説明

セメント混合盛土補強用合成繊維束

【課題】セメント混合盛土の補強性を高めるため、特に補強繊維量の増加、分散性の向上を図ることができ、かつ補強効果の高い補強用合成繊維を提供すること。
【解決手段】繊度が100〜400dtexの合成繊維束であって、該合成繊維束は単繊維の集束処理が施され、かつ、特定の条件での測定によるループ変位量xが10〜45mmであることを特徴とする、セメント混合盛土補強用合成繊維束である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道、道路及び宅地造成地などに用いる盛土の補強用合成繊維束に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に鉄道、道路、宅地造成などにおいて、緑化・災害防除の目的にて、切土・盛土斜面の安定化が行われる。特に勾配のきつい斜面においては、セメントを混合した補強盛土としてより安定化を図ることが多い。その際には、砂、セメント、水にポリエステル、ビニロン、ポリプロピレンなどの有機合成長繊維を混合して吹き付ける工法などが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
しかしながら一般的にこの様な工法においては、有機合成長繊維は給糸装置から供給され、砂、セメント、水からなる混合物とノズル出口等で合一して斜面に吹き付けられる。従って、供給される長繊維はノズル中で混合土の吐出によるせん断力を受けて繊維同士が絡まりやすい。また絡まることなく吐出される場合でも、混合物の吐出量、圧力が不安定になりやすく、結果として単位時間あたりの吹付け量が少なく、工期がかかるなどの問題がある。
一方で、セメント混合盛土の補強性を高めるためには、セメント量、又は補強繊維量を多く、かつ均一に分散させることが必要である。特に補強繊維量の増加、分散性の向上においては、有機合成長繊維の吐出の安定性が重要である。
【0004】
【特許文献1】特開昭55−167170号公報
【特許文献2】特開平8−27794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セメント混合盛土の補強性を高めるため、特に補強繊維量の増加、分散性の向上を図ることができ、かつ吹付け時のノズルからの吐出安定性の高い補強用合成繊維を開発することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的の達成のため、鋭意検討を重ねた結果、特定の性状の長繊維がセメント混合土との混合性やノズルからの吐出性の観点から有効であることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)繊度が100〜400dtexの合成繊維束であって、該合成繊維束は単繊維の集束処理が施され、かつ、後述の条件での測定によるループ変位量xが10〜45mmであることを特徴とする、セメント混合盛土補強用合成繊維束、
(2)前記合成繊維束の単繊維の集束処理がバインダーによる処理である前記(1)に記載のセメント混合盛土補強用合成繊維束、及び
(3)前記合成繊維束の単繊維の集束処理が、加熱・圧着による処理である前記(1)に記載のセメント混合盛土補強用合成繊維束、
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のセメント混合盛土補強用合成繊維束は、吹付け時にノズル内部で詰まることはなく、かつ高いセメント混合土の補強性能を発現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のセメント混合盛土補強用合成繊維束は、合成繊維からなる紡績糸又はマルチフィラメントなど、つまり、繊維長の短い単繊維が紡績された連続糸、又は複数の単繊維が長さ方向に糸が途切れずに連続している長繊維からなり、鉄道、道路及び宅地造成地などに利用される盛土構築用に供されるセメント混合土の補強のために、セメント・土とともに圧縮空気を用いてノズルから吐出し・吹付けされるものである。
【0010】
本発明に用いられるセメント混合盛土補強用合成繊維束を構成する繊維としては、生分解しにくい合成繊維が用いられる。綿や麻などの天然繊維やレーヨンなどの再生繊維では土中で分解してしまい補強効果を維持することが困難となるためである。かかる、合成繊維の種類は特に限定されないが、セメント混合土の補強に用いることから耐アルカリ性に優れた繊維を用いることが望ましい。具体的には、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維などが挙げられる。
【0011】
本発明のセメント混合盛土補強用合成繊維束の繊度は、100〜400dtexであることが必要であり、好ましくは150〜350dtex、より好ましくは200〜300dtexの繊度のものが用いられる。繊度が100dtex未満であると1本の繊維束の強度が低いために盛土の補強に十分な性能を発揮できない恐れがある。一方、繊維束の繊度が400dtexを超える場合には、吹付けの際に繊維束がノズル内部で絡まったり詰まったりする恐れがあるだけでなく、繊維が土の中に十分に分散しないために補強性能が上がらないといった問題を生じる。
補強用合成繊維束は、セメント混合土に対して、好ましくは0.05〜1質量%、より好ましくは0.1〜0.5質量%の比率で混合されることが望ましい。
【0012】
また、本発明のセメント混合盛土補強用合成繊維束において、柔らかさの指標である、前述の測定方法によるループ変位量xが、10〜45mm、より好ましくは15〜40mmの範囲であることが必要である。ループ変位量xが、10mm未満であると繊維束が硬く、吹付け時のノズルの中で繊維束が詰まったり、繊維束がセメント混合土の中に十分に分散しないという問題が生じ、45mmを超えると、逆に繊維束の腰がなく混合土との分散が均一にならないという問題が生じる。
なお、ループ変位量xは、計算上、下記式(2)で表される範囲で示される。
0≦ ループ変位量 x ≦(30/2)π=15π≒47 mm (2)
【0013】
本発明のセメント混合盛土補強用合成繊維束は、単繊維が集束されていることが必要である。単繊維が集束されていない場合には、吹付け時の圧縮空気の流によって単繊維がばらけて広がり、やがて絡み合う。単繊維が絡まると繊維束がセメント混合土の中に分散せずに繊維塊となってしまい、補強性能を著しく損なう。
紡績糸においても、バインダーによる集束処理が施されていないと、構成繊維である単繊維が吹付け時の圧縮空気の流による撚り戻り等によって脱落したり、あるいはばらけて広がり縺れたりし、また、複数の紡績糸束を同時に供給する際に、紡績糸同士が絡み合うなどして、紡績糸がセメント混合土の中に均一に分散せずに繊維塊となってしまい、補強性能を著しく損なうこととなる。
【0014】
上記の、特に紡績糸の単繊維の補強には、バインダーを付着させる方法が採用できる。これは一般にサイジングと呼ばれる糊付けの一種であり、バインダー樹脂としては一般にポリビニルアルコール系樹脂やアクリル系樹脂、澱粉などが用いられる。これらのバインダー樹脂の種類や付着量は特に限定されず、バインダー樹脂は生分解性があってもかまわない。なぜなら、バインダー樹脂は、繊維束をセメント混合土との吹付け時に、圧縮空気の流によって単繊維がばらけたり、絡み合ったりすることを防止できる機能を有していれば足り、混合盛土が形成された後には、その機能が要求されないからである。
またバインダーの賦与方法も特に限定されず、適当な濃度のバインダー液の中に繊維束を通した後に熱風で乾燥させる方法が一般的に採用できる。
【0015】
また、単繊維の集束には、熱融着法も用いられる。これはポリプロピレンやポリアミドなどの熱可塑性合成繊維に対して有効な方法であり、繊維束の長さ方向に不連続に加熱・圧着させることで集束する方法である。歯型の熱ローラーに連続的に繊維束を接触させることで、所定の歯型のピッチで、加熱・圧着(熱融着)による集束糸の製造が可能であるが、その製造方法については、特に限定されない。
加熱・圧着による集束処理には、熱接着性複合繊維を使用することもできる。
熱接着性複合繊維としては、低融点成分が鞘部に、高融点成分が芯部に配置された鞘芯型複合繊維、あるいはこれらが、並列型に配置された並列型複合繊維であってもよい。
【実施例】
【0016】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに何ら拘束されるものではない。
また、本発明において、「%」は、特記しない限り「質量%」を意味する。
【0017】
[ループ変位量の測定]
直径30mmのリングに繊維束を3周巻きつけ、両端を括って直径30mmの3周巻の繊維束によるループ(輪)を作成する。このループをフックにぶら下げる。このループに、2gの荷重を懸けた時のループの横方向の内径の距離A(mm)、及び縦方向の内径の距離B(mm)を測定し、下記式(1)よりループの変位量を算出する。
ループ変位量x(mm)=[30−A]+[B−30]=B−A (1)
なお、ループ変位量xは、計算上、下記式(2)で表される範囲で示される。
0≦ ループ変位量 x ≦(30/2)π=15π≒47(mm) (2)
【0018】
実施例1
ビニロン紡績糸(20番手=295dtex、強力15N、伸度9%)を原糸とし、これにポリビニルアルコール水溶液(株式会社クラレ製、PVA17、濃度5%)を糸重量に対して80%付着させた後に乾燥させ、バインダーが4%付着した補強用繊維束を得た。この繊維束のループ変位量は20mmであった。
【0019】
実施例2
ポリプロピレン長繊維(220dtex/40f、強力8N,伸度62%)を180℃の金属製歯型熱ローラーに連続的に接触させてピッチ20mmで、部分的に熱融着部を有する補強用繊維束を得た。この繊維束のループ変位量は、40mmであった。
【0020】
比較例1
ビニロン長繊維(株式会社クラレ製ビニロンフィラメント、2000dtex/1000f、強力190N、伸度7%)を原糸に用いて、実施例1と同様の方法で補強用繊維束を得た。この繊維束のループ変位量は17mmであった。
【0021】
比較例2
ビニロン長繊維(株式会社クラレ製ビニロンモノフィラメント、390dtex/1f、強力30N、伸度7%)をそのまま補強用繊維束として用いた。この繊維束のループ変位量は1mmであった。
【0022】
比較例3
実施例1と同様の方法で補強繊維束を作成したが、バインダー液の濃度を10%、液付着量150%に上げて、バインダー付着量を15%とした。この繊維束のループ変位量は、6mmであった。
【0023】
比較例4
実施例1に用いた原糸をバインダー処理せず、そのまま補強繊維束として用いた。この補強繊維束のループ変位量は40mmであった。
【0024】
比較例5
75dtex/24fのポリプロピレン繊維(強力2N、伸度70%)を用いて実施例2と同様の方法で補強用繊維束を得た。この繊維束のループ変位量は42mmであった。
以上の実施例及び比較例の合成繊維束の構成等についてまとめて表1に示す。
【0025】
実施例及び比較例の各補強用合成繊維(束)を用いて、セメント混合土の吹付けを実施した。
セメント混合土は、普通ポルトランドセメント、砂(粒径=0〜5mm、桂川産)を用い、セメント配合量は乾燥土1m3に対して15kgとした。また繊維束の使用量は、合計繊維混合量が、セメント混合土に対して0.1%となるように、各実施例及び比較例において、投入する繊維束の本数を調整した。
吹付けは、セメント混合土の吹付機に接続された吹付けノズル内においてセメント混合土と同時に吹付けができるように、連続長繊維巻取りチーズ(ボビン)から供給される補強繊維束を給糸装置を経て繊維圧送ホースが前記吹付けノズルに接続されたノズルにより行った。
セメント混合土の吹きつけ条件は、セメントと砂が分散、撹拌されている混合土に対して、補強用合成繊維(束)が800m/分となる供給速度として、下記の木箱に吹き付けた。
盛土補強について、ノズル通過性、繊維の土中分散性、破壊ピーク強度、及び総合判定を以下の方法で評価した。
【0026】
〔盛土補強の評価〕
(1)繊維の土中分散性
ノズルより吹付けられた補強繊維束が、吹きつけ面で描く弧の大きさ及び分散性を目視により観察して、「良好」、「不良」を判定した。
(2)補強盛土の性能
25cm×25cm×50cmの木箱に、このセメント混合土と繊維を突きつけた供試体を2ヶ月間自然養生した後、1軸圧縮試験を行い、破壊ピーク強度を測定した。
(3)総合判定
上記(1)〜(2)を総合的に判断して、「良好」、「不良」を判定した。
結果をまとめて表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
以上、表1の結果より、本発明のセメント混合盛土補強用合成繊維束は、繊維の土中分散性が良好で、かつ、高い破壊ピーク強度を示していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の補強用合成繊維束は、吹付け時にノズル内部で詰まることはなく、土中分散性が良好で、かつ高いセメント混合土の補強性能を示すので、鉄道、道路、宅地造成地などの盛土の補強用合成繊維束として有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の補強用合成繊維束のループ変位量を測定する方法を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 無荷重時のループ(内径:30mm)
2 荷重時のループ
3 荷重=2g
A 荷重時のループの横方向の内径(mm)
B 荷重時のループの縦方向の内径(mm)
F フック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊度が100〜400dtexの合成繊維束であって、該合成繊維束は単繊維の集束処理が施され、かつ、以下の条件での測定によるループ変位量xが10〜45mmであることを特徴とする、セメント混合盛土補強用合成繊維束。
〔ループ変位量xの測定方法:直径30mmのリングに繊維束を3周巻きつけ、両端を括って得られた繊維束によるループに、2gの荷重を懸けた時のループの横方向の内径の距離A(mm)、及び縦方向の内径の距離B(mm)を測定し、下記式(1)よりループ変位量を算出する。
ループ変位量x(mm)=[30−A]+[B−30]=B−A (1) 〕
【請求項2】
前記合成繊維束の単繊維の集束処理がバインダーによる処理である請求項1に記載のセメント混合盛土補強用合成繊維束。
【請求項3】
前記合成繊維束の単繊維の集束処理が、加熱・圧着による処理である請求項1に記載のセメント混合盛土補強用合成繊維束。

【図1】
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【公開番号】特開2010−1583(P2010−1583A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160666(P2008−160666)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】