説明

セラミダーゼ阻害剤の製造方法

【課題】セラミダーゼ活性、中でも中性/アルカリ性セラミダーゼ活性を阻害するコンブ科植物の処理物を有効成分として含有することを特徴とするセラミダーゼ活性阻害剤、並びに、該阻害剤を含有してなるセラミド量調節剤、医薬部外品、化粧料の製造方法を提供すること。
【解決手段】コンブ科植物より抽出溶媒を使用して有効成分を抽出することを特徴とするセラミダーゼ活性阻害剤の製造方法。該方法でセラミダーゼ活性阻害剤を製造する工程を包含する、セラミダーゼ活性阻害剤を含有するセラミド量調節剤、医薬部外品、化粧料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来の処理物、例えば、抽出物を含有するセラミダーゼ活性阻害剤の製造方法、当該阻害剤を含有するセラミド量調節剤、医薬部外品、化粧料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴ脂質(スフィンゴ糖脂質、スフィンゴミエリン及びそれらの代謝産物セラミド等)は、細胞の増殖、分化、アポトーシス等を制御する情報分子として近年急速に注目を集め始めた。癌、自己免疫疾患、感染症等の疾患においてスフィンゴ脂質代謝は大きく変化するので、創薬のターゲットとして強い関心が寄せられている。中でもセラミドはスフィンゴ脂質の基本骨格となる脂質で細胞の生と死を調節する重要な因子であると考えられてきた。現在少なくとも3つのセラミドの産生経路が知られている。すなわち、1)セリンとパルミトイルCoAの縮合反応から始まるde novoの合成経路、2)スフィンゴミエリンの分解系、3)グルコシルセラミドの分解系、の3経路である。この中でスフィンゴミエリンの分解系は、細胞死を誘導するTNF−α、Fasといったサイトカインや血清枯渇、紫外線、放射線照射、酸化ストレスによって活性化される。この他ビタミンD3、インターフェロンγ、インターロイキン1βといった分化因子によってもスフィンゴミエリンの分解を介したセラミド産生が亢進する。また、細胞外からセラミドアナログであるC2−セラミド(D−erythro−N−acetylsphingosine)を加えることによってアポトーシス、分化誘導、増殖抑制といった現象が誘導されること、あるいは、バクテリアのスフィンゴミエリナーゼで細胞を処理することによってもスフィンゴミエリンの分解によってセラミドが蓄積し、C2−セラミドを加えたのと同様に細胞の増殖抑制、アポトーシスが誘導されることから、細胞内セラミドは重要な細胞内シグナルとして機能していると考えられている。
【0003】
セラミドはセラミダーゼの作用によって遊離の脂肪酸と長鎖塩基であるスフィンゴシンに分解される。スフィンゴシンは1位の水酸基がリン酸化されスフィンゴシン−1−リン酸に代謝される。スフィンゴシン−1−リン酸はセラミドとは逆に細胞増殖促進作用を示し、セラミドによって誘導されるアポトーシスを抑制することが知られている。このように細胞の増殖、分化、細胞死などの調節において細胞内のセラミドとその代謝産物であるスフィンゴシン、スフィンゴシン−1−リン酸などのバランスが非常に重要であると考えられている。従って細胞内セラミド量を増加させ、かつスフィンゴシンやスフィンゴシン−1−リン酸レベルを減少させる薬剤は細胞の増殖、分化、細胞死を調節する薬剤としてきわめて有用である。
【0004】
セラミドはL−セリンとパルミトイルCoAからde novo合成されるが、この合成系の初発酵素であるパルミトイルCoA:セリンパルミトイルトランスフェラーゼを阻害する物質としてISP−I(例えば、非特許文献1)やSphingofungin B(例えば、非特許文献2)が知られている。また、ジヒドロスフィンゴシンからジヒドロセラミドへの変換酵素であるアシルCoA:スフィンガニンN−アシルトランスフェラーゼの阻害剤としてフモニシンB1(例えば、非特許文献3)が知られている。これらの物質はいずれもセラミドのde novo合成を阻害し、細胞内セラミド量を減少させる事が知られている。
【0005】
一方セラミドレベルを上昇させる物質としては、セラミドにグルコースを転移しグルコシルセラミドを合成するUDP−グルコース:セラミドグルコシルトランスフェラーゼの活性を阻害する物質としてD−threo PDMPが知られており(例えば、非特許文献4)、この物質は細胞内セラミドの増加を引き起こすことが知られている。しかしながらこの酵素はスフィンゴ糖脂質生合成の初発酵素であるので、スフィンゴ糖脂質の合成も抑制されてしまう。
【0006】
セラミド及びスフィンゴシン、スフィンゴシン−1−リン酸のバランスを調節する代謝酵素として中性/アルカリ性セラミダーゼ(例えば、非特許文献5、非特許文献6および非特許文献7)、アルカリ性セラミダーゼ(例えば、非特許文献8)の重要性が注目されているが、これらの酵素の活性を阻害する物質はほとんど知られていない。唯一セラミドのアナログであるD−erythro−2−(N−myristoylamino)−1−phenyl−1−propanol(D−e−MAPP)がアルカリ性セラミダーゼの活性を阻害し、細胞内のセラミドレベルを上昇させることが知られている(例えば、特許文献1及び非特許文献9参照)。しかしながら、この物質の中性/アルカリ性セラミダーゼに対する阻害活性は強くなく、決して満足できるものではない。非特許文献10には同じくセラミドのアナログである(1R,2R)−2−N−myristoylamino−1−(4−nitrophenyl)−1,3−propandiol(D−NMAPPD、またはB13)がアルカリ性セラミダーゼよりもむしろ酸性セラミダーゼを効率よく阻害する事が記載されているが、中性/アルカリ性セラミダーゼに対する有効な阻害物質に関しては報告されていない。非特許文献9には、N−oleoylethanolamineが酸性セラミダーゼに対する阻害効果を有する事が記載されているが、この物質は中性/アルカリ性セラミダーゼに対しては殆ど阻害効果を示さない。また、特許文献2には皮膚角層中のセラミドの分解を抑制するウコン、ユキノシタ、セキセツソウ、カイソウの抽出液を含むセラミダーゼ活性阻害剤、並びにこれらを含む皮膚外用剤が開示されているが、これらの植物抽出物の中性/アルカリ性セラミダーゼに対する阻害効果に関する記載はなく、さらに皮膚セラミドレベルの上昇効果は十分でなく満足できるものではなかった。
【0007】
一方セラミドは皮膚における主要な細胞間脂質成分であり、皮膚の保湿能やバリア機構に重要な役割を果たしている。近年その患者数が増加しているアトピー性皮膚炎患者の皮膚角層ではセラミド含量が減少しており、この事がアトピー性皮膚炎の特徴とされている乾燥皮膚ならびに角層のバリア機能異常の原因の一つとして考えられている。最近アトピー性皮膚炎患者からセラミダーゼ生産菌が健常人に比べて高頻度に検出される事が報告されている(例えば、非特許文献11)。また、アトピー性皮膚炎患者からセラミダーゼ生産菌シュードモナス エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)AN17株が分離され、そのセラミダーゼが精製、クローニングされている(例えば、非特許文献12および非特許文献13)。従ってこの様なバクテリアが産生するセラミダーゼがアトピー性皮膚炎患者における皮膚のセラミドを分解する事によって角層セラミドが減少し、皮膚のバリア機能が低下して疾患が増悪するという可能性が考えられている。しかしながら、微生物由来セラミダーゼの活性を阻害する特異的な阻害物質は全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第97/44019号パンフレット
【特許文献2】特許公開第2002−308791号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Miyake Y、他4名、バイオケミカル バイオフィジカル リサーチ コミュニケーション(Biochem.Biophys.Res.Commun.)、第211巻、第396−403頁(1995)
【非特許文献2】Zweerink MM、他4名、ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)、第267巻、第25032−25038頁(1992)
【非特許文献3】Wang E、他4名、ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)、第266巻、第14486−14490頁(1991)
【非特許文献4】Inokuchi J、他1名、ジャーナル オブ リピッド リサーチ(J.Lipid Res.)、第28巻、第565−571頁(1987)
【非特許文献5】Tani M、他5名、ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)、第275巻、第11229−11234頁(2000)
【非特許文献6】Mitsutake S、他8名、ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)、第276巻、第26,249−26,259頁(2001)
【非特許文献7】El Bawab S、他5名、ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)、第275巻、第21508−21513頁(2000)
【非特許文献8】Mao C、他5名、ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)、第276巻、第26577−26588頁(2001)
【非特許文献9】Bielawska A、他6名、ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)、第271巻、第12646−12654頁(1996年)
【非特許文献10】Raisova M、他9名、フェブス レター(FEBS Letters)、第516巻、第47−52頁(2002年)
【非特許文献11】Ohnishi Y、他3名、クリニカル アンド ダイアグノスティック ラボラトリー イミュノロジー(Clin.Diagn.Lab.Immunol.)、第6巻、第101−104頁(1999)
【非特許文献12】Okino N、他3名、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)、第273巻、第14368−14373頁(1998)
【非特許文献13】Okino N、他5名、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)、第274巻、第36616−36622頁(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の様に、動物あるいは微生物が産生する中性/アルカリ性セラミダーゼの活性を阻害する有効な阻害剤は未だ知られておらず、産業的に利用されていないのが現状である。本発明の目的は、セラミダーゼ活性、中でも中性/アルカリ性セラミダーゼ活性に対する植物由来の阻害剤の製造方法、当該阻害剤を含有するセラミド量調節剤、医薬部外品、化粧料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の現況に鑑み、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、中性/アルカリ性セラミダーゼの阻害物質が、細胞内セラミドレベルの調節、ひいては細胞内セラミドによって引き起こされる細胞の増殖抑制、分化誘導、アポトーシスの調節に有効であると考え、広く種々の物質について中性/アルカリ性セラミダーゼの阻害活性を調べた結果、種々の植物由来の処理物や、該処理物由来の特定の化合物が中性/アルカリ性セラミダーゼに対して特異的な阻害活性を有していることを見いだした。さらに、これらの植物由来の処理物や植物由来の特定の化合物に動物培養細胞、あるいは皮膚角層のセラミド含量を増加させる活性があることを確認し、これらに基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の製造方法により、例えば、イチョウ、ウリ、オレンジ、ガゴメ、キュウリ、グレープフルーツ、トウガン、ニガウリ、マコンブ、ユーカリ、ヨモギ、ライム、及びワカメからなる群より選ばれる少なくとも1つの植物由来の抽出物、精油、例えば、水蒸気蒸留物、圧搾物等の植物由来の処理物や植物由来の特定の化合物を有効成分とするセラミダーゼ活性阻害剤、かかる阻害剤を含有することを特徴とする、細胞内外セラミドレベルの調節剤、ひいては抗炎症剤、抗ガン剤、皮膚外用剤等の医薬品、医薬部外品、化粧料、食品を提供するものである。
【0013】
すなわち、本発明の第1の発明は、イチョウ科植物、ウリ科植物、ミカン科植物、コンブ科植物、フトモモ科植物及びキク科植物からなる群より選択される少なくとも1つの植物由来の処理物を有効成分として含有することを特徴とするセラミダーゼ活性阻害剤に関する。本発明の第1の発明において、特に限定はされないが例えば、イチョウ科植物が、イチョウであり、ウリ科植物がシロウリ、キュウリ、トウガン及びニガウリからなる群より選択される少なくとも1つであり、ミカン科植物がオレンジ、グレープフルーツ及びライムからなる群より選択される少なくとも1つであり、コンブ科植物がガゴメ、マコンブ及びワカメからなる群より選択される少なくとも1つであり、フトモモ科植物がユーカリであり、キク科植物がヨモギであることが好ましい。
【0014】
本発明の第2の発明は、第1の発明のセラミダーゼ活性阻害剤を含有することを特徴とするセラミド量調節剤に関する。
【0015】
本発明の第3の発明は、第1の発明のセラミダーゼ活性阻害剤を含有することを特徴とする医薬品に関する。本発明の第3の発明において、医薬品が皮膚外用剤、細胞増殖抑制を必要とする疾患に対する治療剤又は予防剤、ガンの治療剤又は予防剤であってもよい。
【0016】
本発明の第4の発明は、第1の発明のセラミダーゼ活性阻害剤を含有することを特徴とする医薬部外品に関する。
【0017】
本発明の第5の発明は、第1の発明のセラミダーゼ活性阻害剤を含有することを特徴とする化粧料に関する。
【0018】
本発明の第6の発明は、第1の発明のセラミダーゼ活性阻害剤を含有することを特徴とする食品に関する。
【0019】
本発明の第7の発明は、下記の理化学的性質を有する化合物、その誘導体、又は薬学的に許容されるそれらの塩に関する。
(1)質量スペクトル:m/z 565(M+H)
(2)MS/MS分析:上記(1)を親イオンとしたときのドーターイオンがm/z 547、m/z 338
(3)H−NMR(重クロロホルム):σ
0.848,0.860,0.871,1.236.1.265,1.277,1.289,1.354,1.368,1.507,1.531,1.584,1.923,1.934,1.945,1.964,1.974,2.018,2.029,2.041,2.053,2.208,2.350,2.462,2.575,2.957,2.969,3.728,3.747,3.770,3.777,3.783,3.789,3.971,3.976,3.989,3.994,5.321,5.330,5.346,5.356,5.368,5.378,5.394,5.491,5.501,5.515,5.527,5.539,5.605,5.616,5.629,5.642,5.653,6.455,6.468
(4)13C−NMR(重クロロホルム):σ
14.10,22.68,25.42,29.20,29.22,29.34,29.36,29.49,29.54,29.62,29.63,29.65,29.69,31.91,31.92,32.42,32.57,32.60,34.36,40.56,53.96,62.45,74.06,122.17,129.72,130.88,136.81,171.83
【0020】
本発明の第8の発明は、本発明の第7の発明の化合物、誘導体及び塩からなる群より選択される少なくとも1つを有効成分として含有することを特徴とするセラミダーゼ活性阻害剤に関する。
【0021】
本発明の第9の発明は、本発明の第8の発明のセラミダーゼ活性阻害剤を含有することを特徴とするセラミド量調節剤に関する。
【0022】
本発明の第10の発明は、本発明の第8の発明のセラミダーゼ活性阻害剤を含有する事を特徴とする医薬品に関する。本発明の第10の発明において、医薬品が皮膚外用剤、細胞増殖抑制を必要とする疾患に対する治療剤又は予防剤、ガンの治療剤又は予防剤であってもよい。
【0023】
本発明の第11の発明は、本発明の第8の発明のセラミダーゼ活性阻害剤を含有することを特徴とする医薬部外品に関する。
【0024】
本発明の第12の発明は、本発明の第8の発明のセラミダーゼ活性阻害剤を含有することを特徴とする化粧料に関する。
【0025】
本発明の第13の発明は、本発明の第8の発明のセラミダーゼ活性阻害剤を含有することを特徴とする食品に関する。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、セラミダーゼ活性阻害剤、該阻害剤を含有する、セラミド量調節剤、医薬品、医薬部外品、化粧料、食品が提供される。
【0027】
本発明の阻害剤には動物細胞の増殖抑制、分化誘導、アポトーシスを誘導するなどの効果が期待でき、ひいては本発明の阻害剤を含有する医薬、健康増進に有用な食品は炎症性疾患、悪性腫瘍など、細胞の増殖あるいは分化の異常に起因する疾患に対する治療効果を期待できる。また本発明の阻害剤を含むクリーム、ローション、あるいは入浴剤を皮膚に塗布する、あるいは接触させることによって、健常人あるいはアトピー性皮膚炎患者の皮膚角質層のセラミド含量を上昇させ皮膚の保湿性やバリア機能を向上させる効果が期待できる。さらにアトピー性皮膚炎関連微生物の産生するセラミダーゼの活性を阻害することによって、アトピー性皮膚炎における皮膚セラミドの減少を抑制し、乾燥皮膚ひいては皮膚炎を改善する効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のセラミダーゼ活性阻害剤の効果を示す図である。
【図2】本発明のセラミダーゼ活性阻害剤の効果を示す図である。
【図3】本発明のセラミダーゼ活性阻害剤の効果を示す図である。
【図4】本発明のセラミダーゼ活性阻害剤の効果を示す図である。
【図5】本発明のセラミダーゼ活性阻害剤の効果を示す図である。
【図6】本発明の化合物の質量スペクトルを示す図である。
【図7】本発明の化合物のMS/MS分析の質量スペクトルを示す図である。
【図8】本発明の化合物の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図9】本発明の化合物の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(1)本発明のセラミダーゼ活性阻害剤
本発明のセラミダーゼ活性阻害剤はセラミーダの酵素活性を阻害するものであるが、必ずしもセラミダーゼに直接作用して該活性を阻害するものである必要はない。本発明のセラミダーゼ活性阻害剤としては、例えば、セラミダーゼ阻害剤が挙げられる。以下、便宜的にセラミダーゼ活性阻害剤をセラミダーゼ阻害剤という場合がある。
【0030】
本発明のセラミーダ活性阻害剤によるセラミダーゼの酵素活性の阻害作用とは、セラミダーゼ本来の活性と比較して該活性を低減させる作用をいい、例えば、後述の参考例1に記載の方法に従って確認することができる。セラミダーゼの酵素活性の阻害作用は、セラミダーゼ本来の活性と比較して、これを低減させれば特に限定されないが、例えば5%、好ましくは10%、より好ましくは20%、さらに40%、60%、80%、90%阻害することが好ましい。
【0031】
本発明のセラミダーゼ阻害剤は、所定の植物由来の処理物あるいは該処理物由来の特定の化合物等を有効成分とし、セラミダーゼ、中でも中性/アルカリ性セラミダーゼに対して優れた阻害活性を示すものである。なお、本発明のセラミダーゼ阻害剤は有効成分そのものからなるものであってもよい。また、処理物由来の化合物等との記載は単に化合物等の起源を示すものであり、植物とは無関係に別途合成された該化合物等と同じ化合物等も本発明の有効成分に包含される。
【0032】
本発明で有効成分として使用される植物由来の処理物(以下、本発明の処理物と称することがある。)としては、植物に対し人為的な処理を施して得られたものであれば特に限定はないが、例えば、抽出物(エキス)、精油(例えば、水蒸気蒸留物、搾汁液、圧搾物、溶剤抽出物、超臨界流体抽出物)が挙げられる。これらの処理物はそれぞれ単独で若しくは2種以上を混合して用いることができる。本発明に用いられる植物としては、イチョウ科植物、ウリ科植物、ミカン科植物、コンブ科植物、フトモモ科植物及びキク科植物からなる群より選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0033】
これらの植物由来の処理物としては、少なくとも中性/アルカリ性セラミダーゼに対して阻害活性を示すものであれば特に限定はされない。植物としては、その処理物がセラミダーゼ活性阻害作用に優れることから、以下に例示する植物が好適に使用される。
【0034】
例えば、本発明に使用されるイチョウ科(Ginkgoaceae)植物として、イチョウ(Ginkgo biloba、Ginkgoaceae)が好適に使用でき、主に葉が用いられる。
【0035】
本発明に使用されるウリ科(Cucurbitaceae)植物として、シロウリ(Cucumis melo L.var.conomon Makino)あるいはマクワウリ(Cucumis melo L.var.makuwa Makino)あるいはアミメロン(Cucumis melo L.)が好適に使用でき、主に果実が用いられる。さらに、キュウリ(Cucumis sativus L.)、トウガン(冬瓜、Benincasa cerifera Savi)、ニガウリ(ツルレイシ:Momordica charantia L.)も好適に使用でき、主に果実が用いられる。ウリ科植物としては、シロウリ、キュウリ、トウガン又はニガウリの1又は2以上の使用がより好適である。
【0036】
本発明に使用されるミカン科(Rutaceae)植物として、オレンジ(Citrus sinensis、Citrus aurantiumもしくはCitrus reticulate)、グレープフルーツ(Citrus Paradisi)、又はライム(Citrus aurantifolia)の1又は2以上の使用が好適であり、主に果実が用いられる。なお、オレンジの皮から抽出されたオイルであるリモネンを本発明に使用することもできる。
【0037】
本発明に使用されるコンブ科植物、中でも褐藻類コンブ科(Laminariaceae)植物として、ガゴメ(Kjellmaniella crassifolia Miyabe)、マコンブ(Laminaria japonica Areschoug)、又はワカメ(Undaria pinnatifida)の1又は2以上の使用が好適であり、主に葉、茎またはメカブが用いられる。
【0038】
本発明に使用されるフトモモ科(Myrtaceae)植物として、ユーカリ、すなわち、常緑高木ユーカリノキまたはその近縁植物(Eucalyptus globulus、Eucalyptus citriodora、又はEucalyptus dives)が好適に使用でき、主にその葉が用いられる。
【0039】
本発明に使用されるキク科(Compositae)植物として、ヨモギ(Artemisia vulgaris L.var.indica Maxim.)が好適に使用でき、主にその葉が用いられる。
【0040】
しかしながら、上記の植物を使用する場合、本発明に使用される植物の組織については前記のものに限定されるものではなく、例えば根茎、葉、果実、メカブ又は植物全体を使用することができる。また、本発明の処理物の原料としては、細断物や破砕物、乾燥物などの加工品を使用することもできる。さらに、本発明のセラミダーゼ活性阻害剤の調製には、上記植物を単独で、もしくは組み合わせて使用することもできる。
【0041】
本発明に使用されるこれらの植物あるいはそれらの処理物、及び後述の本発明の特定の化合物に関して、中性/アルカリ性セラミダーゼ阻害効果を有することは全く知られていない。
【0042】
本発明で用いる植物の抽出物の抽出方法としては、例えば、上記植物をそのまま、あるいは乾燥粉砕したものを通常植物成分の抽出に用いられる溶媒により抽出し、溶媒を留去することにより得ることが出来る。抽出溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコールなどの低級アルコール或いはエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどの多価アルコール、アセトン、酢酸エチル、エーテル、クロロホルム、ジクロロエタン、トルエン、n−ヘキサン、石油エーテルなどの各種有機溶媒、或いは水などを、それぞれ単独あるいは組み合わせて用いることが出来る。特に水、エタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールあるいはエタノール水溶液、プロピレングリコール水溶液、1,3−ブチレングリコール水溶液が抽出物の抽出効率や収量の点で好ましい。
【0043】
抽出方法としては通常植物成分の抽出に用いられる条件を適用することができ、例えば上記植物を4〜100℃で、数時間から数週間、抽出溶媒に浸漬するか加熱還流すればよいが、用いる原料植物、植物体の部位や形態などに応じて適宜最良の方法を設定することが出来る。その際には抽出物の中性/アルカリ性セラミダーゼ阻害活性を後述の参考例1記載の方法に従って測定し、阻害活性が最大になるように抽出方法を設定すれば良い。
【0044】
本発明の処理物として精油を使用する場合も通常用いられる方法で調製することができる。例えば上記植物から水蒸気蒸留法、搾汁法、圧搾法、溶剤抽出法、超臨界流体抽出法などを用いて調製することができる。
【0045】
植物の抽出物の抽出方法や精油の調製方法は、公知の方法に従えばよいが、例えばバイオセパレーション便覧(1996年、化学工学会「生物分離工学特別研究会」編)を参照すればよい。
【0046】
以上の植物抽出物や精油は本発明の処理物としてそのまま使用することも出来るが、さらに吸着分配クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、順相分配クロマトグラフィー、逆相分配クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーを用いて精製し、分画したフラクションの中性/アルカリ性セラミダーゼの阻害活性を測定することにより高純度で活性の高い画分を取得するか、もしくは中性/アルカリ性セラミダーゼ阻害活性を有する物質を単離して使用することもできる。さらに、中性/アルカリ性セラミダーゼの阻害活性が高い画分を単独で使用してもよく、複数の画分を混合した混合物として使用してもよい。
【0047】
また、本発明のセラミダーゼ活性阻害剤としては、以下の化合物、その誘導体及び薬学的に許容されるそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1つを有効成分として使用できる。当該化合物は、セラミダーゼ活性阻害作用を有するワカメメカブから得られた新規な化合物であり、図6にその質量スペクトルを、図7にそのMS/MS分析の質量スペクトルを、図8にそのH−NMRスペクトルを、図9にその13C−NMRスペクトルを、それぞれ示す。当該化合物の単離方法、各種スペクトルの測定方法・測定結果、セラミダーゼ活性阻害作用等の詳細については後述の実施例11を参照のこと。すなわち、上記理化学的性質を有する化合物、並びにその誘導体及び薬学的に許容されるそれらの塩(本明細書において化合物等という場合がある)はセラミダーゼ活性の阻害作用を有しており、本発明の処理物と同等の機能を発揮し得る。なお、それらの化合物等は本発明において初めて単離されたものであり、本発明に包含される。
【0048】
本発明の化合物としては、以下の式(1)で表される化合物が例示される。
【0049】
【化1】

【0050】
本発明において、塩は薬学的に許容される塩が好ましい。本発明で使用される上記式(1)で表される化合物の誘導体としては、例えばエステルなど、体内で容易に加水分解し、所望の効果を発揮し得る誘導体(プロドラッグ)が挙げられる。また、本発明の化合物をホ乳動物に投与して代謝されてできた誘導体も本発明の誘導体に包含される。かかるプロドラッグの調製は公知の方法に従えばよい。なお、かかる誘導体は、それらの塩であってもよい。従って、本発明の有効成分には、本発明の所望の効果が得られ得る限り、本発明の化合物の誘導体ならびにそれらの塩も包含される。また、本発明に使用される化合物の光学異性体、ケト−エノール互変異性体、幾何異性体などの各種異性体、各異性体の単離されたものであっても、セラミダーゼ活性阻害作用を有する限り、全て本発明において使用することができる。
【0051】
本発明で使用される塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、有機塩基との塩などが例示される。かかる塩としては薬学的に許容される塩が好ましい。なお、本発明において使用される薬学的に許容される塩とは生物に対して実質的に無毒であって、かつセラミダーゼ活性阻害作用を有する化合物の塩を意味する。当該塩としては、たとえば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウムまたはプロトン化されたベンザチン(N,N′−ジ−ベンジルエチレンジアミン)、コリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグラミン(N−メチルグルカミン)、ベネタミン(N−ベンジルフェネチルアミン)、ピペラジンもしくはトロメタミン(2−アミノ−2−ハイドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)等の塩が挙げられる。
【0052】
本発明のセラミダーゼ阻害剤とはセラミダーゼ活性を阻害するものであれば、その剤型は特に定められたものはない。前記セラミダーゼ活性阻害剤に用いられる添加物としては特に限定されるものはなく、公知の基剤を使用することが出来る。本発明のセラミダーゼ阻害剤は本発明の有効成分と公知の基剤とを適宜混合して、例えば、試薬の形態で調製することができる。また本発明のセラミダーゼ阻害剤は、例えばセラミド量調節剤、医薬品(皮膚外用剤、細胞増殖抑制剤、ガン治療剤又は予防剤を含む)、医薬部外品、化粧料、食品として用いられるものに配合することもできる。
【0053】
本発明のセラミダーゼ阻害剤中の有効成分の含有量としては、有効成分が本発明の処理物である場合、乾燥重量として、好ましくは0.000001〜100重量%、より好ましくは0.00001〜20重量%であり、有効成分が本発明の化合物等である場合、好ましくは0.000001〜100重量%、より好ましくは0.00001〜20重量%である。また、本発明のセラミダーゼ阻害剤を前記医薬品等に配合する場合、その配合量は特に限定されるものではないが、乾燥重量として、好ましくは0.000001〜100重量%、より好ましくは0.00001〜20重量%、さらに好ましくは0.0001〜10重量%程度の範囲である。
【0054】
また、本発明の有効成分を含有するセラミダーゼ活性阻害剤はその生理作用により、細胞増殖、ガン、炎症、しわ形成(皮膚の弾性の低下、皮膚の肥厚のメカニズム)、皮膚角質層バリア機能、乾燥皮膚、微生物感染、皮膚免疫の研究や、また、本発明の医薬品の他、スフィンゴ脂質(セラミド)が関連する疾病用医薬品、皮膚外用剤、細胞増殖抑制剤、ガン治療剤又は予防剤のスクリーニングにも有用である。
【0055】
なお、本明細書において「含有」の語は、希釈及び添加の意味を含んで用いられる場合がある。ここで、「添加」とは原料に本発明で使用される有効成分を添加するという態様を、「希釈」とは本発明で使用される有効成分が原料に添加されるか、若しくは本発明で使用される有効成分に原料が添加されることにより、有効成分が希釈されている態様を包含する。
【0056】
(2)本発明のセラミド量調節剤
本発明のセラミド量調節剤は、本発明のセラミダーゼ阻害剤が有するセラミダーゼ阻害作用によりセラミド量を調節する効果を有するものであれば、特に制限はない。ここで、「セラミド量を調節する効果」とは、例えば、下記実施例6〜10に記載のように、セラミダーゼ阻害剤による培養細胞、人工皮膚中のセラミド量の上昇、上昇したセラミド量について、セラミダーゼ阻害剤の添加量を適宜選択することによる、所望のセラミド量への降下、により達成される効果をいう。特に限定はされないが、本発明のセラミド量調節剤は、スフィンゴ脂質の基本骨格であるセラミド量を調節するということから、細胞の増殖、分化、アポトーシス等を制御する情報分子であるスフィンゴ脂質量の調節や、皮膚の保湿能やバリア機能に関する主要な細胞間脂質成分であるセラミド量を調節することができる。また、本発明のセラミド量調節剤は、セラミド量に加えて、セラミドの代謝に関与することによりスフィンゴシン量、脂肪酸量、スフィンゴシン−1−リン酸量の調節剤としても機能するため、スフィンゴシン量調節剤、脂肪酸量調節剤、スフィンゴシン−1−リン酸量の調節剤としても使用することができる。
【0057】
本発明のセラミド量調節剤の剤型は特に定められたものはなく、本発明のセラミダーゼ阻害剤と公知の基剤とを適宜混合して、例えば、試薬の形態で調製することができる。本発明のセラミド量調節剤中の本発明のセラミダーゼ阻害剤(有効成分)の含有量としては、本発明のセラミダーゼ阻害剤を医薬品等に配合する場合の、該阻害剤の配合量と同様の範囲が挙げられる。本発明のセラミド量調節剤の用途は特に限定されるものではないが、セラミドに関する生化学の研究のための試薬としての使用が好適である。
【0058】
(3)本発明の医薬品等
本発明の医薬品は、本発明のセラミダーゼ活性阻害剤を含有してなるものであり、皮膚外用剤(保湿剤、バリア機能維持剤、皮膚の弾性向上剤もしくは維持剤、皮膚肥厚改善剤もしくは予防剤、それらを用途とする、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤など)、細胞増殖抑制剤、抗炎症剤、ガン治療剤又は予防剤、セラミドもしくはその代謝産物を介するシグナル伝達が関連する疾患の治療剤もしくは予防剤として提供される。中でも、本発明の医薬品は、皮膚外用剤、細胞増殖抑制を必要とする疾患に対する治療剤若しくは予防剤、又はガンの治療剤若しくは予防剤として非常に有用である。
【0059】
セラミドは皮膚における主要な細胞間脂質成分であり、皮膚の保湿能やバリア機構に重要な役割を果たしている。アトピー性皮膚炎患者の皮膚角層ではセラミド含量が減少しており、この事がアトピー性皮膚炎の特徴とされている乾燥皮膚ならびに角層のバリア機能異常の原因の一つとして考えられ、疾患が増悪するという可能性が考えられている。また、セラミド量の減少は、皮膚弾性の低下や皮膚肥厚の増進につながることが知られている。本発明の有効成分によれば、後述の実施例に示すように、セラミドを分解するセラミダーゼ活性の阻害を介して細胞内外のセラミド量を増加させ、若しくはセラミド量の減少を抑制することができる。従って、本発明の有効成分を含有する本発明の医薬品によれば、前記のような疾患や症状の治療または予防効果が期待できる。
【0060】
また、細胞の増殖、分化、アポトーシス等の制御に関連するスフィンゴ脂質(スフィンゴ糖脂質、スフィンゴミエリン及びそれらの代謝産物であるセラミド、スフィンゴシン、スフィンゴシン−1−リン酸等)に関しては、癌、自己免疫疾患、感染症、皮膚炎や関節炎等の炎症等の疾患における代謝並びにこれらの分子を介するシグナル、シグナル伝達が注目されている。中でもセラミドはスフィンゴ脂質の基本骨格となる脂質で細胞の生と死を調節する重要な因子であると考えられている。従って、セラミドの代謝異常は細胞の増殖又は分化の異常を引き起こし、炎症性疾患や悪性腫瘍(ガン)等の前記異常に起因する疾患の原因となり得る。例えば、ガン細胞に抗ガン剤処理や放射線照射を行うと細胞内セラミドレベルが上昇してガン細胞がアポトーシスを起こすことが知られているが、抗ガン剤耐性を獲得したガン細胞では、セラミドの代謝酵素、例えばセラミドにグルコースを転移するグルコシルトランスフェラーゼの活性が上昇して、細胞内セラミドレベルが上昇しないことが報告されている(例えば、Lavie,Y.,Cao,H.,Bursten,S.L.,Giuliano,A.E.,and Cabot,M.C.(1996)J.Biol.Chem.271,19530−19536)。本発明の有効成分によれば、後述の実施例に示すように、セラミドを分解するセラミダーゼ活性の阻害を介して細胞の増殖抑制やアポトーシスの誘導を行うことができる。従って、本発明の有効成分を含有する本発明の医薬品によれば、セラミドの代謝異常の発生を抑制し、或いは該異常を改善して、前記のような疾患や症状の治療又は予防効果が期待できる。本発明の医薬品は細胞増殖の抑制効果を発揮し得ることから細胞増殖抑制剤としても使用可能である。
【0061】
また、前記の通り、グルコシルトランスフェラーゼがセラミドの代謝異常に関与する場合があるため、本発明の医薬品は、セラミダーゼ以外のセラミド代謝酵素、例えばグルコシルトランスフェラーゼの阻害剤と一緒に用いることによって、例えば、多剤耐性となったガンの治療または予防効果が期待できる。
【0062】
続いて、本発明の医薬品の製造方法について説明する。本発明の医薬品は、本発明のセラミダーゼ活性阻害剤を有効成分とするものであり、当該有効成分を公知の医薬用担体と組合せて製剤化すれば良い。一般的には、本発明の有効成分を薬学的に許容できる液状又は固体状の担体と配合し、所望により、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を加えて、錠剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、カプセル剤等の固形剤、通常液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤とする。また、使用前に適当な担体の添加によって液状となし得る乾燥品や、外用剤とすることもできる。
【0063】
医薬用担体は、本発明の医薬の投与形態および剤型に応じて選択することができ、経口剤の場合は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等が利用される。また経口剤の調製に当っては、更に結合剤、崩壊剤、界面活性剤、潤滑剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を配合することもできる。
【0064】
一方、非経口剤の場合は、常法に従い本発明の有効成分を希釈剤としての注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等に溶解ないし懸濁させ、所望により殺菌剤、安定剤、等張化剤、無痛化剤等を加えることにより調製することができる。
【0065】
皮膚外用剤としては、経皮投与用の固体、半固体または液状の製剤が含まれる。また、座剤なども含まれる。例えば、乳剤、ローション剤などの乳濁剤、外用チンキ剤などの液状製剤、油性軟膏、親水性軟膏などの軟膏剤、フィルム剤、テープ剤、パップ剤などの経皮投与用の貼付剤などとすることもできる。
【0066】
本発明に包含される細胞増殖抑制剤、ガンの治療剤又は予防剤には、本発明のセラミダーゼ活性阻害剤のアポトーシス誘発作用、細胞増殖抑制又は予防効果、ガン治療効果が期待できる。本発明の医薬品は、適宜、製薬分野における公知の方法により製造することができる。本発明の医薬品中の本発明のセラミダーゼ阻害剤(有効成分)の含有量としては、本発明のセラミダーゼ阻害剤を医薬品等に配合する場合の、該阻害剤の配合量と同様の範囲が挙げられる。
【0067】
本発明の医薬品は、製剤形態に応じた適当な投与経路で投与できる。投与方法も特に限定はなく、内用、外用および注射によることができる。注射剤は、例えば静脈内、筋肉内、皮下、皮内等に投与することができる。
【0068】
本発明の医薬品の投与量は、その製剤形態、投与方法、使用目的及び当該医薬品の投与対象である患者の年齢、体重、症状によって適宜設定され一定ではない。一般には、製剤中に含有される有効成分の投与量で、乾燥重量として、好ましくは成人1日当り0.1〜2000mg/kg体重である。もちろん投与量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、あるいは範囲を超えて必要な場合もある。投与は、所望の投与量範囲内において、1日内において単回で、または数回に分けて行ってもよい。また、本発明の医薬品はそのまま経口投与するほか、任意の飲食品に添加して日常的に摂取させることもできる。
【0069】
皮膚外用剤として用いる場合には本発明の有効成分のほかに通常化粧品や医薬品などの皮膚外用剤に用いられる成分、例えば水性成分、油性成分、粉末成分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、紫外線吸収剤、美白剤、防腐剤、酸化防止剤、界面活性剤、香料、色素などを適宜必要に応じて配合すればよい。
【0070】
本発明の医薬部外品は、本発明のセラミダーゼ活性阻害剤を含有することを特徴とする。本発明の医薬部外品としては、特に限定はされないが、人体に対する作用が緩やかな、うがい薬、歯磨き、口中清涼剤、健胃清涼剤、ビタミン含有保健剤、トローチ、日焼け止めローション、石ケン、染毛剤、生理用ナプキン、浴用剤、口臭、体臭、あせも、脱毛の防止、育毛または除毛を目的とするもの及びこれらに準ずるものが含まれる。本発明の医薬部外品によれば、本発明の医薬品と同様の効果が期待できる。
【0071】
本発明の医薬部外品は、本発明のセラミダーゼ阻害剤と公知の基剤とを適宜混合して、任意の形態で調製することができる。本発明の医薬部外品中の本発明のセラミダーゼ阻害剤(有効成分)の含有量としては、本発明のセラミダーゼ阻害剤を医薬品等に配合する場合の、該阻害剤の配合量と同様の範囲が挙げられる。
【0072】
(4)本発明の化粧料
本発明の化粧料は本発明のセラミダーゼ活性阻害剤を含有してなり、本発明の化粧料の所望の効果の発現は、かかる化粧料に含まれる該阻害剤(有効成分)が有する前記生理作用に基づくものである。角層および/または角質層を含む皮膚内部でセラミド量が増加すれば、保湿性、バリア効果、皮膚の張りや弾性、保湿性(うるおい)を高めることができるものと推定される。従って、本発明の化粧料によれば、たとえば、皮膚の張りや弾性を効果的に向上させることができる。すなわち、本発明によるセラミダーゼ活性阻害剤を有効成分とする保湿性改善作用もしくは悪化予防作用、バリア効果改善作用もしくは悪化予防作用、しわ改善作用もしくは予防作用、皮膚の弾性向上作用もしくは維持作用、皮膚肥厚改善作用もしくは予防作用、セラミド産生増強作用もしくは減少抑制作用または細胞増殖抑制作用に優れた化粧料が提供される。なお、当該化粧料としては、例えば抗腫瘍活性、保湿性改善作用もしくは予防作用、バリア効果改善作用もしくは予防作用、しわ改善作用もしくは予防作用、皮膚の弾性向上作用もしくは維持作用、皮膚肥厚改善作用もしくは予防作用、セラミド産生増強作用もしくは減少抑制作用または細胞増殖抑制作用による所望の効果の発現のために用いられるものである旨の表示を付した化粧料とすることもできる。
【0073】
本発明の化粧料における本発明の有効成分の含有量は、乾燥重量として、通常、好ましくは0.0001〜20重量%、より好ましくは0.001〜5重量%、更に好ましくは0.03〜3重量%である。
【0074】
また、本発明の化粧料には、本発明の有効成分以外のその他の成分として、所望により1,3−ブチレングリコール、ピロリドンカルボン酸塩等の保湿剤、流動パラフィン、ワセリン、オリーブ油、スクワラン、ラノリン、合成エステル油等の皮膚柔軟剤、ヤシ油、パームオイル等の油脂類、ビタミンE等のビタミン類、ミツロウ、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリン酸等の界面活性剤、ステアリルアルコール等の乳化安定助剤、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の可溶化剤、メチルパラベン等の防腐剤、顔料、香料、抗酸化剤、紫外線吸収剤、薬理活性物質、基剤、界面活性剤等を含有させることができる。さらに、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸に代表される多糖類等の保水作用を有するものを併用してもよい。
【0075】
本発明の化粧料の形状としては、有効成分の前記生理作用を期待しうるものであれば特に限定はなく、たとえば、ローション類、乳液類、クリーム類、パック類、浴用剤、洗顔剤、浴用石ケン、浴用洗剤または軟膏が好適である。
【0076】
本発明の化粧料は、本発明の有効成分および所望により前記その他の成分を原料として用い、化粧品分野における公知の方法に従って適宜製造することができる。また、たとえば、後述の食品、飲料等と同様にして飲食品分野における公知の方法に従って経口摂取に適する化粧料を製造することもできる。
【0077】
たとえば、本発明の有効成分を前記含有量範囲で含む化粧料を、それぞれの用途形態に応じて所望の量、例えばローション類であれば、例えばヒトの顔面全体に適用するような場合、1回の使用当たり好ましくは0.01〜5g、より好ましくは0.1〜2g程度を用いれば、保湿効果、バリア効果、しわ改善効果もしくは予防効果、皮膚の弾性向上効果もしくは維持効果、皮膚肥厚改善効果もしくは予防効果、セラミド産生増強効果もしくは減少抑制効果および細胞増殖抑制効果が得られ、肌に張りや艶を与え、美肌効果が得られる等、本発明の所望の効果が得られ得る。
【0078】
なお、本明細書中に記載の皮膚とは、顔、首、胸、背中、腕、手、脚、足、臀部、及び頭皮などの人や動物の外側を覆い包んでいる部分すべてを含む。
【0079】
(5)本発明の食品
本発明の食品は本発明のセラミダーゼ活性阻害剤を含有してなり、本発明の食品の所望の効果の発現は、かかる食品に含まれる該阻害剤(有効成分)が有する前記生理作用に基づくものである。本発明では本発明のセラミダーゼ阻害剤を含有する食品を提供するが、当該食品においては、従来の食品に比べて本発明のセラミダーゼ阻害剤を高濃度及び/又は高純度に含むことを特徴としている。つまり、本発明の食品を摂取することにより、細胞増殖抑制、アポトーシス誘発などの効果が期待でき、セラミドが関連する疾患の治療もしくは予防に効果的に作用し得る。なお、当該食品としては、例えば細胞増殖抑制活性、アポトーシス誘発活性による所望の効果の発現のために用いられるものである旨の表示を付した健康食品(特定保健用食品)とすることもできる。なお、本発明の食品には飲料も含まれ、便宜的に、飲用形態の食品を飲料と、飲用形態以外の形態の食品を食品という場合がある。
【0080】
本発明の食品としては本発明のセラミダーゼ活性阻害剤を含有してなるものである限り特に限定はないが、例えば穀物加工品(小麦粉加工品、デンプン類加工品、プレミックス加工品、麺類、マカロニ類、パン類、あん類、そば類、麩、ビーフン、はるさめ、包装餅等)、油脂加工品(可塑性油脂、てんぷら油、サラダ油、マヨネーズ類、ドレッシング等)、大豆加工品(豆腐類、味噌、納豆等)、食肉加工品(ハム、ベーコン、プレスハム、ソーセージ等)、水産製品(冷凍すりみ、かまぼこ、ちくわ、はんぺん、さつま揚げ、つみれ、すじ、魚肉ハム、ソーセージ、かつお節、魚卵加工品、水産缶詰、つくだ煮等)、乳製品(原料乳、クリーム、ヨーグルト、バター、チーズ、練乳、粉乳、アイスクリーム等)、野菜・果実加工品(ペースト類、ジャム類、漬け物類、果実飲料、野菜飲料、ミックス飲料等)、菓子類(チョコレート、ビスケット類、菓子パン類、ケーキ、餅菓子、米菓類等)、アルコール飲料(日本酒、中国酒、ワイン、ウイスキー、焼酎、ウオッカ、ブランデー、ジン、ラム酒、ビール、清涼アルコール飲料、果実酒、リキュール等)、嗜好飲料(緑茶、紅茶、ウーロン茶、コーヒー、清涼飲料、乳酸飲料等)、調味料(しようゆ、ソース、酢、みりん等)、缶詰・瓶詰め・袋詰め食品(牛飯、釜飯、赤飯、カレー、その他の各種調理済み食品)、半乾燥又は濃縮食品(レバーペースト、その他のスプレッド、そば・うどんの汁、濃縮スープ類)、乾燥食品(即席麺類、即席カレー、インスタントコーヒー、粉末ジュース、粉末スープ、即席味噌汁、調理済み食品、調理済み飲料、調理済みスープ等)、冷凍食品(すき焼き、茶碗蒸し、うなぎかば焼き、ハンバーグステーキ、シュウマイ、餃子、各種スティック、フルーツカクテル等)、固形食品、液体食品(スープ等)、香辛料類等の農産・林産加工品、畜産加工品、水産加工品等が挙げられる。これらの食品は、本発明のセラミダーゼ活性阻害剤を使用し、公知の食品の製造方法に従って製造することができる。
【0081】
本発明の食品における本発明の有効成分の含有量は特に限定されず、その官能と作用発現の観点から適宜選択できる。本発明の有効成分の含有量は、食品の場合、乾燥重量として、たとえば、食品そのものの原料100重量部当たり好ましくは0.0001重量部以上、より好ましくは0.001〜10重量部であり、飲料の場合、乾燥重量として、たとえば、飲料そのものの原料100重量部当たり好ましくは0.0001重量部以上、より好ましくは0.001〜10重量部である。
【0082】
本発明の食品は、前記有効成分が単独もしくは複数含有、添加および/または希釈されており、その使用形態に応じて有効成分の含有量がセラミダーゼ活性を阻害するための必要量に相当するものであれば特にその形状に限定はなく、タブレット状、顆粒状、カプセル状、ソフトカプセル状、液状、粉状などの形状の経口的に摂取可能な形状物も包含する。
【0083】
(6)本発明のセラミダーゼ活性阻害方法
本発明のセラミダーゼ活性阻害方法は、生体(例えば、ホ乳動物、ホ乳動物由来組織、ホ乳動物由来細胞、真菌、酵母、担子菌などの細胞)又は生体由来試料(例えば、細胞抽出物又はその精製物)に本発明の有効成分を適用してセラミダーゼ活性を阻害する方法であり、通常、本発明のセラミダーゼ活性阻害剤、セラミド量調節剤、医薬品、医薬部外品、化粧料、又は食品を、それらの使用態様に応じて生体又は生体由来試料に適用することにより実施することができる。適用の方法は、本発明の有効成分を生体又は生体由来試料と接触させ得る限り特に限定されるものではなく、例えば、ホ乳動物への本発明の有効成分の投与、ホ乳動物由来細胞培養液への本発明の有効成分の添加などの方法が挙げられる。
【0084】
本発明のセラミダーゼ活性阻害方法は、例えば、細胞増殖異常、ガン、自己免疫疾患、皮膚免疫異常、感染症、皮膚炎や関節炎等の炎症、しわ形成(皮膚の弾性の低下、皮膚の肥厚のメカニズム)、皮膚角質層バリア機能異常、乾燥皮膚の治療、症状の緩和及びそれらの研究、セラミドの製造、精製に有用である。
【0085】
本発明のセラミダーゼ活性阻害方法の実施態様は、本発明の有効成分が阻害活性を発揮し得る限り特に限定はされないが、生体、細胞、組織、およびこれら由来の試料のセラミダーゼ活性を阻害することができる。
【実施例】
【0086】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0087】
製造例1 セラミダーゼの調製
中性/アルカリ性セラミダーゼとして、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa AN17株)由来のセラミダーゼとラット脳由来のセラミダーゼの2種類を用いた。
【0088】
Pseudomonas aeruginosa AN17株はアトピー性皮膚炎患者の皮膚落屑から分離された菌株で中性/アルカリ性セラミダーゼを生産する[ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)、第273巻、第14368〜14373頁(1998)]。なお、上記菌株は、AN17と命名、表示され、平成8年6月26日(原寄託日)より〒305−8566日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P−15699として寄託されている。セラミダーゼ粗酵素液は以下のようにして調製した。
【0089】
Pseudomonas aeruginosa AN17株をスフィンゴミエリン含有ペプトン酵母エキス培地(0.5% ペプトン、0.1% 酵母エキス、0.5% NaCl、0.01% スフィンゴミエリン(シグマ社製)、0.05% タウロデオキシコール酸ナトリウム(TDC)、pH7.2)で30℃、3日間培養し、遠心分離によって培養上清を得た。これをあらかじめ0.1% ルブロールPX(ナカライテスク社製)を含む50mM トリス塩酸バッファー(pH7.5)で平衡化したQ−セファロース FF(Pharmacia社製、2.5×20cm)にアプライし、その後2mL/minの流速で同バッファーを流しカラムを洗浄した後、1MまでのNaClグラジエントをかけて酵素を溶出した。活性画分を回収し、牛血清アルブミン(BSA)を終濃度1mg/mLになるように添加して0.1% ルブロール PXを含む50mM トリス塩酸バッファー(pH7.5)に対して透析して粗酵素標品とした。
【0090】
一方、ラット脳由来のセラミダーゼ粗酵素液の調製は以下の方法で行った。まず、ラット脳組織2個(3.5g)を30mLの0.25M スクロース溶液中でポッターエルベジェムホモジナイザーを用いてホモジナイズした。これを700×gで10分間遠心分離した後、上清を25,000×gで10分間遠心分離して得られた上清をさらに100,000×gで60分間遠心分離して得られた沈殿を25mM トリス塩酸バッファー(pH8.0)3mLに懸濁した。これに9mLの0.5% Triton X−100含有 25mM トリス塩酸バッファー(pH8.0)を加えて氷上で2時間放置し抽出を行った。これを100,000×gで60分間遠心分離して上清を回収し、粗酵素標品とした。
【0091】
実施例1 ワカメメカブエキスの調製
乾燥ワカメメカブチップ10gに100mLのエタノールを加えて静かに数回攪拌し、そのまま一日静置した。これを濾過してワカメメカブエタノール抽出液を得た。エキス1mLあたりの乾燥重量は4mgであった。
【0092】
実施例2 マコンブエキス、ガゴメエキスの調製
乾燥マコンブチップ10gに100mLのエタノールを加えて静かに数回攪拌し、そのまま一日静置した。これを濾過してマコンブエタノール抽出液を得た。エキス1mLあたりの乾燥重量は2.7mgであった。
【0093】
ガゴメについても同様に抽出液を得た。エキス1mLあたりの乾燥重量は1.8mgであった。
【0094】
実施例3 各種植物エキスの調製
イチョウ葉、シロウリ果実、トウガン果実、キュウリ果実、ニガウリ果実、ヨモギ葉は、ホモジナイザーでジュース状にした後、凍結乾燥し、これに1gあたり10mLのエタノールを加えて一晩静置して抽出を行った。これを濾過してエタノール抽出液を得た。イチョウ葉エキス1mLあたりの乾燥重量は15mg、シロウリエキス1mLあたりの乾燥重量は120mg、トウガンエキス1mLあたりの乾燥重量は53mg、キュウリエキス1mLあたりの乾燥重量は45mg、ニガウリエキス1mLあたりの乾燥重量は42mg、ヨモギエキス1mLあたりの乾燥重量は43mgであった。
【0095】
また、オレンジオイル、グレープフルーツオイルなどの植物精油に関しては山本香料(株)から市販されているものを使用した。
【0096】
参考例1 セラミダーゼ阻害活性測定
緑膿菌由来中性/アルカリ性セラミダーゼ(Pseudomonas aeruginosa Ceramidase)に対する阻害活性の測定は以下のようにして行った。まず、緑膿菌セラミダーゼを希釈用バッファー(5mM塩化カルシウム、0.45%ウシ血清アルブミンを含む100mMトリス塩酸バッファーpH8.5)で適当な酵素濃度に希釈した希釈酵素液10μLと阻害剤5μLを混合し、37℃で10分間保温した。ここに0.05mMもしくは1.5mM NBD−C12−Ceramide(マトレア社製)、5mM CaCl、0.5% Triton X−100を含むトリス塩酸バッファーpH8.5の基質溶液10μLを加えてさらに37℃で30分間反応させた。メタノール75μLを加えて反応を止め、このうちの25μLをHPLC分析に供した。
【0097】
ラット脳由来中性/アルカリ性セラミダーゼ(RatBrain Ceramidase)に対する阻害活性の測定は以下のようにして行った。まず、ラット脳由来セラミダーゼを希釈用バッファー(12.5mM 塩化マグネシウムを含む100mM グリシン−NaOHバッファーpH9.5)で適当な酵素濃度に希釈した希釈酵素液10μLと阻害剤5μLを混合し、37℃で10分間保温した。ここに0.05mMもしくは1.5mM NBD−C12−Ceramide、1.25% タウロデオキシコール酸を含む100mMグリシン−NaOHバッファーpH9.5の基質溶液10μLを加えてさらに37℃で2時間反応させた。メタノールを75μL加えて反応を止め、このうちの50μLをHPLC分析に供した。
【0098】
HPLC分析は以下のようにして行った。カラムはCosmosil 5C18−AR−II、4.6×50mm(ナカライテスク製)、溶出液はMeOH/1% TFA=90:10(v/v)を用いてアイソクラティックで溶出した。流速は1mL/min、検出は蛍光検出器を用いて励起光465nm、蛍光535nmで行った。
【0099】
いずれの酵素の場合も、サンプルは酵素+阻害剤+基質、コントロールとして酵素+基質、ブランクとして阻害剤+基質の組み合わせで反応を行い、コントロールの活性を100%とした場合のサンプルの活性の割合から阻害率を算出した。
【0100】
なお、本明細書において単に参考例1の方法を参照する場合、ラット脳由来中性/アルカリ性セラミダーゼを用いる方法を意図する。
【0101】
実施例4 海藻エキス、植物エキス等のセラミダーゼ阻害効果
参考例1に記載の方法を用いて、実施例1〜3で得られた各種海藻、植物エキス等のセラミダーゼ阻害活性を、終濃度0.6mMのNBD−C12−Ceramideを基質として用いて測定した。その結果を表1に示す。海藻、植物エキスおよびオレンジオイル(リモネン)の希釈はジメチルスルフォキシドで行った。
【0102】
【表1】

【0103】
実施例5 ワカメメカブエキスのセラミダーゼ阻害効果
乾燥ワカメメカブチップ1gを5mLの100%エタノール、50%エタノール、25%エタノール溶液でそれぞれ一晩抽出を行い、濾過してワカメメカブ抽出液を得た。エキス1mLあたりの乾燥重量はそれぞれ8mg、72mg、74mgであった。また、参考例1に記載の方法を用いて、ワカメメカブエキスの阻害活性を終濃度0.02mMのNBD−C12−Ceramideを基質として用いて測定した。該エキスの10倍希釈液のセラミダーゼ阻害率はそれぞれ、71%、43%、11%であった。
【0104】
実施例6 ヒト白血病培養細胞に対する海藻、植物エキスの効果(TLC)
ヒト前骨髄性白血病細胞株HL60を10%ウシ胎児血清とペニシリン・ストレプトマイシン液(GIBCO BRL社製:Lot No.20K1346)1%を含むRPMI−1640培地で、37℃、5% CO環境下で培養した。培養細胞を1500rpmの遠心分離で回収し、細胞ペレットをUltraDOMA−PF培地(BioWhittaker社製)で洗浄し、細胞数を計数して最終的に2×10e細胞/1.8mLの濃度に調整して6wellプレートに1.8mLずつ分注し、さらに同じ環境で2時間培養をつづけた。実施例1〜3で得られた各種海藻、植物エキスは2mL分をあらかじめ濃縮遠心によって溶媒を留去した後、40μLのジメチルスルフォキシド(DMSO)を加えて溶解し、さらにUltraDOMA培地を1.8mL加えた。このエキス希釈液を上記の培養細胞1.8mLに対して0.2mLずつ加え、37℃、5% CO環境下で3時間まで培養した。コントロール群については、エキス希釈液の調製に使用したのと同等の希釈成分のみを培養液に加えた。下記のように測定用のサンプリングを行い、生細胞数とスフィンゴ脂質測定用サンプルを調製した。
【0105】
10mLのスクリューキャップ付ガラスチューブにマイクロピペットで培養細胞液を回収し、40μLを生細胞計数用にサンプリングした。これにUltraDOMA培地を140μL、トリパンブルーを20μL加えて血球計数板で生細胞数を計測した。残りの細胞を使ってスフィンゴ脂質測定用サンプルを調製した。培養細胞液を1,500rpmで5分間遠心分離し、細胞ペレットを1mLのPBSで3回洗浄した。洗浄した細胞ペレットに0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むハンクス緩衝液[HBSS、ライフテクノロジーズ社製(Life Technologies Inc.)]を1mL加え、これを脂質分析用サンプルとして分析まで−30℃で保存した。
【0106】
分析用サンプルからの脂質の抽出は以下のようにして行った。
1mLの分析サンプルにクロロホルム/メタノール=2:1(v/v)を3mL加えてシェーカーで20分間良く攪拌した。これを3,000rpmで2分間遠心分離し、下層を別のガラスチューブに移して遠心濃縮機で溶媒を完全に留去し乾燥させた。これを薄層クロマトグラフィー(TLC)分析用サンプルとして分析時まで−30℃で保存した。TLC分析は以下の条件で行った。
【0107】
TLC分析用サンプルにクロロホルム/メタノール=1:1(v/v)を20μL加えて溶解し、これをTLCプレート(メルク社製、HPTLCプレートシリカゲル60F254)に全量アプライした。セラミドスタンダードとして、Non−hydroxy fatty acid ceramideまたはNon−hydroxyceramide(ceramide type III、Sigma−Aldrich社製)及びHydroxy fatty acid ceramideまたはHydroxyceramide(ceramide type IV、Sigma−Aldrich社製)を用いた。クロロホルム/メタノール/酢酸=190:9:1(v/v)を展開溶媒として、2回展開を行った後、TLC plateにリン酸−銅試薬(10% CuSOを含む8%リン酸溶液)を噴霧し160℃で10分間加熱して、現れたスポットをデンシトメーターで定量した。結果を図1に示す。トウガン、ニガウリ、ヨモギ、ウリ、キュウリ、ワカメメカブの抽出物を加えた群では、コントロールに比べて細胞内のセラミド量が増加していた。
【0108】
実施例7 ヒト白血病培養細胞に対するワカメメカブエキスの効果(LCMS)
ヒト前骨髄性白血病細胞株HL60を10%ウシ胎児血清とペニシリン・ストレプトマイシン液(GIBCO BRL社製:Lot No.20K1346)1%を含むRPMI−1640培地で、37℃、5% CO環境下で培養した。培養細胞を1500rpmの遠心分離で回収し、細胞ペレットをUltraDOMA−PF培地(BioWhittaker社製)で洗浄し、細胞数を計数して最終的に1×10e細胞/1.8mLの濃度に調整して6wellプレートに1.8mLずつ分注しさらに同じ環境で2時間培養をつづけた。ワカメメカブエキスは2mL分をあらかじめ濃縮遠心によって溶媒を留去した後、40μLのジメチルスルフォキシド(DMSO)を加えて溶解し、さらにUltraDOMA培地を1.8mL加えてDMSOの濃度が2%になるよう調整した。この植物エキス希釈液を上記の培養細胞1.8mLに対して0.2mLずつ加え、37℃、5% CO環境下で24時間まで培養した。コントロール群については、エキス希釈液の調製に使用したのと同等の希釈成分のみを培養液に加えた。0時間、0.5時間、1時間、3時間で下記のように測定用のサンプリングを行い、生細胞数とスフィンゴ脂質測定用サンプルを調製した。
【0109】
10mLのスクリューキャップ付ガラスチューブにマイクロピペットで培養細胞液を回収し、40μLを生細胞計数用にサンプリングした。これにUltraDOMA培地を140μL、トリパンブルーを20μL加えて血球計数板で生細胞数を計測した。残りの細胞を使って真野らの方法[アナリティカルバイオケミストリー(Analytical Biochemistry)、第244巻、第291−300頁、1997年]に従ってスフィンゴ脂質を定量した。培養細胞液を1,500rpmで5分間遠心分離し、細胞ペレットを1mLのPBSで3回洗浄した。洗浄した細胞ペレットに0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むハンクス緩衝液を1mL加え、これを脂質分析用サンプルとして分析まで−30℃で保存した。
【0110】
LCMSで用いる定量用のスフィンゴ脂質スタンダードは次のようにして調製した。
スフィンゴ脂質は全てメタノールに溶解した。C18−スフィンゴミエリン(C18−SM、マトレヤ社製)1mg/mLを300μL、C18−セラミド(C18−Cer、マトレヤ社製)10μg/mLを100μL、スフィンゴシン(Sph、シグマ社製)10μg/mLを100μL、スフィンゴシルフォスフォリルコリン(SPC、シグマ社製)3μg/mLを100μL、ジメチルスフィンゴシン(DMS、アバンティリピッド社製)1μg/mLを100μL、サイコシン(Psy、シグマ社製)1μg/mLを100μLとメタノール200μLを混合して全量を1mLとし、これをスタンダード液原液とした。これをさらにメタノールで希釈して10倍希釈液と100倍希釈液を調製した。各希釈液100μLをとって900μLの0.1% BSAを含むHBSSに加えて良く攪拌し、これをスフィンゴ脂質スタンダード混合液として使用時まで−30℃で保存した。
【0111】
分析用サンプルおよびスタンダードからの脂質の抽出は以下のようにして行った。
1mLの分析サンプルにクロロホルム/メタノール=2:1(v/v)を3mL加え、さらに内部標準として1μg/mLのC2−セラミド(C2−Cer、マトレヤ社製)メタノール溶液を100μL加えてボルテックスミキサーで10分間良く攪拌した。これを3,000rpmで2分間遠心分離し、下層を別のガラスチューブに移して遠心濃縮機で溶媒を完全に留去し乾燥させた。これをLCMS分析用サンプルとして分析時まで−30℃で保存した。
【0112】
LCMSは以下の条件で行った。
HPLCカラムはYMC製セミミクロショートカラム、YMC−Pack Pro C18(2.0×35mm,3μm、YMC社製)を用いた。溶出液Aは5mM蟻酸アンモニウム/メタノール/テトラヒドロフラン=5:2:3(v/v/v)(終濃度0.01%蟻酸含有)、溶出液Bは5mM蟻酸アンモニウム/メタノール/テトラヒドロフラン=1:2:7(v/v/v)(終濃度0.01%蟻酸含有)。HPLCからの溶出液を、スプリッターを介してイオンスプレー式四重極型質量分析装置(API 300、アプライドバイオシステムズ社製)に導入した。オレフィス電圧は70eV、イオンスプレー電圧は5000V、ポジティブモードで、アルゴンガスをコリジョンガスとして用いてマルティプルリアクションモニタリングモードで測定を行った。モニタリングイオンは表2に示す。
【0113】
結果を図2に示す。図中、ワカメメカブエキス添加群を黒丸、コントロール群を白丸で示す。AはC18−スフィンゴミエリン(C18−SM)、BはC−16セラミド(C16−Cer)、CはC18−セラミド(C18−Cer)、Dはスフィンゴシン(Sph)、Eはスフィンゴシン−1−リン酸(SPP)、FはHL60細胞数を示す。ワカメメカブエキス添加群ではコントロール群に比較して細胞内C16−Cerが約15倍、C18−Cerが約10倍に上昇した。一方、セラミドの分解産物であるSphはコントロール群と比較して約4倍増加していた。また、スフィンゴシンの代謝産物であるスフィンゴシン−1−リン酸はワカメメカブエキス添加群ではコントロール群に比較してやや減少傾向を示した。C18−SMのレベルは変化しなかった。また、HL60細胞の増殖はワカメメカブエキス添加群ではコントロール群に比べて有意に抑制された。また、この細胞からApopLadder Ex(タカラバイオ社製)を用いてDNAを抽出し、1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供してエチジウムブロマイドで染色したところ、ワカメメカブエキス添加群の細胞では断片化したDNAのラダーが検出され、細胞がアポトーシスを起こしていたことが明らかとなった。これらの結果から、ワカメメカブエキスのセラミダーゼ阻害効果によって細胞内セラミド量が増加し、細胞増殖が阻害され、細胞がアポトーシスを起こした事が明らかとなった。
【0114】
【表2】

【0115】
実施例8 人工培養皮膚におけるセラミダーゼ阻害剤の効果
市販されている正常ヒト皮膚3次元培養モデル(クラボウ社製、EPI−100)を用いて皮膚細胞に対するセラミダーゼ阻害剤の効果を測定した。まず、各ウエルにEPI−100用維持培地(ゲンタマイシンフリー培地)2mLを入れた6well培養プレートの各ウエル内にEPI−100のミニカップを入れて37℃、5% CO環境下で72時間培養した。培地を新しい培地4mLに交換してから、ミニカップに実施例1で得たワカメメカブエタノールエキスの希釈液50μLを添加した。ワカメメカブエタノールエキスは一旦溶媒をエバポレーターで除去した後、抽出物の濃度が0.05%〜0.001%(w/v)になるようにビークル(0.5% ポリオキシエチレン硬化ひまし油を含む80%プロピレングリコール)に再溶解したものを用いた。ビークルのみを添加したものをコントロールとした。37℃、5% CO環境下で24時間培養した後培地を交換し、ミニカップにエタノールエキスを添加し24時間培養を続けた。さらにもう1回培地交換とエタノールエキスの添加を行って24時間培養した後、ミニカップを取り出して皮膚細胞中のセラミドの測定を行った。まず、カップを生理食塩水で洗浄した後、ピンセットで培養皮膚を取り出し、スクリューキャップ付きガラス試験管に移して凍結乾燥した。これに、クロロホルム/メタノール(2:1)2mLを加えて、ときどき撹拌しながら室温で2時間セラミド画分を抽出した。2,000rpmで5分間遠心した後、上清を別のガラスチューブに移した(上清1)。沈殿は濃縮遠心装置で乾燥させた後、再度クロロホルム/メタノール(2:1)2mLで抽出操作を行い、遠心分離で上清を得た(上清2)。上清1と2を併せて溶媒を除去し、薄層クロマトグラフィー(TLC)分析用サンプルとして分析時まで−30℃で保存した。TLC分析は実施例6と同様の方法で行った。結果を図3に示す。図中黒グラフはNon−hydroxyceramideを、白グラフはHydroxyceramideを示す。ワカメメカブエタノールエキス添加群ではコントロール群に比べて人工培養皮膚中のNon−hydroxyceramide、Hydroxyceramideともに、添加したエキス濃度に依存して有意に増加した。なお、図3中の*はコントロールに対するt−検定におけるp<0.05、**はp<0.005を示す。
【0116】
実施例9 人工培養皮膚における緑膿菌感染モデルに対するセラミダーゼ阻害剤の効果
アトピー性皮膚患者の皮膚表面では、角層細胞の細胞間を埋めるセラミドが減少していること、その減少が皮膚バリア機能不全、すなわち外界から体内への容易な抗原侵入と体外への過剰な水分喪失を引き起こし、ひいては本症の発症と増悪に関与する可能性が指摘されている。最近九州大学の伊東らによって、アトピー性皮膚炎患者の皮膚からセラミダーゼを生産する細菌が統計上有意に高頻度に検出されること、これらの細菌の多くが緑膿菌であることが報告されている[J.Biol.Chem.,273,14368−14373(1998)及びClinc.Diagnost.Lab.Immun.,6,101−104(1999)]。一方でアトピー性皮膚炎患者の皮膚には高頻度に黄色ブドウ球菌の感染が見られる事がよく知られている。同じく伊東らにより、セラミダーゼ生産菌が黄色ブドウ球菌を溶解するプロテアーゼを生産すること、溶解した黄色ブドウ球菌からセラミダーゼを活性化するカルジオリピンやフォスファチジルグリセロールなどの陰イオン性グリセロリン脂質が溶出する事が報告されている[Biochem.J.,362,619−626(2002)]。これらの事から、セラミダーゼ分泌菌である緑膿菌がアトピー性皮膚炎患者皮膚に感染すると、黄色ブドウ球菌を溶解して、そこから溶出したグリセロリン脂質がセラミダーゼを活性化し、皮膚角質層のセラミドレベルが低下するという可能性が考えられる。
【0117】
そこで、正常ヒト皮膚3次元培養モデル(EPI−100)に緑膿菌を感染させた系にセラミダーゼ阻害剤を添加してその効果を評価した。
【0118】
まず、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa AN17株)をL−broth(タカラバイオ社製)を用いて30℃で培養し、A660nmの値が0.6になった時に培養を終了して菌体を回収した。これをPBSで洗浄し、4×10cfu/mLになるようにPBSに懸濁した。一方黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)もL−broth、30℃で液体培養し、A660nmの値が0.6になった時に培養を終了して菌体を回収した。菌体をPBSで洗浄した後、20×10cfu/mLになるようにPBSに懸濁したものを100℃、5分間処理して死菌を調製した。この黄色ブドウ球菌死菌懸濁液をPBSで5倍に希釈したものと、緑膿菌のPBS懸濁液とを使用する直前に等量ずつ混合して用いた。各ウエルにEPI−100用維持培地(ゲンタマイシンフリー培地)0.9mLを入れた6well培養プレートの各ウエル内にEPI−100のミニカップを入れて37℃、5% CO環境下で2時間予備培養した。新しい維持培地2mLに交換してから、ミニカップに50μLのバクテリア懸濁液を加えて37℃、5% CO環境下で72時間培養した。新しい維持培地4mLに交換してから実施例8で用いたワカメメカブエタノールエキス希釈液を50μL添加した。また、ビークルのみを添加したものをコントロールとして用いた。37℃、5% CO環境下で24時間培養した後培地を交換し、ミニカップにエタノールエキスを添加し24時間培養を続けた。さらにもう1回培地交換とエタノールエキスの添加を行って24時間培養した後、ミニカップを取り出して皮膚細胞中のセラミドの測定を行った。まず、カップを生理食塩水で洗浄した後、ピンセットで培養皮膚を取り出し、スクリューキャップ付きガラス試験管に移して凍結乾燥した。これに、クロロホルム/メタノール(2:1)2mLを加えて、ときどき撹拌しながら室温で2時間セラミド画分を抽出した。2,000rpmで5分間遠心した後、上清を別のガラスチューブに移した(上清1)。沈殿は濃縮遠心装置で乾燥させた後、再度クロロホルム/メタノール(2:1)2mLで抽出操作を行い、遠心分離で上清を得た(上清2)。上清1と2を併せて溶媒を除去し、薄層クロマトグラフィー(TLC)分析用サンプルとして分析時まで−30℃で保存した。TLC分析は実施例6と同様の方法で行った。結果を図4に示す。図中黒グラフはNon−hydroxyceramideを、白グラフはHydroxyceramideを示す。0.05%ワカメメカブエタノールエキス添加群ではコントロール群に比べて人工培養皮膚中のNon−hydroxyceramideは有意に増加し、Hydroxyceramideに関しても増加傾向が見られた。また、0.05%ワカメメカブエタノールエキス添加群ではセラミドレベルが緑膿菌を添加していない実施例8のコントロール(図3参照)のセラミドレベルよりも増加していることから、ワカメメカブエキスには緑膿菌のセラミダーゼによる皮膚角層セラミド減少を回復させ、そのうえ皮膚角層中のセラミダーゼも阻害する事によってさらに角層中のセラミド量を増加させる効果があることが示された。なお、図4中の*はコントロールに対するt−検定におけるp<0.05を示す。
【0119】
実施例10 人工培養皮膚における緑膿菌感染モデルに対するセラミダーゼ阻害剤の効果
実施例9と同じ方法で、各種植物由来の抽出物の効果を評価した。ワカメメカブエタノールエキスは実施例1で得たものから溶媒を除去した後、抽出物の濃度が0.05%(w/v)になるようにビークル(0.5%ポリオキシエチレン硬化ひまし油を含む80%プロピレングリコール)に再溶解したものを用いた。マコンブエキスは実施例2で得たものから溶媒を除去したものを、抽出物の濃度が0.05%(w/v)になるようにビークルで希釈した。トウガンエキスは実施例3で得たものから溶媒を除去し、抽出物濃度が0.5%(w/v)になるようにビークルで希釈した。オレンジオイル(山本香料社製)はビークルで1000倍に希釈したものを用いた。グレープフルーツエキス(80%プロピレングリコール抽出、山本香料社製)は原液をそのまま使用した。また、ビークルのみを添加したものをコントロールとして用いた。その他の方法は実施例9と同じである。結果を図5に示す。図中黒グラフはNon−hydroxyceramideを、白グラフはHydroxyceramideを示す。ワカメメカブエキス添加群、マコンブエキス添加群、トウガンエキス添加群、オレンジオイル添加群ではコントロール群に比べて人工培養皮膚中のNon−hydroxyceramide量は有意に増加し、Hydroxyceramideに関しても増加傾向が見られた。また、グレープフルーツエキス添加群についてもセラミド量の増加傾向が見られた。なお、図5中の*はコントロールに対するt−検定におけるp<0.05、**はp<0.005を示す。
【0120】
実施例11 ワカメメカブエキスからのセラミダーゼ阻害物質の精製
(1)ステンレス製容器に乾燥ワカメメカブチップ10kgと20Lのエタノールを加えて静かに数回攪拌し、そのまま一日静置した。これを濾過、エタノールで洗浄してワカメメカブエタノール抽出液34.4Lを得た。
【0121】
(2)三菱化学製DIAION HP20をガラス製カラムに詰め(2.5L)、EtOHで洗浄後、50% EtOHで平衡化した。ここにワカメメカブエタノール抽出液34.4Lに同量の水を加えて50% EtOH溶液(68.8L)としたものを流した。全量アプライした後に50% EtOH、12.5Lで洗浄、25LのEtOHで溶出した。素通り、洗浄、溶出の各画分の阻害活性を測定したところ、EtOH溶出画分に活性が認められたので、この画分を濃縮してEtOHを除去した。収量136gであった。
【0122】
(3)Silica Gel 60(Merk社製)をガラスカラムに充填し(3.5×37cm、350mL)、1Lのn−Hexaneで平衡化した。(2)の活性画分にn−Hexaneを加えて300mLとし、カラムに添加した。500mLのn−Hexaneと1Lのクロロホルムで洗浄した後、C/M=9:1、C/M=8:2それぞれ1Lで溶出した。阻害活性の約80%がC/M=9:1のフラクションに溶出した。
【0123】
(4)Ultrapack Silica Gel 60(Yamazen社製、37×300mm,322mL)を流速10mL/minで1Lのn−Hexaneで洗浄後1Lのクロロホルムで平衡化した後(3)の活性画分(溶媒を蒸発乾固した後クロロホルムに溶解し50mLとしたもの)をアプライした。1.5Lのクロロホルムで洗浄後、クロロホルムから酢酸エチルへのグラジエント溶出を行った(0〜100%酢酸エチル/150min)。最後に500mLの酢酸エチルで洗浄した。阻害活性は2つのフラクションに分かれて溶出した。
各フラクションを集めて、溶媒を留去した。
フラクションI:収量 1925mg
フラクションII:収量 440mg
【0124】
(5)上記シリカゲルクロマトグラフィーで得たフラクションIをさらに逆相HPLCで精製した。最初にCosmosil 5C18AR(10mm×250mm、ナカライテスク社製)を用いた。フラクションIを50%イソプロパノール10mLに溶解して5回に分けてクロマトグラフィーを行った。溶出溶媒として溶媒A(50%イソプロパノール)と溶媒B(100%イソプロパノール)を用い、溶媒Bの比率を0分から20分まで0%、20分から60分まで0〜100%まで変化させ、60分から80分まで100%のまま保持した。流量は2mL/分で溶出液を1分間ごとに分取した。各フラクションのセラミダーゼ阻害活性を参考例1の方法(終濃度0.02mMのNBD−C12−Ceramideを使用、以下同様)によって測定した。阻害活性はフラクション51〜70に検出された。活性画分を集めて溶媒を除去した。収量450mgであった。
【0125】
(6)上記(5)で得た画分の3/10をYMC AM−322(10mm×150mm、ワイエムシー社製)を用いて精製を続けた。サンプルはイソプロパノールに溶解した。溶出溶媒として溶媒A(50%イソプロパノール)と溶媒B(100%イソプロパノール)を用い、溶媒Bの比率を0分から10分まで0%、10分から50分まで0〜100%まで変化させ、50分から55分まで100%のまま保持した。流量は2mL/分でサンプル注入後20分から溶出液を1分間ごとに分取した。各フラクションのセラミダーゼ阻害活性を参考例1の方法によって測定した。阻害活性はフラクション15〜35に検出された。活性画分を集めて溶媒を除去した。収量32mgであった。
【0126】
(7)上記(6)で得た画分をXTerra RP18(4.6mm×150mm、ウオーターズ社製)を用いて精製を続けた。サンプルはイソプロパノールに溶解し2回に分けてクロマトを行った。溶出溶媒として溶媒A(50%イソプロパノール)と溶媒B(100%イソプロパノール)を用い、溶媒Bの比率を0分から10分まで0%、10分から50分まで0〜100%まで変化させ、50分から55分まで100%のまま保持した。流量は1mL/分でサンプル注入後20分から溶出液を30秒間ごとに分取した。各フラクションのセラミダーゼ阻害活性を参考例1の方法によって測定した。阻害活性は画分1(フラクション13〜20)と画分II(フラクション21〜25)の2画分に検出された。活性画分を集めて溶媒を除去した。収量 画分I:10mg、画分II:6mgであった。
【0127】
(8)上記(7)で得た画分IをSymmetry Shield RP18(4.6mm×150mm、ウオーターズ社製)を用いて精製を続けた。サンプルはクロロホルム/エタノール(1:1)に溶解した。溶出溶媒として溶媒A(50% イソプロパノール)と溶媒B(100% イソプロパノール)を用い、溶媒Bの比率を0分から30分まで30〜70%、30分から35分まで100%のまま保持した。流量は1mL/分で検出は220nm、サンプル注入後10分から溶出液を15秒間ごとに分取した。各フラクションのセラミダーゼ阻害活性を参考例1の方法によって測定した。阻害活性は画分I−I(フラクション26〜29)、画分I−II(フラクション30〜35)と画分I−III(フラクション36〜42)の3画分に検出された。活性画分を集めて溶媒を除去した。画分I−III(収量3.3mg)についてNMR分析と質量分析による構造解析を行った。
【0128】
(9)上記(8)で得られた画分I−IIIについてイオンスプレー型質量分析器(API−III、アプライドバイオシステムズ社製)を用いて質量分析を行った。測定溶媒として0.1%蟻酸を含む80%アセトニトリルを用い、ポジティブモードで測定した。その結果、m/z 565(M+H)+のシグナルを検出した。図6に質量スペクトルを示す。また、このイオンを親イオンとしてMS/MS分析を行ったところ、ドーターイオンとしてm/z 547とm/z 338のシグナルを検出した。図7にMS/MS分析の質量スペクトルを示す。図6及び図7において、横軸はm/z値、縦軸はシグナルの相対強度を示す。
【0129】
さらに、核磁気共鳴(NMR)スペクトル分析装置(ブルッカー社製)を用いて各種NMRスペクトルを測定し、構造解析を行った。以下に各種NMRの信号を示す。
【0130】
H−NMR:σ
0.848,0.860,0.871,1.236.1.265,1.277,1.289,1.354,1.368,1.507,1.531,1.584,1.923,1.934,1.945,1.964,1.974,2.018,2.029,2.041,2.053,2.208,2.350,2.462,2.575,2.957,2.969,3.728,3.747,3.770,3.777,3.783,3.789,3.971,3.976,3.989,3.994,5.321,5.330,5.346,5.356,5.368,5.378,5.394,5.491,5.501,5.515,5.527,5.539,5.605,5.616,5.629,5.642,5.653,6.455,6.468
但し、H−NMRにおいてサンプルは重クロロホルムに溶解し、重クロロホルム中の残留プロトンの化学シフト値を7.24ppmとして表した。図8にH−NMRスペクトルを示す。図8において、横軸は化学シフト値、縦軸はシグナルの強度を示す。
【0131】
13C−NMR:σ
14.10,22.68,25.42,29.20,29.22,29.34,29.36,29.49,29.54,29.62,29.63,29.65,29.69,31.91,31.92,32.42,32.57,32.60,34.36,40.56,53.96,62.45,74.06,122.17,129.72,130.88,136.81,171.83
但し、13C−NMRにおいてサンプルは重クロロホルムに溶解し、重クロロホルム中の残留プロトンの化学シフト値を77.0ppmとして表した。図9に13C−NMRスペクトルを示す。図9において、横軸は化学シフト値、縦軸はシグナルの強度を示す。
【0132】
以上の結果より、セラミダーゼ阻害物質として推定できる化合物のうち、1例として以下の式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0133】
【化2】

【0134】
精製物のセラミダーゼ阻害活性を参考例1の方法によって測定したところ、本物質は5μMの低濃度でラット脳由来中性/アルカリ性セラミダーゼ活性を50%阻害した。一方で、従来よりセラミダーゼ阻害剤として市販されているD−e−MAPPは5mMの濃度でも阻害率は28%であった。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明により、セラミダーゼ活性阻害剤、該セラミダーゼ活性阻害剤を含有する医薬品、医薬部外品、化粧料、食品が提供された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンブ科植物より抽出溶媒を使用して有効成分を抽出することを特徴とするセラミダーゼ活性阻害剤の製造方法。
【請求項2】
コンブ科植物がガゴメ、マコンブ及びワカメからなる群より選択される少なくとも1つである請求項1記載のセラミダーゼ活性阻害剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法でセラミダーゼ活性阻害剤を製造する工程を包含する、セラミダーゼ活性阻害剤を含有するセラミド量調節剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法でセラミダーゼ活性阻害剤を製造する工程を包含する、セラミダーゼ活性阻害剤を含有する医薬部外品の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法でセラミダーゼ活性阻害剤を製造する工程を包含する、セラミダーゼ活性阻害剤を含有する化粧料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−36213(P2012−36213A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227096(P2011−227096)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【分割の表示】特願2005−515822(P2005−515822)の分割
【原出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】