説明

セメント系構造物の汚れ除去方法

【課題】藍藻類、地衣類などの汚れを、即効性を有して確実に除去することができるセメント系構造物の汚れ除去方法を提供する。
【解決手段】打放しコンクリートなど既存のセメント系構造物の汚れの上に、珪酸塩系表面含浸材を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系構造物の汚れ除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば打放しコンクリートなどのセメント系構造物は、空気中を浮遊する汚染物質(排気ガス、埃、微生物等)によって汚染される。そして、年月を経るとともに表面が灰色から黒色に汚れてくる。既往の研究結果から、この黒色の汚れは、主として藍藻類、地衣類が付着、繁殖したものであることが知られている。藍藻類とは、植物プランクトンの一種であり、葉緑素をもち、光合成を行うという特徴がある。また、地衣類とは菌類と藻類の共生体であり、互いに親密な関係を保って繁殖する。
【0003】
このような汚れは、セメント系構造物の美観や景観を損なうばかりでなく、劣化の原因になる虞がある。よって、セメント系構造物が黒色に汚れてきた場合には、その汚れを除去することが望ましい。
【0004】
従来、セメント系構造物の汚れを除去する方法としては、例えば、洗剤などを使って高圧水で洗浄する高圧水洗浄や、汚れた表面を研磨する表面研磨が知られている。
【0005】
しかし、高圧水洗浄の場合には、水や洗剤が大量に必要になり、さらに水が飛散するという問題があり、また表面研磨の場合には、粉塵や騒音が発生するという問題があった。そのため、例えば大規模な構造物や都市部の構造物の汚れの除去を高圧水洗浄や表面研磨によって行うのは困難であった。また、これらの方法では、セメント系構造物に付着した藍藻類や地衣類を完全に除去することはできなかった。
【0006】
そこで、例えば特許文献1には、ウスニン酸とウスニン酸溶剤を主成分とする処理剤を用いた汚れの除去方法が提案されている。これは、ウスニン酸とウスニン酸溶剤を主成分とする処理剤を、セメント系構造物(例えばコンクリート)に塗布することによって、汚れを除去することができるというものである。
【特許文献1】特開平9−87106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記処理剤は地衣類から抽出した成分を含むものであり、藍藻類、地衣類などの汚れの除去に対して即効性を有していない。そのため、当該処理剤を用いる前述した方法では、汚れの除去の効果が発揮されるまでに時間がかかるという問題点があった。例えば、処理剤を塗布してから、汚れが除去されるまでに6ヶ月程度を要していた。
【0008】
また、この処理剤は、藍藻類、地衣類などの汚れを除去することはできるが、例えば中性化などにより劣化したセメント系構造物を改質することはできなかった。なお、中性化とは、セメント系構造物中の水酸化カルシウムが、空気中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムに変化することにより、セメント系構造物が元のアルカリ性から中性に変化する現象のことである。また、外部から供給される酸性物質(例えば酸性雨)によっても中性化は促進されることになる。このようなセメント系構造物の中性化は、藍藻類、地衣類の繁殖の原因となり、また、例えば鉄筋コンクリートの場合、中性化が鉄筋の位置まで達すると、鉄筋は錆びて体積が膨張し、コンクリートのひび割れの原因にもなる。
【0009】
このように、セメント系構造物が中性化すると、汚れを除去したとしても藍藻類、地衣類などが再度付着、繁殖する虞があるという問題があった。
【0010】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、セメント系構造物の汚れを、即効性を有して確実に除去することができるセメント系構造物の汚れ除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために、本発明のセメント系構造物の汚れ除去方法は、既存のセメント系構造物の汚れの上に珪酸塩系表面含浸材を塗布することを特徴とする。このようなセメント系構造物の汚れ除去方法によれば、セメント系構造物に付着した汚れを、即効性を有して確実に除去することが可能である。
【0012】
また、かかるセメント系構造物の汚れ除去方法において、前記珪酸塩系表面含浸材は、前記セメント系構造物に付着する藍藻類、地衣類を殺生するものであることが望ましい。このようなセメント系構造物の汚れ除去方法によれば、セメント系構造物の黒色の汚れの主原因である藍藻類、地衣類を除去することができ、セメント系構造物の美観、景観を改善することが可能である。
【0013】
また、かかるセメント系構造物の汚れ除去方法において、前記珪酸塩系表面含浸材は、前記セメント系構造物にアルカリ性を付与するものであることが望ましい。このようなセメント系構造物の汚れ除去方法によれば、セメント系構造物をアルカリ性に改質することができ、藍藻類、地衣類が付着、繁殖できなくなるので、汚れの除去効果を持続することが可能である。
【0014】
さらに、かかるセメント系構造物の汚れ除去方法において、前記珪酸塩系表面含浸材を塗布した後、前記セメント系構造物にシラン系表面含浸材を塗布することが望ましい。このようなセメント系構造物の汚れ除去方法によれば、シラン系表面含浸材を塗布することによって藍藻類、地衣類の繁殖に必要な水分(雨水など)がセメント系構造物内に浸透することを防止することができる。また、珪酸塩系表面含浸材を塗布した後に、シラン系表面含浸材を塗布することによって、セメント系構造物に塗布された珪酸塩系表面含浸材が溶出することを防止できる。従って、珪酸塩系表面含浸材のみを塗布した場合に比べ、セメント系構造物の汚れの除去効果を、より長期間にわたって持続することが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、セメント系構造物に付着した汚れを、即効性を有して確実に除去することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明では、セメント系構造物の汚れの除去方法として、珪酸塩系表面含浸材及びシラン系表面含浸材を使用する。そこで、まず、珪酸塩系表面含浸材及びシラン系表面含浸材の組成および特性について説明する。
【0017】
≪珪酸塩系表面含浸材≫
珪酸塩系表面含浸材は、例えば以下に示す容量比からなる組成で構成される、強アルカリ性で無色無臭の液体である。
ナトリウムシリケート(NaSiO):10〜20%
カリウムシリケート(KSiO):20〜40%
水 :40〜70%
有機化合物:微量
【0018】
藍藻類、地衣類はアルカリ性に弱いため、上記組成の強アルカリ性の珪酸塩系表面含浸材によって、直ちに殺生される。つまり、この珪酸塩系表面含浸材は、従来のウスニン酸とウスニン酸溶剤を主成分とする処理剤よりも、藍藻類、地衣類の除去に対して即効性を有している。
【0019】
また、珪酸塩系表面含浸材をセメント系構造物の表面に塗布すると、珪酸塩系表面含浸材はセメント系構造物の表面から内部に浸透し、セメント系構造物の内部に存在する水酸化カルシウムと反応して、珪酸カルシウム水和物となり、セメント系構造物の細孔の径を小さくする。このことにより、セメント系構造物の組織は緻密化される。さらに、珪酸塩系表面含浸材は、中性化したセメント系構造物にアルカリ性を付与する機能を有している。
【0020】
このように、珪酸塩系表面含浸材によって、セメント系構造物の藍藻類、地衣類などの汚れが除去できるのみでなく、組織の緻密化、アルカリ性の付与などにより、例えば中性化により劣化したセメント系構造物を改質することができる。
【0021】
≪シラン系表面含浸材≫
シラン系表面含浸材は、モノマー系(アルキルアルコキシシラン、シラン系化合物)、又はオリゴマー系(シランオリゴマー、シランシロキサン、シラン)などを主成分とする浸透性吸水防止材と呼ばれるものである。本実施形態では、シラン系オリゴマー(ポリアルキルアルコキシシロキサン)を主成分とするものを適用することとする。
【0022】
このシラン系表面含浸材を、セメント系構造物のような吸水性の有る材料に塗布すると、その表面に通気性および撥水性を持った吸水防止層が形成される。この吸水防止層が形成されることによって、藍藻類、地衣類の繁殖に必要な水分がセメント系構造物内に浸透しなくなり、藍藻類、地衣類は繁殖できなくなる。また、後述するように、セメント系構造物に珪酸塩系表面含浸材を塗布した後に、シラン系表面含浸材を塗布すると、セメント系構造物に含浸された珪酸塩系表面含浸材が、例えば雨水等によって溶出することを防止することができる。
【0023】
≪汚れ除去方法≫
以下、本発明の一実施形態としてのセメント系構造物の汚れ除去方法について説明する。本実施形態では、セメント系構造物としてコンクリートの汚れを除去する場合について説明する。
【0024】
まず、既存のコンクリートの汚れの上に、珪酸塩系表面含浸材を、例えばローラーによって塗布含浸させる。強アルカリ性の珪酸塩系表面含浸材をコンクリートに塗布することによって、コンクリートに付着した藍藻類・地衣類は直ちに殺生される。これにより珪酸塩系表面含浸材による汚れの除去の効果は、従来のウスニン酸とウスニン酸溶剤を主成分とする処理剤を塗布する場合よりも、早く発揮されることになる(例えば1ヶ月程度)。
【0025】
このように、珪酸塩系表面含浸材をコンクリートの汚れの上に塗布することによって、コンクリートの汚れを、即効性を有して確実に除去することができ、構造物の美観、景観を改善することができる。また、前述したように、珪酸塩系表面含浸材をコンクリートに塗布することによって、コンクリートの組織が緻密化され、また、例えば中性化したコンクリートにアルカリ性が付与される。つまり、珪酸塩系表面含浸材をコンクリートに塗布することで、劣化したコンクリートを改質することができ、耐久性を向上することができる。従って、藍藻類、地衣類が付着、繁殖できなくなるので、汚れの除去効果を持続することができる。
【0026】
そして、その後、必要に応じて散水を行い、珪酸塩系表面含浸材が乾燥した後、シラン系表面含浸材を、例えばローラーによって塗布し乾燥養生させる。シラン系表面含浸材を塗布することにより、コンクリートの表面に通気性および撥水性を持った吸水防止層が形成される。この吸水防止層が形成されることにより、藍藻類、地衣類の繁殖に必要な水分がコンクリートに浸透することを防止できるようになり、また雨水などによって珪酸塩系表面含浸材が溶出することを防止できるようになる。従って、コンクリートに珪酸塩系表面含浸材を塗布した後、さらにシラン系表面含浸材を塗布することによって、コンクリートの汚れの除去効果をより長期間にわたって持続することができる。
【0027】
以上説明したように、本発明のセメント系構造物の汚れ除去方法によれば、例えば汚染されたコンクリートの汚れの上に、珪酸塩系表面含浸材を塗布することによって、コンクリートの汚れを、即効性を有して確実に除去することができる。
【0028】
また、珪酸塩系表面含浸材をコンクリートに塗布することで、コンクリート表面に付着する藍藻類、地衣類が殺生されることによって、コンクリートの黒色の汚れを除去することができ、コンクリート構造物の美観や景観を改善することができる。
【0029】
さらに、珪酸塩系表面含浸材をコンクリートに塗布することで、コンクリートにアルカリ性が付与されることによって、例えば中性化により劣化したコンクリートを改質することができ、藍藻類、地衣類などの汚れの除去効果を持続することができる。
【0030】
また、珪酸塩系表面含浸材が乾燥した後、さらにシラン系表面含浸材を塗布すると、コンクリートの表面に吸水防止層が形成されるので、珪酸塩系表面含浸材のみを塗布した場合よりも、コンクリートの汚れの除去効果をより長期間にわたって持続することができる。
【0031】
本実施形態では、コンクリートの汚れを除去する場合について説明したが、その他のセメント系材料(例えばモルタルなど)の場合も同様の方法によって汚れを除去することが可能である。
【0032】
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。例えば、本実施形態では、珪酸塩系表面含浸材およびシラン系表面含浸材の塗布をローラーで行うこととしたが、刷毛や吹き付けによって塗布してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存のセメント系構造物の汚れの上に珪酸塩系表面含浸材を塗布することを特徴とするセメント系構造物の汚れ除去方法。
【請求項2】
前記珪酸塩系表面含浸材は、前記セメント系構造物に付着する藍藻類、地衣類を殺生するものであることを特徴とする請求項1に記載のセメント系構造物の汚れ除去方法。
【請求項3】
前記珪酸塩系表面含浸材は、前記セメント系構造物にアルカリ性を付与するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のセメント系構造物の汚れ除去方法。
【請求項4】
前記珪酸塩系表面含浸材を塗布した後、前記セメント系構造物にシラン系表面含浸材を塗布することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のセメント系構造物の汚れ除去方法。

【公開番号】特開2008−133164(P2008−133164A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321906(P2006−321906)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】