説明

セメント回収方法、該方法により回収されたセメント、及びセメント再利用方法

【課題】 余剰の生コンクリートからセメントを乾燥状態で回収することにより、再利用まで長期保存を可能とし、再利用時における強度発現を可能にする。
【解決手段】余剰の生コンクリートに生石灰を添加し、その後、攪拌する。これにより、生コンクリート中の水分が生石灰と化学反応し、乾燥状態のセメントを回収することができる。回収セメントは乾燥状態であるので再利用までの長期保存が可能となり、該セメントを水と一緒に練り混ぜることにより強度発現が可能となる(図8参照)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、余剰の生コンクリートからセメントを乾燥状態で回収するセメント回収方法、該方法により回収されたセメント、及びセメント再利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築及び土木作業現場(以下、コンクリート打設現場と称する)では多量の生コンクリートが使用されるが、その生コンクリートは生コンプラントからミキサー車により運び込まれるのが一般的である。そして、このコンクリート打設現場で使用されずに余剰となったコンクリートはミキサー車により持ち帰られて破棄されていた。また、生コンプラントの余剰コンクリートも同様に、廃棄されていた。しかしながら、余剰コンクリートをそのまま廃棄したのでは環境保全の見地から好ましくないため、専用の廃棄処分場で所定の処理を行う必要があり、その処理に費用が掛かっていた。そこで、余剰コンクリートを廃棄せずに再利用するための方法が種々提案されている。
【0003】
その一つの方法としては、余剰コンクリートを硬化後に適当な粒度に破砕処理し、該破砕処理したものを再生骨材や路盤材として再利用する方法が挙げられる。
【0004】
また、他の方法としては、硬化する前の余剰コンクリートに安定剤希釈溶液(凝結遅延剤)を添加することでスラリー状態を暫くの間だけ保持し、硬化してしまわないうちに該余剰コンクリートを(他のコンクリート打設現場まで搬送するなどして)再利用する方法が挙げられる(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−296714号公報
【特許文献2】特開平03−265550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のように、余剰コンクリートを粉砕処理して再生骨材や路盤材として再利用する方法の場合、再生骨材や路盤材は、原コンクリートの強度によっては、コンクリート用の骨材としての強度は期待できないという問題があった。
【0006】
また、上述のような安定希釈剤溶液を添加する方法では、セメントの水和反応の抑制時間には限度があり、長期保存ができない(例えば、1日程度の保存しかできない)という問題があった。
【0007】
本発明は、再生材としての強度が期待でき、長期保存が可能なセメントを回収するセメント回収方法、該方法により回収されたセメント、及びセメント再利用方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、フレッシュ状態の生コンクリートに生石灰を添加する工程と、
該生石灰を添加した生コンクリートを攪拌して該生コンクリート中の水分を水酸化カルシウムに化学変化させることにより、少なくともセメントを乾燥状態で回収する工程と、を備えたセメント回収方法に関するものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記生石灰を添加する前の生コンクリートをウエットスクリーニングすることにより、該生コンクリートから砂利を分別除去する工程、を備え、
前記生石灰の添加及び攪拌は、砂利を分別除去した後の生コンクリートに対して行う、ことを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において、前記生コンクリートが、コンクリート打設現場で使用されずにセメント回収処理場に搬送されてきたものである、ことを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発明において、前記生石灰を添加する前の生コンクリートに対し凝結遅延剤を添加する工程、を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のセメント回収方法により回収されたセメントに関するものである。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のセメント回収方法により回収されたセメントを乾燥状態のままで保存する工程と、
該保存しているセメントに水を加えてコンクリートの混和材料や地盤改良材として利用する工程と、
を備えたセメント再利用方法に関するものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1、3、5及び6に係る発明によれば、セメント等を乾燥状態で回収することができるため、再び水を加えればセメント本来の性質を発揮することとなり、セメント等の再利用を図ることができる。したがって、余剰のコンクリートを廃棄せずに済み、環境保全等の見地からも好ましい。また、背景技術の欄で述べたような“余剰のコンクリートを粉砕処理して再利用する方法”では再生骨材を取得できるに過ぎず、その再生骨材を再利用するには新たにセメントが必要であったが、本発明の場合には結合材としてのセメントそのものを回収して再利用することができるので、該再利用時における新品セメントの使用量を低減し、費用を削減することができる。さらには、安定剤希釈溶液を添加する場合には、凝結するまでに生コンクリートを再利用しなければならないという時間的な制約があったが、本発明によれば、セメント等を乾燥状態(つまり、経年変化がほとんどない安定した状態)で保存することができ、再利用に当たっての時間的制約は受けず、必要な時に何時でも再利用できる。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、砂利(粗骨材)と砂とセメント粉末とが分別回収できることとなる。したがって、再利用時の砂利や砂やセメント粉末の混入比率を調整できる等、それらの利用価値を高めることができる。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、直ぐに生石灰の添加等を行えないような場合であっても、凝結遅延剤の添加により生コンクリートにおける水和反応の進行を抑制することができ、セメント等を乾燥状態で回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0018】
本発明は、使用されずに残ってしまったフレッシュ状態の生コンクリートに適用されるものであり、例えば、コンクリート打設現場で余剰となって使用されずにセメント回収処理場に搬送されてきた戻りコンクリートや、生コンプラントやミキサー車等の残渣や、その他のフレッシュコンクリートに適用されるものである。
【0019】
本発明に係るセメント回収方法は、フレッシュ状態の生コンクリートから少なくともセメントを乾燥状態で回収するための方法であって、具体的には、
・ フレッシュ状態の生コンクリートに生石灰を添加する工程と、
・ 該生石灰を添加した生コンクリートを攪拌して該生コンクリート中の水分を水酸化カルシウムに化学変化させることにより、少なくともセメントを乾燥状態で回収する工程と、
を備えるものである。生石灰が水分(生コンクリート中の水分)と反応するときの化学反応式は以下の通りである。
【化1】

【0020】
本発明によれば、セメント等を乾燥状態で回収することができるため、再び水を加えればセメント本来の性質を発揮することとなり、セメント等の再利用を図ることができる。したがって、余剰のコンクリートを廃棄せずに済み、環境保全等の見地からも好ましい。また、背景技術の欄で述べたような“余剰のコンクリートを粉砕処理して再利用する方法”では再生骨材を取得できるに過ぎず、その再生骨材を再利用するには新たにセメントが必要であったが、本発明の場合には結合材としてのセメントそのものを回収して再利用することができるので、該再利用時における新品セメントの使用量を低減し、費用を削減することができる。さらには、安定剤希釈溶液を添加する場合には、凝結するまでに生コンクリートを再利用しなければならないという時間的な制約があったが、本発明によれば、セメント等を乾燥状態(つまり、経年変化がほとんどない安定した状態)で保存することができ、再利用に当たっての時間的制約は受けず、必要な時に何時でも再利用できる。
【0021】
ところで、本発明を実施することによりセメントや砂利(粗骨材)や砂を回収することができるが、生コンクリートをウエットスクリーニングする工程を生石灰の添加前に実施して、生コンクリートから砂利(粗骨材)を分別除去し、前記生石灰の添加及び攪拌は、砂利が入った状態の生コンクリートに対して行うのではなく、砂利を分別除去した後の生コンクリートに対して行うようにしても良い。なお、ウエットスクリーニングとは、生コンクリートから粗骨剤を取り除いてモルタルを得る作業を意味するものとする。その場合、モルタルへの生石灰添加から乾燥状態の砂とセメント粉末が得られ、結果的に、砂利(粗骨材)と砂とセメント粉末とが分別回収できることとなる。したがって、再利用時の砂利や砂やセメント粉末の混入比率を調整できる等、それらの利用価値を高めることができる。
【0022】
ところで、コンクリート打設現場で使用されずにセメント回収処理場に搬送されてきた戻りコンクリートに対して本発明を実施する場合のように、直ぐに生石灰添加等を行えないような場合には、生石灰を添加する前の生コンクリート(例えば、前記コンクリート打設現場から前記セメント回収処理場に搬送される際の生コンクリート)に対して凝結遅延剤(凝結遅延形AE減水剤)を添加する工程、を実施すると良い。この遅延剤の添加により、生コンクリートにおける水和反応の進行を抑制することができ、セメント等を乾燥状態で回収することができる。
【0023】
一方、本発明に係るセメント再利用方法は、
・ 上述したセメント回収方法により回収されたセメントを乾燥状態のままで保存する工程と、
・ 該保存しているセメントに水を加えてコンクリートの混和材料や地盤改良材として利用する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【実施例1】
【0024】
次に、本発明の一実施例について、図1乃至図8に沿って説明する。ここで、図1は、普通ポルトランドセメント(水セメント比;W/C=0.5)の水和発熱曲線を示す図であり、図2は、生石灰処理セメント、普通ポルトランドセメント及び凍結乾燥処理セメントの粒度分布測定結果を示す図である。また、図3は、生石灰処理セメントと水とを練り混ぜて作成した供試体の圧縮強度に対し、生石灰添加量/単位水量や生石灰の粒度が与える影響を示す図であり、図4は、生石灰処理セメントと水とを練り混ぜて作成した供試体の圧縮強度に対し、AE減水剤の添加量が与える影響を示す図である。図5は、生石灰処理セメントと水とを練り混ぜて作成した供試体の圧縮強度に対し、生石灰貯蔵期間が与える影響を示す図であり、図6は、生石灰処理セメントを添加していない砂質土の圧縮応力−圧縮ひずみ曲線を示す図であり、図7は、生石灰処理セメントを添加した砂質土の圧縮応力−圧縮ひずみ曲線を示す図である。図8は、生石灰処理セメントと水とを練り混ぜて作成した供試体の圧縮強度に対し、生石灰処理セメントの添加量が与える影響を示す図である。
【0025】
本実施例では、表1に示すように、普通ポルトランドセメントと水とを水セメント比0.5で混ぜ合わせて21個のセメントペーストを作成し(1バッチの練混ぜ量は0.33Lとした)、それぞれのセメントペーストに対して生石灰の添加等を行った。具体的には、
・ No.12,15のセメントペーストには、セメント量の0.2%の凝結遅延形AE減水剤を添加し、
・ No.13,16のセメントペーストには、セメント量の0.4%の凝結遅延形AE減水剤を添加し、
・ その他のセメントペーストには凝結遅延形AE減水剤は添加せず、
・ 全てのセメントペーストには表1に示す量の生石灰をそれぞれ添加し(但し、表中の“W*1.25”は、セメントペースト中の水量の1.25倍の生石灰を添加したことを示す。また、生石灰には、粒径0.3mm、0.6mmの2種類を用いた。さらに、No.9、10のセメントペーストには、それぞれ14日間及び28日間貯蔵しておいた生石灰を使用し、他のセメントペーストには1日間だけ貯蔵しておいた生石灰を使用した。)、
・ その後、21個の全てのセメントペーストを20℃の温度下で1分間練混ぜ、
・ 各セメントペーストの層厚が均一になるようにバットに入れ、
それらを用いて、
(1) セメントの粒度分布
(2) セメントの50%粒径、及びセメント密度
(3) セメントの化学成分
(4) 圧縮強度
(5) 未使用石灰の貯蔵
(6) 生石灰処理セメントの添加量と一軸圧縮強さ等との関係
について考察した。
【表1】

【0026】
各セメントペーストに生石灰を添加すると、激しい発熱反応と共に水酸化カルシウムが生成されるが、そのときの化学反応式は以下の通りである。
【化2】

【0027】
この化学反応により各セメントペースト中の水分は除去されることになるが、その除去の程度は、生石灰の添加量に応じて異なる。上記化学反応式より、1kgの水が化学反応に消費されるには3.12kgの量の生石灰添加が必要であることが分る。添加する生石灰がその規定量よりも少ない場合には水が消費されずに(つまり、水酸化カルシウムとならずに)残り、セメントと反応して水和生成物を形成することになる。本発明者が確認したところ、添加量を1.5倍以上(つまり、生石灰の添加量をセメントペースト中の水量の1.5倍以上)とした場合には、生石灰添加後のセメントは灰白色を呈す粉体となって水分は完全に除去されており、指で摘んでも塊とならなかったことが分った。一方、添加量を1.25倍あるいは1倍(つまり、生石灰の添加量をセメントペースト中の水量の1.25倍あるいは1倍)とした場合には、生石灰添加後のセメント(灰色)は、指で摘むと団子状の塊となり、翌日には粉体中に少量の硬化したセメントペースト片が散在する状態となっていて、水分が除去されずに残っていたことが確認できた。
【0028】
次に、本発明者は、生石灰を添加していない状態の普通ポルトランドセメントの水和反応の進行状況を水和発熱曲線より検討した。図1に、今回実験に使用した普通ポルトランドセメント(水セメント比;W/C=0.5)の水和発熱曲線を示す。図1より、注水後およそ4分で第一の発熱ピークが現れ、それ以降発熱速度は次第に低下し、110分前後で発熱速度は最小値となることが分る。この第一の発熱ピークは、最も活性の大きいアルミネート(CA)と石膏の反応により生成するエトリンガイトの生成熱やエーライト(CS)の表面の溶解熱、およびセメント中の遊離CaOの水和熱などによると考えられる。その後、注水から2時間で発熱速度は増大に転じ、12時間で第二の発熱ピークが現れている。当然ながら生コンクリートは注水直後は混ぜ合わされている最中にあるので第一の発熱ピークの影響は余り受けず、結局、第二の発熱ピークを迎える前の誘導期(つまり、注水後約120分経過前)にセメント回収を完了させることが好ましい。なお、本発明者は、実験的に、セメントペーストを1分間練混ぜた後、直ちに生石灰を添加し攪拌を5分間行った。その結果、この5分で、フレッシュ状態のセメントペーストは全て粉末状態となった。セメントに注水してから5〜6分間は、上述のように第一の発熱ピークを迎えるが、その時点でセメントの回収を終えることができた。
【0029】
(1) セメントの粒度分布について
【0030】
次に、本発明者は、
・ 上述のような生石灰添加により回収したセメント(以下、“生石灰処理セメント”とする)の粒度分布
・ 生石灰添加を行っていないときの普通ポルトランドセメント(以下、単に“普通ポルトランドセメント”とする)の粒度分布
・ 凍結乾燥法により回収したセメント(以下、“凍結乾燥処理セメント”とする)の粒度分布
をレーザー光を用いてそれぞれ測定した。なお、図面や表では、適宜、
・ 生石灰処理セメントをLTCで示し、
・ 普通ポルトランドセメントをOPCで示し、
・ 凍結乾燥処理セメントをFDCで示す、
こととする。
【0031】
図2は、それらのセメントの粒度分布測定結果を示したものであるが、この図より、生石灰処理セメントの粒度分布(○印参照)は普通ポルトランドセメントの粒度分布(●印参照)よりも粗いことが分った。
【0032】
(2) セメントの50%粒径、及びセメント密度について
【0033】
また、表2には、これら3種類のセメントの密度と50%粒径とを整理した。この表より、生石灰処理セメント(LTC)の50%粒径は22.90μmであって、9.23μmの普通ポルトランドセメント(OPC)に比べてかなり大きいことが分る。このように粒度が粗くなった要因としては、石灰処理後に生成した水酸化カルシウムの増加に加えて、回収時の粉砕処理の程度が粒度に影響を及ぼしたためと考えられる。また、生石灰処理セメント(LTC)の密度は2.43g/cmであって、普通ポルトランドセメント(OPC)の密度に比べて23%低いことが分る。このように密度が低くなった理由は、生石灰処理セメントの場合、水酸化カルシウムの生成により、該セメントの密度が水酸化カルシウム自体の密度に近づいたためと考えられる。
【表2】

【0034】
(3) セメントの化学成分について
【0035】
次に、本発明者は、普通ポルトランドセメント400gを水200gで練混ぜたセメントペーストに、その水量の1.5倍の生石灰300gを加えて未水和セメント(水分が完全に除去された状態の生石灰処理セメント)を回収し、普通ポルトランドセメント及び生石灰処理セメントの化学成分の量を調べ、比較した(表3参照)。なお、生石灰処理セメントに関しては、化学成分の計算値も併記した。
【表3】

【0036】
上記化学反応式によれば、生石灰300gと反応する水は化学量論的には96.4gで、この水和反応で396gの水酸化カルシウムが生成される。これより、回収後のセメント粉末に占める元のセメントの比率(Cement/(Ca(OH)2+Cement))は、50.2%となる。残りの49.8%の水分が全量、水酸化カルシウムとなるのであるが、示差熱分析より算出したCa(OH)は、41.1%の分析結果を得た(表4)。
【表4】

【0037】
生石灰中のSiO2,Al2O3,Fe2O3の含有量は普通ポルトランドセメントの1/13から1/23と極めて少ないため、生石灰処理セメント中のSiO2、AL2O3、Fe2O3、MgO、SO3、Na2O、K2O、TiO2、MnOなどの成分は普通ポルトランドセメントのおよそ半分の値となる。またCaOは、セメント中の含有分と生石灰中の含有分の値で、67.31%を示す。この中で、強熱減量の値は、生石灰処理により回収したセメント(つまり、生石灰処理セメント)では17.12%に増加している。
【0038】
(4)圧縮強度試験について
【0039】
(4-1)凝結遅延剤未添加
【0040】
生石灰添加量や生石灰粒径の異なる生石灰処理セメント試料(表1のNo.1−1,1−2,2−1,2−2,3−1,3−2,4,5−1,5−2,6,7−1,7−2)に水を混ぜ(セメントペースト作成時の水セメント比は表1に示したように0.5とし、この圧縮強度試験のために、生石灰処理セメントと水とを練り混ぜる際の水セメント比は0.4とした)、φ50×100mmの円柱供試体を作成し、標準養生(水中養生)の後に材齢28日における圧縮強度試験を行った。図3は、その結果を示したもので、縦軸には圧縮強度を取り、横軸には、生石灰添加量を単位水量で割った値(以下、説明の便宜のため“生石灰添加比”と称することとする)を取っている。●印は、0.3mm以下の粒径の生石灰を使用したとき(表1のNo.1−1,2−1,3−1,4,5−1,6,7−1)の圧縮強度−生石灰添加比の関係を示しており、○印は、0.6mm以下の粒径の生石灰を使用したとき(表1のNo.1−2,2−2,3−2,5−2,7−2)の圧縮強度−生石灰添加比の関係を示している。
【0041】
粒度が0.6mm以下の生石灰を用いた場合(図の○印)は、生石灰添加比が1のときの圧縮強度は0.33N/mmであり、生石灰添加比を1.25に増やすと強度は14.96N/mmと上昇した。しかし、生石灰添加比を1.25より大きくすると、圧縮強度は上昇せずに低下してしまい、生石灰添加比を2.0以上とした場合には急激な強度の低下をみる。なお、生石灰添加比が1.5以上のときには、脱型時にはひび割れは生じなかったが、水中養生時には供試体が膨張して表面に多数の亀甲状のひび割れが生じた。このひび割れは、供試体を形成する時点でも一部の生石灰が未反応のまま残ってしまっていて、生石灰(粒状で、未反応のまま残っていた生石灰)が水(水中養生時に新たに供試体中に浸透してきた水)と反応して消石灰に変化する現象に伴うものである。
【0042】
粒度が0.3mm以下の生石灰を用いた場合(図の●印)は、生石灰添加比が1のときの圧縮強度は2.98N/mmであり、生石灰添加比が1.0〜2.0までは生石灰添加比を増加させると圧縮強度も増加する傾向にあり、生石灰添加比が1.50のときは12.73N/mmで、生石灰添加比が2.0のときは17.33N/mmであった。しかし、生石灰添加比が2.0以上の範囲では、該添加比を増加させると圧縮強度は低下してしまい、2.5で15.29N/mm、3.12では急激に減少して2.27N/mmであった。なお、粒度が0.6mm以下の生石灰を用いた場合と異なり、水中養生時にもひび割れは認められなかった。その理由は、生石灰の粒度が0.3mm以下と細かいために、粒度が0.6mm以下の場合のように生石灰が未反応のまま残ってしまうことが無いため(つまり、水中養生をするときまでには、ほとんど全ての生石灰が消石灰に変化してしまっているため)、水中養生時に水が供試体中に浸透しても消石灰はほとんど形成されなかったためと考えられる。
【0043】
ところで、生石灰添加比が2.0以下の場合には、生石灰を添加し練混ぜた時点で発熱するだけで、それ以降の工程では発熱はほとんど確認されなかった。これに対し、生石灰添加比を3.12とした場合には、生石灰を添加し練混ぜた時点で発熱するだけでなく、供試体作製時(つまり、生石灰処理セメントと水とを練混ぜた時)においても多量の発熱が認められた。これは、添加直後の練混ぜだけでは全ての生石灰が反応し切れずに一部の生石灰が未反応のまま残ってしまい、供試体作製時点で水と反応したためと考えられる。
【0044】
前記の化学反応式より、1kgの水を全て水酸化カルシウムとするためには3.12kgの生石灰が必要であり、理論的には、生石灰添加比が3.12のときに圧縮強度が最も高くなるものと考えられるが、実験では、3.12よりも小さい生石灰添加比にて圧縮強度が最も高くなっている。その理由としては、第一に、注水から生石灰添加までの間に水和反応が進行しているため、単位水量を全て水酸化カルシウムにするために必要な生石灰量よりも少なくなること、第二に、生石灰の添加量が最適添加量を超え単位水量の3.12倍とした場合には、水と反応できずに残った遊離生石灰が強度の期待できない六角板晶の水酸化カルシウムを生成することが考えられる。
【0045】
(4-2) 凝結遅延剤添加
【0046】
次に、本発明者は、AE減水剤添加量の異なる生石灰処理セメント試料(生石灰添加量がW*1.50のものでは、表1のNo.11〜13の3つの生石灰処理セメント試料。生石灰添加量がW*2.00のものでは、同表のNo.14〜16の3つの生石灰処理セメント試料)に水を混ぜ(水セメント比は0.4とした)、上記(4-1) と同様の圧縮強度試験を行った。その結果を図4に示す。横軸には、凝結遅延形AE減水剤の添加量(単位は%であって、セメントを基準にした添加百分率)を取り、縦軸には圧縮強度を取っている。また、図中の“CaO=1.5HO”は、表1のNo.11〜13についての試験結果を示しており、図中の“CaO=2.0HO”は、同表のNo.14〜16についての試験結果を示している。生石灰の添加量を単位水量の1.5倍としたセメントペーストを使用した場合は、AE減水剤の添加率がセメント量の0.2%では、添加しないものよりも38%強度が低下し、AE減水剤の添加率がセメント量の0.4%では、若干強度が向上するものの、添加しないものよりも22%の強度低下が起きていることが分る。
【0047】
なお、AE減水剤を添加した場合の強度が、AE減水剤を添加しない場合の強度よりも低下する理由を、本発明者は次のように推察している。すなわち、AE減水剤を添加したフレッシュセメントペーストは、生石灰を混ぜたときに団粒状になり、粉砕作業が添加しないものよりも難しい状態になる。このため、添加した生石灰がフレッシュセメントペースト中の水と十分に反応できずに、余剰生石灰として回収セメント中に残ることになり、これが強度低下の要因と考えられる。
【0048】
生石灰の添加量を単位水量の2.0倍にした場合、AE減水剤の添加率がセメント量の0.2%では、添加しないものよりも強度が低下するものの、AE減水剤の添加率がセメント量の0.4%では、強度が飛躍的に向上し、無添加の供試体よりも7%の強度増加が期待できる。
【0049】
(5) 未使用生石灰の貯蔵について
【0050】
セメント回収用に用いる生石灰は、水や湿気と接触することで容易に反応が起こるために、長期の貯蔵は避ける必要がある。そこで、0.3mm以下にふるい分けた生石灰をビニール袋に入れて密閉した状態で、1日、14日および28日間貯蔵して、生石灰の風化によるセメント回収への影響を調べた(図5)。14日間貯蔵した後にセメントを回収した場合(表1のNo.9)には、1日貯蔵した回収セメント(表1のNo.8)よりも、5.5%強度が低下し、28日間(表1のNo.10)では7.7%の強度低下となる。生石灰はビニール袋に入れ、これを所定の貯蔵期間、鋼製の密閉容器に入れて保存したが、空気中の湿気により生石灰の風化がわずかではあるが進行したことが、強度低下を引き起こしたものと考えられる。このため、使用する生石灰は長期貯蔵を避けるとともに、できるだけ早期の使用を図る必要がある。
【0051】
(6) 生石灰処理セメントの添加量と一軸圧縮強さ等との関係について
【0052】
生石灰処理セメントは、十分な強度発現が期待できるため、地盤改良材やコンクリート用の混和材として利用することが可能である。ここでは、地盤改良材として利用の可能性について、砂質土を例に、検討を試みた。
【0053】
含水比16.2%の砂質土に生石灰処理セメントを添加したものを、φ50×100mmの鋼製モールドに突固めて供試体を作成し(但し、突固め回数は25回とし、砂質土等は3度に分けてモールド内に入れた)。なお、この供試体は3つ作成し、生石灰処理セメントの量は、それぞれ、100kg/m、150kg/mおよび200kg/mと異ならせた。そして、脱型後に、供試体を水の入ったデシケータ内で湿気養生し、材齢28日における圧縮強度を測定した。また、対比のため、生石灰処理セメントを添加しない砂質土だけの供試体も3個作成した。
【0054】
図6は、生石灰処理セメントを添加していない砂質土の圧縮応力−圧縮ひずみ曲線を示す図であり、図7は、生石灰処理セメントを添加した砂質土の圧縮応力−圧縮ひずみ曲線を示す図である。なお、図6中のNo.1,2,3は上記3個の供試体(生石灰処理セメントを添加しない砂質土だけの供試体)の応力ひずみ曲線であり、図7中の実線は生石灰処理セメントの量が100kg/mの供試体、一点鎖線は150kg/mの供試体、破線は200kg/mの供試体の応力ひずみ曲線である。地盤改良材としての生石灰処理セメントを混ぜていない、砂質土の一軸圧縮強さは5.4kN/mで、変形係数は0.41MN/mであった(図6)。生石灰処理セメントの添加量が100kg/mの供試体の一軸圧縮強さは228.8kN/mで破壊ひずみは0.60%であった。生石灰処理セメントの添加量が150kg/mの供試体の一軸圧縮強さは510.6kN/mで破壊ひずみは0.59%であった。さらに、生石灰処理セメントの添加量が200kg/mの供試体の一軸圧縮強さは954.5kN/mで破壊ひずみは0.39%であった。生石灰処理セメントの添加量を増すにつれて、一軸圧縮強さは増加し脆性的な性質を示すようになることが分った。
【0055】
この砂質土に関しては、生石灰処理セメント(回収セメント)の添加量CL(kg/m)と一軸圧縮強さqu(kN/m)の関係は、図8に示すようになり、次式で近似できることが分った。
【数1】

【0056】
上式より、現場の設計強度を160kN/mとし、現場/室内の強さ比を0.5とした場合の生石灰処理セメントの現場添加量としては、およそ118kg/mとなる。
【0057】
以上のことより、まだフレッシュ状態にあるセメントペーストに生石灰を最適量添加することにより、水分を水酸化カルシウムに変化させることで、セメントペーストを未水和セメントや水酸化カルシウムを含む粉末とすることができる。この水酸化カルシウムを含む生石灰処理セメントは、水を加えた時に、再び水和反応が期待できるため、コンクリートの混和材料や地盤改良材としての利用が可能となることが判明した。
【0058】
(7) 結論
【0059】
以上の各種測定等から、以下の結論が得られた。
【0060】
(7-1)生石灰処理セメントの粒度は、普通ポルトランドセメントよりも粗い粒度を示す。この時の50%粒径は普通ポルトランドセメントの9.23μmに対して、生石灰処理セメントでは22.90μmである。また、生石灰処理セメントの密度は2.43g/cmで普通ポルトランドセメントより23%低下する。
【0061】
(7-2) 生石灰処理セメント中のCaOは、未水和状態にあるセメント中の含有分と生石灰中の含有分の値で、67.31%を示す。この中で、強熱減量の値は、生石灰処理セメントでは17.12%となる。
【0062】
(7-3) 粒度が0.3mm以下の生石灰を用いた場合、生石灰添加比が1のときの圧縮強度は2.98N/mmであり、生石灰添加比が1.0〜2.0までは生石灰添加比を増加させると圧縮強度も増加する傾向にあり、生石灰添加比が1.50のときは12.73N/mmで、生石灰添加比が2.0のときは17.33N/mmである。しかし、生石灰添加比が2.0以上の範囲では、該添加比を増加させると圧縮強度は低下してしまい、2.5で15.29N/mm、3.12では急激に減少して2.27N/mmであった。生石灰添加比が3.12の場合には、再度注水して練混ぜた時に多量の発熱が認められた。
【0063】
(7-4) 粒度が0.6mm以下の生石灰を用いた場合、生石灰添加比が1のときの圧縮強度は0.33N/mmであり、生石灰添加比を1.25に増やすと強度は14.96N/mmと上昇した。しかし、生石灰添加比を1.25より大きくすると、圧縮強度は上昇せずに低下してしまい、生石灰添加比を2.0以上とした場合には急激な強度の低下をみた。なお、生石灰添加比が1.5以上のときには、水中養生時には供試体が膨張して表面に多数の亀甲状のひび割れが生じた。
【0064】
(7-5) 生石灰処理セメントに再び水を加えた場合に、強度発現が最大となるような生石灰の最適添加量が存在する。粒径が0.3mm以下の生石灰を用いた場合には、単位水量の2倍の生石灰を添加したときに、最大の強度発現が得られる。
【0065】
(7-6) 生石灰処理セメントに水を練り混ぜた後の圧縮強度は、生石灰処理セメント作成時におけるAE減水剤の添加量の影響を受ける。例えば、生石灰処理セメントに表1のNo.11−13に示すもの(つまり、水セメント比を0.5とし、生石灰添加量をW*1.50とし、生石灰粒径を0.3mmとしたもの)を用いる場合、AE減水剤の添加率がセメント量の0.2%では、添加しないものよりも38%強度が低下し、AE減水剤の添加率がセメント量の0.4%では、若干強度が向上するものの、添加しないものよりも22%の強度低下が起きている。凝結遅延剤を添加したフレッシュ状態のセメントペーストは、生石灰を混ぜたときに団粒状になり、粉砕作業が添加しないものよりも難しい状態になる。
【0066】
(7-7) 0.3mm以下にふるい分けた生石灰をビニール袋に入れて密閉した状態で長期貯蔵した場合に、14日間貯蔵した後にセメントを回収した場合には、1日貯蔵した回収セメントよりも、5.5%強度が低下し、28日間では7.7%の強度低下となり、風化の影響を受ける。
【0067】
(7-8) 一軸圧縮強さで5.4kN/m期待できる砂質土に石灰処理により回収したセメントを添加して地盤改良した場合に、回収セメントを100kg/m添加することで材齢28日における一軸圧縮強さは228.8kN/m得られる。回収セメントの添加量を150kg/mおよび200kg/mと増加させることにより、一軸圧縮強さは510.6kN/m、954.5kN/mと増加し、地盤改良材としてその利用が可能である。
【0068】
(7-9) 本実験で使用した砂質土に対して、回収セメント添加量CL(kg/m)と一軸圧縮強さqu(kN/m)の関係は次式で近似できる。
【数2】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は、普通ポルトランドセメント(水セメント比;W/C=0.5)の水和発熱曲線を示す図である。
【図2】図2は、生石灰処理セメント、普通ポルトランドセメント及び凍結乾燥処理セメントの粒度分布測定結果を示す図である。
【図3】図3は、生石灰処理セメントと水とを練り混ぜて作成した供試体の圧縮強度に対し、生石灰添加量/単位水量や生石灰の粒度が与える影響を示す図である。
【図4】図4は、生石灰処理セメントと水とを練り混ぜて作成した供試体の圧縮強度に対し、AE減水剤の添加量が与える影響を示す図である。
【図5】図5は、生石灰処理セメントと水とを練り混ぜて作成した供試体の圧縮強度に対し、生石灰貯蔵期間が与える影響を示す図である。
【図6】図6は、生石灰処理セメントを添加していない砂質土の圧縮応力−圧縮ひずみ曲線を示す図である。
【図7】図7は、生石灰処理セメントを添加した砂質土の圧縮応力−圧縮ひずみ曲線を示す図である。
【図8】図8は、生石灰処理セメントと水とを練り混ぜて作成した供試体の圧縮強度に対し、生石灰処理セメントの添加量が与える影響を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレッシュ状態の生コンクリートに生石灰を添加する工程と、
該生石灰を添加した生コンクリートを攪拌して該生コンクリート中の水分を水酸化カルシウムに化学変化させることにより、少なくともセメントを乾燥状態で回収する工程と、
を備えたセメント回収方法。
【請求項2】
前記生石灰を添加する前の生コンクリートをウエットスクリーニングすることにより、該生コンクリートから砂利を分別除去する工程、を備え、
前記生石灰の添加及び攪拌は、砂利を分別除去した後の生コンクリートに対して行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のセメント回収方法。
【請求項3】
前記生コンクリートは、コンクリート打設現場で使用されずにセメント回収処理場に搬送されてきたものである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のセメント回収方法。
【請求項4】
前記生石灰を添加する前の生コンクリートに対し凝結遅延剤を添加する工程、
を備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のセメント回収方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のセメント回収方法により回収されたセメント。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のセメント回収方法により回収されたセメントを乾燥状態のままで保存する工程と、
該保存しているセメントに水を加えてコンクリートの混和材料や地盤改良材として利用する工程と、
を備えたセメント再利用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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