説明

セラミックグリーンシート成形時における不具合の改善方法

【課題】水系溶剤を用いても、クラック等の各種欠陥を発生させることなく300μmを超える厚膜体を成形することが可能なセラミックスラリー、およびセラミックグリーンシートの製造方法を提供すること。
【解決手段】セラミック微粉末と、水系ポリウレタン樹脂からなる有機バインダーと溶媒とからなる有機ビヒクルに、さらにはセルロース系誘導体を併用することで得られるセラミックスラリーを、ドクターブレード法によりキャリヤフィルム上に連続塗工し、セラミックグリーンシートを成形する。このセラミックグリーンシートに所望の物性を発現させたい場合には、各種可塑剤を併用することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明はセラミック微粉末、特に粒径1μm以下の微粉末と、有機バインダーと溶媒とからなる有機ビヒクルを含有してなるセラミックスラリーを用いて成形されたセラミックグリーンシートに関するものである。
【0002】
本発明では、その中でも溶媒として水を用いたものに特化しており、水系溶剤を用いてもクラック等の各種欠陥を発生させることなく300μmを超える厚膜体を成形することが可能なセラミックスラリーおよびセラミックグリーンシートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
セラミックスの成形方法として一般的に知られているのは、プレス成形や押出成形、泥しょう鋳込み成形、ドクターブレード法などがある。その中でもシート厚が200μm以下、特に100μm以下のセラミックグリーンシートを製造する際には、ドクターブレード法による成形が採用される。
【0004】
ドクターブレード法とは、原料粉末と有機バインダー類、分散剤、可塑剤、溶剤又は水からなるスラリーをドクターブレード装置を用いて一定の厚みにキャリヤフィルム上に連続塗工し、乾燥によって溶剤又は水を揮発・蒸発させ、グリーンシートを製造する方法である。
【0005】
この成形方法では、シート成形から乾燥、巻き取り、打抜き加工と連続的にセラミックグリーンシートを生産することが可能であり、生産効率向上の面から見ても有効な手法である。
【0006】
よって、現状厚膜体を成形する際には押出成形やプレス成形が採用されているが、ドクターブレード法で厚膜体が成形することが可能となれば、より生産効率の向上につながると考えられる。
【0007】
このドクターブレード法による成形において、原料として酸化ジルコニウムやチタン酸バリウムなどのセラミック微粉末を組成物とした水系セラミックグリーンシートを成形する際、バインダーとして主に水系アクリル酸およびメタクリル酸系共重合体や、酢酸ビニル系共重合体、水系ポリウレタン樹脂などの有機バインダーが用いられるのが一般的である。
【0008】
これらのバインダーを用いて薄膜を成形することは比較的容易である。例えば原料粉末100重量部に対して有機バインダーを有効成分で5〜15重量部程度配合することで、シート厚が300μm以下のセラミックグリーンシートを成形することが可能である。しかし、300μmを超える厚膜体を成形する場合、クラック等の不具合が発生しないシートを得ることは一般的に困難である。
【0009】
その中で、水系ポリウレタン樹脂をバインダーとして使用すると比較的良好なシートを得ることができるが、完全にクラックなどの不具合を防止することはやはり困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、このドクターブレード法による成形において、原料として酸化ジルコニウムやチタン酸バリウムなどのセラミック微粉末、特に粒径1μm以下の微粉末を組成物とした水系セラミックグリーンシートを成形するにあたり、水系溶剤を用いてもクラックなどの各種欠陥を発生させることなく、300μmを超える厚膜体を成形することが可能なセラミックスラリーおよびセラミックグリーンシートの製造方法、その成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、バインダーとして水系ポリウレタン樹脂を主剤とし、補助剤としてセルロース系誘導体を併用することを特徴とする。
【0012】
さらに前記セラミックグリーンシートに所望の物性およびハンドリング性を付与させたい場合には、各種可塑剤を併用することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のセラミックグリーンシートは、水系ポリウレタン樹脂からなる有機バインダーと溶媒とからなる有機ビヒクルに、さらにはセルロース系誘導体を併用することを前提条件とする。
【0014】
ここで採用している水系ポリウレタン樹脂とは、基本的にはポリウレタン骨格の主鎖中に、水中で安定した分散性を付与させるために必要な親水性基を導入する自己乳化型か、あるいは外部乳化剤を使用することにより分散させて得られるポリウレタンの水分散体であり、ハードセグメントとソフトセグメントから構成される熱可塑性ポリマーである。現在市場で見られる水性ポリウレタン樹脂のほとんどは前者の自己乳化型である。
【0015】
ポリウレタン樹脂は、その結合単位であるウレタン基同士の強固な水素結合により強く凝集したハードセグメントと、フレキシブルなソフトセグメントとのバランスにより、柔軟性と強靱性、弾性を兼ね備えている。よって、これらの配合バランスを変えることにより、目的とした強度や伸びを備えたセラミックグリーンシートを得ることができる。
【0016】
本発明においては、無機原料(成分(A))にバインダー主剤(成分(B))、バインダー補助剤(成分(C))、可塑剤(成分(D))、分散剤(成分E))、さらに溶媒(成分(F))などを配合し、ボールミル法などの手段により混合物をスラリー化し、セラミックグリーンシート用組成物を調製する。
【0017】
成分(A)の無機原料としては、酸化ジルコニウムやチタン酸バリウム等のセラミック微粉末が使用される。本発明においては、特に粒径1μm以下の微粉末を使用していることを特徴とする。
【0018】
成分(B)のバインダー主剤としては前述した水系ポリウレタン樹脂が使用される。その主骨格としてはポリカーボネート系、ポリエステル系、ポリエーテル系、あるいは、ポリカーボネート/エステル系、ポリカーボネート/エーテル系、エステル/エーテル系から選ばれる何れかの構造を持つことを特徴とする。原料粉末100重量部に対して有効成分で5〜15重量部程度配合するのが効果的であり、8〜13重量部添加がなお効果的である。
【0019】
成分(C)のバインダー補助剤としてはセルロース系誘導体が使用される。例としてメチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ヒドロキシエチルエチルセルロース(HEEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等が挙げられる。原料粉末100重量部に対して、0.05〜1.0重量部程度配合するのが効果的であり、0.1〜0.5重量部添加がなお効果的である。
【0020】
成分(D)の可塑剤としては、セラミックグリーンシートに要求される物性およびハンドリング性を付与するものであれば特に限定されず、例えばグリセリンやジエチレングリコール、プロピレングリコール等の高沸点多価アルコール類、ステアリン酸エステルやオレイン酸エステル等の脂肪酸エステル、フタル酸ジオクチルやフタル酸ジイソノニル、フタル酸ジ−n−ブチル等のフタル酸エステル、アジピン酸ジオクチルやアジピン酸ジイソノニル、アジピン酸イソデシル等のアジピン酸エステル、セバシン酸ジブチルやセバシン酸ジオクチル等のセバシン酸エステル、マレイン酸ジブチルやマレイン酸ジ−2−エチルヘキシル等のマレイン酸エステル、フマル酸ジブチル等のフマル酸エステルなどが例示される。バインダー樹脂に対する可塑剤の重量の割合は、1〜100%程度の間で有効であり、セラミックグリーンシートに要求する性能が発現するレベルで添加すれば良い。
【0021】
成分(E)の分散剤としては、成分(A)の無機原料の解膠や分散を良くするために、ポリアクリル酸やポリアクリル酸アンモニウム塩、縮合ナフタレンスルホン酸アンモニウム塩等のスルホン酸系共重合体の塩が主に用いられる。添加量は無機原料に対して有効成分で0.01〜1.0重量部程度が効果的であるが、無機原料の種類やシートに要求する物性等によって多様に変動するため、綿密な検討が必要である。さらに、アニオン性の分散剤を使用する際には、セラミックスラリー中のセラミック粉末から溶出した金属イオンと親水基が反応し、凝集や固化してしまう可能性があるため注意が必要である。
【0022】
成分(F)の溶媒としては、一般的にはアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、トルエンやキシレン等の芳香族類が用いられるが、揮発性が高く人体に有害であることから、近年では敬遠されがちである。そこで本発明においては溶媒として水を用いていることを特徴としており、完全な水系セラミックグリーンシートの成形を目的としている。
【0023】
セラミックグリーンシートの成形方法としては、上記に示したように無機原料とバインダー、可塑剤、分散剤、溶媒などを所定量配合し、ジルコニアボールやアルミナボール等の粉砕メディアを投入した後、ボールミルで粉砕混合を行うことでセラミックスラリーを得る。ボールミルによる粉砕混合は12時間以上費やすのが効果的であるが、無機原料の種類やシートに要求する物性等により変動するため、綿密な検討が必要である。
【0024】
このようにして得られたセラミックスラリーをドクターブレード法によってポリエチレンテレフタレート(PET)などの高分子フィルム上に連続塗工し、これを乾燥して溶媒を蒸発させた後、フィルムから剥離して所望のセラミックグリーンシートを得る。
【実施例】
【0025】
無機原料100重量部に対して表1および表2(抜粋して記載)で示されるバインダーを有効成分で10重量部、分散剤としてポリアクリル酸アンモニウム塩を有効成分で0.2重量部配合し、水分添加することで所定の粘度(2000〜4000mPa・s)に調整した。
【0026】
セルロース系誘導体添加によるクラック抑制効果を観察するために、スラリーを調製する段階でセルロース系誘導体を添加しないスラリーと添加するスラリー両方を作製した。
【0027】
φ10mmとφ5mmの粉砕メディアを所定量投入し、12時間ボールミル混練することでセラミックスラリーを得た。
【0028】
スラリーからメディアを除去し、消泡剤を添加した後、10分間真空撹拌脱泡した。
【0029】
このようにして得られたセラミックスラリーを、ドクターブレード法によって離型処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム上に連続塗工し、バッチ式熱風乾燥機にて90℃で1時間乾燥して溶媒を蒸発させた後、フィルムから剥離して厚み約300μmのセラミックグリーンシートを作製した。
【0030】
上記の方法で作成したセラミックグリーンシートに対してクラック発生の有無を評価し、クラック未発生を○、クラック発生を×とした。
【0031】
表1および表2で示されるように、セルロース系誘導体未添加では何れのバインダーを使用してもクラックが発生する。しかし、セルロース系誘導体を添加することにより効果的にクラックを抑制することができた。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックグリーンシートを成形するためのセラミックスラリーであって、水系ポリウレタン樹脂およびセルロース系誘導体を併用して調製されるセラミックスラリー。
【請求項2】
セラミックグリーンシートを成形するためのセラミックスラリーであって、請求項1に記載のセラミックスラリーに、さらに可塑剤を添加することで得られるセラミックスラリー。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセラミックスラリーを、ドクターブレード法を用いて成形することを特徴とするセラミックグリーンシートの製造方法およびその成形体。

【公開番号】特開2006−8490(P2006−8490A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217991(P2004−217991)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000115072)ユケン工業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】