性、スランプ保持性及び硬化遅延に優れた性能を課題として、炭素数2〜3のオキシアルキレン基を平均付加モル数で2〜300モル付加したジカルボン酸系単量体の単独重合体、又は炭素数2〜3のオキシアルキレン基を平均付加モル数で2〜300モル付加したジカルボン酸系単量体とジカルボン酸系単量体との共重合体が開示されている。そして、この文献の実施例ではイタコン酸とイタコン酸エチレンオキシド5モル付加物との共重合により得られた重合体とその製造方法として溶媒と重合体原料反応容器に仕込み、重合開始剤を滴下して重合する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−295547号公報
【特許文献2】特開平9−132445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示されたイタコン酸とイタコン酸エチレンオキシド付加物との共重合による方法では反応率が低いことから残存モノマーが多くなる傾向があり、その結果セメントを十分分散させるのに必要な添加量が多くなる。
【0007】
本発明の課題は、より少ない添加量でセメントを効率よく分散できるイタコン酸が主鎖骨格となるセメント分散剤の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、無水イタコン酸を重合してポリ無水イタコン酸を得る工程(A)と、得られたポリ無水イタコン酸と一般式(1)で表されるアルコールとをエステル化させる工程(B)とを有する、セメント分散剤の製造方法に関する。
1−(OR2nOH (1)
(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基を表し、OR2は炭素数1〜12のオキシアルキレン基を表し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であって9〜300の数を表す。)
【0009】
また、本発明は、上記本発明の製造方法で得られた反応生成物からなるセメント分散剤組成物であって、反応生成物中の固形分に対する重合体の重量割合(重合体/固形分)が、60〜100%であるセメント分散剤組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、水硬性粉体、骨材、水及び上記本発明の製造方法で得られるセメント分散剤を含有する水硬性組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より少ない添加量でセメントを効率よく分散できるイタコン酸が主鎖骨格となるセメント分散剤の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ポリ無水イタコン酸を得る工程(A)と、該ポリ無水イタコン酸と一般式(1)で表されるアルコールとのエステル化反応を行う工程(B)とを有するセメント分散剤の製造方法である。
【0013】
工程(A)では、無水イタコン酸を有機溶媒(I)の存在下で重合して得られた反応生成物を、前記有機溶媒(I)よりも極性の低い有機溶媒(II)と混合してポリ無水イタコン酸を析出させて得ることが好ましい。例えば、無水イタコン酸を有機溶媒(I)の存在下で、重合開始剤とともに窒素雰囲気下、一定温度で一定時間攪拌して重合して得られた反応生成物を、前記有機有機溶媒(I)よりも極性の低い有機溶媒(II)中に加えて生成した析出物を単離して得る方法が挙げられる。ここで、有機溶媒(I)、(II)の極性は、スワイン(Swain)のパラメーター(「大学院 有機化学 上」、岩村秀他著、講談社サイエンティフィク社、1988年6月20日発行、236〜237頁)により高低を対比するものとする。
【0014】
工程(A)で得られるポリ無水イタコン酸の重合度は、セメントの分散性と分散剤の製造の観点から30〜1000が好ましく、50〜500がより好ましい。ポリ無水イタコン酸は実質的に無水イタコン酸の構成単位からなるものであればよく、本発明の効果を損なわない範囲で無水イタコン酸以外の重合性単量体を共重合してもよい。
【0015】
無水イタコン酸の重合に用いる有機溶媒(I)は、比較的極性が高いものが好ましく、反応温度を高くできる点で沸点の高い溶媒が好ましい。例えば、環状エーテルが挙げられ、沸点は70℃以上が好ましい。具体的にはジオキサンが好ましい。有機溶媒(I)の量は、無水イタコン酸と該溶媒の合計量に対して、反応率向上及び無水イタコン酸の粘度低減の観点から、5〜20重量%が好ましく、5〜15重量%がより好ましい。重合開始剤は、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)が好ましく、その添加量は無水イタコン酸100モルに対して、1〜10モルが好ましく、3〜6モルがより好ましい。また反応温度は60〜100℃が好ましく、70〜90℃が更に好ましい。反応温度を上げると重合度、即ち分子量が小さくなる傾向があり、反応温度を下げると重合度、即ち分子量が大きくなる傾向がある。攪拌して反応させる時間は4〜10時間が好ましく、5〜8時間が更に好ましい。なお、更に反応率を高めるために、前記反応時間の経過後、更に重合開始剤(AIBN等)を反応系に添加することが好ましく、その添加量は無水イタコン酸100モルに対して1〜5モルが好ましく、2〜4モルがより好ましい。AIBN追加後の反応時間は2〜4時間が好ましい。
【0016】
反応終了後、未反応モノマー及び重合開始剤の除去を目的として、合成時に用いた有機溶媒(I)とは異なる有機溶媒中へ反応終了後の反応生成物を加え、沈殿により精製することができる。ポリ無水イタコン酸の沈殿に用いる有機溶媒としては、重合に用いた有機溶媒よりも極性の低い有機溶媒(II)であることが好ましく、更に、反応終了後のモノマー及び重合開始剤が溶解し、かつ合成したポリ無水イタコン酸が溶解しない極性を有する有機溶媒がより好ましい。具体的にはジエチルエーテルが好ましい。
【0017】
工程(B)では、工程(A)で得られたポリ無水イタコン酸と一般式(1)で表されるアルコールとをエステル化させる。一般式(1)において、R1は炭素数1〜4のアルキル基を表し、セメント分散性の観点から好ましくはメチル基である。OR2は炭素数1〜12のオキシアルキレン基を表し、好ましくは炭素数2のオキシエチレン基である。nはOR2の平均付加モル数を表し、セメント分散性の観点から9〜300であり、9〜120が好ましく、15〜50がより好ましく、20〜30が更に好ましい。
【0018】
一般式(1)の化合物は、アルコキシポリアルキレングリコールであり、具体的には、メトキシポリエチレングリコール、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコール、エトキシポリエチレングリコール、プロポキシポリエチレングリコール、ブトキシポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0019】
ポリ無水イタコン酸と一般式(1)で表されるアルコールとのエステル化反応は、例えば、反応容器に原料を仕込み、酸触媒を用いて有機溶媒中窒素雰囲気下、一定温度で一定時間攪拌させることで行うことができる。有機溶媒を用いることで原料の粘度を低くでき攪拌を容易となり反応温度を低くできる。また、有機溶媒の沸点以上の温度に反応器の温度を設定し、還流状態で反応させることもできる。有機溶媒の使用量は、反応系の固形分が好ましくは30〜70重量%、より好ましくは40〜60重量%になるように用いる。原料として用いるポリ無水イタコン酸は、重合体の製造時に副生される異性体等の不純物を含んでいても良いが、ポリ無水イタコン酸の純分として50重量%以上含むことが好ましい。前述した無水イタコン酸を有機溶媒(I)の存在下で重合して得られた反応生成物は、無水イタコン酸を80重量%以上含んでおり、通常はそのままエステル化反応に用いることができ、得られるセメント分散剤はセメントを効率よく分散できる。本発明の製造方法では、ポリ無水イタコン酸を原料として用いるためエステル化による水が反応系に生成せず、反応時の脱水処理は不要である。
【0020】
エステル化に用いる一般式(1)で表されるアルコールの量は、ポリ無水イタコン酸中の無水イタコン酸単位100モルに対して一般式(1)で表されるアルコールを好ましくは1〜100モル、より好ましくは5〜50モル、更に好ましくは10〜30モルである。なお、無水イタコン酸単位1モルとは重合体の無水イタコン酸からなる構成単位1ユニットのことを意味する。
【0021】
酸触媒はスルホン酸系触媒が好ましく、結晶水等の水を含まないものがより好ましい。具体的にはメタンスルホン酸が好ましい。酸触媒の添加量はポリ無水イタコン酸中の無水イタコン酸単位100モルに対して、好ましくは5〜15モルである。
【0022】
ポリ無水イタコン酸と一般式(1)で表されるアルコールとのエステル化の反応温度は100〜120℃が好ましく、105〜115℃がより好ましい。前記反応温度より沸点が低い溶媒を用いる際には、反応容器の温度を前記温度に設定し還流状態で反応させることもできる。反応時間は反応温度によっても異なるが、5〜20時間が好ましく、7〜15時間がより好ましい。
【0023】
工程(B)で用いる有機溶媒は沸点が高く、ポリ無水イタコン酸、一般式(1)で表されるアルコール及び酸触媒を全て溶解できる溶媒が好ましく、反応温度を高くできる点で沸点が90℃以上の溶媒が好ましい。例えば、環状エーテルが好ましく、具体的にはジオキサンが好ましい。
【0024】
反応終了後、塩基によって中和を行うことができる。塩基としては水酸化ナトリウムが好ましく、中和終了後のpHは5〜7が好ましい。中和後、得られた重合体を溶解させる観点から、極性の高い溶媒を加えることが好ましい。加える溶媒としては、水が好ましい。
【0025】
得られた重合体はセメント分散剤として用いることができる。また、重合体を含む反応生成物が水溶液等の場合、そのままセメント分散剤(セメント分散剤の水溶液)としてもよい。本発明では、工程(A)、(B)により得られた反応生成物をセメント分散剤組成物とすることが好ましい。本発明の製造方法により反応生成物中の残存モノマーや未反応のアルコール等の重合体以外の成分を少なくすることができる。セメント分散剤として用いる反応生成物中の固形分に対する重合体の重量割合(重合体/固形分)は、セメント分散性の観点から60〜100%が好ましく、セメント分散性と生産性の観点から70〜95%がより好ましい。
【0026】
重合体の重量平均分子量は、セメント分散性の観点から、3000〜100000が好ましく、5000〜50000がより好ましい。重合体のエステル化度は、セメント分散性の観点から1〜100が好ましく、10〜30がより好ましい。ここで、エステル化度は重合体中の無水イタコン酸単位(モノマーユニット)の数を100として、エステル化されたカルボキシル基の割合を表すものである。すなわち、ポリ無水イタコン酸の場合、1つの無水イタコン酸単位中に、2個のカルボキシル基の無水構造を1個有するので、重合体中の全てのカルボキシル基がエステル化された場合、エステル化度は200となる。
【0027】
本発明で得られるセメント分散剤は、水和反応により硬化する物性を有する水硬性粉体を分散させる目的で用いることができる。水硬性粉体として、例えば普通ポルトランドセメント、中庸熱セメント、早強セメント、超早強セメント、高ビーライト含有セメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント、シリカフュームセメントなどの水硬性粉体セメントや石膏が挙げられる。
【0028】
本発明により得られるセメント分散剤と、水硬性粉体と、水とを含有する水硬性組成物が提供される。水硬性組成物は、モルタル、コンクリート、グラウト等が挙げられる。水硬性組成物は、セメント、水、細骨材、粗骨材、炭酸カルシウム等フィラー等を含有することができる。また、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカヒフューム、石灰石等の微粉体を添加したものであってもよい。かかる水硬性組成物において、本発明により製造されたセメント分散剤、好ましくは重合体は、水硬性粉体100重量部に対して0.01〜10重量部、更に0.05〜8重量部、更に0.1〜5重量部使用することができる。
【実施例】
【0029】
実施例1
〔工程(A)〕
温度計、攪拌機、窒素導入管及び還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、無水イタコン酸224.2g(2.0モル)(本工程(A)では、以下のモル%はこの量の無水イタコン酸を100モル%とした量である)[東京化成社製]に対し、5モル%のAIBN16.42g(0.1モル)[和光純薬工業社製、試薬1級]及び全体の固形分が90%となるよう脱水ジオキサン26.74g[和光純薬工業社製]を加え、窒素雰囲気下、80℃にて重合を行った。反応開始6時間後(AIBNの残存率が0.5%となる時間)に、未反応モノマーの反応を促進させるためAIBNを無水イタコン酸に対し3モル%(9.85g、0.06モル)加え、更に3時間攪拌を続け、開始から9時間後反応を停止した。反応の進行度を高速液体クロマトグラフィによる無水イタコン酸の残存率で確認した結果、反応率は87%であった。精製はジオキサンを加え固形分を50重量%とした後、ジエチルエーテル中に滴下してポリマーを沈殿させ、ろ過をし、最後に溶媒を留去し乾燥させた。その結果ポリマー粉末が29.6%で得られ、NMR測定により、モノマーのピークがほぼ消失していることから、無水イタコン酸の反応率が高く、純度の高いポリマーが得られたことが確かめられた。合成したポリ無水イタコン酸を含む反応生成物の組成は、ポリマー粉末を105℃2時間保存した際の重量変化からジオキサン(残溶媒)17重量%であった。更に、1H−NMR測定結果のポリマーのメチレン部のプロトン(1ユニット当り4H)とモノマーの二重結合のプロトン(1ユニット当り2H)の積分値の比率からポリ無水イタコン酸と無水イタコン酸の含有量を計算したところ、ポリ無水イタコン酸79.8重量%、無水イタコン酸(残存モノマー)3.2重量%であった。なお、ポリ無水イタコン酸の重合度は174.56であった。また、ポリ無水イタコン酸の純度は96%であった。
【0030】
〔工程(B)〕
温度計、攪拌機、窒素導入管及び還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、工程(A)で得られたポリマー粉末30.1g(ポリ無水イタコン酸と無水イタコン酸の合計量25.0g[無水イタコン酸単位換算0.223モル]、ジオキサン5.1g)、ポリマー粉末中の無水イタコン酸単位100モルに対して20モル(20モル%)のメトキシポリエチレングリコール(オキシエチレン基の平均付加モル数23)46.43g(0.0446モル)[新中村化学社製]、酸触媒としてポリマー粉末中の無水イタコン酸単位100モルに対して10モル(10モル%)のメタンスルホン酸2.14g(0.0223モル)をそれぞれ加え、ジオキサン68.47gを加えて固形分50重量%とし、窒素雰囲気下、110℃で還流しながら反応を行った。反応は10時間攪拌後冷却してから48重量%水酸化ナトリウム水溶液及び水を加え、pH5.71、固形分32.6重量%の反応生成物(セメント分散剤A−1)を得た。1H−NMRのピークの積分値で求めたところ、反応率は88%であり、得られたポリマーの構造は、エステル化されていない無水イタコン酸単位(以下、酸ユニットという)が82モル%、エステル化された無水イタコン酸単位(以下、エステルユニットという)18モル%であり、エステル化度は18であった。また、反応生成物中の固形分に対するポリマーの重量割合は89%であった。
【0031】
実施例2(セメント分散剤A−2の製造)
工程(B)におけるメトキシポリエチレングリコールの量を表2のように変更した以外は実施例1と同様に合成を行い、セメント分散剤A−2を得た。得られたポリマーを1H−NMR測定のピークの積分値で求めたところ、反応率は67%であり、得られたポリマーの構造は酸ユニットが66モル%、エステルユニットが34モル%であり、エステル化度は34であった。また、反応生成物中の固形分に対するポリマーの重量割合は71%であった。
【0032】
比較例1(比較セメント分散剤B−1の製造)
温度計、攪拌機、窒素導入管及び還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、ポリイタコン酸15.9g(イタコン酸単位換算0.122モル)[イワタ化学社製]とメトキシポリエチレングリコール(オキシエチレン基の平均付加モル数23)152.5g(0.146モル)とをガラス製反応容器内で攪拌させながら110℃に昇温させた後、メタンスルホン酸1.17g(0.012モル)を加え、真空ポンプによる減圧条件下、11時間110℃にて反応させた。なお生成した水はトラップ管にて回収した。得られた重合体溶液を、逆滴定にて反応率を確認した。すなわち、水酸化カリウムを過剰に加えた後、塩酸で滴定した。終点はフェノールフタレイン溶液にて確認した。その結果、反応率は31.7%であった。得られた反応生成物をセメント分散剤B−1とした。本例では、反応により生じる水のために反応が進行しにくいと考えられたため、メトキシポリエチレングリコールを増量したが、反応率は悪かった。なお、ポリマーの構造の酸ユニット、エステルユニット及び反応生成物中の固形分に対するポリマーの重量割合は測定しなかった。
【0033】
比較例2(比較セメント分散剤B−2の製造)
(1)メトキシポリエチレングリコールイタコネートの製造
温度計、攪拌機、窒素導入管及び還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、無水イタコン酸106.1g(0.95モル)、メトキシポリエチレングリコール(オキシエチレン基の平均付加モル数23)984.9g(0.95モル)、及び酸触媒としてメタンスルホン酸9.1g(0.095モル)を加え、窒素雰囲気下、110℃で攪拌してエステル化を行った。反応中、メトキシポリエチレングリコールの反応率を酸価の測定により経時的に解析した。反応開始6時間後にメトキシポリエチレングリコールの反応率が95.1%となったところで反応を停止させ、そのときのイタコン酸の反応率を1H−NMRのピークの積分値で求めたところ、79.6%であった。これらの結果から、メトキシポリエチレングリコールイタコネートの組成は、モノエステル:64.5重量%(56.8モル%)、ジエステル:27.9重量%(12.9モル%)、残存無水イタコン酸:1.9重量%(17.2モル%)、メトキシポリエチレングリコール:4.8重量%(4.6モル%)、メタンスルホン酸:0.8重量%(8.5モル%)であることがわかった。また、反応生成物中の固形分に対するポリマーの重量割合は41%であった。
【0034】
次に、ガラス製反応容器に水124gを加え、窒素置換した後80℃まで加温したところへ、(イ)合成したメトキシポリエチレングリコールイタコネート85.65g(モノエステル:0.048モル、ジエステル:0.011モル、残存無水イタコン酸:0.013モル、メトキシポリエチレングリコール:0.0016モル、メタンスルホン酸:0.0074モル)を48重量%水酸化ナトリウム水溶液0.61g(0.0074モル)で中和した後水60gを加えた水溶液と、(ロ)イタコン酸28.6g(0.22モル)を48重量%水酸化ナトリウム水溶液17.4g(0.20モル)で中和した後、水50gを加えた水溶液と、(ハ)過流酸ナトリウム2.3g(0.0094モル)に水30gを加えた水溶液とを、それぞれ同時に二時間かけて滴下し、熟成1時間後、更に過流酸ナトリウム0.57g(0.0023モル)に水10gを加えた水溶液を30分かけて滴下し、最後に熟成1時間させ、重合を行った。得られた反応生成物をセメント分散剤B−2とした。反応率を1H−NMRのピークの積分値で求めたところ、イタコン酸が42.7%、エステルが44.4%であった。また得られたポリマーの構造は酸ユニットが79モル%、エステルユニットが21モル%、エステル化度21であった。
【0035】
参考例1(比較セメント分散剤X−1の製造)
ガラス製反応容器に水2070gを加え、窒素置換した後78℃まで加温したところへ、アクリル酸315.29g(4.33モル)とメトキシポリエチレングリコールアクリレート(オキシエチレン基の平均付加モル数23)2266.67g(1.44モル)の混合液、メルカプトプロピオン酸13.48g(0.127モル)に水56.52gを加えた水溶液及び過流酸アンモニウム13.17g(0.0577モル)に水56.83gを加えた水溶液をそれぞれ同時に一時間半かけて滴下し、その後過硫酸アンモニウム6.59g(0.0289モル)に水28.42gを加えた水溶液を30分かけて滴下後、1時間熟成し、48%水酸化ナトリウム水溶液を216.59g(2.60モル)加えて中和した。得られた反応生成物をセメント分散剤X−1とした。
【0036】
参考例2(比較セメント分散剤X−2の製造)
ガラス製反応容器にメトキシポエリエチレングリコール(オキシエチレン基の平均付加モル数23)246.72g(0.237モル)を加え、100℃まで加熱・均一溶解した後にパラトルエンスルホン酸・一水和物5.85g(0.031モル)[和光純薬工業社製、試薬特級]及びポリアクリル酸33.3%水溶液190.0g(0.878モル)を加え、110℃まで昇温した。一時間後、系中に生成する水を除去するために減圧を開始した。減圧度は400mmHg(53.3kPa)から開始し、最終的には100mmHg(13.3kPa)とした。12時間後反応容器をバスから出し、冷却後48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、最後に水を加え希釈した。反応率は97.4%であった。得られた反応生成物をセメント分散剤X−2とした。
【0037】
実施例1、2、比較例1、2、及び参考例1、2の反応条件等を表2にまとめた。
【0038】
【表1】

【0039】
本発明の製造方法による実施例1、2では、比較例1、2と比べて、高い反応率で重合体が得られていることがわかる。一方、参考例のアクリル酸の場合は、ポリアクリル酸のエステル化する方法とアクリル酸とアクリル酸エステルの共重合する方法のいずれの方法でも高い反応率で重合体が得られることがわかる。
【0040】
試験例(セメント分散性の評価)
普通ポルトランドセメント300gを500ml樹脂製ビーカに入れ、そこへ表2に示すセメント分散剤を含む水道水90gを加えた。ハンドミキサー[National社製]低速回転で2分間混練した。混練されたペーストを50mmコーン(径50mm×高さ51mm)に詰め、混練開始から3分後にコーンを垂直に引き上げた。ペーストが拡がったフローの最長径とそれに垂直方向の径を測定し、それらの平均値をペーストフロー値(流動性)とした。なお、セメント分散剤の添加量はペーストフローが160mmになることを目標として調整した。表2に、用いた分散剤と試験結果を示す。
【0041】
【表2】

【0042】
表中、添加量は、分散剤(反応生成物)のセメント100重量部に対する重量部である。
【0043】
本発明により製造された分散剤A−1は、比較例の分散剤B−2と比べると、同じフローを得るための添加量が少なく、セメント分散性に優れることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無水イタコン酸を重合してポリ無水イタコン酸を得る工程(A)と、得られたポリ無水イタコン酸と一般式(1)で表されるアルコールとをエステル化させる工程(B)とを有する、セメント分散剤の製造方法。
1−(OR2nOH (1)
(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基を表し、OR2は炭素数1〜12のオキシアルキレン基を表し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であって9〜300の数を表す。)
【請求項2】
工程(A)において、無水イタコン酸を有機溶媒(I)の存在下で重合して得られた反応生成物を、前記有機溶媒(I)よりも極性の低い有機溶媒(II)と混合してポリ無水イタコン酸を析出させて得る、請求項1記載のセメント分散剤の製造方法。
【請求項3】
工程(B)において、ポリ無水イタコン酸中の無水イタコン酸単位100モルに対して、一般式(1)で表されるアルコール1〜100モルを用いる請求項1又は2記載のセメント分散剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載の製造方法で得られた反応生成物からなるセメント分散剤組成物であって、反応生成物中の固形分に対する重合体の重量割合(重合体/固形分)が、60〜100%であるセメント分散剤組成物。
【請求項5】
水硬性粉体、骨材、水、及び請求項1〜3の何れか1項記載の製造方法で得られるセメント分散剤を含有する水硬性組成物。

【公開番号】特開2011−132383(P2011−132383A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293683(P2009−293683)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】