説明

セメント系エアゾール製品

【課題】コンクリート、セメントモルタルの補修・表面美化などに使用するセメント系エアゾール製品において、吹き付け作業を良好に行うことができるセメント系エアゾール製品を提供することを課題としている。
【解決手段】噴射ノズルとディップチューブとを備えたエアゾール容器にセメントを含むセメント組成物を噴射用ガスと共に充填したセメント系エアゾール製品において、前記エアゾール容器の容器本体と前記噴射ノズルとが金属製であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート、セメントモルタルの補修・表面美化などに使用するセメント系エアゾール製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート表面のひび割れ、ジャンカ等の劣化箇所の補修方法としては、セメントに水を加えて練ったセメントミルクなどの補修材を、ひび割れ等のコンクリート劣化箇所の中に注入する工法などが知られている。
【0003】
しかしながら、上記のようなコンクリート補修工法では、ひび割れ箇所に補修材注入用の孔を削孔する必要がある場合もあり、装置が大がかりとなり、工事費用も高額となる。
また、コンクリート劣化箇所に補修材注入用の孔を削孔すると、当該劣化箇所をさらに傷めることとなり、コンクリート構造物の強度等の観点から好ましくない。
さらに、補修材としてセメントミルクを用いる場合には、注入過程でセメントの水和反応が進行するため、注入作業を短時間で完了させる必要があり作業に時間的制限がある。
このため、設備や機器が簡易でコンクリート劣化箇所を傷めることのないコンクリート補修工法に用いる材料として、セメント系エアゾール製品が提案されている(特許文献1〜特許文献3)。
【0004】
これらのセメント系エアゾール製品は、超速硬セメントを噴射用ガスとともにエアゾール容器中に充填しておき、これをコンクリートの劣化箇所に補修箇所に吹き付けて補修するもので、設備や機器が簡易でありコンクリート劣化箇所を傷めることなく補修できるものである。
【0005】
前記のような従来のセメント系エアゾール製品は、エアゾール容器本体は通常金属製である一方、容器本体内に挿入されているディップチューブや、セメント組成物を噴出する噴出口のノズルは合成樹脂製である。
従って、帯電性に差があり、特に非常に帯電しやすい合成樹脂製のディップチューブやノズルと金属製である容器本体との組み合わせでは静電気が発生しやすくなる。
そして、このような静電気が発生したセメント系エアゾール製品の内部に充填されたセメント組成物を噴出する際に、静電気によってセメント組成物が固まり、噴出ノズルやディップチューブ内に詰まり噴出しにくくなり、吹き付け作業の効率が低下するという問題がある。さらに、エアゾール缶を噴射面に近づけると、電位差により放電する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−346635号公報
【特許文献2】特開2005−162999号公報
【特許文献3】特開2007−191584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、吹き付け作業を良好に行うことができるセメント系エアゾール製品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、噴射ノズルとディップチューブとを備えたエアゾール容器にセメントを含むセメント組成物を噴射用ガスと共に充填したセメント系エアゾール製品において、前記エアゾール容器の容器本体と、前記噴射ノズルとが金属製であることを特徴とするセメント系エアゾール製品を提供する。
【0009】
また、前記噴射ノズルの内径が1.6mm〜2.0mmであることが好ましい。
【0010】
さらに、前記ディップチューブの内径が2.9mm〜3.3mmであることが好ましい。
【0011】
また、前記有機溶剤が、不燃性または難燃性有機溶剤であることが好ましい。
【0012】
さらに、前記噴射用ガスが、不燃性または難燃性有機溶剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、セメント系エアゾール製品のエアゾール容器の容器本体および前記噴射ノズルが共に金属製であるため静電気が発生しにくい。よって、内部のセメント組成物が静電気によって固まり噴出しにくくなることを防止でき、吹き付け作業効率の低下を抑制できる。
【0014】
また、前記噴射ノズルの内径が1.6mm〜2.0mmである場合には、噴射ノズルの内径がセメント組成物に対して比較的大口径であるため、例え、多少の静電気が生じていても、噴射時にセメント組成物がノズル内で固まって詰まることを抑制できる。
同様にディップチューブの内径が2.9mm〜3.3mmである場合にも、チューブ内にセメント組成物が詰まることを抑制できる。
【0015】
さらに、セメント組成物に有機溶剤を混合した場合には、セメント組成物中における摩擦が軽減されるためさらに静電気が発生しにくくなると同時に、不燃性または難燃性有機溶剤であるため、万が一静電気が発生しても発火しにくく、安全性が高いセメント系エアゾール製品となる。
【0016】
また、噴射用ガスが不燃性または難燃性有機溶剤である場合にも発火しにくく、より安全性が高いセメント系エアゾール製品となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
まず、本発明のセメント系エアゾール製品について説明する。
【0018】
本実施形態のセメント系エアゾール製品は、超速硬セメント、有機溶剤、および混和材を含むセメント組成物がエアゾール容器に噴射用ガスとともに充填されて形成されている。
【0019】
前記エアゾール容器は、金属製の容器本体と、該容器本体内に挿入されているディップチューブと、該ディップチューブと連通可能に形成されている噴射ノズルを備えたキャップ部を備えている。
前記噴射ノズルの噴射口は外部に開口しており、噴射ノズルの後端側の開口部はキャップ部の下方に開口しているが、通常は密封されている。
前記キャップ部の下方にはバネなどのキャップを上下させる可動手段が設けられており、前記キャップ部を下方に押すとバネが収縮してキャップ部が下方に移動して、前記噴射ノズルの後端側の開口部が前記ディップチューブと連通して、該ディップチューブおよび噴射ノズルを介して容器本体は外部と連通する。
【0020】
前記容器本体内は鉄製で表面にスズメッキ層が形成されている。前記噴射ノズルも缶体と同じ鉄などの金属から形成されている。
前記噴射ノズルの内径は1.6mm〜2.0mmに形成されている。
このような噴射ノズルの内径に形成した場合に、多少静電気が発生した場合でも噴射時に噴射ノズル内でセメント組成物が詰まることなく噴射しやすい。
【0021】
前記ディップチューブおよびキャップはポリエチレンなどの合成樹脂から形成されている。
前記ディップチューブの内径は2.9mm〜3.3mm、好ましくは3.1mm〜3.3mmであることが好ましい。
このようなチューブの内径のした場合には、多少静電気が発生した場合でも噴射時にチューブ内にセメント組成物が詰まることなく噴射しやすい。
【0022】
前記のようなエアゾール容器内には、セメント組成物が噴射用ガスとともに高圧状態で密閉されている。
【0023】
セメント組成物は、超速硬セメント、および有機溶剤を含む。
前記超速硬セメントとしては、JIS R5201に準じて測定された硬化時間(終結時間)が1分〜60分程度の超速硬セメントであることが好ましい。
超速硬セメントとしては、例えば、11CaO・7Al23・CaF2を主成分とする、いわゆるジェットセメント;ポルトランドセメントとアルミナセメントと石膏の3成分から構成される超速硬セメント;アルミナセメント単体などが使用できる。
【0024】
前記有機溶剤としては、不燃性または難燃性の有機溶剤が安全性の観点から見て好ましい。有機溶剤を前記超速硬セメントに混合することで、セメント粒子間の摩擦が少なくなりより静電気の発生を抑制できる。
尚、ここでいう不燃性の有機溶剤とは引火点を持たない有機溶剤をいい、難燃性の有機溶剤とは引火点250℃以上からなる有機溶剤をいう。いずれも消防法で定める危険物質に該当しないものである。
【0025】
前記有機溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサンなどの炭化水素類、化学式CF3CF2CHCl2、CClF2CF2CHClF、CF3CH2CHF2、C5210などフルオロカーボン系化合物、エタノール、メタノールなどのアルコール類、ジクロロメタン、トリクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、エチルビニルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などが使用できる。
特に、これらの有機溶剤の中でもハロゲン化炭化水素類などの不燃性または難燃性の有機溶剤がなどが好ましい。前記有機溶剤は1種を単体で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0026】
有機溶剤の添加量としては、前記超速硬セメント100重量部に対して、50〜150重量部、好ましくは50〜100重量部の範囲であることが好ましい。
前記範囲である場合には、セメント粒子の摩擦を低減し、静電気の発生を効果的に抑制できる。
【0027】
本実施形態におけるセメント組成物は、噴射用ガスとともに前記エアゾール容器内に充填される。
前記噴射用ガスとしては、通常エアゾールに用いられる公知のものが適宜使用可能であるが、例えば、プロパン、ブタンなどの液化石油ガスやジメチルエーテル、フロン又は代替フロン、窒素、空気、などの圧縮ガスが用いられる。フロン又は代替フロンとしては、HCFC−22、HCFC−123、HCFC−124、HCFC−142b、HCFC−125、HCFC−134a、HCFC−152a、HFO−1234yf、HFO−1234Ze、CF3I、又はこれらの混合物などが使用可能である。
特に、これらの噴射用ガスの中でもフロンまたは代替などの不燃性または難燃性の噴射用ガスが好ましい。
【0028】
前記セメント組成物は、前記のような噴射用ガスとともにエアゾール容器内に充填される。このとき容器本体の内部は圧力0.2MPa〜0.6MPa程度に加圧された状態になっている。
【0029】
このようなセメント系エアゾール製品を使用する場合には、まず、エアゾール容器の押圧部を押し、前記キャップ部を下方に押し下げることで、噴射ノズルの後端側の開口部を前記ディップチューブと連通させる。
前記のようにエアゾール容器本体内部は加圧状態になっているため、噴射ノズルとディップチューブが外部と連通すると、セメント組成物が一気にノズルから噴出される。
このとき、本実施形態の噴射ノズルは容器本体と帯電しにくい金属製であるため、噴射ノズルやディップチューブ、あるいはセメント組成物が帯電しにくく、静電気が発生しにくい。よって、セメント組成物が静電気で固まって噴射ノズルやディップチューブ内に詰まることを抑制できる。
【0030】
なお、本発明の効果が著しく損なわれない範囲においては、ここでは詳述していない、エアゾール容器の構成やセメント組成物の組成など従来公知の技術事項を本発明において採用することが可能である。
【実施例】
【0031】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
(セメント系エアゾール製品)
表1に記載のセメント組成物をそれぞれ準備し、エアゾール容器に充填した。
エアゾール容器は、ディップチューブとノズルをそれぞれ下記のようなサイズおよび材質のものを準備した。
ディップチューブは、ポリエチレン(PE)樹脂製で内径が2.5mmのもの(通常径)と、3.1mmのもの(大口径)の2種類を用意した。
ノズルは、内径が1.2mmのPE樹脂製のもの(通常径)、内径が1.6mmのPP樹脂製のもの(大口径)および内径が1.6mmの鉄製で表面にスズメッキを施したもの(大口径金属)の3種類を準備した。
尚、エアゾール容器本体は鉄製で表面にクロムメッキを施した容積520mlのものを用意した。
前記のようなエアゾール容器にそれぞれ表1に示すような組成のセメント組成物を充填したものを使用して、それぞれ連続して10秒間噴射したときの帯電量を測定した。
噴射対象物としては、舗道板を室内の床に設置して、舗道板表面と噴射ノズル先端の距離は約30cmとなるように噴射した。
尚、床には全体にビニールシートを張り、室温20℃、湿度50%の条件で測定した。
帯電量の測定には、静電気測定器(シシド静電気社製、製品名:STATIRON−DZ3)を使用して噴射対象物とエアゾール容器の本体部の帯電量を測定した。
尚、噴射対象物は噴射面中心部、エアゾール容器は本体部の中心部付近を測定し、即定時に、測定者がシリコンゴム手袋を装着した場合の結果を表2に、ポリエチレン製手袋を装着した場合の結果を表3に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
表2および表3によれば、各実施例では噴射対象物および容器本体のいずれも帯電量が比較例に比較して低いことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射ノズルとディップチューブとを備えたエアゾール容器にセメントを含むセメント組成物を噴射用ガスと共に充填したセメント系エアゾール製品において、
前記エアゾール容器の容器本体と前記噴射ノズルとが金属製であることを特徴とするセメント系エアゾール製品。
【請求項2】
前記噴射ノズルの内径が1.6mm〜2.0mmである請求項1に記載のセメント系エアゾール製品。
【請求項3】
前記ディップチューブの内径が2.9mm〜3.3mmである請求項1または請求項2に記載のセメント系エアゾール製品。
【請求項4】
前記セメント組成物に不燃性または難燃性有機溶剤が含まれている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のセメント系エアゾール製品。
【請求項5】
前記噴射用ガスが、不燃性または難燃性有機溶剤である請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のセメント系エアゾール製品。

【公開番号】特開2011−220044(P2011−220044A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92477(P2010−92477)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(000219934)エア・ウォーター・ゾル株式会社 (17)
【Fターム(参考)】