説明

セメント系階段

【課題】構成が簡単で生産効率が高く、しかも、廃棄時の分別も簡単なセメント系階段を提供すること。
【解決手段】段板(20)がその両端で、雄部材と雌部材によるネジ連結を利用して、ササラ桁(10)に固定されてなるセメント系階段であって、段板(20)が曲げ載荷に際して多重亀裂を生じて破壊する性質を示すセメント系押出成形体からなり、押出方向に少なくとも2以上の貫通孔(25)を有し、押出成形後に該貫通孔(25)内にインサート筋(30)が挿通固定され、インサート筋(30)が棒材(31)の両端に、上記雄部材または雌部材の一方を有する連結部(32a、32b)を備えてなり、連結部(32a、32b)が有する雄部材または雌部材に対して、他方の雌部材または雄部材(50)を係合させることにより、段板(20)とササラ桁(10)を連結固定したことを特徴とするセメント系階段。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメント系階段に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば集合住宅の野外部分に設置する階段の構造として、図6の分解図に示したものが従来から知られている。
この階段構造は、ササラ桁(または側桁)と呼ばれる細長い板状の支持材10を両側に配置し、その間に多数の段板20’を挟持して、階段を構成している。
【0003】
各段板20’は、その端面から突出するボルト30’を備えている。一方、ササラ桁10にはボルト30’を通すボルト孔11が形成されていて、ボルト30’をボルト孔11に通し、ナット(不図示)を用いて両者を固定する。なお、段板20’側にナットを埋め込んでおいて、ササラ桁10の外側からボルト孔11にボルトを通して両者を連結してもよい。
【0004】
セメント系材料を用いてこのような段板20’を製造する場合、従来より、「押出成形」が多く利用されている。「型成形」は、「押出成形」と比べて生産効率が低く、大量生産には適さないからである。
【0005】
例えば、特許文献1では、モルタル材料から押出成形によって踏板を形成しており、押出成形の際、細長い棒状の補強杆が踏板内に埋設される。補強杆の両端には、ナットとして機能する螺管が固定されていて、ササラ桁のボルト孔に通したボルトをこの螺管に連結することで、踏板がササラ桁に連結される。
しかし、踏板を押出成形する際、踏板の端面と螺管の端面とが面一になるように位置合わせすることが必要となるが、これを正確に行うことは難しい。
このように、押出成形は、生産効率が高く大量生産に適しているが、押出成形の際に埋設されるナット(あるいはボルト)の位置合わせが難しいという問題がある。
【0006】
また例えば、特許文献2では、押出成形の際に踏板内部にナットを埋設するのではなく、押出成形後に外部からナットを挿入している。すなわち、長手方向に沿う貫通孔を有する踏板を押出成形した後、貫通孔内に外部から筒状ナットを嵌入して、接着剤を用いて固定している。
しかし、廃棄の際にコンクリート材と金属のナットとを分別する作業が厄介なものとなる。
【0007】
そこで、「押出成形」ではなく「型成形」を利用して踏板を構成することも考えられ、その場合には、プレキャストで、埋設するナットやボルトの位置合わせは容易に行うことができるが、「型成形」は生産効率が悪く、また、廃棄の際にコンクリート材と金属のナットあるいはボルトを分別する作業がやはり厄介である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−119269号公報
【特許文献2】特開平4−166546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、構成が簡単で生産効率が高く、しかも、廃棄時の分別も簡単なセメント系階段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、段板(20)がその両端で、雄部材と雌部材によるネジ連結を利用して、ササラ桁(10)に固定されてなるセメント系階段であって、
段板(20)が曲げ載荷に際して多重亀裂を生じて破壊する性質を示すセメント系押出成形体からなり、押出方向に沿って少なくとも2以上の貫通孔(25)を有し、押出成形後に該貫通孔(25)内にインサート筋(30)が挿通固定され、
インサート筋(30)が棒材(31)の両端に、上記雄部材または雌部材の一方を有する連結部(32a、32b)を備えてなり、
連結部(32a、32b)が有する雄部材または雌部材に対して、他方の雌部材または雄部材を係合させることにより、段板(20)とササラ桁(10)を連結固定したことを特徴とするセメント系階段に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセメント系階段においては、貫通孔を備えた状態で押出成形された段板に対して、当該段板の貫通孔にインサート筋を挿通固定している。したがって、段板とインサート筋との位置合わせが簡単である。
また、プレキャスト(型成形)を利用しなくてもインサート筋の位置合わせが容易であることから押出成形体を段板として利用しているので、型成形を用いる場合よりも生産効率が高い。
さらに、インサート筋が両端に有する連結部によって段板とササラ桁とを連結固定するので、廃棄時の分別が簡単である。
しかも、段板の貫通孔にはインサート筋が挿通固定され、かつ段板は曲げ載荷に際して多重亀裂を生じて破壊する性質を示すセメント系押出成形体からなるので、段板が十分な強度を有する。
【0012】
貫通孔の横断面形状を非円形とし、かつインサート筋の連結部の横断面形状を貫通孔内に収まる形状とすることにより、貫通孔内でのインサート筋の回転(ネジ止め作業時の空転)を防止できる。その場合、接着剤等を利用して、インサート筋を貫通孔内に固定する必要はない。さらに、貫通孔とインサート筋との隙間に接着剤を注入しておくことにより、貫通孔内でのインサート筋のガタつきを防止でき、しかも貫通孔とインサート筋とのより強固な固定を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るセメント系階段の構造を説明するための分解図。
【図2】本発明の一実施形態に係る段板を説明するための斜視図。
【図3】段板に挿通固定されるインサート筋を説明するための図。
【図4】本発明におけるインサート筋の回転防止手段の一例を説明するための図。
【図5】図2の段板をササラ桁に固定する態様を説明するための要部斜視図。
【図6】従来の階段の構造を説明するための分解図。
【図7】参考例1で製造した段板の横断面形状およびサイズを説明するための図。
【図8】参考例1、実施例1および比較例1〜2で行った曲げ強度の測定結果を示すグラフ。
【図9】曲げ強度の測定方法を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を添付の図面を参照して以下に詳細に説明する。
本発明に係るセメント系階段は、例えば図1に示すように、1以上の段板20がその両端で、ササラ桁10に連結・固定されてなるものである。段板20とササラ桁10との連結・固定は、ササラ桁10のボルト孔11を介した、係合部材50と、段板20の貫通孔内のインサート筋30が両端に備えた連結部(32a、32b)とのネジ係合により達成される。
【0015】
(段板)
図2は、段板20の一例を示す斜視図である。段板20は、押出方向に沿ってその全長に渡って延びる貫通孔25を有してなり、ここにインサート筋30が挿通固定される。インサート筋30は、段板20を押出成形した後で、貫通孔25内に挿通固定される。このように、本発明では、貫通孔25を有する段板20をまず押出成形した後で、外部からインサート筋30を挿通固定するので、段板20に対するインサート筋30の位置決めが簡単である。したがって、押出成形による高い生産効率を確保しながらも、インサート筋30の位置決めを簡単に行うことができる。
【0016】
段板20は、図2に示すような踏板21と蹴込板22を一体的に備えてなる押出成形体であってもよいし、または踏板21のみからなる押出成形体であってもよい。使用する材料は後で詳述する水硬性セメント組成物を用いる。
【0017】
貫通孔25はインサート筋30を挿通させるためのものである。貫通孔25の数は段板1つあたり少なくとも2以上である。貫通孔25の数は、段板20、特に踏板21の奥行きに応じて適宜設定されてよく、例えば、踏板21の奥行きが300mmの場合、貫通孔25の数は段板1つあたり2〜4、特に2〜3が好ましい。
【0018】
貫通孔25は踏板21および蹴込板22それぞれにおいて1以上で形成されてよいが、蹴込板22には貫通孔が形成されなければならないというわけではない。通常は踏板21において2以上の貫通孔が形成されることが好ましい。
【0019】
貫通孔25のサイズは、インサート筋30の挿通が達成される限り特に制限されず、例えば段板の強度の観点からは、踏板の厚みをtとしたとき、貫通孔25における踏板厚み方向の長さは0.2t〜0.7tが好適である。
【0020】
貫通孔25の横断面形状は特に制限されず、例えば、円形であってもよいし、楕円形や多角形や星形等の非円形であってもよい。段板20は押出成形されるものであって、貫通孔25はその際に同時に形成されるので、貫通孔25は、全長に渡って一定の横断面形状を有する。
本明細書中、横断面形状とは、押出方向に対して垂直な断面における形状のことである。
【0021】
段板20は押出方向に沿って軽量化のための貫通孔26を有してもよい。軽量化用貫通孔26の横断面形状は特に制限されず、例えば、図2に示すような楕円形であってもよいし、円形であってもよい。図2において横断面形状が楕円形である全ての貫通孔が軽量化のための貫通孔26である。
【0022】
段板20のサイズは特に制限されるものではなく、例えば登り降りの容易さと軽量化と強度とのバランスの観点から、踏板21の奥行きは150〜500mm、踏板21の厚みは40〜80mm、踏板21の全幅は600〜1500mm、蹴込板22の高さは100〜300mm、蹴込板22の厚みは20〜80mmが好適である。勿論、これらに限定されるものではない。
【0023】
(インサート筋)
インサート筋30は棒材31の両端に連結部32a、32bを備えてなっている。このように連結部32a、32bは棒材31を介して一体化されているため、廃棄時の分別が簡単である。
【0024】
図3は、インサート筋の一例を示している。図示したインサート筋30は、異型棒鋼で構成される棒材31の両端に、連結部として、六角ナット32a、32bを溶接固定して構成される。図1〜3の例では、連結部32a、32bを雌部材(ナット)として形成し、これに対して係合部材50としてのボルト(雄部材)をネジ係合させる構成を採用している。しかしながら、逆の構成を採用することも可能である。すなわち、連結部32a、32bに、その端面から突出するボルト部を設け、これに対して係合部材50としてのナットを係合させる構成を採用してもよい。さらには、連結部32aに雌部材を、連結部32bに雄部材を設ける(あるいはその逆)ことも可能である。
【0025】
インサート筋30は、その全長を段板20の全長と等しく設定するのが好ましい。それにより、インサート筋30を段板20内に配置したとき、両方の連結部32a、32bの端面が、段板20の端面20aと面一となる。
【0026】
棒材31は、少なくとも両端の連結部32a、32bより小径であれば足り、異型棒鋼である必要はない。また、連結部32a、32bを含む全長に渡って、インサート筋30が一定の横断面形状を有していてもよい。
【0027】
インサート筋30の棒材31および連結部32a、32bを構成する材料は、段板20とササラ桁10との連結・固定が達成される限り特に制限されず、例えば、鋼、鉄、軟鋼線材、鉄筋コンクリート用棒鋼、構造用圧延鋼材等の金属が挙げられる。
【0028】
施工時の貫通孔25内でのインサート筋30の回転(空転)を防止するために、インサート筋30は貫通孔25内で固定される。インサート筋30の固定は、貫通孔25とインサート筋30との隙間に接着剤を注入し硬化させることによって達成されてもよいし、または後で詳述するように貫通孔およびインサート筋の連結部の横断面形状を所定の形状とすることによって達成されてもよい。固定をより一層確実に達成する観点からは、インサート筋の連結部の横断面形状を所定の形状とすることによってインサート筋30の固定を達成することが好ましい。インサート筋の連結部の横断面形状を所定の形状とすることによってインサート筋30の固定を達成する場合であっても、挿通固定された貫通孔25内におけるインサート筋30のガタつきを防止するために、貫通孔25とインサート筋30との隙間に接着剤を注入し硬化させることが好ましい。接着剤としてはインサート筋の貫通孔内での固定を達成できれば特に制限されず、いわゆるシーリング剤やコーキング剤等を用いてガタツキを防止してもよい。
【0029】
(ササラ桁)
ササラ桁10は2枚で使用され、1以上の段板20を挟持するものである。
ササラ桁10を構成する材料は、段板を支持可能な限り特に制限されず、例えば、鋼、鉄、構造用圧延鋼材、セメント系材料等が挙げられる。
【0030】
(横断面形状を利用したインサート筋の回転(空転)防止)
インサート筋30の回転防止手段の一例として、以下の手段が挙げられる。すなわち、貫通孔25および連結部32a、32bの横断面形状を、「連結部32a、32bが貫通孔25内に収まって、両者の形状が協働して、インサート筋30の回転を防止できる」形状とする。そのためには、貫通孔25を非円形の横断面形状とし、インサート筋30の連結部32a、32bを、上記非円形の貫通孔25内で空回りしないような横断面形状とすることで足りる。連結部32a、32bは、詳しくは、上記非円形の貫通孔25内に収まって当該非円形横断面と協働して貫通孔内でのインサート筋30の回転を防止する横断面形状を有するものである。
【0031】
図1〜図3の例では、そのような横断面形状を利用したインサート筋の回転(空転)防止手段が備わっている。具体的には、インサート筋30の両端に設けた連結部32a、32bは、横断面が正六角形のナットである。そして、段板20の貫通孔25は、当該正六角形を収容して、インサート筋30の回転を防ぐことができる形状とされる。これを、図4を参照して説明する。
【0032】
図4中に部分的に拡大して示したように、貫通孔25の横断面形状は、「頂点を12個有する星形」としている。当該形状であれば、正六角形横断面のナット(連結部32a)を、(a)で示した姿勢においても、(b)で示した姿勢においても、インサート筋30を回転不可に保持することができる。
つまり、ここでいう「頂点を12個有する星形」とは、中心を一致させてほぼ30°ズラして配置した2つの正六角形の外輪郭で構成される形状である。
【0033】
なお図4では、説明を分かり易くするために、正六角形横断面の連結部32aを破線で示すとともに、隙間を実際よりも大きく誇張して描いている。
【0034】
インサート筋30を回転不可に保持する(すなわち、ネジ止め作業時の空転を防ぐ)という観点からは、貫通孔25の横断面形状は「頂点を12個有する星形」である必要はなく、例えば、正六角形であってもよい。しかし、「頂点を12個有する星形」とすることで、図4中の(a)の姿勢でも、(b)の姿勢でも、連結部32aを保持することができる。すなわち、インサート筋30を貫通孔25へ挿通固定する際の作業自由度が高まり、作業効率が高まるというメリットがある。特に、インサート筋30の両端に設ける連結部32aと32bとは溶接固定されることが通常の方法であり、両連結部32aと32bとの六角形の頂点を正確に合わせることは非常に難しいが、貫通孔25の横断面形状を十二角形とすることで、両連結部の位置ずれを吸収することが可能となるのである。なお、セメント系押出成形体としての段板25における頂点部分、すなわち十二角形の角部分は、材質の特性上、若干の丸みを有するものであることは言うまでもない。
【0035】
インサート筋30は、図示した例では、両端の連結部32a、32bのみが上述した横断面形状を有しており、相対的に小径の棒材(異型棒鋼)31をもって両端の連結部32a、32bを連結固定して構成されている。棒材31が小径であるため、インサート筋30の全体を貫通孔25に簡単に通すことができる。
【0036】
(段板とササラ桁との連結・固定)
段板20の貫通孔25にインサート筋30を挿通固定した後は、図5に示したように、係合部材50としてのボルト部材を、ササラ桁10のボルト孔11に通して連結部32aとネジ係合させる。これにより、段板20とササラ桁10とが連結固定される。
なお図5では、説明の便宜上、ササラ桁10を透明の矩形板のように描いて部分的に図示しているが、実際には、図1に示すように、2つのササラ桁10の間に複数の段板20を連結固定して階段が構成される。
【0037】
(防水緩衝シール材を設ける例)
段板20とササラ桁10との間には、防水および緩衝を目的としたシール材40(防水緩衝シール材)を配置することが好ましい(図5参照)。
「防水」は、インサート筋30が金属製である場合に、これが腐食するのを防止するために行う。「緩衝」は、ササラ桁10の間で段板20がガタつくことや、接合端面が傷付くことを防止するために行う。
防水緩衝シール材40は、段板の端面20aに適合する形状(図5の例ではL字状)とすることが好ましく、インサート筋30が挿通固定された貫通孔25を露出させるための開口41を有する。
【0038】
防水緩衝シール材40の材質としては、ウレタン等の発泡プラスチックや、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)等を使用する。
【0039】
(水硬性セメント組成物)
段板20は、曲げ載荷に際して多重亀裂を生じて破壊する性質を示すセメント系押出成形体からなり、詳しくは以下に詳述する水硬性セメント組成物から製造されてなる無機系硬化体からなる。
【0040】
本発明において、「多重亀裂」とは次のことを意味する。曲げ応力が印加されてセメント硬化体に最初の亀裂が入った段階で、その亀裂部に応力が集中して、通常のセメント硬化体ではそのまま破断に至る。すなわち応力−歪曲線が直線となる弾性変形の段階で破断に至る。そのためエネルギー吸収能が低く、脆性破壊を呈する。これに対して最初の亀裂が入ったのちも、直ちに材料全体の破断に至らず、最初の亀裂に続いて複数の亀裂が発生する現象が存在する。これを多重亀裂という。多重亀裂が発生すると、応力が分散されるため、最初の亀裂発生後も増加する荷重に耐えて大きな歪に至るまで破壊せず、高いエネルギー吸収能と高い靭性を示す。
【0041】
そのような多重亀裂が起こる本発明の段板を構成する水硬性セメント組成物は、少なくとも水硬性セメントを含むマトリックスに繊維を配合・補強してなる繊維補強水硬性組成物である。マトリックスは好ましくはさらにシリカ質原料、パルプおよび水溶性セルロースを含み、減水剤などの混和剤、鉱物繊維および軽量骨材が配合されてもよい。
【0042】
本発明において配合される繊維は、水硬性組成物を硬化させてなる硬化体に、曲げ載荷時の多重亀裂を起こさせ得る補強繊維であれば、特に制限されず、例えば、ポリビニルアルコール系繊維(PVA繊維)、ポリプロピレン系繊維(PP繊維)、ポリエチレン系繊維(PE繊維)、アラミド繊維、アクリル繊維、炭素繊維、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリベンゾオキサゾール系繊維、レーヨン系繊維、ガラス繊維、スチール繊維等が挙げられる。製造コストを低減し、多重亀裂をより有効に起こす観点から好ましくはPVA繊維、PE繊維、PP繊維、アラミド繊維であり、特にPVA繊維である。
【0043】
これらの繊維は繊維長が3〜100mm、繊維径が5〜200μm、アスペクト比が100〜1000である。繊維長がより短い、繊維径がより大きい、またはアスペクト比がより小さい場合は、曲げ応力が負荷された状態において、最初に亀裂が生じたときに、繊維が架橋しても応力を負担することができず、すぐに引き抜け、多重亀裂を発生する前に破壊してしまう。
一方、繊維長がより長い、繊維径がより小さい、またはアスペクト比がより大きい場合は、曲げ応力が負荷された状態において、繊維の引き抜けよりも先に、繊維自体が破断してしまうために多重亀裂が発生しない。
【0044】
本発明において、繊維の「アスペクト比」とは、繊維長を繊維断面の面積と同面積を有する相当円の直径で除した値である。
【0045】
PVA繊維は通称ビニロン繊維とも呼ばれているもので、PVA繊維を使用する場合は、繊維長が3〜50mm、好ましくは3〜15mm、特に6〜12mm、繊維径が10〜100μm、好ましくは20〜50μm、アスペクト比が100〜400、好ましくは150〜300であることが望ましい。
【0046】
最も好ましいPVA繊維は特に、繊度2〜150dtex、特に4〜25dtex、引張強度4cN/dtex以上、特に6〜20cN/dtexを有する。
繊度は、繊維状物の一定糸長の重量を測定して見掛け繊度をn=5以上で測定した平均値を用いている。なお、一定糸長の重量測定により繊度が測定できないもの(細デニール繊維)はバイブロスコ−プにより測定している。
強度は、予め温度20℃、相対湿度65%の雰囲気下で24時間繊維を放置して調湿したのち、単繊維を糸長20cm、引張速度10cm/分として万能試験機 島津製作所製「オートグラフ」にて測定した値を用いている。なお繊維長が20cmより短い場合は、そのサンプルの可能な範囲での最大長さを把持長として測定することとしている。
【0047】
そのような好ましいPVA繊維として、市販のクラロンK―II 「パワロン」(クラレ社製)が入手可能である。
【0048】
またPP繊維を使用する場合は、繊維長が3〜15mm、好ましくは6〜12mm、繊維径が5〜40μm、好ましくは10〜30μm、アスペクト比が150〜1000、好ましくは200〜700であることが望ましい。
【0049】
またPE繊維を使用する場合は、繊維長が3〜15mm、好ましくは6〜12mm、繊維径が5〜40μm、好ましくは10〜30μm、アスペクト比が150〜1000、好ましくは200〜700であることが望ましい。
【0050】
上記繊維は硬化後の硬化体における体積混入率が0.1〜10%、好ましくは2〜7%となるように配合される。繊維の体積混入率がより小さいと亀裂が入ったときにそこに集中する応力を支えることができないで架橋作用を発揮できない。また体積混入率がより大きいと繊維同士の接触部分が増加してセメントとの一体化を妨害するため十分な補強効果が得られなくなる。
【0051】
繊維の「体積混入率」とは、以下の方法によって測定された値を用いている。セメント硬化体を押出方向に対して直角方向に裁断し、その裁断面を走査電子顕微鏡を用いて、加速電圧25kVで反射電子像を観察した。セメント硬化体中の繊維混入率Vは、顕微鏡の視野にある観察面の繊維の断面積の合計を、電子顕微鏡の視野の面積で除した値として求めた。繊維混入率Vは、試験片の裁断面中の異なる3つの視野について測定した値の平均値を採用した。
【0052】
本発明において使用される水硬性セメントは、水との反応により硬化体を形成できる限り、特に限定されず、例えば、各種ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント、シリカセメント、マグネシアセメント、硫酸塩セメント等をすべて含む。
【0053】
シリカ質原料としては、珪石粉、高炉スラグ、珪砂、フライアッシュ、珪藻土、シリカヒューム、非晶質シリカ等を使用することができる。好ましくは、段板の強度向上および寸法安定性に寄与する点から、珪石粉、珪砂である。これらのシリカ質原料として好ましくは比表面積(JIS R 5201に記載の方法による)が3000〜15000cm/gのものを使用する。シリカ質原料は水硬性セメント100重量部に対して40〜100重量部、好ましくは50〜80重量部の割合で配合される。シリカ質原料が40重量部より少ないと段板の強度が低下する上に、エフロレッセンスが発生し易くなり、100重量部より多くても段板の強度が低下する。
【0054】
パルプは、綿パルプまたは木材パルプ等の天然パルプが好ましい。天然パルプであれば特に限定されず、バージンパルプのみならず古紙からの再生パルプも使用できる。また木材パルプの場合、木材の組織からリグニンを化学的に取り除いた化学パルプ、木材を機械的に処理した機械パルプのいずれも使用できる。パルプは繊維長が0.05〜10mmのものが好ましい。パルプは水硬性セメント100重量部に対して0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜15重量部の割合で配合される。0.1重量部より少ないと補強効果を発揮できず、また50重量部より多いと分散不良となり、段板の表面平滑性が悪化したりする。
【0055】
水溶性セルロースとしては、メチルセルロース、エチルセルロース等のアルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエシルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を例示することができる。水溶性セルロースは、水硬性組成物の各成分を混合・混練し、押出成形する際に、混練物に粘性を付与し、成形性を向上させるものである。水溶性セルロースは水硬性セメント100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは1〜6重量部の割合で配合される。0.1重量部より少ないと可塑性がなく成形できない。一方10重量部より多い場合にはコストの上昇を招くだけであり、これ以上の効果の向上は期待できない。
【0056】
鉱物繊維としては、セピオライト、ワラストナイト、タルク、アタパルジャイト、ロックウール等を例示することができる。鉱物繊維は水硬性セメント100重量部に対して0〜40重量部、好ましくは3〜25重量部の割合で配合される。鉱物繊維が40重量部より多いと段板の強度が低下する。
【0057】
軽量骨材としては、火山れきなどの天然軽量骨材、焼成フライアッシュバルーンなどの人工軽量骨材、真珠岩パーライト、黒曜石パーライト、バーミキュライトなどの超軽量骨材、膨張スラグなどの副産物軽量骨材を使用することができる。好ましくは真珠岩パーライト、黒曜石パーライト、バーミキュライトである。
【0058】
水硬性組成物には、上記以外の添加剤として、必要に応じて、マイカ、アルミナ、炭酸カルシウム等のシリカ以外の無機質材料、減水剤、界面活性剤、増粘剤、硬化促進剤等を配合することもできる。
【0059】
本発明の段板は、水硬性セメント組成物を構成する上記成分の混合物に水を加え、押出成形・硬化することによって得られる。押出成形することにより、補強繊維が押出方向により支配的に配向するため、押出方向に直角な方向からの曲げ応力または押出方向での引張応力に対して繊維の架橋作用による補強効果をより効果的に発揮することができる。さらに押出成形することにより、一般により緻密な成形体が得られ、結果として前記したような比較的複雑な形状の本発明の段板を容易に成形できる。水の配合量は一般に水硬性セメント100重量部に対して40〜90重量部が好適である。押出成形時において押出物に、所定の断面形状を有する金型を通過させることによって、段板を製造できる。
【0060】
本発明において段板は、比重が通常、1.5〜2.5であり、好ましくは1.8〜2.2であって、比較的軽量であるにもかかわらず、高靭性を示すものである。
【実施例】
【0061】
<参考例1>
普通ポルトランドセメント100重量部に、長さ6mm、繊維径40μm(アスペクト比150)のPVA短繊維(クラレ社製、商品名「クラロンK-II“パワロン”)5.1重量部、珪石粉(比表面積4000cm/g)60重量部、パルプ(広葉樹系パルプ)3重量部、メチルセルロース(信越化学工業社製)6重量部を加えて、ミキサーにより粉体混合した。粉体混合を続けながらこれに水70.0重量部を混合したのちニーダーに移して混練してセメントペーストを練り上げた。得られたセメントペーストをシリンダー式真空押出成形機から金型を通して押出成形した。金型から吐出された押出物はトレーに受け、蒸気養生し、硬化させ、図7に示す横断面形状を有する段板(中空率25%)を得た。
【0062】
得られた段板の曲げ強度を以下に示す方法により評価し、結果を図8において実線Aとして示した。段板(セメント硬化体)は曲げ試験において多重亀裂破壊を起し、高い物性値を示した。また硬化体中のPVA繊維の体積混入率は4.0%であった。
【0063】
(曲げ強度の評価法)
押出方向長約1200mmの2点載荷の単純曲げ試験用の試験体を切り出した。図9に示すように、直径100mm、厚み20mmの加圧治具120を用い、そこにクロスヘッド速度5.0mm/minにて荷重を印加し、曲げ荷重を測定した。なお、支点間距離は800mmであった。図9において矢印は集中荷重、三角は支点を示す。
【0064】
<実施例1>
参考例1と同様の段板の2つの貫通孔に以下に示すインサート筋を挿通したこと以外、参考例1と同様の方法により段板の製造および評価を行った。結果を図8において破線Bとして示した。
インサート筋30は、異型棒鋼で構成される棒材31(直径11mm)の両端に六角ナット32a、32b(外径20mm)を溶接固定してなるものを用いた。
【0065】
<比較例1>
PVA短繊維の添加量を1重量部としたこと以外、参考例1と同様の方法により段板の製造および評価を行った。なお、得られた段板は、曲げ試験において多重亀裂破壊を示さなかった。結果を図8において実線Cとして示した。硬化体中のPVA繊維の体積混入率は0.05%であった。
また、本比較例で得られた段板に、実施例1と同様にインサート筋を挿通したものの曲げ試験結果を図8において破線Dとして示した。
【0066】
<比較例2>
市販のプレキャスト成形品段板(セメント比重:2.4、インサート筋直径11mm、中空なし)について、実施例1と同様に曲げ試験を行った。結果を図8において破線Eとして示した。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のセメント系階段は、アパート、マンション等の集合住宅用階段、工場、倉庫等に用いる階段等として有用である。
【符号の説明】
【0068】
10:ササラ桁
11:ボルト孔
20:段板
20a:段板の端面
21:踏板
22:蹴込板
25:インサート筋挿通用貫通孔
26:軽量化用貫通孔
30:インサート筋
31:棒材
32a:32b:連結部
40:防水緩衝シール材
41:開口
50:係合部材(ボルト部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
段板がその両端で、雄部材と雌部材によるネジ連結を利用して、ササラ桁(10)に固定されてなるセメント系階段であって、
段板が曲げ載荷に際して多重亀裂を生じて破壊する性質を示すセメント系押出成形体からなり、押出方向に沿って少なくとも2以上の貫通孔(25)を有し、押出成形後に該貫通孔(25)内にインサート筋(30)が挿通固定され、
インサート筋(30)が棒材(31)の両端に、上記雄部材または雌部材の一方を有する連結部(32a、32b)を備えてなり、
連結部(32a、32b)が有する雄部材または雌部材に対して、他方の雌部材または雄部材を係合させることにより、段板(20)とササラ桁(10)を連結固定したことを特徴とするセメント系階段。
【請求項2】
貫通孔(25)が非円形の横断面形状を有し、
インサート筋(30)の連結部(32a、32b)が、該非円形の貫通孔(25)内で空回りしないような横断面形状を有する請求項1に記載のセメント系階段。
【請求項3】
インサート筋(30)の連結部(32a、32b)の横断面形状が正六角形で、上記貫通孔(25)の横断面形状が、頂点を12個有する星形であることを特徴とする、請求項2に記載のセメント系階段。
【請求項4】
貫通孔(25)とインサート筋(30)との隙間に接着剤が注入されている、請求項2または3に記載のセメント系階段。
【請求項5】
段板(20)とササラ桁(10)は、その間に、防水緩衝シール材(40)を挟み込んだ状態で連結固定されている、請求項1〜4のいずれかに記載のセメント系階段。
【請求項6】
段板が、水硬性セメント100重量部、シリカ質原料40〜100重量部、パルプ0.1〜50重量部および水溶性セルロース0.1〜10重量部を含んでなるマトリックスに繊維を配合した水硬性セメント組成物から製造されてなり、硬化後の硬化体における前記繊維の体積混入率が0.1〜10%である請求項1〜5のいずれかに記載のセメント系階段。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−12437(P2011−12437A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156898(P2009−156898)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】