説明

セメント混和剤

セメント組成物の減水性、流動性を高め、スランプ保持性能に優れたセメント混和剤を提供する。本発明のセメント混和剤は、カルボキシル基を含有する構成単位の含有量(質量%)の差が12質量%以下で、重量平均分子量またはピークトップ分子量が異なる2種類の共重合体を必須成分とする。また、本発明の別のセメント混和剤は、GPCチャートの低分子量側面積比率Pが50−87%であるポリカルボン酸系ポリマーを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、セメント混和剤、セメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーとその製造方法、およびセメント組成物に関する。更に詳しくは、セメントペースト、モルタル、コンクリートといったいわゆるセメント組成物において、流動性を高め、かつ、経時的にその流動性を保つスランプ保持性能に優れた、セメント混和剤、それに好適なセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーとその製造方法、およびセメント組成物に関する。
【背景技術】
セメント組成物(セメント配合物ともいう)は、強度及び耐久性に優れたセメント硬化物を与えることから、建築物外壁材、建築物構造体等の用途に広く用いられている。このようなセメント組成物としては、セメントに水を添加したセメントペーストや、これに細骨材である砂を混合したモルタル、さらに粗骨材である小石を混合したコンクリート等が挙げられ、通常、空気連行性や流動性を高めるために、セメント混和剤が加えられているが、近年、その重要性が認識され、技術革新が盛んに行われている。
セメント混和剤の任務は、セメント組成物を減水しても充分な分散性を発揮してその流動性及び施工性を確保でき、減水による耐久性及び強度向上を実現すると同時に、経時的に安定した分散性を保持して良好なセメント組成物を獲得するところにある。そして昨今のコンクリート業界では、このような性能を実現するコンクリートが強く求められており、これを達成するには単位水量の低減と共に、流動性低下の防止が重要な課題となっている。
各種セメント混和剤のうち、特にポリカルボン酸系のセメント分散剤は、ナフタレン系等の他のセメント分散剤に比べて高い分散性能を発揮する点で有利であり、このようなセメント分散剤として、特定の不飽和ポリアルキレングリコール系単量体と(メタ)アクリル酸系単量体からなる共重合体を含むセメント分散剤が提案されている(例えば、特開平9−86990号公報参照)。
しかしながら、これらのポリカルボン酸系セメント分散剤も、経時による分散性能の低下を完全に解消するまでには到っておらず、さらに、高強度コンクリートに必要とされる高減水率領域においては、コンクリート組成物のワーカビリティの低下といった問題が生じている。すなわち、高減水率領域では、コンクリートの流動性が低下し、特に高シェアー下における粘性が高くなり、ポンプ圧送時のポンプ負荷が極めて大きくなってポンプ圧送に弊害が生じているのが現状である。特に、冬場等で気温が15℃以下の場合には、コンクリートの温度も気温と同様に低下し、コンクリートの粘性が高くなり、ワーカビリティの低下が著しくなる上に、セメント分散剤の初期の分散性が低下して、型への充填性が悪くなり、作業性を著しく損なう結果を招いている。流動性を保持する、すなわちスランプ低下を防止する方法として、ポリアルキレン鎖の長さに注目して改善を試みた例(例えば、特開平9−286645号公報参照)もあるが、使用量が増大する傾向があり、使用量少なく、しかも長い時間において流動性を保持するセメント混和剤の要望は高い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、セメント組成物の減水性、流動性を高め、しかも経時的にその流動性を保つスランプ保持性能に優れ、さらにワーカビリティーに優れた、セメント混和剤、それに好適なセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーとその製造方法、およびセメント組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。
その結果、特定化された2種類の共重合体を必須に含むセメント混和剤、あるいは、特定のGPCチャートを示すポリカルボン酸系ポリマーを必須に含むセメント混和剤は、セメント組成物の減水性、流動性を高め、しかも経時的にその流動性を保つスランプ保持性能に優れ、さらにワーカビリティーに優れたセメント組成物が得られることを見出した。
すなわち、本発明にかかるセメント混和剤は、共重合体(A)と共重合体(B)を必須として含有するセメント混和剤であって、共重合体(A)と共重合体(B)は、ともに一般式(1)で示される構成部位(I)をそれぞれの共重合体中に2〜90質量%含有しており、共重合体(A)と共重合体(B)は、以下のa)とb)に示す条件を両方満たすことを特徴とする。
a)共重合体(A)に含まれる構成部位(I)の含有量(IA)と共重合体(B)に含まれる構成部位(I)の含有量(IB)が、12≧(IA−IB)≧0、あるいは12≧(IB−IA)≧0であること(IAは、共重合体(A)全体を100質量%とした場合の共重合体(A)に含有する構成部位(I)の含有量(質量%)を表し、IBは、共重合体(B)全体を100質量%とした場合の共重合体(B)に含有する構成部位(I)の含有量(質量%)を表す)。
b)共重合体(A)の重量平均分子量(AMw)と共重合体(B)の重量平均分子量(BMw)が、AMw>BMwであるか、あるいは、共重合体(A)のピークトップ分子量(AMp)と共重合体(B)のピークトップ分子量(BMp)が、AMp>BMpであること。

(式中、R、R及びRは同一若しくは異なって、水素原子、メチル基又は−(CHCOOMを表し、Zは0〜2の数を表す。−(CHCOOMは、−COOM又は−(CHCOOMと無水物を形成していても良い。M及びMは同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。)
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーは、以下の(1)〜(6)により定義される低分子量側面積比率Pが50〜87%であることを特徴とする。
(1)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定を行い、GPCチャートを取得する。
(2)GPCチャートのベースラインを引き、GPCチャートの高分子量側とベースラインとの交点をLh、GPCチャートの低分子量側とベースラインとの交点をLnとする。
(3)GPCチャートのピークMp(ピークが複数の場合には最も低分子量側のピーク)を通ってベースラインに垂直なラインとベースラインとの交点をLpとする。
(4)LpとLhとの中点をLmとする。
(5)GPCチャートにおける、Lpよりも低分子量側の面積をP0とし、Lmよりも高分子量側の面積をQ0とする。
(6)低分子量側面積比率P(%)を、P=(P0×100)/(P0+Q0)と定義する。
本発明にかかる別のセメント混和剤は、本発明のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを必須として含有する。
本発明にかかるセメント組成物は、本発明のセメント混和剤、セメント、および水を必須に含む。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの製造方法は、一般式(3)で示される単量体(I−M)を必須に含む単量体成分をラジカル重合することにより、本発明のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを製造する方法であって、前記単量体成分の一部を連鎖移動剤とともに反応系内に供給し、その後、前記単量体成分の残りを連鎖移動剤を併存させずに反応系内に供給することを特徴とする。

(式中、R、R及びRは同一若しくは異なって、水素原子、メチル基又は−(CHCOOMを表し、Zは0〜2の数を表す。−(CHCOOMは、−COOM又は−(CHCOOMと無水物を形成していても良い。M及びMは同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。)
本発明にかかる別のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの製造方法は、前記一般式(3)で示される単量体(I−M)を必須に含む単量体成分をラジカル重合することにより、本発明のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを製造する方法であって、前記単量体成分の一部をその0〜20質量%に相当する量(TR−1)の連鎖移動剤とともに反応系内に供給し、その後、前記単量体成分の残りをその1〜50質量%に相当する量(TR−2)の連鎖移動剤とともに反応系内に供給することを特徴とする。
なお、本発明において用いられる重量平均分子量及びピークトップ分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」と呼ぶ)により測定されるものである。本発明におけるピークトップ分子量とは、GPCチャートにおいてプロットされたカーブの中で最も高い位置に相当する分子量を表す。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明において定義される低分子量側面積比率Pを説明するためのGPCチャート図(ピークが1つの場合)である。
第2図は、本発明において定義される低分子量側面積比率Pを説明するためのGPCチャート図(ピークが2つの場合)である。
第3図は、実施例5で得られた重合体(C−3)のGPCチャート図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明にかかるセメント混和剤は、セメント混和剤用ポリマーとして下記(a)または(b)を必須に含む。
(a)特定化された2種類の共重合体
(b)特定のGPCチャートを示すポリカルボン酸系ポリマー
以下、まずこれらのセメント混和剤用ポリマー(a)、(b)について詳述し、その後、本発明にかかるセメント混和剤、セメント組成物について詳述する。
〔セメント混和剤用ポリマー(a)〕
本発明のセメント混和剤に必須成分として含ませることができるセメント混和剤用ポリマー(a)は、共重合体(A)と共重合体(B)とからなる。
共重合体(A)と共重合体(B)とは、ともに一般式(1)で示される構成部位(I)をそれぞれの共重合体中に2〜90質量%有する共重合体であり、共重合体(A)を構成する構成部位(I)と共重合体(B)を構成する構成成分(I)は同一であっても異なっていてもよく、また、それぞれの共重合体を構成する構成部位(I)は1種あるいは2種以上であってもよい。

式中、R、R及びRは同一若しくは異なって、水素原子、メチル基又は−(CHCOOMを表し、Zは0〜2の数を表す。−(CHCOOMは、−COOM又は−(CHCOOMと無水物を形成していても良い。M及びMは同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。
共重合体(A)全体を100質量%として、それに含まれる構成部位(I)の割合をIA(質量%)として、共重合体(B)全体を100質量%として、それに含まれる構成部位(I)の割合をIB(質量%)とした場合、12≧(IA−IB)≧0、あるいは12≧(IB−IA)≧0であり、好ましくは8≧(IA−IB)≧0、あるいは8≧(IB−IA)≧0であり、さらに好ましくは4≧(IA−IB)≧0、あるいは4≧(IB−IA)≧0である。
共重合体(A)の100gの中に含まれる構成部位(I)のモル数をIALとし、共重合体(B)の100gの中に含まれる構成部位(I)のモル数をIBLとした場合、好ましくは0.11≧(IAL−IBL)≧0、あるいは0.11≧(IBL−IAL)≧0であり、さらに好ましくは0.07≧(IAL−IBL)≧0、あるいは0.07≧(IBL−IAL)≧0であり、より好ましくは0.04≧(IAL−IBL)≧0、あるいは0.04≧(IBL−IAL)≧0である。
構成部位(I)は、セメントに吸着作用を及ぼす部位であり、共重合体(A)と共重合体(B)に含まれる構成部位量の差が大きくなって上記範囲を超えると、セメント組成物の流動性を発現させるためには使用量が多くなり、さらには硬化遅延を引き起こす場合があり不利である。
構成部位(I)は、共重合体(A)中に2〜90質量%、及び共重合体(B)中に2〜90質量%含まれるが、好ましくは、共重合体(A)及び/又は共重合体(B)中に10〜50質量%含み、さらに好ましくは15〜30質量%含む。この範囲を超えると、セメント組成物の流動性を発現させるためには使用量が多くなり、さらには硬化遅延を引き起こす場合があり不利である。
共重合体(A)の分子量と共重合体(B)の分子量には特定の関係が必要である。すなわち、共重合体(A)の重量平均分子量(AMw)と共重合体(B)の重量分子量(BMw)において、AMw>BMwであり、好ましくは50000≧(AMw−BMw)>0であり、さらに好ましくは50000≧(AMw−BMw)≧1000であり、より好ましくは50000≧(AMw−BMw)≧5000であるか、あるいは、共重合体(A)のピークトップ分子量(AMp)と共重合体(B)のピークトップ分子量(BMp)において、AMp>BMpであり、好ましくは5000≧(AMp−BMp)>0であり、さらに好ましくは5000≧(AMp−BMp)≧1000であり、より好ましくは3000≧(AMw−BMw)≧1000である。共重合体(A)と共重合体(B)が、この範囲外になれば、初期の流動性とその流動性を保持する性能が劣り、好ましくない。
共重合体(A)と共重合体(B)の混合割合は、質量比で、好ましくは(A)/(B)=0.1〜10.0であり、さらに好ましくは(A)/(B)=0.3〜2.5であり、より好ましくは(A)/(B)=0.6〜1.5である。
共重合体(A)及び/又は共重合体(B)は、一般式(2)で示される構成部位(II)を含むことが好ましい。共重合体(A)を構成する構成部位(II)と共重合体(B)を構成する構成成分(II)は同一であっても異なっていてもよく、また、それぞれの共重合体を構成する構成部位(II)は1種あるいは2種以上であってもよい。

式中、R及びRは同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種又は2種以上の混合物を表し、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していても良い。xは0〜2の数を表し、yは0又は1を表す。nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。Rは水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表し、好ましくは、nは2〜120の数であり、さらに好ましくは6〜120の数であり、より好ましくは、8〜50の数である。
構成部位(II)中のオキシアルキレン鎖(AO)としては、炭素数3および/または4のオキシアルキレン基を構成単位とするオキシアルキレン鎖を必須に含むことが好ましい。本発明のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーが、3および/または4のオキシアルキレン基を構成単位とするオキシアルキレン鎖(AO)を有する構成部位(II)を含むと、ポリマーの疎水性が増加してセメントの状態が改良されるからである。ただし、疎水性が強くなりすぎると、セメント分散性(すなわち減水性)が悪くなる場合もあるので、AOの炭素数が2である構成部位(II)のモル数と、AOの炭素数が3および/または4である構成部位(II)のモル数との割合は、AOの炭素数が2である構成部位(II)のモル数/AOの炭素数が3および/または4である構成部位(II)のモル数=99/1〜50/50であることが好ましく、より好ましくは98/2〜60/40、さらに好ましくは97/3〜70/30、最も好ましくは96/4〜80/20である。
構成部位(II)は、共重合体(A)中に2〜98質量%、及び共重合体(B)中に2〜98質量%含まれるが、好ましくは、共重合体(A)及び/又は共重合体(B)中に50〜90質量%含み、さらに好ましくは70〜85質量%含む。この範囲を超えると、セメント組成物の流動性を発現させるためには使用量が多くなり、さらには硬化遅延を引き起こす場合があり不利である。
構成部位(I)を共重合体(A)及び共重合体(B)に導入するためには、一般式(3)で示される単量体(I−M)と単量体(I−M)と共重合可能なその他の単量体とを共重合することにより導入することができる。なお、その他の単量体としては後述する構成部位(II)の前駆体となる単量体(II−M)と第3の単量体(III−M)の中から、1種、あるいは2種以上用いることができる。

式中、R、R及びRは同一若しくは異なって、水素原子、メチル基又は−(CHCOOMを表し、Zは0〜2の数を表す。−(CHCOOMは、−COOM又は−(CHCOOMと無水物を形成していても良い。M及びMは同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。
単量体(I−M)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、及び、これらの金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等の不飽和モノカルボン酸系単量体;マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、フマル酸、及び、これらの金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等の不飽和ジカルボン酸系単量体;などが挙げられ、さらにはこれらの不飽和ジカルボン酸の無水物も用いることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
構成部位(II)を共重合体(A)及び共重合体(B)に導入するためには、一般式(4)で示される単量体(II−M)を共重合することにより導入できる。

式中、R及びRは同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種又は2種以上の混合物を表し、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していても良い。xは0〜2の数を表し、yは0又は1を表す。nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。Rは水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表し、好ましくは、nは2〜120の数であり、さらに好ましくは6〜120の数であり、より好ましくは、8〜50の数である。
単量体(II−M)としては、例えば、メトキシポリエチレングリコール、メトキシポリプロピレングリコール、オキシエチレンとオキシプロピレンのブロックあるいはランダム重合体のα−アルキル−ω−オール体等の片末端アルキル封鎖ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸、マレインとの(ハーフ)エステル化物や、(メタ)アリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オールとのエーテル化物;(メタ)アクリル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸や(メタ)アリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等の不飽和アルコールへのアルキレンオキシド付加体;などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができるが、メタノールにエチレンオキシドとプロピレンオキシドをブロック付加させたα−メチル−ω−オール体と(メタ)アクリル酸のエステル化物が好ましい。
第3の単量体(III−M)としては、例えば、アクリルアミド、スチレン、メチルスチレン、酢酸ビニル、インデン、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の単量体が挙げられる。
単量体(I−M)、単量体(II−M)及び単量体(III−M)を共重合することにより、共重合体(A)及び共重合体(B)を得ることが好ましく、これら単量体の使用割合は、合計量を100質量%として、(I−M)/(II−M)/(III−M)=2〜90質量%/0〜50質量%/0〜50質量%で用いることができ、好ましくは、(I−M)/(II−M)/(III−M)=2〜90質量%/2〜98質量%/0〜50質量%であり、さらに好ましくは、(I−M)/(II−M)/(III−M)=10〜50質量%/50〜90質量%/0〜50質量%であり、より好ましくは、(I−M)/(II−)/(III−M)=15〜30質量%/70〜85質量%/0〜50質量%である。
共重合体(A)の合成に用いる全単量体(100質量%とする)に対する単量体(I−M)の使用割合をI−MA(質量%)とし、共重合体(B)の合成に用いる全単量体(100質量%とする)に対する単量体(I−M)の使用割合をI−MB(質量%)とした場合、12≧{(I−MA)−(I−MB)}≧0、あるいは12≧{(I−MB)−(I−MA)}≧0であり、好ましくは8≧{(I−MA)−(I−MB)}≧0、あるいは8≧{(I−MB)−(I−MA)}≦0であり、さらに好ましくは4≧{(I−MA)−(I−MB)}≧0、あるいは4≧{(I−MB)−(I−MA)}≧0である。
共重合体(A)の合成に用いる全単量体量を100gとして、その内の単量体(I−M)の使用するモル数をI−MALとし、共重合体(B)の合成に用いる全単量体量を100gとして、その内の単量体(I−M)の使用するモル数をI−MBLとした場合、0.11≧{(I−MAL)−(I−MBL)}≧0、あるいは0.11≧{(I−MBL)−(I−MAL)}≧0であり、好ましくは0.07≧{(I−MAL)−(I−MBL)}≧0、あるいは0.07≧{(I−MBL)−(I−MAL))≧0であり、さらに好ましくは0.04≧{(I−MAL)−(I−MBL))≧0、あるいは0.04≧{(I−MBL)−(I−MAL)}≧0である。この範囲を超えると、セメント組成物の流動性を発現させるためには使用量が多くなり、さらには硬化遅延を引き起こす場合があり不利である。
共重合体(A)に用いる単量体(I−M)と共重合体(B)に用いる単量体(I−M)は同一でも異なっていてもよく、共重合体(A)に用いる単量体(II−M)と共重合体(B)に用いる単量体(II−M)は同一でも異なっていてもよく、共重合体(A)に用いる単量体(III−M)と共重合体(B)に用いる単量体(III−M)は同一でも異なっていてもよい。
共重合体(A)と共重合体(B)の混合方法は特に限定しないが、共重合体(A)と共重合体(B)の水溶液を20℃〜100℃下で混合しても良いし、共重合体(A)か共重合体(B)のどちらかの共重合体存在下で、他方の共重合体を合成しても良い。
単量体(I−M)、単量体(II−M)及び単量体(III−M)の共重合は、溶媒中での重合や塊状重合等の方法により行うことができる。
溶液重合は回分式でも連続式でも行うことができ、その際に使用される溶媒としては特に限定されず、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の芳香族或いは脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル化合物;などが挙げられる。
水溶液重合を行う場合には、ラジカル重合開始剤として、水溶性の重合開始剤、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩等のアゾアミジン化合物、2,2’−アゾビス−2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン塩酸塩等の環状アゾアミジン化合物、2−カルバモイルアゾイソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物等の水溶性アゾ系開始剤;などが使用され、この際、亜硫酸水素ナトリウム等のアルカリ金属亜硫酸塩、メタ二亜硫酸塩、次亜燐酸ナトリウム、モール塩等のFe(II)塩、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物、ヒドロキシルアミン塩酸塩、チオ尿素、L−アスコルビン酸(塩)、エリソルビン酸(塩)等の促進剤(還元剤)を併用することもできる。中でも、過酸化水素と有機系還元剤との組み合わせが好ましく、有機系還元剤としては、L−アスコルビン酸(塩)、L−アスコルビン酸エステル、エリソルビン酸(塩)、エリソルビン酸エステル等が好適である。これらのラジカル重合開始剤や促進剤(還元剤)はそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
低級アルコール、芳香族もしくは脂肪族炭化水素、エステル化合物、又は、ケトン化合物を溶媒とする溶液重合を行う場合、又は、塊状重合を行う場合には、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ナトリウムパーオキシド等のパーオキシド;t−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;などがラジカル重合開始剤として用いられる。この際、アミン化合物等の促進剤を併用することもできる。さらに、水−低級アルコール混合溶媒を用いる場合には、上記の種々のラジカル重合開始剤、又は、ラジカル重合開始剤と促進剤の組み合わせの中から適宜選択して用いることができる。
重合温度は、用いる溶媒やラジカル重合開始剤により適宜定められるが、好ましくは0〜150℃、より好ましくは30〜120℃、さらに好ましくは50〜100℃で行われる。
各単量体の反応容器への投入方法は特に限定されず、全量を反応容器に初期に一括投入する方法、全量を反応容器に分割もしくは連続投入する方法、一部を反応容器に初期に投入し、残りを反応容器に分割もしくは連続投入する方法のいずれでもよい。また、反応途中で各単量体の反応容器への投入速度を連続的又は段階的に変えることにより各単量体の単位時間当りの投入質量比を連続的又は段階的に変化させて、共重合体(A)及び/又は共重合体(B)中の構成部位の比率が異なる共重合体(A)及び/又は共重合体(B)の混合物を重合反応中に合成するようにしてもよい。尚、ラジカル重合開始剤は反応容器に初めから仕込んでもよく、反応容器へ滴下してもよく、又目的に応じてこれらを組み合わせてもよい。
得られる共重合体(A)及び/又は共重合体(B)の分子量調整のため、連鎖移動剤を用いることができる。
連鎖移動剤としては特に限定されず、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、2−メルカプトエタンスルホン酸等のチオール系連鎖移動剤;イソプロピルアルコール等の2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸及びその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウ厶、亜二チオン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等)の低級酸化物及びその塩;等の公知の親水性連鎖移動剤を用いることができる。さらに、疎水性連鎖移動剤を用いると、セメント組成物の粘性改善に有効である。疎水性連鎖移動剤としては、ブタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール、シクロヘキシルメルカプタン、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル等の炭素原子数3以上の炭化水素基を有するチオール系連鎖移動剤を用いることが好ましい。2種類以上の連鎖移動剤の併用も可能であり、親水性連鎖移動剤と疎水性連鎖移動剤とを組み合わせて用いてもよい。さらに、分子量調整のためには、(メタ)アリルスルホン酸(塩)類等の連鎖移動性の高い単量体を用いることも有効である。
上記重合において、所定の分子量の共重合体を再現性よく得るには、重合反応を安定に進行させることが必要であることから、溶液重合する場合には、使用する溶媒の25℃における溶存酸素濃度を5ppm以下の範囲とすることが好ましい。好ましくは0.01〜4ppmの範囲、さらに好ましくは0.01〜2ppmの範囲、最も好ましくは0.01〜1ppmの範囲である。尚、溶媒に単量体を添加後、窒素置換等を行う場合には、単量体をも含んだ系の溶存酸素濃度を上記範囲内とする。
上記溶媒の溶存酸素濃度の調整は、重合反応槽で行ってもよく、予め溶存酸素量を調整したものを用いてもよく、溶媒中の酸素を追い出す方法としては、例えば、下記の(1)〜(5)の方法が挙げられる。
(1)溶媒を入れた密閉容器内に窒素等の不活性ガスを加圧充填後、密閉容器内の圧力を下げることで溶媒中の酸素の分圧を低くする。窒素気流下で、密閉容器内の圧力を下げてもよい。
(2)溶媒を入れた容器内の気相部分を窒素等の不活性ガスで置換したまま液相部分を長時間激しく攪拌する。
(3)容器内に入れた溶媒に窒素等の不活性ガスを長時間バブリングする。
(4)溶媒を一旦沸騰させた後、窒素等の不活性ガス雰囲気下で冷却する。
(5)配管の途中に静止型混合機(スタティックミキサー)を設置し、溶媒を重合反応槽に移送する配管内で窒素等の不活性ガスを混合する。
上記共重合により得られた共重合体(A)と共重合体(B)は、取り扱い性の観点から、水溶液状態で弱酸性以上のpH範囲に調整しておくことが好ましく、より好ましくはpH4以上、さらに好ましくはpH5以上、とりわけ好ましくはpH6以上の範囲である。一方、共重合反応をpH7以上で行ってもよいが、その場合、重合率の低下が起こると同時に、共重合性が悪くなり分散性能が低下するため、酸性から中性のpH範囲で共重合反応を行うことが好ましく、より好ましくはpH6未満、さらに好ましくはpH5.5未満、とりわけ好ましくはpH5未満の範囲である。従って、低いpHで共重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してより高いpHに調整することが好ましく、好適な実施形態として具体的には、pH6未満で共重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH6以上に調整する方法、pH5未満で共重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH5以上に調整する方法、pH5未満で共重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH6以上に調整する方法等が挙げられる。pHの調整は、例えば、一価金属又は二価金属の水酸化物や炭酸塩等の無機塩;アンモニア;有機アミン;等のアルカリ性物質を用いて行うことができる。又、pHを下げる必要の有る場合、特に、重合の際にpHの調整が必要な場合は、リン酸、硫酸、硝酸、アルキルリン酸、アルキル硫酸、アルキルスルホン酸、(アルキル)ベンゼンスルホン酸等の酸性物質を用いてpHの調整を行うことができ、これら酸性物質の中では、pH緩衝作用がある点等からリン酸が好ましい。又、反応終了後、必要ならば濃度調整を行うこともできる。
〔セメント混和剤用ポリマー(b)〕
本発明のセメント混和剤に必須成分として含ませることができるセメント混和剤用ポリマー(b)は、特定のGPCチャートを示すポリカルボン酸系ポリマーであり、本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーである。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーは、以下の(1)〜(6)により定義される低分子量側面積比率Pが50〜87%であることを特徴とする。本発明において定義される低分子量側面積比率Pを説明するためのGPCチャート図を第1図(ピークが1つの場合)、第2図(ピークが2つの場合)に示す。
(1)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定を行い、GPCチャートを取得する。
(2)GPCチャートのベースラインを引き、GPCチャートの高分子量側とベースラインとの交点をLh、GPCチャートの低分子量側とベースラインとの交点をLnとする。
(3)GPCチャートのピークMp(ピークが複数の場合には最も低分子量側のピーク)を通ってベースラインに垂直なラインとベースラインとの交点をLpとする。
(4)LpとLhとの中点をLmとする。
(5)GPCチャートにおける、Lpよりも低分子量側の面積をP0とし、Lmよりも高分子量側の面積をQ0とする。
(6)低分子量側面積比率P(%)を、P=(P0×100)/(P0+Q0)と定義する。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーは、低分子量側面積比率Pが50〜87%であることを特徴とするが、低分子量側面積比率Pは好ましくは55〜85%、より好ましくは60〜80%、さらに好ましくは65〜75%である。
低分子量側面積比率Pが上記範囲を外れると、セメント混和剤として用いた場合に、本発明の効果が十分に発揮できないおそれがあり、特にスランプ保持性能やワーカビリティー性能が低下するおそれがある。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーは、低分子量側面積比率Pが50〜87%であるので、以下の(7)に定義される高分子量側面積比率Qが13〜50%である。
(7)高分子量側面積比率Qを、Q=(Q0×100)/(P0+Q0)と定義する。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーは、高分子量側面積比率Qが13〜50%であるが、高分子量側面積比率Qは好ましくは15〜45%、より好ましくは20〜40%、さらに好ましくは25〜35%である。
高分子量側面積比率Qが上記範囲を外れると、セメント混和剤として用いた場合に、本発明の効果が十分に発揮できないおそれがあり、特に分散性が低下するおそれがある。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーは、GPCチャートにおける全面積G(GPCチャート曲線とベースラインに囲まれた部分の面積)中に占める(P0+Q0)の割合R(%)(R(%)=〔(P0+Q0)×100〕/G)が、好ましくは10≦R≦80、より好ましくは15≦R≦70、さらに好ましくは20≦R≦65、特に好ましくは25≦R≦60である。
(P0+Q0)の割合Rが上記範囲を外れると、セメント混和剤として用いた場合に、本発明の効果が十分に発揮できないおそれがある。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーは、分子量分布Mw/Mnが、好ましくは1.3〜2.5、より好ましくは1.5〜2.2、さらに好ましくは1.8〜2.0である。
分子量分布Mw/Mnが上記範囲を外れると、セメント混和剤として用いた場合に、本発明の効果が十分に発揮できないおそれがある。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーは、重量平均分子量Mwが、好ましくは10000〜200000、より好ましくは20000〜100000、さらに好ましくは25000〜80000、特に好ましくは30000〜70000である。
重量平均分子量Mwが上記範囲を外れると、セメント混和剤として用いた場合に、本発明の効果が十分に発揮できないおそれがある。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーは、ピークトップ分子量Mpが、好ましくは10000〜40000、より好ましくは15000〜35000、さらに好ましくは20000〜30000である。
ピークトップ分子量Mpが上記範囲を外れると、セメント混和剤として用いた場合に、本発明の効果が十分に発揮できないおそれがある。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーは、1種類のポリマーからなっているものでもよいし、2種類以上のポリマーからなるものでもよい。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーは、好ましくは、一般式(1)で示される構成部位(I)を2〜90質量%含んでなり、より好ましくは10〜50質量%、さらに好ましくは15〜30質量%である。

(式中、R、R及びRは同一若しくは異なって、水素原子、メチル基又は−(CHCOOMを表し、Zは0〜2の数を表す。−(CHCOOMは、−COOM又は−(CHCOOMと無水物を形成していても良い。M及びMは同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。)
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマー中の構成部位(I)の含有割合が上記範囲を超えると、セメント組成物の流動性を発現させるためには使用量が多くなり、さらには硬化遅延を引き起こす場合があり不利である。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーは、好ましくは、一般式(2)で示される構成部位(II)を2〜98質量%含んでなり、より好ましくは50〜90質量%、さらに好ましくは70〜85質量%である。

(式中、R及びRは同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種又は2種以上の混合物を表し、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していても良い。xは0〜2の数を表し、yは0又は1を表す。nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。Rは水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマー中の構成部位(II)の含有割合が上記範囲を超えると、セメント組成物の流動性を発現させるためには使用量が多くなり、さらには硬化遅延を引き起こす場合があり不利である。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーが構成部位(II)を含む場合、構成部位(II)中のオキシアルキレン鎖として、炭素数3および/または4のオキシアルキレン基を構成単位とするオキシアルキレン鎖を必須に含むことが、本発明の効果を一層十分に発現させる上で好ましい。このような炭素数3および/または4のオキシアルキレン基を構成単位とするオキシアルキレン鎖の平均付加モル数nは、好ましくは1〜300、より好ましくは2〜250、さらに好ましくは4〜200、特に好ましくは6〜150、最も好ましくは8〜100である。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーが構成部位(II)を含む場合、前記炭素数3および/または4のオキシアルキレン基を構成単位とするオキシアルキレン鎖の両端に、炭素数1および/または2のオキシアルキレン基を構成単位とするオキシアルキレン鎖が結合していることが好ましい。このような炭素数1および/または2のオキシアルキレン基を構成単位とするオキシアルキレン鎖の平均付加モル数nは、好ましくは1〜300、より好ましくは2〜250、さらに好ましくは4〜200、特に好ましくは6〜150、最も好ましくは8〜100である。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーに構成部位(I)を導入するためには、一般式(3)で示される単量体(I−M)を単独重合、あるいは単量体(I−M)と共重合可能なその他の単量体と単量体(I−M)との共重合により導入することが好ましい。単量体(I−M)は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーに構成部位(II)を導入するためには、前記その他の単量体として一般式(4)で示される単量体(II−M)を用いることが好ましい。単量体(II−M)は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記その他の単量体として、第3の単量体(III−M)を用いてもよい。単量体(III−M)は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの製造に用いる単量体成分の組成割合としては、単量体成分の合計量を100質量%として、(I−M)/(II−M)/(III−M)=2〜90質量%/0〜50質量%/0〜50質量%で用いることが好ましく、(I−M)/(II−M)/(III−M)=2〜90質量%/2〜98質量%/0〜50質量%で用いることがより好ましく、(I−M)/(II−M)/(III−M)=10〜50質量%/50〜90質量%/0〜50質量%で用いることがさらに好ましく、(I−M)/(II−M)/(III−M)=15〜30質量%/70〜85質量%/0〜50質量%で用いることが特に好ましい。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーは、例えば、第1図および第2図のMpより高分子量のMpを有する本発明における共重合体(A)と、第1図および第2図のMpと同じMpを有する本発明における共重合体(B)を、(A)/(B)=1/9〜5/5(質量比)の割合でブレンドする(ここで言う共重合体(A)と共重合体(B)は、前述の通り組成が全く同じものであっても構わない)ことによっても得られるが、好ましくは、本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの製造方法、すなわち下記(i)または(ii)の2通りの方法によって製造することができる。下記(i)と(ii)のいずれの方法を採用するかは、得ようとするセメント混和剤の性能としてスランプ保持性能またはワーカビリティーと減水性または流動性とのいずれを重視するかによって、選択すればよい。
(i) スランプ保持性能またはワーカビリティーを重視する場合
本発明のセメント混和剤を使用するに当たってスランプ保持性能またはワーカビリティーが重要となる場合には、低分子量のポリマーが充分な量含まれている方が好ましいので、低分子量ポリマーを効率よく生成させる製造方法が好ましい。そのような製造方法の一例を挙げるとすれば、前記一般式(3)で示される単量体(I−M)を必須に含む単量体成分をラジカル重合することにより本発明のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを製造する方法であって、前記単量体成分の一部を連鎖移動剤とともに反応系内に供給し、その後、前記単量体成分の残りを連鎖移動剤を併存させずに反応系内に供給することを特徴とする、本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの製造方法(以下「第1のポリマー製造方法」と称することもある)を挙げることができる。
前記第1のポリマー製造方法においては、用いる全単量体成分中、連鎖移動剤とともに反応系内に供給した単量体成分の残りを、前記供給の後に、連鎖移動剤を併存させずに反応系内に供給する。なお、ここでいう「連鎖移動剤を併存させずに反応系内に供給する」とは、残りの単量体成分を反応系内に供給する際に連鎖移動剤を反応系内に新たに供給することを行わないことのみを意味する。したがって、残りの単量体成分を反応系内に供給する際に、既に反応系内に供給された連鎖移動剤が反応系内に残存している状態であってもよい。
(ii) 減水性または流動性を重視する場合
本発明のセメント混和剤を使用するに当たって減水性または流動性が重要となる場合には、高分子量のポリマーがある程度以上含まれている方が好ましいので、高分子量ポリマーを効率よく生成させる製造方法が好ましい。そのような製造方法の一例を挙げるとすれば、前記一般式(3)で示される単量体(I−M)を必須に含む単量体成分をラジカル重合することにより本発明のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを製造する方法であって、前記単量体成分の一部をその0〜20質量%に相当する量(TR−1)の連鎖移動剤とともに反応系内に供給し、その後、前記単量体成分の残りをその1〜50質量%に相当する量(TR−2)の連鎖移動剤とともに反応系内に供給することを特徴とする、本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの製造方法(以下「第2のポリマー製造方法」と称することもある)を挙げることができる。
前記第2のポリマー製造方法において、前記単量体成分の一部とともに用いる連鎖移動剤の量(TR−1)と前記単量体成分の残りとともに用いる連鎖移動剤の量(TR−2)は、目的とする本発明のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの分子量や使用する連鎖移動剤の種類および純度によって前記範囲内で適宜定めればよいのであるが、その中でも、(TR−1)が前記単量体成分の一部に対して0〜10質量%であると、より高分子量のポリマーが生成するので好ましい。さらに、(TR−1)が前記単量体成分の一部に対して1〜10質量%であると、ゲル化物が生成しにくいのでより好ましい。さらに充分に高分子量であるポリマーを生成させるためには、(TR−1)が前記単量体成分の一部に対して1〜5質量%であることが最も好ましい。
一方で、本発明の中で最も肝要なことは、減水性や流動性を重視する場合においてもスランプ保持性能やワーカビリティが適切なレベルを維持しているということである。そのためには、前記第2のポリマー製造方法においては、前記単量体成分の残りを供給した段階(すなわち(TR−2)の連鎖移動剤を用いた段階)で生成するポリマーは、前記単量体成分の一部を供給した段階(すなわち(TR−1)の連鎖移動剤を用いた段階)で生成するポリマーよりもある程度低い分子量のものであることが好ましい。すなわち、前記単量体成分の残りとともに用いる連鎖移動剤の量(TR−2)は前記単量体成分の一部とともに用いる連鎖移動剤の量(TR−1)より多いことが好ましく、(TR−1)と(TR−2)の質量比を(TR−2)/(TR−1)=1.5〜20とすることが好ましい。その中でも、質量比(TR−2)/(TR−1)=3〜20であると、さらに優れたスランプ保持性能が得られるのでより好ましく、質量比(TR−2)/(TR−1)=5〜20であると、ワーカビリティもさらに向上するのでさらに好ましく、質量比(TR−2)/(TR−1)=5〜10であると減水性や流動性もさらに良好となるので最も好ましい。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを製造するための重合方法や重合条件としては、本発明にかかる製造方法(前記第1のポリマー製造方法および前記第2のポリマー製造方法)における上記の各特徴を備える以外は、従来公知の重合方法や重合条件を適用することができる。重合方法としては、溶液重合が好ましく、水溶液重合が特に好ましい。溶液重合は回分式でも連続式でも行うことができ、その際に使用される溶媒は、前述したものと同様である。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを製造するために用いることができるラジカル重合開始剤は前述したものと同様である。また、前述と同様、促進剤(還元剤)を併用してもよい。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを製造する際には、ラジカル重合開始剤は、単量体成分の添加前の反応系内に予め存在させておいてもよいし、単量体成分の添加とともに反応系内に一括添加あるいは逐次添加(連続添加や間欠添加)してもよい。好ましくは、少なくとも単量体成分が反応系内に添加されている間においてラジカル重合開始剤を逐次添加する形態である。
重合温度は、用いる溶媒やラジカル重合開始剤により適宜定められるが、好ましくは0〜150℃、より好ましくは30〜120℃、さらに好ましくは40〜110℃、特に好ましくは50〜100℃、最も好ましくは60〜80℃で行われる。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを製造する際には、重合の始めに反応系内に供給する単量体成分(すなわち、前記第1のポリマー製造方法においては全量の連鎖移動剤とともに反応系内に供給する単量体成分、前記第2のポリマー製造方法においては前述した(TR−1)の量の連鎖移動剤とともに反応系内に供給される単量体成分)は、本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの製造に用いる全単量体成分の一部であり、全単量体成分量に対して、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%、さらに好ましくは40〜60質量%である。
本発明において、前記重合の始めに反応系内に供給する単量体成分の量が、全単量体成分量に対して20質量%以上50質量%未満である場合、前記第1のポリマー製造方法においては、低分子量ポリマーの生成量が比較的少なくなるので、前記低分子量側面積比率Pは50〜80%程度になり、前記第2のポリマー製造方法においては、高分子量ポリマーの生成量が比較的少なくなるので、前記低分子量側面積比率Pは60〜87%程度になる。また、本発明において、前記重合の始めに反応系内に供給する単量体成分の量が、全単量体成分量に対して50質量%を超え80質量%以下である場合、前記第1のポリマー製造方法においては、低分子量ポリマーの生成量が比較的多くなるので、前記低分子量側面積比率Pは60〜87%程度になり、前記第2のポリマー製造方法においては、高分子量ポリマーの生成量が比較的多くなるので、前記低分子量側面積比率Pは50〜80%程度になる。
単量体成分の一部を反応系内に供給する工程(該工程では、前記第1のポリマー製造方法においては全量の連鎖移動剤とともに、前記第2のポリマー製造方法においては前述した(TR−1)の量の連鎖移動剤とともに、単量体成分を供給する)と、その後の、単量体成分の残りを反応系内に供給する工程(該工程では、前記第1のポリマー製造方法においては連鎖移動剤を併存させず、前記第2のポリマー製造方法においては前述した(TR−1)の量の連鎖移動剤とともに、単量体成分を供給する)とは、連続工程であることが好ましい。
単量体成分の一部を連鎖移動剤(前記第1のポリマー製造方法においては全量、前記第2のポリマー製造方法においては前述した(TR−1)の量)とともに反応系内に供給する形態は、特に限定されないが、例えば、単量体成分の一部と連鎖移動剤とを別々の添加装置から反応系内に添加してもよいし、単量体成分の一部と連鎖移動剤との混合物を反応系内に添加してもよい。単量体成分の添加前の反応系内には、溶剤を予め存在させておくことが好ましい。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを製造するために用いることができる連鎖移動剤は前述したものと同様である。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを製造するために用いることができる連鎖移動剤の量(ここで言う量は、本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの製造に用いる連鎖移動剤の全量のことであり、前記第2のポリマー製造方法においては前述した(TR−1)と(TR−2)の合計量である。)は、用いる全単量体成分に対して、好ましくは0.5〜20モル%、より好ましくは2〜18モル%、さらに好ましくは5〜15モル%である。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを製造する際に溶液重合を行う場合には、重合反応を安定に進行させるため、使用する溶媒の25℃における溶存酸素濃度を5ppm以下とすることが好ましい。より好ましくは0.01〜4ppm、さらに好ましくは0.01〜2ppm、特に好ましくは0.01〜1ppmである。なお、溶媒に単量体成分を添加後、窒素置換等を行う場合には、単量体成分をも含んだ系の溶存酸素濃度を上記範囲内とすることが好ましい。
上記溶媒の溶存酸素濃度の調整は、重合反応槽で行ってもよく、予め溶存酸素量を調整したものを用いてもよく、溶媒中の酸素を追い出す方法としては、前述したものと同様の方法が挙げられる。
本発明にかかるセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマー(a)と(b)は、取り扱い性の観点から、水溶液状態で弱酸性以上のpH範囲に調整しておくことが好ましく、より好ましくはpH4以上、さらに好ましくはpH5以上、特に好ましくはpH6以上とする。一方、重合反応をpH7以上で行ってもよいが、その場合、重合率の低下が起こると同時に、重合性が悪くなり分散性能が低下するため、酸性から中性のpH範囲で重合反応を行うことが好ましく、より好ましくはpH6未満、さらに好ましくはpH5.5未満、特に好ましくはpH5未満である。従って、低いpHで重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してより高いpHに調整することが好ましく、好適な実施形態として具体的には、pH6未満で重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH6以上に調整する方法、pH5未満で重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH5以上に調整する方法、pH5未満で重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH6以上に調整する方法等が挙げられる。pHの調製に用いることができる物質は前述したものと同様である。
〔セメント混和剤〕
本発明にかかるセメント混和剤は、前述したセメント混和剤用ポリマー(a)あるいは(b)を必須に含む。
本発明のセメント混和剤には、消泡剤を含有することでき、セメント混和剤用ポリマー(a)あるいは(b)を製造後に添加しても良いし、重合開始前、あるいは、重合中に添加しても良い。
セメント混和剤中の消泡剤の添加割合は、セメント混和剤用ポリマーの全質量に対して、0.0001〜10質量%が好ましい。
消泡剤としては、具体的には、(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン2−エチルヘキシルエーテル、炭素原子数12〜14の高級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、3−メチル−1−ブチン−3−オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等のポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;ポリオキシエチレンステアリルリン酸エステル等のポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンラウリルアミン(プロピレンオキシド1〜20モル付加、エチレンオキシド1〜20モル付加物等)、アルキレンオキシドを付加させた硬化牛脂アミン(プロピレンオキシド1〜20モル付加、エチレンオキシド1〜20モル付加物等)等のポリオキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド;等が挙げられる。これらの消泡剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明にかかるセメント混和剤は、水溶液の形態で使用してもよいし、又は、重合後にカルシウム、マグネシウム等の二価金属の水酸化物で中和して多価金属塩とした後に乾燥させたり、シリカ系微粉末等の無機粉体に担持して乾燥させたり、ドラム型乾燥装置、ディスク型乾燥装置又はベルト式乾燥装置を用いて支持体上に薄膜状に乾燥固化させた後に粉砕したりすることにより粉体化して使用してもよい。又、粉体化した本発明の分散剤を予めセメント粉末やドライモルタルのような水を含まないセメント組成物に配合して、左官、床仕上げ、グラウト等に用いるプレミックス製品として使用しても良いし、セメント組成物の混練時に配合してもよい。
本発明にかかるセメント混和剤は、前述したセメント混和剤用ポリマー(a)を必須に含む場合には、セメント混和剤用ポリマー(a)とは異なるポリカルボン酸系ポリマーを含むことが好ましく、セメント混和剤用ポリマー(b)を必須に含む場合も、セメント混和剤用ポリマー(b)とは異なるポリカルボン酸系ポリマーを含むことが好ましい。すなわち、本発明にかかるセメント混和剤が前述したセメント混和剤用ポリマー(a)を必須に含む場合には、前記共重合体(A)と共重合体(B)以外のポリカルボン酸系ポリマーを含むことが好ましく、本発明にかかるセメント混和剤が前述したセメント混和剤用ポリマー(b)を必須に含む場合には、低分子量側面積比率Pが50〜87%の範囲を外れるポリカルボン酸系ポリマーを含むことが好ましいのである。
本発明にかかるセメント混和剤がセメント混和剤用ポリマー(a)または(b)のほかに、セメント混和剤用ポリマー(a)または(b)とは異なるポリカルボン酸系ポリマーをも含む場合、その含有比率(質量比)は、セメント混和剤用ポリマー(a)または(b)/セメント混和剤用ポリマー(a)または(b)とは異なるポリカルボン酸系ポリマー=90/10〜10/90が好ましく、80/20〜20/80がより好ましく、70/30〜30/70がさらに好ましく、60/40〜40/60が特に好ましい。
本発明にかかるセメント混和剤は、ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物を含むことが好ましい。
本発明にかかるセメント混和剤がセメント混和剤用ポリマー(a)または(b)のほかに、ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物をも含む場合、その含有比率(質量比)は、セメント混和剤用ポリマー(a)または(b)/ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物=90/10〜10/90が好ましく、80/20〜20/80がより好ましく、70/30〜30/70がさらに好ましく、60/40〜40/60が特に好ましい。
本発明にかかるセメント混和剤が、特に好ましいセメント混和剤用ポリマーの組み合わせとして、セメント混和剤用ポリマー(a)または(b)のほかに、セメント混和剤用ポリマー(a)または(b)とは異なるポリカルボン酸系ポリマーとポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物をも含む場合、それらの含有比率(質量比)は、セメント混和剤用ポリマー(a)または(b)/セメント混和剤用ポリマー(a)または(b)とは異なるポリカルボン酸系ポリマー/ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物=10〜80/10〜89/1〜80が好ましく、15〜70/20〜84/1〜65がより好ましく、20〜60/30〜77/3〜50がさらに好ましく、20〜50/40〜75/5〜40が特に好ましい。
本発明にかかるセメント混和剤に占める上記セメント混和剤用ポリマーの総量は、セメント混和剤全体に対し、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、最も好ましくは80%以上である。このようであると、減水性と保持性の点で好ましいからである。
ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物としては、炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物が好ましい。
炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物としては、炭素数3以上のオキシアルキレン基を有するボリアルキレンイミンであればよく、重合性不飽和二重結合を有していてもよく、有していなくてもよい。また、これらを併用してもよい。
重合性不飽和二重結合を有する炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物としては、後述するポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物単量体のうち炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物が好適である。
重合性不飽和二重結合を有さないボリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物としては、ポリアルキレンイミンが有するアミノ基やイミノ基の窒素原子にアルキレンオキシドを付加させて得られる化合物が好適である。なお、アルキレンオキシドが付加するアミノ基やイミノ基の窒素原子は、活性水素原子を持つものである。
上記オキシアルキレン基は、少なくとも1種が炭素数3以上のオキシアルキレン基であり、同一の付加物にオキシアルキレン基が2種以上存在する場合には、オキシアルキレン基がランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの形態をとっても良い。
上記ポリアルキレンイミンとしては、エチレンイミン、プロピレンイミン、1,2−ブチレンイミン、2,3−ブチレンイミン、1,1−ジメチルエチレンイミン等の炭素数2〜8のアルキレンイミンの1種または2種以上を常法により重合して得られる、これらのアルキレンイミンの単独重合体や共重合体が好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。このようなポリアルキレンイミンにより、炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物のポリアルキレンイミン鎖が形成されることになるが、該ポリアルキレンイミン鎖は、直鎖状の構造、分枝状の構造、三次元状に架橋された構造のいずれであってもよい。さらに、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等であってもよい。このようなボリアルキレンイミンでは、通常、構造中に第3級アミノ基の他、活性水素原子をもつ第1級アミノ基や第2級アミノ基(イミノ基)を有することになる。
上記ポリアルキレンイミンに付加させるアルキレンオキシドとしては、少なくとも炭素数3以上のオキシアルキレン基が少なくとも1種以上付加してなるものであればよく、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド,1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、トリメチルエチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラメチルエチレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、オクチレンオキシド等の炭素数2〜8のアルキレンオキシドの他、ジペンタンエチレンオキシド、ジヘキサンエチレンオキシド等の脂肪族エポキシド;トリメチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、オクチレンオキシド等の脂環エポキシド;スチレンオキシド、1,1−ジフェニルエチレンオキシド等の芳香族エボキシド;などにより形成される構造である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、エチレンオキシドとプロピレンオキシドからなる付加物、エチレンオキシドとブチレンオキシドからなる付加物が、セメント混和剤とした場合のセメント組成物の減水性、スランプ保持性、強度向上効果、空気量低減効果のバランスが良く、好ましい組み合わせである。
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物では、ポリアルキレンイミン鎖を有するが、このようなポリアルキレンイミン鎖は、エチレンイミンを主体として形成されるものであることが好ましい。この場合、「主体」とは、ポリアルキレンイミン鎖が2種以上のアルキレンイミンにより形成されるときに、全アルキレンイミンのモル数において、大半を占めるものであることを意味する。本発明においては、ポリアルキレンイミン鎖を形成するアルキレンイミンにおいて、大半を占めるものがエチレンイミンであることにより、付加物の親水性が向上して作用効果が充分に発揮されるので、上記作用効果が充分に発揮される程度に、ポリアルキレンイミン鎖を形成するアルキレンイミンとしてエチレンイミンを用いることをもって、上記にいう「大半を占める」こととなるので、上記「主体」となりうることとなる。
上記ポリアルキレンイミン鎖を形成するアルキレンイミンにおいて、上記「大半を占める」ことを全アルキレンイミン100モル%中のエチレンイミンのモル%で表すとき、50〜100モル%が好ましい。50モル%未満であると、ポリアルキレンイミン鎖の親水性が低下するおそれがある。より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上である。
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物ではまた、ポリアルキレンイミン鎖1つあたりのアルキレンイミンの平均重合数としては、2以上であることが好ましく、また、300以下であることが好ましい。2未満であると、付加物の機能が充分に発揮されないおそれがあり、300を超えると、付加物の重合性が低下するおそれがある。特に好ましくは3以上である。また、より好ましくは200以下であり、さらに好ましくは100以下であり、特に好ましくは75以下であり、最も好ましくは50以下である。この場合、ジエチレントリアミンの平均重合数は2、トリエチレンテトラミンの平均重合数は3となる。
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物ではさらに、オキシアルキレン基の平均付加モル数としては、0を超えて、300以下とすることが好ましい。300を超えると、これらの単量体の重合性が低下するおそれがある。より好ましくは0.5以上であり、さらに好ましくは1以上、特に好ましくは3以上、最も好ましくは5以上である。また、より好ましくは、270以下であり、さらに好ましくは250以下、特に好ましくは220以下、最も好ましくは200以下である。付加物におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数がこのような範囲を外れると、セメント組成物等の流動性を優れたものとする作用効果が充分に発揮されないおそれがある。なお、上記平均付加モル数とは、付加物が有するオキシアルキレン基により形成される基1モル中において付加している当該オキシアルキレン基のモル数の平均値、または、付加物を形成することになるポリアルキレンイミンが有する活性水素原子をもつ窒素原子1モルに対して付加している当該オキシアルキレン基のモル数の平均値を意味する。
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基を必須とするポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物の重量平均分子量としては、300以上であることが好ましく、また、100000以下であることが好ましい。より好ましくは400以上、さらに好ましくは500以上、さらに好ましくは600以上、特に好ましくは1000以上である。また、より好ましくは50000以下、さらに好ましくは30000以下である。
〔セメント組成物〕
本発明のセメント混和剤は、各種水硬性材料、即ち、セメントや石膏等のセメント組成物やそれ以外の水硬性材料に用いることができる。このような水硬性材料と水と本発明のセメント混和剤とを含有し、さらに必要に応じて細骨材(砂等)や粗骨材(砕石等)を含む水硬性組成物の具体例としては、セメントペースト、モルタル、コンクリート、プラスター等が挙げられる。
上記水硬性組成物の中では、水硬性材料としてセメントを使用するセメント組成物が最も一般的であり、該セメント組成物は、本発明のセメント混和剤、セメント、および水を必須成分として含んでなる。このようなセメント組成物は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
すなわち、本発明にかかるセメント組成物は、本発明のセメント混和剤、セメント、および水を必須に含む、
上記セメント組成物において使用されるセメントとしては、特に限定はない。例えば、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩、およびそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造されたセメント)等が挙げられ、さらに、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加してもよい。又、骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材が使用可能である。
上記セメント組成物においては、その1mあたりの単位水量、セメント使用量、および水/セメント比(質量比)としては、単位水量100〜185kg/m、使用セメント量200〜800kg/m、水/セメント比(質量比)=0.1〜0.7とすることが好ましく、より好ましくは、単位水量120〜175kg/m、使用セメント量250〜800kg/m、水/セメント比(質量比)=0.2〜0.65が推奨され、貧配合〜富配合まで幅広く使用可能である。本発明のセメント混和剤は、高減水率領域、即ち、水/セメント比(質量比)=0.15〜0.5(好ましくは0.15〜0.4)といった水/セメント比の低い領域においても使用可能であり、さらに、単位セメント量が多く水/セメント比が小さい高強度コンクリート、単位セメント量が300kg/m以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。
本発明にかかるセメント組成物における本発明のセメント混和剤の配合割合としては、例えば、水硬セメントを用いるモルタルやコンクリート等に使用する場合には、固形分換算でセメント質量の0.01〜10.0質量%とすることが好ましい。このような添加量により、単位水量の低減、強度の増大、耐久性の向上等の各種の好ましい諸効果がもたらされる。上記配合割合が0.01質量%未満では、性能的に充分とはならないおそれがあり、逆に10.0質量%を超える多量を使用しても、その効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となるおそれがある。配合割合の好適範囲としては、より好ましくは0.02〜5.0質量%であり、さらに好ましくは0.05〜3.0質量%であり、特に好ましくは0.1〜2.0質量%である。
本発明にかかるセメント組成物は、高減水率領域においても高い分散性と分散保持性能を有し、かつ、低温時においても十分な初期分散性と粘性低減性を発揮し、優れたワーカビリティを有することから、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等に有効であり、さらに、中流動コンクリート(スランプ値が22〜25cmの範囲のコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50〜70cmの範囲のコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効である。
本発明のセメント混和剤は、公知のセメント分散剤と併用することが可能であり、複数の公知のセメント分散剤の併用も可能である。併用することができる公知のセメント分散剤としては、分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤(S)が好ましい。分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤(S)を併用することにより、セメントの銘柄やロットNo.によらず安定した分散性能を発揮するセメント混和剤となる。
スルホン酸系分散剤(S)は、主にスルホン酸基によってもたらされる静電的反発によりセメントに対する分散性を発現する分散剤であって、公知の各種スルホン酸系分散剤を用いることができるが、分子中に芳香族基を有する化合物であることが好ましい。具体的には、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸塩系;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系;アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸塩系;リグニンスルホン酸塩、変成リグニンスルホン酸塩等のリグニンスルホン酸塩系;ポリスチレンスルホン酸塩系;等の各種スルホン酸系分散剤が挙げられる。水/セメント比が高いコンクリートの場合にはリグニンスルホン酸塩系の分散剤が好適に用いられ、一方、より高い分散性能が要求される水/セメント比が中程度のコンクリートの場合には、ポリアルキルアリールスルホン酸塩系、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系、芳香族アミノスルホン酸塩系、ポリスチレンスルホン酸塩系等の分散剤が好適に用いられる。尚、分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤(S)を2種類以上併用してもよい。
本発明のセメント混和剤は、上記のスルホン酸系分散剤(S)以外に、オキシカルボン酸系化合物(D)を併用することができる。オキシカルボン酸系化合物(D)を含むことにより、高温の環境下においてもより高い分散保持性能を発揮することができる。
本発明で用いられるオキシカルボン酸系化合物(D)としては、炭素原子数4〜10のオキシカルボン酸もしくはその塩が好ましく、例えば、グルコン酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸、リンゴ酸、クエン酸や、これらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、トリエタノールアミン等の無機塩又は有機塩等が挙げられる。中でも、グルコン酸もしくはその塩を用いることが好ましい。尚、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、貧配合コンクリートの場合には、分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤(S)としてリグニンスルホン酸塩系の分散剤を用い、オキシカルボン酸系化合物(D)としてグルコン酸もしくはその塩を用いることが好ましい。
本発明にかかるセメント組成物は、以下の(1)〜(11)に例示するような他の公知のセメント添加剤(材)を含有することができる。
(1)水溶性高分子物質:ポリアクリル酸(ナトリウム)、ポリメタクリル酸(ナトリウム)、ポリマレイン酸(ナトリウム)、アクリル酸・マレイン酸共重合物のナトリウム塩等の不飽和カルボン酸重合物;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の非イオン性セルロースエーテル類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の多糖類のアルキル化又はヒドロキシアルキル化誘導体の一部又は全部の水酸基の水素原子が、炭素原子数8〜40の炭化水素鎖を部分構造として有する疎水性置換基と、スルホン酸基又はそれらの塩を部分構造として有するイオン性親水性置換基で置換されてなる多糖誘導体;酵母グルカンやキサンタンガム、β−1.3グルカン類(直鎖状、分岐鎖状の何れでもよく、一例を挙げれば、カードラン、パラミロン、パキマン、スクレログルカン、ラミナラン等)等の微生物醗酵によって製造される多糖類;ポリアクリルアミド;ポリビニルアルコール;デンプン;デンプンリン酸エステル;アルギン酸ナトリウム;ゼラチン;分子内にアミノ基を有するアクリル酸のコポリマー及びその四級化合物;等。
(2)高分子エマルジョン:(メタ)アクリル酸アルキル等の各種ビニル単量体の共重合物等。
(3)オキシカルボン酸系化合物(D)以外の硬化遅延剤:グルコース、フラクトース、ガラクトース、サッカロース、キシロース、アピオース、リボース、異性化糖等の単糖類や、二糖、三糖等のオリゴ糖、又はデキストリン等のオリゴ糖、又はデキストラン等の多糖類、これらを含む糖蜜類等の糖類;ソルビトール等の糖アルコール;珪弗化マグネシウム;リン酸並びにその塩又はホウ酸エステル類;アミノカルボン酸とその塩;アルカリ可溶タンパク質;フミン酸;タンニン酸;フェノール;グリセリン等の多価アルコール;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)及びこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等のホスホン酸及びその誘導体;等。
(4)早強剤・促進剤:塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム等の可溶性カルシウム塩;塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物;硫酸塩;水酸化カリウム;水酸化ナトリウム;炭酸塩;チオ硫酸塩;ギ酸及びギ酸カルシウム等のギ酸塩;アルカノールアミン;アルミナセメント;カルシウムアルミネートシリケート;等。
(5)オキシアルキレン系以外の消泡剤:燈油、流動パラフィン等の鉱油系消泡剤;動植物油、ごま油、ひまし油、これらのアルキレンオキシド付加物等の油脂系消泡剤;オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物等の脂肪酸系消泡剤;グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、天然ワックス等の脂肪酸エステル系消泡剤;オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類等のアルコール系消泡剤;アクリレートポリアミン等のアミド系消泡剤;リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等のリン酸エステル系消泡剤;アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等の金属石鹸系消泡剤;ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン等のポリオルガノシロキサン)、フルオロシリコーン油等のシリコーン系消泡剤;等。
(6)AE剤:樹脂石鹸、飽和あるいは不飽和脂肪酸、ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリルサルフェート、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸)、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸)、アルカンスルホネート、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸エステル又はその塩、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテルリン酸エステル又はその塩、蛋白質材料、アルケニルスルホコハク酸、α−オレフィンスルホネート等。
(7)その他界面活性剤:オクタデシルアルコールやステアリルアルコール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂肪族1価アルコール、アビエチルアルコール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂環式1価アルコール、ドデシルメルカプタン等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する1価メルカプタン、ノニルフェノール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するアルキルフェノール、ドデシルアミン等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するアミン、ラウリン酸やステアリン酸等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するカルボン酸に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを10モル以上付加させたポリアルキレンオキシド誘導体類;アルキル基又はアルコキシ基を置換基として有してもよい、スルホン基を有する2個のフェニル基がエーテル結合した、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩類;各種アニオン性界面活性剤;アルキルアミンアセテート、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等の各種カチオン性界面活性剤;各種ノニオン性界面活性剤;各種両性界面活性剤;等。
(8)防水剤:脂肪酸(塩)、脂肪酸エステル、油脂、シリコン、パラフィン、アスファルト、ワックス等。
(9)防錆剤:亜硝酸塩、リン酸塩、酸化亜鉛等。
(10)ひび割れ低減剤:ポリオキシアルキルエーテル等。
(11)膨張材;エトリンガイト系、石炭系等。
その他の公知のセメント添加剤(材)としては、セメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、防錆剤、着色剤、防カビ剤等を挙げることができる。これら公知のセメント添加剤(材)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明にかかるセメント組成物において、セメントおよび水以外の成分についての特に好適な実施形態としては、次の(1)〜(4)が挙げられる。
(1)本発明のセメント混和剤、および、オキシアルキレン系消泡剤の2成分を必須とする組み合わせ。オキシアルキレン系消泡剤としては、ポリオキシアルキレン類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアセチレンエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類等が使用可能であるが、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類が特に好適である。なお、オキシアルキレン系消泡剤の配合質量比としては、本発明のセメント混和剤に対して0.01〜20質量%の範囲が好ましい。
(2)本発明のセメント混和剤、および、材料分離低減剤の2成分を必須とする組み合わせ。材料分離低減剤としては、非イオン性セルロースエーテル類等の各種増粘剤、部分構造として炭素原子数4〜30の炭化水素鎖からなる疎水性置換基と炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを平均付加モル数で2〜300付加したポリオキシアルキレン鎖とを有する化合物等が使用可能である。なお、本発明のセメント混和剤と材料分離低減剤との配合質量比としては、10/90〜99.99/0.01が好ましく、50/50〜99.9/0.1がより好ましい。この組み合わせのセメント組成物は、高流動コンクリート、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材として好適である。
(3)本発明のセメント混和剤、および、促進剤の2成分を必須とする組み合わせ。促進剤としては、塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム等の可溶性カルシウム塩類、塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物類、チオ硫酸塩、ギ酸及びギ酸カルシウム等のギ酸塩類等が使用可能である。なお、本発明のセメント混和剤と促進剤との配合質量比としては、10/90〜99.9/0.1が好ましく、20/80〜99/1がより好ましい。
(4)本発明のセメント混和剤、オキシアルキレン系消泡剤、およびAE剤の3成分を必須とする組み合わせ。オキシアルキレン系消泡剤としては、ポリオキシアルキレン類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアセチレンエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類等が使用可能であるが、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類が特に好適である。なお、本発明のセメント混和剤と消泡剤の配合質量比としては、本発明のセメント混和剤に対して0.01〜20質量%が好ましい。一方、AE剤の配合質量比としては、セメントに対して0.001〜2質量%が好ましい。
【実施例】
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下では、便宜上、「%」は質量%を、「部」は質量部を表すことがある。
重量平均分子量、ピークトップ分子量、低分子量側面積比率Pおよび高分子量側面積比率Qは、GPCにより求めた。
<GPC測定条件:共重合体(A−1)、(B−1)、(A−2)についての測定>
機種:Waters製 Milleniumシステム
検出器:Waters製 410RI検出器
使用カラム:TOSOH製
TSK−GEL G4000SWXL
TSK−GEL G3000SWXL
TSK−GEL G2000SWXL
を各1本づつ使用した。
溶離液:アセトニトリル1765g、イオン交換水3235g、酢酸ナトリウム三水和物34gからなる混合液に酢酸を添加してPH6.0に調整した。
流速:1.0ml/min
打ち込み量:重合体濃度0.5%の溶離液溶液を100μL
カラム温度:40℃
標準試料:ポリエチレングリコール
分子量:170,000、85,000、46,000、26,000、12,000、7,100を使用。
<GPC測定条件:共重合体(C−1)〜(C−4)についての測定>
機種:Waters製 エンパワーシステ厶
検出器:Waters製 2414示差屈折検出器
使用カラム:TOSOH製
TSK−guardcolumn α
TSK−GEL α5000
TSK−GEL α4000
TSK−GEL α3000
を各1本づつ使用した。
溶離液:水8938.4g、ホウ酸27.9g、塩化カリウム33.8gを溶かし、更に30%NaOHでpH9.0に調整後、アセトニトリル1000gを追加して溶離液を調製した。
流速:0.8ml/min
打ち込み量:100μl
カラム温度:40℃
標準試料:ポリエチレングリコール
Mp:860,000、570,000、272,500、219,300、107,000、50,000、24,000、12,600、7100、4250、1470、600、150を使用。
較正曲線用標準物質:ポリエチレングリコール
Mp:860,000、570,000、272,500、219,300、107,000、50,000、24,000、12,600、7100、4250、1470、600、150を使用。
較正曲線次数:上記ポリエチレングリコールのMpを用いて3次式で作成した。
解析ソフト:Waters社製 Empower Software
<モルタルテストの方法>
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)600g、ISO基準砂1350g、水道水200g、および、本発明のセメント混和剤を用いてモルタルを調製し、そのフロー値を測定した。セメント混和剤の使用量は、固形分での添加量で示し、セメント量に対する百分率で表2に表した。モルタル調製方法、および、フロー値測定方法は、JIS R5201に示される強さ試験での練混ぜ方法、および、フロー試験に準じて行った。また、最初のフロー値測定後、モルタルをプラスチック容器に密閉して保存し、各時間経過後、練りさじで10回かき混ぜてから、再度フロー値を測定した。
<コンクリート試験>
試験条件1:水/セメント比=175kg/583kg=0.3(これをW/C30と略する)
セメント:住友大阪セメント、太平洋セメント、宇部三菱セメントの3種等量混合
細骨材:千葉産山砂
粗骨材:青森・八戸産石灰砕石
単位量:s/a=42.3、空気451/m、水175kg/m、セメント583kg/m、粗骨材923.5kg/m、細骨材668.0kg/m
混練方法:強制練りパン型ミキサー(55リットル:太平洋機工(株)製)を使用し、30リットル混練した。混練方法は、分割練りで実施。細骨材とセメントを10秒間空練りし、その後、所定量のセメント混和剤込みの水を加え60秒間混練した。さらに粗骨材を加えて60秒間混練して排出し、コンクリートを製造した。
試験条件2:水/セメント比=175kg/389kg=0.45(これをW/C45と略する)
セメント:住友大阪セメント、太平洋セメント、宇部三菱セメントの3種等量混合
細骨材:君津産山砂
粗骨材:青森・八戸産石灰砕石
単位量:水175kg/m、セメント389kg/m、粗骨材941kg/m、細骨材791kg/m
混練方法:強制練りパン型ミキサー(55リットル:太平洋機工(株)製)に、セメント、細骨材および粗骨材を投入して10秒間空練りし、次いで、所定量のセメント混和剤を配合した水を加えてさらに120秒間混練して排出し、コンクリートを製造した。
〔製造例1〕:H−(OC13−(OC−(OC10−OCHの製造
温度計、攪拌機、原料導入菅、及び窒素導入管を備えた反応装置にポリ(n=10)エチレングリコールモノメチルエーテル1100質量部、水酸化カリウム0.5質量部を仕込み、反応器内を窒素置換した後、120℃に昇温して、この温度を保ちながらプロピレンオキシド235質量部を3時間かけて投入した。投入後、さらに120℃で2時間熟成した後、再び反応器内を窒素置換してから、120℃に保ちながらエチレンオキシド1165質量部を3時間かけて投入した。投入後さらに120℃で1時間熟成して、水酸基価48mg・KOH/gのアルキレングリコールモノメチルエーテル(エーテルアルコール1)を得た。
〔製造例2〕:エステル化物1の製造
温度計、攪拌機、窒素導入菅、及び縮合水分離菅を備えた反応器に、製造例1で得られたアルキレングリコールモノメチルエーテル2203質量部、メタクリル酸450質量部、パラトルエンスルホン酸1水和物59質量部、フェノチアジン0.5質量部、及び、共沸溶媒としてシクロヘキサン265質量部を仕込み、115℃に保ちながら縮合水を分離して20時間加熱してエステル化を行った。エステル化率99%(アルキレングリコールモノメチルエーテルの転化率)で、蒸留水556質量部と30%水酸化ナトリウム溶液46質量部を加えた後、再び昇温して、共沸によりシクロヘキサンを除去してから、蒸留水を加えて、エステル化物を70%含み、未反応のメタクリル酸10%を含むエステル化物1の水溶液を得た。
〔製造例3〕
温度計、攪拌機、滴下装置、窒素導入菅、及び冷却菅を備えた反応器に、蒸留水50質量部を仕込み、80℃に昇温した。続いて、製造例2で得たエステル化物1の水溶液203質量部、メタクリル酸17.6質量部、蒸留水76.6質量部、及び3−メルカプトプロピオン酸2.8質量部を混合した溶液を4時間、並びに蒸留水47.9質量部と過硫酸アンモニウ厶2.1質量部を混合した溶液を5時間かけて滴下した。その後、80℃に保ったままで1時間熟成してから冷却し、30%水酸化ナトリウム水溶液を加え、PH7に調整し、さらに蒸留水を加えて、重量平均分子量14000、ピークトップ分子量11000であり、構成部位(I)を25%、構成部位(II)を75%有する共重合体(A−1)を含有する固形分濃度20%の水溶液を得た。なお、共重合体(A−1)の100g中に含まれる構成部位(I)は、0.23molである。
〔製造例4〕
温度計、攪拌機、滴下装置、窒素導入菅、及び冷却菅を備えた反応器に、蒸留水50質量部を仕込み、80℃に昇温した。続いて、製造例2で得たエステル化物1の水溶液203質量部、メタクリル酸17.6質量部、蒸留水76.6質量部、及び3−メルカプトプロピオン酸3.1質量部を混合した溶液を4時間、並びに蒸留水27.9質量部とL−アスコルビン酸0.6質量部を混合した溶液、及び、蒸留水20.0質量部と30%過酸化水素水溶液1.5質量部を混合した溶液を5時間かけて滴下した。その後、80℃に保ったままで1時間熟成してから冷却し、30%水酸化ナトリウム水溶液を加え、PH7に調整し、さらに蒸留水を加えて、重量平均分子量13500、ピークトップ分子量9000であり、構成部位(I)を25%、構成部位(II)を75%有する共重合体(B−1)を含有する固形分濃度20%の水溶液を得た。なお、共重合体(B−1)の100g中に含まれる構成部位(I)は、0.23molである。
〔製造例5〕
温度計、攪拌機、滴下装置、窒素導入菅、及び冷却菅を備えた反応器に、蒸留水50質量部を仕込み、80℃に昇温した。続いて、製造例2で得たエステル化物1の水溶液203質量部、メタクリル酸17.6質量部、蒸留水76.6質量部、及び3−メルカプトプロピオン酸2.2質量部を混合した溶液を4時間、並びに蒸留水47.9質量部と過硫酸アンモニウム2.1質量部を混合した溶液を5時間かけて滴下した。その後、80℃に保ったままで1時間熟成してから冷却し、30%水酸化ナトリウム水溶液を加え、PH7に調整し、さらに蒸留水を加えて、重量平均分子量20000、ピークトップ分子量14000であり、構成部位(I)を25%、構成部位(II)を75%有する共重合体(A−2)を含有する固形分濃度20%の水溶液を得た。なお、共重合体(A−2)の100g中に含まれる構成部位(I)は、0.23molである。
[実施例1〜2、比較例1]
製造例3、4、5で得られた共重合体(A−1)、(B−1)、(A−2)を表1に示す配合で混合し、セメント混和剤(1)〜(2)を得た。また、共重合体(A−1)のみを用いて比較用セメント混和剤(1)とした。
実施例1〜2としてセメント混和剤(1)〜(2)、および、比較例1として比較用セメント混和剤(1)を用い、モルタルに配合してモルタルテストを行った。そのモルタルテスト結果を表2に示す。


[実施例3]
温度計、撹拌機、滴下装置、窒素導入管、及び冷却管を備えた反応器に、蒸留水121質量部を仕込み60℃に昇温した。続いて、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル(CHO−(CO)10−(CO)−(CO)13−)メタクリレート50.0質量部、メタクリル酸6.2質量部、3〜メルカプトプロピオン酸2.16質量部、30%水酸化ナトリウム1質量部、蒸留水13.0質量部の第1の単量体成分を1時間かけて反応容器に滴下した。次いで、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル(CHO−(CO)10−(CO)−(CO)13−)メタクリレート150.1質量部、メタクリル酸18.5質量部、30%水酸化ナトリウム3.2質量部、蒸留水38.4質量部の第2の単量体成分を第1の単量体成分滴下終了後から3時間かけて反応容器に滴下した。30%過酸化水素水溶液1.48質量部、蒸留水48.52質量部の混合溶液並びにL−アスコルビン酸0.57質量部、蒸留水49.43質量部の混合溶液を第1の単量体成分の滴下開始と同時に滴下を開始し反応容器に5時間かけて滴下した。その後60℃に保ったまま1時間熟成してから冷却し、30%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH7.0に調整し、重量平均分子量52800、トップピーク分子量26600の重合体(C−1)の水溶液を得た。
得られた重合体(C−1)の低分子量側面積比率Pおよび高分子量側面積比率Qを求めた結果を表3に示す。
[実施例4]
温度計、撹拌機、滴下装置、窒素導入管、及び冷却管を備えた反応器に、蒸留水116質量部を仕込み60℃に昇温した。続いて、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル(CHO−(CO)10−(CO)−(CO)13−)メタクリレート75.0質量部、メタクリル酸9.3質量部、3−メルカプトプロピオン酸3.24質量部、30%水酸化ナトリウ厶1.6質量部、蒸留水19.3質量部の第1の単量体成分を1.5時間かけて反応容器に滴下した。次いで、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル(CHO−(CO)10−(CO)−(CO)13−)メタクリレート125.1質量部、メタクリル酸15.5質量部、30%水酸化ナトリウム2.7質量部、蒸留水32.1質量部の第2の単量体成分を第1の単量体成分滴下終了後から2.5時間かけて反応容器に滴下した。30%過酸化水素水溶液1.48質量部、蒸留水48.52質量部の混合溶液並びにL−アスコルビン酸0.57質量部、蒸留水49.43質量部の混合溶液を第1の単量体成分の滴下開始と同時に滴下を開始し反応容器に5時間かけて滴下した。その後60℃に保ったまま1時間熟成してから冷却し、30%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH7.0に調整し、重量平均分子量35300、トップピーク分子量20200の重合体(C−2)の水溶液を得た。
得られた重合体(C−2)の低分子量側面積比率Pおよび高分子量側面積比率Qを求めた結果を表3に示す。
[実施例5]
温度計、攪拌機、滴下装置、窒素導入管、及び冷却管を備えた反応器に、蒸留水1000質量部を仕込み、80℃に昇温した。続いて、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル(CHO−(CO)10−(CO)−(CO)13−)メタクリレート213.4質量部、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル(CHO−(CO)25−)メタクリレート213.4質量部、メタクリル酸112.7質量部、3−メルカプトプロピオン酸3.5質量部、30%水酸化ナトリウム26.3質量部、蒸留水162.6質量部の第1の単量体成分を2時間かけて反応容器に滴下した。次いで、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル(CHO−(CO)10−(CO)−(CO)13−)メタクリレート320.0質量部、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル(CHO−(CO)25−)メタクリレート320.0質量部、メタクリル酸169.1質量部、3−メルカプトプロピオン酸42.4質量部、30%水酸化ナトリウム39.5質量部、蒸留水206.8質量部の第2の単量体成分を第1の単量体成分滴下終了後から2時間かけて反応容器に滴下した。また、過硫酸水素ナトリウム11.5質量部、蒸留水138.5質量部の混合溶液を第1の単量体成分の滴下開始と同時に滴下を開始し反応容器に5時間かけて滴下した。その後、80℃に保ったままで1時間熟成してから冷却し、30%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH7.0に調整し、重量平均分子量37300、トップピーク分子量16900の重合体(C−3)の水溶液を得た。
得られた重合体(C−3)の低分子量側面積比率Pおよび高分子量側面積比率Qを求めた結果を表3に示す。また、得られた重合体(C−3)のGPCチャートを第3図に示す。
〔比較例2〕
温度計、撹拌機、滴下装置、窒素導入管、及び冷却管を備えた反応器に、蒸留水50質量部を仕込み80℃に昇温した。続いて、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル(CHO−(CO)10−(CO)−(CO)13−)メタクリレート142.1質量部、メタクリル酸37.7質量部、蒸留水76.6質量部、および3−メルカプトプロピオン酸2.8質量部を混合した溶液を4時間、並びに蒸留水47.9質量部と過硫酸アンモニウム2.1質量部を混合した溶液を5時間かけて滴下した。その後、80℃に保ったまま1時間熟成してから冷却し、30%水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH7.0に調整し、重量平均分子量39000、ピークトップ分子量31700の重合体(C−4)の水溶液を得た。
得られた重合体(C−4)の低分子量側面積比率Pおよび高分子量側面積比率Qを求めた結果を表3に示す。
〔比較例3〕
温度計、撹拌機、滴下装置、窒素導入管、及び冷却管を備えた反応器に、蒸留水115質量部を仕込み、80℃に昇温した。続いて、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル(CHO−(CO)10−(CO)−(CO)13−)メタクリレート273質量部、メタクリル酸11.4質量部、蒸留水11.2質量部、および3−メルカプトプロピオン酸3.5質量部を混合した溶液(単量体成分)を4時間、並びに蒸留水48.6質量部と30%過酸化水素水溶液1.4質量部を混合した溶液と蒸留水49.5質量部とL−アスコルビン酸0.5質量部を混合した溶液をそれぞれ5時間かけて滴下した。その後、80℃に保ったままで1時間撹拌し、重合を完結させた。冷却後、30%水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH7.0に調整し、重量平均分子量34000、ピークトップ分子量28300の重合体(C−5)を得た。
得られた重合体(C−5)の低分子量側面積比率Pおよび高分子量側面積比率Qを求めた結果を表3に示す。
〔比較例4〕
比較例3における単量体成分の代わりに、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル(CHO−(CO)10−)メタクリレート203.1質量部、メタクリル酸48.6質量部、メタクリル酸ナトリウム6.9質量部、および蒸留水50.0質量部を混合した溶液を単量体成分として用いたこと以外は、比較例3と同様にして、重量平均分子量71600、ピークトップ分子量51400の重合体(C−6)を得た。
得られた重合体(C−6)の低分子量側面積比率Pおよび高分子量側面積比率Qを求めた結果を表3に示す。

[実施例6〜8、比較例5]
実施例3、4、比較例2、3で得られた重合体(C−1)、(C−2)、(C−4)、(C−5)と、ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物(PEI−1)を表4に示す配合で混合し、セメント混和剤(3)〜(4)および比較用セメント混和剤(2)を得た。
実施例6〜8としてセメント混和剤(3)または(4)、および、比較例5として比較用セメント混和剤(2)を用い、試験条件1でのコンクリート試験を行った。その結果を表5に示す。


比較例5のコンクリートではスランプ25cmを得るためのセメント混和剤の添加量が0.44wt%であるが、実施例6では0.37wt%、実施例7では0.36wt%、実施例8では0.39wt%と非常に少ない量で同一のスランプを得ることができる。
また、比較例5では30分後、60分後のフロー値の低下が5mm、48mmと低下しているのに対して、実施例6では30分後に40mmのアップ、60分後に13mmアップしている。さらに実施例7、実施例8でも30分後に73mm、45mmのアップ、60分後に28mm、28mmのアップしており、フローの保持性が非常に優れている。
〔製造例6〕
温度計、攪拌機、滴下装置、窒素導入管、及び冷却管を備えた反応器に、蒸留水592.8質量部を仕込み、75℃に昇温した。続いて、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル(CHO−(CO)−)メタクリレート1120.1質量部、メタクリル酸294.4質量部、3−メルカプトプロピオン酸34.6質量部、30%水酸化ナトリウム68.5質量部、蒸留水59.2質量部の単量体成分を5時間かけて反応容器に滴下した。また、30%過酸化水素水16.9質量部、蒸留水193.1質量部の混合溶液を単量体成分の滴下開始と同時に滴下を開始し反応容器に6時間かけて滴下した。また、L−アスコルビン酸6.6質量部、蒸留水203.4質量部の混合溶液を単量体成分の滴下開始と同時に滴下を開始し反応容器に6時間かけて滴下した。その後、75℃に保ったままで1時間熟成してから冷却し、30%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH7.0に調整し、重合体(C−7)の水溶液を得た。
[実施例9〜12、比較例6]
実施例5、比較例4、製造例6で得られた重合体(C−3)、(C−6)、(C−7)と、ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物(PEI−1)、(PEI−2)を表6に示す配合で混合し、セメント混和剤(5)〜(8)および比較用セメント混和剤(3)を得た。
実施例9〜12としてセメント混和剤(5)〜(8)、および、比較例6として比較用セメント混和剤(3)を用い、試験条件2でのコンクリート試験を行った。その結果を表7に示す。


比較例6では30分後、60分後のフロー値の低下が63mm、113mmと大幅に低下しているのに対して、実施例9では30分後に38mmの低下、60分後に85mmの低下、実施例10では30分後に40mmの低下、60分後に75mmの低下、実施例11では30分後に60mmの低下、60分後に93mmの低下、実施例12では30分後に57mmの低下、60分後に95mmの低下、と、いずれも比較例6に比べて少ない低下量となっており、フローの保持性に優れている。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、セメント組成物の減水性、流動性を高め、しかも経時的にその流動性を保つスランプ保持性能に優れ、さらにワーカビリティーに優れた、セメント混和剤、それに好適なセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーとその製造方法、およびセメント組成物を提供することができる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合体(A)と共重合体(B)を必須として含有するセメント混和剤であって、共重合体(A)と共重合体(B)は、ともに一般式(1)で示される構成部位(I)をそれぞれの共重合体中に2〜90質量%含有しており、共重合体(A)と共重合体(B)は、以下のa)とb)に示す条件を両方満たすことを特徴とする、セメント混和剤。
a)共重合体(A)に含まれる構成部位(I)の含有量(IA)と共重合体(B)に含まれる構成部位(I)の含有量(IB)が、12≧(IA−IB)≧0、あるいは12≧(IB−IA)≧0であること(IAは、共重合体(A)全体を100質量%とした場合の共重合体(A)に含有する構成部位(I)の含有量(質量%)を表し、IBは、共重合体(B)全体を100質量%とした場合の共重合体(B)に含有する構成部位(I)の含有量(質量%)を表す)。
b)共重合体(A)の重量平均分子量(AMw)と共重合体(B)の重量平均分子量(BMw)が、AMw>BMwであるか、あるいは、共重合体(A)のピークトップ分子量(AMp)と共重合体(B)のピークトップ分子量(BMp)が、AMp>BMpであること。

(式中、R、R及びRは同一若しくは異なって、水素原子、メチル基又は−(CHCOOMを表し、Zは0〜2の数を表す。−(CHCOOMは、−COOM又は−(CHCOOMと無水物を形成していても良い。M及びMは同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。)
【請求項2】
共重合体(A)及び/又は共重合体(B)が、一般式(2)で示される構成部位(II)を2〜98質量%含んでなる、第1項に記載のセメント混和剤。

(式中、R及びRは同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種又は2種以上の混合物を表し、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していても良い。xは0〜2の数を表し、yは0又は1を表す。nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。Rは水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
【請求項3】
共重合体(A)に含まれる構成部位(I)の含有量(IA)と共重合体(B)に含まれる構成部位(I)の含有量(IB)が、4≧(IA−IB)≧0、あるいは4≧(IB−IA)≧0である(IAは、共重合体(A)全体を100質量%とした場合の共重合体(A)に含有する構成部位(I)の含有量(質量%)を表し、IBは、共重合体(B)全体を100質量%とした場合の共重合体(B)に含有する構成部位(I)の含有量(質量%)を表す)、第1項または第2項に記載のセメント混和剤。
【請求項4】
以下の(1)〜(6)により定義される低分子量側面積比率Pが50〜87%であることを特徴とする、セメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマー。
(1)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定を行い、GPCチャートを取得する。
(2)GPCチャートのベースラインを引き、GPCチャートの高分子量側とベースラインとの交点をLh、GPCチャートの低分子量側とベースラインとの交点をLnとする。
(3)GPCチャートのピークMp(ピークが複数の場合には最も低分子量側のピーク)を通ってベースラインに垂直なラインとベースラインとの交点をLpとする。
(4)LpとLhとの中点をLmとする。
(5)GPCチャートにおける、Lpよりも低分子量側の面積をP0とし、Lmよりも高分子量側の面積をQ0とする。
(6)低分子量側面積比率P(%)を、P=(P0×100)/(P0+Q0)と定義する。
【請求項5】
ポリマーが、一般式(1)で示される構成部位(I)を2〜90質量%含んでなる、第4項に記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマー。

(式中、R、R及びRは同一若しくは異なって、水素原子、メチル基又は−(CHCOOMを表し、Zは0〜2の数を表す。−(CHCOOMは、−COOM又は−(CHCOOMと無水物を形成していても良い。M及びMは同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。)
【請求項6】
ポリマーが、一般式(2)で示される構成部位(II)を2〜98質量%含んでなる、第5項に記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマー。

(式中、R及びRは同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種又は2種以上の混合物を表し、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していても良い。xは0〜2の数を表し、yは0又は1を表す。nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。Rは水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
【請求項7】
構成部位(II)中のオキシアルキレン鎖として、炭素数3および/または4のオキシアルキレン基を構成単位とするオキシアルキレン鎖を必須に含む、第6項に記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマー。
【請求項8】
前記炭素数3および/または4のオキシアルキレン基を構成単位とするオキシアルキレン鎖の両端に、炭素数1および/または2のオキシアルキレン基を構成単位とするオキシアルキレン鎖が結合している、第7項に記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマー。
【請求項9】
第4項から第8項までのいずれかに記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを必須として含有するセメント混和剤。
【請求項10】
第4項から第8項までのいずれかに記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーとは異なるポリカルボン酸系ポリマーを含む、第9項に記載のセメント混和剤。
【請求項11】
ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物を含む、第9項または第10項に記載のセメント混和剤。
【請求項12】
第4項に記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマー、第4項に記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーとは異なるポリカルボン酸系ポリマーおよびポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物の含有比率が、第4項に記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマー/第4項に記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーとは異なるポリカルボン酸系ポリマー/ポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物=10〜80/10〜89/1〜80(質量比)である、第11項に記載のセメント混和剤。
【請求項13】
第1項から第3項までのいずれか、あるいは、第9項から第12項までのいずれかに記載のセメント混和剤、セメント、および水を必須に含む、セメント組成物。
【請求項14】
一般式(3)で示される単量体(I−M)を必須に含む単量体成分をラジカル重合することにより、第4項から第8項までのいずれかに記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを製造する方法であって、前記単量体成分の一部を連鎖移動剤とともに反応系内に供給し、その後、前記単量体成分の残りを連鎖移動剤を併存させずに反応系内に供給することを特徴とする、セメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの製造方法。

(式中、R、R及びRは同一若しくは異なって、水素原子、メチル基又は−(CHCOOMを表し、Zは0〜2の数を表す。−(CHCOOMは、−COOM又は−(CHCOOMと無水物を形成していても良い。M及びMは同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。)
【請求項15】
一般式(3)で示される単量体(I−M)を必須に含む単量体成分をラジカル重合することにより、第4項から第8項までのいずれかに記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーを製造する方法であって、前記単量体成分の一部をその0〜20質量%に相当する量(TR−1)の連鎖移動剤とともに反応系内に供給し、その後、前記単量体成分の残りをその1〜50質量%に相当する量(TR−2)の連鎖移動剤とともに反応系内に供給することを特徴とする、セメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの製造方法。

(式中、R、R及びRは同一若しくは異なって、水素原子、メチル基又は−(CHCOOMを表し、Zは0〜2の数を表す。−(CHCOOMは、−COOM又は−(CHCOOMと無水物を形成していても良い。M及びMは同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。)
【請求項16】
前記単量体成分の一部とともに用いる連鎖移動剤の量(TR−1)と前記単量体成分の残りとともに用いる連鎖移動剤の量(TR−2)の質量比を(TR−2)/(TR−1)=1.5〜20とする、第15項に記載のセメント混和剤用ポリカルボン酸系ポリマーの製造方法。

【国際公開番号】WO2005/066095
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【発行日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516865(P2005−516865)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019839
【国際出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】