説明

セメント質硬化体の製造方法

【課題】シリカフュームを使用しなくても、圧縮強度が180N/mm2以上の超高強度のセメント質硬化体(モルタル等)を製造することができるセメント質硬化体の製造方法を提供する。
【解決手段】(A)ポルトランドセメントと、(B)ブレーン比表面積が5000〜15000cm2/gのスラグ粉末及び/又は石炭灰と、(C)細骨材と、(D)ポリカルボン酸系の高性能減水剤又は高性能AE減水剤と、(E)水を含む配合物を混練し、該混練物を60℃以上で蒸気養生するセメント質硬化体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮強度が180N/mm2以上の超高強度のセメント質硬化体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械的特性(圧縮強度等)に優れるモルタルやコンクリート等は、次のような利点を有する。
(1)現場打ちで建築物等を構築する場合には、コンクリート層の厚さを薄くすることができるので、コンクリートの打設量が少なくなり、労力の軽減、コストの削減、利用空間の増大等を図ることができる。
(2)プレキャスト部材を製造する場合には、該プレキャスト部材の厚さを薄くすることができるので、軽量化を図ることができ、運搬や施工が容易になる。
(3)耐摩耗性や、中性化・クリープ等に対する耐久性が向上する。
従来より、硬化後の強度発現性に優れるモルタルやコンクリートとして、シリカフュームを使用したモルタルやコンクリートが提案されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−67945号公報
【特許文献2】特開2005−170781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリカフュームを使用したモルタルやコンクリートでは、硬化後150〜180N/mm2程度の圧縮強度を発現することは可能である。しかしながら、上記の利点に鑑みて、より強度発現性に優れるモルタルやコンクリートが望まれている。
また、一般に、シリカフュームは高価な材料であり、シリカフュームを使用したモルタルやコンクリートでは、コストが高くなるという課題もある。
【0005】
そこで、本発明においては、シリカフュームを使用しなくても、圧縮強度が180N/mm2以上の超高強度のセメント質硬化体(モルタル等)を製造することができるセメント質硬化体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、鋭意検討した結果、ポルトランドセメントと、特定の比表面積を有するスラグ粉末及び/又は石炭灰と、ポリカルボン酸系の高性能減水剤又は高性能AE減水剤とを組合せ、かつ、蒸気養生することにより、シリカフュームを使用しなくても、圧縮強度が180N/mm2以上の超高強度のセメント質硬化体を製造できることを見いだし、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明は、(A)ポルトランドセメントと、(B)ブレーン比表面積が5000〜15000cm2/gのスラグ粉末及び/又は石炭灰と、(C)細骨材と、(D)ポリカルボン酸系の高性能減水剤又は高性能AE減水剤と、(E)水を含む配合物を混練し、該混練物を60℃以上で蒸気養生することを特徴とするセメント質硬化体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセメント質硬化体の製造方法では、高価な材料であるシリカフュームを使用しなくても、圧縮強度が180N/mm2以上の超高強度のセメント質硬化体(モルタル等)を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明においては、(A)ポルトランドセメントと、(B)ブレーン比表面積が5000〜15000cm2/gのスラグ粉末及び/又は石炭灰と、(C)細骨材と、(D)ポリカルボン酸系の高性能減水剤又は高性能AE減水剤と、(E)水、を含む配合物を使用する。
ポルトランドセメントとしては、普通、中庸熱、低熱等の各種ポルトランドセメントを使用することができる。
本発明においては、モルタル等の流動性や強度発現性等から、ポルトランドセメントとして、2CaO・SiO2(以降、C2Sと略す)を30〜70質量%(より好ましくは35〜65質量%)含有するポルトランドセメントを使用することが好ましい。このようなポルトランドセメントとしては、中庸熱ポルトランドセメントや低熱ポルトランドセメントが挙げられる。
【0009】
本発明においては、ポルトランドセメントのブレーン比表面積は、3000〜5000cm2/gが好ましく、3100〜4000cm2/gがより好ましく、3200〜3600cm2/gが特に好ましい。
ブレーン比表面積が3000cm2/g未満のポルトランドセメントは、一般に入手が困難である。ポルトランドセメントのブレーン比表面積が5000cm2/gを超えると、モルタル等の流動性や強度発現性が低下する。
【0010】
スラグ粉末としては、高炉スラグ粉末、転炉スラグ粉末、都市ごみ溶融スラグ粉末等が挙げられる。本発明においては、モルタル等の流動性や強度発現性等から、スラグ粉末として、高炉スラグ粉末を使用することが好ましい。
石炭灰としては、フライアッシュ、クリンカアッシュ等が挙げられる。本発明においては、モルタル等の流動性や強度発現性等から、石炭灰として、フライアッシュを使用することが好ましい。
【0011】
スラグ粉末及び/又は石炭灰のブレーン比表面積は、5000〜15000cm2/gが好ましく、5300〜10000cm2/gがより好ましく、5500〜8000cm2/gが特に好ましい。
該ブレーン比表面積が5000cm2/g未満では、モルタル等の強度発現性が低下する。該ブレーン比表面積が15000cm2/gを超えると、モルタル等の流動性が極端に低下する傾向にある。また、ブレーン比表面積が15000cm2/gを超えるスラグ粉末及び/又は石炭灰は、入手が困難であり、コストが高くなる虞もある。
【0012】
スラグ粉末及び/又は石炭灰の配合量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、25〜400質量部が好ましく、33〜300質量部がより好ましい。
スラグ粉末及び/又は石炭灰の配合量が25質量部未満では、モルタル等の流動性や強度発現性が低下する傾向にある。スラグ粉末及び/又は石炭灰が400質量部を超えると、モルタル等の強度発現性が低下する。
【0013】
細骨材としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂又はこれらの混合物を使用することができる。
本発明においては、モルタル等の流動性や強度発現性等から、最大粒径が2mm以下の細骨材を使用することが好ましく、最大粒径が1.5mm以下の細骨材を使用することがより好ましい。
細骨材の配合量は、ポルトランドセメントとスラグ粉末及び/又は石炭灰の合計量100質量部に対して、50〜250質量部が好ましく、80〜200質量部がより好ましい。細骨材の配合量が、ポルトランドセメントとスラグ粉末及び/又は石炭灰の合計量100質量部に対して50質量部未満では、モルタル等の流動性が低下する傾向にある。また、水和熱も大きくなり、ひび割れが生じる虞もある。細骨材の配合量が、ポルトランドセメントとスラグ粉末及び/又は石炭灰の合計量100質量部に対して250質量部を超えると、モルタル等の強度発現性が低下する。
【0014】
ポリカルボン酸系の高性能減水剤又は高性能AE減水剤(以下、減水剤と称す)の配合量は、ポルトランドセメントとスラグ粉末及び/又は石炭灰の合計量100質量部に対して、固形分換算で、0.1〜1.0質量部が好ましく、0.15〜0.5質量部がより好ましい。減水剤の配合量が、ポルトランドセメントとスラグ粉末及び/又は石炭灰の合計量100質量部に対して0.1質量部(固形分換算)未満では、モルタル等の流動性が低下する。また、混練が困難な場合もある。減水剤を、ポルトランドセメントとスラグ粉末及び/又は石炭灰の合計量100質量部に対して1.0質量部(固形分換算)越えて添加しても流動性の向上効果はほとんどなく、コストが高くなる。
なお、減水剤は、液状又は粉末状どちらでも使用可能である。
【0015】
水量は、ポルトランドセメントとスラグ粉末及び/又は石炭灰の合計量100質量部に対して、10〜25質量部が好ましく、12〜23質量部がより好ましい。水量がポルトランドセメントとスラグ粉末及び/又は石炭灰の合計量100質量部に対して10質量部未満では、モルタル等の流動性が低下する。また、混練が困難な場合もある。水量がポルトランドセメントとスラグ粉末及び/又は石炭灰の合計量100質量部に対して25質量部を越えると、モルタル等の強度発現性が低下する。
【0016】
本発明において、配合物はさらに石膏や粗骨材を含むことができる。特に、ポルトランドセメントとスラグ粉末及び/又は石炭灰の合計量100質量部に対して、石膏をSO3換算で0.5〜4.0質量部(より好ましくは1.0〜3.0質量部)含むことは、モルタル等のブリーディングを低下することができ好ましいものである。
なお、石膏としては、2水石膏、α型又はβ型半水石膏、無水石膏等を単独又は2種以上組み合わせてを使用することができる。石膏は、モルタル等の流動性等から、ブレーン比表面積2500〜5000cm2/gのものを使用するのが好ましく、3000〜4500cm2/gのものを使用するのがより好ましい。
粗骨材としては、川砂利、山砂利、砕石等を使用することができる。
【0017】
配合物の混練方法は、特に限定するものではなく、例えば、
(1)水、減水剤以外の材料を予め混合しておき(プレミックス)、該プレミックス、水、減水剤をミキサに投入し、混練する。
(2)水以外の材料を予め混合しておき(プレミックス、ただし減水剤は粉末タイプのものを使用する)、該プレミックス、水をミキサに投入し、混練する。
(3)ポルトランドセメントとスラグ粉末及び/又は石炭灰を予め混合しておき(プレミックスセメント)、該プレミックスセメントと他の材料をミキサに投入し、混練する。
(4)各材料を、それぞれ個別にミキサに投入し、混練する。
などの方法が挙げられる。
混練に用いるミキサは、モルタルやコンクリートの混練に使用するどのタイプのものでもよく、例えば、ホバートミキサ、揺動型ミキサ、パンタイプミキサ、二軸練りミキサ等を使用することができる。
【0018】
混練後、所定の型枠で混練物を成形し、その後、60℃以上(より好ましくは65〜95℃、特に好ましくは70〜90℃)で蒸気養生して、セメント質硬化体を製造する。蒸気養生時間は10〜48時間が好ましい。蒸気養生温度が60℃未満では、モルタル等の強度発現性が低下する。
なお、混練物の成形方法は、特に限定するものではなく、流し込み成形や振動成形等を行なうことができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を説明する。
1.使用材料
以下に示す材料を使用した。
(1)市販低熱ポルトランドセメント:太平洋セメント(株)製、ブレーン比表面積3500cm2/g、C2S含有量55質量%
(2)市販中庸熱ポルトランドセメント:太平洋セメント(株)製、ブレーン比表面積3300cm2/g、C2S含有量35質量%
(3)市販普通ポルトランドセメント:太平洋セメント(株)製、ブレーン比表面積3200cm2/g、C2S含有量17質量%
(4)高炉スラグ粉末A:ブレーン比表面積6000cm2/g
(5)高炉スラグ粉末B:ブレーン比表面積11000cm2/g
(6)シリカフューム:BET比表面積21m2/g
(7)細骨材:「JIS R 5201」の標準砂
(8)ポリカルボン酸系高性能減水剤:BASFポゾリス製「SP-8HU」
(9)水;水道水
【0020】
2.実施例1
低熱ポルトランドセメント100質量部、高炉スラグ粉末A100質量部、細骨材200質量部、高性能減水剤0.6質量部(固形分換算)、水30質量部を二軸練りミキサに投入し、混練した。
該混練物のフロー値を、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において、15回の落下運動を行わないで測定した。その結果、フロー値は290mmであった。
また、前記混練物をφ50×100mmの型枠に流し込み、20℃で48時間前置き後90℃で48時間蒸気養生した。該硬化体の圧縮強度(3本の平均値)は196N/mm2であった。
【0021】
3.実施例2
低熱ポルトランドセメント100質量部、高炉スラグ粉末B100質量部、細骨材200質量部、高性能減水剤0.6質量部(固形分換算)、水34質量部を二軸練りミキサに投入し、混練した。
フロー値及び圧縮強度を、実施例1と同様に測定した。
その結果、フロー値は250mm、圧縮強度は190N/mm2であった。
【0022】
4.実施例3
中庸熱ポルトランドセメント100質量部、高炉スラグ粉末A100質量部、細骨材200質量部、高性能減水剤0.6質量部(固形分換算)、水34質量部を二軸練りミキサに投入し、混練した。
フロー値及び圧縮強度を、実施例1と同様に測定した。
その結果、フロー値は280mm、圧縮強度は185N/mm2であった。
【0023】
5.実施例4
普通ポルトランドセメント100質量部、高炉スラグ粉末A100質量部、細骨材200質量部、高性能減水剤0.6質量部(固形分換算)、水36質量部を二軸練りミキサに投入し、混練した。
フロー値及び圧縮強度を、実施例1と同様に測定した。
その結果、フロー値は295mm、圧縮強度は181N/mm2であった。
【0024】
6.比較例1
低熱ポルトランドセメント100質量部、シリカフューム20質量部、細骨材85質量部、高性能減水剤0.35質量部(固形分換算)、水24質量部を二軸練りミキサに投入し、混練した。
フロー値及び圧縮強度を、実施例1と同様に測定した。
その結果、フロー値は200mm、圧縮強度は172N/mm2であった。
【0025】
7.比較例2
低熱ポルトランドセメント100質量部、高炉スラグ粉末A100質量部、細骨材200質量部、高性能減水剤0.6質量部(固形分換算)、水30質量部を二軸練りミキサに投入し、混練した。
該混練物をφ50×100mmの型枠に流し込み、20℃で48時間前置き後、脱型し、20℃で91日間水中養生した。該硬化体の圧縮強度(3本の平均値)は175N/mm2であった。
【0026】
上記のように、本発明のセメント質硬化体の製造方法では、シリカフュームを使用しなくても、圧縮強度が180N/mm2以上の超高強度モルタルを製造することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポルトランドセメントと、(B)ブレーン比表面積が5000〜15000cm2/gのスラグ粉末及び/又は石炭灰と、(C)細骨材と、(D)ポリカルボン酸系の高性能減水剤又は高性能AE減水剤と、(E)水を含む配合物を混練し、該混練物を60℃以上で蒸気養生することを特徴とするセメント質硬化体の製造方法。
【請求項2】
上記ポルトランドセメントが、2CaO・SiO2を30〜70質量%含有するポルトランドセメントである請求項1記載のセメント質硬化体の製造方法。
【請求項3】
上記スラグ粉末が、高炉スラグ粉末である請求項1又は2記載のセメント質硬化体の製造方法。

【公開番号】特開2011−157242(P2011−157242A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21937(P2010−21937)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】