説明

セメント組成物中の石膏分別定量方法

【課題】特別な装置や検量線等の作成等を必要とすることなく、極めて簡便な方法でセメント組成物中に含まれる石膏、即ち二水石膏と半水石膏とを、従来の熱分析、例えば示唆熱天秤による方法や示差走査熱量計による方法と同精度で分別定量できる、セメント組成物中の石膏分別定量方法を提供する。
【解決手段】セメント組成物中の石膏分別定量方法は、セメント組成物を熱分析装置内に開放状態で設置し、該熱分析装置内に60℃で湿度85〜95%の空気を導入し、該熱分析装置内を大気圧に保持しながら温度を上昇させて、二水石膏と半水石膏とを定量分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物中の石膏分別定量方法に関し、特にセメント組成物粉体中に含まれる二水石膏と半水石膏とを簡便な方法で精度よく定量することができる、セメント組成物中の石膏分別定量方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セメント組成物粉体中には、凝結時間や強度発現性の観点から、石膏が添加されている場合がある。
特に、二水石膏と半水石膏との配合割合を把握することは、セメント組成物の凝結時間や強度発現性の観点より重要である。
【0003】
従来より、二水石膏、半水石膏の分別定量は熱分析やX線回折などを用いて行われている。しかし、X線回折では数%以下の定量が困難であるため、熱分析を用いた方法が一般的となっている。
熱分析としては、示唆熱天秤を用いた熱重量測定(TG)や、示差走査熱量測定(DSC)等の熱分析装置を用いた分別定量方法がある。
【0004】
示差熱天秤を用いる方法は、二水石膏から半水石膏への脱水反応、半水石膏から無水石膏への脱水反応の重量変化から石膏量を定量するものである。
しかし、従来の示唆熱天秤による方法では、試料を試料容器に入れて蓋をしない開放状態で測定を行うと、それぞれの脱水反応による重量変化が重なり、有効な分別定量が行えなかった。
【0005】
かかる問題に関し、予め孔を設けた蓋で、試料が入っている該試料容器を擬似密封状態にして、二水石膏と半水石膏との分別定量測定を実施していた。
例えば、特開平6−242035号公報(特許文献1)には、試料容器に、5〜60μm径の孔を空けた蓋をして、容器内の水蒸気圧を上昇させて2つの脱水反応の重量変化の分離を測定する方法が記載されており、該穴はレーザ法によって蓋に設けられることが記載されている。
【0006】
しかし、従来の示差熱天秤を用いる方法では、試料容器の蓋にレーザー加工等で5〜60μm径の孔を空ける必要があるため、手間がかかることや加工に特別な機器が必要であることに問題があった。
【0007】
また、従来の示差走査熱量計を用いる方法は、二水石膏から半水石膏への脱水反応、半水石膏から無水石膏への脱水反応のピークの重なりが問題となるとともに、前記示差熱天秤と異なり、脱水反応の吸熱ピーク面積から検量法により定量を行うため、標準試料の調整、検量線の作成に手間がかかるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−242035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述した問題点を解決し、特別な装置や検量線等の作成等を必要とすることなく、極めて簡便な方法でセメント組成物中に含まれる石膏、即ち二水石膏と半水石膏とを、従来の熱分析、例えば示唆熱天秤による方法や示差走査熱量計による方法と同精度で分別定量できる、セメント組成物中の石膏分別定量方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、被試験試料であるセメント組成物を密封容器に入れることなく熱分析装置内に設置し、該熱分析装置内に所定の水蒸気を流入させて、装置内部の大気中の水蒸気圧を上昇させることで、精度が従来方法と同等で且つ簡便な方法で、二水石膏と半水石膏とを分別定量できることを見出し、本発明に到達したものである。
【0011】
本発明のセメント組成物中の石膏分別定量方法は、セメント組成物を熱分析装置内に開放状態で設置し、該熱分析装置内に60℃で湿度85〜95%の空気を導入し、該熱分析装置内を大気圧に保持しながら温度を上昇させることを特徴とする、セメント組成物中の石膏分別定量方法である。
【0012】
好適には、上記本発明のセメント組成物中の石膏分別定量方法において、該熱分析装置内は、温度上昇中においても60℃で湿度85〜95%の空気が導入されるとともに、該装置から排気されて、該装置内を大気圧に保持することを特徴とする、セメント組成物中の石膏分別定量方法である。
【0013】
さらに好適には、上記本発明のセメント組成物中の石膏分別定量方法において、セメント組成物は、容器に入れられ、該容器に蓋をしない開放状態で、熱分析装置内に設置されることを特徴とする、セメント組成物中の石膏分別定量測定方法である。
【0014】
さらに好適には、上記本発明のセメント組成物中の石膏分別定量方法においては、含有される二水石膏と半水石膏とを定量分別する。
またさらに好適には、上記本発明のセメント組成物中の石膏分別定量方法において、熱分析装置は、熱重量測定装置(TG)又は示差走査熱量測定想定(DSC)である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のセメント組成物中の石膏分別定量方法は、セメント組成物中に含まれる二水石膏及び半水石膏の脱水反応によりDTG曲線、DSC発熱曲線のピークを明瞭に分析でき、二水石膏と半水石膏を、極めて簡便な方法で、従来の方法と同等の精度で定量することが可能となる。
具体的には、従来、示唆熱天秤による方法で必要とされた試料容器にかぶせる蓋が必要でないため、蓋に孔を設ける手間が省け、孔を設ける特別な機器も不要となり、また示差走査熱量計による方法で必要とされた、標準試料の調製、検量線の作成が不要となり、極めて簡便な方法で、従来の方法と同等の精度で、セメント組成物中に含まれる二水石膏と半水石膏の分別定量が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のセメント組成物中の石膏分別定量方法を用いて、実施例1のセメント組成物に含まれる石膏を分別定量した示差熱天秤によるTG曲線と該TG曲線の微分曲線(DTG曲線)を示す図である。
【図2】従来のセメント組成物中の石膏分別定量方法(特開平6−242035号公報に記載の方法)を用いて、比較例1のセメント組成物に含まれる石膏を分別定量した示差熱天秤によるTG曲線と該TG曲線の微分曲線(DTG曲線)を示す図である。
【図3】本発明のセメント組成物中の石膏分別定量方法を用いて、実施例2のセメント組成物に含まれる石膏を分別定量した示差熱天秤によるTG曲線と該TG曲線の微分曲線(DTG曲線)を示す図である。
【図4】従来のセメント組成物中の石膏分別定量方法(特開平6−242035号公報に記載の方法)を用いて、比較例2のセメント組成物に含まれる石膏を分別定量した示差熱天秤によるTG曲線と該TG曲線の微分曲線(DTG曲線)を示す図である。
【図5】本発明のセメント組成物中の石膏分別定量方法を用いて、実施例3のセメント組成物に含まれる石膏を分別定量した示差熱天秤によるTG曲線と該TG曲線の微分曲線(DTG曲線)を示す図である。
【図6】従来のセメント組成物中の石膏分別定量方法(特開平6−242035号公報に記載の方法)を用いて、比較例3のセメント組成物に含まれる石膏を分別定量した示差熱天秤によるTG曲線と該TG曲線の微分曲線(DTG曲線)を示す図である。
【図7】本発明のセメント組成物中の石膏分別定量方法を用いて、実施例4のセメント組成物に含まれる石膏を分別定量した示差熱天秤によるTG曲線と該TG曲線の微分曲線(DTG曲線)を示す図である。
【図8】従来のセメント組成物中の石膏分別定量方法(特開平6−242035号公報に記載の方法)を用いて、比較例4のセメント組成物に含まれる石膏を分別定量した示差熱天秤によるTG曲線と該TG曲線の微分曲線(DTG曲線)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を以下の好適例を挙げて説明する。
本発明のセメント組成物中の石膏分別定量方法は、セメント組成物を熱分析装置内に開放状態で設置し、該熱分析装置内に60℃で湿度85〜95%の空気を導入し、該熱分析装置内を大気圧に保持しながら温度を上昇させて、分別定量する方法である。
【0018】
ここで、本発明のセメント組成物中の石膏分別定量方法においては、熱分析装置は、熱重量測定装置(TG)又は示差走査熱量測定装置(DSC)であるが、以下、熱重量測定装置である示差熱天秤を用いた例をあげて、セメント組成物中の石膏分別定量方法を説明する。
【0019】
本発明の石膏分別定量方法を適用することができるセメント組成物は、二水石膏、半水石膏、無水石膏である石膏成分が含まれているセメント組成物粉体であれば、任意のセメント組成物に適用することが可能である。
【0020】
まず、示差熱天秤に、被試験体であるセメント組成物を設置する。
その際に、セメント組成物は、示唆熱天秤装置に通常用いられる任意の試料容器に入れられることができる。
セメント組成物が入った任意の試料容器を、示唆熱天秤に設置するが、この時の設置は、該試料容器を開放状態で該示唆熱天秤内に設置するもので、蓋等によって密封状態若しくは擬似密封状態とはしない。
【0021】
次いで、該示唆熱天秤装置内に、60℃で湿度85〜95%の空気を導入して、該高湿度空気で該示差熱天秤装置内を充填して、大気圧に保持する。かかる高湿度な空気は、別途水蒸気発生装置により発生させた水蒸気を空気と混合させて別途調製する。
【0022】
次いで、該高湿度空気で充填された示差熱天秤装置内の温度を上昇させて、二水石膏、半水石膏の脱水が起こるまで温度を上昇させる。
この際に、該示唆熱天秤装置内には、常に前記高湿度空気を流入させるとともに、該示唆熱天秤装置内が大気圧を保持するように、排気を行なう。
なお、二水石膏及び半水石膏の脱水反応は、以下の通りであり、二水石膏、半水石膏の原料は2段階の減量として現れる。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
上記式1及び式2に示すこれらの反応の脱水による減量から、次の式3及び式4により二水石膏量及び半水石膏量を求める。
式3:二水石膏量(SO%)=上記第1段階減量(%)×2.96
式4:半水石膏量((SO%)=上記第2段階減量(%)×8.89−上記二水石膏量(SO%)
ここで、上記式中、SO%とは、セメント組成物中に含まれるセメントクリンカー成分に対して、SO換算した質量%である。
【0026】
以下、本発明の方法を、従来の方法と比較しつつ、具体例を挙げて説明するが、これらに限定されるものではない。
(試料セメント)
・クリンカー:普通ポルトランドセメントクリンカー(住友大阪セメント株式会社製)粉末(ブレーン比表面積3000cm/g)
・二水石膏として二水硫酸カルシウム特級試薬(関東科学株式会社製)、ブレーン比表面積5500cm/g
・半水石膏として二水硫酸カルシウム特級試薬(関東科学株式会社製)を120℃で24時間加熱して無水化した後、24時間室温で大気放置したもの、ブレーン比表面積5500cm/g
【0027】
試料1
二水石膏を、上記普通ポルトランドクリンカー粉末に対してSO換算で2.0質量%配合し、ロッキングミキサーを用いて1時間均一に混合して、試料1とした。
【0028】
試料2
二水石膏および半水石膏を、それぞれ、上記普通ポルトランドクリンカー粉末に対してSO換算で2.0質量%、0.3質量%で配合し、ロッキングミキサーを用いて1時間均一に混合して、試料2とした。
【0029】
試料3.試料4
試料3:普通ポルトランドセメントA(市販品)、ブレーン比表面積3360cm/g)
試料4:普通ポルトランドセメントB(市販品)、ブレーン比表面積3500cm/g)
【0030】
測定装置
示唆熱天秤(TG):差動型示唆熱天秤(TG−DTA:Thermo plus EVOII TG8120(株式会社リガク製)
試料容器
アルミニウム製の有底円筒液状の試料容器(内寸法:直径5mm、高さ2.5mm)
【0031】
実施例1〜4(水蒸気雰囲気)
上記試料1〜4を、上記試料容器にそれぞれ30mgずつ詰めて、該容器に蓋をかぶせることなく上記示唆熱天秤装置内に設置した。
水蒸気発生装置にて発生させた湿分を空気に導入して湿度60℃、90%RHの空気を調製し、該空気で該装置内を満たした
次いで、該装置内の温度を、昇温速度20.0℃/分で上昇させて、室温から300℃まで上昇させた。
なお、重量減少測定雰囲気は大気圧中とし、該温度上昇の際にも、湿度60℃、90%RHの空気を該測定装置内に導入しており、常に該測定装置内が、大気圧を保持するように該空気で満たされることとしている。
実施例1〜4(試料1〜4)に関する重量減少測定結果を表1に、また実施例1〜4に関する重量減少測定曲線を、それぞれ図1、図3、図5、図7に示す。
【0032】
比較例1〜4(乾燥雰囲気)
上記試料1〜4を用いて、上記試料容器にそれぞれ30mmずつ詰めて、該試料容器に、穴を設けたアルミニウム製の蓋(直径5mm、厚さ2.5mm)を圧着して(ピンホール容器)擬似密封状態として、上記示唆熱天秤装置内に設置した。
蓋に設けた穴は、YAGレーザー発生装置を用い、穴の直径を、30μmとして、上記アルミニウム製蓋に1個も設けた。
次いで、空気(25℃、湿度60%、大気圧)を該装置内に導入して、該装置内の温度を、昇温速度20.0℃/分で上昇させて、室温から300℃まで上昇させた。
なお、該装置内は、密封状態として、重量減少測定中には、外部より空気を導入することもなく、また排気することもない。
比較例1〜4(試料1〜4)に関する重量減少測定結果を表1に、また比較例1〜4に関する重量減少測定曲線を、それぞれ図2、図4、図6、図8に示す。
【0033】
上記実施例1〜4及び比較例1〜4の、上記式1及び式2に示すこれらの反応の脱水による減量値から、次の式3及び式4により二水石膏量及び半水石膏量を求め、その結果も表1に示す。
式3:二水石膏量(SO%)=上記第1段階減量(%)×2.96
式4:半水石膏量((SO%)=上記第2段階減量(%)×8.89−上記二水石膏量(SO%)
【0034】
【表1】

【0035】
上記表1、図1〜図8より、本発明の石膏分別定量方法は、従来の穴が設けられた蓋付容器を用いた示唆熱分析による石膏分別定量方法と、ほぼ同等の精度で、二水石膏と半水石膏とを分別定量することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、セメント中に含まれる二水石膏と半水石膏との割合を精度良好に分別定量測定することに有効に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント組成物を熱分析装置内に開放状態で設置し、該熱分析装置内に60℃で湿度85〜95%の空気を導入し、該熱分析装置内を大気圧に保持しながら温度を上昇させることを特徴とする、セメント組成物中の石膏分別定量方法。
【請求項2】
請求項1記載のセメント組成物中の石膏分別定量方法において、該熱分析装置内は、温度上昇中においても60℃で湿度85〜95%の空気が導入されるとともに、該装置から排気されて、該装置内を大気圧に保持することを特徴とする、セメント組成物中の石膏分別定量方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のセメント組成物中の石膏分別定量方法において、セメント組成物は、容器に入れられ、該容器に蓋をしない開放状態で、熱分析装置内に設置されることを特徴とする、セメント組成物中の石膏分別定量測定方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかの項記載のセメント組成物中の石膏分別定量方法において、含有される二水石膏と半水石膏とを定量分別することを特徴とする、セメント組成物中の石膏分別定量方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかの項記載のセメント組成物中の石膏分別定量方法において、熱分析装置は、熱重量測定装置(TG)又は示差走査熱量測定想定(DSC)であることを特徴とする、セメント組成物中の石膏分別定量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−209044(P2011−209044A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75803(P2010−75803)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】