説明

セラミックカラー用ガラス粉末及びセラミックカラー組成物

【課題】セラミックカラー組成物に要求される各種の要求を満足した上で、優れた銀のマイグレーション防止効果を発揮できるセラミックカラー用の鉛非含有低融点ガラス粉末、及び該ガラス粉末を含むセラミックカラー組成物を提供する。
【解決手段】Bi及びSiO主成分として含有する無鉛ガラスであって、MgOを0.05〜9.95重量%とBaOを0.05〜9.95重量%含有し、且つMgOとBaOの合計含有量が0.1〜10重量%であることを特徴とするセラミックカラー用ガラス粉末、並びに該ガラス粉末100重量部に対して、無機顔料粉末10〜40重量部を含有することを特徴とするセラミックカラー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックカラー用ガラス粉末、セラミックカラー組成物、板ガラスの曲げ加工方法、及び該方法によって得られる板ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用窓ガラス、例えば、フロントガラス、サイドガラス、リアガラス、サンルーフガラス等は、一般に、有機接着剤を用いて車体に取り付けられている。この際、有機接着剤の紫外線による劣化防止、接着剤のはみ出し部分の隠蔽等の目的や、窓ガラスの意匠性を考慮して、各ガラス周辺部分には、ガラス粉末と顔料成分を主成分として含む、いわゆるセラミックカラー組成物をペースト化し、スクリーン印刷、乾燥した後、焼き付けて、黒色乃至ダークグレー色のセラミックカラー層を形成することが普及している。
【0003】
一方、車両用リアガラスにおいては、殆どの場合、曇り防止のための発熱材料やアンテナ材料として銀ペーストが線状に焼き付けられており、銀回路の電極取り出し部分(バスパー)は、上記セラミックカラー層の焼き付け部分と位置的に重なる場合がある。通常、この様な場合には、ガラス素地上にセラミックカラーペーストと銀ペーストを重ね印刷して、焼き付けられている。
【0004】
しかしながら、セラミックカラーペーストと銀ペーストの焼き付け工程において、銀ペースト中の銀がセラミックカラー層を通過する現象、いわゆるマイグレーションが生じやすく、銀が板ガラス面まで到達して銀コロイドとなって茶色などに発色する現象が多く発生している。この様な発色は、セラミックカラー層を形成する本来の目的である隠蔽効果を損なうばかりでなく、むしろ電極部分の存在を際だたせるものであり、車両用窓ガラスの車外からの美観を損なうという重大な弊害がある。
【0005】
通常、セラミックカラー組成物は、ガラスの曲げ成型工程において焼き付けられるために、曲げ成型温度以下で焼き付けできることが必要であり、ガラス粉末としては低融点ガラスが用いられている。
【0006】
一般的に、NaO、LiO等のアルカリ成分は、ガラスの粘性を急激に低下させる働きを有することから、ガラスの低融点化には効果的であるが、ガラス組成物中にNaO、LiO等が存在するとマイグレーションが大幅に促進される。このため、銀のマイグレーションを防止する目的では、アルカリ成分を多量に含む低融点ガラスの使用は望ましくない。
【0007】
低融点の無アルカリガラスを用いた銀のマイグレーションを抑制できるセラミックカラー組成物としては、無アルカリ低融点ガラスに、銀より卑な金属、合金粉末を配合した組成物が知られている(下記特許文献1参照)。このセラミックカラー組成物は、特に、PbO−SiO−B系ガラスを用いる場合には、良好なマイグレーション防止効果を発揮できるが、Bi−SiO−B系の無鉛ガラスでは、無アルカリとすると融点が高くなり、耐薬品性などの基本性能を維持した上で、融点を作業温度まで低温化することは困難である。また、黒色の発色も不十分となり、十分な隠蔽性能を発揮することができない。
【特許文献1】特公平5−74536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、セラミックカラー組成物に要求される各種の要求を満足した上で、優れた銀のマイグレーション防止効果を発揮できるセラミックカラー用の鉛非含有低融点ガラス粉末、及び該ガラス粉末を含むセラミックカラー組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、Bi−SiO−B系の無鉛ガラスにおいて、特定量のBaOとMgOを同時に配合する場合には、NaO、LiO等のアルカリ酸化物を含有することなくガラスを低融点化することができ、このガラス粉末をセラミックカラー組成物のガラス成分として配合する場合には、セラミックカラー組成物に要求される各種の特性を満足した上で、銀のマイグレーションを抑制することが可能となることを見出した。本発明はこの様な知見に基づいてなされたものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記のセラミックカラー用ガラス粉末、セラミックカラー組成物、板ガラスの曲げ加工方法、及び該方法によって得られる板ガラスを提供するものである。
1. Bi及びSiO主成分として含有する無鉛ガラスであって、MgOを0.05〜9.95重量%とBaOを0.05〜9.95重量%含有し、且つMgOとBaOの合計含有量が0.1〜10重量%であることを特徴とするセラミックカラー用ガラス粉末。
2. 下記組成を有するものである上記項1に記載のセラミックカラー用ガラス粉末:
SiO15〜40重量%
Bi40〜70重量%
MgO 0.05〜9.95重量%
BaO 0.05〜9.95重量%
(但し、MgOとBaOの合計量は、0.1〜10重量%)
0〜5重量%
TiO0〜5重量%
O 0〜5重量%
3. 上記項1又は2に記載のガラス粉末100重量部に対して、無機顔料粉末10〜40重量部を含有することを特徴とするセラミックカラー組成物。
4. 上記項3に記載のセラミックカラー組成物のペーストを板ガラスに塗布し、加熱下に板ガラスの曲げ加工を行うことによって、板ガラスの曲げ加工と同時に上記ペーストの焼き付けを行うことを特徴とする板ガラスの曲げ加工方法。
5. セラミックカラー組成物を板ガラスに塗布した後、更に銀ペーストを塗布する工程を含む上記項4に記載の板ガラスの曲げ加工方法。
6. 上記項4又は5に記載の方法によって得られる板ガラス。
【0011】
一般に、自動車用窓ガラスに用いられるセラミックカラー組成物は、その目的とする有機接着剤の劣化防止という観点から、紫外線の遮断性に優れたものであることが必要であり、窓ガラスの美観を考慮すると、均一な黒色乃至ダークグレー色であることが望まれる。
【0012】
更に、窓ガラスに形成された銀回路は過剰発熱を防止する目的でめっき処理を施される場合があり、セラミックカラー層は、この際使用するめっき液による劣化が生じ難いことが必要であり、更に、酸性雨などによる変質が生じ難いことも要求される。そのために優れた耐酸性(耐薬品性)を有することが必要である。
【0013】
また、ガラス素材に塗布されたセラミックカラーペーストは、ガラスの曲げ成型加工時に同時に焼き付け加工が行われる。このため、セラミックカラー組成物に配合されるガラス粉末は、成型加工時の成型温度及び成型時間内に焼き付けられるように、比較的低い軟化点であることが必要である。通常、軟化点は600℃程度以下であることが好ましく、520〜600℃程度であることがより好ましい。また、ガラス素材の曲げ加工時にプレス型への付着がないことも重要な特性である。
【0014】
本発明のガラス粉末を配合したセラミックカラー組成物は、上記したセラミックカラー組成物に要求される各種特性をバランス良く具備した上で、更に、本発明の目的とする銀のマイグレーションを防止する効果に優れたものである。
【0015】
以下、本発明のセラミックカラー用ガラス粉末について具体的に説明する。
【0016】
本発明のガラス粉末は、Bi、SiO、及びBを含有する鉛不含有の組成物であって、MgOを0.05〜9.95重量%とBaOを0.05〜9.95重量%含有し、MgOとBaOの合計含有量が0.1〜10重量%の範囲内であることを特徴とするものである。上記した組成を有する本発明のガラス粉末では、特定量のMgOとBaOを同時に含有することによって、銀のマイグレーションを抑制した上で、ガラスの軟化点を低下させることができ、セラミックカラー用ガラス粉末に要求される各種の特性を同時に満足するものとなる。
【0017】
本発明のガラス粉末の好ましい組成としては、下記の組成を例示できる。
SiO15〜40重量%
Bi40〜70重量%
MgO 0.05〜9.95重量%
BaO 0.05〜9.95重量%
(但し、MgOとBaOの合計量は、0.1〜10重量%)
0〜5重量%
TiO0〜5重量%
O 0〜5重量%
上記したガラス粉末の各構成成分について、ガラス粉末の特定に与える効果と配合量について以下に記載する。
【0018】
まず、SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分であり、本発明ガラス粉末において必須の成分である。SiOの含有量が少ない場合には耐酸性が不十分となり、含有量が多すぎると板ガラスの成型(曲げ加工)工程での焼き付きが不十分となる傾向がある。この様な観点から、SiOの含有量は、15〜40重量%程度であることが好ましく、15〜30重量%程度であることがより好ましい。
【0019】
Biはガラスの軟化点を低下させる効果がある成分であり、本発明のガラス粉末における必須の成分である。Biの含有量が少なすぎると十分に低い軟化点のガラスとすることができず、一方、含有量が多すぎる場合には、耐酸性が低下する傾向がある。この様な観点から、Biの含有量は、40〜70重量%程度であることが好ましく、40〜60重量%程度であることがより好ましい。
【0020】
MgOとBaOは、ともに本発明のガラス粉末における必須成分であり、銀のマイグレーションを促進することなく、ガラスの軟化点を低下させる効果を有する成分である。MgOの含有量は、0.05〜9.95重量%程度であることが好ましく、0.05〜5重量%程度であることがより好ましい。BaOの含有量は0.05〜9.95重量%程度であることが好ましく、2〜8重量%程度であることがより好ましい。また、MgOとBaOの合計量は0.1〜10重量%程度であることが好ましく、3〜8重量%程度であることがより好ましい。
【0021】
は、ガラスの軟化点を下げ、線膨張係数を低下させる効果を有する成分であるが、多量に添加すると耐酸性が低下する。この様な観点から、Bの含有量は、5重量%程度以下であることが好ましく、1〜4重量%程度であることがより好ましい。
【0022】
TiOは、耐酸性を向上させる効果がある成分であるが、多量に添加すると軟化温度が上昇し、更に、TiOを含む結晶が析出して、焼き付け後の色調が白身を帯びる傾向がある。この様な観点から、TiOの含有量は5重量%程度以下とすることが好ましく、1〜4重量%程度とすることがより好ましい。
【0023】
Oは、ガラスの軟化点を低下させ、ガラスの分相を抑制する作用を有する成分である。KOは、LiO、NaO等のその他のアルカリ酸化物とは異なり、5重量%程度までの含有量であれば、銀のマイグレーションを促進することなく、上記した効果を付与できる。KOの含有量は特に2〜5重量%程度であることが好ましい。
【0024】
更に、本発明のガラス粉末は、必要に応じて、他の適当なガラス構成成分を含有することもできる。添加配合できるガラス構成成分及びその配合量は、得られるガラス粉末の特性に悪影響を及ぼさないもの及び範囲から適宜選択できる。この様なガラス構成成分の具体例としては、例えばZnO、ZrO、V、CeO、La、MoO、SnO等を例示できる。これらは一種又は二種以上用いる事ができ、その添加配合量は、合計量として10重量%程度以内であることが望ましい。これらの配合は融着温度、耐薬品性の微調整に役立つ場合がある。
【0025】
本発明のセラミックカラー用ガラス粉末は、常法に従って製造することができる。例えば、溶融時に目的の組成となる量の原料を混合して原料組成物を得、これを約1000℃以上、通常1100〜1300℃程度で溶融し、溶融物を水中にて急冷してポップコーン状ガラスとするか或いは水冷ロールに挟んでフレーク状ガラスとする。次いで、得られるガラスを例えばボールミル中でアルミナボール等を使用して湿式粉砕する。かくして得られるスラリーを乾燥機で乾燥してケーキ状とし、その後、篩又は粉砕機等を用いて解砕して粉末状とする。また上記スラリーをスプレイドライヤー等を用いて直接粉末化してもよい。
【0026】
かくして得られる本発明ガラス粉末の粒径は、通常0.1〜30μm程度、好ましくは0.5〜20μm程度の範囲にあるのが最適である。従って、粒径が30μmを越える粗大粒子が生成している場合は、例えば気流式分級装置や篩等を用いて除いておくのが好ましい。
【0027】
本発明のセラミックカラー組成物は、上記したBi及びSiO主成分として含有し、且つ特定量のMgOとBaOを含有する本発明のガラス粉末に、所定量の無機顔料粉末と必要に応じて、無機フィラーを配合したものである。
【0028】
無機顔料としては、従来よりセラミックカラー組成物の顔料成分として使用されているものと同様のものを使用することができる。例えば、CuO・Cr23(ブラック)、CoO・Cr23(ブラック)、Fe23(ブラウン)、TiO2(ホワイト)、CoO・Al23(ブルー)、NiO・Cr23(グリーン)等及び之等の組合せ等を用いることができる。
【0029】
本発明のセラミックカラー組成物における無機顔料粉末の含有量は、本発明のガラス粉末100重量部に対して、10〜40重量部程度とすることが好ましく、15〜35重量部程度とすることがより好ましい。
【0030】
無機顔料の含有量が少なすぎる場合には、得られる焼成膜に隠蔽力が不足して、セラミックカラー層の本来の目的である太陽光の隠蔽が不十分となり易い。逆に、無機顔料の含有量が多すぎると、必然的にガラスの割合が減少するため、焼成時に膜形成が不十分となって、ポーラスとなり易く、接着工程において接着プライマーが板ガラス面まで染み込む不具合が生じる。
【0031】
該無機顔料は、通常入手される粉末状形態で本発明のセラミックカラー組成物に配合することができる。その粒度は特に限定されるものではないが、通常、0.1〜1μm程度の範囲にあるのが普通である。
【0032】
無機フィラーとしては、通常のこの種セラミックカラー組成物に利用されることの知られている各種のもの、特に高温時メルトしないものを用いることができる。その例としては、例えば、セラミックカラーが高温で加熱された時の流動性を制御し、離型性(ガラスモールドへのカラーの付着防止)の改善を補助するための、アルミナ、シリカ、ジルコン、珪酸ジルコン、亜鉛華等の金属酸化物や、セラミックカラーの線膨張係数を調整するための、特に低膨張化の粉末、例えばβ−ユークリプトタイト、β−スポジューメン、コージェライト、溶融シリカ等を挙げることができる。
【0033】
無機フィラーは、その粒度に特に限定はない。それらの本来の効果が粒子表面積に依存することが多いことを考慮すれば細かいほど有利であるが、細かすぎるとセラミックカラーの融着温度を上昇させる不利があるため、一般には0.05〜30μm程度、好ましくは0.1〜20μm程度の範囲から選択されるのがよい。
【0034】
また無機フィラーの配合量は、本発明のガラス粉末100重量部に対して、10重量部程度以下とすることが好ましく、7重量部程度以下とすることがより好ましい。無機フィラーの配合量が多すぎると、セラミックカラーの融着温度が上昇しすぎて、素地ガラスとの密着不良や接着工程でのプライマーの染み込み等の不具合を生じ易くなるので好ましくない。
【0035】
尚、この無機フィラーは、その配合の目的が、前述した他の成分の種類や配合量の選択等により克服できたり、ガラス粉末自体の特性で解決できる場合には、特にその配合を必要とするものではない。
【0036】
本発明のセラミックカラー組成物には、更に、必要に応じて、その他のガラス粉末(以下、「第二ガラス粉末」という)を配合することができる。第二ガラス粉末は、例えば、下記(1)〜(4)に例示する各種の目的で用いることができる。
(1)低温での焼結性をより向上させる、
(2)焼き付き時のセラミックカラーの発色をより向上させる、
(3)耐薬品性をさらに向上させる、
(4)成形加工時のモールドとの離型性をさらに向上させる。
【0037】
第二ガラス粉末の具体的な組成については、上記した目的を達成できるガラスから適宜選択すればよく、特に、ビスマス系ガラスを用いることが好ましく、結晶ガラス及び非結晶ガラスのいずれでも良い。
【0038】
第二ガラス粉末の組成範囲の具体例は次の通りである。
SiO 0〜40重量%
0〜12重量%
Bi 40〜90重量%
ZnO 0〜20重量%
TiO 0〜10重量%
LiO 0〜10重量%
NaO 0〜10重量%
O 0〜10重量%
ZrO 0〜5重量%
0〜5重量%
F 0〜5重量%
第二ガラス粉末は、1種単独又は2種以上混合して用いることができ、その使用量は、本発明のセラミックカラー用ガラス粉末100重量部に対して、20重量部程度以下とすることが好ましく、15重量部程度以下とすることがより好ましい。
【0039】
本発明セラミックカラー組成物は、通常、ガラス粉末、無機顔料及び無機フィラーの所定量配合物を固形分として、これを、ガラス素材上への塗布や印刷等に適した形態、例えば、樹脂の溶剤溶液(有機ヴィヒクル)中に分散させたペースト状形態や塗料形態に調製される。
【0040】
ここで用いられる樹脂の溶剤溶液(有機ヴィヒクル)としては、通常のこの種セラミックカラー組成物と特に異なるものではなく、易燃焼性の樹脂を溶剤に溶解したものを使用できる。ここで、易燃焼性の樹脂としては、例えばセルロース樹脂、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、ブチラール樹脂、ビニールピロリドン樹脂等の熱分解性のよい樹脂が好ましく使用できる。また、溶剤としては、例えばパインオイル、α−ターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングライコール等の比較的高沸点の溶剤が使用できる。
【0041】
上記ペーストは、常法に従い、成形工程で焼成、焼き付けする前に加熱によって予備乾燥されるのが普通であるが、上記有機ヴィヒクルの代わりに、例えば光重合開始剤を含む紫外線硬化型のアクリレート、メタアクリレート等のオリゴマーをヴィヒクル成分として使用すれば、紫外線硬化型のペーストを調製でき、これは上記予備乾燥の代わりに紫外線照射によって所望の皮膜を形成できる。いずれもペーストの場合も、スクリーン印刷に適したペースト粘度、通常約5〜30Pa・sの範囲に、その粘度を調整されるのが好ましい。
【0042】
本発明のセラミックカラー組成物において、固形分に対する有機ヴィヒクルの配合割合及びヴィヒクル中の樹脂と溶剤との使用比率は、得られる組成物の形態、特にその板ガラス上への施工方法に応じて適宜決定され、特に限定されるものではない。例えばスクリーン印刷等に適したペースト状形態に調製する場合、一般には、固形分100重量部に対して有機ヴィヒクル10〜40重量部の範囲の使用が適当である。塗料形態に調整される場合は、固形分100重量部に対して有機ヴィヒクル30〜100重量部の範囲の使用が好ましい。之等各種形態への調整は、常法に従って、例えば固形分をロールミル、サンドミル、ボールミル等を用いて有機ヴィヒクル中に分散させることにより実施できる。
【0043】
また、有機ヴィヒクル中の樹脂と溶剤との使用量比率は、任意に決定でき特に限定されるものではないが、通常溶剤100重量部に対して樹脂約5〜50重量部の範囲から選択されるのが適当である。
【0044】
かくして得られるペースト状、塗料状等の各種形態の本発明セラミックカラー組成物の板ガラスへの施工及びこれによる自動車用窓ガラスの製造(曲げ加工方法)は、常法に従うことができる。例えば、該組成物は、予め所定の形状に切り出したガラスの周辺に塗布により施工される。塗布方法も通常慣用される方法と異なるものではなく、例えばスクリーン印刷法、スプレー塗装法、ロールコーター法等に従うことができる。上記スクリーン印刷法は最も簡便であり、部分塗布に適している。かくしてセラミックカラー組成物(ペースト等の形態)を塗布された板ガラスは、一旦乾燥され、次いで熱線となる銀ペーストを印刷し、更に乾燥後、強化、曲げ成形工程に供される。
【0045】
現在、サンルーフガラス、リアガラス、サイドガラス等の自動車用窓ガラスの成形工程としては、一般に、炉内で板ガラスをモールドとモールドとの間に圧着して曲げ加工する形成工程や炉内で板ガラスをモールドに真空吸引して曲げ加工する形成工程が採用されている。之等の加工工程は、通常、常温より660℃程度までの予備加熱のトンネル炉と640〜720℃の曲げ加工成形工程のバッチ炉が連結されてなっている。
【0046】
本発明セラミックカラー組成物は、上記した公知の方法に従って板ガラスへ施工することができ、板ガラスの加工成形工程における加熱によって、板ガラスに焼き付けられ、セラミックカラー層が形成される。特に、セラミックカラー組成物に配合するガラス粉末が、結晶化ガラスである場合には、上記した二工程からなる曲げ加工工程に付することにより、予備加熱工程で結晶化されるために、引き続く曲げ加工成形工程でモールドと接した時に、セラミックカラーは流動性がなく(ガラス粘度の低下がなく)モールドへの付着を防止することができる。
【0047】
本発明のセラミックカラー組成物を施工された板ガラスは、この様な二工程からなる曲げ加工工程に付することができるが、この様な二工程曲げ加工によることなく、より温和な条件を採用する、例えば炉外曲げ加工工程である吊り圧着(プレス)工程や、圧着曲げ(プレスベンド)工程によって曲げ加工することもできる。かくして所望の自動車窓用ガラスを製造することができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明のセラミックカラー組成物を用いて形成されたセラミックカラー層は、銀のマイグレーションが生じ難く、黒色の良好な外観を有するものであり、優れた意匠性を有すると同時に紫外光の遮断性能にも優れたものである。
【0049】
また、本発明のセラミックカラー組成物は、ガラスの曲げ成型加工工程における曲げ温度以下の温度及び加工時間内にガラスに焼き付けてセラミックカラー層を形成することができ、しかも曲げ成型時にプレス型への付着が生じにくい、優れた加工性を有するものである。また、形成されるセラミックカラー層は、耐薬品性も良好であり、メッキ処理時の変質や劣化が生じにくく、酸性雨などに対する耐久性も良好である。
【0050】
以上の様に、本発明のセラミックカラー組成物は、鉛非含有の低融点ガラス粉末を用いた組成物であって、自動車用窓ガラスに用いられるセラミックカラー組成物に要求される各種の特性を満足した上で、銀のマイグレーションを抑制することを可能としたものであり、非常に有用性の高いセラミックカラー組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する・
実施例1〜5及び比較例1〜3
下記表1に記載のガラス組成となる量の調合バッチ原料を1000〜1300℃で溶融した。溶融ガラスを水中で急冷してポップコーン状ガラスとし、ボールミルにて平均粒径が1〜5μm程度となるよう粉砕して、本発明のセラミックカラー用ガラス粉末を得た。
【0052】
上記方法で得られたガラス粉末を用い、これに無機顔料及び無機フィラーを下記表1に示す配合割合で混合した。この混合物の固形分100重量部に対して、易燃焼性のエチルセルロース樹脂(ダウケミカル社製、商標名:STD-20)7重量%とα−ターピネオール93重量%からなる有機ヴィヒクル(粘度BL粘度計3号ロータ、12回転、25℃:10Pa・s)30重量部を加えて、三本ロールにて分散してセラミックカラー用ペーストを調製した。その際の粘度は10〜25Pa・sであった。
【0053】
無機顔料としては、黒顔料(CuO・Cr2O3・MnO、アサヒ化成社製、#3700)を使用し、無機フィラーとしては、表1に記載したものを用いた。
【0054】
上記した実施例及び比較例で得た各セラミックスカラー用ペーストを用いて、下記の方法で性能試験を行った。結果を表1に示す。
【0055】
<銀隠蔽>
得られたセラミックカラーペーストを50mm×75mm×3.5mmの板ガラス上に、焼成後のセラミックカラー層が15μm程度となるようスクリーン印刷し、150℃で10分程度乾燥した。次にセラミックカラー層の上に銀ペーストを同じスクリーン印刷法にて印刷し150℃で10分程度乾燥し、620〜680℃の設定温度に達した炉内に入れ4分焼成後取り出した。冷却後、ガラス板の非印刷面からセラミックカラーを目視観察し、銀の印刷パターンが見えるか否かを下記の基準で判定した。
【0056】
◎:全く見えない、○:見えない、△:わずかに見える、×:見える
評価○以上の試験片について、銀の隠蔽製が良好であると判断した。
【0057】
<焼結温度>
得られたセラミックカラーペーストを25mm×150mm×3mmの板ガラス上に、焼成後のセラミックカラー層が15μm程度となるようスクリーン印刷し、150℃で10分程度乾燥して試験片とした。次いで、150℃の温度勾配をつけた温度勾配炉を用い、設定温度に達した炉内に試験片を入れて4分焼成後に取り出した。冷却後、焼き付いたセラミックカラー面に油性マジックにて線を引き、ガラス板の非印刷面から観察し、前記線が見えなくなったところを焼結温度とし、設定した最低温度より1cmを1℃として定規にて読み焼結温度を決定した。
【0058】
<色調>
得られたセラミックカラーペーストを50mm×75mm×3.5mmの板ガラス上に、焼成後セラミックカラー層が15μm程度となるようスクリーン印刷し、150℃で10分程度乾燥して試験片とした。620〜680℃の設定温度に達した炉内に試験片を入れ4分焼成後取り出した。冷却後、ガラス板の非印刷面から観察して、セラミックカラーと基準黒色との差を目視にて評価した。
【0059】
<耐酸性>
密閉した容器中に濃度0.1N、温度80℃の硫酸水溶液を入れ、これに上記した方法で色調を評価した試験片を浸漬した。セラミックカラーの非印刷面よりセラミックカラーを目視し白化の認められるまでの浸漬時間を耐酸性の尺度として評価した。評価基準は以下の通りである。
I:20時間で白化しないもの
II:10〜20時間の範囲で白化するもの
III:5〜10時間の範囲で白化するもの
IV:5時間以内に白化するもの
評価III以上の試験片について耐酸性が良好であると判断した。
【0060】
<離型性>
得られたセラミックカラーペーストを50mm×37mm×3.5mmの板ガラス上に、焼成後のセラミックカラー層が15μm程度となるようスクリーン印刷し、150℃で10分程度乾燥して試験片とした。
【0061】
セラミックウールを敷いた石英ガラス板上に、試験片とモールド代用冶具を並べて載せた。モールド代用冶具としては同一寸法の石英ガラスの周辺にステンレスクロスを弛みの無いように巻きつけたものを使用した。あらかじめ620〜680℃の設定温度に達した炉内に石英板上の試験片とモールド代用冶具を並べた状態で置いて3分間焼成し、一度炉外に取り出し直ちにモールド代用冶具をセラミックカラーを印刷した表面に押し付けて載せ、再度同温度で2分間焼成した。
【0062】
炉から取り出した後、直ちにモールド代用冶具をゆっくり試験片より持ち上げ、その状況を以下の5段階にランク付けし、これを指標として離型性を評価した。
【0063】
尚、本発明組成物を用いた試験では焼成温度として680℃を選択した。これは離型性に対して厳しい条件である。
【0064】
A:全く抵抗なく冶具が外れる
B:僅かに抵抗がある
C:冶具に付着するが、持ち上げると外れる。
D:冶具に付着するが、持ち上げ振動を加えると外れる。
E:冶具に付着し、持ち上げ振動を加えても外れない。
【0065】
評価D以上の試験片について、離型性が良好であると判断した。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例6〜9
実施例1〜5と同様の方法で調製した本発明ガラス粉末の他に、第二ガラス粉末、無機顔料及び無機フィラーを下記表2に示す割合で配合して、実施例1〜5と同様の方法でセラミックカラー用ペーストを調製した。無機顔料としては、黒顔料(CuO・Cr2O3・MnO、アサヒ化成社製、#3700)を使用した。第二ガラス粉末については、下記表2に示す組成として、700〜1300℃の範囲の溶融温度で、実施例1〜5の本発明ガラス粉末と同様の方法で作製した。
【0068】
得られた各セラミックカラー用ペーストについて、実施例1〜5と同様の方法で性能試験を行った。結果を下記表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
以上の表1及び表2の結果から明らかなように、本発明のガラス粉末を含むセラミックカラー用ペーストは、セラミックカラー用ペーストとして要求される各種の性能をバランス良く具備した上で、銀の隠蔽性に優れたものであることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi及びSiO主成分として含有する無鉛ガラスであって、MgOを0.05〜9.95重量%とBaOを0.05〜9.95重量%含有し、且つMgOとBaOの合計含有量が0.1〜10重量%であることを特徴とするセラミックカラー用ガラス粉末。
【請求項2】
下記組成を有するものである請求項1に記載のセラミックカラー用ガラス粉末:
SiO15〜40重量%
Bi40〜70重量%
MgO 0.05〜9.95重量%
BaO 0.05〜9.95重量%
(但し、MgOとBaOの合計量は、0.1〜10重量%)
0〜5重量%
TiO0〜5重量%
O 0〜5重量%。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガラス粉末100重量部に対して、無機顔料粉末10〜40重量部を含有することを特徴とするセラミックカラー組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のセラミックカラー組成物のペーストを板ガラスに塗布し、加熱下に板ガラスの曲げ加工を行うことによって、板ガラスの曲げ加工と同時に上記ペーストの焼き付けを行うことを特徴とする板ガラスの曲げ加工方法。
【請求項5】
セラミックカラー組成物を板ガラスに塗布した後、更に銀ペーストを塗布する工程を含む請求項4に記載の板ガラスの曲げ加工方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の方法によって得られる板ガラス。

【公開番号】特開2008−266056(P2008−266056A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109059(P2007−109059)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】