説明

セメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマー

【課題】分散性および保持性に優れたセメント組成物を得るためのセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの提供。
【解決手段】(1)前記ポリカルボン酸系ポリマーの分子量分布をゲルパーミエションクロマトグラフィーにて測定し、横軸に溶出時間を取った分子量分布曲線を得、(2)前記分子量分布曲線にベースラインを作成し、(3)前記ポリマー成分に相当するピークにおける溶出開始時間をLh、溶出終了時間をLn、ピークトップの溶出時間をMpとし、(4)Lmを次式Lm=(Ln+Mp)/2 から算出し、(5)溶出時間LmとLnとの間のピーク面積をP0とし、溶出時間LhとMpとの間のピーク面積をQ0としたときに、P0とQ0が次式を満足することを特徴とするセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマー。15≦(P0×100)/(P0+Q0)≦45

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント混和剤に添加するポリカルボン酸系ポリマーとその製造方法、およびそれを用いたセメント混和剤ならびにセメント組成物に関するものである。詳しくは、流動性や保持性能に優れたセメント組成物(セメントペースト・モルタル・コンクリートなど)を得るためのセメント混和剤、およびそれに好適に添加するポリカルボン酸系ポリマーとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、建築物外壁材・建築物構造体などでは、セメントに水を添加したセメントペーストやセメントペーストに細骨材である砂を混合したモルタル、モルタルに粗骨材である小石を混合させたコンクリートなどにセメント混和剤を加えて加工することで、セメント硬化物の強度や耐久性を高めている。上記セメント混和剤には、セメント組成物の含水量(減水)を低下させても充分な分散性・流動性・施工性を確保できると共に、減水によって耐久性や強度を向上できることが要求される。それ以外に、セメント組成物の分散性が経時的に悪化すると作業し難くなることから、セメント混和剤にはセメント組成物の分散性を低下し難くする(保持性に優れている)ことが要求される。
【0003】
上記セメント混和剤の中でもポリカルボン酸系のセメント混和剤は、ナフタレン系などの他のセメント混和剤と比べてセメント組成物に高い分散性能を付与できることから、好適に用いられている。例えば、特許文献1には、特定の不飽和ポリアルキレングリコール系単量体と(メタ)アクリル酸系単量体からなる共重合体を含むセメント混和剤が開示されている。
【0004】
しかし、上記ポリカルボン酸系セメント混和剤を含むセメント組成物は、分散性には優れているものの、該分散性は時間が経つに連れて低下し、保持性の点で若干不十分であった。高強度コンクリートに必要とされる高減水率領域ではこの保持性は重要な要因であり、保持性の悪さは作業性の低下に繋がる。つまり高減水率領域ではコンクリートの流動性が低下してしまい、特に高シェアー下で粘度が高くなり、コンクリートをポンプで圧送させる際にポンプに大きな負荷が掛かり、ポンプ圧送に弊害が生じることがある。特に気温が15℃以下の冬場には、コンクリートの温度も気温と同様に低下し、コンクリートの粘度が高くなり、作業性が著しく低下する。その上、常温と比べてコンクリートの分散性も低下するため、コンクリートを型へはめ込む際の充填性が悪化し、作業性を著しく損なうことがあった。そこで特許文献2には、セメント組成物の保持性を向上させるために、ポリアルキレン鎖を長くしたセメント混和剤が開示されている。しかし上記セメント混和剤を含むセメント組成物でも分散性の点で若干不十分であった。また特許文献3には、GPC測定でのポリマーのメインピークを比較的高分子側に移行させることで、保持性に優れたセメント混和剤を開示している。しかし上記セメント混和剤でも分散性の点で若干不十分であった。
【特許文献1】特開平9−86990号公報
【特許文献2】特開平9−286645号公報
【特許文献3】特開2003−206169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、上記課題を認識し、分散性および保持性に優れたセメント組成物を得るためのセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、比較的高分子量のポリマーは、分散性には優れているものの保持性が劣るのに対し、逆に比較的低分子量のポリマーは、保持性には優れているものの分散性が劣る点に着目した。その際特許文献1〜3に記載のポリマーのように比較的分子量分布が狭いセメント混和剤用ポリマーでは、上記高分子量ポリマーの特性または低分子量ポリマーの特性の何れかが強く出るため、両者の特性を兼ね備えたセメント組成物を得難いと考えた。そこで高分子量側のポリマーと低分子量側のポリマーとの割合を適宜調節した分子量分布が幅広いポリマーを用いてセメント混和剤を作製した。そして該混和剤を含むセメント組成物での保持性と分散性を検討した。その結果、ゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリマーの分子量分布を測定し、得られた結果を基にしてパラメーターを作成し、該パラメーターの値が特定の範囲内にあるポリマーを含むセメント混和剤を用いて得られたセメント組成物では、分散性と保持性の両方の面で優れていることを見出した。その際、上記ポリマーを少なくとも2段階で重合し、各重合過程での単量体成分に対する連鎖移動剤の割合を5倍以上に変化させて重合させることで、上記特性を有するポリマーを容易に製造できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
本発明のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーは
(1)前記ポリカルボン酸系ポリマーの分子量分布をゲルパーミエションクロマトグラフィーにて測定し、横軸に溶出時間を取った分子量分布曲線を得、
(2)前記分子量分布曲線にベースラインを作成し、
(3)前記ポリマー成分に相当するピークにおける溶出開始時間をLh、溶出終了時間をLn、ピークトップの溶出時間をMpとし、
(4)Lmを下記式(1)
Lm=(Ln+Mp)/2 (1)
から算出し、
(5)溶出時間LmとLnとの間のピーク面積をP0とし、溶出時間LhとMpとの間のピーク面積をQ0としたときに、P0とQ0が下記式(2)を満足することを特徴としている。
15≦(P0×100)/(P0+Q0)≦45 (2)
上記ポリマーは、下記化学式(3)
【0008】
【化1】

【0009】
[式中、R1、R2およびR3は同一または異なって、水素原子またはメチル基、−(CH2ZCOOM2(−(CH2ZCOOM2は、−COOM1またはその他の−(CH2ZCOOM2と無水物を形成していてもよい)を表し、
Zは0〜2の整数を表し、
1およびM2は同一または異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基または有機アミン基を表す。]
で表される構成部位(I)を2〜90質量%含むことが好ましい。
【0010】
また上記ポリマーでは、下記化学式(4)
【0011】
【化2】

【0012】
[式中、R4およびR5は同一または異なって、水素原子またはメチル基を表し、
AOは同一または異なって、炭素数2以上のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表し、
xは0〜2の整数を表し、
yは0または1を表し、
nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数であり、
6は水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表す。]
で表される構成部位(II)を2〜98質量%含むことも好ましい。
【0013】
また前記構成部位(II)中のオキシアルキレン鎖として、コンクリートの状態を改善する観点から、炭素数3以上のオキシアルキレン基を構成単位とするオキシアルキレン鎖を必須に含むことが好ましい。
【0014】
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基を構成単位とするオキシアルキレン鎖の両端に、炭素数2のオキシアルキレン基を構成単位とするオキシアルキレン鎖が結合していることが好ましい。
【0015】
また上述のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを含有したセメント混和剤も好ましい。その際、セメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーとは異なるポリカルボン酸系ポリマーを含むセメント混和剤。またポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物を含むことも好ましい。その際、上記セメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーと、上記セメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーとは異なるポリカルボン酸系ポリマーと、上記ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物を、10〜80/10〜89/1〜80(質量比)の比率で含有させることが好ましい。
【0016】
また上記セメント混和剤とセメントと少なくとも水とを含むセメント組成物も好ましい。
【0017】
また下記の一般式(5)
【0018】
【化3】

【0019】
[式中、R1およびR2、R3は同一または異なって、水素原子またはメチル基、−(CH2ZCOOM2(−(CH2ZCOOM2は、−COOM1またはその他の−(CH2ZCOOM2と無水物を形成していてもよい)を表し、Zは0〜2の整数を表し、
1及びM2は同一または異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。]
で示される不飽和単量体を含む不飽和単量体成分を重合条件が異なる少なくとも2段階で重合させる際に、前記2段階の重合工程間で単量体成分に対する連鎖移動剤の使用割合を5倍以上に変化させることを特徴とすることで、上述のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを好適に製造できる。
【0020】
その際、前記不飽和単量体成分に、下記化学式(6)
【0021】
【化4】

【0022】
[式中、R4及びR5は同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表し、
AOは同一または異なって、炭素数2以上のオキシアルキレン基の1種又は2種以上の混合物(2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい)を表し、
xは0〜2の数を表し、yは0又は1を表し、
nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数であり、
6は水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。]
で示される単量体を含むものことも好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーは、高分子量側のポリマーと低分子量側のポリマーの割合をある特定のパラメーターでの限られた範囲内に限定しているため、該ポリマーを含むセメント混和剤を含有したセメント組成物では、分散性・保持性の両方を向上させることができる。さらに本発明の製造方法を用いることで、上記特性を有するポリマーを容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のセメント混和剤用ポリカルボン酸ポリマーは、ゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)で測定した結果を用いて設定したパラメーター[以下、「P0パラメーター」とも称する:(P0×100)/(P0+Q0)]の値が15以上、45以下であることを特徴としている。上記パラメーターは下記する方法で求めることができる。
【0025】
≪パラメーターの算出方法≫
(1)前記ポリカルボン酸系ポリマーの分子量分布をゲルパーミエションクロマトグラフィーにて測定し、横軸に溶出時間を取った分子量分布曲線を得、
(2)前記分子量分布曲線にベースラインを作成し、
(3)前記ポリマー成分に相当するピークにおける溶出開始時間をLh、溶出終了時間をLn、ピークトップの溶出時間をMpとし、
(4)Lmを下記式(1)
Lm=(Ln+Mp)/2 (1)
から算出し、
(5)溶出時間LmとLnとの間のピーク面積をP0とし、溶出時間LhとMpとの間のピーク面積をQ0とする。
【0026】
上記P0パラメーターの値は、小さければ高分子量のポリマーの割合が高くなり、該ポリマーが添加されたセメント組成物の保持性が悪化する。そのため上記値の下限は15(好ましくは18、さらに好ましくは20)とすることが好ましい。上記値は高まるに連れて低分子量のポリマーの割合も高まり、保持性は向上されるが、高すぎればセメント組成物での分散性が損なわれる。そのため上記値の上限は45(好ましくは43、さらに好ましくは40、特に好ましくは38、殊に好ましくは35)とすることが好ましい。なお本明細書で述べる保持性とは分散性の経時的な変化を意味しており、保持性が悪いとは初期の分散性に比べて、経時的に分散性が低下することを意味する。
【0027】
上記GPCによる分子量分布曲線の作成は、公知の方法を用いることができる。具体的には横軸に溶出時間を取り、縦軸に示差屈折検出器で測定したカラムを通して流れてきた溶出液の電圧抵抗の変化の値(以下、「抵抗変化値」とも称する)を取ることで、上記分子量分布曲線を作成することができる(以下、本明細書でのGPC測定は、同様にして行なう)。
【0028】
まず、前記分子量分布曲線にベースラインを作成し(2)、溶出開始時間と溶出終了時間とピークトップの溶出時間を特定する(3)。
【0029】
上記ベースラインは、例えば図1に示すように、ピークが認められない部分1および2との間で直線を付す。そしてピークが出現し始める時間Lhとピークが消失する際の時間Lnとを特定する。また重合条件によっては、図2に示すように、ポリマーを重合する際に使用する重合開始剤の分解物や重合開始剤の対イオンに由来するピークとして、溶出終了時間の付近にポリマーとは異なるピーク3および4(以下、「ノイズピーク」と称する)が存在し、溶出終了時間が特定できないことがある。その場合、ポリマー由来のピークとノイズピークとで形成される谷の最底点5の溶出時間を溶出終了時間とする。上記ピークトップの溶出時間Mpは、ポリマー由来のピーク中で抵抗変化値が最も高い時点での溶出時間を意味する。その際、ピーク内で最も抵抗変化値が高い部分が複数あり、Mpが複数存在する場合、分子量分布曲線の最も高さの高い点をMp値と定義する。
【0030】
次に上記で特定したLnやMpを用いて、下記式(1)からLmを算出する(4)。
Lm=(Ln+Mp)/2 (1)
そして上記で特定したLm、Ln、Lh、Mpを用いてピーク面積P0およびQ0を求め、P0パラメーターでの値を算出する(5)。
【0031】
上記ピーク面積P0は、溶出時間LmとLnとの間でのピークの面積を意味しており、溶出時間Lmの時点でグラフの縦軸と平行に直線を付し、該直線と分子量分布曲線と、ベースラインとで囲まれた低分子量側の領域7での面積を示す。上記ピーク面積Q0は、溶出時間LhとMpとの間でのピークの面積を意味しており、溶出時間Lhの時点でグラフの縦軸と平行に直線を付し、該直線と分子量分布曲線とベースラインとで囲まれた高分子量側での領域での面積6を示す。
【0032】
上記ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、15000以上(好ましくは20000以上、より好ましくは25000以上、さらに好ましくは30000以上)であればセメント組成物に十分な分散性を付与できるセメント混和剤用ポリマーとして用いることができる。しかし重量平均分子量が高すぎれば保持性が悪化することがあるため、300000以下(好ましくは200000以下、より好ましくは100000以下、さらに好ましくは70000以下)とすることが好ましい。
【0033】
またピークトップの分子量は、15000以上(好ましくは20000以上、より好ましくは25000以上、さらに好ましくは30000以上、特に好ましくは35000以上)であればセメント組成物に十分な分散性を付与できるセメント混和剤用ポリマーとして用いることができる。しかしピークトップの分子量が高すぎれば保持性が悪化することがあるため、300000以下(好ましくは200000以下、より好ましくは150000以下、さらに好ましくは100000以下、特に好ましくは80000以下)とすることが好ましい。
【0034】
≪セメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマー≫
本発明のポリカルボン酸系ポリマーは、下記化学式(3)
【0035】
【化5】

【0036】
で表される構成部位(I)を2〜90質量%含んでなることが好ましい。
【0037】
上記化学式(3)では、R1、R2およびR3は同一または異なって、水素原子またはメチル基、−(CH2ZCOOM2(−(CH2ZCOOM2は、−COOM1またはその他の−(CH2ZCOOM2と無水物を形成していてもよい)を表し、Zは0〜2の整数を表し、M1およびM2は同一または異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基または有機アミン基を表している。
【0038】
上記構成単位(I)は、セメントに吸着作用を及ぼす部分であり、セメント粒子に対
する吸着性を十分に付与する観点から、ポリマー中に2質量%以上(好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7.5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは12.5質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上)含まれていることが好ましい。しかし含有率が多すぎれば、セメント粒子を分散させる機能を有する構成単位(II)の重合体中の含有量が少なくなるため混和剤を多量に添加しなければ十分な流動性を有するセメント組成物が得られない。そのため、含有率の上限は90質量%(好ましくは50質量%、さらに好ましくは30質量%、さらに好ましくは35質量%、さらに好ましくは30質量%)とする。
【0039】
さらに上記ポリマーは、下記化学式(4)
【0040】
【化6】

【0041】
で表される構成単位(II)はオキシアルキレン基の立体反発効果により、セメント粒
子を分散させる機能を有し、2〜98質量%含むことでセメント粒子を十分に分散させることができるため好ましい。上記化学式(4)では、R4およびR5は同一または異なって、水素原子またはメチル基を表し、AOは同一または異なって、炭素数2以上のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表し、xは0〜2の整数を表し、yは0または1を表し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数であり、R6は水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表す。なお、AOで炭素数2以上のオキシアルキレン基の混合物が2種以上である場合、ブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい。
【0042】
上記構成単位(II)は、上記効果を得るためには、ポリマー中に2質量%以上(好
ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上)含むことが好ましい。しかし上記構成単位(II)の含有量が多くなると、セメント粒子に吸着する機能を有する構成単位(I)の含有量が少なくなるため多量の混和剤を添加しなければ十分な流動性を有するセメント組成物が得られない。そのため含有率の上限は98質量%(好ましくは95質量%、さらに好ましくは90質量%、さらに好ましくは85質量%、さらに好ましくは80質量%)とする。
【0043】
特に上記AOで表されるオキシアルキレン基は、セメント分散性能の向上の観点からはオキシアルキレン基の親水性を高める必要があり、炭素数2のオキシアルキレン基であるオキシアルキレン基が主体を占めることが好ましい。このとき、構成単位(II)中でのオキシアルキレン基と炭素数3以上のオキシアルキレン基中のオキシアルキレン基の比率としては、モル比で50モル%以上、好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
【0044】
また本発明のポリマーを用いて製造されたコンクリートの状態(コンクリートの粘性やこわばり感を低減できるなど)を改善する観点から、構成単位(II)中のオキシアルキレン鎖に炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入し、ある程度の疎水性を付与することでセメント粒子に若干の構造(ネットワーク)をもたらすことが好ましい。しかしながら、炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入しすぎると、得られたポリマーの疎水性が高くなりすぎることから、セメントを分散させる性能が低下することがある。構成単位(II)中の炭素数3以上のオキシアルキレン基の比率としては、1〜50モル%が好ましく、さらには3〜40モル%が好ましく、さらには5〜30モル%が好ましい。また炭素数3以上のオキシアルキレン基は構成単位(II)のオキシアルキレン鎖にランダム状やブロック状などどのように導入されてもよいが、好ましくは炭素数3以上のオキシアルキレン鎖−炭素数2のオキシアルキレン鎖−炭素数3以上のオキシアルキレン鎖のようにブロック状に導入されるものが好ましい。
【0045】
炭素数3以上のオキシアルキレン基としては導入のし易さ、セメントとの親和性の観点から、炭素数3〜8のオキシアルキレン基、さらには炭素数3〜4のオキシプロピレン基やオキシブチレン基が好ましい。
【0046】
オキシアルキレン鎖の平均付加モル数は1〜300モル、さらには2〜250モル、さらには4〜200モル、さらには6〜150モル、さらには8〜100モルが好ましい。
【0047】
オキシアルキレン鎖の末端基R6は水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基[炭素数1〜20のアルキル基(脂肪族アルキル基または脂環式アルキル基)、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のフェニル基、アルキルフェニル基、フェニルアルキル基、ナフチル基などのベンゼン環を有する芳香族基などが挙げられる]であるが、セメント粒子を分散させる観点から親水性であることが好ましく、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素、さらには水素原子または炭素数1〜5の炭化水素、さらには水素原子または炭素数1〜3の炭化水素が好ましい。
【0048】
なお、上記構成単位(I)および(II)の種類や含有量は、ポリマー内で均一であ
る必要はなく、例えば高分子量側のポリマーと、低分子量側のポリマーとで異なっていてもよい。その際ポリマー内(例えば高分子量側のポリマーと低分子量側のポリマーとで)で構成部位(I)および/または(II)の含有量に大きな差があると、多量の混和剤を添加しなければ、十分な流動性を有するセメント組成物が得られないため、構成単位(I)および/または(II)のポリマー内での含有量の差は、質量%で20質量%以下(好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下)に抑えることが好ましい。なお、本明細書で「低分子量側のポリマー」と「高分子量側のポリマー」とは、分子量分布曲線のMp値を基準として、Mp値よりも低分子量側に位置するポリマーを「低分子量側のポリマー」とし、Mp値よりも高分子量側に位置するポリマーを「高分子量側のポリマー」とする。また上記含有量の差は、示差屈折検出器とUV検出器を用いて分子量分布を測定し、検出強度比から組成を求める方法や、キャピラリー電気泳動を用いてポリマー中の電荷強度により分離測定する方法などを用いることで測定できる。
【0049】
上記特徴を有するポリマーは、上記構成単位(I)および(II)の含有量の異なる2種類以上の本発明のポリカルボン酸系ポリマーを混合して用いることもできる。この場合、カルボキシル基を有する構成単位(I)の含有量の異なるポリカルボン酸系ポリマーを混合して用いることが好ましい。カルボキシル基の含有量が多いポリマーはセメント分散性に優れ、カルボキシル基の含有量が少ないポリマーは保持性に優れていることから、本発明のポリカルボン酸系ポリマーを単独で用いるよりも分散性能と保持性能に優れる場合がある。混合するポリカルボン酸系ポリマーは、構成単位(I)の含有量が2〜30質量%、さらには2〜20質量%、特に2〜10質量%離れていることが好ましい。
【0050】
また、本発明のポリカルボン酸系ポリマーと本発明のポリカルボン酸系ポリマーとは異なるポリカルボン酸系ポリマーを混合して使用する場合も、上記したようにカルボキシル基の含有量の異なるポリカルボン酸を混合することが好ましい。この場合も構成単位(I)の含有量が2〜30質量%、さらには2〜20質量%、特に2〜10質量%離れていることが好ましい。
【0051】
本発明のポリカルボン酸系ポリマーは、下記する重合方法によって好適に得ることができる。
【0052】
≪セメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの重合方法≫
本発明のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの重合方法は、下記化学式(5)
【0053】
【化7】

【0054】
[式中、R1、R2及びR3は同一若しくは異なって、水素原子、メチル基または−(CH2ZCOOM2(−(CH2ZCOOM2は、−COOM1またはその他の−(CH2ZCOOM2と無水物を形成していてもよい。)を表し、Zは0〜2の数を表す。M1およびM2は同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。]で示される単量体を含む不飽和単量体成分(以下、「I−M」とも称する)を、前記不飽和単量体成分に対する
連鎖移動剤の使用量が異なる少なくとも2段階で重合させる際に、前記2段階の重合工程間で不飽和単量体成分に対する連鎖移動剤の使用割合を5倍以上に変化させることを特徴としている。
【0055】
I−Mで示される不飽和単量体の例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸系単量体、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などのジカルボン酸系単量体、またはこれらの無水物もしくはその塩(例えば、一価金属、二価金属、三価金属、アンモニウムまたは有機アミンの塩)である。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸(中でもアクリル酸、メタクリル酸が好ましい)およびこれらの塩が重合性の観点から好ましい。また、これらの単量体は2種以上併用してもよい。
【0056】
上記重合方法は、ポリマーの製造を多段階で行なう際に、単量体成分に対する連鎖移動剤の割合を急激に増加させているため、割合を変化させ前後で得られるポリマーの分子量が異なり、分子量分布が幅広いポリマーを得ることができる。さらに上記重合方法で連鎖移動剤の割合を5倍以上(好ましくは5.5倍以上、さらに好ましくは6倍以上)とすることで、上述のP0パラメーターの値が15以上、45以下を示す分子量分布の幅広いポリマーを容易に得ることができる。しかし連鎖移動剤の割合が20倍以上(さらには18倍以上、特に15倍以上、殊に13倍以上)となると、P0パラメーターの値が上記範囲から外れ、さらに分子量分布が幅広くなりすぎ、本発明の効果を得ることができない。
【0057】
上記重合段階は、2回に限定されるものではなく、所望するポリマーの特性に応じて適宜選択すればよく、好ましくは2段階で重合させることである。その場合、連鎖移動剤の使用量は、単量体成分のモル数に対して、モル%換算で、第一段階は0.1モル%以上、10モル%以下とし、第二段階は3モル%以上、30モル%以下とすればよい。
【0058】
連鎖移動剤を添加する方法は、反応容器内に連鎖移動剤と単量体成分と後述する重合開始剤とを別々に添加して反応容器内で混合・重合させる型であってもよいし、予め単量体成分と連鎖移動剤とを混合させて調製したものを、重合開始剤と共に反応容器内に添加して混合・重合させる型であってもよい。
【0059】
また各重合段階で連鎖移動剤を変化させる割合が5倍未満であれば、目的に応じて適宜変化させてもよい。また各重合段階で連鎖移動剤および/または不飽和単量体成分の種類は必ずしも同じである必要はなく、段階毎に変化させてもよい。
【0060】
上記連鎖移動剤は、例えばメルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、2−メルカプトエタンスルホン酸などのチオール系連鎖移動剤;イソプロピルアルコールなどの2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸およびその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸およびその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムなど)の低級酸化物およびその塩;などの公知の親水性連鎖移動剤も用いることができる。さらにセメント組成物の粘性改善のために、疎水性連鎖移動剤を用いることが好ましい。疎水性連鎖移動剤としては、ブタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール、シクロヘキシルメルカプタン、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチルなどの炭素原子数3以上の炭化水素基を有するチオール系連鎖移動剤を用いることが好ましい。さらにこれら連鎖移動剤は2種類以上併用して用いてもよく、例えば親水性連鎖移動剤と疎水性連鎖移動剤とを組み合わせて用いてもよい。また分子量調整のためには、(メタ)アリルスルホン酸(塩)類などの連鎖移動性の高い単量体を用いることも有効である。
【0061】
本発明のセメント混和剤用ポリマーの製造方法では、不飽和単量体成分として、下記化学式(6)で示される不飽和単量体成分(以下、「III−M」とも称する)を含有させることで、III―M中のオキシアルキレン基の立体反発効果によりセメント粒子を分散させる機能を有するポリマーを得ることができる。
【0062】
上記不飽和単量体成分は、下記化学式(6)
【0063】
【化8】

【0064】
[式中、R4及びR5は同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表し、
AOは同一または異なって、炭素数2以上のオキシアルキレン基の1種又は2種以上の混合物(2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい)を表し、
xは0〜2の数を表し、yは0又は1を表し、
nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300(好ましくは2〜250、さらに好ましくは4〜200、より好ましくは6〜150、特に好ましくは8〜100)の数であり、
6は水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。]
で示される単量体を含むものである。
【0065】
不飽和単量体成分(III−M)としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ノニルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの炭素数1〜20の飽和脂肪族アルコール類、アリルアルコール、メタリルアルコール、クロチルアルコール、オレイルアルコールなどの炭素数3〜20の不飽和脂肪族アルコール類、シクロヘキサノールなどの炭素数3〜20の脂環式アルコール類、フェノール、フェニルメタノール(ベンジルアルコール)、メチルフェノール(クレゾール)、p−エチルフェノール、ジメチルフェノール(キシレノール)、ノニルフェノール、ドデシルフェノール、フェニルフェノール、ナフトールなどの炭素数6〜20の芳香族アルコール類のいずれかに炭素数2〜18のアルキレンオキシドを付加することによって得られるアルコキシポリアルキレングリコール類、炭素数2〜18のアルキレンオキシドを重合したポリアルキレングリコール類と(メタ)アクリル酸、クロトン酸とのエステル化物を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸のアルコキシポリアルキレングリコール類のエステルが好ましい。さらにビニルアルコール、(メタ)アリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、3−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−2−オール、2−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−1−オールなどの不飽和アルコールにアルキレンオキシドを1〜300モル付加した化合物を挙げることができ、これら1種または2種以上を用いることができる。これらの単量体の中でも特に(メタ)アリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オールを用いた化合物が好ましい。なお上記の不飽和エステル類および不飽和エーテル類は、アルキレンオキシドとしては、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシドなどの炭素数2〜18のアルキレンオキシドの中から選ばれる任意の1種、あるいは2種以上のアルキレンオキシドを付加させてもよい。2種以上を付加させる場合、ランダム付加、ブロック付加、交互付加などのいずれであってもよい。
【0066】
上記不飽和単量体成分(III−M)は、上述の不飽和単量体成分(I−M)100部に対して、質量換算で、2部以上(好ましくは60部以上、さらに好ましくは100部以上、さらに好ましくは150部以上、さらに好ましくは230部以上、さらに好ましくは400部以上、さらに好ましくは500部以上、さらに好ましくは900部以上、さらに好ましくは1900部以上)、4900部以下(好ましくは3000部以下、さらに好ましくは2000部以下)添加させればよい。
【0067】
上記III−MやI−Mとは異なる成分であり、かつIII−MやI−Mと共重合可能な不飽和成分として、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などの不飽和ジカルボン酸類と炭素数1〜20のアルキルアルコール、炭素数2〜18のグリコールもしくはこれらのグリコールの付加モル数2〜300のポリアルキレングリコールおよび炭素数1〜20のアルキルアルコールに炭素数2〜18のアルキレンオキシドもしくはアルキレンオキシドの付加モル数2〜300のアルコキシポリアルキレンオキシドとのモノエステル類、ジエステル類、またこれらの酸と炭素数1〜20のアルキルアミンおよび炭素数2〜18のグリコールの片末端アミノ化物、もしくはこれらのグリコールの付加モル数2〜300のポリアルキレングリコールの片末端アミノ化物とのモノアミド、ジアミド類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸類と炭素数1〜20のアルキルアルコール、炭素数2〜18のグリコールもしくはこれらのグリコールの付加モル数2〜300のポリアルキレングリコールおよび炭素数1〜20のアルキルアルコールに炭素数2〜18のアルキレンオキシドもしくはアルキレンオキシドの付加モル数2〜300のアルコキシポリアルキレングリコールとのエステル類、またこれらの酸と炭素数1〜20のアルキルアミンおよび炭素数2〜18のグリコールの片末端アミノ化物、もしくはこれらのグリコールの付加モル数2〜300のポリアルキレングリコールの片末端アミノ化物とのアミド類;スルホエチル(メタ)アクリレート、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸類、ならびにこれらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩および有機アミン塩;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミドなどの不飽和アミド類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの不飽和アミノ化合物類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどの炭素数3〜20のアルキルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;スチレンなどの芳香族ビニル類などを挙げることができ、これら1種または2種以上を用いることができる。
【0068】
不飽和単量体(I−M)、不飽和単量体(III−M)および不飽和単量体(II−M)を共重合してポリマーを得るには、これら不飽和単量体の使用割合は、合計量を100質量%として、(I−M)/(III−M)/(II−M)=2〜90質量%/50〜98質量%/0〜50質量%(好ましくは2〜90質量%/2〜98質量%/0〜50質量%、さらに好ましくは5〜50質量%/50〜95質量%/0〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%/70〜90質量%/0〜50質量%)で用いることが好ましい。
【0069】
なお、上記重合の際に、所定の分子量の共重合体を再現性よく得るには、重合反応を安定に進行させることが好ましい。そのため溶液重合では、使用する溶媒の25℃における溶存酸素濃度を5ppm以下(好ましくは0.01〜4ppm、さらに好ましくは0.01〜2ppm、最も好ましくは0.01〜1ppm)の範囲とすることが好ましい。尚、溶媒に不飽和単量体を添加後、窒素置換等を行う場合には、不飽和単量体をも含んだ系の溶存酸素濃度を上記範囲内とする。
【0070】
上記溶媒の溶存酸素濃度の調整は、重合反応槽で行ってもよく、予め溶存酸素量を調整したものを用いてもよい。溶媒中の酸素を追い出す方法としては、例えば、下記の(1)〜(5)の方法が挙げられる。
(1)溶媒を入れた密閉容器内に窒素等の不活性ガスを加圧充填後、密閉容器内の圧力を下げることで溶媒中の酸素の分圧を低くする。その際、窒素気流下で、密閉容器内の圧力を下げてもよい。
(2)溶媒を入れた容器内の気相部分を窒素等の不活性ガスで置換したまま液相部分を長時間激しく攪拌する。
(3)容器内に入れた溶媒に窒素等の不活性ガスを長時間バブリングする。
(4)溶媒を一旦沸騰させた後、窒素等の不活性ガス雰囲気下で冷却する。
(5)配管の途中に静止型混合機(スタティックミキサー)を設置し、溶媒を重合反応槽に移送する配管内で窒素等の不活性ガスを混合する。
【0071】
また不飽和単量体(I−M)、不飽和単量体(II−M)及び不飽和単量体(III−M)の共重合は、溶媒中での重合や塊状重合等の方法により行うことができる。
【0072】
溶液重合では、回分式でも連続式でも行うことができ、その際に使用される溶媒としては、例えば水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサンなどの芳香族或いは脂肪族炭化水素;酢酸エチルなどのエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル化合など;などが挙げられる。
【0073】
水溶液重合では、ラジカル重合開始剤として、水溶性の重合開始剤、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩などのアゾアミジン化合物、2,2’−アゾビス−2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン塩酸塩などの環状アゾアミジン化合物、2−カルバモイルアゾイソブチロニトリルなどのアゾニトリル化合物等の水溶性アゾ系開始剤;などが使用され、この際、亜硫酸水素ナトリウム等のアルカリ金属亜硫酸塩、メタ二亜硫酸塩、次亜燐酸ナトリウム、モール塩等のFe(II)塩、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物、ヒドロキシルアミン塩酸塩、チオ尿素、L−アスコルビン酸(塩)、エリソルビン酸(塩)などの促進剤(還元剤)を併用することもできる。中でも、過酸化水素と有機系還元剤との組み合わせが好ましく、有機系還元剤としては、L−アスコルビン酸(塩)、L−アスコルビン酸エステル、エリソルビン酸(塩)、エリソルビン酸エステルなどを好適に用いることができる。これらのラジカル重合開始剤や促進剤(還元剤)はそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
低級アルコール、芳香族もしくは脂肪族炭化水素、エステル化合物、またはケトン化合物を溶媒とする溶液重合や塊状重合では、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ナトリウムパーオキシドなどのパーオキシド;t−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシドなどのハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物;などがラジカル重合開始剤として用いることができる。この際アミン化合物などの促進剤を併用することも好ましい。さらに、水−低級アルコール混合溶媒を用いれば、上記の種々のラジカル重合開始剤、またはラジカル重合開始剤と促進剤との組み合わせの中から適宜選択して用いることができる。
【0075】
重合温度は、用いる溶媒やラジカル重合開始剤により適宜定められるが、好ましくは0〜150℃、より好ましくは30〜120℃、さらに好ましくは50〜100℃でよい。
【0076】
上記共重合により得られたポリマーは、水溶液状態で弱酸性以上(より好ましくはpH4以上、さらに好ましくはpH5以上、最も好ましくはpH6以上)のpH範囲に調整しておくことで、取り扱いやすくなる。一方、共重合反応をpH7以上で行なうと、重合率の低下が起こると同時に、共重合性が悪くなり分散性能が低下する。そのため酸性から中性(より好ましくはpH6未満、さらに好ましくはpH5.5未満、最も好ましくはpH5未満)のpH領域で共重合反応を行うことが好ましい。このように重合系がpH7.0以下になる好ましい重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩などのアゾアミジン化合物などの水溶性アゾ開始剤、過酸化水素、過酸化水素と有機系還元剤との組み合わせを用いることが好ましい。従って、低いpHで共重合反応を行った後にアルカリ性物質などを添加してより高いpHに調整することが好ましい。具体的には、pH6未満で共重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH6以上に調整する方法、pH5未満で共重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH5以上に調整する方法、pH5未満で共重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH6以上に調整する方法等が挙げられる。pHの調整は、例えば、一価金属又は二価金属の水酸化物や炭酸塩などの無機塩;アンモニア;有機アミン;などのアルカリ性物質を用いて行うことができる。またpHを下げる、特に重合の際にpHの調整が必要な場合、リン酸、硫酸、硝酸、アルキルリン酸、アルキル硫酸、アルキルスルホン酸、(アルキル)ベンゼンスルホン酸などの酸性物質を用いてpHの調整を行うことができ、これら酸性物質の中では、pH緩衝作用がある点などからリン酸や少量の添加でpHを下げることができる硫酸が好ましい。また反応終了後、必要に応じて濃度調整を行うこともできる。
【0077】
≪セメント混和剤≫
本発明の上記セメント混和剤は、上述のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを含有することを特徴としている。
【0078】
上記ポリマーの含有量は、総量で、セメント混和剤全体に対し50質量%以上(好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、最も好ましくは80%以上)とすることで、十分な減水性と保持性を有するセメント組成物を得ることができる。
【0079】
また本発明セメント混和剤では、本発明のポリマーと本発明のポリマーとは異なるポリカルボン酸系ポリマーと組み合わせて用いることも好ましい。その際、組み合わせる比率(質量比)は、本発明のポリマー/本発明のポリマーとは異なるポリマーの値は、90/10〜10/90(好ましくは80/20〜20/80、より好ましくは70/30〜30/70、さらに好ましくは60/40〜40/60)であることが好ましい。
【0080】
また本発明の上記セメント混和剤では、上記ポリマー以外にポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物を添加することも好ましい。
【0081】
ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物としては、炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物が好ましい。炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物は、炭素数3以上のオキシアルキレン基を有するボリアルキレンイミンであればよく、重合性不飽和二重結合を有していてもよく、有していなくてもよい。また、これらを併用してもよい。
【0082】
重合性不飽和二重結合を有する炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物は、後述するポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物単量体のうち炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物が好適である。
【0083】
重合性不飽和二重結合を有さないボリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物は、ポリアルキレンイミンが有するアミノ基やイミノ基の窒素原子にアルキレンオキシドを付加させて得られる化合物が好適である。なお、アルキレンオキシドが付加するアミノ基やイミノ基の窒素原子は、活性水素原子を持つものである。
【0084】
上記オキシアルキレン基は、少なくとも1種が炭素数3以上のオキシアルキレン基であり、同一の付加物にオキシアルキレン基が2種以上存在する場合には、オキシアルキレン基がランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの形態をとってもよい。
【0085】
上記ポリアルキレンイミンは、エチレンイミン、プロピレンイミン、1,2−ブチレンイミン、2,3−ブチレンイミン、1,1−ジメチルエチレンイミン等の炭素数2〜8のアルキレンイミンの1種または2種以上を常法により重合して得られる、これらのアルキレンイミンの単独重合体や共重合体が好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。このようなポリアルキレンイミンにより、炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物のポリアルキレンイミン鎖が形成されることになるが、該ポリアルキレンイミン鎖は、直鎖状の構造、分枝状の構造、三次元状に架橋された構造のいずれであってもよい。さらに、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等であってもよい。このようなボリアルキレンイミンでは、通常、構造中に第3級アミノ基の他、活性水素原子をもつ第1級アミノ基や第2級アミノ基(イミノ基)を有することになる。
【0086】
上記ポリアルキレンイミンに付加させるアルキレンオキシドは、少なくとも炭素数3以上のオキシアルキレン基が少なくとも1種以上付加してなるものであればよく、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド,1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、トリメチルエチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラメチルエチレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、オクチレンオキシド等の炭素数2〜8のアルキレンオキシドの他、ジペンタンエチレンオキシド、ジヘキサンエチレンオキシド等の脂肪族エポキシド;トリメチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、オクチレンオキシド等の脂環エポキシド;スチレンオキシド、1,1−ジフェニルエチレンオキシド等の芳香族エボキシド;などにより形成される構造である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、エチレンオキシドとプロピレンオキシドからなる付加物、エチレンオキシドとブチレンオキシドからなる付加物が、セメント混和剤とした場合のセメント組成物の減水性、スランプ保持性、強度向上効果、空気量低減効果のバランスが良く、好ましい組み合わせである。
【0087】
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物はポリアルキレンイミン鎖を有するが、このようなポリアルキレンイミン鎖はエチレンイミンを主体として形成されるものであることが好ましい。この場合、「主体」とは、ポリアルキレンイミン鎖が2種以上のアルキレンイミンにより形成されるときに、全アルキレンイミンのモル数において、大半占めることを意味する。上記構成の結果、付加物の親水性が向上して作用効果が充分に発揮される。
【0088】
上記「大半を占める」とは、全アルキレンイミン100モル%中のエチレンイミンのモル%で表すとき、50〜100モル%であることを意味する。50モル%未満であると、ポリアルキレンイミン鎖の親水性が低下するおそれがある。より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上である。
【0089】
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物ではまた、ポリアルキレンイミン鎖1つあたりのアルキレンイミンの平均重合数としては、2以上であることが好ましく、また、300以下であることが好ましい。2未満であると、付加物の機能が充分に発揮されないおそれがあり、300を超えると、付加物の重合性が低下するおそれがある。特に好ましくは3以上である。また、より好ましくは200以下であり、さらに好ましくは100以下であり、特に好ましくは75以下であり、最も好ましくは50以下である。この場合、ジエチレントリアミンの平均重合数は2、トリエチレンテトラミンの平均重合数は3となる。
【0090】
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物ではさらに、オキシアルキレン基の平均付加モル数としては、0を超えて、300以下とすることが好ましい。300を超えると、これらの単量体の重合性が低下するおそれがある。より好ましくは0.5以上であり、さらに好ましくは1以上、特に好ましくは3以上、最も好ましくは5以上である。また、より好ましくは、270以下であり、さらに好ましくは250以下、特に好ましくは220以下、最も好ましくは200以下である。付加物におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数がこのような範囲を外れると、セメント組成物等の流動性を優れたものとする作用効果が充分に発揮されないおそれがある。なお、上記平均付加モル数とは、付加物が有するオキシアルキレン基により形成される基1モル中において付加している当該オキシアルキレン基のモル数の平均値、または、付加物を形成することになるポリアルキレンイミンが有する活性水素原子をもつ窒素原子1モルに対して付加している当該オキシアルキレン基のモル数の平均値を意味する。
【0091】
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物の重量平均分子量としては、300以上であることが好ましく、また、100000以下であることが好ましい。より好ましくは400以上、さらに好ましくは500以上、さらに好ましくは600以上、特に好ましくは1000以上である。また、より好ましくは50000以下、さらに好ましくは30000以下である。
【0092】
また本発明のポリマーと、本発明のポリマーとは異なるポリカルボン酸系ポリマーと、ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物を含む場合、それらの含有比率(質量比)は、本発明のポリマー/本発明のポリマーとは異なるポリカルボン酸系ポリマー/ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物の値は、10〜80/10〜89/1〜80(好ましくは15〜70/20〜84/1〜65、より好ましくは20〜60/30〜77/3〜50、さらに好ましくは20〜50/40〜75/5〜40)であることが好ましい。
【0093】
また本発明のセメント混和剤では、下記するオキシアルキレン系の消泡剤と併用することも好ましい。
【0094】
消泡剤としては、具体的には、(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン2−エチルヘキシルエーテル、炭素原子数12〜14の高級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、3−メチル−1−ブチン−3−オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等のポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;ポリオキシエチレンステアリルリン酸エステル等のポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンラウリルアミン(プロピレンオキシド1〜20モル付加、エチレンオキシド1〜20モル付加物など)、アルキレンオキシドを付加させた硬化牛脂アミン(プロピレンオキシド1〜20モル付加、エチレンオキシド1〜20モル付加物等)等のポリオキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド;等が挙げられる。これらの消泡剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。消泡剤の添加時期は、重合開始前・重合中・重合後の何れであってもよい。また添加割合は、セメント混和剤用ポリマーの全質量に対して、0.0001〜10質量%とすることが好ましい。
【0095】
また本発明のセメント混和剤は公知のセメント混和剤と併用することが可能であり、複数の公知のセメント混和剤の併用も可能である。併用することができる公知のセメント混和剤としては、セメントの銘柄やロットNo.によらず安定した分散性能を発揮することから、公知のポリカルボン酸系混和剤および分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系混和剤(S)が好ましい。
【0096】
スルホン酸系混和剤(S)は、主にスルホン酸基によってもたらされる静電的反発によりセメントに対する分散性を発現する混和剤であって、公知の各種スルホン酸系混和剤を用いることができるが、分子中に芳香族基を有する化合物であることが好ましい。具体的には、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸塩系;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系;アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸塩系;リグニンスルホン酸塩、変成リグニンスルホン酸塩等のリグニンスルホン酸塩系;ポリスチレンスルホン酸塩系;等の各種スルホン酸系混和剤が挙げられる。水/セメント比が高いコンクリートではリグニンスルホン酸塩系の混和剤が好適に用いられ、一方より高い分散性能が要求される水/セメント比が中程度のコンクリートでは、ポリアルキルアリールスルホン酸塩系、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系、芳香族アミノスルホン酸塩系、ポリスチレンスルホン酸塩系等の混和剤が好適に用いられる。なお、分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系混和剤(S)を2種類以上併用してもよい。
【0097】
上記のスルホン酸系混和剤(S)以外に、高温の環境下においてもより高い分散保持性能を発揮することからオキシカルボン酸系化合物(D)を添加することも好ましい。
【0098】
上記オキシカルボン酸系化合物(D)としては、炭素原子数4〜10のオキシカルボン酸もしくはその塩が好ましく、例えば、グルコン酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸、リンゴ酸、クエン酸や、これらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、トリエタノールアミン等の無機塩又は有機塩等が挙げられる。中でも、グルコン酸もしくはその塩を用いることが好ましい。尚、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、貧配合コンクリートでは、分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系混和剤(S)としてリグニンスルホン酸塩系の混和剤を用い、オキシカルボン酸系化合物(D)としてグルコン酸もしくはその塩を用いることが好ましい。
【0099】
上記以外に、以下の(1)〜(11)に例示する公知のセメント混和剤と併用することも好ましい。
【0100】
(1)水溶性高分子物質:ポリアクリル酸(ナトリウム)、ポリメタクリル酸(ナトリウム)、ポリマレイン酸(ナトリウム)、アクリル酸・マレイン酸共重合物のナトリウム塩等の不飽和カルボン酸重合物;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の非イオン性セルロースエーテル類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の多糖類のアルキル化又はヒドロキシアルキル化誘導体の一部又は全部の水酸基の水素原子が、炭素原子数8〜40の炭化水素鎖を部分構造として有する疎水性置換基と、スルホン酸基又はそれらの塩を部分構造として有するイオン性親水性置換基で置換されてなる多糖誘導体;酵母グルカンやキサンタンガム、β−1.3グルカン類(直鎖状、分岐鎖状の何れでもよく、一例を挙げれば、カードラン、パラミロン、パキマン、スクレログルカン、ラミナラン等)等の微生物醗酵によって製造される多糖類;ポリアクリルアミド;ポリビニルアルコール;デンプン;デンプンリン酸エステル;アルギン酸ナトリウム;ゼラチン;分子内にアミノ基を有するアクリル酸のコポリマー及びその四級化合物;等。
【0101】
(2)高分子エマルジョン:(メタ)アクリル酸アルキル等の各種ビニル単量体の共重合物等。
【0102】
(3)オキシカルボン酸系化合物(D)以外の硬化遅延剤:グルコース、フラクトース、ガラクトース、サッカロース、キシロース、アピオース、リボース、異性化糖等の単糖類や、二糖、三糖等のオリゴ糖、又はデキストリン等のオリゴ糖、又はデキストラン等の多糖類、これらを含む糖蜜類等の糖類;ソルビトール等の糖アルコール;珪弗化マグネシウム;リン酸並びにその塩又はホウ酸エステル類;アミノカルボン酸とその塩;アルカリ可溶タンパク質;フミン酸;タンニン酸;フェノール;グリセリン等の多価アルコール;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)及びこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等のホスホン酸及びその誘導体;等。
【0103】
(4)早強剤・促進剤:塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム等の可溶性カルシウム塩;塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物;硫酸塩;水酸化カリウム;水酸化ナトリウム;炭酸塩;チオ硫酸塩;ギ酸及びギ酸カルシウム等のギ酸塩;アルカノールアミン;アルミナセメント;カルシウムアルミネートシリケート;等。
【0104】
(5)オキシアルキレン系以外の消泡剤:燈油、流動パラフィン等の鉱油系消泡剤;動植物油、ごま油、ひまし油、これらのアルキレンオキシド付加物等の油脂系消泡剤;オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物等の脂肪酸系消泡剤;グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、天然ワックス等の脂肪酸エステル系消泡剤;オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類等のアルコール系消泡剤;アクリレートポリアミン等のアミド系消泡剤;リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等のリン酸エステル系消泡剤;アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等の金属石鹸系消泡剤;ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン等のポリオルガノシロキサン)、フルオロシリコーン油等のシリコーン系消泡剤;等。
【0105】
(6)AE剤:樹脂石鹸、飽和あるいは不飽和脂肪酸、ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリルサルフェート、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸)、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸)、アルカンスルホネート、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸エステル又はその塩、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテルリン酸エステル又はその塩、蛋白質材料、アルケニルスルホコハク酸、α−オレフィンスルホネート等。
【0106】
(7)その他界面活性剤:オクタデシルアルコールやステアリルアルコール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂肪族1価アルコール、アビエチルアルコール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂環式1価アルコール、ドデシルメルカプタン等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する1価メルカプタン、ノニルフェノール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するアルキルフェノール、ドデシルアミン等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するアミン、ラウリン酸やステアリン酸等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するカルボン酸に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを10モル以上付加させたポリアルキレンオキシド誘導体類;アルキル基又はアルコキシ基を置換基として有してもよい、スルホン基を有する2個のフェニル基がエーテル結合した、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩類;各種アニオン性界面活性剤;アルキルアミンアセテート、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等の各種カチオン性界面活性剤;各種ノニオン性界面活性剤;各種両性界面活性剤;等。
【0107】
(8)防水剤:脂肪酸(塩)、脂肪酸エステル、油脂、シリコン、パラフィン、アスファルト、ワックス等。
【0108】
(9)防錆剤:亜硝酸塩、リン酸塩、酸化亜鉛等。
【0109】
(10)ひび割れ低減剤:ポリオキシアルキルエーテル等。
【0110】
(11)膨張材;エトリンガイト系、石炭系等。
【0111】
上記(1)〜(11)以外にセメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、防錆剤、着色剤、防カビ剤などの公知のセメント混和剤を単独でまたは2種以上を併用して添加してもよい。
【0112】
本発明のセメント混和剤において、特に好適な実施形態としては、次の(1)〜(4)が挙げられる。
【0113】
(1)本発明のセメント混和剤、および、オキシアルキレン系消泡剤の2成分を必須とする組み合わせ。オキシアルキレン系消泡剤としては、ポリオキシアルキレン類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアセチレンエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類等が使用可能であるが、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類が特に好適である。なお、オキシアルキレン系消泡剤の配合質量比としては、本発明のセメント混和剤に対して0.01〜20質量%の範囲が好ましい。
【0114】
(2)本発明のセメント混和剤、および、材料分離低減剤の2成分を必須とする組み合わせ。材料分離低減剤としては、非イオン性セルロースエーテル類等の各種増粘剤、部分構造として炭素原子数4〜30の炭化水素鎖からなる疎水性置換基と炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを平均付加モル数で2〜300付加したポリオキシアルキレン鎖とを有する化合物等が使用可能である。なお、本発明のセメント混和剤と材料分離低減剤との配合質量比としては、10/90〜99.99/0.01が好ましく、50/50〜99.9/0.1がより好ましい。この組み合わせのセメント組成物は、高流動コンクリート、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材として好適である。
【0115】
(3)本発明のセメント混和剤、および、促進剤の2成分を必須とする組み合わせ。促進剤としては、塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム等の可溶性カルシウム塩類、塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物類、チオ硫酸塩、ギ酸及びギ酸カルシウム等のギ酸塩類等が使用可能である。なお、本発明のセメント混和剤と促進剤との配合質量比としては、10/90〜99.9/0.1が好ましく、20/80〜99/1がより好ましい。
【0116】
(4)本発明のセメント混和剤、オキシアルキレン系消泡剤、およびAE剤の3成分を必須とする組み合わせ。オキシアルキレン系消泡剤としては、ポリオキシアルキレン類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアセチレンエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類等が使用可能であるが、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類が特に好適である。なお、本発明のセメント混和剤と消泡剤の配合質量比としては、本発明のセメント混和剤に対して0.01〜20質量%が好ましい。一方、AE剤の配合質量比としては、セメントに対して0.001〜2質量%が好ましい。
【0117】
本発明にかかるセメント混和剤は、水溶液の形態で使用してもよいし、重合後にカルシウム、マグネシウム等の二価金属の水酸化物で中和して多価金属塩とした後に乾燥させたり、シリカ系微粉末等の無機粉体に担持して乾燥させたり、ドラム型乾燥装置、ディスク型乾燥装置又はベルト式乾燥装置を用いて支持体上に薄膜状に乾燥固化させた後に粉砕したりすることにより粉体化して使用してもよい。それ以外に、粉体化した本発明のセメント混和剤を予めセメント粉末やドライモルタルのような水を含まないセメント組成物に配合して、左官、床仕上げ、グラウト等に用いるプレミックス製品として使用しても良いし、セメント組成物の混練時に配合してもよい。
【0118】
≪セメント組成物≫
本発明のセメント組成物は、上記セメント混和剤とセメント、水を含有することを特徴とする。さらに必要に応じて細骨材(砂等)や粗骨材(砕石等)を添加したセメントペーストやモルタル、コンクリート、プラスターなど水硬性組成物の形態も含む。
【0119】
上記水硬性組成物の中では、水硬性材料としてセメントを使用するセメント組成物が最も一般的であり、該セメント組成物は、本発明のセメント混和剤、セメント、および水を必須成分として含んでなる。このようなセメント組成物は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0120】
上記セメントとしては、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩、およびそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造されたセメント)などや、それらに高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加したものが挙げられる。また骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材などが挙げられる。
【0121】
上記セメント組成物の1m3あたりの単位水量、セメント使用量、および水/セメント比(質量比)は、単位水量100〜185kg/m3、使用セメント量200〜800kg/m3、水/セメント比(質量比)=0.1〜0.7(好ましくは単位水量120〜175kg/m3、使用セメント量250〜800kg/m3、水/セメント比(質量比)=0.2〜0.65)とすることが好ましく、本発明のセメント組成物は貧配合から富配合に至るまでの幅広い範囲で使用可能である。本発明のセメント混和剤は、高減水率領域、即ち、水/セメント比(質量比)=0.15〜0.5(好ましくは0.15〜0.4)といった水/セメント比の低い領域でも使用可能であり、さらに、単位セメント量が多く水/セメント比が小さい高強度コンクリート、単位セメント量が300kg/m3以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。
【0122】
セメント混和剤のセメント組成物中での配合割合は、水硬セメントを用いるモルタルやコンクリートなどでは、単位水量の低減・強度の増大・耐久性の向上などの観点から、固形分換算でセメント質量の0.01〜10.0質量%(好ましくは0.02〜5.0質量%、さらに好ましくは0.05〜3.0質量%、特に好ましくは0.1〜2.0質量%)とすることが好ましい。上記配合割合未満では性能的に充分とはならないおそれがあり、逆に上記配合割合以上ではその効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となるおそれがある。
【0123】
本発明のセメント組成物は、上述のように高減水率領域においても高い分散性と分散保持性能を有し、かつ、低温時においても十分な初期分散性と粘性低減性を発揮し、優れたワーカビリティを有することから、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等に有効であり、さらに、中流動コンクリート(スランプ値が22〜25cmの範囲のコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50〜70cmの範囲のコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効である。
【実施例】
【0124】
(GPC測定)
使用カラム:東ソー社製 TSK guard column αとTSKgel α−5000とα−4000とα−3000をこの順で連結させたもの。
溶離液:アセトニトリル1000.0g、水8938.4gの溶液にホウ酸27.9g、塩化カリウム33.8gを溶かし、さらに30%NaOHでpH9.0に調整したもの。
サンプル打ち込み量:100μL
流速:0.6ml/分
カラム温度:40℃
検出器:日本Waters社製 2414 示差屈折検出器
解析ソフト:日本Waters社製 Empower Software
較正曲線作成用標準物質:ポリエチレングリコール[ピークトップ分子量(Mp) 685000、272500、219300、107000、50000、26840、11840、7100、4250、1470]
較正曲線:上記のポリエチレングリコールのMp値と溶出時間を基にして3次式で作成した。
重合体(水溶液)を上記溶利液にて重合体濃度が0.5質量%となるように溶解させたものをサンプルとした。
【0125】
得られた分子量分布曲線を用い、下記する方法で(P0×100)/(P0+Q0)値を求めた。
【0126】
上記サンプルを用いて上記測定条件にてGPC測定を行い、横軸に溶出時間を取り、縦軸に上記検出器で検出された溶出液の電圧抵抗の値を取ったグラフを作成する。次にポリマーを含まない以外は同じ条件で調製したサンプルを用いて、上記と同様な方法でGPC測定を行ない、上記ポリマーを含むサンプルでの結果と比較し、ポリマーのピークを特定する。次に手動でグラフ中の分子量分布曲線にベースラインを作成し、手動で溶出開始時間(Lh)と溶出終了時間(Ln)とピークトップの溶出時間(Mp)を特定する。なお本実施例および比較例では溶出終了時間付近に、ポリマーのピークとノイズピークが重なっていたため、ポリマーのピークとノイズピークとで形成された谷の最底点を溶出終了時間とした。次に下記式(1)
Lm=(Ln+Mp)/2 (1)
にてLmを算出した。
【0127】
次に上記解析ソフトにて溶出時間LmとLnとの間のピーク面積(P0)と、溶出時間LhとMpとの間のピーク面積(Q0)を機械的に計算した。得られた値を用いて、
“(P0×100)/(P0+Q0)値”を求めた。
【0128】
(重合体を得る方法)
・本発明の重合体(1)
温度計・撹拌機・滴下ロート・窒素導入管・還流冷却器を備えたガラス製反応容器に水506.3gを仕込み、撹拌条件下で反応容器内を窒素置換して窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。次にメトキシポリエチレングリコールメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数25)422.2gとメタクリル酸84.0gと水126.6gとメルカプトプロピオン酸(連鎖移動剤)2.9gを混合し単量体混合物水溶液(I)を調製した。メトキシポリエチレングリコールメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数25)140.7gとメタクリル酸28.0gと水42.2gとメルカプトプロピオン酸(連鎖移動剤)7.2gを混合し単量体混合物水溶液(II)を調製した。さらに過硫酸アンモニウム7.8gを水142.2gに溶解させて開
始剤水溶液を調製した。
【0129】
そして反応容器内に開始剤水溶液の滴下時間が5時間となるように滴下しながら、滴下時間が3時間となるように一定の速度で単量体混合物水溶液(I)を滴下した。その後、単量体混合物水溶液(I)の代わりに単量体混合物水溶液(II)を滴下時間が2時間となるように一定の速度で滴下した。滴下終了後、引き続いて80℃で1時間維持し、重合反応を完結させた。そして、30℃まで冷却した後、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0に中和して本発明の重合体(1)を含む水溶液を得た。
【0130】
・本発明の重合体(2)
単量体混合物水溶液(II)で、メルカプトプロピオン酸(連鎖移動剤)の添加量を7.2gの代わりに9.6gとした以外は、上記“本発明の重合体(1)”と同様な方法で本発明の重合体(2)を含む水溶液を得た。
【0131】
・本発明の重合体(3)
単量体混合物水溶液(I)の組成を、メトキシポリエチレングリコールメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数25)450.2gとメタクリル酸56.0gと水126.6gとメルカプトプロピオン酸(連鎖移動剤)2.2gとし、単量体混合物水溶液(II)の組成をメトキシポリエチレングリコールメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数25)150.1gとメタクリル酸18.7gと水42.2gとメルカプトプロピオン酸(連鎖移動剤)7.4gとした以外は、上記“本発明の重合体(1)”と同様な方法で本発明の重合体(3)を含む水溶液を得た。
【0132】
・比較重合体(1)
温度計・撹拌機・滴下ロート・窒素導入管・還流冷却器を備えたガラス製反応容器に水135.0gを仕込み、撹拌条件下で反応容器内を窒素置換して窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。次にメトキシポリエチレングリコールメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数25)75.1gとメタクリル酸14.9gと水22.5gとメルカプトプロピオン酸(連鎖移動剤)0.4gを混合し単量体混合物水溶液(I)を調製した。メトキシポリエチレングリコールメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数25)75.1gとメタクリル酸14.9gと水22.5gとメルカプトプロピオン酸(連鎖移動剤)1.3gを混合し単量体混合物水溶液(II)を調製した。さらに過硫酸アンモニウム2.1gを水37.9gに溶解させた開始剤水溶液を調製した。
【0133】
そして反応容器内に開始剤水溶液の滴下時間が5時間となるように滴下しながら、滴下時間が3時間となるように一定の速度で単量体混合物水溶液(I)を滴下した。その後、単量体混合物水溶液(I)の代わりに単量体混合物水溶液(II)を滴下時間が2時間となるように一定の速度で滴下した。滴下終了後、引き続いて80℃で1時間維持し、重合反応を完結させた。そして、30℃まで冷却した後、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0に中和して比較重合体(1)を含む水溶液を得た。
【0134】
・比較重合体(2)
温度計・撹拌機・滴下ロート・窒素導入管・還流冷却器を備えたガラス製反応容器に水595.0gを仕込み、撹拌条件下で反応容器内を窒素置換して窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。次にメトキシポリエチレングリコールメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数25)500.4gとメタクリル酸99.6gと水150.0gとメルカプトプロピオン酸(連鎖移動剤)5.0gを混合し単量体混合物水溶液を調製した。過硫酸アンモニウム4.5gを水145.5gに溶解させて開始剤水溶液を調製した。
【0135】
そして反応容器内に開始剤水溶液の滴下時間が5時間となるように滴下しながら、滴下時間が4時間となるように一定の速度で単量体混合物水溶液(I)を滴下した。滴下終了後、引き続いて80℃で1時間維持し、重合反応を完結させた。そして、30℃まで冷却した後、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0に中和して比較重合(2)を含む体水溶液を得た。
【0136】
(モルタル試験)
太平洋普通ポルトランドセメント550gに、上記本発明の重合体(1)〜(3)ならびに比較重合体(1)および(2)のいずれか1つの重合体水溶液と消泡剤(NMB社製「MA404」)を下記表1に示した添加量となるように水を用いて調製したものを220g添加し、ホバート型モルタルミキサー(型番N−50;ホバート社製)を用いて1速で30秒間混練した。次に上記ミキサーに“セメント強さ試験用標準砂(JIS R 5201−1997付属書2の5.1.3に規定)”1350gを30秒かけて投入し、2速で30秒間混練した後、混練を休止し15秒かけてモルタルミキサー内のモルタルを掻き落とし、75秒間静置した。75秒間静置した後、さらに2速で60秒間混練してモルタルを調製した。注水開始から6分後に調製したモルタルをフローコーン(JIS R5201−1997に記載)に半量詰め、つき棒を使って15回突いた。さらにモルタルをフローコーンのすりきりいっぱいまで詰め、つき棒を使って15回突いた。その後、フローコーンを垂直に引き上げた直後に、モルタルが広がってできた図形の直径を2ヶ所測定しその平均値をフロー値とした(モルタルフロー6分後)。
【0137】
次に広がったモルタルを再び容器に戻して静置し、注水から15分後(モルタルフロー15分後)、30分後(モルタルフロー30分後)に上記と同様な方法でモルタルフロー値を測定した。
【0138】
表1は上記本発明の重合体(1)〜(3)と比較重合体(1)および(2)でモルタルフローの結果を示したものである。図3〜7は上記本発明の重合体(1)〜(3)と比較重合体(1)および(2)のGPC測定での結果を示したものである。
【0139】
【表1】

【0140】
上記結果、本発明の重合体(1)〜(3)は6分後のモルタルフロー値(分散性)が185〜190mmであったのに対し、比較重合体(1)は図6に示すようにピークトップが比較的低分子量側に位置しているため、本発明の重合体よりも分散性が悪く(160mm)、本発明の重合体と同程度の分散性を得るためには重合体の添加量を上げる必要がある(本発明の重合体では0.15wt%/セメントであるのに対し、比較重合体(1)では0.18wt%/セメント)。
【0141】
また比較重合体(2)では、比較重合体(2)のMpは本発明の重合体のMpとほぼ変わらないため、分散性自体は本発明の重合体と同様な値を示すものの、図7に示すように分子量の分布が比較的均一であるため、低分子量側でのポリマーの割合が本発明の重合体よりも低く、保持性(6分後、15分後、30分後でのモルタルフロー値の変化)が劣っていた。
【0142】
上記の結果から、本発明の重合体では、分散性能に必要な高分子量部分と、流動性の経時変化に必要な低分子量部分が適度に含まれているため、分散性と流動性のいずれにおいても優れたセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーであるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】本発明のピーク面積(P0)と、ピーク面積(Q0)を算出する方法を説明するために用いる図である。
【図2】本発明のピーク面積(P0)と、ピーク面積(Q0)を算出する方法を説明するために用いる図である。
【図3】本発明の重合体(1)のGPC測定の結果を示した図である。
【図4】本発明の重合体(2)のGPC測定の結果を示した図である。
【図5】本発明の重合体(3)のGPC測定の結果を示した図である。
【図6】比較重合体(1)のGPC測定の結果を示した図である。
【図7】比較重合体(2)のGPC測定の結果を示した図である。
【符号の説明】
【0144】
1:ピークが認められない部分
2:ピークが認められない部分
3:ノイズピーク
4:ノイズピーク
5:最底点
6:面積Q0にあたる領域
7:面積P0にあたる領域
Lh:溶出開始時間
Ln:溶出終了時間
Mp:ピークトップでの溶出時間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーであって、
(1)前記ポリカルボン酸系ポリマーの分子量分布をゲルパーミエションクロマトグラフィーにて測定し、横軸に溶出時間を取った分子量分布曲線を得、
(2)前記分子量分布曲線にベースラインを作成し、
(3)前記ポリマー成分に相当するピークにおける溶出開始時間をLh、溶出終了時間をLn、ピークトップの溶出時間をMpとし、
(4)Lmを下記式(1)
Lm=(Ln+Mp)/2 (1)
から算出し、
(5)溶出時間LmとLnとの間のピーク面積をP0とし、溶出時間LhとMpとの間のピーク面積をQ0としたときに、P0とQ0が下記式(2)を満足することを特徴とするセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマー。
15≦(P0×100)/(P0+Q0)≦45 (2)
【請求項2】
上記ポリマーが、下記化学式(3)
【化1】

[式中、R1、R2およびR3は同一または異なって、水素原子、メチル基または−(CH2ZCOOM2(−(CH2ZCOOM2は、−COOM1またはその他の−(CH2ZCOOM2と無水物を形成していてもよい)を表し、
Zは0〜2の整数を表し、
1およびM2は同一または異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基または有機アミン基を表す。]
で表される構成部位(I)を2〜90質量%含んでなる請求項1に記載のセメント混和
剤用ポリカルボン酸系ポリマー。
【請求項3】
上記ポリマーが、下記化学式(4)
【化2】

[式中、R4およびR5は同一または異なって、水素原子またはメチル基を表し、
AOは同一または異なって、炭素数2以上のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表し、
xは0〜2の整数を表し、
yは0または1を表し、
nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数であり、
6は水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表す。]
で表される構成部位(II)を2〜98質量%含んでなる請求項2に記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマー。
【請求項4】
前記構成部位(II)中のオキシアルキレン鎖として、炭素数3以上のオキシアルキレン基を構成単位とするオキシアルキレン鎖を必須に含む、請求項3に記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマー。
【請求項5】
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基を構成単位とするオキシアルキレン鎖の両端に、炭素数2のオキシアルキレン基を構成単位とするオキシアルキレン鎖が結合している請求項4に記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマー。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを含有することを特徴とするセメント混和剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーとは異なるポリカルボン酸系ポリマーを含む請求項6に記載のセメント混和剤。
【請求項8】
ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物を含む請求項6または7のいずれかに記載のセメント混和剤。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーと、請求項1〜5のいずれか1項に記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーとは異なるポリカルボン酸系ポリマーと、上記ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物を、10〜80/10〜89/1〜80(質量比)の比率で含有する請求項8に記載のセメント混和剤。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載のセメント混和剤と少なくともセメントと水とを含むセメント組成物。
【請求項11】
セメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの製造方法であって、
下記化学式(5)
【化3】

[式中、R1およびR2、R3は同一または異なって、水素原子、メチル基または−(CH2ZCOOM2(−(CH2ZCOOM2は、−COOM1またはその他の−(CH2ZCOOM2と無水物を形成していてもよい)を表し、Zは0〜2の整数を表し、
1及びM2は同一または異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。]
で示される単量体を含む不飽和単量体成分を、前記不飽和単量体成分に対する連鎖移動剤の使用量が異なる少なくとも2段階で重合させる際に、前記2段階の重合工程間で不飽和単量体成分に対する連鎖移動剤の使用割合を5倍以上に変化させることを特徴とするセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの製造方法。
【請求項12】
前記不飽和単量体成分が、下記化学式(6)
【化4】

[式中、R4及びR5は同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表し、
AOは同一または異なって、炭素数2以上のオキシアルキレン基の1種又は2種以上の混合物(2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい)を表し、
xは0〜2の数を表し、yは0又は1を表し、
nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数であり、
6は水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。]
で示される単量体を含むものである請求項11に記載の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−282864(P2006−282864A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104912(P2005−104912)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】