説明

セラミックスラリー

【課題】セラミックス粉末の分散性、貯蔵安定性及び焼結性に優れたセラミックスラリーを提供する。
【解決手段】アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂を含有する有機バインダー、セラミックス粉末及び有機溶剤を含有するセラミックスラリーであって、前記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂は、アミノ基を有する構成単位、水酸基を有する構成単位、アセチル基を有する構成単位及びアセタール基を有する構成単位を有し、下記式(5)により算出される前記有機バインダーにおける前記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量(A)が1〜20モル%であるセラミックスラリー。


式(5)中、Bは、アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂におけるアミノ基を有する構成単位の割合(モル%)、Cは、アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の重量(g)、Dは、有機バインダーの重量(g)を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス粉末の分散性、貯蔵安定性及び焼結性に優れたセラミックスラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール樹脂は、強靭性、造膜性、顔料等の無機又は有機粉体の分散性、塗布面への接着性等に優れていることから、例えば、積層セラミックコンデンサを構成するセラミックグリーンシート及び導電ペースト、インク、塗料、焼き付け用エナメル、ウォッシュプライマー等の用途に利用されている。
【0003】
なかでも、積層セラミックコンデンサは、一般に次のような工程を経て製造される。
まず、ポリビニルブチラール樹脂等のバインダー樹脂にセラミックス粉末を加え、均一に混合することでスラリー組成物を得る。得られたスラリー組成物を、離型処理した支持体上に塗工し、加熱等により溶剤等の揮発分を溜去した後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを得る。次いで、得られたセラミックグリーンシート上に、ポリビニルブチラール樹脂等をバインダー樹脂として含有する導電ペーストを塗工した後、これを複数枚積み重ね、加熱圧着して積層体を得る。更に、得られた積層体の脱脂処理を行った後、焼成して得られるセラミック焼成物の端面に外部電極を焼結することにより、積層セラミックコンデンサを得る。
【0004】
近年では、積層セラミックコンデンサに更なる高容量化が求められており、より一層の多層化及び薄膜化が検討されている。そのため、セラミックグリーンシートにおいても薄膜化が進んでおり、用いられるセラミックス粉末の粒子径も小さくなっている。しかしながら、粒子径の小さなセラミックス粉末を用いる場合には、スラリー組成物中でセラミックス粉末が充分に分散しなかったり、分散に長時間を要したりすることが問題である。
【0005】
一般に、スラリー組成物中のセラミックス粉末の分散性を確保する方法としては、特許文献1に記載されているように、分散剤を添加する方法が用いられる。しかしながら、分散剤を添加する方法では、バインダー樹脂と分散剤との相溶性が悪いと逆にセラミックス粉末の分散性を悪化させたり、長期保存時に分散性が低下したりすることが問題である。また、分散剤はその性質上、分解性が悪く、焼結性に悪影響を与える場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−325971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、セラミックス粉末の分散性、貯蔵安定性及び焼結性に優れたセラミックスラリーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂を含有する有機バインダー、セラミックス粉末及び有機溶剤を含有するセラミックスラリーであって、前記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂は、下記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位、下記式(2)で表される水酸基を有する構成単位、下記式(3)で表されるアセチル基を有する構成単位及び下記式(4)で表されるアセタール基を有する構成単位を有し、下記式(5)により算出される前記有機バインダーにおける前記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量が1〜20モル%であるセラミックスラリーである。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

式(4)中、Rは、水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。
【0013】
【数1】

式(5)中、Aは、有機バインダーにおけるアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量(モル%)を表し、Bは、アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂における式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位の割合(モル%)を表し、Cは、アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の重量(g)を表し、Dは、有機バインダーの重量(g)を表す。
以下、本発明を詳述する。
【0014】
本発明者は、有機バインダー、セラミックス粉末及び有機溶剤を含有するセラミックスラリーにおいて、上記式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される構成単位を有するアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂を含有し、かつ、所定の式により算出されるアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量が所定範囲内となる有機バインダーを用いることにより、セラミックス粉末の分散性に優れ、長期保存時にもセラミックス粉末の分散性が低下することのない貯蔵安定性に優れたセラミックスラリーが得られることを見出した。本発明者は、該セラミックスラリーは、セラミックス粉末の分散性を高めるために焼結性に悪影響を及ぼす分散剤等を添加する必要がないことから、焼結性にも優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
本発明のセラミックスラリーは、アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂を含有する有機バインダー、セラミックス粉末及び有機溶剤を含有する。
上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂は、下記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位を有する。
【0016】
【化5】

【0017】
上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂が上記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位を有することにより、本発明のセラミックスラリーは、セラミックス粉末の分散性に優れ、長期保存時にもセラミックス粉末の分散性が低下することがなく貯蔵安定性にも優れる。また、本発明のセラミックスラリーは、セラミックス粉末の分散性を高めるために焼結性に悪影響を及ぼす分散剤等を添加する必要がないことから、焼結性にも優れる。
【0018】
上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂における上記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位の割合は特に限定されず、上記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位の割合を調整することにより、後述する範囲の式(5)により算出されるアミノ基量を達成することができるが、上記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位の割合の好ましい下限は1モル%、好ましい上限は30モル%である。
【0019】
上記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位の割合が1モル%未満であると、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂におけるアミノ基量が低下するため、得られるセラミックスラリーにおいてセラミックス粉末の分散性又は貯蔵安定性が低下することがある。上記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位の割合が30モル%を超えると、後述するような原料となるアミノ変性ポリビニルアルコールにおいてもアミノ基量が多くなり、アミノ基がアセタール化反応を阻害してアミノ変性ポリビニルアルコールのアセタール化反応を行うことが困難となることがあり、また、上記有機バインダーの焼結時にアミノ基が残留し、焼結性が低下することがある。
上記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位の割合は、より好ましい下限が2モル%、より好ましい上限が25モル%である。
【0020】
上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂は、下記式(2)で表される水酸基を有する構成単位を有する。
【0021】
【化6】

【0022】
上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂における上記式(2)で表される水酸基を有する構成単位の割合は、好ましい下限が17モル%、好ましい上限が49.4モル%である。上記式(2)で表される水酸基を有する構成単位の割合が17モル%未満であると、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の有機溶剤に対する溶解性が低下して、セラミックスラリーを安定して得ることが困難となったり、得られるセラミックスラリーの粘度安定性が低下したりすることがある。上記式(2)で表される水酸基を有する構成単位の割合が49.4モル%を超えると、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の吸湿性が高くなって安定性が低下したり、有機溶剤に対する溶解性が低下したりするため、セラミックスラリーを安定して得ることが困難となることがある。
上記式(2)で表される水酸基を有する構成単位の割合は、より好ましい下限が20モル%、より好ましい上限が36モル%である。
【0023】
上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂は、下記式(3)で表されるアセチル基を有する構成単位を有する。
【0024】
【化7】

【0025】
上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂における上記式(3)で表されるアセチル基を有する構成単位の割合は、好ましい下限が0.1モル%、好ましい上限が15モル%である。上記式(3)で表されるアセチル基を有する構成単位の割合が上記範囲を外れると、後述するような原料となるアミノ変性ポリビニルアルコールの有機溶剤に対する溶解性が低下し、アミノ変性ポリビニルアルコールのアセタール化反応を行うことが困難となることがある。
【0026】
上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂は、下記式(4)で表されるアセタール基を有する構成単位を有する。
【0027】
【化8】

式(4)中、Rは、水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。
なかでも、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の有機溶剤に対する溶解性の観点から、上記式(4)中のRは、メチル基又はプロピル基であることが好ましい。
【0028】
上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂における上記式(4)で表されるアセタール基を有する構成単位の割合は、好ましい下限が50モル%、好ましい上限が80モル%である。上記式(4)で表されるアセタール基を有する構成単位の割合が50モル%未満であると、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の吸湿性が高くなって安定性が低下したり、有機溶剤に対する溶解性が低下したりするため、セラミックスラリーを安定して得ることが困難となることがある。上記式(4)で表されるアセタール基を有する構成単位の割合が80モル%を超えると、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の製造自体が困難となることがあり、仮に製造できたとしても、得られるアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の有機溶剤に対する溶解性が低下することがある。
上記式(4)で表されるアセタール基を有する構成単位の割合は、より好ましい下限が60モル%、より好ましい上限が78モル%である。
【0029】
上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂は、平均重合度の好ましい下限が300、好ましい上限が2500である。上記平均重合度が300未満であると、セラミックスラリーを用いて得られるセラミックグリーンシートの支持体からの剥離性が低下したり、機械的強度が低下したりすることがある。上記平均重合度が2500を超えると、得られるセラミックスラリーの粘度安定性が低下することがある。
上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度のより好ましい下限は400、より好ましい上限は2200である。
なお、本明細書において、アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度は、原料であるアミノ変性ポリビニルアルコールの平均重合度から求めることができる。また、本明細書において、アミノ変性ポリビニルアルコールの平均重合度とは、混合物であるアミノ変性ポリビニルアルコールにおけるそれぞれのアミノ変性ポリビニルアルコールの重合度から求めた平均値を意味する。
【0030】
上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂は、アルデヒドにより、アミノ変性ポリビニルアルコールをアセタール化することによって得ることができる。また、上記アセタール化反応は、従来公知の方法で行うことができる。
上記アミノ変性ポリビニルアルコールを製造する方法として、例えば、ビニルアセトアミド及び/又はメチルビニルアセトアミドと酢酸ビニルとを共重合させた後、ケン化する方法、アリルアミンと酢酸ビニルとを共重合させた後、ケン化する方法等が挙げられる。
【0031】
上記アルデヒドは特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。なかでも、アセトアルデヒド又はブチルアルデヒドを単独で用いるか、又は、アセトアルデヒド及びブチルアルデヒドを併用することが好ましい。
【0032】
上記有機バインダーは、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂を含有していれば、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂単独であってもよく、従来公知のポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂等の他のバインダー樹脂を含有していてもよい。
上記有機バインダーにおける上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の含有量は特に限定されず、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の含有量を調整することにより、後述する範囲の式(5)により算出されるアミノ基量を達成することができるが、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の含有量は30重量%以上であることが好ましい。
【0033】
上記有機バインダーにおける上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の含有量が30重量%未満であると、得られるセラミックスラリーにおいてセラミックス粉末の分散性又は貯蔵安定性が低下することがある。
上記有機バインダーにおける上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の含有量は、50重量%以上であることがより好ましい。
【0034】
本発明のセラミックスラリーにおいては、下記式(5)により算出される上記有機バインダーにおける上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量が1〜20モル%である。
【0035】
【数2】

式(5)中、Aは、有機バインダーにおけるアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量(モル%)を表し、Bは、アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂における式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位の割合(モル%)を表し、Cは、アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の重量(g)を表し、Dは、有機バインダーの重量(g)を表す。
【0036】
上記式(5)により算出される上記有機バインダーにおける上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量が上記範囲内であることにより、本発明のセラミックスラリーは、セラミックス粉末の分散性に優れ、長期保存時にもセラミックス粉末の分散性が低下することがなく貯蔵安定性にも優れる。また、本発明のセラミックスラリーは、セラミックス粉末の分散性を高めるために焼結性に悪影響を及ぼす分散剤等を添加する必要がないことから、焼結性にも優れる。
【0037】
なお、上述したように本発明のセラミックスラリーは焼結性に悪影響を及ぼす分散剤を含有しなくてもセラミックス粉末の分散性に優れるが、仮に分散剤を含有する場合には、上記式(5)中の有機バインダーの重量(g)には分散剤の重量も含む。
【0038】
上記式(5)により算出される上記有機バインダーにおける上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量が1モル%未満であると、得られるセラミックスラリーにおいてセラミックス粉末の分散性又は貯蔵安定性が低下する。上記式(5)により算出される上記有機バインダーにおける上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量が20モル%を超えると、上記有機バインダーの焼結時にアミノ基が残留し、焼結性が低下する。
上記式(5)により算出される上記有機バインダーにおける上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量は、好ましい下限が2モル%、好ましい上限が15モル%である。
【0039】
上記セラミックス粉末は特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、マグネシア、サイアロン、スピネムルライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等からなる粉末が挙げられる。これらのセラミックス粉末は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0040】
上記セラミックス粉末の配合量は特に限定されないが、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する好ましい下限は100重量部、好ましい上限は10000重量部である。上記セラミックス粉末の配合量が100重量部未満であると、セラミックスラリーを用いて得られるセラミックグリーンシートにおいて、上記セラミックス粉末の密度が低くなり、機械的強度が低下することがある。上記セラミックス粉末の配合量が10000重量部を超えると、得られるセラミックスラリーにおいて、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の分散性能が充分に発揮されないことがある。
上記セラミックス粉末の配合量は、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対するより好ましい下限が200重量部、より好ましい上限が5000重量部である。
【0041】
上記有機溶剤は特に限定されず、一般的にセラミックスラリーに用いられる有機溶剤を使用することができる。
上記有機溶剤として、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、ブタン酸メチル、ブタン酸エチル、ブタン酸ブチル、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ペンタン酸ブチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸ブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酪酸2−エチルヘキシル等のエステル類、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオールアセテート等のテルピネオール及びその誘導体等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0042】
上記有機溶剤の配合量は特に限定されないが、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する好ましい下限は100重量部、好ましい上限は10000重量部である。上記有機溶剤の配合量が100重量部未満であると、得られるセラミックスラリーの粘度が高くなり、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の分散性能が阻害されることがある。上記有機溶剤の配合量が10000重量部を超えると、得られるセラミックスラリーにおいて、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の分散性能が充分に発揮されないことがある。
上記有機溶剤の配合量は、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対するより好ましい下限が200重量部、より好ましい上限が5000重量部である。
【0043】
本発明のセラミックスラリーは、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、潤滑剤、帯電防止剤等を適宜含有してもよい。
【0044】
本発明のセラミックスラリーを製造する方法は特に限定されないが、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂を用い、上記有機溶剤中に上記セラミックス粉末を分散させて1次分散セラミックスラリーを調製する工程と、上記1次分散セラミックスラリーに、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂を含有する有機バインダーを添加して混合する工程とを有する方法が好ましい。
このような方法によって得られることにより、セラミックスラリーにおけるセラミックス粉末の分散性が更に向上し、より優れた貯蔵安定性を実現することができる。また、焼結性に悪影響を及ぼす分散剤等を添加する必要がないことから、得られるセラミックスラリーは焼結性にも優れる。なお、このような方法によってセラミックスラリーを得る場合には、上記式(5)中のアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂及び有機バインダーには、1次分散セラミックスラリーを調製するために用いたアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂も含む。
【0045】
上記1次分散セラミックスラリーを調製する際、及び、上記1次分散セラミックスラリーに、上記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂を含有する有機バインダーを添加して混合する際の混合方法として、例えば、ボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の混合機を用いて混合する方法等が挙げられる。
【0046】
本発明のセラミックスラリーは、セラミックス粉末の分散性、貯蔵安定性及び焼結性に優れる。このような本発明のセラミックスラリーの用途は特に限定されないが、例えば、本発明のセラミックスラリーを剥離性の支持体上に塗布した後、加熱して乾燥することにより、セラミックグリーンシートを得ることができる。
上記剥離性の支持体上にセラミックスラリーを塗布する方法は特に限定されず、例えば、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター等の従来公知の方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、セラミックス粉末の分散性、貯蔵安定性及び焼結性に優れたセラミックスラリーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0049】
(実施例1)
(アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の作製)
上記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位の割合が4モル%のアミノ変性ポリビニルアルコール100gを純水1000gに加え、90℃の温度で約2時間攪拌し、溶解させた。この溶液を40℃に冷却した後、濃度35重量%の塩酸90g及びn−ブチルアルデヒド90gを添加し、液温を10℃に下げて、この温度を保持しながらアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。その後、液温を40℃、3時間保持して反応を完了させ、中和、水洗及び乾燥を行うことにより、アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
得られたアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂は、上記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位の割合が4.0モル%、上記式(2)で表される水酸基を有する構成単位の割合が29モル%、上記式(3)で表されるアセチル基を有する構成単位の割合が0.5モル%、及び、上記式(4)で表されるアセタール基を有する構成単位(式(4)におけるRはプロピル基)の割合が66.5モル%であった。
【0050】
(セラミックスラリーの作製)
セラミックス粉末としてチタン酸バリウム(BT−03、平均粒径0.3μm、堺化学工業社製)70重量部、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤、及び、上記で得られたアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂1重量部をボールミルで48時間混合し、1次分散セラミックスラリーを得た。得られた1次分散セラミックスラリーに、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に溶解した、上記で得られたアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部を加え、ボールミルで12時間混合することにより、セラミックスラリーを得た。
得られたセラミックスラリーにおいて、上記式(5)により算出される有機バインダーにおけるアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量は4.0モル%であった。
【0051】
(実施例2)
(アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の作製)
上記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位の割合が4モル%のアミノ変性ポリビニルアルコールの代わりに、上記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位の割合が1モル%のアミノ変性ポリビニルアルコールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
得られたアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂は、上記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位の割合が1.0モル%、上記式(2)で表される水酸基を有する構成単位の割合が30.3モル%、上記式(3)で表されるアセチル基を有する構成単位の割合が0.8モル%、及び、上記式(4)で表されるアセタール基を有する構成単位(式(4)におけるRはプロピル基)の割合が67.9モル%であった。
【0052】
(セラミックスラリーの作製)
得られたアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様にして、セラミックスラリーを得た。
得られたセラミックスラリーにおいて、上記式(5)により算出される有機バインダーにおけるアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量は1.0モル%であった。
【0053】
(実施例3)
(アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の作製)
上記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位の割合が4モル%のアミノ変性ポリビニルアルコールの代わりに、上記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位の割合が30モル%のアミノ変性ポリビニルアルコールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
得られたアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂は、上記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位の割合が30モル%、上記式(2)で表される水酸基を有する構成単位の割合が25.6モル%、上記式(3)で表されるアセチル基を有する構成単位の割合が0.4モル%、及び、上記式(4)で表されるアセタール基を有する構成単位(式(4)におけるRはプロピル基)の割合が45.8モル%であった。
【0054】
(未変性ポリビニルアセタール樹脂の作製)
未変性のポリビニルアルコール100gを純水1000gに加え、90℃の温度で約2時間攪拌し、溶解させた。この溶液を40℃に冷却した後、濃度35重量%の塩酸90g及びn−ブチルアルデヒド90gを添加し、液温を10℃に下げて、この温度を保持しながらアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。その後、液温を40℃、3時間保持して反応を完了させ、中和、水洗及び乾燥を行うことにより、未変性ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
得られた未変性ポリビニルアセタール樹脂は、上記式(2)で表される水酸基を有する構成単位の割合が30.2モル%、上記式(3)で表されるアセチル基を有する構成単位の割合が1.5モル%、上記式(4)で表されるアセタール基を有する構成単位(式(4)におけるRはプロピル基)の割合が68.3モル%であった。
【0055】
(セラミックスラリーの作製)
セラミックス粉末としてチタン酸バリウム(BT−03、平均粒径0.3μm、堺化学工業社製)70重量部、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤、及び、上記で得られたアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂1重量部をボールミルで48時間混合し、1次分散セラミックスラリーを得た。得られた1次分散セラミックスラリーに、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に溶解した、上記で得られたアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂5重量部、及び、上記で得られた未変性ポリビニルアセタール樹脂3重量を加え、ボールミルで12時間混合することにより、セラミックスラリーを得た。
得られたセラミックスラリーにおいて、上記式(5)により算出される有機バインダーにおけるアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量は20.0モル%であった。
【0056】
(比較例1)
(セラミックスラリーの作製)
セラミックス粉末としてチタン酸バリウム(BT−03、平均粒径0.3μm、堺化学工業社製)70重量部、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤、及び、実施例3で得られた未変性ポリビニルアセタール樹脂1重量部をボールミルで48時間混合し、1次分散セラミックスラリーを得た。得られた1次分散セラミックスラリーに、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に溶解した、実施例3で得られた未変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部を加え、ボールミルで12時間混合することにより、セラミックスラリーを得た。
得られたセラミックスラリーにおいて、上記式(5)により算出される有機バインダーにおけるアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量は0.0モル%であった。
【0057】
(比較例2)
(セラミックスラリーの作製)
セラミックス粉末としてチタン酸バリウム(BT−03、平均粒径0.3μm、堺化学工業社製)70重量部、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤、及び、分散剤(ED−216、楠本化成社製)1重量部をボールミルで48時間混合し、1次分散セラミックスラリーを得た。得られた1次分散セラミックスラリーに、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に溶解した、実施例3で得られた未変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部を加え、ボールミルで12時間混合することにより、セラミックスラリーを得た。
得られたセラミックスラリーにおいて、上記式(5)により算出される有機バインダーにおけるアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量は0.0モル%であった。
【0058】
(比較例3)
(セラミックスラリーの作製)
セラミックス粉末としてチタン酸バリウム(BT−03、平均粒径0.3μm、堺化学工業社製)70重量部、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤、及び、実施例2で得られたアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂1重量部をボールミルで48時間混合し、1次分散セラミックスラリーを得た。得られた1次分散セラミックスラリーに、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に溶解した、実施例2で得られたアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂3.5重量部、及び、実施例3で得られた未変性ポリビニルアセタール樹脂4.5重量部を加え、ボールミルで12時間混合することにより、セラミックスラリーを得た。
得られたセラミックスラリーにおいて、上記式(5)により算出される有機バインダーにおけるアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量は0.5モル%であった。
【0059】
(比較例4)
(セラミックスラリーの作製)
セラミックス粉末としてチタン酸バリウム(BT−03、平均粒径0.3μm、堺化学工業社製)70重量部、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤、及び、実施例3で得られたアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂1重量部をボールミルで48時間混合し、1次分散セラミックスラリーを得た。得られた1次分散セラミックスラリーに、トルエン30重量部とエタノール30重量部との混合溶剤に溶解した、実施例3で得られたアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部を加え、ボールミルで12時間混合することにより、セラミックスラリーを得た。
得られたセラミックスラリーにおいて、上記式(5)により算出される有機バインダーにおけるアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量は30.0モル%であった。
【0060】
<評価>
実施例及び比較例で得られたセラミックスラリー等について以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0061】
(1)分散性(表面粗さ測定)
得られたセラミックスラリーを、コーターを用いて乾燥後の厚みが2μmとなるように離型処理したPETフィルム上に塗工した後、70℃で5分加熱して乾燥することにより、セラミックグリーンシートを作製した。得られたセラミックグリーンシートについて、JIS B 0601(1994)に基づいて表面粗さ(Ra)を測定し、下記の基準で評価した。なお、一般に、セラミックスラリーの分散性が高いほど、セラミックグリーンシートの表面粗さは小さくなる。
○ 表面粗さRaが0.1以下であった。
× 表面粗さRaが0.1を超えていた。
【0062】
(2)焼結性
セラミックスラリーを作製する段階で、チタン酸バリウムを除いた溶液を作製し、この溶液を用いて、厚さ20μmの樹脂シートを作製した。作製した樹脂シートから0.020gの測定サンプルを採取し、空気100mL/分の雰囲気下で、室温(20℃)から500℃まで昇温速度10℃/分で昇温させ、500℃での分解率(重量%)を測定し、以下の基準で評価した。
○ 分解率が85重量%以上であった。
× 分解率が85重量%未満であった。
【0063】
(3)貯蔵安定性
得られたセラミックスラリーを23℃で24時間静置した後、静置のセラミックスラリーを以下の基準で評価した。
○ 軽く攪拌するだけでセラミックス粉末が充分に分散し、塗工可能なスラリー状態に戻った。
× 沈殿したセラミックス粉末が完全に分離し、再分散できなかった。
【0064】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、セラミックス粉末の分散性、貯蔵安定性及び焼結性に優れたセラミックスラリーを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂を含有する有機バインダー、セラミックス粉末及び有機溶剤を含有するセラミックスラリーであって、
前記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂は、下記式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位、下記式(2)で表される水酸基を有する構成単位、下記式(3)で表されるアセチル基を有する構成単位及び下記式(4)で表されるアセタール基を有する構成単位を有し、
下記式(5)により算出される前記有機バインダーにおける前記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量が1〜20モル%である
ことを特徴とするセラミックスラリー。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

式(4)中、Rは、水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。
【数1】

式(5)中、Aは、有機バインダーにおけるアミノ変性ポリビニルアセタール樹脂由来のアミノ基量(モル%)を表し、Bは、アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂における式(1)で表されるアミノ基を有する構成単位の割合(モル%)を表し、Cは、アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂の重量(g)を表し、Dは、有機バインダーの重量(g)を表す。
【請求項2】
アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂を用い、有機溶剤中にセラミックス粉末を分散させて1次分散セラミックスラリーを調製する工程と、
前記1次分散セラミックスラリーに、前記アミノ変性ポリビニルアセタール樹脂を含有する有機バインダーを添加して混合する工程とを有する方法によって得られる
ことを特徴とする請求項1記載のセラミックスラリー。

【公開番号】特開2012−72010(P2012−72010A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217503(P2010−217503)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】