説明

セメント系硬化体の強度増進および収縮低減方法。

【課題】セメント系の硬化体に対して極めて簡便に施工することができ、硬化体への施工によりその圧縮強度が増進すると共に、優れたひび割れ防止効果が得られるセメント系硬化体の収縮低減方法を提供する。
【解決手段】セメント系硬化体の表面に、セメント系硬化体の終結後から材齢7日の期間に収縮低減剤を塗布、散布または吹き付けることを特徴とするセメント系硬化体の強度増進および収縮低減方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントペースト、モルタル又はコンクリート等のセメント系組成物の硬化体に直接作用し、該硬化体の強度の増進および収縮を低減させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント系硬化体は、土木構造物、建築構造物およびコンクリート製品等に広く使用されている。セメント系硬化体の製造に用いる水は、作業性を確保するために水和反応等に供される理論必要量を超える量の水を使用する。この過剰な水の蒸発がセメント系硬化体の乾燥収縮を進行させ、ひび割れを発生させる。一方で、コンクリート構造物は、耐久性、美観等の点から、長期間に渡り、ひび割れが発生しないことが求められている。
【0003】
こうした乾燥に伴うセメント系硬化体のひび割れを防止するために、収縮低減剤や塗膜養生剤が使用されている。一般に、収縮低減剤はセメント系硬化体の製造時に混和する方法で使用され、塗膜養生剤は表面仕上時、あるいは硬化後のセメント系組成物の表面に対し、塗布や散布等の手法で表面を被覆するように使用する。
【0004】
このうち、市販されている収縮低減剤は何れも混和使用に適するよう調整されたものである。しかし、モルタルやコンクリート等の製造時での収縮低減剤の混和は、連行空気が安定しないため品質管理が難しく、また標準使用量が約6kg/m3と多いため概して製造コストが高くなる。また、混和使用以外の使用方法で収縮低減を行う方法として、セメント系硬化体の打設後から硬化するまでの間に塗布する方法も知られている。(例えば、特許文献1参照。)かかる方法では硬化後に表面が脆弱になったり、低温度環境下では硬化不良が生じるなどコンクリートの強度や耐久性を低下させるという問題が見られる。また、硬化後塗布する方法も知られているが、その塗布時期、効果等については不明瞭な点が多く、その養生効果および圧縮強度の増進効果については報告されていない。
【0005】
一方、塗膜養生剤はコンクリート等の養生用としてその表面に膜を形成し、該膜によって表面からの水の蒸発を抑止するためのものであり、有効成分として2液硬化型のエポキシ系、パラフィン系、水性エマルジョン系等の樹脂系塗膜養生剤が知られている。(例えば、特許文献2参照。)しかし、このような塗膜養生剤は、可使時間、硬化時間が施工時の気温の影響を受け、また、施工面の含水率が高い場合には施工できないという問題がある。さらに、概して粘度が高いため取扱い難く施工に手間を要し、また塗膜養生剤として明確な収縮低減効果があるものは報告されていない。
【0006】
また、収縮低減剤と塗膜養生剤を併用する方法が知られている。(例えば、特許文献3参照。)この方法は、水硬性組成物施工体の表面にまず時期を問わず収縮低減剤の含有層あるいは含浸させた後、蒸発抑制被膜層を形成させて収縮低減性を有する水硬性硬化体の製造方法である。かかる方法では収縮低減剤を硬化前に使用すると硬化後に表面が脆弱になったり、低温度環境下では硬化不良が生じるなどコンクリートの強度や耐久性を低下させるという問題が見られる。さらに収縮低減剤塗布後、塗膜養生剤を塗布するまでの時間がかかるなど、同時に使用しないため施工が煩雑となる問題がある。
【特許文献1】特開2006−143481号公報
【特許文献2】特開平11−21184号公報
【特許文献3】特開平2002−193686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するもので、セメント系の硬化体に対して極めて簡便に施工することができ、硬化体への施工によりその圧縮強度を増進することができると共に、優れたひび割れ防止効果が得られるセメント系硬化体の収縮低減方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、これまで混和使用に供されてきた収縮低減剤を、モルタル、コンクリート等のセメント系硬化体の凝結反応の終結後から材齢7日以内にその表面に塗布、散布または吹き付けをすることにより、硬化体の強度を増進させることができると共に、乾燥収縮が十分低減できたことから本発明を創出した。
【0009】
すなわち、本発明は、セメント系硬化体の表面に、セメント系硬化体の凝結反応の終結後から材齢7日の時期に収縮低減剤を塗布、散布または吹き付けをすることを特徴とするセメント系硬化体の収縮低減および強度増進方法である。
【0010】
また、本発明は、セメント系硬化体表面への収縮低減剤の塗布、散布または吹き付けの量が、50〜300g/m2であることを特徴とする前記の収縮低減方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法を用いることにより、土木・建築分野において使用されるセメントやコンクリートなどのセメント系硬化体の初期材齢における水分の蒸発を効率よく抑制することが可能である。また、初期材齢の水分の逸散を抑制することができるので、初期材齢のセメントなどの水和反応が進み、圧縮強度の増進が可能である。
さらに、表面硬化不良、それに伴う表面硬度低下を十分防止することができる。特に、初期から長期材齢にかけて大幅な収縮の低減が可能となるので、ひび割れを有効に防止することができる。
しかも、本発明の方法は、施工作業も簡単であり、また施工可能期間も長いため制約が少なく、施工性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の収縮低減方法で用いる収縮低減剤は、モルタルやコンクリートなどのセメント系硬化体に使用できる収縮低減剤であれば、製造時の混和使用に適した収縮低減剤を含め、特に限定されない。
好ましくは、基本構造としてポリオキシアルキレン重合物を有効成分とする収縮低減剤であり、より好ましくは、この末端に炭素数1〜6の低級アルコール、置換基を有していてもよいフェノール、及びアミノ結合物などを付加したものを有効成分とする収縮低減剤である。
具体的には、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレンオキシドメタノール付加物などのポリオキシアルキレンに低級アルコールを付加したもの、エチレンオキシド・プロピレンオキシドブロック重合物、エチレンオキシド・プロピレンオキシドランダム重合物、グリコールのシクロアルキル基付加物、グリコールの両端にメチル基を付加した付加物、グリコールのフェニル基付加物、グリコールにメチルフェニル基を付加したブロック重合物、グリコールの両端にエチレンオキシドメタノールを付加した付加物及びグリコールにジメチルアミンを付加した付加物等を有効成分とする収縮低減剤を挙げることができる。
【0013】
本発明の収縮低減方法は、モルタル、コンクリートなどのセメント系硬化体の凝結反応の終結後から材齢7日の期間に収縮低減剤をコンクリート表面に塗布又は表面に散布または吹き付けをする施工により、硬化体内部に収縮低減剤が速やかに含浸されて遂行される。
塗布などの施工時期は、圧縮強度が増進するため、好ましくはセメント系硬化体の凝結反応の終結後から材齢3日の期間であり、より好ましくはセメント系硬化体の凝結反応の終結後から脱型直後である。
ここで、セメント系硬化体の凝結反応の終結とは、骨材成分を実質含有しないセメントペーストに対してはJIS R 5201「セメントの物理試験方法」の規定による終結時間、またモルタル又はコンクリートに対してはJIS A 1147「コンクリートの凝結時間試験方法」の規定する終結時間のことをいう。
また、本発明での材齢とは、原料を混和・注水してコンクリートを作製後、型枠に打設した時点からの経過期間をいう。
収縮低減剤の塗布、散布または吹き付けをする期間は、モルタル、コンクリートのセメント系硬化体の凝結反応の終結よりも早いと表面強度の低下や硬化不良の理由から好ましくない。またこの期間よりも遅いとこの期間に乾燥収縮の進行が早いことから収縮低減効果が小さくなること、内部水分の蒸発が生じると養生効果が小さくなることから好ましくない。
【0014】
当該収縮低減剤をセメント系硬化体の表面に塗布、散布または吹き付けをする量は、好ましくは原液換算で50〜300g/m2であり、特に100〜200g/m2であると、十分な収縮低減作用とこれによるひび割れ抑制効果が得られるとともに、施工性も良好であることから好ましい。塗布などをする量が、100g/m2未満の場合は、表面の被覆量が十分でない場合があり水分が蒸発しやすくなるとともに収縮低減効果が発揮しづらくなるために高い強度発現性が得られにくくなり、また、200g/m2を超える場合は、コスト高になる上に、施工後硬化体内部に全てが十分に含浸するのに時間がかかるため実用的でなく余り適当ではない。
ここで、「原液」とは、調整せずにそのままの濃度で使用する市販品の液状の収縮低減剤のことをいい、濃縮したものや粉末又は固形状のものの場合には、規格通りに所定の溶剤を用いて所定の濃度に調製したものをいう。
【0015】
本発明の収縮低減剤をモルタル、コンクリートなどのセメント系硬化体の表面に塗布、散布または吹付けをする方法としては、通常の方法により行なえば良く、例えば塗布をするには、水溶液をモルタル・コンクリートなどに塗りつけることができる刷毛やローラー等のいずれでも使用することができる。また、散布や吹き付けをするには、手押しポンプ式の吹付け機、機械式の吹付け機等の何れでも使用することができる。施工時の温度は特に制限されないが、概ね5℃から35℃が望ましい。
【0016】
本発明で対象とするセメント系の硬化体としては、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメントを結合相形成成分とする水硬性組成物の硬化体であれば何れのものでも良い。結合相形成成分としてのセメントも特に限定されず、例えば、普通、早強、超早強、中庸熱、低熱、耐硫酸塩などの各種ポルトランドセメント、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ等が混合された混合セメント、白色セメント、アルミナセメント、エコセメント、フィラーセメントなどの特殊セメントなどを挙げることができる。また、結合相形成成分以外の含有成分も特に限定されるものではなく、例えば細骨材や粗骨材、その他モルタルやコンクリートで使用できる各種混和剤・材を含む硬化体でも構わない。
【実施例1】
【0017】
以下、実施例及び試験例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、下記の実施例及び試験例に何ら制限されるものではない。
【0018】
<使用材料>
・セメントC:普通ポルトランドセメント、太平洋セメント社製、密度3.15g/cm3
・細骨材S:静岡県菊川市河東産山砂、表乾密度2.61g/cm3、吸水率1.66%
・粗骨材G:茨城県西茨城郡岩瀬産砕石、粗骨材最大寸法20mm、表乾密度2.64g/cm3、吸水率0.67%
・AE減水剤Ad:ポゾリス70、BASFポゾリス社製、リグニンスルホン酸化合物とポリオールの複合体
・塗膜養生剤イ:TF250、アルバー工業、2液硬化型エポキシ樹脂エポキシ塗り材
・塗膜養生剤ロ:マスターキュアー、ASFポゾリス社製、水性パラフィン系
・塗膜養生剤ハ:ノンクラック、ノックス社製、シリカ系
・収縮低減剤イ:クラックセイバー、太平洋マテリアル社製、低級アルコールのアルキレンオキサイド付加物を有効成分とするもの。
・収縮低減剤ロ:ヒビダン、竹本油脂社製、ポリエーテル系
・収縮低減剤ハ:e-SRA、グレースケミカルズ社製、特殊ポリプロピレングリコール系
【0019】
上記各原料と水(W)を用い、表1に表す配合割合でコンクリートを作製した。なお、表中、W:水、C:セメント、S:細骨材、G:粗骨材、Ad:混和剤、s/a:細骨材率、a:全骨材量(=細骨材(S)+粗骨材(G)質量)である。
【0020】
【表1】

【0021】
<実施例1及び比較例1>
収縮低減剤イ(実施例1)と塗膜養生剤イ(比較例1)とについて刷毛塗りによる可使時間(2液硬化型エポキシ樹脂エポキシ塗り材の塗膜養生剤イは混合後)を確認した。
20℃の試験室において収縮低減剤イは使用開始後60分経過後も適度な流動性を呈し、刷毛塗りが十分可能であったのに対し、塗膜養生剤イは使用開始後50分で流動性を喪失し、刷毛塗りができなかった。
このことから、収縮低減剤イが優れた施工作業性を有することが確認できた。
【0022】
<実施例2〜7及び比較例2〜5>
表1に示す配合を用いて20℃の試験室において製造したコンクリートをφ10×20cmの鋼製の円柱型枠に打設した。JIS A 1149「コンクリートの凝結時間試験方法」に準じて凝結試験を行い、終結時間は約9時間である。
打設24時間後脱型し、刷毛を用いて表2に示すそれぞれの時期に収縮低減剤イ、ロ、ハを原液で150g/m2(実施例2〜7、比較例5)、塗膜養生剤ロ、ハを原液で100g/m2(比較例3、4)の塗布を脱型したコンクリート表面に行った。また、無塗布を比較例2とする。
塗布後は、温度20℃、相対湿度60%の試験室にて気中養生した。圧縮強度試験はJIS A1108に基づいて材齢7,28日に行い、その結果を表2に示す。
表2に示すように、収縮低減剤イ、ロ、ハ(実施例2、6、7)を塗布したコンクリートは、無塗布のコンクリート(比較例2)に比べて2割以上の強度増進が認められ、さらに塗膜養生剤を塗布したコンクリート(比較例3、4)に比べても劣らない圧縮強度の増進効果が確認された。
また、塗布時期を変化させて収縮低減剤イ(実施例2、3、4、5)を塗布したコンクリートは、無塗布コンクリート(比較例2)に比べて圧縮強度の増進が認められるが、材齢9日に塗布したコンクリート(比較例5)に比べては同等であり、収縮低減剤による圧縮強度の増進効果は材齢7日程度の初期材齢が有効であることが確認された。
【0023】
【表2】

【0024】
<実施例8>
表1に示す配合を用いて20℃の試験室において製造したコンクリートを30cm×30cm×6cmの鋼製板状型枠に打設し、荒均し作業を行い、定規ずり作業時(製造開始から約1時間)に収縮低減剤イ、ロ、ハを原液で100g/m2塗布し、さらに、ブリーディング終了後、金ごてを用いた仕上作業時(製造開始から約6時間)、収縮低減剤イ、ロ、ハを原液で100g/m2塗布した(比較例7、8、9)。前述のように、JIS A 1149「コンクリートの凝結時間試験方法」に準じた凝結試験によるコンクリートの終結時間は約9時間である。また、無塗布を比較例6とする。製造後24時間でJIS A 6253「硬さの求め方」に準じたタイプDのスプリング式硬さ試験機を用いて表面硬度の測定を行った。なお、製造開始とは、原料を混和し、注水時を起点とするものである。
一方、30cm×30cm×6cmの鋼製板状型枠に打設したコンクリートに製造後24時間で収縮低減剤イを原液で150g/m2塗布してさらに塗布後24時間で同様に表面硬度の測定を行った(実施例8)。試験結果を表3に示す。
表3の試験結果より収縮低減剤を表面最終仕上げ作業時に塗布すると表面に脆弱層が生じ、表面硬度が低下する。一方、収縮低減剤を終結後の硬化コンクリートに塗布した場合には無塗布と同等の表面硬度が得られた。
【0025】
【表3】

【0026】
<実施例9及び比較例10〜12>
表1に示す配合を用いて20℃の試験室において製造したコンクリートを10cm×10cm×40cmの鋼製型枠に打設、24時間後脱型し、塗膜養生剤および収縮低減剤を表4の条件で塗布した。比較例11は、収縮低減剤イを材齢7日経過後に塗布したコンクリートである。
比較例12は、1m3のコンクリート(1m×1m×1m)を想定した場合、表面積は6m3となり、この場合、収縮低減剤イの標準塗布量が原液で150g/m2であることから、これの使用量と同量の900gをコンクリートの製造時に混和した場合のコンクリートである。JIS A 1129に基づいて乾燥収縮試験を行った結果を表4に示す。
【0027】
乾燥期間182日おいて収縮低減剤イ(実施例8)は、無塗布(比較例10)に比べて100×10-6以上の収縮低減効果が認められるが、塗膜養生剤ハ(比較例11)の収縮低減効果は認められない。塗布量と同等量を練り混ぜ時に添加した場合(比較例12)、無塗布と同等の乾燥収縮を示し、乾燥収縮の低減効果は認められない。コンクリートの製造時に添加する従来の使用方法では標準添加量は単位セメント量の1〜3%(単位セメント量300kg/m3で3〜9kg/m3)となっている。塗布して使用することで大幅な乾燥収縮低減効果の向上とコスト低減が図れることがわかる。
【0028】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系硬化体の表面に、セメント系硬化体の凝結反応の終結後から材齢7日の期間に収縮低減剤を塗布、散布または吹き付けをすることを特徴とするセメント系硬化体の強度増進および収縮低減方法。
【請求項2】
セメント系硬化体の表面に、セメント系硬化体の凝結反応の終結後から材齢3日の期間に収縮低減剤を塗布、散布または吹き付けをすることを特徴とするセメント系硬化体の強度増進および収縮低減方法。
【請求項3】
セメント系硬化体表面への収縮低減剤の塗布、散布または吹き付けの量が、50〜300g/m2であることを特徴とする請求項1または2記載の強度増進および収縮低減方法。