説明

セラミックグリーンシートおよびその製造方法

【課題】 打ち抜き加工時のクラックが抑制され、機械的な強度も高いセラミックグリーンシートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 セラミック粉末1を有機樹脂からなるバインダ2で結合してなるセラミックグリーンシート3であって、バインダ2は、ポリビニルアセタール鎖を主成分とする第1相2aと、ポリアルキレンオキサイド鎖を主成分とする第2相2bとを含み、第1相2aおよび第2相2bは、第2相2bのポリアルキレンオキサイド鎖に第1相2aのポリビニルアセタール鎖がブロック共重合したことによって、第1相2aが海であり、第2相2bが島である海島構造を形成して互いに結合しているセラミックグリーンシート3である。第1相2aでバインダ2の機械的な強度を高くし、柔軟な第2相2bでクラックCの進行を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品搭載用基板等の配線基板において用いられるセラミック焼結体からなる絶縁基板を作製するためのセラミックグリーンシートおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば半導体素子や弾性表面波素子等の電子部品を搭載するために用いられる配線基板として、酸化アルミニウム質焼結体からなる絶縁基板にメタライズ法やめっき法等の方法で回路状配線や貫通導体等の配線導体を被着させた配線基板が多用されている。このような絶縁基板は、一般に、複数のセラミックグリーンシートを積層した後、この積層体を焼成することによって製作されている。なお、配線導体は、タングステンや銅等の金属材料のペースト(導体ペースト)をセラミックグリーンシートの表面や、セラミックグリーンシートに打ち抜き加工によって形成した貫通孔の内部に塗布または充填しておき、セラミックグリーンシートと同時焼成することによって形成されている。
【0003】
従来、セラミックグリーンシートとして一般的なものは、酸化アルミニウムや酸化ケイ素,酸化カルシウム等の原料のセラミック粉末を、ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタールやアクリルポリマー等のポリマーからなるバインダで結合したものである。
【0004】
また、このようなセラミックグリーンシートは、通常、まず、セラミック粉末および上記バインダとして用いるポリマーを有機溶剤に添加するとともに混練して、セラミック粉末とバインダと有機溶剤とを主成分とするスラリーを作製した後、ドクターブレード法やリップコータ法等の方法でスラリーをシート状に成形し、不要な有機溶剤を加熱して除去することによって製作されている。このスラリーにおいて、有機溶剤中にセラミック粉末とバインダとがほぼ均一に分散しているため、不要な有機溶剤の除去に伴い、バインダ中にセラミック粉末がほぼ均一に分散して結合された状態になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−81657号公報
【特許文献2】特開2000−34265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術のセラミックグリーンシートにおいては、次のような問題点があった。
【0007】
すなわち、バインダとしてアクリルポリマーを用いた場合には、アクリルポリマーを構成するアクリルポリマー鎖の凝集力が弱いため、その弾性率が比較的低いことから、セラミックグリーンシートの機械的な強度が低くなる傾向があるという問題があった。この場合、導体ペーストの印刷時に導体ペーストに含まれる溶剤の吸収によるセラミックグリーンシートの膨れや、複数のセラミックグリーンシートを積層するときの変形等の不具合を生じやすい。
【0008】
また、バインダとしてポリビニルアセタール、例えばポリビニルブチラールを用いた場合には、ポリビニルブチラールは環状構造を有する剛直な分子構造で構造であり凝集力が強いため、その弾性率が比較的高い。そのため、セラミックグリーンシートの機械的な強
度を高くすることはできるものの、引張りの伸び率が低いことから、バインダとして脆くなる傾向がある。そして、例えばセラミックグリーンシートに貫通孔を打ち抜き形成する際に、その応力によってセラミックグリーンシートにクラックが生じやすくなる傾向がある。
【0009】
このような問題点に対しては、例えばバインダとしてアクリルポリマーとポリビニルブチラールとを混合して併用するという手段が考えられる(例えば、特許文献1等を参照。)。しかしながら、アクリルポリマー(重合によってアクリルポリマーとなるアクリル酸エステル等)とポリビニルアセタール(重合およびブチルアルデヒドとの反応によってポリビニルブチラールとなる酢酸ビニル等)との間では溶解度パラメータが2以上異なるため、両者を互いに効果的に混合させることが難しい。また、単にアクリルポリマーとポリビニルブチラールとを共重合させた場合(例えば、特許文献3を参照。)には、セラミックグリーンシートの機械的な強度を高めることはできるものの、アクリルポリマー鎖からなる相とポリビニルブチラール鎖からなる相とにマクロ的に相分離しやすくなる可能性がある。そのため、バインダ内において部分的に機械的な強度の強弱が生じることから、上記のような貫通孔の形成等の伴うクラックの発生および進行を効果的に抑制することは難しい。
【0010】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、機械的な強度を効果的に高くすることができるとともに、例えば貫通孔の形成等に伴う応力が作用したとしても、クラックの発生および進行を効果的に抑制することが可能なセラミックグリーンシート、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のセラミックグリーンシートは、セラミック粉末を有機樹脂からなるバインダで結合してなるセラミックグリーンシートであって、前記バインダは、ポリビニルアセタール鎖を主成分とする第1相と、ポリアルキレンオキサイド鎖を主成分とする第2相とを含み、前記第1相および前記第2相は、前記第2相の前記ポリアルキレンオキサイド鎖に前記第1相の前記ポリビニルアセタール鎖がブロック共重合したことによって、前記第1相が海であり、前記第2相が島である海島構造を形成して互いに結合していることを特徴とする。
【0012】
本発明のセラミックグリーンシートは、上記構成において、前記ポリビニルアセタール鎖がポリビニルブチラール鎖であり、前記ポリアルキレンオキサイド鎖がポリエチレンオキサイド鎖であることを特徴とする。
【0013】
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法は、有機樹脂からなるバインダおよびセラミック粉末を有機溶剤とともに混練してスラリーを作製した後、該スラリーをシート状に成形するとともに前記有機溶剤を除去して前記セラミック粉末を前記バインダで結合させるセラミックグリーンシートの製造方法において、
前記バインダを、複数のポリエチレンオキサイド鎖がアゾ基を介して結合してなるマクロアゾ化合物を準備する工程と、
前記マクロアゾ化合物の前記アゾ基を重合開始剤として前記ポリエチレンオキサイド鎖の端に酢酸ビニルをラジカル重合させた後に鹸化させて、前記ポリエチレンオキサイド鎖とポリビニルアルコール鎖との水溶性のブロック共重合体を作製する工程と、
有機カルボン酸を触媒として用いて前記ブロック共重合体の前記ポリビニルアルコール鎖に選択的にブチルアルデヒドを反応させて、前記ポリビニルアルコールをアセタール化してなるポリビニルブチラール鎖を主成分とする第1相を海とし、前記ポリエチレンオキサイド鎖を主成分とする第2相を島とする海島構造の共重合体とする工程とによって準備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセラミックグリーンシートによれば、柔軟なポリアルキレンオキサイド鎖と機械的な強度が高いポリビニルアセタール鎖との共重合体をバインダとして用いることによって、柔軟で貫通孔の打ち抜き時等にクラックが発生しにくく、しかも機械的な強度が高い(変形しにくく寸法安定性が高い)セラミックグリーンシートを提供することができる。すなわち、機械的な強度が比較的高いポリビニルアセタール鎖を主成分とする第1相からなる海の部分によってバインダとしての機械的な強度を高くすることができる。また、このポリビニルブチラール鎖を主成分とする海である第1相にクラックが発生したとしても、そのクラックの進行を、機械的な引張り時の伸び率が高く、柔軟なポリアルキレンオキサイド鎖を主成分とする島である第2相において抑制することができる。なお、ポリアルキレンオキサイド鎖はエーテル結合が動きやすいために柔軟な分子構造である。また、そのエーテル結合がセラミック粉末の金属酸化物(酸化アルミニウム等)の表面の水酸基と水素結合を形成するためセラミック粒子を良好に分散できる。したがって、機械的な強度を効果的に高くすることができるとともに、例えば貫通孔の形成等に伴う応力が作用したとしても、クラックの発生および進行を効果的に抑制することが可能なセラミックグリーンシートを提供することができる。
【0015】
また、本発明のセラミックグリーンシートにおいて、ポリビニルアセタール鎖がポリビニルブチラール鎖であり、ポリアルキレンオキサイド鎖がポリエチレンオキサイド鎖である場合には、より確実に、機械的な強度の向上とクラック等の抑制が可能なセラミックグリーンシートを提供することができる。
【0016】
すなわち、ポリビニルブチラール鎖は、トルエン等の有機溶剤への溶解性が高いために、有機溶剤およびセラミック粒子と混練してスラリーを作製すること(スラリー化)がより容易である。また、ガラス転移温度が50〜60℃程度と比較的低いため、セラミックグリーンシートにおけるバインダとして良好な可とう性を持っている。また、ポリエチレンオキサイド鎖は、ガラス転移温度が−50℃程度と低いために、島である第2相をより柔軟なものとすることができる。また、ポリエチレンオキサイド鎖は、ポリアルキレンオキサイド鎖の中でも極性が高く水素結合力が高いので、金属酸化物であるセラミック粒子に対する結合力が強く、セラミック粉末をより良好に分散させることもできる。
【0017】
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法によれば、上記工程によってバインダを準備し、複数のポリエチレンオキサイド鎖がアゾ基を介して結合してなるマクロアゾ化合物のアゾ基を重合開始剤として酢酸ビニルのラジカル重合を行なわせるとともに、その酢酸ビニルおよびけん化することによって、ポリエチレンオキサイド鎖とポリビニルアルコール鎖とのブロック共重合体を容易に作製することができる。また、有機カルボン酸を触媒として用いることによって、このブロック共重合体のポリビニルアルコール鎖に選択的にブチルアルデヒドを反応させることができる。そのため、ポリエチレンオキサイド鎖とポリビニルブチラール鎖とのブロック共重合体の作製が容易であり、ポリビニルブチラール鎖を主成分とする第1相を海とし、ポリエチレンオキサイド鎖を主成分とする第2相を島とする海島構造の共重合体としたバインダを生成させることが容易である。そして、この海島構造のバインダでセラミック粉末を結合させることができるため、機械的な強度が高く、かつクラック等の不具合も効果的に抑制することが可能なセラミックグリーンシートを製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のセラミックグリーンシートの実施の形態の一例について厚み方向の断面の一部を拡大して示す拡大断面図である。
【図2】図1におけるバインダの部分をさらに拡大して示す拡大断面図である。
【図3】本発明のセラミックグリーンシートを用いてセラミック基板を作製する際の一工程を示す断面図である。
【図4】(a)〜(c)は、それぞれ本発明のセラミックグリーンシートにおけるバインダの化学構造の一例を模式的に示す構造式である。
【図5】本発明のセラミックグリーンシートにおけるバインダの海島構造を模式的に示す構造式である。
【図6】(a)〜(c)は、それぞれ本発明のセラミックグリーンシートの製造方法においてバインダを準備する工程における化学反応を順に模式的に示す反応式である。
【図7】図6(c)における化学反応を詳しく説明するための模式的な反応式である。
【図8】本発明のセラミックグリーンシートの製造方法におけるスラリーをシート状に成形する工程の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のセラミックグリーンシートについて、添付の図面を参照しつつ説明する。
【0020】
図1は、本発明のセラミックグリーンシートの厚み方向の断面の一部を拡大して示す拡大断面図であり、図2は、図1におけるバインダの部分をさらに拡大して示す拡大断面図である。図1および図2において、1はセラミック粉末、2は第1相2aおよび第2相2bを含むバインダである。セラミック粉末1同士がバインダ2を介して結合されてセラミックグリーンシート3が形成されている。
【0021】
このセラミックグリーンシート3に対して、例えば図3に示すように、機械的な打ち抜き加工による貫通孔11の形成や導体ペースト12の印刷等の加工を施し、必要に応じて複数のセラミックグリーンシート3を積層した後に焼成して、バインダ2を分解除去させるとともにセラミック粉末1同士を焼結させれば、電子部品搭載用等のセラミック基板(図示せず)が作製される。なお、図3は、本発明のセラミックグリーンシート3を用いて電子部品搭載用等のセラミック基板を作製する際の一工程を示す断面図である。
【0022】
本発明のセラミックグリーンシート3においては、バインダ2が、ポリビニルアセタール鎖を主成分とする第1相2aと、ポリアルキレンオキサイド鎖を主成分とする第2相2bとを含み、第1相2aおよび第2相2bは、第2相2bのポリアルキレンオキサイド鎖に第1相2aのポリビニルアセタール鎖がブロック共重合したことによって、第1相2aが海であり、第2相2bが島である海島構造を形成して互いに結合している。
【0023】
すなわち、本発明のセラミックグリーンシート3におけるバインダ2は、機械的な強度が比較的高い部分と、比較的柔軟な部分とが海島構造のミクロ相分離構造となって結合しており、この構造によって、セラミックグリーンシート3としての機械的な強度の確保とクラック等の進行の抑制とを併せて可能としている。
【0024】
このようなセラミックグリーンシート3によれば、柔軟なポリアルキレンオキサイド鎖(第2相2bの主成分)と機械的な強度が高いポリビニルアセタール鎖(第1相2aの主成分)との共重合体をバインダ2として用いることによって、柔軟で貫通孔の打ち抜き時等にクラックが発生しにくく、しかも変形しにくく寸法安定性が高いセラミックグリーンシート3を提供することができる。すなわち、ポリビニルアセタール鎖を主成分とする海である第1相2aの部分によって、バインダ2としての機械的な強度を高くすることができる。また、このポリビニルアセタール鎖を主成分とする海の部分に、例えば図2に示すようなクラックCが発生したとしても、そのクラックCの進行を、機械的な伸び率が高く、柔軟なポリアルキレンオキサイド鎖からなる島である第2相2bにおいて抑制することができる。
【0025】
この場合、単に、別々に作製したポリビニルアセタール(例えばポリビニルブチラール)とポリアルキレンオキサイド(例えばポリエチレンオキサイド)とをバインダとして混合して用いると、両者がマクロ的に(例えば上下2層に)分離してしまうが、本発明のセラミックグリーンシート3においては、例えば図4(a)〜(c)にそれぞれ示すように、ポリビニルアセタール鎖PVAcとポリアルキレンオキサイド鎖PAOとの共重合体を形成していることから、図5に示すようにポリビニルアセタール鎖PVAcを主成分とする第1相2aおよびポリアルキレンオキサイド鎖PAOを主成分とする第2相2bからなる海島構造のバインダ2を用いることができるようにしている。なお、図4(a)〜(c)は、それぞれ本発明のセラミックグリーンシート3のバインダ2の化学構造を模式的に示す構造式である。また、図5は、本発明のセラミックグリーンシート3におけるバインダ2の海島構造を模式的に示す構造式である。図4おいてR2はアルキレン基を示し、Rはアルキル基またはHを示している。図5において図1および図2と同様の部位には同様の符号を付している。
【0026】
なお、ポリビニルアセタール鎖PVAcとポリアルキレンオキサイド鎖PAOとの共重合体については、図4(a)に示すように互いに1つずつが結合したものでも、図4(b)に示すようにいずれか一方が複数のものでも、図4(c)に示すように互いに複数ずつ結合したものでも、いずれでも構わない。
【0027】
バインダ2の第1相2aの主成分であるポリビニルアセタール鎖PVAcは、バインダ2の機械的な強度を高くするための部分であり、上記のように第2相2bの主成分であるポリアルキレンオキサイド鎖PAOにブロック共重合したものである。ポリビニルアセタール鎖PVAcとしては、例えば、ポリビニルホルマール鎖やポリビニルブチラール鎖を用いることができる。
【0028】
なお、ポリビニルアセタール鎖PVAcは、例えばポリビニルアルコール鎖にホルムアルデヒドやブチルアルデヒド等のアルデヒドを反応させてアセタール化させることによって形成することができる。この場合、ポリビニルアルコール鎖のアルコール(水酸基)部分の全部がアセタール化されるとは限らないため、バインダ2の第1相2aは、ポリビニルアセタールPVAcを主成分とし、他の構造の部分を若干含むものとなっている。
【0029】
また、ポリビニルアセタール鎖PVAcの数平均分子量は、例えばポリビニルアセタール鎖PVAcがポリビニルブチラール鎖であり、セラミック粉末1が酸化アルミニウムやホウケイ酸系ガラス等の場合であれば、50000〜1000000が好ましく、さらに、100000〜500000がより好ましい。ポリビニルアセタール鎖PVAcの数平均分子量が50000以上であ
ればバインダ2としての機械的な強度をより良好に確保することができ、1000000以下で
あれば、スラリーの粘度が高くなり過ぎることをより効果的に抑制して、より良好に(例えば厚みばらつきやセラミック粉末1の充填度のばらつきを抑制して)シート成形することがより容易になる。このようなポリビニルアセタール鎖PVAcの数平均分子量は、重合時に用いる重合開始剤量や連鎖移動剤量で制御することができる。
【0030】
また、バインダ2の第2相2bの主成分であるポリアルキレンオキサイド鎖PAOは、上記のようにバインダ2としての柔軟性を向上させて、セラミックグリーンシート3におけるクラックの進行等を抑制するための部分である。ポリアルキレンオキサイド鎖PAOとしては、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等を用いることができる。
【0031】
ポリアルキレンオキサイド鎖PAOは、対応するモノマーであるアルキレンオキサイドをカチオン重合させることによって作製され、例えばポリエチレンオキサイド鎖の場合で
あれば、エチレンオキサイドをカチオン重合させることによって作製されている。
【0032】
この場合、ポリアルキレンオキサイド鎖PAOの重合に必要な重合開始剤等が第2相2bに含まれるため、第2相2bは、ポリエチレンオキサイドPAOを主成分とし、重合開始剤の分解物等の他の成分を若干含むものとなっている。
【0033】
ポリアルキレンオキサイド鎖PAOの数平均分子量は、例えばポリエチレンオキサイドの場合に、セラミック粉末1が酸化アルミニウムやホウケイ酸系ガラス等の場合であれば、5000〜100000が好ましい。数平均分子量が5000以上であれば、ポリアルキレンオキサイド鎖PAOの鎖長が十分に長いのでバインダ2としての柔軟性を効果的に向上させる上で有利であり、100000以下であれば、第1相2aのポリビニルアセタール鎖PVAcとの共重合、および第1相2aを海とし、第2相2bを島とする海島構造の形成がより容易である。
【0034】
ポリアルキレンオキサイド鎖PAOの数平均分子量は、例えば、重合開始剤とモノマー(エチレングリコール等)との比率で制御できる。すなわち、重合開始剤の比率を大きくすれば数平均分子量を低くすることができ、比率を小さくすれば数平均分子量を高くすることができる。
【0035】
なお、セラミック粉末1としては、酸化アルミニウムや酸化ケイ素,酸化マグネシウム,酸化カルシウム,ホウケイ酸系ガラス,リチウム系ガラス,フェライト,フォルステライト,ステアタイト,ムライト,ジルコニア,チタン酸バリウム,窒化アルミニウム,窒化ケイ素等が用いられる。
【0036】
また、セラミックグリーンシート3中には、セラミック粉末1およびバインダ2以外に種々の添加物が添加されていてもよい。このような添加物としては、酸化チタン,酸化クロム,酸化鉄,酸化モリブデン等の着色材、リン酸トリブチルやリン酸トリフェニル等の燐酸エステル類、DOP(ジオクチルフタレート)やDBP(ジブチルフタレート)等のフタル酸エステル類等の可塑剤、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸,ポリビニルアミン等の分散剤が適宜用いられる。
【0037】
バインダ2における第1相2aと第2相2bとの割合は、用いるセラミック粉末1の材質や粒径,形状および貫通孔等の加工密度等の使用条件等に応じて適宜設定すればよい。例えば、セラミック粉末1の粒径が小さく、その表面積が大きい場合であれば、柔軟成分であるポリアルキレンオキサイド鎖PAOを主成分とする第2相2bの比率を40〜80質量%程度に設定すればよい。
【0038】
なお、バインダ2における島である第2相2bは、例えば粒径が0.1〜2μm程度の球
状や楕円球状等であり、海である第1相2aの内部にほぼ均一に分散している。
【0039】
また、島である第2相2bは、それぞれが独立したものであってもよく、互いに一部同士が結合したものであってもよい。複数の第2相2bが互いに一部同士が結合したものである場合には、例えば複数の第2相2bが網目状につながった構造となるため、セラミックグリーンシート3全体の機械的な強度の向上等においてより有効である。
【0040】
また、本発明のセラミックグリーンシート3において、ポリビニルアセタール鎖PVAcがポリビニルブチラール鎖であり、ポリアルキレンオキサイド鎖PAOがポリエチレンオキサイド鎖である場合には、より確実に、機械的な強度の向上とクラック等の抑制が可能なセラミックグリーンシート3を提供することができる。
【0041】
すなわち、ポリビニルブチラール鎖は、トルエン等の有機溶剤への溶解性が高いために、有機溶剤およびセラミック粒子と混練してスラリーを作製すること(スラリー化)がより容易である。また、ガラス転移温度が50〜60℃程度と比較的低いため、セラミックグリーンシート3におけるバインダ2としての良好な可とう性を持っている。また、ポリエチレンオキサイド鎖は、ガラス転移温度が−50℃程度と低いために、島である第2相2bをより柔軟なものとすることができる。また、ポリエチレンオキサイド鎖は、ポリアルキレンオキサイド鎖PAOの中でも極性が高く水素結合力が高いので、金属酸化物であるセラミック粒子1に対する結合力が強く、セラミック粉末1をより良好に分散させることもできる。
【0042】
(製造方法)
次に、本発明のセラミックグリーンシートの製造方法について、図面を参照しつつ説明する。図6(a)〜(c)は、それぞれ本発明のセラミックグリーンシートの製造方法においてバインダを準備する工程における化学反応を工程順に模式的に示す反応式である。
【0043】
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法は、有機樹脂からなるバインダおよびセラミック粉末を有機溶剤とともに混練してスラリーを作製した後、このスラリーをシート状に成形するとともにスラリー中の有機溶剤を除去して、例えば図1に示すようにセラミック粉末1をバインダ2で結合させる製造方法において、バインダ2を、以下の工程で準備するようにしたものである。
【0044】
なお、スラリーの成形は、例えば図8に示すようにドクターブレード法によって行なう。図8において、21は一定量のスラリー(符号なし)を保持するホッパー,22はローラ,23は帯状の紙である。ローラ22によって一定の速度で帯状の紙23を送り、ホッパー21からスラリーを一定の厚さで帯状の紙23上に塗布することによってスラリーがシート状に成形される。スラリーの塗布厚みは、ホッパー21におけるスラリーの出口に配置したドクターブレード24を上下に移動(スライド)させることによって調整する。なお、図8は、本発明のセラミックグリーンシートの製造方法における、スラリーをシート状に成形する工程の一例を示す断面図である。
【0045】
まず、図6(a)に示すように、複数のポリエチレンオキサイド鎖PEOがアゾ基を介して結合してなるマクロアゾ化合物MAを準備する。
【0046】
マクロアゾ化合物MAは、例えば、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチルとポリエチレンオキサイド鎖PEOの末端の水酸基とのエステル交換反応で合成することができる。
【0047】
この場合、結合する複数のポリエチレンオキサイド鎖PEOは、互いに同じ程度の分子量(数平均分子量等)のものであってもよく、異なる分子量のものであってもよい。
【0048】
次に、図6(b)に示すように、マクロアゾ化合物MAのアゾ基を重合開始剤としてポリエチレンオキサイド鎖PEOの端に酢酸ビニルVAcをラジカル重合させた後にけん化させて、ポリエチレンオキサイド鎖PEOとポリビニルアルコール鎖PVAとの水溶性のブロック共重合体を作製する。
【0049】
この工程は、前述したバインダ2の第2相2bとなるポリエチレンオキサイド鎖PEOに、上記バインダ2の第1相2aとなるポリビニルブチラール鎖PVBをブロック共重合させるための予備的な共重合およびけん化の工程である。すなわち、ポリエチレンオキサイド鎖PEOに直接ポリビニルブチラール鎖PVBを共重合させることができないため、まずこの工程でポリエチレンオキサイド鎖PEOにポリビニルアルコール鎖PVAをブロック共重合させ、次の工程でポリビニルアルコール鎖PVAをポリビニルブチラール鎖P
VBにアセタール化する。
【0050】
マクロアゾ化合物MAのアゾ基を上記重合開始剤として作用させるには、例えば、マクロアゾ化合物MAにモノマーである酢酸ビニルVAcを、マクロアゾ化合物MAが20質量%で酢酸ビニルVAcが80重量%の割合になるように添加し、窒素雰囲気下有機溶媒中で、80℃で8時間撹拌して、マクロアゾ化合物MAをアゾ基の部分で開裂させてラジカルを生じさせて酢酸ビニルVAcをラジカル重合させるようにすればよい。
【0051】
この場合、複数のポリエチレンオキサイド鎖PEOがアゾ基の部分で結合していたので、アゾ基の開裂にともなって各ポリエチレンオキサイド鎖PEOが個々に分離し、これらの端にそれぞれ酢酸ビニルVAcが順次ラジカル重合していくため、ポリエチレンオキサイド鎖PEOとポリ酢酸ビニル鎖(図示せず)とのブロック共重合体を容易に作製することができる。
【0052】
そして、このポリエチレンオキサイド鎖PEOとポリ酢酸ビニル鎖とのブロック共重合体をアルカリ性水溶液等でけん化することによって、ポリエチレンオキサイド鎖PEOとポリビニルアルコール鎖PVAとのブロック共重合体を容易に作製することができる。
【0053】
この場合、ポリビニルアルコール鎖PVAの部分は水に溶けにくいものの、ポリエチレンオキサイド鎖PEOが親水性(水溶性)であるため、全体として水溶性であり、けん化が進んだとしても、この重合体が沈殿するようなことは効果的に抑制される。そのため、ポリ酢酸ビニル鎖に対するけん化度をほぼ100%程度まで進めることができる。
【0054】
そして、図6(c)に示すように、有機カルボン酸を触媒として用いて上記水溶性のブロック共重合体のポリビニルアルコール鎖PVAに選択的にブチルアルデヒドBuAldを反応させて、ポリビニルアルコール鎖PVAをアセタール化してなるポリビニルブチラール鎖PVBを主成分とする第1相2aを海とし、ポリエチレンオキサイド鎖PEOを主成分とする第2相2bを島とする海島構造の共重合体とすることによって、バインダ2を準備することができる。
【0055】
この工程においては、水溶性のブロック共重合体のポリビニルアルコール鎖PVAに選択的にブチルアルデヒドBuAldを反応させるために、触媒として有機カルボン酸を用いることが重要である。これは、ポリエチレンオキサイド鎖PEOとポリビニルアルコール鎖PVAとのブロック共重合体が水溶性であり、水溶液中で反応性が高いため、例えばアセタール化の触媒として塩酸等の強酸を用いると、その触媒作用によって分子間の架橋等の副反応が生じ、溶媒に不溶となって、セラミック粒子1への分散力が低下してしまう。
【0056】
これに対し、例えば図7に示すように、触媒として、弱酸の有機カルボン酸であるリンゴ酸やクエン酸,コハク酸,酒石酸,酢酸等(図7に示す例においてはリンゴ酸)を用いれば、触媒作用が小さいため、最も反応(アセタール化)しやすい部分であるポリビニルアルコール鎖PVAの分子内の水酸基部分のみにおいて反応が進む。そのため、ポリビニルアルコール鎖PVAに対して選択的にアセタール化をさせることができる。なお、図7は、図6(c)における化学反応を詳しく説明するための模式的な反応式である。
【0057】
また、この場合も、ポリエチレンオキサイド鎖PEOが水溶性であるため、反応によって生じたポリエチレンオキサイド鎖PEOとポリビニルブチラール鎖PVBとの共重合体が上記弱酸を含む水溶液中に沈殿することを効果的に抑制することができ、アセタール化(ブチラール化)をほぼ100%程度(けん化する対象の水酸基に対して)進めることがで
きる。
【0058】
なお、バインダ2において、第2相2bの主成分であるポリエチレンオキサイド鎖PEOは、一般に直鎖構造であり、分子鎖自体は線状であるが、上記のようにブロック共重合体となっていることによって、表面を小さくする作用(表面張力等)に起因して、球状や楕円球状等の粒状にまとまった島となる。
【実施例】
【0059】
本発明のセラミックグリーンシートの1つの実施例について説明する。
【0060】
セラミック粉末として、平均粒径が1.7μmの酸化アルミニウム質焼結体の粉末を主成
分とし、これに約3質量%の酸化ケイ素および酸化カルシウムホウケイ酸ガラスの粉末を添加したものを用いた。セラミックグリーンシートは、このセラミック粉末を90質量%とバインダを10質量%含有するものとし、厚みを約100μmに調整してドクターブレード法
によって作製した。
【0061】
なお、以下に述べる実施例において、バインダの化学構造の解析はH−NMR(プロトン−核磁気共鳴)によって行ない、バインダを構成する海である第1相中における島である第2相の形状の確認は、セラミックグリーンシートを薄く切断して試料とし、これをオスニウム塩で着色した後にTEM(透過型電子顕微鏡)で観察することによって行なった。
【0062】
本実施例において、バインダを構成する第1相は、主成分であるポリビニルブチラール鎖を約99質量%含むものであり、数平均分子量が135000であった。
【0063】
なお、第1相には、ポリビニルアルコール鎖をブチラール化してポリビニルブチラール鎖とする工程において未反応の状態で残ったポリビニルアルコール鎖が約3モル%程度含まれていた。
【0064】
また、第2相は、主成分であるポリエチレンオキサイド鎖を約98モル%含んでいた。このポリエチレンオキサイド鎖の数平均分子量は、重合開始剤として2−メルカプトエチルアミンを0.1モル%程度、第2相となるエチレングリコールモノマーに添加させておくこ
とによって、980000に調整した。
【0065】
これらの第1相と第2相とによってバインダを作製し、このバインダを用いて、ドクターブレード法によってセラミックグリーンシートを作製した。
【0066】
バインダ中における第2相の割合(試料断面における面積の比率)(%)、および第2相の大きさ(試料の観察面における最大の差し渡し寸法)(μm)を表1の値に調整し、それぞれについて、そのバインダを用いて作製したセラミックグリーンシートの機械的強度および貫通孔形成時のクラックの有無を確認した。
【0067】
【表1】

【0068】
セラミックグリーンシートの機械的強度の確認は引張測定器によって行なった。また、貫通孔は、金属ピンを用いた機械的な打ち抜き加工によって形成し、開口径が100μm□
の四角形状のものを、隣り合うもの同士の間隔が100μmになるように、100×100の並び
で縦横に配列した。そして、クラックの有無は、着色試験による顕微鏡検査で行なった。
【0069】
試験の結果を表1に示す。なお、表1において※Vおよび※Aの欄は、それぞれ比較例のセラミックグリーンシートを示し、※Vはバインダとしてポリビニルブチラールのみを用いて作製したものであり、※Aはバインダとしてメチルメタクリレートのみを用いて作製したものである。
【0070】
表1に示す結果からわかるように、本発明のセラミックグリーンシートにおいては、いずれにおいても機械的な強度が高く、クラックの発生も効果的に抑制されていた。これに対し、比較例のセラミックグリーンシートにおいては、バインダとしてポリビニルブチラールのみを用いて作製した※Vでは機械的な強度が高いものの計測不可能な程度に多数のクラックが発生し、バインダとしてメチルメタクリレートのみを用いて作製した※Aではクラックの発生が抑制されているものの機械的な強度が低かった。なお、上記の条件でセラミックグリーンシートを作製した場合に、積層時等の変形を抑制するためには、約1MPa程度以上の機械的強度が必要である。以上のように、本発明のセラミックグリーンシートにおいては、機械的な強度が高く、クラックの発生も効果的に抑制することができることを確認することができた。
【符号の説明】
【0071】
1・・・セラミック粉末
2・・・バインダ
2a・・第1相
2b・・第2相
3・・・セラミックグリーンシート
PAO・・ポリアルキレンオキサイド鎖
PVAc・・ポリビニルアセタール鎖
MA・・マクロアゾ化合物
PEO・・ポリエチレンオキサイド鎖
VAc・・酢酸ビニル
PVA・・ポリビニルアルコール鎖
BuAld・・ブチルアルデヒド
PVB・・ポリビニルブチラール鎖

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粉末を有機樹脂からなるバインダで結合してなるセラミックグリーンシートであって、前記バインダは、ポリビニルアセタール鎖を主成分とする第1相と、ポリアルキレンオキサイド鎖を主成分とする第2相とを含み、
前記第1相および前記第2相は、前記第2相の前記ポリアルキレンオキサイド鎖に前記第1相の前記ポリビニルアセタール鎖がブロック共重合したことによって、前記第1相が海であり、前記第2相が島である海島構造を形成して互いに結合していることを特徴とするセラミックグリーンシート。
【請求項2】
前記ポリビニルアセタール鎖がポリビニルブチラール鎖であり、前記ポリアルキレンオキサイド鎖がポリエチレンオキサイド鎖であることを特徴とする請求項1記載のセラミックグリーンシート。
【請求項3】
有機樹脂からなるバインダおよびセラミック粉末を有機溶剤とともに混練してスラリーを作製した後、該スラリーをシート状に成形するとともに前記有機溶剤を除去して前記セラミック粉末を前記バインダで結合させるセラミックグリーンシートの製造方法において、前記バインダを、複数のポリエチレンオキサイド鎖がアゾ基を介して結合してなるマクロアゾ化合物を準備する工程と、
前記マクロアゾ化合物の前記アゾ基を重合開始剤として前記ポリエチレンオキサイド鎖の端に酢酸ビニルをラジカル重合させた後にけん化させて、前記ポリエチレンオキサイド鎖とポリビニルアルコール鎖との水溶性のブロック共重合体を作製する工程と、
有機カルボン酸を触媒として用いて前記ブロック共重合体の前記ポリビニルアルコール鎖に選択的にブチルアルデヒドを反応させて、前記ポリビニルアルコールをアセタール化してなるポリビニルブチラール鎖を主成分とする第1相を海とし、前記ポリエチレンオキサイド鎖を主成分とする第2相を島とする海島構造の共重合体とする工程とによって準備することを特徴とするセラミックグリーンシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−230943(P2011−230943A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101071(P2010−101071)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】