説明

セメント組成物の乾燥状態確認方法

【課題】セメント組成物の乾燥状態をより正確に確認することが可能な乾燥状態確認方法を提供する。
【解決手段】セメント組成物の乾燥状態を確認するセメント組成物の乾燥状態確認方法であって、打設した前記セメント組成物の材齢に対する当該セメント組成物の質量の変化に基づいて、前記乾燥状態を確認する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
例えば、コンクリート(セメント組成物の一例)の表面に塗装等を施す場合には、塗装するコンクリートの乾燥状態が適切でないと、塗装した表面に膨れ現象や塗膜剥離といった不具合が生じる虞がある。このため、コンクリートの表面に塗装等の仕上げを施すときには、コンクリートの乾燥状態を確認したうえで塗装等の仕上げを施すことがある。そして、コンクリートの乾燥状態を確認する方法としては、吸水にて変色するような、試薬を浸漬した試験紙をコンクリートの表面に当接させ、試験紙の変色や含水率からコンクリートの乾燥状態を確認する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特公平3―54299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の乾燥状態を確認する方法は、コンクリートの表面に当接させた試験紙にてコンクリートの乾燥状態を確認するため、コンクリートの内部に含まれている水分を確認することはできないという課題がある。
【0004】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、セメント組成物の乾燥状態をより正確に確認することが可能な乾燥状態確認方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を達成するために本発明のセメント組成物の乾燥状態確認方法は、セメント組成物の乾燥状態を確認するセメント組成物の乾燥状態確認方法であって、打設した前記セメント組成物の材齢に対する当該セメント組成物の質量の変化に基づいて、前記乾燥状態を確認することを特徴とするセメント組成物の乾燥状態確認方法である。
【0006】
このようなセメント組成物の乾燥状態確認方法によれば、打設したセメント組成物の乾燥状態を確認するために、セメント組成物の質量を用いているので、セメント組成物の表面のみならず、セメント組成物全体における乾燥状態を確認することが可能である。このため、セメント組成物の乾燥状態をより正確に確認することが可能である。
【0007】
また、打設したセメント組成物には、水和反応に使用される水と乾燥により蒸発する水とが含まれているため、水和反応や蒸発の進行に伴って乾燥状態が変化する。このため、打設したセメント組成物の材齢に対するセメント組成物の質量の変化に基づいて乾燥状態を確認することにより、セメント組成物の質量の変化が小さくなることにより、水和反応せずにセメント組成物に残存する水分が少なくなったことを確認することが可能である。ここで、セメント組成物には、高強度コンクリート、軽量コンクリート、各種配合の普通コンクリート、セメントペースト、モルタル等が含まれる。
【0008】
かかるセメント組成物の乾燥状態確認方法であって、セメント組成物の質量を、時間の間隔を隔てて複数回測定する質量測定ステップと、測定したデータに基づいて、前記時間の間隔に対する、前記セメント組成物の質量変化の割合を示す質量減少速度を算出するステップと、算出された前記質量減少速度をプロットすると共に、プロットした情報から回帰曲線をあてはめて、セメント組成物の質量減少速度の回帰曲線のグラフを生成するグラフ生成ステップと、前記質量減少速度の回帰曲線を微分して質量減少加速度を求める微分ステップと、を有し、前記質量減少加速度にて前記セメント組成物の乾燥状態を確認することが望ましい。
【0009】
このようなセメント組成物の乾燥状態確認方法によれば、セメント組成物の質量を実測したデータに基づいてセメント組成物の乾燥状態を確認するので、より正確に乾燥状態を確認することが可能である。また、測定したデータに基づいて、前記時間の間隔に対する、セメント組成物の質量変化の割合を示す質量減少速度を算出してプロットすると共に、プロットした情報から回帰曲線をあてはめて、セメント組成物の質量減少速度の回帰曲線のグラフを生成するので、セメント組成物の質量変化の割合を示す質量減少速度を材齢の変化に伴う連続したデータとして確認することが可能である。そして、質量減少速度の回帰曲線を微分した質量減少加速度にてセメント組成物の乾燥状態を確認するので、セメント組成物の乾燥状態の変化をより明確に確認することが可能である。このため、セメント組成物の乾燥状態を、より正確な連続したデータにて、その変化を明確に確認することが可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セメント組成物の乾燥状態をより正確に確認することが可能な乾燥状態確認方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態のセメント組成物の乾燥状態確認方法の手順を示すフローである。
【図2】本実施形態におけるセメント組成物の質量減少量と乾燥材齢の関係を示すグラフである。
【図3】本実施形態におけるセメント組成物の質量減少速度と乾燥材齢の関係を回帰曲線にて示したグラフである。
【図4】図3の回帰曲線から求められた質量減少加速度と乾燥材齢との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0013】
本発明では、セメント組成物の乾燥状態を、セメント組成物からの水分蒸発による質量減少速度の変化を示す質量減少加速度に置き換えて確認する。
【0014】
質量減少加速度は、まず、所定サイズの型枠にセメント組成物を打設して形成したセメント組成物の質量を、時間の間隔を隔てて複数回測定した測定データを、横軸を乾燥材齢、縦軸を質量減少量としたグラフにプロットする。次にプロットした、隣接する2点間の傾きとして現れている質量減少速度を算出する。質量減少速度は時間の間隔に対するセメント組成物の質量変化の割合を示している。
【0015】
算出した質量減少速度を、横軸を乾燥材齢、縦軸を質量減少速度としたグラフにプロットする。プロットした情報から累乗式で回帰曲線をあてはめて、セメント組成物の質量減少速度の回帰曲線のグラフを生成する。生成された質量減少速度の回帰曲線を微分することにより質量減少加速度が求められる。
【0016】
次に、セメント組成物として普通コンクリート及び軽量コンクリートを例に挙げて、乾燥状態を確認する方法の具体例について説明する。ここで、普通コンクリートには、粗骨材として砂利を、細骨材として砂を用い、軽量コンクリート試験体には、粗骨材として軽量骨材であるアサノライト(商品名)またはメサライト(商品名)を、細骨材として砂を用いている。
【0017】
例えば、まず、普通コンクリートと軽量コンクリートとにて試験体を形成する。試験体は、例えば、直径195mm、高さ200mmの円柱状をなすように、ベッド面上に載置した塩化ビニル製のパイプを型枠とし、型枠内に普通コンクリートまたは軽量コンクリートを打設して、普通コンクリート試験体及び軽量コンクリート試験体を形成する。
【0018】
本実施形態では、軽量コンクリート試験体として、敢えて強制的に乾燥させて含水量を低下させた軽量骨材を用いた軽量コンクリート試験体も用意した。すなわち、普通コンクリート試験体としては1種類、軽量コンクリート試験体としては、アサノライトを用いた通常乾燥状態の第1軽量コンクリート試験体と強制乾燥させたアサノライトを用いた第2軽量コンクリート試験体、及び、メサライトを用いた通常乾燥状態の第3軽量コンクリート試験体と強制乾燥させたメサライトを用いた第4軽量コンクリート試験体の4種類について質量減少加速度を求めている。
【0019】
図1は、本実施形態のセメント組成物の乾燥状態確認方法の手順を示すフローである。
【0020】
型枠内に打設された普通コンクリート及び軽量コンクリートは、打設した翌日、塩化ビニル製の型枠から脱型することなく質量を測定した後、円形状をなす両端面を露出させた状態にて20℃、65%RHの恒温恒湿槽内に静置する。このとき測定した値が質量の初回データとなる。その後、適宜時間間隔を隔てて、複数回質量を測定する(質量測定ステップ S1)。このとき、質量の変化が大きな初期の段階では、測定間隔を短く設定して、例えば乾燥材齢5日毎に測定し、質量の変化が小さくなったときには、例えば乾燥材齢20日毎に測定する。
【0021】
図2は、本実施形態における各試験体の質量減少量と乾燥材齢との関係を示すグラフである。図示するように、測定データに基づいて5本のグラフが生成される。図2〜図4においては、普通コンクリート試験体を「N」にて、第1軽量コンクリート試験体を「A−W」にて、第2軽量コンクリート試験体を「A−D」にて、第3軽量コンクリート試験体を「M−W」にて、第4軽量コンクリート試験体を「M−D」にて、それぞれ示している。
【0022】
次に、測定した質量のデータに基づいて、質量減少速度を算出する(質量減少速度算出ステップ S2)。例えば、N回目の測定における質量減少速度は、(N―1)回目に測定した質量とN回目に測定した質量との差を、(N―1)回目とN回目との間の経過日数で除したものである。図3は、本実施形態の各試験体の質量減少速度と乾燥材齢の関係を回帰曲線にて示したグラフである。図3においては、算出した質量減少速度が、プロットされて示されている。
【0023】
次に、算出された質量減少速度がプロットされた情報から累乗式で回帰曲線をあてはめて、図3に示すような、各試験体の質量減少速度の回帰曲線のグラフを生成する(グラフ生成ステップ S3)。
【0024】
生成された質量減少速度の回帰曲線を微分して質量減少加速度を求める(微分ステップS4)。図4は、図3の回帰曲線から求められた質量減少加速度と乾燥材齢との関係を示すグラフである。図4に示すように、各試験体の質量減少加速度を示すグラフは、大きく2つに分かれ、一方は、普通コンクリート試験体、第2軽量コンクリート試験体、第4軽量コンクリート試験体であり、他方は、第1軽量コンクリート試験体、第3軽量コンクリート試験体である。
【0025】
本実施形態のセメント組成物の乾燥状態確認方法によれば、打設したセメント組成物の乾燥状態を確認するために、セメント組成物の質量を用いているので、セメント組成物の表面のみならず、セメント組成物全体における乾燥状態を確認することが可能である。このため、セメント組成物の含水状態をより正確に確認することが可能である。
【0026】
また、打設したセメント組成物には、水和反応に使用される水と乾燥により蒸発する水とが含まれており、水和反応や蒸発の進行に伴って乾燥状態が変化する。このため、打設したセメント組成物の材齢に対するセメント組成物の質量の変化に基づいて乾燥状態を確認する場合には、セメント組成物の質量の変化が小さくなることにより、水和反応せずにセメント組成物に残存する水分が少なくなったことを確認することが可能である。
【0027】
また、セメント組成物の質量を実測したデータに基づいてセメント組成物の乾燥状態を確認するので、より正確に乾燥状態を確認することが可能である。また、測定したデータに基づいて、前記時間の間隔に対する、セメント組成物の質量変化の割合を示す質量減少速度を算出してプロットすると共に、プロットした情報から累乗式で回帰曲線をあてはめて、セメント組成物の質量減少速度の回帰曲線のグラフを生成するので、セメント組成物の質量変化の割合を示す質量減少速度を材齢の変化に伴う連続したデータとして確認することが可能である。そして、質量減少速度の回帰曲線を微分した質量減少加速度にてセメント組成物の乾燥状態を確認するので、セメント組成物の乾燥状態の変化をより明確に確認することが可能である。このため、セメント組成物の乾燥状態を、より正確な連続したデータにて、その変化を明確に確認することが可能である。
【0028】
上記のようにして得られたセメント組成物の質量減少加速度の利用方法の一例を説明する。
【0029】
例えば、セメント組成物の一つである普通コンクリートの表面に塗装を施す場合には、
乾燥材齢30日程度確保した後に塗装を施すと、不具合が生じ難いことが経験的に認識されている。しかしながら、例えば乾燥材齢30日の軽量コンクリートに、塗装を施すと、普通コンクリートと軽量コンクリートとの乾燥状態の違いから、軽量コンクリートの仕上げ面に不具合が生じる場合がある。このため、普通コンクリートの打設後から塗装工事開始時までの養生期間経過後の普通コンクリートの質量減少加速度と同じ質量減少加速度となる軽量コンクリートの養生期間を確認し、確認した養生期間が経過した後に塗装工事を開始する。このため、まず、仕上げ面に不具合が生じないとき、すなわち、材齢30日の普通コンクリート質量減少加速度を求め、打設した軽量コンクリートが、求めた質量減少加速度となる材齢を確認する。
【0030】
具体的には、図4のグラフに基づいて、普通コンクリートを打設し所定時間乾燥させた後に仕上げを施すと仕上げに不具合が生じないときの、前記所定時間、すなわち仕上げを施しても不具合が生じない乾燥材齢時における質量減少加速度を図4から特定する。図4において、普通コンクリート試験体のグラフにおける、乾燥材齢30日の質量減少加速度(0.025g/day)を示す直線と第1軽量コンクリート試験体及び第2軽量コンクリート試験体のグラフとの交点の乾燥材齢を読み取る。図4の例では、第1軽量コンクリート及び第3軽量コンクリートに仕上げを施しても不具合を生じ難い乾燥材齢が約60日であることが確認される。
【0031】
上記実施形態においては、セメント組成物を普通コンクリート及び軽量コンクリートとしたが、これに限らず、高強度コンクリートやモルタル、セメントなどであっても構わない。
【0032】
このようにセメント組成物の表面に塗装を施すことにより、普通コンクリート以外のセメント組成物であっても、塗装面に不具合が生じ難い乾燥材齢を確認し、対象となるセメント組成物を打設した後に、確認した乾燥材齢になるまで養生した後に塗装を施すことにより、塗装面への不具合の発生を抑えることが可能である。
【0033】
また、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント組成物の乾燥状態を確認するセメント組成物の乾燥状態確認方法であって、
打設した前記セメント組成物の材齢に対する当該セメント組成物の質量の変化に基づいて、前記乾燥状態を確認することを特徴とするセメント組成物の乾燥状態確認方法。
【請求項2】
請求項1に記載のセメント組成物のセメント組成物の乾燥状態確認方法であって、
セメント組成物の質量を、時間の間隔を隔てて複数回測定する質量測定ステップと、
測定したデータに基づいて、前記時間の間隔に対する、前記セメント組成物の質量変化の割合を示す質量減少速度を算出する質量減少速度算出ステップと、
算出された前記質量減少速度をプロットすると共に、プロットした情報から回帰曲線をあてはめて、セメント組成物の質量減少速度の回帰曲線のグラフを生成するグラフ生成ステップと、
前記質量減少速度の回帰曲線を微分して質量減少加速度を求める微分ステップと、
を有し、
前記質量減少加速度にて前記セメント組成物の乾燥状態を確認することを特徴とするセメント組成物の乾燥状態確認方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−123030(P2011−123030A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283278(P2009−283278)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】