説明

セメント構造物用被覆養生剤

【課題】セメント構造物表面の水分蒸発抑制効果に優れ、よってセメント構造物の強度向上が図れる被覆養生剤を提供する。
【解決手段】セメント構造物に塗布又は散布される被覆養生剤であって、融点が70℃以下であり、かつ室温で半固形状又は固形状である油性成分であって、高級脂肪酸、高級アルコール、油脂及び炭化水素からなる群から選択された1種又は2種以上からなる油性成分を含有してなるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント構造物被覆養生剤に関し、具体的にはセメント構造物の表面を被覆することによりその水分蒸発を抑制し、よってセメント構造物の強度を向上させ得る被覆養生剤に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタルやコンクリート等のセメント構造物の性能を十分に発揮させるために、セメント表面からの水分損失を抑制する養生方法が従来から用いられており、一般的には、散水養生、塗膜養生、シート養生等の方法が用いられている。
【0003】
しかしながら、散水養生は、気温が高く水分の蒸発速度が速い時期には散水の回数を増やす必要があり、繁雑な作業となる。またシート養生は、施工面積の増加とともにシートを増やす必要があり、広面積での適用は困難であるとともに、形態の複雑化に対応し難いという短所を有する。
【0004】
また、塗膜養生は上記のような問題点は有しないものの、従来は塗膜養生剤として、エポキシ、アクリル、ウレタン等の樹脂系塗膜養生剤が用いられており、これらは溶剤を含んでいることや、2液型で使用が煩雑であることや、被膜が比較的硬く、セメント構造物の変形に追随しづらい等の問題点を有するものであった。
【0005】
このような問題に対し、特許文献1にはセルロース類を含有する水溶液からなる塗膜養生剤が開示され、特許文献2には合成樹脂水性分散体等からなる養生被覆剤が開示されている。しかしながら、これらはいずれも水分蒸発抑制効果が未だ不十分であった。
【特許文献1】特開2004−244255号公報
【特許文献2】特開2005−162534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、簡便な方法で使用でき、セメント構造物表面の水分蒸発抑制効果に優れ、よってセメント構造物の強度向上が図れる被覆養生剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセメント構造物用被覆養生剤(以下、単に被覆養生剤ともいう)は、セメント構造物に塗布又は散布される被覆養生剤であって、上記の課題を解決するために、融点が70℃以下であり、かつ室温で半固形状又は固形状である油性成分であって、高級脂肪酸、高級アルコール、油脂及び炭化水素からなる群から選択された1種又は2種以上からなる油性成分を含有してなるものとする。
【0008】
上記油性成分は、25℃針入度が10以上であることが好ましい。
【0009】
また、本発明のセメント構造物用被覆養生剤は、上記油性成分が界面活性剤を用いて水に分散されてなる水中油型乳化分散体とすることもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の被覆養生剤によれば、水分損失率が減少し、これによりセメントの水和反応が促進され、初期強度発現性が向上する。従って、乾燥収縮低減効果増大によりひび割れ防止効果を向上させることができ、ひいてはセメント構造物の耐久性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いる油性成分とは、高級脂肪酸、高級アルコール、油脂及び炭化水素からなる群から選択された疎水性化合物1種又は2種以上からなるものであって、常温で半固形状又は固形状であるものである。ここで「半固形状又は固形状」とは、液体状でないことを意味し、より具体的には、総理府令『危険物の規制に関する規則』第69条の2に定める液状の定義に準じた確認試験において、20℃で90秒以上要するものをいうこととする。また、これら油性成分は融点70℃以下であるものとする。
【0012】
上記油性成分は、25℃針入度が10以上であることが好ましく、その場合、水分損失抑制効果がより優れ、よってセメント構造物の強度発現効果もさらに向上する。
【0013】
上記油性成分の好ましい例としては、炭素数12〜16の高級脂肪酸若しくは高級アルコールが挙げられ、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコールが挙げられる。他の好ましい例としては、ミツロウ、鯨蝋、ラノリン、パラフィン、ペトロラタム等のワックス類が挙げられる。中でも、セメント構造物の変形に対する追従性が優れるため、室温で半固形状の物質であるラノリン及びペトロラタムが好ましい。
【0014】
本発明の被覆養生剤は上記油性成分をそのまま又は必要に応じて加熱して塗布するものとしてもよく、あるいは上記油性成分が界面活性剤を用いて水に分散されてなる水中油型乳化分散体とすることもできる。両者を比較すると、前者は水分蒸発抑制効果においてより優れ、後者は作業性の点でより優れる。
【0015】
前者の場合、加熱は油性成分の塗布が容易な状態になるまで必要に応じて行えばよく、その加熱温度は、油性成分の種類、塗布対象であるセメント構造物、作業環境等によって適宜決定すればよい。
【0016】
後者の場合、水中油型乳化分散体は、同様の分散体を調製するのに従来より用いられている方法で調製することができる。すなわち、油性成分を分散して水中油型乳化分散体とするのに用いられる界面活性剤としては、本発明の被覆養生剤の性能に悪影響を与えないものであれば特に制限なく使用でき、アニオン系及びノニオン系界面活性剤が用いられ、中でもノニオン系界面活性剤を好適に用いることができる。また調製方法としては、水を少しずつ加えながら転相を利用する転相乳化法、多量の水中に投入して自己乳化分散性を利用する自然乳化法、ホモジナイザーやコロイドミル等の機械的作用を利用する強制乳化法等を用いることができる。
【0017】
本発明の被覆養生剤は、良好な施工性を得るためには、粘度が10,000mPa・s以下であることが好ましく、500〜5000mPa・sであることがより好ましい。
【0018】
本発明の被覆養生剤には、本発明の目的を離れない範囲内で、粘土鉱物や石鹸のような粘度調整剤等の添加物を適宜添加することもできる。
【0019】
本発明の被覆養生剤は、セメント構造物表面に塗布又は散布することにより施工される。塗布又は散布する量は特に限定されないが、被覆養生剤の無駄を生じずに所望の効果が得られ、施工性も良好であるという点からは、50〜500g/mであることが好ましく、100〜300g/mであるのがより好ましい。
【0020】
被覆養生剤をセメント構造物表面に塗布又は散布する方法としては、通常の方法を用いることができ、例えば塗布では、上記油性成分またはその分散液をセメント構造物表面に塗りつけることができる刷毛やローラー等を使用すればよい。また、散布するには、手押しポンプ式の吹付け機、機械式の吹付け機等を使用することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0022】
[実施例1〜5,比較例1〜6]
表1に示した油性成分等及び非イオン界面活性剤としてのポリオキシエチレンラウリルエーテルを水に投入、撹拌して、油性成分20重量%(純分)、非イオン界面活性剤10重量%の水中油型乳化分散体である被覆養生剤を得た。但し、比較例1はブランクとした。使用した油性成分等の融点及び25℃における針入度を表1に併記する。なお、融点及び針入度はJIS K2235〈石油ワックス〉に準拠して予め測定した。
【0023】
得られた被覆養生剤を用いて、以下の通り、セメント試験体の水分損失量と圧縮強度を測定した。結果を表1に併記する。
【0024】
水分損失量:練り混ぜたモルタル(セメント/砂=1/3、W/C=60%)を、φ50mm×100mmの簡易型枠を用いて成形し、20℃、60%RHの恒温恒湿槽で24時間養生した。脱型後、モルタル表面に、上記被覆養生剤を、刷毛で200g/m塗布した。20℃、60%RHの恒温恒湿室に置き、1,2,3,5,7日後の試験体重量を測定した。その後、100℃の乾燥機で4日間乾燥し、試験体重量を測定した。乾燥前の重量と乾燥後の重量及び試験体の体積から水分損失量(g/m)を算出した。
【0025】
また、圧縮強度をJIS A1108『コンクリートの圧縮強度試験方法』に準拠して測定した。
【0026】
[実施例6,7]
表1に示した油性成分を35℃に加熱し、ゴム製のヘラを用いてセメント試験体の表面に40g/mの割合で塗布した。そのセメント試験体につき、上記と同様にして水分損失量及び圧縮強度を測定した。結果を表1に併記する。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示されたように、実施例のものはいずれも1日後から7日後に至るまで比較例のものと比較して、水分損失量が小さく、優れた圧縮強度を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の被覆養生剤は、土木・建築分野で使用される各種セメント構造物、例えばトンネルの覆工コンクリート、一般構造物の壁や床等に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント構造物に塗布又は散布される被覆養生剤であって、
融点が70℃以下であり、かつ室温で半固形状又は固形状である油性成分であって、高級脂肪酸、高級アルコール、油脂及び炭化水素からなる群から選択された1種又は2種以上からなる油性成分を含有してなる
ことを特徴とするセメント構造物用被覆養生剤。
【請求項2】
前記油性成分の25℃針入度が10以上である
ことを特徴とする、請求項1に記載のセメント構造物用被覆養生剤。
【請求項3】
前記油性成分が界面活性剤を用いて水に分散されてなる水中油型乳化分散体である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のセメント構造物用被覆養生剤。

【公開番号】特開2010−18490(P2010−18490A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181224(P2008−181224)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】