説明

セメント硬化体の再生方法、このセメント硬化体の再生方法によって再生されたセメント硬化体、およびセメント硬化体の再生材

【課題】劣化したセメント硬化体を容易に再生することができ、また、中性化したセメント硬化体をアルカリに変化させて、セメント硬化体の内部に配置された鉄筋等のコンクリートの支持材の錆化、腐食化を防止する。
【解決手段】中性化したセメント硬化体1に対して、純水、および貝殻焼成カルシウムを用いた酸化カルシウムを混合して得た純粋な水酸化カルシウム溶液からなる再生材7を付与した後、コンクリート1を乾燥させ、その後、少なくとも再生材7を付与した部分の表面をシール材9によって被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性化によって劣化したセメント硬化体の再生方法、このセメント硬化体の再生方法によって再生されたセメント硬化体、およびセメント硬化体の再生材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建造物等を構成するコンクリート等のセメント硬化体が酸性雨や空気中に含有される炭酸ガス等に長年さらされ続けることによるセメント硬化体の劣化や、さらにはセメント硬化体の内部に配設された鉄筋の錆化等が問題になっている。
【0003】
ここで、セメント硬化体とは、セメントと、骨材と、水と、必要に応じて混和材等とを含有したセメント組成物を硬化させたコンクリート、モルタル、セメントペーストの硬化体の総称であり、以下セメント硬化体として、コンクリートを用いて説明する。このセメントの主材料であるケイ酸、酸化カルシウムと水とが反応することにより、ケイ酸カルシウム水和物となり、このケイ酸カルシウム水和物が、前記骨材を接着する接着材の主成分となっている。しかし、このコンクリートは、空気中に含有される炭酸ガスや、この炭酸ガスと反応してpH5.6以下となった酸性雨、あるいは自動車の排気ガス等の二酸化炭素にさらされ続けることにより、コンクリートの接着材の主成分であるケイ酸カルシウム水和物のケイ酸カルシウムが二酸化炭素と反応して、炭酸カルシウムとゲル状のケイ酸(シリカゲル)とに分解されてしまうことがわかっている。さらに、酸性雨の主成分は硫酸と硝酸であるが、コンクリートが、酸性雨にさらされ続けることにより、この酸性雨の硫酸がカルシウムと反応して、硫酸カルシウム(石膏)になってしまうこともわかっている。このように、ケイ酸カルシウムが二酸化炭素によって炭酸カルシウムに変化してしまうことにより、強アルカリ性であったコンクリートが酸性に傾いて中性化してしまうこととなっていた。
【0004】
また、地震や荷重等によりコンクリートに亀裂が発生した場合には、コンクリートの強度が低下するとともに、この亀裂を介してコンクリートの内部も酸性雨や炭酸ガス等にさらされることとなるので、コンクリートの内部のケイ酸カルシウムも炭酸カルシウムおよびケイ酸に分解されてしまうことにより、コンクリートの中性化が進むおそれがあった。
【0005】
ここで、コンクリートの内部に鉄筋が配設されている場合、鉄筋表面には、コンクリートの強アルカリ性によって不動態皮膜が形成され、この不動態皮膜により鉄筋は酸化から保護されている。しかし、前述のようにコンクリートの中性化により、鉄筋の不動態皮膜が破壊されてしまい、これにより、この鉄筋は、炭酸カルシウムや、侵入した空気中の酸素や水に接触したり、さらにはコンクリート亀裂等を介して酸性雨や炭酸ガス等にさらされることにより、錆化して強度が低下してしまうおそれがあった。さらに、この鉄筋が錆化によって膨張してしまうと、鉄筋が内部からコンクリートを圧迫してしまい、この結果、コンクリートの強度が低下して崩壊してしまうおそれがあった。
【0006】
そこで、従来より、劣化したコンクリートの亀裂に補修剤を充填することによりコンクリートの強度を補強するコンクリートの補修方法が考えられている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−280213号公報
【特許文献2】特開2009−019354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前述の特許文献1や特許文献2に記載のコンクリートの補修方法によれば、コンクリートの亀裂に補修剤を充填することによりコンクリートの強度を補強し、コンクリートの内部に酸性雨や炭酸ガス等が侵入してしまうことを防止することはできるが、炭酸カルシウムおよびゲル状のケイ酸はコンクリートの内部にそのまま残存することとなり、コンクリートは中性または酸性に傾いたままであった。このため、従来のコンクリートの補修方法では、鉄筋の錆化を確実に防止することができないおそれがあるという問題を有していた。
【0009】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、劣化したセメント硬化体を容易に再生することができ、また、中性化したセメント硬化体をアルカリに変化させることにより、セメント硬化体の内部に配置された鉄筋等のセメント硬化体の支持材の錆化、腐食化を防止することが可能なセメント硬化体の再生方法、このセメント硬化体の再生方法によって再生されたセメント硬化体、およびセメント硬化体の再生材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明に係るセメント硬化体の再生方法の特徴は、中性化したセメント硬化体に対して、水酸化カルシウム溶液からなる再生材を付与してセメント硬化体を再生することを特徴とする。
【0011】
ここで、本発明においてセメント硬化体とは、セメントと、骨材と、水と、必要に応じて混和材等とを含有したセメント組成物を硬化させたセメント硬化体、モルタル、セメントペーストの硬化体の総称である。また、本発明においてセメント硬化体の中性化とは、アルカリ性だったセメント硬化体が酸性へ傾くことをいう。
【0012】
この本発明に係るセメント硬化体の再生方法によれば、前記中性化したセメント硬化体中に存在するケイ酸を前記水酸化カルシウムと反応させて、ケイ酸カルシウム水和物に変化させるとともに、中性化したセメント硬化体をアルカリ性に変化させることができる。
【0013】
また、前記再生材を、純水および酸化カルシウムを混合して得た純粋な水酸化カルシウム溶液としたり、さらに、前記酸化カルシウムとして、貝殻焼成カルシウムを用いることが好ましい。これにより、より確実に、ゲル状のケイ酸を水酸化カルシウムと反応させてケイ酸カルシウムに変化させることができるとともに、中性化したセメント硬化体をアルカリ性に変化させることができる。
【0014】
また、前記セメント硬化体に前記再生材を付与する前に、前記セメント硬化体の中性化の有無を診断することが好ましい。これにより、セメント硬化体の再生が必要な箇所にのみ再生材を付与することができ、再生材の使用の無駄を省くことができるとともに、効率よくセメント硬化体を再生することができる。
【0015】
また、前記セメント硬化体における中性化した部分の一部を除去して、該除去部に充填材を充填することが好ましい。これにより、劣化したセメント硬化体の補強を行うことができる。
【0016】
また、前記セメント硬化体の内部に金属材料からなる支持材が配設されているセメント硬化体の再生方法において、前記除去部において露出した前記支持材に、補修処理を施すことが好ましい。これにより、劣化したセメント硬化体の補強を行うことができ、さらに、前記補修処理として防錆処理を施すことにより、金属材料からなる支持材の錆化を防止することができる。
【0017】
また、前記セメント硬化体に前記再生材を付与した後に、前記セメント硬化体を乾燥させ、その後、少なくとも前記再生材を付与した部分の表面を、シール材によって被覆することが好ましい。これにより、セメント硬化体の内部に酸性雨や炭酸ガス等の二酸化炭素が侵入するのを防止することができ、再生しアルカリ性に変化したセメント硬化体が再度中性化してしまうことを防止することができる。
【0018】
さらに、前記シール材として、分子構造の内部にカルボキシル基(COOH基)を有する変性ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。これにより、カルボキシル基のHがセメント硬化体の主成分であるCaと反応してカルボン酸カルシウムとなり皮膜化し、このカルボン酸カルシウムが強固な化学結合をするため、セメント硬化体への接着性を高めることができ、より確実にセメント硬化体が再度中性化してしまうことを防止することができる。
【0019】
本発明に係る再生されたセメント硬化体の特徴は、前記セメント硬化体の再生方法によって再生されたセメント硬化体である点にある。
【0020】
本発明に係る再生されたセメント硬化体によれば、中性化したセメント硬化体に対して水酸化カルシウム溶液からなる再生材が付与されることにより、ゲル状のケイ酸が水酸化カルシウムと反応してケイ酸カルシウムに変化するとともに、中性化したセメント硬化体がアルカリ性に変化している。
【0021】
本発明に係るセメント硬化体の再生材の特徴は、水酸化カルシウム溶液からなり、中性化したセメント硬化体に対して付与される点にある。
【0022】
本発明に係るセメント硬化体の再生材によれば、中性化したセメント硬化体に対して付与されることにより、ゲル状のケイ酸を水酸化カルシウムと反応させてケイ酸カルシウムに変化させるとともに、中性化したセメント硬化体をアルカリ性に変化させることができる。
【0023】
また、前記水酸化カルシウム溶液は、純水と酸化カルシウムとを混合した純粋な水酸化カルシウム溶液であることが好ましく、さらに、前記酸化カルシウムとして、貝殻焼成カルシウムを用いることが好ましい。これにより、より確実に、ゲル状のケイ酸を水酸化カルシウムと反応させてケイ酸カルシウムに変化させることができるとともに、中性化したセメント硬化体をアルカリ性に変化させることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上述べたように、本発明に係るセメント硬化体の再生方法、この再生方法によって再生されたセメント硬化体、およびセメント硬化体の再生材によれば、劣化したセメント硬化体を容易に再生することができる。また、中性化したセメント硬化体をアルカリに変化させることにより、セメント硬化体の内部に配設された鉄筋等の金属材料からなる支持材の不動態皮膜を回復させて、支持材の錆化、腐食化を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るセメント硬化体の再生方法の一実施形態の各工程を示すフローチャート
【図2】図1に示す発明において再生する前の中性化したセメント硬化体を示す概略断面図
【図3】図1に示すセメント硬化体の再生方法の各工程のうち除去・充填工程の各工程を示すフローチャート
【図4】図3の除去・充填工程のうち除去工程後のセメント硬化体を示す概略断面図
【図5】図1のセメント硬化体の再生方法の各工程のうち再生材付与工程後のセメント硬化体を示す概略断面図
【図6】図1のセメント硬化体の再生方法の各工程のうち被覆工程中のセメント硬化体を示す概略断面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係るセメント硬化体の再生方法の一実施形態について説明する。本実施形態においては、セメント硬化体としてコンクリートの硬化体(以下、コンクリートという)を用いて説明するが、本発明のセメント硬化体は、コンクリートに限定されるものではなく、モルタル、セメントペーストの硬化体も含まれる。
【0027】
図1は、本実施形態に係るコンクリートの再生方法を示すフローチャートであり、図1に示すように、まず、コンクリートの中性化を診断する診断工程を行う(ST1)。
【0028】
ここで、図2に示すように、コンクリート1の接着材の主成分であるケイ酸カルシウム水和物のケイ酸カルシウムは、酸性雨や炭酸ガス等の二酸化炭素にさらされ続けることにより、炭酸カルシウム2およびゲル状のケイ酸3(シリカゲル)に分解されてしまい、これにより、コンクリート1が中性化することとなる。なお、図2、図4乃至図6においてコンクリート1の骨材の図示は省略する。
【0029】
診断工程は、コンクリート1の表面の中性化を診断する他、中性化深さの診断を行うことが好ましい。中性化深さの診断は、例えば、はつり法やコア法により、コンクリート1のはつり面やコアの割裂面等にフェノールフタレイン溶液等のpH指示薬を噴霧することにより行う。フェノールフタレイン溶液を用いる場合、非発色の部分は中性化していると判断し、赤紫色に発色した部分はアルカリ性を維持していると判断することによりコンクリート1の中性化の診断を行う。そして、赤紫色に発色した境界部分から非発色のコンクリート1の表面までの距離を測定することにより、コンクリート1の中性化深さを診断する。なお、本発明におけるコンクリート1の中性化の診断は、本実施形態の診断方法に限定されず、コンクリート1の中性化の調査目的やコンクリート1建造物等の現場状況に応じて種々の診断方法を用いることが可能である。
【0030】
続いて、前記診断工程において中性化したと診断されたコンクリート1の一部を除去し、該除去部に充填材を充填する除去・充填工程を行う(ST2)。
【0031】
この除去・充填工程は、前記診断工程において中性化したと診断されたコンクリート1のうち所定の条件を満たす一部に対して行われる。そこで、除去・充填工程においては、図3に示すように、まず、中性化したと診断されたコンクリート1の一部が所定の条件を満たすか否か判断する(ST21)。ここで、所定の条件とは、例えば、診断工程において、前述の中性化深さの診断を行った結果に応じて、中性化深さが所定寸法以上であるか否かや、中性化した部分がコンクリート1の内部に配設された金属材料からなる支持材(本実施形態においては鉄筋)5まで到達しているか否か等をいい、現場等に応じて種々の条件を設定することが可能である。
【0032】
そして、中性化したコンクリート1の一部が所定の条件を満たす場合には(ST21においてYes)、まず、図4に示すように、中性化したと診断されたコンクリート1のうち所定の条件を満たす一部のコンクリート1の表面から除去する(ST22)。
【0033】
続いて、中性化したコンクリート1の一部を除去した際にコンクリート1の内部に配設された鉄筋5が露出した場合には、この鉄筋5のうち前記コンクリート1が除去された除去部10において露出した部分に補修処理を施す(ST23)。補修処理の例としては、例えば、鉄筋5に対して錆落とし等を行うケレン工事や、鉄筋5に対して防錆剤を塗布する防錆処理、さらに、補強部材等によって鉄筋5を補強する補強処理等の補修処理が挙げられる。各補修処理は、単独で行ってもいいが、鉄筋5の状態に応じて各補修処理を組み合わせて行うことが好ましい。
【0034】
その後、図5に示すように、コンクリート1を除去した除去部に、例えば、ポリマーセメント等からなる充填材6を充填し(ST24)、除去・充填工程を終了する。
【0035】
一方、中性化したコンクリート1の一部が所定の条件を満たさない場合には、(ST21においてNo)、そのまま、除去・充填工程を終了する。
【0036】
続いて、中性化したコンクリート1に対して、水酸化カルシウム溶液からなる再生材7を付与する再生材付与工程を行う(ST3)。
【0037】
このST3において中性化したコンクリート1に、水酸化カルシウムを含有する再生材7を付与することにより、中性化したコンクリート1のケイ酸3と水酸化カルシウムを反応させて、ケイ酸カルシウム水和物8に変化させることができる。
【0038】
このコンクリート1の再生材7は、精製水、好ましくは純水と、酸化カルシウムとを混合して製造される純粋な水酸化カルシウム溶液であることが好ましい。酸化カルシウムとしては、貝殻焼成カルシウム粉体を用いることが好ましく、さらに、この貝殻焼成カルシウム粉体は、貝殻、好ましくは二枚貝の貝殻に焼成処理および粉砕処理を行うことにより製造される。材料として用いられる二枚貝の貝殻としては、ほたて貝、アサリ、シジミ、ハマグリ、カキ、ホッキ貝等の種々の貝殻を利用することが可能であるが、前記ケイ酸3と水酸化カルシウムとを反応させてケイ酸カルシウム水和物8に変化させる等の観点からは、特に、ほたて貝を用いることが効果的である。
【0039】
この貝殻焼成カルシウム粉体を用いた再生材7の製造方法の一例について、以下説明する。
【0040】
まず、貝殻を所定時間煮沸する殺菌・洗浄処理を行った後、この貝殻を粗く粉砕する第1粉砕処理を行って、被粉砕貝殻を得る。次に、前記被粉砕貝殻を焼成する焼成処理を行って、被粉砕貝殻を酸化カルシウムとした後、焼成した被粉砕貝殻を所定の温度下において放置することにより熟成させる熟成処理を行う。この焼成処理および熟成処理により、被粉砕貝殻は、灰となって砕ける状態となる。さらに、この被粉砕貝殻をさらに細かく粉砕する第2粉砕処理を行うことにより、例えば、平均粒径が12〜15μm程度の貝殻焼成カルシウム粉体を製造する。この貝殻焼成カルシウム粉体を純水に添加して撹拌し、所定時間静置した後、この上澄み液を濾過することにより、再生材7を製造する。
【0041】
なお、本発明に用いられる再生材7の製造方法は、前述の製造方法に限定されるものではなく、例えば、純水に貝殻焼成カルシウム粉体を添加した混合液を用いてもよく、前記上澄み液を濾過しなくてもよい。また、貝殻焼成カルシウム粉体の製造方法としては、前述の製造方法に限定されるものではなく、主成分が酸化カルシウムである貝殻焼成カルシウムを製造するものであればよく、さらに、貝殻焼成カルシウム粉体の平均粒径も本実施形態に限定されず、さらに平均粒径が小さい貝殻焼成カルシウム粉体を用いてもよい。
【0042】
さらに、ST3において中性化したコンクリート1に付与した再生材7を乾燥させた後、図6に示すように、少なくとも再生材7を付与した部分の表面を、シール材9によって被覆する被覆工程を行う(ST4)。
【0043】
この被覆工程において用いられるシール材9としては、少なくとも二酸化炭素を透過しない材料により構成されており、さらには、分子構造の内部にカルボキシル基(COOH基)を有する変性ポリエステル樹脂(例えば、パーマシールド(登録商標);ヘルツ化学株式会社製)を用いることが好ましい。この変性ポリエステル樹脂は、カルボキシル基のHがコンクリート1の主成分であるCaと反応してカルボン酸カルシウムとなり皮膜化し、このカルボン酸カルシウムは強固な化学結合をするため、コンクリート1への接着性が高くなるからである。
【0044】
このコンクリート1の再生方法によって、ゲル状のケイ酸3が、水酸化カルシウムと反応してケイ酸カルシウム水和物8に変化するとともに、コンクリート1がアルカリ性に変化して、コンクリート1が再生することとなる。本実施形態において再生したコンクリート1は、中性化したコンクリート1の一部が除去され充填物が充填されており、さらにコンクリート1の表面がシール材9によって被覆されている。
【0045】
次に、本実施形態に係るコンクリート1の再生方法の作用について説明する。
【0046】
本実施形態によれば、中性化したコンクリート1に対して、水酸化カルシウム溶液からなる再生材7を付与することにより、ゲル状のケイ酸3を水酸化カルシウムと反応させてケイ酸カルシウム水和物8に変化させるとともに、中性化したコンクリート1をアルカリ性に変化させることができる。
【0047】
したがって、本実施形態に係るコンクリート1の再生方法は、劣化したセメント硬化体を容易に再生することができる。また、中性化したコンクリート1をアルカリに変化させることにより、コンクリート1の内部に配設された金属材料からなる支持材としての鉄筋5の不動態皮膜を回復させて、鉄筋5の錆化、腐食化を防止することが可能となる。
【0048】
また、再生材7として、純水および酸化カルシウムを混合して得た純粋な水酸化カルシウム溶液を用いることが好ましく、さらに、前記酸化カルシウムとして、貝殻焼成カルシウムを用いることが好ましい。これにより、より確実に、ゲル状のケイ酸3を水酸化カルシウムと反応させてケイ酸カルシウム水和物8に変化させることができるとともに、中性化したコンクリート1をアルカリ性に変化させることができる。
【0049】
また、中性化したコンクリート1に再生材7を付与する前に、コンクリート1の中性化の有無を診断することにより、コンクリート1の再生が必要な箇所にのみ再生材7を付与することができ、再生材7の使用の無駄を省くことができるとともに、効率よくコンクリート1を再生することができる。
【0050】
さらに、中性化したコンクリート1に再生材7を付与する前に、前記コンクリート1における所定の条件を満たした中性化した部分の一部を除去して、該除去部10に充填材6を充填したり、さらには、該除去部10から露出した鉄筋5に補修処理を行うことにより、劣化したコンクリート1の補強を行うことができる。特に前記補修処理として防錆処理を行うことにより、鉄筋5の錆化を防止することができる。
【0051】
さらにまた、中性化したコンクリート1に再生材7を付与した後、少なくとも再生材7を付与したコンクリート1の表面を、シール材9によって被覆することにより、コンクリート1の内部に酸性雨や炭酸ガス等の二酸化炭素が侵入するのを防止することができ、再生しアルカリ性に変化したコンクリート1が再度中性化してしまうことを防止することができる。また、このシール材9として、分子構造の内部にカルボキシル基(COOH基)を有する変性ポリエステル樹脂を用いることにより、カルボキシル基のHがコンクリート1の主成分であるCaと反応してカルボン酸カルシウムとなり皮膜化し、このカルボン酸カルシウムが強固な化学結合をするため、シール材9のコンクリート1に対する接着性を高めることができ、より確実にコンクリート1が再度中性化してしまうことを防止することができる。
【0052】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々変更することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 コンクリート(セメント硬化体)
2 炭酸カルシウム
3 ゲル状のケイ酸
5 鉄筋
6 充填材
7 再生材
8 ケイ酸カルシウム
9 シール材
10 除去部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性化したセメント硬化体に対して、水酸化カルシウム溶液からなる再生材を付与してセメント硬化体を再生するセメント硬化体の再生方法。
【請求項2】
前記再生材を、純水および酸化カルシウムを混合して得た純粋な水酸化カルシウム溶液とすることを特徴とする請求項1に記載のセメント硬化体の再生方法。
【請求項3】
前記酸化カルシウムとして、貝殻焼成カルシウムを用いることを特徴とする請求項2に記載のセメント硬化体の再生方法。
【請求項4】
前記セメント硬化体に前記再生材を付与する前に、前記セメント硬化体の中性化の有無を診断する請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のセメント硬化体の再生方法。
【請求項5】
前記セメント硬化体における中性化した部分の一部を除去して、該除去部に充填材を充填する請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のセメント硬化体の再生方法。
【請求項6】
前記セメント硬化体の内部に金属材料からなる支持材が配設されているセメント硬化体の再生方法において、
前記除去部において露出した前記支持材に、補修処理を施すことを特徴とする請求項5に記載のセメント硬化体の再生方法。
【請求項7】
前記補修処理として、防錆処理を施すことを特徴とする請求項6に記載のセメント硬化体の再生方法。
【請求項8】
前記セメント硬化体に前記再生材を付与した後に、前記セメント硬化体を乾燥させ、その後、少なくとも前記再生材を付与した部分の表面を、シール材によって被覆することを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のセメント硬化体の再生方法。
【請求項9】
前記シール材として、分子構造の内部にカルボキシル基(COOH基)を有する変性ポリエステル樹脂を用いることを特徴とする請求項8に記載のセメント硬化体の再生方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9に記載のセメント硬化体の再生方法によって再生されたセメント硬化体。
【請求項11】
水酸化カルシウム溶液からなり、中性化したセメント硬化体に対して付与されることを特徴とするセメント硬化体の再生材。
【請求項12】
前記水酸化カルシウム溶液は、純水と酸化カルシウムとを混合した純粋な水酸化カルシウム溶液であることを特徴とする請求項11に記載のセメント硬化体の再生材。
【請求項13】
前記酸化カルシウムとして、貝殻焼成カルシウムを用いることを特徴とする請求項12に記載のセメント硬化体の再生材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−82090(P2012−82090A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228359(P2010−228359)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(598090623)有限会社シーアンドシー (2)
【Fターム(参考)】