説明

セメント添加剤

【課題】セメント減水効果に優れるセメント添加剤を提供する。
【解決手段】ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤と、ポリアルキレンイミンに含まれる活性水素アミノ基に対して当該アミノ基の活性水素の当量を超えるアルキレンオキサイドを付加重合してなるポリオキシアルキレン系化合物とを含有するセメント添加剤であって、前記ポリアルキレンイミンの平均窒素原子数は、2〜50であり、前記アルキレンオキサイドの平均付加重合数は、2〜100であり、前記ポリオキシアルキレン系化合物中のポリアルキレンオキサイド鎖が、エチレンオキサイドを単独重合して得られたポリアルキレンオキサイド鎖に、さらに疎水性基としてプロピレンオキサイドの2〜5モル付加重合体を導入してなるものである、セメント添加剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオキシアルキレン系化合物と、特定の高性能AE減水剤とを配合したセメント添加剤に関し、より詳細には、セメント分散(減水)等に優れるセメント添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
土木建築現場ではセメントが多用され、セメントに水を添加したセメントペーストや、これに細骨材である砂を混合したモルタル、更に小石を混合したコンクリートは、構造材や土台、耐火壁など多目的に使用されその使用量も多い。このセメントペースト、モルタルおよびコンクリートは、セメントと水との水和反応により、凝集、硬化を経て強度を発生させるため、水添加後の時間経過と共に作業性が低下する。一方、作業性の改善の為に生コンクリート中の単位水量を増加させるとコンクリート等の強度低下を招く結果となる。生コンクリート施工時の作業性の改善やコンクリートの耐久性を向上させるため、水の含有量を増やさないで施工性を高めたり、水の量を減らして施工性を維持するために用いるセメント添加剤が要求される。特に、コンクリート構造物の早期劣化が社会問題化して以来、コンクリート中の単位水量を減らして、その施工性と耐久性を向上させることが強く求められる中で、セメント組成物の品質及び性能に多大なる影響を与えるセメント添加剤に対する技術革新が行われている。
【0003】
多様な添加剤が開発されているが、グルコン酸ナトリウムからなる分散剤は、硬化遅延や硬化不良が生じ易い上、流動性改善の効果も少ない。また、特許文献1にポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体および(メタ)アクリル酸系単量体等とを特定比率で配合した共重合体が、特許文献2には、ポリ(酸性基含有置換基)ポリエチレンイミンを含有するコンクリート混和剤が、また特許文献3および特許文献4には、エチレンオキサイドを特定割合で含有するポリオキシアルキレン化合物にエチレン性不飽和ジカルボン酸等を付加した化合物が、それぞれ分散剤等として有用である旨が開示されている。
【0004】
一方、分子中にポリエチレンアミン部とポリ(ヒドロキシアルキル化)部とを有する化合物のセメント添加剤としての使用が、例えば特許文献5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭59−18338号公報
【特許文献2】特公平6−99169号公報
【特許文献3】特開平7−53645号公報
【特許文献4】特開平8−208769号公報
【特許文献5】特開昭58−156563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、作業性の向上と物性の向上を目標に、さらに優れた性能を有するセメント添加剤を配合したセメント組成物の開発が求められている。また、特許文献5で使用されている化合物は、エチレンアミンを最大でも3モル重合させ、ヒドロキシアルキルもこの構造中に最大でも6モル含有するにすぎず、未だ減水効果が十分でない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々のポリオキシアルキレン系化合物について鋭意研究を重ねた結果、ポリアルキレンポリアミンにアルキレンオキサイドを付加したポリオキシアルキレン系化合物が優れたセメント分散効果、セメント分散補助効果等を奏し、これにポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤を配合したセメント組成物が優れた減水効果を奏することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、以下の(1)の発明を提供するものである。
【0009】
(1)ポリアルキレンイミンに含まれる活性水素アミノ基に対して当該アミノ基の活性水素の当量を超えるアルキレンオキサイドを付加重合してなるポリオキシアルキレン系化合物とを含有するセメント添加剤であって、
前記ポリアルキレンイミンの平均窒素原子数は、2〜50であり、
前記アルキレンオキサイドの平均付加重合数は、2〜100であり、
前記ポリオキシアルキレン系化合物中のポリアルキレンオキサイド鎖が、エチレンオキサイドを単独重合して得られたポリアルキレンオキサイド鎖に、さらに疎水性基としてプロピレンオキサイドの2〜5モル付加重合体を導入してなるものである、セメント添加剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れたセメント分散効果、セメント分散補助効果を有するポリオキシアルキレン系化合物とポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤とを含有し、特にセメント減水性に優れる。本発明のセメント添加剤は、ポリオキシアルキレン系化合物を配合し、分子表面のポリオキシアルキレンの有する親水性作用によりセメント分散性等を奏する。これに、高性能AE減水剤とが相乗的に作用し、優れた減水効果を奏する。このため、従来品よりも少量で優れたセメント分散効果等を奏することができ、セメント施工時の作業性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1)ポリオキシアルキレン系化合物
本発明のセメント組成物を構成するポリオキシアルキレン系化合物は、ポリアルキレンポリアミンに含まれる活性水素含有アミノ基に対して、当該アミノ基の活性水素の当量を越えるアルキレンオキサイドを付加重合してなる。
【0012】
ポリアルキレンポリアミンは、アルキレン基とアミノ基とを含有する化合物であり、アミノ基には、第一アミノ基、第二アミノ基、第三アミノ基が含まれる。例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン等のエチレン基がアミノ基で結合した化合物や、ポリアルキレンイミンがある。本発明では、ポリアルキレンイミンを用いることが好ましい。
【0013】
ポリアルキレンイミンは、エチレンイミン、プロピレンイミン、1,2−ブチレンイミン、2,3−ブチレンイミン、1,1−ジメチルエチレンイミン等のアルキレンイミンを常法により重合して得ることができる。本発明では、これらアルキレンイミンの単独重合体の他、上記アルキレンイミンの2種以上を混合して得られる例えばエチレンイミンとプロピレンイミンとの混合物からなるポリアルキレンイミンが例示できる。これらの中でも、ポリエチレンイミンおよびポリプロピレンイミンが好ましい。ポリアルキレンイミンは重合により三次元に架橋され、通常構造中に第三アミノ基のほか、活性水素含有アミノ基である第一アミノ基および第二アミノ基が含まれる。
【0014】
ポリアルキレンイミンの平均窒素原子数としては、2〜300であることが好ましく、より好ましくは2〜100、特に好ましくは2〜50である。この範囲のポリアルキレンイミンであればセメントとの親和性に優れるセメント添加剤として優れた効果を発揮し得るからである。
【0015】
本発明で使用するポリオキシアルキレン系化合物は、上記ポリアルキレンポリアミンにアルキレンオキサイドを付加重合させたものである。ポリオキシアルキレン鎖を構成するアルキレンオキサイドは、ポリアルキレンポリアミンの活性水素含有アミノ基の活性水素の当量を越えて結合させる。
【0016】
使用できるアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、イソブチレンオキサイド,1−ブテンオキサイド、2−ブテンオキサイド、トリメチルエチレンオキサイド、テトラメチレンオキサイド、テトラメチルエチレンオキサイド、ブタジエンモノオキサイド、オクチレンオキサイド、スチレンオキサイド、1,1−ジフェニルエチレンオキサイド等が例示できる。本発明では、ポリオキシアルキレン鎖はこれらの1種を単独重合したものの他、2種以上をランダム重合もしくはブロック重合させて得たものでも使用できる。この中で、本発明で好ましいポリオキシアルキレン鎖は、エチレンオキサイドを単独重合して得られたものやプロピレンオキサイドを単独重合して得られたものの他、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをランダム重合もしくはブロック重合したものである。
【0017】
ポリアルキレンポリアミンの活性水素含有アミノ基に付加させるアルキレンオキサイドの平均付加重合数は、当該アミノ基の活性水素1つに対して1を越えれば特に制限はないが、好ましくは2〜300、より好ましくは2〜100、特に好ましくは10〜50である。減水効果は、アルキレンオキサイドの付加数のみならず種類にも関係する。この作用原理の詳細は不明であるが、本発明で使用するポリオキシアルキレン系化合物においては、ポリオキシアルキレン鎖が親水基となりセメント表面に親水性をもたらすためと考えられる。本来、疎水性であるセメントの表面を親水性にすることによってセメント分散効果を発揮すると考えられ、上記範囲で優れた分散能を発揮し得るセメント添加剤となるのである。
【0018】
一方、本発明における当該アルキレンオキサイド付加重合鎖には更に疎水性基を導入することが好ましい。疎水性基としては、疎水性を有すれば特に制限はない。しかしながら、減水効果の点から炭素数3〜18のオキサイドの2〜15モルの付加重合体であることが好ましい。
【0019】
ここに、炭素数3〜18のオキサイドとしては、プロピレンオキサイド、イソブチレンオキサイド,1−ブテンオキサイド、2−ブテンオキサイド、トリメチルエチレンオキサイド、テトラメチルエチレンオキサイド、ブタジエンモノオキサイド、ジペンタンエチレンオキシド、ジヘキサンエチレンオキサイド等の脂肪族エポキシド、トリメチレンオキサイド、テトラメチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、オクチレンオキサイド等の脂環エポキシド、更にスチレンオキサイド、1,1−ジフェニルエチレンオキサイド等の芳香族エポキシドがある。
【0020】
本発明では、疎水性基としては、上記エポキシドの2〜15モルの付加重合体であることが好ましく、より好ましくは2〜10モル、特に好ましくは2〜5モルの付加重合体である。アルキレンオキサイド付加重合鎖に導入する疎水性基は、本来疎水性であるセメントとの相互作用が大きいと考えられる。その結果、セメント表面が親水性になり易いと考えられる。即ち、親水性を有するアルキレンオキサイドの付加重合鎖に、上記範囲の疎水性基を付加することによって更に流動性に優れたセメント添加剤が得られ、これを他のセメント添加剤と併用することにより、より優れた減水効果を奏するセメント組成物が得られるのである。
【0021】
(2)ポリオキシアルキレン系化合物の製造方法
上記ポリオキシアルキレン系化合物を製造するには、ポリアルキレンポリアミンの活性水素含有アミノ基に、アルキレンオキサイド等を反応触媒の存在下に付加させて製造することができる。上記疎水性基を付加する場合には、アルキレンオキサイドの付加重合後に、更に疎水性基用エポキシドを付加重合させればよい。
【0022】
反応触媒については特に制限はなく、(a)水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物もしくはアルコラート等の強アルカリ、またはアルキルアミン等を塩基触媒として用いるアニオン重合、(b)金属および半金属のハロゲン化物、鉱酸、酢酸等を触媒として用いるカチオン重合、(c)アルミニウム、鉄、亜鉛等の金属アルコキシド、アルカリ土類化合物、ルイス酸等を組み合わせたものを用いる配位重合のうちのいずれでもよい。
【0023】
例えば、反応条件としては、温度100〜200℃、圧力2〜10kg/cmで、水酸化カリウムを反応触媒として加圧下に反応させて行うことができる。
【0024】
本発明で使用するポリオキシアルキレン系化合物は、上記により製造することができる。得られたポリオキシアルキレン系化合物の重量平均分子量は、1,000〜100,000であることが好ましく、より好ましくは3,000〜80,000、更に好ましくは10,000〜60,000、特に好ましくは20,000〜60,000である。
【0025】
(3)セメント添加物
上記ポリオキシアルキレン系化合物は、セメント分散(減水)剤として効果を発揮する他、適宜構造を選択することにより、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張剤、防水剤、遅延剤、促進剤、急結剤、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増強剤、消泡剤、気泡剤、発泡剤、防錆剤、水和熱抑制剤、分離低減剤等のセメント添加剤としての効果を発揮する。本発明のセメント組成物には、前記ポリオキシアルキレン系化合物を配合することが好ましく、特に他のセメント添加物を併用することが好ましい。本発明のセメント組成物に配合する他の添加物には以下のものがある。
【0026】
例えば、セメント分散(減水)剤(例えば、リグニンスルホン酸塩およびその誘導体、オキシカルボン酸塩、ポリオール誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル誘導体、アルキルアリルスルホン酸塩のホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ポリカルボン酸系高分子化合物、高性能AE減水剤など)、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張剤、防水剤、遅延剤、急結剤、水溶性高分子物質、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、硬化促進剤、および消泡剤などを挙げることができる。これらの中でも、高性能AE減水剤と併用することが好ましく、特にはポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤と併用することが好ましい。これらを配合したセメント組成物を使用すると、特に減水性に優れ、高い流動性が得られるからである。なお、本明細書において高性能AE減水剤とは、JIS A 6204−1995のコンクリート用化学混和剤の項において記載される、同5.1によって試験を行った場合に表3に記載される特性を有するものをいう。
【0027】
本発明において、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤としては、カルボキシル基およびポリアルキレングリコール鎖を有するものであって、JIS A 6204−1995に規定する特性を有するものであれば、特に制限はない。しかしながら、該ポリアルキレングリコール鎖は、
【0028】
【化1】

【0029】
であることが好ましい。
【0030】
この様なポリアルキレングリコール鎖としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールポリブチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノプロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウリルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノラウリルエーテル、ポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノラウリルエーテル等を挙げることができる。これらの中でポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。
【0031】
また、本願発明で使用するポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤としては、特公昭58−38380号公報に示されるポリエチレングリコールモノアリルエーテルとマレイン酸系単量体およびこれらの単量体と共重合可能な単量体の共重合体、特公昭59−18338号公報に示されるポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体と(メタ)アクリル酸系単量体およびこれらの単量体と共重合可能な単量体の共重合体、特開平5−43288号公報に示されるエチレン性不飽和化合物と無水マレイン酸との共重合体、特開平10−236858に示される不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体とマレイン酸系単量体および共重合可能なその他の単量体の共重合体等を挙げることができる。
【0032】
この両者による優れた減水効果発現の原理は不明であるが、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸はセメント表面に電気的に結合することによってセメント表面を親水性にし、セメント分散効果を奏すると推定される。上記ポリオキシアルキレン系化合物は、セメント表面に疎水的相互作用により結合し、更にセメント表面を親水性にし、より優れたセメント分散効果を発揮するものと考えられる。上記ポリオキシアルキレン系化合物の分子末端に疎水性基を有する場合には疎水的相互作用が大きく、セメント分散効果、減水効果に優れるため、添加物の配合量の低減化を図ることもできると考えられる。
【0033】
本発明のセメント組成物に配合する高性能AE減水剤の量は、セメントに対し、0.01〜1.0wt%であることが好ましく、より好ましくは0.03〜0.5wt%である。
【0034】
(4)セメント
本発明で使用するセメントとしては、一般的な水硬性セメントを使用することができる。従って早強ポルトランドセメント、低発熱性ポルトランドセメント、高酸化鉄型ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等の特殊ポルトランドセメントの他、普通ポルトランドセメント、天然セメント、ローマンセメント、水硬性石灰、石灰混合セメント、混合ポルトランドセメント、アルミナセメント、ビーライト高含有セメント、各種混合セメント等に配合することができる。
【0035】
(5)セメント組成物
本発明のセメント組成物は、少なくともセメント、水、ポリアルキレングリコール鎖を有するカルボン酸からなる高性能AE減水剤、および上記ポリオキシアルキレン系化合物とを含有する。セメント組成物に配合される水分量は、セメントに対する水の配合重量が15〜70wt%であることが好ましく、より好ましくは40〜65wt%、特に好ましくは50〜55wt%である。本発明で使用する上記ポリオキシアルキレン系化合物は、特に減水効果に優れるため従来の水の配合量より少ない水分量で十分なセメント分散性を発揮するからである。
【0036】
本発明で使用する上記ポリオキシアルキレン系化合物の配合量は、セメントに対する固形分換算値で0.001〜10wt%であることが好ましく、より好ましくは0.005〜5wt%、更に好ましくは0.01〜1.0wt%である。上記ポリオキシアルキレン系化合物を配合すると、無添加の場合に比べて、また単なるポリアルキレングリコールもしくは単なるポリアルキレンポリアミンを添加した場合に比べて優れた減水効果が発揮される。当該ポリオキシアルキレン系化合物が上記範囲を満たすように高性能AE減水剤と配合された場合には、減水助剤として優れた効果を発揮する。このため、本発明のセメント組成物は、例えば、単位水量の低減、コンクリートの強度の増大、およびモルタルまたはコンクリートの耐久性の向上などの各種の好ましい諸効果がもたらされる。
【0037】
上記ポリオキシアルキレン系化合物とポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤にセメントに水を配合したセメント組成物に、細骨材である砂や粗骨材である小石を配合して、モルタルやコンクリートを調製することができる。これらセメント組成物に配合し得る細骨材および粗骨材においても特に制限されるものでなく、現在使われている数多くの種類の細骨材および粗骨材から適宜選択して使用することができる。また、セメント組成物中への細骨材および粗骨材の配合量等に関しても特に制限されるものでなく、使用する材料等に応じて当業者により適宜決定され得るものである。
【実施例】
【0038】
以下、実施例をあげ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれだけに限定されるものではない。なお、例中、特にことわりのない限り「%」は重量%を表し、「部」は、「重量部」を表すものとする。
(モルタルフローの測定)
(1)細骨材の調整
モルタル試験の信頼性を向上させるために、細骨材の粒度分布および表面水を管理した。細骨材の粒度分布は、2.5(mm)のふるいで分級した細骨材を配合することにより表1の粒度分布に調整した。なお、細骨材の粗粒率(FM値)は、*印のふるいの残留累計百分率を合計し、100で割った値であり、2.65〜2.75に調整した。また、細骨材の表面水は表面乾燥状態とした細骨材の表面水量を、日本工業規格(JIS A 1109、1111)に記載の方法により測定して管理した。
【0039】
【表1】

【0040】
(2)単位量
表2に、プレーンモルタルの単位量およびプレーンモルタルの単位セメント量を一定にして単位水量を減らした(減水した)配合の単位量を示す。なお、セメント、水、細骨材の比重は、それぞれ3.16、1.0、2.63である。
【0041】
【表2】

【0042】
(3)モルタル試験
セメントとして、秩父小野田社製の普通ポルトランドセメントを用いた。細骨材として上記方法により調整した大井川水系産陸砂(比重2.63、FM値2.70)を用いた。モルタルの配合条件は、表2の単位量に従った。また、セメント添加剤の添加量(重量部)は、セメント固形分に対する添加量とした。
【0043】
上記条件下に、ダルトン社製万能混合撹拌機15AM−rr(ビーター羽根1枚付き、容量15リットル)を用いて回転数265(回転/分)で3リットルのモルタルを製造し、スランプ、モルタルフロー値、空気量を測定した。
【0044】
混練は、上記ミキサーでセメントを30秒間空練りした後、所定量のセメント混和剤を秤量して水で希釈したものを上部投入口から添加し、30秒間混練してセメントペーストを作製した。一旦ミキサーの回転を停止し、混練容器に所定量の細骨材を投入した(この間90秒)。更に2分間混練することにより、セメント組成物(モルタル)を得た。得られたセメント組成物について、以下に示すモルタルフロー試験を行った。
【0045】
(4)モルタルフロー試験
セメント組成物を、水平なテーブルに置いた上端内径5cm、下端内径10cmおよび高さ15cmの鉄製中空円錐(以下、ミニスランプコーンと呼ぶ。)に擦り切りまで充填した。充填方法は、JIS A 1101記載のコンクリートのスランプ試験に準拠して行った。モルタルを充填したミニスランプコーンを静かに水平に持ち上げた後にテーブルに広がったモルタルの長径と短径を測定し、その平均値をモルタルフロー値とした。この値が大きいほどセメント分散性が良好であることを示す。
【0046】
(5)必要添加量
必要添加量は、プレーンモルタルと同一のモルタルフロー値を得るために必要な添加量とした。プレーンモルタルは各実験日ごとに評価した。
【0047】
(製造例1:ポリオキシアルキレン系化合物の調製)
撹拌機、圧力計、温度計を備えた圧力容器に市販のトリエチレンテトラミン(数平均分子量146;エチレンイミン付加数3)7.3gとを入れ、温度130〜170℃でエチレンオキサイドを990g(付加数75モル)添加し、ポリオキシアルキレン系化合物を得た。この化合物をP003−075とする。
【0048】
(製造例2)
製造例1と同様にして、表3に示すエチレンイミンの平均付加数およびエチレンオキサイド平均付加数のポリオキシアルキレン系化合物を得た。表中、mはエチレンイミンの平均付加数を示し、nはエチレンオキサイドの平均付加数を示し、lはプロピレンオキサイドの平均付加数を示す。
【0049】
(製造例3)
撹拌機、圧力計、温度計を備えた圧力容器に市販のポリエチレンイミン(数平均分子量600;エチレンイミン付加数14)40gと水素化ナトリウム0.1gとを入れ、温度130〜170℃でエチレンオキサイドを818.4g(付加数20モル)添加し、ポリオキシアルキレン系化合物を得た。この化合物をP014−020−000とした。更に、引き続いてプロピレンオキサイドを107.9g(付加数2モル)添加し、本発明のポリアルキレン化合物を得た。この化合物をP014−020−002とした。
【0050】
【表3】

【0051】
比較例1
普通ポルトランドセメント(秩父小野田社製)497kg/m、単位細骨材1380kg/m、単位水量303kg/mの割合で調製(水/セメント重量比(%)=61.0)し、得られたプレーンモルタルについてフロー値および空気量を測定した。結果を表4に示す。
【0052】
比較例2〜5
普通ポルトランドセメント(秩父小野田社製)497kg/m、単位細骨材1421kg/m、単位水量257.6kg/mの割合で調製(水/セメント重量比(%)=51.8)とし、これに表4に示す割合でセメント添加剤を添加し、比較例1と同様にしてフロー値および空気量を測定した。モルタルの減水率は比較例1の15%である。結果を表4に示す。
【0053】
なお、表中PEG−20,000およびPEG−70,000は、市販品(和光純薬工業株式会社製)の分子量20,000のポリエチレングリコール(PEG−20,000)および分子量70,000のポリエチレングリコール(PEG−70,000)である。P014−000およびP042−000は、市販品(和光純薬工業株式会社製)の分子量約600のポリエチレンイミン(P014−000)および分子量約1800のポリエチレンイミン(P042−000)である。また、IPは、高性能AE減水剤である特願平8−348203の実施例1の重合体であり、FC−900は、株式会社日本触媒製の高性能AE減水剤アクアロックFC−900である。
【0054】
参考例1〜3及び実施例1
普通ポルトランドセメント(秩父小野田社製)497kg/m、単位細骨材1421kg/m、単位水量257.6kg/mの割合で調製(水/セメント重量比(%)=51.8)し、これに表4に示す割合でセメント添加剤を添加し、比較例1と同様にしてフロー値および空気量を測定した。モルタルの減水率は比較例1の15%である。結果を表4に示す。なお、表中略称で示した本発明のセメント添加剤の内容は、表3に示した。
【0055】
【表4】

【0056】
結果
本発明のセメント組成物は、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤と、特定のポリオキシアルキレン系化合物とを併用する点に特徴がある。JIS A 6204に規定されるごとく高性能AE減水剤は減水率18%以上を示すものである。しかし、その使用は減水率18%以上の場合に限られず減水率18未満で使用することもでき、また需要が多いのも減水率18%未満である。本明細書ではこの点を考慮し、あえて減水率15%において両者の併用効果を評価した。その結果は以下のごとくである。
【0057】
(1)本発明のセメント添加剤を高性能AE減水剤と併用することにより、15%減水において、高性能AE減水剤単独の場合より、高いフロー値が得られることが判明した。(比較例2、3と参考例1〜3および実施例1)
(2)比較例4は、ポリエチレングリコールと高性能AE減水剤(IP)を併用した結果であり、比較例5は、ポリエチレンイミンと高性能AE減水剤(IP)を併用した結果である。本発明のセメント添加剤と高性能AE減水剤(IP)を併用した参考例1と比較すると、同一減水率において、高いフロー値が得られることから、本発明のセメント添加剤が優れたセメント分散補助効果を示していることが判明した。
【0058】
(3)IP単独使用例である比較例2は、IPとの併用例(参考例1〜3および実施例1)と比較するといずれも比較例より平均フロー値が高くなり、流動性が増加していることが明らかである。しかしながら、IPとの併用効果は、P042−037ではフロー値174mmであるが、P014−095ではフロー値189mmが得られ、P014−020−002では192mmで最も優れている。従って、本発明のセメント添加剤は、併用する高性能AE減水剤の種類に応じて適宜選択することができ、その結果、優れたセメント分散性能を得ることができることが判明した。
【0059】
(4)本発明の疎水性基を有するセメント添加剤は、プロピレンオキサイドを2モル付加重合させてアルキレンオキサイド付加重合鎖末端に疎水性を付与したものであるが、実施例1に示すように優れた流動性を有することが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸からなる高性能AE減水剤と、ポリアルキレンイミンに含まれる活性水素アミノ基に対して当該アミノ基の活性水素の当量を超えるアルキレンオキサイドを付加重合してなるポリオキシアルキレン系化合物とを含有するセメント添加剤であって、
前記ポリアルキレンイミンの平均窒素原子数は、2〜50であり、
前記アルキレンオキサイドの平均付加重合数は、2〜100であり、
前記ポリオキシアルキレン系化合物中のポリアルキレンオキサイド鎖が、エチレンオキサイドを単独重合して得られたポリアルキレンオキサイド鎖に、さらに疎水性基としてプロピレンオキサイドの2〜5モル付加重合体を導入してなるものである、セメント添加剤。

【公開番号】特開2012−67011(P2012−67011A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−283692(P2011−283692)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【分割の表示】特願2007−151984(P2007−151984)の分割
【原出願日】平成11年1月27日(1999.1.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】