説明

セメント組成物用強度増進材及びその製造方法

【課題】 カオリナイト系粘土鉱物からメタカオリンへの加熱処理において凝集化が実質起こらず、セメント組成物用に高い強度増進作用を付与することができるメタカオリン系の強度増進材及び該強度増進材の製造方法を提供する。
【解決手段】 粒径10μm以下の粒状メタカオリンと針状メタカオリンを含有してなるセメント組成物用強度増進材。また、粒径10μm以下の粒状カオリナイト100質量部と長さ10μm以下の針状ハロイサイト10〜100質量部の混合物を600〜900℃で加熱することを特徴とするセメント組成物用強度増進材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントペースト、モルタルやコンクリート等のセメント組成物の強度を増進するために混和するセメント組成物用強度増進材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタカオリンはカオリナイト系粘土鉱物を約500℃以上で加熱して得られる脱水非晶質構造の中間体で、活性シリカ(例えば、特許文献1参照。)或いはポゾラン反応物質(例えば、特許文献2参照。)としてセメントペースト、モルタルやコンクリート等のセメント組成物を高緻密化・強度増進化する混和材成分となりうることが知られている。カオリナイト系粘土鉱物の代表格であるカオリナイト(カオリン)は一般に数μm程度の粒状結晶であるため反応活性が高く、加熱すれば容易にメタカオリンに変移する。しかるに、カオリナイトは加熱すると非常に凝集し易くなり、メタカオリン凝集塊を形成すると、これをそのままセメント組成物に混和配合しても強度増進作用は弱く、十分強度増進が成されたセメント組成物を得るには至らなかった。所望の強度増進作用を発現させるには、メタカオリン凝集物を解して整粒化したものを用いる必要があり、この凝集物は強い凝集状態のため、手間の掛かる粉砕・分級といった工程の導入と、それに伴う製造コストの高騰が避けられなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平04−26536号公報
【特許文献2】特開2005−263614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カオリナイト系粘土鉱物からメタカオリンへの加熱処理において凝集化が実質起こらず、セメント組成物用に高い強度増進作用を付与することができるメタカオリン系の強度増進材及び該強度増進材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題解決のため検討を重ねた結果、粒径10μm以下の粒状メタカオリンと長さ10μm以下の針状メタカオリンが共存してなるメタカオリン焼成体を有効成分とするものが、セメント組成物に混和配合すると高い強度増進作用を発現できることを見出し、また該メタカオリン焼成体は、何れもカオリン系粘土鉱物である粒状カオリナイトとハロイサイトの混合物を特定の温度で加熱すると容易に得られたことから本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、次の[1]〜[2]で表すセメント組成物用強度増進材および[3]で表すセメント組成物用強度増進材の製造方法である。
[1]粒径10μm以下の粒状メタカオリンと針状メタカオリンを含有してなるセメント組成物用強度増進材。
[2]針状メタカオリンがアスペクト比3以上のメタカオリンである前記[1]のセメント組成物用強度増進材。
[3]粒径10μm以下の粒状カオリナイト100質量部と長さ10μm以下の針状ハロイサイト10〜100質量部の混合物を600〜900℃で加熱することを特徴とするセメント組成物用強度増進材の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセメント組成物用強度増進材は、セメント組成物に混和することで強度発現性を増進し、無混和のセメント組成物に比べ初期〜長期に渡り強度値を高めることができる。また、本発明の方法によれば、強度増進作用の低下をもたらすメタカオリンの凝集化を容易に抑制することができ、粉砕・分級といった手間の掛かる工程も実質不要で、製造コストの高騰化も回避できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のセメント組成物用強度増進材は粒径10μm以下の粒状メタカオリンと長さ10μm以下の針状メタカオリンが含まれ、カオリナイト族粘土鉱物を加熱脱水すると得られる非晶質の中間体であるメタカオリンを強度増進成分とするものである。粒状メタカオリンは形状が概ね球又は楕円体〜擬楕円体状のものを云い、好ましくはアスペクト比が3未満の粒である。このような低アスペクト比のカオリナイトはセメント粒子などとの混合性に優れ、最密充填構造も得やすく、硬化結合相の緻密化に寄与する。その粒径は、強度増進作用付与のための活性度が必要なことから10μm以下のものとする。10μmを超えるものでは所望の増進作用が得難くなるので好ましくない。また、針状メタカオリンは、形状的には長柱形や繊維状のものも含み、好ましくはアスペクト比が3以上のもの、より好ましくは10以上のものとする。高アスペクト比のメタカオリンは反応活性が高く、セメント結合相の硬化促進に寄与する。これらの形状に基づく特徴的な性状が相まってセメント組成物に強度増進作用を及ぼす。強度増進作用を効率的に付与する上で、本増進材中の粒径10μm以下の粒状メタカオリンと針状メタカオリンの含有量は、該粒状メタカオリン100質量部に対し、針状メタカオリン10〜100質量部であるものが好ましい。針状メタカオリン10質量部未満のものでは、所望の強度増進作用が得られないことがあるので適当ではなく、100質量部を超えると混合性が低下するので適当ではない。
【0009】
また、本発明のセメント組成物用強度増進材は、上記の粒径10μm以下の粒状メタカオリンと長さ10μm以下の針状メタカオリン以外の成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で含有するものであっても良い。
【0010】
また、上記セメント組成物用強度増進材のセメント組成物への使用量(配合量)は、特に限定されないが、好ましくは含有するセメント100質量部に対し、およそ5〜30質量部が推奨される。5質量部未満では配合効果が殆ど得られないため適当ではなく、また30質量部を超えるとセメント組成物の収縮量が大きくなり過ぎて、収縮ひび割れが発生し易くなるので適当ではない。尚、セメント組成物としては、一般に、セメントに加え骨材無含有のベースト、細骨材含有のモルタル、細骨材と粗骨材を含有したコンクリート等があるが、本セメント組成物用強度増進材はその何れにも配合使用できる。また、使用するセメントは何れのセメントでも良く、他の混和成分の併用も本発明の効果を実質喪失させるものとならない限り、特に制限されない。
【0011】
本発明のセメント組成物用強度増進材の製造方法は、前記の本セメント組成物用強度増進材を製造するに最も適した方法である。本発明のセメント組成物用強度増進材の製造方法において、加熱する混合物を得るために用いる粒状カオリナイトは、カオリン族の粘土鉱物として知られ、Al23・2SiO2・2H2Oの化学組成の結晶である。使用するカオリナイトの形状は、好ましくは略球又は楕円体〜擬楕円体状の粒状のものとする。より好ましくはアスペクト比が3未満の粒子とする。同様の形状であれば、デッカイトやナクライトと称される含水珪酸塩鉱物であっても良い。また、粒状カオリナイトは粒径10μm以下のものを使用する。粒径10μmを超えるものでは反応活性が低く、所望の強度増進作用が得られないので好ましくない。粒径の下限値は特に制限されないが、製造上の扱いやすさを考慮すると概ね3μm以上のものが好ましい。
【0012】
また、粒状カオリナイトと共に混合物を得るために使用する針状ハロイサイトは、カオリン族の粘土鉱物として知られ、化学組成がAl23・2SiO2・4H2Oの結晶である。使用するハロイサイトの形状は、針状のものであれば何れのものでも良いが、好ましくは柱状〜繊維状とする。より好ましくはアスペクト比が10以上の粒子とする。また、針状カオリナイトは長さ10μm以下のものを使用する。長さ10μmを超えるものでは混合し難くなり、均一混合物が得難く、加熱焼成によりメタカオリンの凝集塊を形成することがあるので好ましくない。
【0013】
加熱に供する粒状カオリナイトと針状ハロイサイトの混合物は、粒状カオリナイト100質量部に対し、針状ハロイサイト10〜100質量部が混合したものを使用する。針状ハロイサイト10質量部未満では加熱により生成するメタカオリンの凝集化を防止できないので好ましくない。また、100質量部を超えると、混合性が低下し、均一な混合物が得難くなり、その結果、メタカオリン生成時の凝集化抑制が十分行われなくなることがあるので好ましくない。混合方法は何れの方法でも良く、例えばミキサ羽根が高速回転又は低速回転する何れのタイプのミキサでも、また混合容器自体が回転するタイプのミキサなどを使用して混合することができる。また、加熱に供する混合物には、粒状カオリナイトと針状ハロイサイトの原料に由来する例えばTiO2やFe23等の微量不純物を始め、本発明の効果を実質阻害しない範囲であれば粒状カオリナイトと針状ハロイサイト以外の成分の含有も許容される。
【0014】
粒状カオリナイトと針状ハロイサイトの混合物は、例えば電気炉などの加熱装置で600〜900℃に加熱する。当該加熱温度での保持時間は概ね1〜2時間が推奨される。保持時間経過後の加熱物の冷却は、自然放冷でも構わないが、望ましくは、十分非晶質化した活性の高いメタカオリンを得るため、急冷処理する。急冷方法は特に限定されず、例えば炉外急冷、水中急冷、冷却ガスの吹き付け等の公知の手法を用いることができる。このようなプロセスによって凝集化が十分抑制され、強度増進作用が高いメタカオリンが得られる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例により本発明を具体的により詳しく説明するが、本発明はここに表す実施例に限定されるものではない。
【0016】
インドネシア産カオリナイト(最大粒径40μm、最大アスペクト比2.9の粒状結晶)と、ニュージーランド産ハロイサイト(最大長さ5μm、最小アスペクト比3.1の針状結晶)を表1の配合となるよう低速回転羽根の練混ぜ機で混合した。この混合物を電気炉で、表1記載の温度に加熱し、当該温度で1時間保持した後、炉外急冷を行いメタカオリンを作製した。得られたメタカオリンを湿式粒度分布測定装置と透過型電子顕微鏡で凝集化の有無を調べ、凝集塊状となっていたものを凝集「有」、塊状凝集物になっておらず、ほぼ分散された状態であったものを凝集「無」と判断した。また、SEM(透過型電子顕微鏡)観察による写真から、針状及び粒状メタカオリンが共に存在するか否かを確認し、共に存在するものは、針状及び粒状の共存「有」とし、両者の共存が明確には確認できなかったものを、針状及び粒状の共存「無」とした。さらに、両形状のメタカオリンが共存しているものについては、針状メタカオリン約100個がフィールド内に入る写真を撮影し、当該フィールド内で見られる針状メタカオリンの最小アスペクト比を写真上から求めた。次いで、得られた各メタカオリンを、普通ポルトランドセメント100質量部、珪砂からなる細骨材80質量部及び水40質量部からなるベースモルタルに10質量部添加し、モルタルミキサで混練した。混練物を寸法が直径50mm×高さ100mmの円柱状の試験体に型枠成形し、JIS A 1108に準じた方法で、材齢7日と28日の試験体の圧縮強度を測定した。また、参考として、既存の強度増進剤として知られているシリカフューム(ブレーン比表面積120000cm2/g;市販品)を前記と同様のベースモルタルに5質量部添加した混練物から同様に作製した試験体についても、材齢7日と28日の圧縮強度を測定した。以上の結果を表1に併せて表す。
【0017】
【表1】

【0018】
表1から、本発明の方法で作製したメタカオリンは凝集塊形成や凝集化が十分抑制できていることがわかる。これに対し、本発明外の方法で作製したメタカオリンは凝集化が殆ど抑制できず、またモルタル等に配合しても強度増進作用が殆ど得られないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径10μm以下の粒状メタカオリンと針状メタカオリンを含有してなるセメント組成物用強度増進材。
【請求項2】
針状メタカオリンがアスペクト比3以上のメタカオリンである請求項1記載のセメント組成物用強度増進材。
【請求項3】
粒径10μm以下の粒状カオリナイト100質量部と長さ10μm以下の針状ハロイサイト10〜100質量部の混合物を600〜900℃で加熱することを特徴とするセメント組成物用強度増進材の製造方法。