説明

セラミックスローラ及びその製造方法

【課題】放置下における強度の低下、及び熱伝導率の悪化を抑制することができるセラミックスローラ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】帯電像を用いる電子写真装置の熱定着装置で使用されるセラミックスローラであって、金属製の軸芯と、該軸芯の外周側に形成される多孔質セラミックス製の円筒体層からなり、該円筒体層の表面及び内部に疎水性基を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸芯と、該軸芯の外周側に形成される円筒体層を備えるセラミックスローラ及びその製造方法に関し、特に帯電像を用いる電子複写機やプリンタなどの電子写真装置に搭載される熱定着装置に使用されるセラミックスローラ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静電複写機、レーザープリンタなどの電子写真装置は、暗中で一様に帯電した感光体表面に光学像を投影すると、感光体表面には光学像に対応した静電気潜像が形成され、その表面に現像剤である帯電トナーを散布して静電気的に付着させて画像を現像し、この感光体表面に前記トナーの帯電とは反対の極性に帯電させた印刷紙の表面を重ねて該トナーを紙面に転写し、この紙面上のトナーを熱定着ローラにより加圧下、加熱、溶融して紙面上に熱定着することにより、画像を複写させるものである。
【0003】
熱定着ローラにより紙面上のトナーを熱定着する熱定着装置部分としては、通常、熱定着ローラと加圧ローラの2つのローラで構成されたもの、あるいは、熱定着ローラと加圧ローラと搬送ローラの3つのローラで構成され、熱定着ローラまたは加圧ローラのうち何れか一方と、搬送ローラとの間に巻装される無端ベルトを有するものが知られている。すなわち、印刷紙は、その裏面側から加圧ローラ又は無端ベルトを介した加圧ローラで支持され、表面側から加熱された熱定着ローラにより加圧、加熱させて紙面上のトナーが融着して熱定着される。熱定着ローラの温度は、一般的に150〜200℃程度であるが、ローラ昇温時には、オーバーシュートにより、一時的にそれ以上の温度に達する場合もある。
【0004】
熱定着ローラにより紙面上のトナーを融着させるために、融着可能な高温に加熱されるが、熱定着操作が行われる際、常に熱定着温度より遥かに低温の印刷紙や加圧ローラ、あるいは無端ベルトと接触し、回転するため、その瞬間に、多量の熱エネルギーが奪い取られて冷却される。このため、熱定着ローラは、このような接触による冷却を見込んで、より高い温度に加熱しておく必要があり、消費電力が増大してしまう。従って、加圧ローラには、熱伝導率の小さな性質、すなわち、断熱性が要求される。また、加圧ローラは、高温の熱定着ローラと接触するため、耐熱性及び強度も要求される。このような加圧ローラとして、軸芯と、該軸芯の外周に形成されるケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスの円筒体層からなるセラミックスローラが提案されている(特開2006−171170号公報)。このセラミックスローラは低熱伝導率でかつ十分な強度を有するものである。
【特許文献1】特開2006−171170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、珪酸カルシウムをマトリックスとする円筒体層を有するセラミックスローラは、通常の保管状態において、強度が低下したり、熱伝導率が悪化したりするという問題があった。特に、湿度の高い環境下にあっては、この問題が特に顕著化する傾向があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、放置下における強度の低下、及び熱伝導率の悪化を抑制することができるセラミックスローラ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、帯電像を用いる電子写真装置の熱定着装置で使用されるセラミックスローラにおいて、(1)珪酸カルシウムをマトリクスとする断熱層(円筒体層)は、表面及び空隙の壁面に多くのOH基を有するため、親水性を示し、大気中の水分が吸着しやすい特性があること、(2)大気中の水分を吸着すると、強度低下や熱伝導率の悪化が起こること、(3)水分の吸着は円筒体層の表面に疎水性基を形成することで、大きく抑制できることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、帯電像を用いる電子写真装置の熱定着装置で使用されるセラミックスローラであって、軸芯と、該軸芯の外周側に形成されるセラミックス製の円筒体層からなり、該円筒体層の表面及び内部に疎水性基を有することを特徴とするセラミックスローラを提供するものである。
【0009】
また、本発明は、帯電像を用いる電子写真装置の熱定着装置で使用されるセラミックスローラであって、軸芯と、該軸芯の外周側に形成される多孔質セラミックス製の円筒体層からなり、該円筒体層は撥水処理されたものであることを特徴とするセラミックスローラを提供するものである。
【0010】
また、本発明は、耐熱性繊維を含む原材料、撥水処理剤及び水を混合してスラリー又は水系混練物を調製するI工程と、スラリー又は水系混練物から成形体を得るII工程と、軸芯周り円筒体層を形成するIII工程と、を有することを特徴とするセラミックスローラの製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、耐熱性繊維を含む原材料及び水を混合してスラリー又は水系混練物を調製するIV工程と、スラリー又は水系混練物から成形体を得るV工程と、軸芯周りに円筒体層を形成するVI工程と、該V工程で得られる成形体又は該VI工程で得られる円筒体層を、撥水処理剤を含有する含浸液に浸漬するVII工程と、該VII工程で得られた撥水処理された成型体又は円筒体層を焼付け処理するVIII工程と、を有することを特徴とするセラミックスローラの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセラミックスローラによれば、該円筒体層の表面及び内部に疎水性基を形成したため、大気中の水分の吸着を抑制することができる。このため、25〜40℃、50〜90%RHにおける円筒体層の強度低下や熱伝導率の悪化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のセラミックスローラは、中心から外側に向けて順に、軸芯及びセラミックス製の円筒体層からなる。なお、本発明において、セラミックスとは非金属無機材料を主成分とする材料を言う。本発明において、軸芯としては、使用に耐える剛性を有する金属又は硬質樹脂であれば、特に制限されず、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮、炭素鋼、ポリカーボネート、硬質ナイロンなどが挙げられる。
【0014】
本発明において、軸芯の外周側に形成される多孔質セラミックス製の円筒体層は、疎水性基を有する円筒体層か又は撥水処理された円筒体層であって、撥水性を有し且つ低熱伝導率及び低熱容量で表される高断熱性、高耐熱性、高強度のものである。円筒体層の材質は、ケイ酸カルシウムを主成分とし、耐熱性繊維を補強繊維とするセラミックスが挙げられ、この中、ケイ酸カルシウムを主成分とし、耐熱性繊維を補強繊維とするセラミックスが高強度で、熱伝導率が小さい点で好ましい。円筒体層は、単一の円筒体、ブロック状の円筒体を軸芯の長手方向に積層した積層物、リング状のシート片を軸芯の長手方向に積層した積層物のいずれであってもよい。
【0015】
ケイ酸カルシウムを主成分とし、耐熱性繊維を補強繊維とするセラミックスにおいて、ケイ酸カルシウムとしては、ケイ酸質原料とカルシウム原料を水の存在下で水熱反応せしめて生成した化合物が好適である。ケイ酸カルシウムの結晶としては、例えばゾノトライト結晶、トバモライト結晶、不定形C−S−H結晶等が挙げられ、特にゾノトライト結晶からなる成形体は軽量で比強度が非常に大きく、耐熱性と断熱性に優れているため好ましい。ゾノトライト結晶は特開2007−272051号公報に記載されたものと同様であり、集合し且つ結合して二次粒子を形成しているが、本発明のセラミックスローラにおける円筒体層中では扁平状として存在している。
【0016】
ケイ酸カルシウムと併用される耐熱性繊維は、補強繊維として使用されるものである。耐熱性繊維には耐熱性無機繊維と耐熱性有機繊維がある。耐熱性無機繊維としては、例えば、アルミナシリカ繊維、アルミナ繊維、クリストタイル、カーボンファイバー、ガラス繊維、スラグウール、シリカ繊維、ジルコニア繊維、石膏ウイスカー、炭化珪素繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、高珪酸ファイバー、溶融シリカファイバー及びロックウール、ワラストナイトなどが挙げられ、耐熱性有機繊維としては、例えば、アラミド繊維などが挙げられる。なお、これらの耐熱性繊維は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
円筒体層は、ケイ酸カルシウム及び耐熱性繊維以外に、補強材、充填材、軽量骨材等が必要に応じて任意の配合割合で添加されていてもよい。補強材としては、セメント、石膏等が挙げられ、充填材としては、タルク、珪藻土、フライアッシュ等が挙げられ、軽量骨材としては、マイクロシリカ、パーライト、シラスバルーン、ガラスバルーン等が挙げられる。また、その配合量としては、例えば、ゾノトライト結晶の二次粒子100質量部に対して、耐熱性繊維5〜95質量部、好ましくは20〜60質量部、補強材0〜36質量部、好ましくは7〜15質量部、充填材0〜30質量部、軽量骨材0〜30質量部である。
【0018】
本発明のセラミックスローラにおいて、円筒体層の表面及び内部に形成される疎水性基としては、円筒体層に存在するOH基と反応性シリコーンとの反応で生じた基が挙げられる。「表面」は円筒体層の見かけの表面(外周面)を言い、「内部」とは上記表面以外の多孔質の空隙の壁面を言う。また、撥水処理された円筒体層は後述する内添型製造方法や後含浸製造方法により得ることができる。疎水性基を円筒体層に有するか、又は撥水処理された円筒体層を有することで、大気中の水分の吸着を抑制することができ、25〜40℃、50〜90%RHにおける円筒体層の強度低下や熱伝導率の悪化を抑制することができる。円筒体層に形成される疎水性基はFT-IRなどの分析手段により、公知の分析条件で確認することができる。例えば、本発明において、疎水性基が存在している状態は、FT-IR分析により、2900cm−1付近にCH伸縮振動による吸収が得られることで確認できる。また、撥水処理された円筒体層であれば、撥水処理前の分析結果と撥水処理後の分析結果を比較し、3600〜3750cm−1付近のOH基吸収帯が減少していることと、2900cm−1付近にCH伸縮振動による吸収が得られていることで確認できる。なお、3600〜3750cm−1付近のOH基吸収帯は消滅していることがより好ましい。
【0019】
本発明のセラミックスローラは、中心から外側に向けて順に、軸芯及びセラミックスの円筒体層からなる。軸芯への円筒体層の固定方法としては、特に制限されず、軸芯に装着された円筒体層を両側のフランジから所定の押圧力で挟持する固定方法、軸芯に円筒体層を圧入により固定する方法、軸芯に円筒体層を接着剤で固定する方法、及びこれらの固定手段を組合わせた方法が挙げられる。
【0020】
本発明のセラミックスローラにおいて、円筒体層のセラミックスの嵩密度は、通常0.05〜0.7g/cmであり、好ましくは0.25〜0.5g/cmである。また、円筒体層のセラミックスの熱容量は、0.04〜0.65J/K・cm、好ましくは0.04〜0.4J/K・cmである。また、円筒体層のセラミックスの熱伝導率は、0.01〜0.15W/m・Kであり、好ましくは0.06〜0.12W/m・Kである。
【0021】
熱容量(KJ/cm)は、試料を粉砕し、そのうちの50gを、高温試料投下型比熱測定装置を用いて比熱を測定し、嵩密度の値から算出することができる。また、円筒体層のセラミックスの熱伝導率(W/m・K)は、別途、セラミックスローラとした際の密度と同じ密度となる幅100mm、厚さ20mm、長さ50mmの平面板状の試験体における表面を、軸芯と円筒体層からなるセラミックスローラの熱伝導率(W/m・K)は、セラミックスローラの円筒体層表面を、JIS R2618 非定常熱線法に準じて、迅速熱伝導率計QTM−500(京都電子工業株式会社製)により、室温で測定したものである。なお、上記の円筒体層は異なった嵩密度や熱容量のセラミックス層から構成されていてもよい。たとえば、外周面に近い部分はその内部より比較的低い熱容量のセラミックス層とすることもできる。
【0022】
本発明のセラミックスローラにおいて、円筒体層の外周には、更にPFA樹脂のフイルムなどのフッ素樹脂層やシリコーンゴム層、ガラス層などの無機質の表面層を被覆することができる。これにより、表面を平滑にすることができ、摺動性を高めると共に、離型性を付与することができる。
【0023】
次に、本発明のセラミックスローラの製造方法について説明する。本発明のセラミックスローラの製造方法としては、円筒体層を形成する途中で撥水処理剤を添加する内添型の製造方法及び円筒体層を形成した後、円筒体層の表面に疎水性基を形成する後含浸方法が挙げられる。
【0024】
内添型の製造方法としては、耐熱性繊維を含む原材料、撥水処理剤及び水を混合してスラリーを調製するI工程と、スラリーから円筒状の成形体を得るII工程と、軸芯周り円筒体層を形成するIII工程と、を有する方法が挙げられる。
【0025】
I工程において、耐熱性繊維及びケイ酸カルシウムを含むスラリー又は水系混練物を用いることができる。この中、耐熱性繊維及びゾノトライト結晶の二次粒子を含むスラリーが、高強度で且つ熱伝導率が小さい点で好ましい。スラリー又は水系混練物中には、任意成分として、補強材、充填材、軽量骨材等が添加されていてもよい。こうした任意成分を添加することにより、さらに強度の高いケイ酸カルシウム結晶含有成形体を得ることができる。スラリー又は水系混練物に配合されるケイ酸カルシウム及び耐熱性繊維、あるいは任意成分は、本発明のセラミックスローラの説明で記載されたものと同様のものが挙げられる。スラリー中又は水系混練物中のこれらの配合量は、乾燥又は焼付け後の円筒体層において、例えばゾノトライト結晶の二次粒子100質量部に対して、耐熱性繊維5〜95質量部、好ましくは20〜60質量部、補強材0〜36質量部、好ましくは7〜15質量部、充填材0〜30質量部、軽量骨材0〜30質量部となるような配合である。
【0026】
I工程で使用する撥水処理剤としては、反応性シリコーンオイルが挙げられる。反応性シリコーンオイルとしては、アルコキシ系シリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、及びアミノ変性シリコーンオイルなどの有機変性シリコーンオイルなどが挙げられ、この中、内添用反応性シリコーンオイルとしてアルコキシ系シリコーンオイルが好適である。内添用反応性シリコーンオイルの具体例としては、「BY16−606」(東レダウコーニング社製)、「BY16−846」(東レダウコーニング社製)が例示される。アルコキシ系シリコーンオイルは、Si−OR基を有するため、スラリー中の水と反応しSi−OH基に置換した後、ケイ酸カルシウムの固体表面OH基などと加水分解反応により結合し、結合後にメチル基が固体の表面方向に配向するため、高い撥水性を示すようになり、好適である。スラリー中のこれらの配合量は、乾燥又は焼付け後の円筒体層の表面が撥水性を示すのに十分な量であればよく、適宜選択されるものであるが、概ね円筒体層を形成する原材料(固形分)100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜7重量部、より好ましくは1.0〜5.0重量部である。
【0027】
II工程は、スラリー又は水系混練物から成形体を得る工程である。スラリーから成形体を得る方法は、湿式プレス法、吸引脱水法あるいは抄造法など公知の方法が適用できる。水系混練物から成形体を得る方法は、押出成形法など公知の方法が適用できる。これらの方法により得られた成形体はリング状のシート片、板状、四角柱状、円柱状などであり、必要に応じて円筒状に加工される。円筒状への加工は、軸芯に装着後に行ってもよい。上記方法により得られた成形体は、公知の技術により乾燥(焼付け)することができる。乾燥条件は、通常50〜250℃で1〜24時間、好ましくは100〜220℃で3〜10時間かけるのが好ましい。この乾燥により、撥水処理剤は円筒状の成形体のOH基と反応して、円筒状の成形体の表面及び空隙の内壁に疎水性基を形成することになる。これにより、円筒体層は大気中の水分を吸着することがなく、25〜40℃、50〜90%RHにおける円筒体層の強度低下や熱伝導率の悪化を抑制することができる。
【0028】
III工程は、軸芯周り円筒体層を形成する工程である。軸芯周りへ円筒体層を形成する方法としては、圧入又は接着剤を使用して接着する方法、フランジによる圧縮により固定する方法が挙げられる。圧入は、円筒体層の内径の円周の長さ当たりの挿入荷重が0〜80N/cmであるような圧入であってもよい。この程度の圧入はほとんど挿入抵抗が発生しない。この場合、軸芯と円筒体層の固定は、軸芯のフランジ面と円筒体層の端面との摩擦抵抗で行うことになる。その他の圧入方法及び接着剤による固定は公知の方法で行えばよい。
【0029】
後含浸方法としては、耐熱性繊維を含む原材料及び水を混合してスラリー又は水系混練物を調製するIV工程と、スラリー又は水系混練物から成形体を得るV工程と、軸芯周りに円筒体層を形成するVI工程と、該V工程で得られる成形体又は該VI工程で得られる円筒体層を、撥水処理剤を含有する含浸液に浸漬するVII工程と、該VII工程で得られた撥水処理された成型体又は円筒体層を焼付け処理するVIII工程と、を有する方法が挙げられる。
【0030】
IV工程は、前記I工程において撥水処理剤を含まない以外は、同様であり、その説明を省略する。また、V工程及びVI工程は、前記II工程及び前記III工程と同様であり、その説明を省略する。
【0031】
VII工程は、V工程で得られる成形体又はVI工程で得られる円筒体層を、撥水処理剤を含有する含浸液に浸漬する工程であり、この中、VI工程で得られる円筒体層を撥水処理剤を含有する含浸液に浸漬することが、製造効率がよい点で好ましい。含浸液は、希釈剤と撥水処理剤を含む液である。撥水処理剤は前記内添型の製造方法で使用する撥水処理剤と同様のものを使用することができるが、後含浸用の反応性シリコーンオイルが好適である。後含浸用の反応性シリコーンオイルの具体例としては、「KF99」(信越化学社製)、「SH1107」(東レダウコーニング社製)が挙げられる。特にメチルハイドロジェンシリコーンオイルは、分子中にSi−H基を有するため、特に反応性が高く、固体表面のOH基などと比較的低温で反応し、反応後にメチル基が固体の表面方向に配向するため、高い撥水性を示すようになり、好適である。
【0032】
希釈剤は撥水処理剤と反応せず、乾燥工程で揮発するものであれば特に制限されず、例えばヘキサン、アセトン、キシレンなどが挙げられる。含浸液中の撥水処理剤の希釈倍率としては、含浸効率や乾燥効率などを考慮して適宜されるが、概ね5〜20倍である。含浸方法は含浸液に被処理材を所定時間、全浸没させる方法など公知の方法が適用できる。含浸液には反応性シリコーンオイルの加水分解を促進させる公知の酸触媒が配合されていてもよい。
【0033】
VIII工程は、撥水処理された成形体又は円筒体層を焼付け処理する工程である。VIII工程を実施することにより、撥水処理剤は成形体又は円筒体層のOH基と反応して、成形体又は円筒体層の表面及び内部に疎水性基を形成することになる。これにより、円筒体層は大気中の水分を吸着することがなく、25〜40℃、50〜90%RHにおける円筒体層の強度低下や熱伝導率の悪化を抑制することができる。なお、撥水処理された成形体が円筒体であれば、そのまま軸芯に取り付けられ、円筒体以外の形状であれば、円筒体に加工した後、軸芯に取り付けられる。
【0034】
VIII工程の前処理として、1時間以上の風乾処理を行なうことが、反応性シリコーンオイルの加水分解が確実に進行する点で好ましい。
【0035】
反応性シリコーンオイルとケイ酸カルシウム表面OH基の反応において、先ず、反応性シリコーンオイルは酸触媒の存在下又は不存在下において加水分解する。次いで加水分解生成物の水酸基とケイ酸カルシウム表面OH基とが脱水縮合して、円筒体又は円筒体層の表面に疎水性基が形成される。
【0036】
上記の製造方法において、軸芯に成形片を装着した後、円筒体層の外周に、更にPFA樹脂のフイルムなどのフッ素樹脂層、シリコーンゴム層、ガラス層などの表面層を、公知の方法により被覆することができる。
【0037】
セラミックスローラの円筒体層にOH基が存在していると、大気中の水分を吸着して、円筒体層を構成する粒子間に吸着水が存在することになる。この場合、粒子間に働くファンデアワールス力(F=−A×D/(12×Z)(式中、F;ファンデアワールス力、A;物質固有値、D;換算粒子径、Z;粒子間表面距離)における粒子間距離Zが大となり、Fが低下する。従って、例えばケイ酸カルシウムを主成分とするセラミックスローラを高湿度環境下に放置すると、強度が低下するようになる。これに対して、本発明のセラミックスローラは、円筒体層に疎水性基を形成したため、大気中の水分の吸着を抑制することができる。このため、高湿度環境下に放置されても円筒体層の強度低下や熱伝導率の悪化を招くことがなく、熱導率も小さく断熱性に優れるため、電子複写機やプリンタなどの電子写真装置に搭載される熱定着装置に使用される断熱性が要求されるセラミックスローラに使用することができる。すなわち、本発明のセラミックスローラが使用できる用途としては、種々な名称で呼ばれている、例えば、加圧ローラ、搬送ローラ、補助ローラ、ドライブローラ、剥離ローラ、テンションローラ、駆動ローラ、ガイドローラ等が挙げられる。
【0038】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例1】
【0039】
(ゾノトライト結晶の生成)
石灰質原料として生石灰を24倍量の90℃の熱水に投入し、160rpmで回転する回転翼で攪拌しながら30分間消化して石灰乳を得た。次いで、得られた石灰乳にケイ酸質原料としての珪石粉末(伊豆珪石特粉D)をCaO/SiOモル比が1.0になるように添加し、同時に、生石灰と珪石粉末との合計量の30倍量の水を加えて均一なスラリーとし、オートクレーブ中、120rpmで攪拌しながら、容器内圧力16kg/cmで4時間水熱反応させた。得られたスラリー中の固形物は実質的にゾノトライト結晶からなり、一次粒子である針状結晶が多数集結した直径30〜130μmの球状の二次粒子を形成していた。
【0040】
(スラリーの調製)
上記スラリーゾノトライト結晶の2次粒子70重量部、5重量部のポルトランドセメント(普通ポルトランドセメント、宇部三菱セメント社製)、25重量部の繊維径6mmのガラス繊維(CS6J−888S、日東紡社製)及びメチルアルキルエトキシシリルアルキルシロキサン「BY16−606」(東レダウコーニング社製)2重量部を均一に混合してスラリーを得た。そして該スラリーを網目の底部を有する吸引成形用型枠に流し込み、吸引脱水を行いながら約40kgf/cmの圧力で湿式プレスしたのち、100℃、5時間の乾燥(焼付け)を行い、密度0.35g/cm、厚さ1.4mmのシート状の断熱ペーパーを得た。
【0041】
(セラミックスローラの製造)
得られたシート状の断熱ペーパーから外径39.5mm、内径22.5mmのリング状のシート片を都合267枚、打ち抜き加工により得た。打ち抜き加工は、二重円筒刃を有する打ち抜き機を使用して、20個採り/1回で5回の打ち抜きを実施したものである。次いで、軸径22.0mmステンレス製の軸芯に、リング状のシート片を次々に挿入して、267枚の分割成形片が繋がったものを得た。267枚の分割成形片は両側からフランジで圧縮固定してセラミックスローラを得た。得られたセラミックスローラについて吸水率と熱伝導率を測定した。また、圧縮強度はシート状の断熱ペーパーを5cm×5cmに切断したものを測定した。吸水率、圧縮強度及び熱伝導率の結果を表1に示す。吸水率、圧縮強度及び熱伝導率は、いずれも25℃×50%RHと40℃×90%RHの2つの条件下、定常状態となる1週間後のものを測定した。なお、圧縮強度及び熱伝導率については測定の都合上、予め110℃で乾燥したため、110℃で乾燥した直後の結果も併載した。なお、リング状のシート片の円周面について、FT-IR分析を行なったところ、3600〜3750cm−1付近のOH基吸収帯が消滅し、2900cm−1付近にCH伸縮振動による吸収が得られ疎水性基の存在を確認できた。
【実施例2】
【0042】
メチルアルキルエトキシシリルアルキルシロキサン2重量部に代えて、メチルアルキルエトキシシリルアルキルシロキサン4重量部とした以外は、実施例1と同様の方法で行なった。その結果を表1に示す。
【実施例3】
【0043】
(スラリーの調製工程)
実施例1で得られたゾノトライト結晶の2次粒子70重量部に対して、5重量部のポルトランドセメント(普通ポルトランドセメント、宇部三菱セメント社製)、10重量部のガラス繊維(CS6J−888S、日東紡社製)、15重量部の細径ガラス繊維(Qファイバ、Manville社製)、0.05重量部の凝集剤(サンフロックN−OP、三洋化成工業社製)を添加し、均一に混合して抄造用スラリーを得た。
【0044】
(セラミックスローラの製造)
スラリーの調製工程で得られたスラリーを長網抄造機にて抄造し、紙を形成したあと、約4kgf/cmの圧力でプレスし、乾燥を行い、密度0.35g/cm、厚さ1.4mmのシート状の断熱ペーパーを得た。得られたシート状の断熱ペーパーから外径39.5mm、内径22.5mmのリング状のシート片を都合267枚、打ち抜き加工により得た。打ち抜き加工は、二重円筒刃を有する打ち抜き機を使用して、20個採り/1回で14回の打ち抜きを実施した。次いで、軸径22.0mmステンレス製の軸芯に、リング状のシート片を次々に挿入して、267枚の分割成形片が繋がったものを得た。267枚の分割成形片は両側からフランジで圧縮固定してセラミックスローラを得た。267枚の分割成形片(円筒体層)は、合計重量50g、体積125cm、密度0.4g/cm、真密度2.3g/cm、空隙率82.6%、空隙容積103cmであった。
【0045】
(含浸工程)
比重1.0のメチルハイドロジェンシリコーンオイル(「KF99」(信越化学社製))を比重0.68のヘキサン(関東化学社製特級)に入れ、希釈倍率20倍で希釈した密度0.7g/cmの含浸液を製造した。上記方法で得られたセラミックスローラをこの含浸液に2時間全浸没させた。2時間の含浸により含浸液には泡の発生が無くなっていた。断熱層と含浸液の合計量は118g、含浸量は68gで含浸率は96%であった。
【0046】
含浸液を含浸したセラミックスローラを1時間以上風乾して、ヘキサンを揮発させると共に、メチルハイドロジェンシリコーンオイルを加水分解させた。次いで、180℃で5時間の焼付けを行なった。処理後のセラミックスローラの重量は54g、密度は0.43g/cmであった。得られたセラミックスローラについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【実施例4】
【0047】
希釈倍率20倍に代えて、5倍とした以外は、実施例3と同様の方法で行った。その結果を表1に示す。なお、実施例3及び4のセラミックスローラの円周面について、FT-IR分析を行なったところ、3600〜3750cm−1付近のOH基吸収帯が消滅し、2900cm−1付近にCH伸縮振動による吸収が得られ疎水性基の存在を確認できた。
【0048】
比較例1
含浸工程を省略した以外は、実施例3と同様の実施例1と同様の方法で行った。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
従来例を示す比較例1は、25℃×50%RHの環境に放置した場合、2.4%の吸湿が起こっており、また40℃×90%RHでは6.4%の吸湿が起こっていた。実施例1〜4は比較例1と比べて、25℃×50%RH(相対湿度)及び40℃×90%RH(相対湿度)における吸水率は少なく、圧縮強度は高く、熱伝導率は小さいものであった。比較例1の場合、高湿度条件において、圧縮強度3.6のものが2.9MPaにまで低下していた。
【0051】
なお、実施例1で得られたセラミックスローラは、更に円筒体層の周面に厚さ30μmのPFAチューブをシリコーンゴム接着剤で接着して、外径40mm、長さ300mmのセラミックスローラとした。そして、ハロゲンランプ内蔵の加熱ローラに、このセラミックスローラを圧接回転加熱する装置を使用し、加熱ローラの加熱温度200℃、回転数100rpm、総荷重30kgfの条件下、100時間稼動させ、円筒体層の破壊の状況を観察したところ、異常は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電像を用いる電子写真装置の熱定着装置で使用されるセラミックスローラであって、軸芯と、該軸芯の外周側に形成される多孔質セラミックス製の円筒体層からなり、該円筒体層の表面及び内部に疎水性基を有することを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項2】
帯電像を用いる電子写真装置の熱定着装置で使用されるセラミックスローラであって、軸芯と、該軸芯の外周側に形成される多孔質セラミックス製の円筒体層からなり、該円筒体層は撥水処理されたものであることを特徴とするセラミックスローラ。
【請求項3】
前記円筒体層は、ケイ酸カルシウムを含むセラミックスであることを特徴とする請求項1又は2記載のセラミックスローラ。
【請求項4】
耐熱性繊維を含む原材料、撥水処理剤及び水を混合してスラリー又は水系混練物を調製するI工程と、
スラリー又は水系混練物から成形体を得るII工程と、
軸芯周り円筒体層を形成するIII工程と、を有することを特徴とするセラミックスローラの製造方法。
【請求項5】
耐熱性繊維を含む原材料及び水を混合してスラリー又は水系混練物を調製するIV工程と、
スラリー又は水系混練物から成形体を得るV工程と、
軸芯周りに円筒体層を形成するVI工程と、
該V工程で得られる成形体又は該VI工程で得られる円筒体層を、撥水処理剤を含有する含浸液に浸漬するVII工程と、
該VII工程で得られた撥水処理された成型体又は円筒体層を焼付け処理するVIII工程と、を有することを特徴とするセラミックスローラの製造方法。
【請求項6】
前記撥水処理剤が反応性シリコーンオイルであることを特徴とする請求項4又は5記載のセラミックスローラの製造方法。

【公開番号】特開2009−300503(P2009−300503A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151589(P2008−151589)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】