説明

セメント系複合体の製造方法およびセメント系複合体

【課題】 セメント系硬化体とタイル材とが強固に接合され、外観意匠性が高いセメント系複合体を、簡単かつ能率的に製造する。
【解決手段】 配筋材が網状に配置された網状補強筋60の上に、セメント系材料を押出成形して、可塑状態の押出成形体10を網状補強筋60に重ねて配置する工程(a)と、前工程(a)のあと、押出成形体10を網状補強筋60に押圧して成形し、網状補強筋60が押出成形体10の内部に埋め込まれたセメント系成形体16を得る工程(b)と、前工程(b)のあと、網状補強筋60が埋め込まれたセメント系成形体16を養生硬化させて、セメント硬化体の内部に網状補強筋60が複合一体化されたセメント系複合体を得る工程(c)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系複合体の製造方法およびセメント系複合体に関し、詳しくは、住宅等の建築物の壁面を構成する建築用外装板などに利用されるセメント系硬化体に別部材が複合化されてなるセメント系複合体を製造する方法と、このような方法で得られるセメント系複合体とを対象にしている。
【背景技術】
【0002】
建築用の外装材として、セメント系硬化材を利用することは良く知られている。機械的強度や耐久性に優れたものとされている。
セメント系硬化材の製造技術として、型枠に流動状態のセメント系材料を流し込んで硬化させる技術が知られている。型枠の内面に凹凸形状を設けておけば、セメント系硬化材の表面に凹凸模様やパターン形状を形成でき、セメント系硬化材からなる外装材の外観意匠性を高めることができる。
セメント系硬化材に、いわゆる鉄筋コンクリートのように、補強のための鉄筋を埋め込んでおく技術も知られている。型枠の内部に縦横に鉄筋を配筋しておき、その上にセメント系材料を流し込んで硬化させれば、セメント系硬化材の内部に鉄筋が埋め込まれて一体化する。セメント系材料のみからなるセメント系硬化材に比べて、機械的強度や耐久性を大幅に向上させることができる。
【0003】
これとは別に、セメント系硬化材の表面に凹凸形状を形成する方法として、セメント系材料を押出成形して平坦な板状の押出成形体を製造した後、押出成形体の表面にプレス成形によって凹凸形状を成形する方法が知られている。
例えば、特許文献1には、セメント含有W/O型エマルジョンからなるセメント系材料を板状に押出成形したあと、プレス成形して、凹凸形状を有するセメント系成形体を製造し、このセメント系成形体を養生硬化させる技術が示されている。
このような押出成形とプレス成形とを組み合わせる技術は、前記した型枠成形技術に比べて、生産性が高く、品質性能も安定しており、高品質のセメント系硬化体を経済的に大量生産するのに適した方法となる。
【特許文献1】特開平5−246747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した押出成形とプレス成形によってセメント系硬化体を製造する技術では、型枠成形によるセメント系硬化体のように、内部に鉄筋を配筋することができない。
押出成形するセメント系材料に、金属繊維などを配合して補強を図ることはできても、鉄筋のような大きな部材をセメント系材料に配合しておくことなど不可能である。押出成形によって、厚みのある板状の押出成形体が形成されてしまえば、もはや、鉄筋を配筋することはできない。したがって、鉄筋を配筋して補強されたセメント系複合体を製造するには、前記した型枠成形技術を採用するしか方法がないと考えられていた。
本発明の課題は、前記した押出成形によるセメント系硬化体の製造技術において、鉄筋などの配筋による補強が施されたセメント系複合体を、作業性良く製造できるようにして、機械的強度などに優れたセメント系複合体を経済的に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかるセメント系複合体の製造方法は、配筋材が網状に配置された網状補強筋の上に、前記セメント系材料を押出成形して、可塑状態の押出成形体を前記網状補強筋に重ねて配置する工程(a)と、前工程(a)のあと、前記押出成形体を前記網状補強筋に押圧して成形し、網状補強筋が押出成形体の内部に埋め込まれたセメント系成形体を得る工程(b)と、前工程(b)のあと、前記網状補強筋が埋め込まれたセメント系成形体を養生硬化させて、前記セメント硬化体の内部に前記網状補強筋が複合一体化されたセメント系複合体を得る工程(c)とを含む。
〔セメント系材料〕
セメント系硬化体の主材料となるセメント系材料は、通常のセメント系硬化製品と同様の材料や配合、製造技術が適用できる。
【0006】
油性物質と水とのW/Oエマルジョンおよびセメントを含むものが好ましい。油性物質として重合性の油性物質が好ましい。
具体的には、例えば、前記特許文献1(特開平5−246747号公報)や特開2002−47040号公報に記載の技術が適用できる。
<セメント>
セメント系硬化体の基本的な機械的強度などの特性を決める材料である。通常のセメント材料が使用できる。例えば、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメントなどが挙げられる。複数種類のセメントを併用することもできる。
【0007】
セメント系材料中(水を含めたセメント系材料の全量中)に、10〜40体積%を配合しておくことができる。好ましくは、15〜30体積%である。
<重合性の油性物質>
水とW/Oエマルジョンを形成できる油性物質の中で、重合性の物質が使用される。重合性の油性物質は、養生硬化工程において重合反応により重合し、水和硬化するセメントとともにセメント系硬化体の骨格構造を構築する。セメント系硬化体の骨格構造が良好に構築されることで、養生硬化に伴う寸法収縮が起こり難くなる。
油性物質としては、疎水性の液状物質が、水とW/Oエマルジョンを形成し易い。
【0008】
重合性の油性物質の具体例として、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等の重合性二重結合を有するもの(ビニル単量体)が有用である。重合性二重結合を有する油性物質の重合反応とセメントの水和反応とが同時に良好に進行して、前記したセメント系硬化体の骨格構造が良好に形成される。
油性物質の重合体が、前記セメントとともに、セメント系硬化体の骨格構造を構築し、基本的な特性を決めることになる。セメント系硬化体の物理的特性や表面性状などを改善する機能を果たす。セメント系硬化体の用途や要求性能、使用する油性物質の種類によっても異なるが、通常、セメント系材料中に、4〜10体積%を配合しておくことができる。好ましくは、5〜7体積%である。
【0009】
重合性の油性物質の重合反応を促進させるために、重合性の油性物質とともに、有機過酸化物や過硫酸塩等からなる重合開始剤を併用することができる。
<W/Oエマルジョン>
W/Oエマルジョンは、油中水滴型エマルジョンとも呼ばれ、油性物質の連続相に微細な水粒子が分散している状態である。
このようなW/Oエマルジョンが構成されるように、水および重合性の油性物質を配合し、撹拌混合することで、目的のW/Oエマルジョンが得られる。
油性物質として、前記した重合性の油性物質以外の油性物質を配合しておくことができる。水に加えて、他の液体あるいは固体粒子を配合しておくこともできる。セメントは、微細な固体粒子として、W/Oエマルジョン中に分散させておくことができる。
【0010】
W/Oエマルジョンを調製したあと、セメントなどの他の材料を混合することもできるし、水および油性物質に加えて他の材料も混合した状態で、エマルジョン化処理を行うこともできる。
<乳化剤>
W/Oエマルジョンの形成を促進させるために、乳化剤を配合しておくことが有効である。
乳化剤としては、通常のエマルジョン技術において使用されている乳化剤が使用できる。油性物質と水とのW/Oエマルジョン形成に有効で、セメント系材料の成形や養生硬化に悪影響を与え難く、セメント系硬化体の品質性能を損なわない材料が好ましい。
【0011】
乳化剤の具体例として、ソルビタンセスキオレート、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ジエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセロールモノオレート等の非イオン性界面活性剤、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等が挙げられる。
乳化剤の使用量は、油性物質と水との配合割合や要求性能によっても異なるが、通常、セメント系材料における水と固形分との総量に対して1〜3体積%の範囲に設定できる。
<補強材>
セメント系硬化体の機械的強度などの物理的特性を向上させるのに有用である。
【0012】
通常のセメント系硬化体の製造に利用されている各種の補強材が使用できる。具体的には、いわゆるセメント用の骨材として知られている材料がある。補強繊維として知られている材料がある。補強繊維として、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維等の合成繊維や、炭素繊維、ガラス繊維、パルプなどがある。砂利、パーライト、シラスバルーン、ガラス粉、アルミナシリケートなどの無機粒子も使用される。多孔質状あるいは中空状の無機粒子もある。
これらの補強材は、セメント系材料の全量に対して0.5〜10体積%程度で配合できる。
【0013】
<その他の材料>
通常のセメント系硬化材の製造に利用される添加材料を組み合わせることができる。例えば、着色剤などが挙げられる。
<セメント系材料の調製>
基本的には、以上に説明したセメント系材料を構成する各材料を均一に撹拌混合すればよい。各材料を同時に撹拌混合してもよいし、一部の材料を撹拌混合した後、残りの材料を加えてさらに撹拌混合することもできる。
水と油性物質とのW/Oエマルジョンが良好に形成されるように、製造装置、製造条件を設定することが望ましい。
【0014】
攪拌装置として、ディゾルバー、スクリューラインミキサー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、プラネタリーミキサー、スタティックミキサー、ナウターミキサー、リボンブレンダー、タンブルミキサー、パドル式ミキサー等が使用できる。
W/Oエマルジョンにセメントや補強材が配合されたりして粘性が増大した材料は、混練装置で混練することが有効である。連続混練装置として、連続ニーダー、二軸押出機等が使用できる。
〔網状補強筋〕
セメント系硬化体の機械的強度や耐久性を向上させる補強機能を果たす。
【0015】
基本的には、従来の型枠成形技術で使用されていた補強用の配筋構造と共通する技術が適用できる。
網状補強筋を構成する配筋材の材料は、鉄鋼などの機械的強度の高い金属材料が使用できる。炭素材料やセラミック材料なども使用できる。セメント系材料との接触によって腐蝕したり劣化したりし難い材料が好ましい。
配筋材は、前記材料で棒状あるいは線状に形成されている。配筋材の断面形状は、通常は円形であるが、矩形や六角形などの多角形、楕円などの曲面形のものも使用できる。長さ方向で部分的に断面形状が変化していたり、突起が設けられてあったりするものも使用できる。配筋材の口径は、その材質、セメント系複合体の形状寸法や要求性能などによっても異なるが、通常、口径2〜6mmの範囲に設定できる。
【0016】
網状補強筋は、前記配筋材を網状に構成した面状体である。直線状の配筋材を、縦横に間隔をあけて平行に配置すれば、格子網状になる。配筋材を斜め方向にも配置することができる。直線状の配筋材を屈曲させたり捻ったり湾曲させたり束ねたりして、様々の形態の網構造を構成することもできる。配筋材を渦巻状や同心円状などの曲線状に配置することもできる。網状補強筋において、隣接する配筋材同士の間隔を、3〜15cmに設定できる。この間隔が狭過ぎると、押圧成形の際に、押出成形体の内部に配筋材を埋め込むことが難しくなる。間隔が広過ぎると、補強機能が十分に果たせない。配筋材は、材質、断面形状、口径などの違うものを複数種類で組み合わせて使用することもできる。
【0017】
網状補強筋を構成する配筋材同士は、互いに交差するところで、金属線材によって縛ったり、溶接で接合したり、金具で連結したりして、結合一体化させておく。網状補強筋が、全体としての形状を維持し協働して荷重を負担できるようにしておく。
網状補強筋の全体形状は、セメント系複合体あるいは押出成形体の形状に合わせて設定される。通常は矩形の平面状をなす。外形は矩形以外の多角形状や曲線形状もある。平面状でなく、湾曲面形状や屈曲面形状であってもよい。
網状補強筋には、別の部品や部材を付設しておくこともできる。例えば、セメント系複合体を別の部材に取り付けたり、セメント系複合体に別の部材を取り付けたりするための取付部材がある。取付部材には、孔や溝、ねじ、フックなどの取り付け構造を備えておくことができる。ボルトや連結継手部品などを利用することもできる。板材や枠材を用いることもできる。押出成形体とともに押圧成形する際に、網状補強筋の位置や姿勢を決めて位置ずれを防ぐ支持部材がある。配線や配管を通す管や溝材がある。
【0018】
このような網状補強筋に付設する部材は、網状補強筋のうち、押出成形体と重ねたときに押出成形体の反対になる側に配置しておけば、押出成形体に網状補強筋を埋め込み易い。
〔取付枠材〕
網状補強筋に付設する別の部材として、セメント系複合体を別の構造に取り付けるための取付手段となる取付枠材がある。
取付枠材としては、従来の建築用外装材やセメント系硬化体においても、施工時に壁構造などに取り付けるために利用されていた取付部材の構造や取付技術が適用できる。
【0019】
取付枠材として、断面形状がC字形などをなす溝形鋼材が使用できる。溝形状に取付金具や取付ボルトなどを係合あるいは嵌合することで、取付機能を果たすことができる。溝形鋼材は、長さ方向の任意の位置において前記取付機能を果たすことができ、便利である。取付枠材の材料として、鋼以外にアルミなどの金属材料も使用できる。合成樹脂やFRP樹脂、セラミックなども使用できる。
取付枠材は、網状補強筋に対して、間隔をあけて複数個所に配置することができる。取付枠材の配置間隔を、セメント系複合体を取り付ける構造側の取付位置の設定間隔に対応させておくことができる。例えば、取付枠材をピッチ間隔30〜100cmで配置しておける。
【0020】
取付枠材は、網状補強筋に対して、前記した網状補強筋の製造と同様に、溶接や締結金具、金属線による締結などの固定手段で取り付けておくことができる。
〔押出成形〕
基本的には、通常のセメント系材料に対する押出成形技術が適用される。
押出成形装置に供給されたセメント系材料を押出ダイから押し出すことで、押出ダイのダイ形状に対応する押出成形体が得られる。セメント系材料の押出成形を断続的に行ったり、連続的に押出成形して得られた連続押出成形体を所定寸法毎に裁断したりすることで、所定の寸法形状の押出成形体が得られる。
【0021】
この押出成形を、網状補強筋の上で行い、押出成形された押出成形体が、網状補強筋に重ねて配置されるようにする。
押出成形体の形状は、網状補強筋の外形と同じか少し大きな形に設定しておくことができる。通常は、網状補強筋と相似形である。押出成形体の一部のみに網状補強筋を配置する場合は、網状補強筋とは異なる形状であってもよい。一般的には、矩形状の押出ダイで押出成形される矩形厚板状のものである。
押出ダイの細部形状を変えることで、矩形厚板に長さ方向の凹溝や凸条を有するものなども形成できる。押出ダイの断面形状を、屈曲板状や湾曲板状にすれば、断面形状が屈曲板状や湾曲板状をなす押出成形体も得られる。この場合、網状補強筋も屈曲網状や湾曲網状をなすものが使用される。
【0022】
押出成形体は、可塑状態であり、容易に変形することができる。また、押出成形体は網状補強筋と当接しているが、接合されているわけではない。
〔押圧成形および網状補強筋の埋め込み〕
押出成形体を、網状補強筋に押圧して成形し、網状補強筋が押出成形体の内部に埋め込まれたセメント系成形体を得る。
基本的には、通常のプレス成形技術が適用できる。特に、別部品を埋め込んだ状態でプレス成形を行う技術が採用できる。
成形装置は、通常、固定型と、固定型に対して型閉め型開き動作を行う可動型とで構成される。可動型を押圧型と呼ぶこともある。固定型および可動型の対向面には、所望の凹凸形状に対応する型面を設けておくことができる。
【0023】
下方に配置された固定型に、網状補強筋および押出成形体を配置し、その上方に配置された可動型を昇降移動させ、可動型にプレス圧力を加えれば、押出成形体を押圧成形することができる。
押出成形体は、その外周表面が当接する可動型および固定型の型面の表面形状にしたがって成形される。網状補強筋の上に載っていた押出成形体が、網状補強筋を構成する個々の配筋材に対して、周囲の隙間あるいは空間に押し込まれたあと、配筋材の裏側にまで回り込む。その結果、押出成形体の内部に網状補強筋が埋め込まれる。
内部に埋め込まれるとは、網状補強筋が実質的に押出成形体の内部に隠れて表裏面の何れにも露出していない状態である。但し、押出成形体の端面に網状補強筋の端部が露出している程度の部分的な露出状態は含まれる。
【0024】
網状補強筋が、固定型の表面との間に間隔を有するように配置しておけば、網状補強筋の裏側まで押出成形体が回り込み易く、網状補強筋が押出成形体の内部へ埋め込まれ易い。網状補強筋と固定型との間隔を適切に設定しておくことで、押出成形体の厚み方向で適切な位置に網状補強筋を埋め込むことができる。網状補強筋と固定型との間隔を保持する手段として、網状補強筋の底面に支柱や支持部材を突き出しておくことができる。
網状補強筋の底面に取付枠材が配置されていれば、取付枠材が網状補強筋と固定型との間隔を設定する機能を果たす。この場合、取付枠材は、その底面が固定型の表面に当接するので、押出成形体に対して埋め込まれるのは、底面を除く部分になる。押出成形体が押圧成形されたセメント系成形体の表面に取付枠材の一面が露出した状態になる。
【0025】
押圧成形の際のプレス圧力を0.5〜1.0MPaに設定できる。プレス圧力が小さ過ぎると、押出成形体を十分に成形できず、網状補強筋の埋め込みも十分にできなくなる。プレス圧力が大き過ぎると、網状補強筋を変形させたり埋め込み位置が変わってしまったりする。
押圧成形では、網状補強筋を押出成形体に埋め込むだけでなく、押出成形体の外形状に所望の成形を加えることができる。例えば、セメント系複合体を建築外装材に使用する際の取付構造や連結構造となる凹凸形状を成形することができる。このような凹凸形状は、押圧成形装置の可動型または固定型の型面形状によって決められる。
【0026】
養生硬化を行う前のセメント系成形体に、切削や孔明けなどの追加の加工を施しておくことができる。硬化前のセメント系成形体のほうが、加工が行ない易い場合がある。網状補強筋に、取付枠材などの別部材が付設されていた場合、これらの別部材に有する溝や穴に浸入したセメント系材料を取り除いたり、表面を覆うセメント系材料を取り除いて露出させたりする処理を施すこともできる。
〔養生硬化〕
基本的には、通常のセメント系成形体の養生硬化処理と共通する技術が適用できる。
具体的には、単なる自然養生のほか、加熱養生、蒸気養生、オートクレーブ養生などが採用できる。網状補強筋が耐熱性を有する材料からなるものであれば、養生処理における加熱に対して十分に耐えることができる。
【0027】
養生条件は、セメント系材料の配合やセメント系硬化体に要求される性能などによっても異なるが、通常、40〜100℃で20〜48時間の範囲に設定される。養生工程の途中で、温度を段階的あるいは連続的に変えることもできる。
〔セメント系複合体〕
セメント系成形体の養生硬化が終了すれば、セメント系硬化体が得られる。セメント系硬化体は、網状補強筋と複合一体化されて、セメント系複合体となる。
セメント系複合体には、必要に応じて、各種の後加工や後処理工程を行うこともできる。例えば、表面に塗装やコーティングを施したり、切削や孔明け加工を施したり、別の部品を取り付けたりすることができる。
【0028】
セメント系複合体は、セメント系硬化体が採用されていた各種用途に使用することができる。例えば、建築用外装材などの建材、舗装材や壁面材などの土木資材が挙げられる。従来のセメント系硬化体では強度不足で使用できなかった各種の建築土木用途にも使用できるようになる。従来、型枠成形で製造されていた鉄筋埋め込みセメント系複合体の用途にも使用できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明にかかるセメント系複合体の製造方法は、網状補強筋の上にセメント系材料を押出成形したあと、押出成形体を網状補強筋に押圧して成形することで、成形されたセメント系成形体の内部に網状補強筋を埋め込んでしまうことができる。網状補強筋を埋め込んだセメント系成形体を養生硬化させれば、セメント系硬化体の内部に網状補強筋が埋め込まれたセメント系複合体が得られる。
従来の押出成形によるセメント系硬化体の製造技術では不可能であった網状補強筋の埋め込みが、押出成形とプレス成形という一般的な成形技術を組み合わせるだけで、極めて容易に達成することができる。生産性が高く、品質性能の安定したセメント系複合体を経済的に製造することができる。
【0030】
セメント系複合体は、網状補強筋が埋め込まれて複合一体化しているので、単なるセメント系硬化体に比べて、格段に機械的強度や耐変形性、衝撃や振動に対する耐久性などが向上する。その結果、従来の押出成形によるセメント系硬化体では性能不足で使用できないと考えられていた用途にも適用可能になる。セメント系硬化体の用途および需要の拡大に大きく貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1〜4に示す実施形態は、建築物の壁面仕上げに使用される建築外装板を製造する。
〔網状補強筋および取付枠材の準備〕
図1に示すように、網状補強筋60は、断面円形で口径5mmの鉄筋62を、縦横に10cmのピッチ間隔で平行に配置し格子状に組み立てた網状をなしている。縦横の鉄筋62同士の交差個所は、金属線で縛ったり溶接したりして固定されている。補強配筋材60の全体形状は、長さ250cm、幅80cmの矩形網板状をなす。
取付枠材70は、C字形の溝型鋼材からなり、矩形状をなす網状補強筋60の幅方向に沿って配置されている。網状補強筋60の長さ方向に間隔をあけて、複数本の取付枠材70が配置されている。取付枠材70の長さは、網状補強筋60の幅よりも少し広くなっている。これは、網状補強筋60はセメント系複合体の内部に完全に埋め込まれた状態になるのに対し、取付枠材70は、両端がセメント系複合体の側端まで延びた状態に配置されるようにするためである。
【0032】
図1(b)に示すように、取付枠材70は網状補強筋60の底面側に溶接などで固定されている。取付枠材70のC形の開口が、網状補強筋60の側ではなく外側を向いており、網状補強筋60の底面に取付枠材70の開口が露出した状態になっている。
例えば、前記寸法の網状補強筋60に対して、取付枠材70の具体例として、断面形状が幅2.5cm、高さ1.2cm、肉厚1.6mmのC字形をなし、長さ88cmの溝型鋼材を、ピッチ間隔100cmで合計3本を配置しておくことができる。
〔押出成形〕
図2に示すように、網状補強筋60および取付枠材70を、薄鋼板からなる敷板24の上に載せた状態で、支持台22の上に送り込む。網状補強筋60は、取付枠材70の高さ分だけ、敷板24の表面から浮き上がった状態になっている。
【0033】
この状態で、押出成形装置20の押出ダイ21からセメント系材料を板状に押し出す。押出成形装置20の押出ダイ21に対して、支持台22を水平方向に移動させることで、網状補強筋60の表面全体を覆うように、帯状に連続する厚板状の押出成形体10が押出成形される。押出成形体10は、網状補強筋60の長さに相当する所定の長さで裁断される。得られた押出成形体10の表面は平坦である。押出成形体10は、いまだ柔軟で可塑状態であり、表面は粘着性を示す。押出成形体10の平面外形は、網状補強筋60の平面外形よりも少し大きくなるように設定される。押出成形体10の幅を取付枠材70の長さと同じ程度に設定する。例えば、長さ300cm、幅90cm、厚み40mmの押出成形体10を得る。
【0034】
押出成形体10は、網状補強筋60の上に載った状態になる。押出成形体10の底面は、敷板24との間に隙間があいている。押出成形体10の自重によって、押出成形体10の底面が網状補強筋60に少しめり込んだ状態になることがある。
〔プレス成形〕
図3(a)に示すように、プレス成形装置は、下方に配置される固定盤32と、上方に配置され昇降自在なプレス盤30とで構成される。固定盤32の上面は平坦である。プレス盤30の下面には、樹脂型34が取り付けられ、樹脂型34の下面には、凹凸形状が設けられている。
【0035】
固定盤32の上に、押出成形体10、網状補強筋60および取付枠材70を載せた敷板24を送り込む。
図3(b)に示すように、プレス盤30を下降させ、押出成形体10の上から押圧する。例えば、0.8MPaのプレス圧を加える。押出成形体10が、樹脂型34の型面形状にしたがってプレス成形されて、表面に凹凸意匠を有するセメント系成形体16が得られる。
このとき、押出成形体10が下方に押圧されると、柔らかい押出成形体10に、網状補強筋60を構成する個々の細い鉄筋62が、めり込むように埋め込まれる。押出成形体10は、樹脂型34によって上から下へと押圧されるだけでなく、樹脂型34の外周形状で周囲への拡がりが規制されているので、内側へもプレス圧力が加わる。そのため、押出成形体10が、網状補強筋60の位置を超えた部分で、押出成形体10は、網状補強筋60の裏側の空間へも回り込むように成形される。配筋材62は、上下左右の全周を押出成形体10で完全に囲まれて、押出成形体10の内部に埋め込まれた状態になる。押出成形体10の厚みの中央付近に網状補強筋60が配置される。押出成形体10の側端からも網状補強筋60は露出していない。
【0036】
網状補強筋60の底面側に存在する取付枠材70は、周囲を押出成形体10に囲まれる。取付枠材70の底面は敷板24に当接しているので、取付枠材70の開口から溝内部までは押出成形体10が入り込むことはない。取付枠材70は、押出成形体10に埋め込まれた状態で、押出成形体10の底面と同じ面に取付枠材70の開口が配置される。取付枠材70の長さ方向の端面は、押出成形体10の幅方向の端面と同じ位置で露出した状態になる。
このようにして、押出成形体10に網状補強筋60および取付枠材70が埋め込まれて一体化されたセメント系成形体16が得られる。セメント系成形体16の上面には、樹脂型34の型面形状に対応する凹凸形状が形成されている。
【0037】
セメント系成形体16は、内部に網状補強筋60、底面に取付枠材70を埋め込んだままで、次の工程に送られる。この間の取り扱いは、敷板24に載せたままで行なえば、まだ変形性のあるセメント系成形体16が、形崩れすることを良好に防止できる。
〔養生硬化〕
セメント系成形体16を、通常の養生処理工程に送って、養生硬化を行う。網状補強筋60および取付枠材70は、十分な耐熱性を有するので、強制加熱を伴う蒸気養生やオートクレーブ養生なども行える。
セメント系成形体16が養生硬化する過程で、セメント系成形体16と網状補強筋60および取付枠材70とが強力に接合一体化する。
【0038】
〔セメント系複合体〕
図4に示すように、セメント系成形体16が養生硬化したセメント系硬化体18と、網状補強筋60および取付枠材70とが複合一体化されたセメント系複合体Pは、全体がパネル状をなし、表面には、プレス成形された矩形台状の凹凸模様が形成されている。外観意匠性の優れたものとなり、建築物の外装壁面の仕上げなどに好適に利用される。
セメント系硬化体18の内部に網状補強筋60が埋め込まれている。網状補強筋60で補強されたセメント系硬化体18からなるセメント系複合体Pは、機械的強度や耐久性が格段に向上しており、外壁の仕上げ部材として、地震等の大きな外力に対しても極めて強靭で、割れたりヒビが入ったりすることがなくなる。十分な機械的強度や耐力があるので、建築物の構造強度を負担する耐力壁としても使用できる場合がある。
【0039】
セメント系複合体Pの施工取り付けには、セメント系複合体Pの裏面に存在する取付枠材70が利用できる。
図5に示すように、セメント系複合体Pを、建築物の梁や柱などの構造部材86の表面に配置し、構造部材86と、セメント系複合体Pの取付枠材70とを、L字形の取付金具84で連結する。取付金具84は、構造部材86に溶接などで固定されている。ボルト82の頭を取付枠材70の溝の開口から内側に挟み込むようにして、ボルト82のねじ軸を取付金具84に挿通し、取付金具84の外側でナット83を締め付ければ、取付金具84に取付枠材70が固定される。セメント系複合体Pが構造部材86に強固に取付固定されることになる。
【0040】
このように、取付枠材70を利用することで、セメント系複合体Pの取付施工が簡単に行なえる。例えば、セメント系複合体Pに取付孔を開けたり、金具を取り付けたりする作業の手間が不要になる。取付枠材70は、セメント系複合体Pの製造過程でプレス成形時に網状補強筋60とともに一体に埋め込まれたものであるから、接着剤などで金具を取り付けるのに比べても、セメント系複合体Pとの一体性が極めて高い。施工後に取り付けが緩んだり脱落したりすることはない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の製造方法は、例えば、建築物の壁面仕上げに施工される建築用外装板の製造に適用できる。網状補強筋で補強され機械的強度や耐久性が格段に向上したセメント系複合体からなる建築外装板を、簡単かつ能率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態を表し、網状補強筋および取付枠材の平面図(a)と要部拡大断面図(b)
【図2】押出成形工程を示す断面図
【図3】プレス成形工程を段階的に示す断面図
【図4】セメント系複合体の斜視断面図
【図5】セメント系複合体の施工状態を示す要部拡大断面図
【符号の説明】
【0043】
10 押出成形体
16 セメント系成形体
18 セメント系硬化体
20 押出成形装置
21 押出ダイ
22 支持台
30 プレス盤
34 樹脂型
32 固定盤
60 網状補強筋
62 配筋材
70 取付枠材
P セメント系複合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系材料からなるセメント系硬化体を主体とするセメント系複合体を製造する方法であって、
配筋材が網状に配置された網状補強筋の上に、前記セメント系材料を押出成形して、可塑状態の押出成形体を前記網状補強筋に重ねて配置する工程(a)と、
前工程(a)のあと、前記押出成形体を前記網状補強筋に押圧して成形し、網状補強筋が押出成形体の内部に埋め込まれたセメント系成形体を得る工程(b)と、
前工程(b)のあと、前記網状補強筋が埋め込まれたセメント系成形体を養生硬化させて、前記セメント硬化体の内部に前記網状補強筋が複合一体化されたセメント系複合体を得る工程(c)と
を含むセメント系複合体の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)において、前記網状補強筋の底面側に、前記セメント系複合体の取付手段となる取付枠材を配置しておき、
前記工程(b)において、前記押出成形体を前記網状補強筋および前記取付枠材に押圧して成形し、網状補強筋が押出成形体の内部に埋め込まれ、取付枠材が押出成形体の表面に露出する状態で埋め込まれたセメント系成形体を得、
前記工程(c)において、前記網状補強筋が前記セメント硬化体の内部に埋め込まれ、前記取付枠材がセメント硬化体の表面に露出する状態で埋め込まれて、複合一体化されたセメント系複合体を得る
請求項1に記載のセメント系複合体の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)において、前記網状補強筋として、口径2〜6mmの鉄筋からなる配筋材が、3〜15cm間隔で縦横に間隔をあけて格子状に配置された網状補強筋を用い、前記取付枠材として、C形の溝形鋼材をその開口を網状補強筋の外側に向けた姿勢で30〜100cm間隔で平行に並べて配置しておき、
前記セメント系材料として、セメント、水、油性物質および乳化剤を含むW/Oエマルジョン、ならびに、補強材を含むセメント系材料を用い、
厚さ10〜50mmの板状をなす前記押出成形体を押出成形し、
前記工程(b)において、前記押出成形体をプレス圧力0.5〜1.0MPaで押圧して成形し、
前記工程(c)において、養生温度40〜100℃で20〜48時間をかけてセメント系成形体を養生硬化させる
請求項2に記載のセメント系複合体の製造方法。
【請求項4】
前記工程(b)において、前記押出成形体の表面に凹凸意匠を成形する
請求項1〜3の何れかに記載のセメント系複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかの製造方法で得られ、
厚板状をなすセメント系硬化体と、
前記セメント系硬化体の内部に埋め込まれた前記網状補強筋とを備え、
建築用外装板となる
セメント系複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−327041(P2006−327041A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154198(P2005−154198)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000004673)パナホーム株式会社 (319)
【Fターム(参考)】