説明

セメント系硬化体用養生剤および養生方法

【課題】サンダー掛けによる下地研磨や高圧洗浄による養生剤の除去を行う必要のないパラフィン系養生剤の提供。
【解決手段】パラフィンを有効成分とする乳剤型の養生剤であって、パラフィンの平均粒子径が0.85μm以下であるセメント系硬化体用養生剤。パラフィンの含有量が養生剤の合計100重量部に対して5〜30重量部である。セメント系硬化体の仕上げ時、または硬化後に養生剤を硬化体表面に施工することを特徴とするモルタルまたはコンクリートの養生方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系硬化体の打設後、初期段階において表面からの水分の蒸発を抑制し、セメントの水和反応を適切に進めるためのセメント系硬化体用養生剤、およびモルタルまたはコンクリートの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント系硬化体が所要の強度および耐久性を発揮できる緻密な構造を持つためには、水和進行過程の初期段階で十分な養生が必要である。このため、日本建築学会の「JASS 5」および土木学会の「コンクリート標準示方書」では養生期間、方法が規定されており、セメント系硬化体の打設後の急激な乾燥を防ぐために湿潤養生が必要不可欠である。
【0003】
養生方法には、コンクリートに水分を供給する方法(水中養生、湛水養生、散水養生、湿布養生など)と、水分の逸散を防止する方法(被膜養生、シート養生など)がある。水中養生や湛水養生は最も有効な湿潤養生であるが、実際の構造物で行うのは困難な場合が多い。一方、被膜養生は、コンクリート表面に被膜養生剤を散布または塗布して表面に膜を作り、水分の外部への蒸発を防止して水和を進める方法である。
【0004】
養生剤としては、ポリマーやワックスを有機溶剤に溶かした溶剤タイプと、水中に乳化させた水性タイプがあり、種々の養生剤が提案されている。(特許文献1〜特許文献5参照)
【0005】
養生剤の代表的なものとしてパラフィン系の養生剤があり、パラフィン系養生剤は、コンクリートやモルタルの水分の蒸発を防ぐ養生効果に優れ、安全性が高い。また、こて滑りがよくなるので、ブリーディングが無く、粘性が高い高強度コンクリートの仕上げ作業を容易にし、プラスチックひび割れを抑制する効果がある。
【0006】
しかしながら、従来のパラフィン系養生剤は、養生剤塗布後に仕上げ材を施工する場合、付着強度が低下し、仕上げ材の剥がれ・ひび割れ・浮き等の発生が懸念される。したがって、パラフィン系養生剤塗布後に仕上げ材を施工する場合には、サンダー掛けによる下地研磨や高圧洗浄などで養生剤の除去を行うこととしている(非特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−208879号公報
【特許文献2】特開平11−21184号公報
【特許文献3】特開2004−244255号公報
【特許文献4】特開2006−143481号公報
【特許文献5】特開2007−308353号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】コンクリート・ポリマー複合体の試験方法に関する技術の現状、日本建築学会材料施工委員会コンクリート・ポリマー複合体の試験方法小委員会、pp.110−129、2005
【非特許文献2】「月間建築仕上技術」、Vol.30、No.357、pp.68−69、2005
【非特許文献3】膜養生剤を用いたコンクリートの養生に関する実験的検討(その2.仕上げ材の付着力及ぼす影響)、西村進・岩崎昭雄・谷津健二・大倉真人、日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.801−802、2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来のパラフィン系養生剤の弱点である付着強度を改善することで、サンダー掛けによる下地研磨や高圧洗浄による養生剤の除去を行う必要の無いパラフィン系養生剤を提供可能にし、従来からの問題である養生剤と仕上げ材の界面の剥がれ、ひび割れ、浮き等の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者は、パラフィン系養生剤のうち乳剤型の養生剤に着目し、パラフィンの種類等について種々検討したところ、乳剤型養生剤に分散しているパラフィンの粒子径がセメント系硬化体表面と仕上げ材との付着強度に大きく影響することを見出した。そしてさらに検討したところ、乳剤型養生剤中のパラフィンの平均粒子径を0.85μm以下に調整することにより、前記付着強度が顕著に向上し、下地研磨や高圧洗浄等を必要としないことを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、パラフィンを有効成分とする乳剤型の養生剤であって、パラフィンの平均粒子径が0.85μmであるセメント系硬化体用養生剤を提供するものである。
また本発明は、セメント系硬化体の仕上げ時、または硬化後に上記養生剤を硬化体表面に施工することを特徴とするモルタルまたはコンクリートの養生方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の養生剤は、初期材齢の水分逸散を防止し、セメントの水和が有効に進行することで、圧縮強度の増進、初期ひび割れの防止に優れた効果が得られる。なお且つ、従来の問題であった付着強度を改善することで、養生剤を除去することなく、容易に仕上げ材を施工することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の養生剤は、パラフィンを有効成分とするものであり、当該パラフィンとしては、パラフィンワックスとして知られているもので、すなわち、常温(25℃)で固体状のパラフィン、すなわち石油ワックスとも呼ばれるものが好ましい。その具体例としては、BASFポゾリス社製「マスターキュア」やノックス社製「プロキュア」などに含まれているものと同じパラフィンワックスが好ましい。
【0014】
本発明の養生剤は乳剤型であり、有機溶剤に溶解したタイプではない。乳剤型は、パラフィン粒子が水に乳化した状態である。また、水に乳化したパラフィン粒子の平均粒子径が0.85μm以下であることが、セメント硬化体表面と仕上げ材との間の付着強度を向上させる点で重要である。セメント系硬化体の付着強度に関しては、使用材料、使用環境、使用部材等によって様々な規格があり、一概には規定できないが、代表的な規定として建築工事共通仕様書(国土交通省大臣官房官庁営繕部監修)に1.0N/mm2以上が規定されており、1.0N/mm2以上であればほとんどの規格を満足すること、また1.0N/mm2以上であれば実施工上問題がないと十分な付着強度であることから、1.0N/mm2以上の付着強度が得られる平均粒子径を検討したところ、0.85μm以下であった。乳剤中のパラフィン粒子の平均粒子径が0.85μmを超えると十分な付着強度が得られない。より好ましくは0.8μm以下であり、さらに好ましくは0.1〜0.8μm、特に好ましくは0.2〜0.8μmである。
ここで乳化したパラフィン粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置、例えばSALD−2100(島津製作所製)により測定できる。
【0015】
また、本発明養生剤のパラフィン粒子の粒度分布は、2μm以上の粒子が20%以下、特に10%以下であるのが好ましい。また、全体の粒度分布は、0.05〜3μm、特に0.05〜2μmの粒子が全体の90%以上を占めるのが好ましい。
【0016】
本発明の養生剤は、養生剤100重量部に対して、乳化されるパラフィンは5〜30重量部が好ましい。乳化されるパラフィンが5重量部未満であると、養生剤としての初期水分の逸散を防止することが得られにくく、一方、30重量部超になると付着強度の低下が懸念されることから、5〜30重量部、さらに5〜20重量部が望ましい。また、30重量部を超えるものについては、水希釈で30重量部以下にして使用可能である。
【0017】
本発明の養生剤中のパラフィン乳化粒子の平均粒子径は、パラフィンと乳化剤を水に添加して強く撹拌することにより調整できる。ここで、乳化剤としては、所定の乳化効果を呈する当該技術分野で周知の乳化剤であれば、いずれでも使用可能である。例えば、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤や非イオン性界面活性剤などが利用可能である。このような界面活性剤として、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロマクロゴール、非イオン性ヤシ油脂肪酸トリエタノールアミンなどが利用可能であるが、これらに限定されるものではなく、これらのいずれか1種類のみを用いることも、あるいは2種類以上を併用することもできる。ここで、乳化剤の含有量は、養生剤100重量部に対して0.001〜10重量部、特に0.01〜5重量部が好ましい。
【0018】
本発明の養生剤は、主成分のパラフィンと乳化剤と水以外は、本発明の効果に支障をきたさない限り、何れの成分の含有も特に制限されるものではない。含有可能な成分として、例えば消泡剤、防腐剤等が挙げられる。なお水の含有量は、養生剤100重量部に対して50〜94.999重量部、特に60〜95重量部が好ましい。
【0019】
本発明の養生剤は、セメント系硬化体の仕上げ時の仕上げ補助として、または、セメント硬化体の硬化脱型後、硬化体に施工することが可能である。施工方法は、均一に施工できるものであれば、特に限定されるものではなく、散布、塗布、吹付け、噴霧等で行うことが可能である。
【0020】
本発明の養生剤の使用量は、特に限定されるものではないが、1m2当たり50〜300gの範囲で使用することが好ましい。1m2当たり100〜200gの範囲で使用するのがより好ましい。50g未満では仕上げ時のスムーズなこて均しおよび水分の逸散防止効果が得られにくく、300gを超えると過剰な量で付着強度の低下が懸念される。また、対象となるセメント系硬化体としてはモルタルおよびコンクリートのいずれも含まれる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、下記の実施例に何ら制限されるものではない。
【0022】
<使用材料>
セメントC:早強ポルトランドセメント、太平洋セメント社製
細骨材S:静岡県産山砂、表乾密度2.61g/cm3、吸水率1.66%
粗骨材G:茨城県産砕石、粗骨材最大寸法20mm、表乾密度2.64g/cm3、吸水率0.67%
AE減水剤Ad:ポゾリス70、BASFポゾリス社製、リグニンスルホン酸化合物とポリオールの複合体
養生剤A:(主成分)パラフィンワックス、乳化パラフィンの平均粒子径0.44μm
養生剤B:(主成分)パラフィンワックス、乳化パラフィンの平均粒子径0.80μm
養生剤C:(商品名)マスターキュアー、BASFポゾリス社製、(主成分)パラフィンワックス、平均粒子径0.90μm
養生剤D:(主成分)パラフィンワックス、乳化パラフィンの平均粒子径1.28μm
養生剤E:(主成分)パラフィンワックス、乳化パラフィンの平均粒子径2.17μm
【0023】
養生剤A、B、D、Eは、パラフィンワックスを主成分とし、アニオン系の乳化剤を用いて乳化させた。乳化しているパラフィンの粒径は、測定範囲0.005μm〜1000μmの島津製作所社製のレーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2100)を用いて測定した。平均粒径で示した養生剤それぞれの粒度分布を簡易的に示す10%通過径(D10)および90%通過径(D90)は、養生剤A(D10=0.332、D90=0.571)、養生剤B(D10=0.563、D90=1.146)、養生剤D(D10=0.816、D90=1.864)、養生剤E(D10=1.103、D90=3.903)である。乳化しているパラフィンの粒径以外の条件は、全く同じである。
【0024】
【表1】

【0025】
表1のコンクリートを温度20℃、相対湿度80%の恒温恒湿室で製造し、100×100×400mmの角柱試験体およびφ10cm×20cmの円柱試験体に打設した。打設24時間後脱型し、無塗布以外には所定の養生剤を試験体の前面にそれぞれ150g/m2塗布した。その後、温度20℃、相対湿度60%の恒温恒湿室に暴露し、角柱試験体を用いて塗布の有無による質量変化率、即ち、水分の逸散量を材齢182日まで測定した。また、円柱試験体を用いて材齢28日で圧縮強度試験を行い、養生効果を確認した。
【0026】
【表2】

【0027】
表2に示すように、本発明の養生剤を塗布したコンクリートは、無塗布コンクリートに比べて大幅な水分逸散の防止効果が認められる。また、このようにコンクリートの内部に保持された水分は、若材齢のセメントの水和反応に有効になり、材齢28日おいて約1割の圧縮強度の増進効果が認められる。
【0028】
表1のコンクリートを温度20℃、相対湿度80%の恒温恒湿室で製造し、500×500×50mmの試験体6体に打設した。仕上げ時に養生剤A〜Eをそれぞれ150g/m2塗布し、仕上げを行った。同恒温恒湿室にて試験体を材齢39日まで保存し、付着試験用の仕上げ材としてアスゴム系接着剤を塗布した。翌日、JIS A 6916「仕上げ塗布用下地調整塗剤」の試験方法に準じて付着試験を行った。
【0029】
【表3】

【0030】
表3から明らかなように、既存のパラフィン系養生剤およびそれより平均粒子径の大きい養生剤では、十分な付着強度が得られなかったのに対し、既存のパラフィン系養生剤より平均粒子径の小さい養生剤ではより高い付着強度が得られた。また、破壊性状から既存の養生剤およびそれより平均粒子径の大きい養生剤では、養生剤と仕上げ材の界面が破壊され、その半面、平均粒子径の小さい養生剤では局部的に界面破壊がみられるものの、コンクリート下地破壊が卓越することから、十分な付着強度が得られていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラフィンを有効成分とする乳剤型の養生剤であって、パラフィンの平均粒子径が0.85μm以下であるセメント系硬化体用養生剤。
【請求項2】
パラフィンの含有量が、養生剤の合計100重量部に対して5〜30重量部である請求項1記載のセメント系硬化体用養生剤。
【請求項3】
セメント系硬化体の仕上げ時、または硬化後に請求項1または2に記載の養生剤を硬化体表面に施工することを特徴とするモルタルまたはコンクリートの養生方法。

【公開番号】特開2010−195661(P2010−195661A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45100(P2009−45100)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【出願人】(000103769)オリエンタル白石株式会社 (136)
【Fターム(参考)】