説明

セメント組成物

【課題】凝結調整剤を用いることなく充分な流動性や作業時間を確保でき、かつ、蒸気養生若しくは高温高圧養生を行った場合でも充分な強度発現性が得られるセメント組成物を提供する。
【解決手段】(A)セメントと、(B)2CaO・SiO2及び2CaO・Al2O3・SiO2を含有し、2CaO・SiO2100質量部に対して、2CaO・Al2O3・SiO2+4CaO・Al2O3・Fe2O3が10〜100質量部であり、3CaO・Al2O3の含有量が20質量部以下である焼成物の粉砕物を含むセメント組成物において、焼成物の粉砕物の配合量が、ポルトランドセメントクリンカー粉砕物100質量部に対して5000質量部以下であるセメント組成物。
該セメント組成物は、石膏をSO3換算で1.0〜4.0質量%含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気養生若しくは高温高圧養生してモルタル製品やコンクリート製品を製造する際に好適に使用されるセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的強度が高いモルタルやコンクリート等のセメント硬化体を製造する方法としてはセメントを結合材として含有する組成物を高温高圧養生(オートクレーブ養生)する方法や蒸気養生する方法が知られている。
高温高圧養生や蒸気養生によりコンクリ−ト二次製品等を製造する際に、強度向上、養生期間の短縮あるいは養生温度の低減を目的として、ポルトランドセメントに、アルミナセメントと石膏を有効成分とする添加材を添加する方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、上記の添加材を添加したセメント組成物では、凝結時間が早まるために、凝結調整剤の使用が不可欠となり、凝結調整剤の配合量によっては、流動性が低く作業性が低下したり、流動性の経時変化が大きくなり練り上がりから打設までの時間に制約が生じる等の問題がある。また、凝結調整剤の配合量によっては、充分な強度発現性が得られ難いという問題があった。
【特許文献1】特開平1−261254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、凝結調整剤を用いることなく充分な流動性や作業時間を確保でき、かつ、蒸気養生若しくは高温高圧養生を行った場合でも充分な強度発現性が得られるセメント組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、鋭意検討した結果、特定の鉱物組成を有する焼成物の粉砕物を特定量セメントに配合することにより、凝結調整剤を用いなくても充分な流動性や作業時間を確保でき、かつ、蒸気養生若しくは高温高圧養生を行った場合でも充分な強度発現性が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、(A)セメントと、(B)2CaO・SiO2及び2CaO・Al2O3・SiO2を含有し、2CaO・SiO2100質量部に対して、2CaO・Al2O3・SiO2+4CaO・Al2O3・Fe2O3が10〜100質量部であり、3CaO・Al2O3の含有量が20質量部以下である焼成物の粉砕物を含むセメント組成物において、焼成物の粉砕物の配合量が、ポルトランドセメントクリンカー粉砕物100質量部に対して5000質量部以下であることを特徴とするセメント組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセメント組成物を用いれば、凝結調整剤を用いることなく充分な流動性や作業時間を確保できるうえ、蒸気養生若しくは高温高圧養生を行った場合でも充分な強度発現性が得られる。
さらに本発明では、産業廃棄物、一般廃棄物等を原料として使用した焼成物を大量に用いることができるので、廃棄物の有効利用の促進にも大いに貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いる焼成物は、2CaO・SiO2(以降、C2Sと称す)及び2CaO・Al2O3・SiO2(以降、C2ASと称す)を含有するもので、C2S100質量部に対して、C2AS+4CaO・Al2O3・Fe2O3(以降、C4AFと称す)を10〜100質量部、好ましくは15〜90質量部含有するものである。C2AS+C4AF含有量が10重量部未満では、焼成時に焼成温度を上げてもフリーライム量(未反応CaO量)が低下しにくく、焼成が困難になり、また、生成するC2Sも水和活性のないγ型C2Sである可能性が高くなり、蒸気養生若しくは高温高圧養生を行った場合でもセメント組成物の強度を大きく低下させることがある。一方、C2AS+C4AF含有量が100質量部を超えると、高温における融液が増加するため、焼成可能温度が狭まり、またC2Sが少ないため、蒸気養生若しくは高温高圧養生を行った場合でもセメント組成物の強度が低下する。
なお、本発明においては、C2AS+C4AF質量の70質量%以下がC4AFであるのが好ましい。
C4AF量がこの範囲を超えると、焼成の温度範囲が狭くなり、製造の管理が難しくなる。
【0009】
焼成物は、C2S100質量部に対する3CaO・Al2O3(以降、C3Aと称す)の含有量が20質量部以下、好ましくは10質量部以下である。C3Aの含有量が20質量部を超えると、セメント組成物の流動性が悪化するうえ、充分な作業時間の確保も困難となる。
【0010】
このような焼成物の原料としては、一般のポルトランドセメントクリンカー原料、例えば、石灰石、生石灰、消石灰等のCaO原料、珪石、粘土等のSiO2原料、粘土等のAl2O3原料、鉄滓、鉄ケーキ等のFe2O3原料を使用することができる。
また、産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる1種以上を原料とし、これを焼成することにより製造することができる。産業廃棄物としては、例えば、生コンスラッジ、各種汚泥(例えば、下水汚泥、浄水汚泥、建設汚泥、製鉄汚泥等)、建設廃材、コンクリート廃材、ボーリング廃土、各種焼却灰(例えば、石炭灰、焼却飛灰、溶融飛灰等)、鋳物砂、ロックウール、廃ガラス、高炉2次灰等が挙げられる。一般廃棄物としては、例えば、下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、貝殻等が挙げられる。建設発生土としては、例えば、建設現場や工事現場等から発生する土壌や残土、更に廃土壌等が挙げられる。
【0011】
焼成物の鉱物組成は、使用原料中のCaO、SiO2、Al2O3、Fe2O3の各含有量(質量%)から、次式により求めることができる。
C4AF=3.04×Fe2O3
C3A=1.61×CaO−3.00×SiO2−2.26×Fe2O3
C2AS=−1.63×CaO+3.04×SiO2+2.69×Al2O3+0.57×Fe2O3
C2S=1.02×CaO+0.95×SiO2−1.69×Al2O3−0.36×Fe2O3
【0012】
従って、例えば、廃棄物原料中にカルシウムが不足する場合には、その不足分を調整するために、石灰石等を混合して用いることができる。混合割合は、廃棄物原料の組成に応じて、得られる焼成物の組成が、本発明の範囲内になるよう、適宜決定すれば良い。
【0013】
これらを焼成する際の焼成温度は、1200〜1400℃、特に1250〜1370℃であるのが、焼成工程の熔融相の状態が良好であるので好ましい。
用いる装置は特に限定されず、例えばロータリーキルン等を用いることができる。また、ロータリーキルンで焼成する際には、燃料代替廃棄物、例えば廃油、廃タイヤ、廃プラスチック等を使用することができる。
このような焼成により、C2ASが生成し、その分C3A量がBogue式から導かれる量よりも少なくなり、本発明のような組成の焼成物を得ることができる。
なお、本発明においては、焼成物中のフリーライム量は、セメント組成物の流動性や強度発現性等から、1.5質量%以下、特に1質量%以下であることが好ましい。
【0014】
焼成物の粉砕物は、ブレーン比表面積が2500〜5000cm2/gであることが、モルタルやコンクリートのブリーディングの低減や、流動性、強度発現性の観点から好ましい。焼成物の粉砕方法は特に制限されず、例えばボールミル等を用い、通常の方法で粉砕すれば良い。
【0015】
本発明のセメント組成物は、前記焼成物の粉砕物とセメントを混合することにより得られる。
焼成物の粉砕物の配合量は、ポルトランドセメントクリンカー粉砕物100質量部に対して、5000質量部以下であることが好ましく、廃棄物等の有効利用の促進の観点やモルタルやコンクリートの流動性や強度発現性の観点から100質量部を越え4000質量部以下がより好ましく、110〜2000質量部が特に好ましい。焼成物の粉砕物の配合量が、ポルトランドセメントクリンカー粉砕物100質量部に対して5000質量部を超えると、蒸気養生若しくは高温高圧養生を行った場合でもセメント組成物の強度発現性が極端に低下する。
【0016】
本発明のセメント組成物中の好ましい石膏量は、全SO3換算で1.0〜4.0質量%、特に1.5〜3.5質量%、更に1.8〜3.0質量%であるのが、充分な作業時間を確保でき、かつ、強度発現性も良好になるので好ましい。石膏としては、特に制限されず、例えば二水石膏、α型又はβ型半水石膏、無水石膏等が挙げられ、これらを単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
石膏のブレーン比表面積は、モルタルやコンクリートのブリーディングの低減や、流動性、強度発現性の観点から、2500〜10000cm2/gであることが好ましい。
【0017】
本発明のセメント組成物は、前記成分等を混合して製造することができるが、その方法は特に制限されず、例えば、ポルトランドセメントクリンカー、焼成物、石膏の配合成分を、混合した後粉砕するか、あるいは各成分を粉砕した後に混合しても良い。また、焼成物と石膏を粉砕して得られたものを、セメントクリンカー粉砕物やポルトランドセメントと混合して製造することもできる。得られるセメント組成物は、ブレーン比表面積が2500〜4500cm2/gであることが、モルタルやコンクリートのブリーディングの低減や、流動性、強度発現性の観点から好ましい。
【実施例】
【0018】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0019】
実施例1
(1)焼成物の製造:
表1に示す化学組成の石灰石及び下水汚泥を原料として焼成物を製造した。焼成は、ロータリーキルンを用いて焼成温度1350℃で行った。なお、焼成物の鉱物組成は、C2S:100質量部に対して、C2AS:51質量部、C4AF:37質量部、C3A:0質量部、フリーライム:0.6質量部であった。
【0020】
【表1】

【0021】
(2)セメント組成物の製造
試製普通ポルトランドセメントクリンカー(C3S:100質量部、C2S:25質量部、C4AF:14質量部、C3A:16質量部)と上記焼成物の粉砕物(ブレーン比表面積3200cm2/g)を表2に示す割合で混合し、さらにセメント組成物中の全SO3量が2.2質量%となるように二水石膏(ブレーン比表面積4000cm2/g)を混合し、バッチ式ボールミルでブレーン比表面積が3250±50cm2/gとなるように同時粉砕して、セメント組成物を製造した。
得られたセメント組成物について、モルタルフロー及びモルタル圧縮強さを評価した。
結果を表3に示す。
【0022】
(評価方法)
(1)モルタルフロー:
W/C=0.3、S/C=2.7、セメント組成物に対して1.2質量%のナフタレンスルホン酸系高性能減水剤(マイテイ150)を混合したものを、4分間混練したモルタルについて、1/2ミニスランプコーン(上面直径5cm、下面直径10cm、高さ15cmのコーン)を用いて、混練直後及び30分経過後のモルタルフローを測定した。
(2)モルタル圧縮強さ:
W/C=0.3、S/C=2.7、セメント組成物に対して1.5質量%のナフタレンスルホン酸系高性能減水剤(マイテイ150)を混合したものを、4分間混練したモルタルについて、4×4×16cmの型枠を用いて「JIS R 5201」に従って成形し、以下の条件で養生後、モルタル圧縮強さを「JIS R 5201」に従って測定した。
・高温高圧養生:20℃で5時間前置き後、20℃/hrで65℃まで昇温し、65℃で3時間蒸気養生後、−7℃/hrで25℃まで降温し、60℃/hrで180℃まで昇温し、180℃で10時間高温高圧養生後、3時間で100℃まで降温し、さらに室温まで自然冷却した。
・蒸気養生:20℃で5時間前置き後、20℃/hrで65℃まで昇温し、65℃で3時間蒸気養生後、室温まで自然冷却した。
【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
表3より、本発明のセメント組成物(No.1〜5)では、流動性が高く、充分な作業時間を確保できるうえ、高温高圧養生を行った場合でも充分な強度発現性を有することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セメントと、(B)2CaO・SiO2及び2CaO・Al2O3・SiO2を含有し、2CaO・SiO2100質量部に対して、2CaO・Al2O3・SiO2+4CaO・Al2O3・Fe2O3が10〜100質量部であり、3CaO・Al2O3の含有量が20質量部以下である焼成物の粉砕物を含むセメント組成物において、焼成物の粉砕物の配合量が、ポルトランドセメントクリンカー粉砕物100質量部に対して5000質量部以下であることを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
石膏を、SO3換算で1.0〜4.0質量%含有する請求項1記載のセメント組成物。
【請求項3】
焼成物が、産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる一種以上を原料として製造した焼成物である請求項1又は2記載のセメント組成物。

【公開番号】特開2008−184356(P2008−184356A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18729(P2007−18729)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)