説明

セメント系硬化材塗工品とその製造方法

【課題】樹脂セメント系硬化材の塗工品として、製造が容易に高品質の塗装面が得られ、塗料に含まれる溶剤の問題も低減させる。
【解決手段】樹脂セメント系硬化材20と、水性エポキシ樹脂エマルジョン主剤と溶剤型アミン系硬化剤とを含む水性シーラー材を樹脂セメント系硬化材20の表面に塗工してなる厚さ10〜50μmのシーラー層32とを備える樹脂セメント系硬化材塗装品10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系硬化材塗工品とその製造方法に関し、詳しくは、建築物の外壁施工などに利用されるセメント系硬化材であって、その表面に塗装が施された塗工品と、このようなセメント系硬化材塗工品を製造する方法とを対象にしている。
【背景技術】
【0002】
建築用の外装材として、セメント系硬化材を利用することは良く知られている。機械的強度や耐久性に優れたものとされている。
特許文献1には、ビニルモノマーおよびセメントを含むW/O型エマルジョンからなるセメント系材料すなわち樹脂セメント系材料を板状に押出成形し、プレス成形して、凹凸形状を有する樹脂セメント系成形体を製造し、この樹脂セメント系成形体を養生硬化させて、樹脂セメント系硬化材を製造する技術が示されている。
これとは別に、各種のセメント系硬化材の表面に塗装を施すことも行われる。建築用外装材の場合、外観意匠性を向上させるだけでなく、表面の耐久性や耐汚染性などを向上させるためにも、塗装仕上げを施すことが望ましいとされている。
【0003】
特許文献2には、セメント系硬化材などの無機質材の表面に水性シーラーを塗装する技術が示されている。水性シーラーは、エポキシ樹脂系エマルションとアミン硬化剤とを含むものである。耐透水性や耐透湿性、強靭性を損なうことなく、耐候性や可撓性が向上するとされている。
【特許文献1】特開平5−246747号公報
【特許文献2】特開2001−239517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記したビニルモノマーなどの樹脂成分を含む樹脂セメント系硬化材は、表面が強い疎水性を示すため、前記したような水性シーラーによる塗装が困難であった。
通常のセメント系硬化材であれば、表面は親水性であるため、水性シーラーによる塗装は何ら問題なく良好に行える。ところが、樹脂成分が含まれることで各種の特性を向上させた樹脂セメント系硬化材の場合は、水性シーラーをはじくようになるので、水性シーラーでは良好な塗装結果が得られない。塗装はできても、水性シーラーの塗膜は樹脂セメント系硬化材への付着性が弱く、耐久性に劣るものとなる。
水性シーラーではなく溶剤系シーラーを使用すれば、前記した樹脂セメント系硬化材にもシーラー塗装は可能である。しかし、溶剤系シーラーは、塗装作業の取り扱いが難しいことや、溶剤が揮散するので作業環境の保護に手間がかかったり、塗装面から溶剤臭がしたり、揮発性成分が徐々に放出されて環境問題を生じるなどの問題がある。
【0005】
本発明の課題は、前記した樹脂セメント系硬化材の塗工品として、製造が容易に高品質の塗装面が得られ、塗料に含まれる溶剤の問題も低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかるセメント系硬化材塗工品は、樹脂セメント系硬化材と、水性エポキシ樹脂エマルジョン主剤と溶剤型アミン系硬化剤とを含む水性シーラー材を、前記樹脂セメント系硬化材の表面に塗工してなる厚さ10〜50μmのシーラー層とを備える。
各構成について具体的に説明する。
〔樹脂セメント系硬化材〕
通常の建築材料などに利用されている樹脂セメント系硬化材の技術が適用できる。
樹脂セメント系硬化材は、通常のコンクリートやモルタルなどのセメント系材料を硬化させてなるセメント系硬化材の技術を基本にして、セメント系材料あるいは製造されたセメント系硬化材に樹脂成分が含まれている。
【0007】
樹脂セメント系硬化材の材料となる樹脂セメント系材料や、樹脂セメント系材料を所定の形状に成形して樹脂セメント系成形体を得る成形方法、成形後の養生硬化方法などは、通常の樹脂セメント系硬化材と共通する技術が採用できる。
〔樹脂セメント系材料〕
樹脂セメント系成形体の主材料となる樹脂セメント系材料は、通常の樹脂セメント系硬化材の製造に採用されている技術と同様の材料や配合、製造技術が適用できる。
油性物質と水とのW/Oエマルジョンおよびセメントを含むものが好ましい。油性物質として重合性の油性物質が好ましい。重合性の油性物質として、樹脂成分すなわち重合性単量体を使用することで樹脂成分が供給される。
【0008】
具体的には、例えば、前記特許文献1(特開平5−246747号公報)や特開2002−47040号公報に記載の技術が適用できる。
<セメント>
樹脂セメント系硬化体の基本的な機械的強度などの特性を決める材料である。通常のセメント材料が使用できる。例えば、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメントなどが挙げられる。複数種類のセメントを併用することもできる。
樹脂セメント系材料中(水を含めたセメント系材料の全量中)に、10〜40体積%を配合しておくことができる。好ましくは、15〜30体積%である。
【0009】
<重合性の油性物質(樹脂成分)>
水とW/Oエマルジョンを形成できる油性物質の中で、重合性の物質が使用される。重合性の油性物質は、養生硬化工程において重合反応により重合し、水和硬化するセメントとともに樹脂セメント系硬化体の骨格構造を構築する。樹脂セメント系硬化体の骨格構造が良好に構築されることで、養生硬化に伴う寸法収縮が起こり難くなる。
油性物質としては、疎水性の液状物質が、水とW/Oエマルジョンを形成し易い。
重合性の油性物質の具体例として、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等の重合性二重結合を有するもの(ビニル単量体)が有用である。重合性二重結合を有する油性物質の重合反応とセメントの水和反応とが同時に良好に進行して、前記した樹脂セメント系硬化体の骨格構造が良好に形成される。
【0010】
油性物質の重合体が、前記セメントとともに、樹脂セメント系硬化体の骨格構造を構築し、基本的な特性を決めることになる。樹脂セメント系硬化体の物理的特性や表面性状などを改善する機能を果たす。樹脂セメント系硬化体の用途や要求性能、使用する油性物質の種類によっても異なるが、通常、セメント系材料中に、4〜10体積%を配合しておくことができる。好ましくは、5〜7体積%である。
重合性の油性物質の重合反応を促進させるために、重合性の油性物質とともに、有機過酸化物や過硫酸塩等からなる重合開始剤を併用することができる。
<W/Oエマルジョン>
W/Oエマルジョンは、油中水滴型エマルジョンとも呼ばれ、油性物質の連続相に微細な水粒子が分散している状態である。
【0011】
このようなW/Oエマルジョンが構成されるように、水および重合性の油性物質を配合し、撹拌混合することで、目的のW/Oエマルジョンが得られる。
油性物質として、前記した樹脂成分となる重合性の油性物質以外の油性物質を配合しておくことができる。水に加えて、他の液体あるいは固体粒子を配合しておくこともできる。セメントは、微細な固体粒子として、W/Oエマルジョン中に分散させておくことができる。
W/Oエマルジョンを調製したあと、セメントなどの他の材料を混合することもできるし、水および油性物質に加えて他の材料も混合した状態で、エマルジョン化処理を行うこともできる。
【0012】
<乳化剤>
W/Oエマルジョンの形成を促進させるために、乳化剤を配合しておくことが有効である。
乳化剤としては、通常のエマルジョン技術において使用されている乳化剤が使用できる。油性物質と水とのW/Oエマルジョン形成に有効で、樹脂セメント系材料の成形や養生硬化に悪影響を与え難く、樹脂セメント系硬化体の品質性能を損なわない材料が好ましい。
乳化剤の具体例として、ソルビタンセスキオレート、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ジエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセロールモノオレート等の非イオン性界面活性剤、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0013】
乳化剤の使用量は、油性物質と水との配合割合や要求性能によっても異なるが、通常、樹脂セメント系材料における水と固形分との総量に対して1〜3体積%の範囲に設定できる。
<補強材>
樹脂セメント系硬化体の機械的強度などの物理的特性を向上させるのに有用である。
通常のセメント系硬化体の製造に利用されている各種の補強材が使用できる。具体的には、いわゆるセメント用の骨材として知られている材料がある。補強繊維として知られている材料がある。補強繊維として、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維等の合成繊維や、炭素繊維、ガラス繊維、パルプなどがある。砂利、パーライト、シラスバルーン、ガラス粉、アルミナシリケートなどの無機粒子も使用される。多孔質状あるいは中空状の無機粒子もある。
【0014】
これらの補強材は、樹脂セメント系材料の全量に対して0.5〜10体積%程度で配合できる。
<その他の材料>
通常のセメント系硬化材の製造に利用される添加材料を組み合わせることができる。例えば、着色剤などが挙げられる。
<樹脂セメント系材料の調製>
基本的には、以上に説明した樹脂セメント系材料を構成する各材料を均一に撹拌混合すればよい。各材料を同時に撹拌混合してもよいし、一部の材料を撹拌混合した後、残りの材料を加えてさらに撹拌混合することもできる。
【0015】
水と油性物質とのW/Oエマルジョンが良好に形成されるように、製造装置、製造条件を設定することが望ましい。
攪拌装置として、ディゾルバー、スクリューラインミキサー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、プラネタリーミキサー、スタティックミキサー、ナウターミキサー、リボンブレンダー、タンブルミキサー、パドル式ミキサー等が使用できる。
W/Oエマルジョンにセメントや補強材が配合されたりして粘性が増大した材料は、混練装置で混練することが有効である。連続混練装置として、連続ニーダー、二軸押出機等が使用できる。
【0016】
〔樹脂セメント系材料の成形〕
通常の樹脂セメント系材料に対する成形技術が適用できる。ペースト状あるいは流動性を有する練物状の樹脂セメント系材料を目的とする形状に成形できればよい。具体的には、型充填成形、押出成形、プレス成形、シート成形などが採用される。押出成形によってシート状の成形体を製造したあと、プレス成形でさらに複雑な形状を成形するなど、複数種類の成形技術を組み合わせることもできる。
〔樹脂セメント系成形体の養生硬化〕
所定の形状に成形された樹脂セメント系成形体を養生硬化させることで、セメント系硬化体が得られる。
【0017】
基本的には、通常の樹脂セメント系硬化体の製造技術における養生硬化装置、養生硬化条件が適用される。例えば、蒸気養生、オートクレーブ養生などが採用される。
養生条件は、樹脂セメント系材料の配合や樹脂セメント系硬化体に要求される性能などによっても異なるが、通常、40〜100℃で20〜48時間の範囲に設定される。養生工程の途中で、温度を段階的あるいは連続的に変えることもできる。
樹脂セメント系成形体の養生硬化が終了すれば、樹脂セメント系硬化材が得られる。
〔水性シーラー材〕
水性エポキシ樹脂エマルジョンからなる主剤と溶剤型アミン系硬化剤とを含むこと以外は、通常の建築技術分野などで採用されている水性シーラー材の技術が適用される。
【0018】
硬化剤として、溶剤型アミン系硬化剤を用いるので、溶剤が含まれているが、主剤と硬化剤とを組み合わせた水性シーラー材としては、溶剤型ではなく水性を示す。
主剤として、エポキシ当量200〜600のエポキシ樹脂からなる固形分を20〜40重量%を含む水性エマルジョンからなるものが使用できる。硬化剤として、アミン価90〜300の変性ポリアミドアミン10〜20重量%と、溶剤であるメチルイソブチルケトン20〜30重量%とを含むものが使用できる。このような構成を備えた水性シーラー材として、釉元シーラー(大日本塗料社製)が使用できる。
上記構成において、硬化剤に溶剤メチルイソブチルケトン(MIBK)を含むことが有効である。MIBKが、水性シーラー材の樹脂セメント系硬化材への親和性や含浸性を向上させ、水性シーラー材の塗工性の向上および塗膜の付着性向上に大きく貢献できる。また、MIBKは、水性シーラー材に含まれていても、不快な溶剤臭の発生や環境への悪影響は少ない。
【0019】
主剤と硬化剤とを、主剤:硬化剤=1:0.5〜1:1.5で組み合わせたものが好ましい。主剤と硬化剤とは別々に準備され、水性シーラー材として使用する段階で、均一に混合された状態にする。
水性シーラー材には、前記主剤および硬化剤に加えて、通常のシーラー材に配合される各種添加剤を配合しておくこともできる。例えば、顔料などの着色剤や、体質顔料、補強材等が挙げられる。
〔シーラー材の塗工〕
基本的には通常のシーラー材と同様にして、樹脂セメント系硬化材の表面に塗工される。塗工装置や塗工手順、塗工条件などは、通常のシーラー材と同様の条件範囲内で適切に設定すればよい。
【0020】
塗工方法としては、例えば、ローラー塗装、スプレー塗装、カーテンフロー塗装などが採用できる。
樹脂セメント系硬化材の表面に、水性シーラー材を塗工し乾燥硬化させれば、シーラー層が形成される。水性シーラー材の塗工量を40〜250g/mに設定しておくことができる。水性シーラー材の一部は樹脂セメント系硬化材の内部に浸透したり樹脂セメント系硬化材を構成する樹脂成分などと結合一体化したりする。形成されたシーラー層の厚さを10〜50μmに設定しておく。好ましくは、厚さ20〜30μmである。シーラー層が薄過ぎれば目的とする機能が十分に発揮できず、シーラー層が厚過ぎても不経済である。
【0021】
シーラー材の塗工は、1層だけでも良いし、2層以上を塗り重ねることもできる。複数層のシーラー層で、シーラー材の配合や塗工条件を変えることもできる。例えば、樹脂セメント系硬化材の表面に接触する第1層と、その上に塗工する第2層とで、主剤と硬化剤との配合割合を変えることができる。さらに、第1層は前記特定の水性シーラー材を使用して、その上に塗工される第2層以上には通常の水性シーラー材を用いることもできる。
〔上塗り層〕
樹脂セメント系硬化材の表面に、前記した特定の水性シーラー材によるシーラー層が形成されていれば、その上に形成する上塗り層としては、通常の水性塗料による塗装が問題なく行える。したがって、上塗り層を形成する塗料の種類や配合、塗工条件は特に制限されない。
【0022】
シーラー層の上に形成する上塗り層として、水系アクリルシリコンエマルジョン塗料を塗工することができる。水性シーラー材からなるシーラー層の表面には、水系アクリルシリコンエマルジョン塗料が良好に塗工できる。上塗り層となる上塗り塗料の塗工量を50〜500g/mに設定できる。形成される上塗り層の厚さを25〜250μmに設定できる。
上塗り層として、着色剤を配合した上塗り着色層を形成したあと、その上に、上塗りクリアー層を形成することもできる。
〔セメント系硬化材塗工品〕
セメント系硬化材塗工品としては、前記したシーラー層が形成されているが、上塗り層は形成されていない状態のものであっても、シーラー層および上塗り層の両方が形成されたものであってもよい。
【0023】
例えば、樹脂セメント系硬化材にシーラー層を形成する段階までを、製造工場などで行っておき、シーラー層だけが形成されたセメント系硬化材塗工品を、流通、販売、保管などに供することができる。セメント系硬化材塗工品の使用現場、例えば、建築現場などで、セメント系硬化材塗工品を施工したあと、シーラー層の表面に上塗り層を現場塗装することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかるセメント系硬化材塗工品は、樹脂セメント系硬化材の表面に対して、水性エポキシ樹脂エマルジョン主剤と溶剤型アミン系硬化剤とを含む水性シーラー材を塗工してシーラー層を形成していることにより、水性シーラー材が樹脂セメント系硬化材の表面ではじかれることなく、均一で良好な塗膜層を形成することができる。
形成されたシーラー層が樹脂セメント系硬化材に対して強力に接合される。シーラー層の上に、通常の水性塗料などによる上塗り塗装を施す場合も、前記水性シーラー材からなるシーラー層は、その上に塗工される水性塗料をはじくことなく、品質性能の良好な上塗り塗装が可能になる。
【0025】
その結果、得られたセメント系硬化材塗工品は、建築外装材などに適した美麗で体裁の良い外観意匠性を備えていると同時に、耐候性、防水性などの表面特性の点でも優れた機能を、長期間にわたって良好に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は、建築外装板に利用されるセメント系硬化材塗工品の構造を模式的に示している。
セメント系硬化材塗工品10は、平坦な矩形盤状をなす樹脂セメント系硬化材10の片面に、シーラー層32、上塗り着色層34、上塗りクリアー層36が順次形成されている。図では、層構造を判り易く示すために、寸法比率を大きく変えている。実際には、比較的に薄い板状の樹脂セメント系硬化材10に極めて薄くシーラー層32、上塗り着色層34、上塗りクリアー層36が形成されている状態である。
このような構造のセメント系硬化材塗工品10は、建築物の外壁施工に利用される。外壁を構成する壁躯体や骨組構造、壁下地材や下地桟などの表面に、板状のセメント系硬化材塗工品10を並べて貼付け施工することで、外壁の仕上げ施工を行うことができる。
上塗り着色層34および上塗りクリアー層36が、壁面の外観意匠性を向上させたり、表面の平滑性や耐汚染性、耐候性などを向上させたりする。シーラー層32が、上塗り層34および上塗りクリアー層36の支持機能を果たしたり、上塗り塗料の塗装性や樹脂セメント系硬化材10への密着性などを向上させたりする。
【0027】
セメント系硬化材塗工品10として、シーラー層32のみが形成され、上塗り着色層34、上塗りクリアー層36を有しないものも用いられる。シーラー層32が形成されたセメント系硬化材塗工品10は、輸送、保管などの取り扱い中において、表面がシーラー層32によって良好に保護される。建築現場に搬入し壁面などに施工したあと、上塗り着色層34、上塗りクリアー層36を塗工することができる。
【実施例】
【0028】
本発明のセメント系硬化材塗工品を具体的に製造し、その性能を評価した。
−実施例1−
〔樹脂セメント系硬化材〕
<樹脂セメント系材料の調製>
ポルトランドセメントを20体積部、水を55体積部、ビニルモノマーソリューション〔VMS;ビニルモノマー(スチレン)と乳化剤(ソルビタンモノオレート)とを、前者対後者の体積比率が5:2となるように混合した混合物〕を7体積部、補強繊維(ポリプロピレン繊維)を2体積部、軽量骨材(アルミナシリケートバルーン)を20体積部で配合し、比重1.1のセメント系材料を調製した。
【0029】
<樹脂セメント系材料の成形>
樹脂セメント系材料を押出成形して、縦2000mm×横900mm×厚さ35mmの矩形板状をなす樹脂セメント系成形材を調製した。
<樹脂セメント系成形材の養生硬化>
樹脂セメント系成形体を、最高温度90℃、養生時間24時間で養生硬化させた。
〔水性シーラー材A〕
水性シーラー材Aとして、釉元シーラー(商品名、大日本塗料社製)を用いた。水性シーラー材Aは、以下の諸元を有する。
【0030】
主剤:エポキシ樹脂エマルジョン(エポキシ当量470)、加熱残分30%、pH7.2。
硬化剤:変性ポリアミドアミン(アミン価183)、加熱残分17%、メチルイソブチルケトン20〜30重量%含有。水溶性である。
配合比:主剤と硬化剤と水とを1:1:2(重量比)で混合し、ディスパーで十分に撹拌した。
〔水性シーラー材の塗工〕
樹脂セメント系硬化材の表面から塵埃などの異物を十分に除去したあと、表面温度50〜70℃になるようにプレヒートを行った。
【0031】
十分に撹拌された状態の水性シーラー材Aを、エアレス塗装装置を用いて樹脂セメント系硬化材の表面に塗工した。塗工量は100g/mであった。水性シーラー材は、樹脂セメント系硬化材の表面ではじかれることなく、均一に塗工された。
しばらく放置して、セッティング処理を行ったあと、JET乾燥炉で乾燥させた。乾燥炉出口における表面温度は75〜77℃であった。
形成されたシーラー層の厚さは25μmであった。
〔上塗り塗装〕
シーラー層が塗工された樹脂セメント系硬化材の表面温度が50〜70℃まで冷却されたあと、上塗り着色層として、Vセラン#600N、アーモンドNR(商品名、大日本塗料社製)を、塗布量121g/mで塗工し、前記同様に乾燥させた。厚さ60μmの上塗り着色層が形成された。
【0032】
さらに、上塗り着色層の表面に、30%無機マイカクリヤー(市販品)を、塗布量128g/mで塗工し、前記同様に乾燥させた。厚さ50μmの上塗りクリアー層が形成された。
〔セメント系硬化材塗工品〕
得られたセメント系硬化材塗工品は、通常の建材などに対する塗装性能評価試験を行ったところ、良好な性能を有することが確認された。例えば、初期付着性試験、温水サイクル試験、ASTM−B試験、耐湿試験などで良好な結果が得られた。透水性が155g/m・24hrであった。
【0033】
−比較例1−
前記実施例1において、水性シーラー材Aの代わりに、比較水性シーラー材aを用いて、同様の塗工品を製造した。
比較水性シーラー材a:Vセラン(商品名、大日本塗料社製)。アクリルスチレン樹脂を主体とするアクリル系水性シーラーである。
比較水性シーラー材aは、セメント系硬化材の表面に均一に塗工することが難しかった、塗布量を127g/mに増やすことで塗工はできたが、得られた塗工品における塗膜の付着性が良くなかった。
【0034】
−実施例2−
実施例1において、シーラー層を2層にした。1層目には水性シーラー材Aを用い、2層目には下記の水性シーラー材Bを用いた、
〔水性シーラー材B〕
釉元2号(商品名、大日本塗料社製)を用いた。
主剤:アクリルエポキシ樹脂、加熱残分51%。
硬化剤:変性ポリアミド樹脂、加熱残分25%。
添加剤:白セメント。
【0035】
配合比:主剤と硬化剤と添加剤と水とを、100:4:5:10(重量比)で混合し、ディスパーで十分に撹拌した。
水性シーラー材Aによるシーラー層Aの上に、水性シーラー材Bを塗布量158g/mで塗工した。形成されたシーラー層Bの厚さは100μmであった。
〔セメント系硬化材塗工品〕
シーラー層Bの上には、実施例1と同じ上塗り着色層および上塗りクリアー層を塗工した。上塗り着色層および上塗りクリアー層の塗工も良好に行えた。
得られたセメント系硬化材塗工品は、実施例1と同様に、塗膜の付着性が高いなど、建材などに要求される塗装性能を十分に備えていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のセメント系硬化材塗工品は、例えば、建築外装材として利用できる。住宅の外壁面等に施工されたときに、良好な外観意匠性を発揮すると同時に耐候性や耐汚染性などにも優れた性能を発揮することができ、建築物の商品価値を多いに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態を表すセメント系硬化材塗工品の斜視断面図
【符号の説明】
【0038】
10 セメント系硬化材塗工品
20 樹脂セメント系硬化材
32 シーラー層
34 上塗り着色層
36 上塗りクリアー層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂セメント系硬化材と、
水性エポキシ樹脂エマルジョン主剤と溶剤型アミン系硬化剤とを含む水性シーラー材を、前記樹脂セメント系硬化材の表面に塗工してなる厚さ10〜50μmのシーラー層と
を備えるセメント系硬化材塗工品。
【請求項2】
前記水性シーラー材が、エポキシ当量200〜600のエポキシ樹脂からなる固形分を20〜40重量%を含む水性エマルジョンからなる主剤と、アミン価90〜300の変性ポリアミドアミン10〜20重量%と、溶剤であるメチルイソブチルケトン20〜30重量%とを含む硬化剤とを、主剤:硬化剤=1:0.5〜1:1.5で含む
請求項1に記載のセメント系硬化材塗工品。
【請求項3】
前記樹脂セメント系硬化材が、油性物質である樹脂成分、セメント、水、および、乳化剤を含むW/Oエマルジョンと補強材とを含む樹脂セメント系材料を成形し養生硬化させてなるものである
請求項1または2に記載のセメント系硬化材塗工品。
【請求項4】
水系アクリルシリコンエマルジョン塗料を前記シーラー層の表面に厚さ10〜200μmで塗工してなる上塗り層をさらに備える
請求項1〜3の何れかに記載のセメント系硬化材塗工品。
【請求項5】
請求項4に記載のセメント系硬化材塗工品を製造する方法であって、
前記樹脂セメント系硬化材の表面に、前記水性シーラー材を40〜250g/mの塗工量で塗工して前記シーラー層を形成する工程(a)と、
前記シーラー層の上に、前記水系アクリルシリコンエマルジョン塗料を50〜500g/mの塗工量で塗工して前記上塗り層を形成する工程(b)と、
を含むセメント系硬化材塗工品の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−119295(P2007−119295A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313523(P2005−313523)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(000004673)パナホーム株式会社 (319)
【Fターム(参考)】