説明

セメント系板材の改修構造

【課題】網等の補強資材が不要でかつ従来通常行われていた下地処理(高圧水洗、電動ブラシ、ブラスト処理等)をしなくても十分な補強効果を得ることができる新規なセメント系板材の改修構造を提供すること。
【解決手段】基材である前記セメント系板材R1の被処理面に、該被処理面に対する浸透性を有し二液型の水性エポキシ樹脂系のプライマーで形成されるプライマー層11と、該プライマー層11の直接接触する水硬性弾性セメントモルタルで形成されるモルタル層13と、適宜、該モルタル層に直接接触する耐候性の上塗り塗膜17と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系板材の改修構造及び同改修工法に関し、特に、スレート材等のセメント系板材を改修するのに好適なものである。
【0002】
ここでは、屋根材として使用され経年劣化した既設の石綿スレート(石綿資材)を改修する場合を例に採り説明する。本発明は、屋根材以外の外壁材として使用する場合、及び、既設の石綿セメントサイジング等の石綿板材以外の各種他の既設のセメント系板材の改修工法にも適用できる。
【背景技術】
【0003】
従来においては、石綿スレートがその耐熱性、耐火性、吸音性、断熱性に優れ、さらには、軽量、低価格であるため、工場や倉庫の屋根材や外壁材として大量に使用されてきた。
【0004】
そして、特に屋根材として使用されてきた石綿スレートは、太陽光線、雨、雪等の影響を一番受けるため、経年劣化が壁材に比して促進される。このため、必要強度が確保し難くなるとともに、外表面から石綿粒子が飛散するおそれがあり、早期に取替えの必要が生じる。したがって、大量の石綿含有資材廃棄物が発生する。
【0005】
しかし、昨今、石綿(アスベスト)粉塵被害防止の見地から、大量の石綿含有資材廃棄物の発生は、可及的に少なくすることが望ましい。
【0006】
その対策として、既設の石綿スレート等の石綿資材の表面を封じ込めて石綿の飛散を防止するとともに、石綿スレートRを補強する下記構成のセメント材の改修構造(石綿資材の封じ込め工法)が特許文献1で提案されている(同文献1段落0010参照及び本願添付図1参照)。
【0007】
「石綿資材Rを改修する方法は以下の工程からなる。
【0008】
(工程A)石綿資材Rの表面の上に、網2に浸透可能な防水性で液体の下層樹脂1を塗布する。
【0009】
(工程B)この下層樹脂1が塗布された屋根Rの表面に網2を敷く。
【0010】
(工程C)この敷かれた網2の上に、当該網2に浸透可能な防水性で液体の上層樹脂3をさらに塗布する。
【0011】
(工程D)この上層樹脂3が浸透された網2の表面に耐候性の表層樹脂4を塗布する。
【0012】
上記において、水洗洗浄、ドライアイスブラスト等の清掃を適宜行っても行わなくてもよいと記載されている(同段落0011)。
【0013】
さらに、同段落0019には、「上記工程Cの上層樹脂3は、網2の下面の上記石綿資材Rの表面に達するまで浸透される。この上層樹脂3が硬化・乾燥すると、上記網2が硬化されて改修石綿資材の強度が向上される。さらに、上層樹脂3によって網2が上記石綿資材Rに接着され、これによりさらに石綿資材Rの強度が向上する。」と記載されている。
【0014】
しかし、上記工法では、石綿資材の補強のために網2を使用する必要がある。また、下層樹脂が浸透性を有しないため、接着強度を確保するため、前記水洗洗浄、ドライアイスブラスト等の下地処理(清掃)を通常行う必要があると考えられる。なお、図例中、5は下地処理層(高圧水洗、ブラスト処理)である。
【特許文献1】特開2005−194162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記にかんがみて、網等の補強資材が不要でかつ従来通常行われていた下地処理(高圧水洗、電動ブラシ、ブラスト処理等)をしなくても十分な補強効果を得ることができる新規なセメント系板材の改修構造及び同じく改修工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで本発明者らは、上記課題を克服すべく鋭意検討した結果、水性浸透性のエポキシ樹脂でプライマー層を形成した後、水硬化性セメントモルタルでモルタル層を形成すれば、格段の補強効果が得られることを知見(発見)して下記構成のセメント系板材の改修構造に想到した。
【0017】
無機系補強繊維で補強されたセメント系板材の改修構造であって、
基材である前記セメント系板材の被処理面に、
二液型水性エポキシ樹脂系のプライマーで形成されるプライマー層と、
該プライマー層の直接接触する水硬性弾性セメントモルタルで形成されるモルタル層と、
適宜、該モルタル層に直接接触する耐候性上塗り層と
を備えてなることを特徴とする。
【0018】
二液型水性エポキシ樹脂系のプライマーがスレートの被処理面に浸透することにより、プライマー層の上に直接接触する水硬性弾性セメントモルタルでプライマー/モルタル一体化層が形成される。このため、改修構造施工前に被処理面のサンドブラスト、高圧水洗浄等の、手間が掛かりかつ石綿等が飛散するおそれのある下地処理が不要となる。そして、通常の樹脂系塗料に比して高強度のプライマー/セメントモルタル一体層が形成されるため、中古スレート板等の劣化品に新品同様の強度の回復が期待できる。
【0019】
上記水硬性弾性セメントモルタルは、水溶性の弾性樹脂含有タイプとすることができる。当該構成とした場合、改修後のセメント系板材の靭性(粘り強さ:材料が破断時までにエネルギーを吸収する能力の大きさ)の向上が期待できる(実施例1〜3参照)。特に、上方からの衝撃荷重や曲げ荷重を受けることが多い屋根スレート板等に適用したとき、耐用期間の延長が、新品、中古品の関係なく期待できる。
【0020】
前記水硬性弾性セメントモルタルが極性合成繊維を含有する構成とすることができる。当該構成とした場合、強度及び靭性の更なる向上が期待できる(実施例2・4参照)。
【0021】
前記極性合成繊維としては、ポリビニルアルコール繊維被覆ポリエチレンテレフタレート繊維を使用できる。
【0022】
本発明を適用するセメント系板材は、石綿スレート材とすることができる。石綿スレート材とした場合は、前述の如く、石綿飛散が発生し易い被処理面の前処理が不要となることに基づく効果を奏する。
【0023】
本発明の改修構造を施工する改修工法は、下記構成となる。
【0024】
上記各構成のセメント系板材の改修構造によるセメント系板材の改修工法であって、前記スレート材を、研掃工程を経ずに、前記プライマーを塗布硬化後、前記水硬性弾性セメントモルタルを塗布して前記プライマー・モルタル一体化層を形成する工程を含むことと特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、後述の実施例で示す如く、石綿の飛散を防止できるともに、新品に近い強度を回復でき、更には、水硬性弾性セメントモルタルを弾性樹脂含有タイプとした場合は、靭性(粘り強さ)も向上でき、スレート板の耐久性も増大できる。したがって、劣化前のスレート材に適用した場合は、靭性の向上により(従来の汎用スレート材用エポキシ系塗料では逆に低下した。)、耐用期間の延長にも寄与するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の望ましい形態について、詳細に説明をする。なお、以下の説明で、含有率、混合比等の配合単位は、特に断らない限り、質量単位とする。特許請求の範囲でも同様である。
【0027】
本実施形態のセメント系板材の改修構造は、例えば、下記の如く形成する(図2参照)。
【0028】
なお、ここでは、セメント系板材として石綿スレートR1を例に採るが、他のセメント系板材、例えば、ケイ酸カルシウムボード、カラーベスト、コロニアル板等にも適用できる。
【0029】
なお、「石綿スレート」とは、セメント及びアスベストを主原料とし、若干の混和材料と適量の水を加え(石綿重量比率15〜30%)抄造して板状に成形して乾燥させたものである(「林間スレート工業」ホームページより)。
【0030】
1)先ず、下地処理(研掃)工程を経ずに、水性プライマーを塗布する。ここで、下地処理とは、高圧水洗、電動ブラシやブラスト処理等の表面の密着汚れを除去することを意味する。したがって、大きなゴミの除去や、水や箒、更には、電気掃除機等で軽くゴミを除去することを排除するものではない。このため、スレートが石綿を含んでいても、ほとんど、空中飛散が加速されるおそれはない。
【0031】
そして、水性プライマーとしては、ここでは、水性二液型エポキシ樹脂を使用する。水性二液型エポキシ樹脂は、スレートに対して浸透性を有する粘度に水により調節容易で、かつ、水硬化性セメントモルタルとの間に一体不可分な接着強度を確保し易いためである。
【0032】
より具体的には、「ジェリコHM360」の商品名で株式会社ジェリコから上市されているものを好適に使用できる。
【0033】
この水性二液型エポキシ樹脂の塗布量(固形分)は、スレートの劣化度、エポキシ樹脂の種類等により異なるが、通常50g/m2以上、望ましくは75〜250g/m2の範囲で適宜選定する。
【0034】
2)上記プライマー11を塗布乾燥後、水硬性弾性セメントモルタル13を塗布して、プライー・セメントモルタル一体層15を形成する。
【0035】
ここで、水硬性弾性セメントモルタルは、通常の、ポルトランドセメントに細骨材(細砂)を含有させたものである。
【0036】
ここで、セメント/骨材の混合比率は、通常1/1〜1/3、望ましくは1/1〜1/2とする。
【0037】
また、水セメント重量比(水混合量)は、本発明では、通常20〜100%、望ましくは90〜70%の範囲で適宜選定する。
【0038】
本発明の水硬性弾性セメントモルタルには、水溶性高分子を含有させることが望ましい。水溶性高分子は、モルタル層に弾性を付与でき、耐久性の向上に寄与する。
【0039】
上記水溶性高分子としては、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド等を挙げることができる。水溶性高分子の固形分全量中の含有率は、通常20〜50%、望ましくは30〜40%とする。
【0040】
さらに、水硬性弾性セメントモルタルは、極性合成繊維を含有させたものが望ましい。モルタル層による補強効果が更に増大する。極性合成繊維としては、ポリエステル(PET、PBT)、ポリアミド(ナイロン)、ポリビニルアルコール(ビニロン)、アセテート及びこれらの複合繊維等を挙げることができる。
【0041】
極性合成繊維の含有率は、水溶性高分子の固形分全量中の含有率は、通常1〜3%、望ましくは1.25〜2.5%とする。
【0042】
より具体的には、極性繊維合成繊維含有の水硬性弾性セメントモルタルとしては、「ジェリコRTX」の商品名で株式会社ジェリコから上市されているものを好適に使用できる。
【0043】
この水硬性モルタルの塗布量(固形分)は、スレートの劣化度、要求強度等により異なるが、通常1〜6kg/m2、望ましくは2〜3kg/m2の範囲で適宜選定する。
【0044】
3)上記セメントモルタル層13の塗布・乾燥後、適宜、汎用の外装用上塗り塗料を塗布して、上塗り塗膜14を形成する。
【0045】
該上塗り塗料としては、「ジェリコCB」の商品名で株式会社ジェリコから上市されているものを好適に使用できる。
【0046】
4)こうして形成した、セメント系板材の改修構造は、後述の実施例に示す如く、十分な改修強度を示すとともに、靭性の向上に寄与する。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の効果を確認するために比較例とともに行った実施例について説明する。
【0048】
なお、三点曲げ試験はJIS A5430に準じて行い、未処理試験片は、試験例Aでは石綿スレート新品(未処理試験片:新品A又は新品B)を、試験片Bでは石綿スレート中古品(20年経過未処理試験片:中古品)を使用し、それらの大きさは、160×80×5mmt(横断面積:400mm2)とした。
【0049】
また、実施例で使用した各プライマー及びモルタルは下記の通りである。
【0050】
プライマー・・・「ジェリコHM360」(エポキシ樹脂45〜50%含有物)を同量の水で希釈したもの。
【0051】
セメントモルタルI・・・「ジェリコRTX」20kgに水道水を2.5L添加したもの。但し、「ジェリコRTX」は、主剤(ポルトランドセメント系)17kgと硬化剤(エポキシ系)3kgからなるもの。
【0052】
同II・・・セメントモルタルIに極性繊維(「タフバインダー」東レ社製商品名:
ポリエステル系)を約3%添加したもの。
【0053】
<試験例A>
本発明を新品に適用した場合の効果(強度及び靭性)に与える影響を見るために行った試験例である。
【0054】
1)実施例1・2
前記プライマーを石綿スレート(新品A)に固形分換算150g/m2となるように塗布した。そして、塗布5分経過後、実施例1はセメントモルタルIを、実施例2はセメントモルタルIIを、それぞれ固形分換算約2kg/m2となるように塗布して実施例1・2の試験片を調製した。
【0055】
2)比較例1・2
市販品A・B(いずれもエポキシ系)の石綿スレート用塗料(エポキシ樹脂系)を、石綿スレート(新品A)に固形分換算150g/m2を塗布して、比較例1・2の試験片を調製した。
【0056】
上記で調製した各実施例1・2、比較例1・2及び対照例1・2(新品A・Bブランク)について、前記三点曲げ試験を行った。その結果を示す図3から、下記のことが分かった。
【0057】
実施例1・2は、破断時変位量が、新品である対照例1・2の0.5mm前後から、約0.85〜0.95mmと倍近くになり、強度低下なくスレート材に弾性が付与されている。特に、繊維添加モルタルを使用した実施例2の場合、強度低下が小さくかつ靭性(破断時変位量)が向上している。これに対して、市販の塗料を塗布した比較例1・2は、いずれも、強度及び靭性が低下している。
【0058】
<試験例B>
本発明を中古品(未処理試験片C)に適用した場合の効果(強度及び靭性)に与える影響を見るために行った試験例である。
【0059】
1)実施例3・4
実施例1・2において、新品を中古品に置き換えた以外は、同様にして実施例3・4の試験片を調製した。
【0060】
2)比較例3
比較例1において、新品を中古品に置き換えた以外は、同様にして比較例3の試験片を調製した。
【0061】
【表1】

上記で調製した実施例3・4及び比較例3とともに対照例3(中古品ブランク)について、前記三点曲げ試験を行った。その結果を示す表1から、下記のことが分かった。
【0062】
本発明を適用した実施例3・4は、破断強度において、それぞれ中古品である対照例3の3.5倍及び5.5倍になっており、さらに、靭性において、実施例3では破断時変位量が倍近くなっている。これに対して、市販塗料を塗布した比較例3は、破断強度において、1.5倍にしかならず、かつ、靭性(破断時変位量)も、試験例Aの場合と同様低下している。
【0063】
なお、実施例4における破断強度は、1.1kNを示し、新品Aの破断強度(約37.5Nmm-2×400mm2=15kN:図3参照)の約73%まで回復している。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】セメント系板材の改修構造の従来の一例を示すモデル断面図である。
【図2】同じく本発明の一例を示すモデル断面図である。
【図3】本発明および市販塗料を適用した場合の新品石綿スレートに適用した場合の三点曲げ試験の結果を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0065】
11 プライマー(層)
13 モルタル(層)
15 プライマー/モルタル一体層
17 上塗り塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機系補強繊維で補強されたセメント系板材の改修構造であって、
基材である前記セメント系板材の被処理面に、
二液型水性エポキシ樹脂系のプライマーで形成されるプライマー層と、
該プライマー層に直接接触する水硬性弾性セメントモルタルで形成されるモルタル層と、
適宜、該モルタル層に直接接触する耐候性上塗り層と
を備えてなるセメント系板材の改修構造。
【請求項2】
前記水硬性弾性セメントモルタルが、水溶性の弾性樹脂含有タイプであることを特徴とする請求項1記載のセメント系板材の改修構造。
【請求項3】
前記水硬性弾性セメントモルタルが極性合成繊維を含有することを特徴とする請求項1記載のセメント系板材の改修構造。
【請求項4】
前記極性合成繊維が、ポリビニルアルコール繊維被覆ポリエチレンテレフタレート繊維であることを特徴とする請求項3記載のセメント系板材の改修構造。
【請求項5】
前記セメント系板材がスレート材であることを特徴とする請求項4記載のセメント系板材の改修構造。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一記載のセメント系板材の改修構造によるセメント系板材の改修工法であって、前記セメント系板材を、研掃工程を経ずに、前記プライマーを塗布硬化後、前記水硬性セメントモルタルを塗布して前記プライマー・モルタル一体化層を形成する工程を含むことを特徴とするセメント系板材の改修工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−256133(P2009−256133A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106922(P2008−106922)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(507107350)株式会社ティーテック (3)
【出願人】(508117031)株式会社大岩建設 (1)
【Fターム(参考)】