説明

セメント系グラウト組成物

【課題】 金属アルミニウム粉末及び消泡剤を含有し、施工後、単位容積質量を適度に保ちながら、沈下・収縮を抑制し、有機ポリマーエマルションを併用した場合であっても、該効果が充分に発揮されるセメント系グラウト組成物の提供。
【解決手段】 消泡剤、脂肪酸金属塩及び金属アルミニウム粉末を含有するセメント系グラウト組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工した後の沈下や収縮が抑制されたセメント系グラウト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント系材料によるグラウティングには、上部打ち込み面の平滑性と高い強度の求められる機械基礎、空隙の発生を嫌う橋脚耐震補強の鋼板巻き立て内部の充填、橋梁支承部、逆打ち工法によるコンクリート構造物の補修・補強等の初期の沈下や収縮を極度に嫌う箇所での施工が要求される。通常このような箇所での施工では、少量の気泡の発生に起因する膨張によって、沈下や収縮を防ぐといった措置がとられている。具体的には、セメント由来のアルカリ雰囲気の中で反応して水素ガスを発生する金属粉末が添加されている。金属粉末の中では、金属アルミニウム粉末が反応性は高いが過激すぎず、取扱いが容易なことからよく用いられている。アルミニウム粉末は非常に少量の添加で多量の水素ガスを発生するが、打ち込み部に鉄筋や鋼板等の金属が存在する場合は、特に、水素による金属腐食を防ぐためにも過剰量の添加は望ましくない。
【0003】
一方、最近では有機ポリマーエマルションの添加により耐久性能や付着性能を向上させたポリマーセメントのグラウトを用いて、型枠注入による断面修復等が行われるようになってきた。ポリマーエマルションは、その粘性によりセメント材料との混練時に空気を多量に巻き込む傾向がある。このような材料では強度低下を防ぐためポリマーエマルションに予め又は混練時に、消泡性が非常に高いシリコーン系等の消泡剤を添加することが多い。しかしながら、消泡剤を添加した場合、その強い消泡性により金属アルミニウム粉末とアルカリの反応に由来する水素ガス気泡もまた液層に留まることができず、材料の沈下・収縮を引き起こす。特にポリマーセメントグラウト材は、上部のコンクリートに下側から充填し付着させることが多く、その場合材料の沈下は即ち躯体コンクリートとの付着不良をもたらすという問題がある。
【0004】
また、金属アルミニウム粉末に加え増粘剤とポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の界面活性剤を添加して効果的に気泡を導入する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、該方法は、その後オートクレーブ養生により泡膜を消失して連続気泡を作って吸音性を付加するものであって、この様な特殊な用途以外では混練時の起泡性が高すぎ、一定以上の強度発現を必要とする用途では望ましくない。
【特許文献1】特開2004−67472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、金属アルミニウム粉末を含有するセメント系グラウト組成物を使用したグラウティング施工に際して、消泡剤を添加した場合の施工後の沈下・収縮を引き起こさないセメント系グラウト組成物の開発が望まれている。
従って、本発明の目的は、金属アルミニウム粉末及び消泡剤を含有し、施工後、単位容積質量を適度に保ちながら、沈下・収縮を抑制し、有機ポリマーエマルションを併用した場合であっても、該効果が充分に発揮されるセメント系グラウト組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、金属アルミニウム粉末及び消泡剤を含有するセメント系グラウト組成物に脂肪酸金属塩を加えると、消泡剤による混練時の空気の巻き込み防止効果を大きく損なうことなく、金属アルミニウム粉末とアルカリの反応により発生した水素ガスの気泡が安定化されて、施工後、単位容積質量を適度に保ちながら沈下・収縮が抑制されたセメント系グラウト組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、消泡剤、脂肪酸金属塩及び金属アルミニウム粉末を含有するセメント系グラウト組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のセメント系グラウト組成物は、消泡剤による混練時の空気巻き込み防止効果を大きく損なうことなく、また金属アルミニウム粉末とアルカリの反応により発生した水素ガスの気泡が消泡剤によって消失させられることなく安定化され、施工後、単位容積質量を適度に保ちながら、沈下・収縮を抑制する。更に、セルロース短繊維を添加すると、水素ガスの気泡による沈下・収縮防止がより効果的で、材料分離もより低減する。また、有機ポリマーエマルションを併用しても該効果が充分に発揮され、高い耐久性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で使用する消泡剤は、その液体状、粉末状の別及び種類は、公知のコンクリート用又はモルタル用消泡剤であれば特に制限されない。例えば、ポリエーテル系消泡剤、多価アルコールのエステル化物やアルキルエーテル等の多価アルコール系消泡剤、アルキルホスフェート系消泡剤、シリコーン系消泡剤等が挙げられる。セメント系グラウト組成物が有機ポリマーエマルションを含有する場合には、シリコーン系消泡剤が消泡効果の強さ、消泡性の持続性の点から好ましい。セメント系グラウト組成物が有機ポリマーエマルションを含む場合は、エマルションに添加されていてもよい。
【0010】
セメント系グラウト組成物中の消泡剤の含有量は、その種類と性能により様々であるが、セメント系グラウト組成物に用いる液体、すなわち水又は有機ポリマーエマルションに添加して攪拌したとき、数十秒以内に消泡する量が好ましい。このような消泡剤の量としては、セメント系グラウト組成物100質量部中0.01〜1.0質量部、特に0.05〜0.5質量部であるのが好ましい。
【0011】
本発明で使用する脂肪酸金属塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。アルカリ金属塩としてはリチウム、ナトリウム、カリウム等の塩が挙げられる。アルカリ土類金属塩としてはカルシウム、マグネシウム、バリウム等の塩が挙げられる。特に、ナトリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩が好ましい。脂肪酸は、飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖の炭素数14〜18の脂肪酸が好ましい。炭素数14未満では起泡性が強すぎ、炭素数18より多いと殆ど水溶性を有さない。これらの脂肪酸からなる金属塩は比較的水溶性が高く、また低価格であることから好ましい。
【0012】
脂肪酸金属塩は、セメント系グラウト組成物中のセメント100質量部に対し合計0.05〜5質量部、特に0.1〜4.8質量部であるのが好ましい。0.05質量部よりも少ないと気泡の安定効果が低く、5質量部よりも多いと起泡効果が強すぎ、また経済的でない。
【0013】
本発明で使用する金属アルミニウム粉末の粉末度は、目的とする反応時間、反応性に合わせて自由に選択することが可能である。粉末度としては、180メッシュ以上が好ましく、その上限は特に限定されない。また反応性をコントロールするためにステアリン酸、オレイン酸等の炭素数12〜20の脂肪酸でコーティングを行ったものも使用できる。
【0014】
金属アルミニウム粉末のセメント系グラウト組成物中の含有量は限定されないが、セメント系グラウト組成物中のセメント100質量部に対し、0.002〜0.5質量部、更に0.003〜0.4質量部、特に0.003〜0.2質量部であるのが好ましい。
【0015】
本発明のセメント系グラウト組成物は、セメントを必須成分として含有するが、その種類は限定されない。例えば普通セメント、早強セメント、超早強セメント、中庸熱セメント、低熱セメント、耐硫酸塩セメント等の各種ポルトランドセメント、エコセメント(普通型)、微粒子セメント、超微粒子セメント、アルミナセメント、高炉スラグやフライアッシュ等との混合セメントが挙げられる。
【0016】
本発明のセメント系グラウト組成物は、更にセルロース短繊維を使用すると、沈下防止効果、材料分離防止とポンプ等の圧送性向上の点で好ましい。使用するセルロース短繊維の製法、種類等は特に限定されるものではなく、例えば、木材より製造されたものでリグニン等の不純物を含んでいてもよい。繊維の直径は好ましくは60μm以下であり、繊維の長さは特に限定されるものではないが好ましくは10μm以上10mm以下である。径が60μmより大きい場合沈下防止効果が充分ではない。長さが10mm以上の場合繊維が絡み合ってファイバーボールを作るため均一な混合が困難であり、また長さ10μm以下は繊維の製造が困難で経済的ではない。
【0017】
セルロース短繊維のセメント系グラウト組成物中の含有量は限定されないが、セメント系グラウト組成物100質量部中0.01〜0.5質量部、特に0.03〜0.3質量部であるのが好ましい。
【0018】
本発明のセメント系グラウト組成物は、有機ポリマーエマルションを含有すると、耐久性、付着性、躯体歪みに対する追随性、中性化抵抗等の点で好ましい。有機ポリマーエマルションとしては、アクリル系樹脂、スチレン・アクリル共重合系樹脂、スチレン・ブタジエン共重合系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル・ベオバ共重合系樹脂、メチルメタクリレート・ブタジエン共重合系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及びこれらの変性樹脂の有機ポリマーエマルションが挙げられる。変性樹脂とは、例えばカルボキシル変性、エポキシ変性、シリコン変性等された樹脂をいう。有機ポリマーエマルションは、上記有機ポリマーを水に乳化して安定化され液体状、又は水により再乳化するものであれば粉末状でもよく、セメントモルタルやコンクリートに用いられているものであれば限定されず、何れか1種又は2種以上を併用してもよい。有機ポリマーエマルションの含有量は限定されないが、セメント系グラウト組成物中のセメント100質量部に対し、有機ポリマー固形分に換算して0.5〜20質量部、特に1〜15質量部であるのが好ましい。
【0019】
本発明のセメント系グラウト組成物は、必要に応じて上記以外の成分が適宜配合されたものでもよい。この様な成分として、コンクリートやモルタルで一般に使用されている細骨材や粗骨材等の骨材、増粘剤、膨張材、収縮低減剤、防錆剤、顔料等の一種又は二種以上を使用してもよい。
【0020】
また、本発明のセメント系グラウト組成物に対する水の配合量は、円滑な水和反応と作業性に支障を及ぼさない混練物の流動性を確保するために、グラウト組成物中の固型分(エマルジョンの液体分を含む)100質量部に対し、10〜100質量部とするのが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0022】
実施例1〜8及び比較例1〜4
各実施例、比較例それぞれ表1〜3に示す配合組成(質量比)で混合し、グラウトモルタルを調製した。
【0023】
単位容積質量:「JIS A 1171 6.3 単位容積質量試験」に従い測定を行った。その値が1.90kg/L以上となることを目標とした。1.90kg/Lに達しない場合、気泡の巻き込みが多く、強度や耐久性の低下が懸念される。
初期膨張量:図1に示すように、直径100mm、高さ200mmの円柱型枠の中に調製されたグラウトモルタルを100mm高さまで充填し、その上部に更にシリコーンオイルを5mm程度の高さまで注ぎ込んだ。型枠上部からシリコーンオイルの表面までの距離をマイクロメーターにて、型枠充填直後及び3時間後に測定し、その差をモルタルの高さ100mmで除した割合を初期膨張率として評価した。本値は0%以上5%以下を目標とした。0%以下では沈下・収縮による不具合の危険性が高く、また5%以上では過度の気泡の存在により強度や耐久性の低下が懸念される。
【0024】
(数式)
初期膨張率(%)=[(T0H−T3H)/100] × 100
【0025】
0H及びT3Hは、0時間後(充填直後)及び3時間後における型枠上部からシリコーンオイル液面までの距離(mm)を示す。
【0026】
グラウトモルタル配合物の使用材料は以下の通りである。
セメント:太平洋セメント社製 普通ポルトランドセメント
砂:山形県産珪砂(F.M.=1.8)
減水剤:花王社製 マイティー100;太平洋マテリアル社製 コアフローNP−55
消泡剤:東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 SM5512
金属アルミニウム粉末:純度99.8質量%、180μmふるい残分0%、水面拡散面積2.0m2/g
脂肪酸金属塩:関東化学社製一級試薬
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム:花王社製 エマール20C
セルロース短繊維:レッテンマイヤー社製 アーボセルFIC500P
有機ポリマーエマルション:太平洋マテリアル社製 CX−B 固形分45%
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
本発明のセメント系グラウト組成物(実施例1〜8)は、何れも単位容積質量が1.97kg/L以上、初期膨張率も0.3〜4.5%であって、適度な単位質量容積を有し、硬化後の沈下も発生しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】初期膨張量の測定法を示す概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消泡剤、脂肪酸金属塩及び金属アルミニウム粉末を含有するセメント系グラウト組成物。
【請求項2】
更に、セルロース短繊維を含有する請求項1記載のセメント系グラウト組成物。
【請求項3】
更に、アクリル系、スチレン・アクリル共重合系、スチレン・ブタジエン共重合系、酢酸ビニル系、酢酸ビニル・ベオバ共重合系、メチルメタクリレート・ブタジエン共重合系、ポリビニルアルコール系及びこれらの変性樹脂のエマルションのうち何れか1種又は2種以上を含有する請求項1又は2記載のセメント系グラウト組成物。
【請求項4】
脂肪酸金属塩が、脂肪酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アルミニウム塩又は亜鉛塩である請求項1〜3のいずれか1項記載のセメント系グラウト組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−16219(P2006−16219A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−192886(P2004−192886)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】