説明

セラミックス材と金属材との接合体の製造方法

【課題】セラミックス材と金属材とを簡易な手法で接合し、その接合体において、熱膨張差による接合界面の剥離を防止し、接合強度を改善する
【解決手段】セラミックス材と金属材とが接合されてなる接合体の製造方法であって、クロムを10wt%以上40wt%以下含有する鉄基合金もしくはニッケル基合金からなる三次元網目状の金属多孔質材を、前記セラミックス材および金属材の間に介在させるように積層し、積層方向に加圧しながら加熱する加熱処理を行うことにより、前記金属多孔質材を気孔率が60%以上95%以下である中間層として前記セラミックス材および前記金属材に接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張率の大きく異なるセラミックス材と金属材との接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス材料と金属材料とを接合する技術は、古くから研究開発されてきた。アルミナ、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素などのセラミックス材料の熱膨張率が3×10-6〜8×10-6/Kであるのに対し、鉄、ステンレス鋼、ニッケル、銅などの金属材料の膨張率は10×10-6〜20×10-6/Kと大きい。このため、使用環境の温度変化や接合処理における加熱などにより、膨張率の差が原因となって接合面で熱応力が生じ、剥離などが生じてしまうことが、セラミックス材料と金属材料との接合における主な課題であった。
【0003】
たとえば、静電チャック部材の製造方法において、炭化タングステン、炭化チタンなどのセラミックス材料とステンレス鋼などの金属材料とをろう付接合する際に、弾性率の小さい銅、亜鉛、アルミニウムなどの金属を中間層として配置し、中間層の変形により熱応力を緩和する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献2には、セラミックスヒータの製造における窒化物系セラミックスと金属部材との接合において、応力を緩和する中間層として、気孔率5〜20%のNiを配置することが提案されている。また、特許文献3には、セラミックスと金属との接合の中間層として、網目状多孔金属を使用することが示されている。
【0005】
セラミックス材と金属材との接合においては、その接合界面の形成状態が、接合強度に大きく影響する。一般的に、セラミックスの表面をメタライズ処理した後、拡散接合やろう付といった手法で金属と接合することにより、強固な接合が得られる。
【0006】
メタライズ処理の手法としては、蒸着法、Mo−Mn法、Ti等の活性金属を含むろう材(たとえばAg−Cu−Ti系)でセラミックス表面を処理する方法などが知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−52015号公報
【特許文献2】特開平11−329676号公報
【特許文献3】特公平2−54222号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「セラミックスの接着と接合技術」(シーエムシー出版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、半導体装置や航空機部品として使用されるセラミックスと金属との接合体部品には、接合の健全性、高温雰囲気でも耐えうる耐環境性とともに、より一層の接合強度が求められている。
【0010】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に示されるような中間層は、銅、亜鉛、アルミニウム、ニッケルといった純金属である。このため、耐食性や耐酸化性といった観点から、腐食性のガス環境下では使用することができず、真空中や不活性雰囲気での使用に限定され、また、航空機部材に求められる1000℃付近での高温環境下でも使用することができない。
【0011】
また、特許文献3に記載されているように中間層として金属の網目状多孔体を使用する場合、網目状多孔体は一般に密度が低いため、セラミックス材や金属材に接触して接合されている部分の面積は大きくても全体の10%程度であり、このため接合強度が低い。これに対し、密度が高い網目状多孔体を使用した場合、セラミックスと金属の熱膨張差を緩和することができず、接合面で剥離が生じるおそれがある。
【0012】
さらに、接合部をミクロな視野から考えると、セラミックスと金属との接合強度を上げるには、メタライズなどの手法が必要であるが、その処理は多くの工程が必要であり、多大な処理費用を要することが問題となっている。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、セラミックス材と金属材とを簡易な手法で接合し、その接合体において、熱膨張差による接合界面の剥離を防止し、接合強度を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、セラミックス材と金属材とが接合されてなる接合体の製造方法であって、クロムを10wt%以上40wt%以下含有する鉄基合金もしくはニッケル基合金からなる三次元網目状の金属多孔質材を、前記セラミックス材および金属材の間に介在させるように積層し、積層方向に加圧しながら加熱する加熱処理を行うことにより、前記金属多孔質材を気孔率が60%以上95%以下である中間層として前記セラミックス材および前記金属材に接合する、セラミックス材と金属材との接合体の製造方法である。
【0015】
この製造方法によれば、加熱処理時に、比表面積が大きい金属多孔質材からクロム成分が蒸発してセラミックス材の表面を被覆するので、PVDやCVDなどの処理を必要とせず、強固な接合が可能となる。この製造方法によって、たとえば、ろう材を用いずに接合する場合、金属元素であるクロムで被覆されたセラミックス材の表面と中間層との間で拡散が速やかに進行して、強固な接合が実現する。また、ろう材を用いて接合する場合、セラミックス材の表面を被覆するクロムとろう材とが濡れ、強固なろう付接合が実現する。
【0016】
また、変形能を有する金属多孔質材を中間層として介在させてセラミックス材と金属材とを接合するので、中間層の変形能によって熱応力が緩和され、剥離を防止しながら接合することができる。
【0017】
この製造方法において、前記加熱処理を、真空中もしくはアルゴン雰囲気下、1000℃以上で行うことが好ましい。この場合、高温のためクロムの蒸発量が大きいので、より確実にセラミックス材の表面がクロムによって被覆され、接合強度を向上することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱膨張差による接合界面の剥離を防止しながら、少ない工程数により低コストでセラミックス材と金属材との接合体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るセラミックス材と金属材との接合方法を示す断面図である。
【図2】セラミックス材と金属材との接合体の接合強度の測定方法を示す断面図である。
【図3】ろう材を用いてセラミックス材と金属材とを接合する場合の、本発明に係る接合方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るセラミックス材と金属材との接合体の製造方法の実施形態について説明する。本発明の製造方法は、図1に示すように、三次元網目状の金属多孔質材12を、セラミックス材11および金属材14の間に介在させるように積層し、積層方向に加圧しながら加熱する加熱処理を行うことにより、金属多孔質材12を中間層13としてセラミックス材11および金属材14に接合して、接合体10を製造する方法である。
【0021】
金属多孔質材12は、クロムを10wt%以上40wt%以下含有する鉄基合金もしくはニッケル基合金からなり、気孔率が60%以上95%以下である。金属多孔質材12に含まれるクロムは、接合時の加熱により蒸発し、セラミックス材11の表面を被覆する。そして、セラミックス材11の表面を被覆するクロムと金属多孔質材12との間で拡散が速やかに進行することにより、あるいはクロムに被覆されたセラミックス材11の表面にろう材が速やかに広がることにより、金属多孔質材12とセラミックス材11とが強固に接合される。
【0022】
この接合体10は、熱膨張率の異なるセラミックス材11と金属材14とが、変形能を有する中間層13を介して接合されているので、使用環境において発生する熱応力が中間層12で緩和され、接合面の剥離やセラミックス材11の破損などが防止される。
【0023】
次に、本発明に係るセラミックス材と金属材との接合体の製造方法の実施例について説明する。
(実施例1〜8)
実施例1〜8では、セラミックス材11としてアルミナ板(100×100×t1mm)、金属材12としてSUS304ステンレス鋼板(100×100×t5mm)を準備した。実施例1〜8の接合体10における中間層13を形成する金属多孔質材12は、スラリー発泡法により形成した発泡金属板である。
【0024】
ここで、スラリー発泡法によって金属多孔質材12を製造する方法を具体的に説明する。まず、平均粒径20μmの合金粉末を水アトマイズ法により作製し、結着剤としてポリビニルアルコールと、可塑剤としてグリセリンと、界面活性剤としてアルキルベンゼンスルホン酸塩と、発泡剤としてヘプタンとを、溶媒の水とともに混練することにより、スラリーを作製した。このスラリーを板状に成形し、脱脂、焼結することにより、発泡金属板(金属多孔質材)を得た。発泡金属板の気孔率は、発泡剤の量と成形体の厚さを調整することにより変化させた(表1参照)。
【0025】
次に、図1に示すように金属多孔質材12をセラミックス材11と金属材14との間に配置するようにこれらを積層し、ホットプレスにより1150℃、保持時間1時間、荷重5kPaの条件で拡散接合した。ホットプレスのストロークは、接合後の中間層13の厚さが2mmとなるように調整した。
【0026】
接合後、実施例1〜8の各接合体10における接合面の剥離の有無を観察し、接合強度を測定した(表1)。接合強度は、セラミックス材11と金属材14とを接合面に沿って逆方向に引っ張り、接合部分が破断するまでの荷重を測定することにより確認した。具体的には、図2に示すように、セラミックス材11および金属材14のそれぞれにエポキシ樹脂系接着剤20を用いて測定用金属板21を接着し、これら測定用金属板21を引張試験機のクランプに接続して接合面に沿って逆方向に引っ張った。そして、接合部分の破断時荷重が5kN以上の場合は接合強度OK、5kN未満の場合は接合強度NGとした。
【0027】
(比較例1〜4)
比較例1〜4は、実施例1〜8と同じセラミックス材および金属材を用いたが、金属多孔質材は組成および気孔率が本発明の範囲内にないものを用いた。金属多孔質材の作成方法、セラミックス材および金属材と金属多孔質材との接合方法、剥離の有無の確認方法および接合強度の測定方法は実施例1〜8と同じである(表1参照)。
【0028】
【表1】

【0029】
以上の結果から、金属多孔質材に含まれるCr量が不足または過剰であると、接合強度が低下することが確認できた。また、Cr量が適度であっても、中間層の気孔率が低すぎると熱応力の緩衝作用が十分に得られずに剥離が発生し、気孔率が高すぎると接合強度が低下することが確認できた。
【0030】
(実施例9〜12)
実施例9〜12では、セラミックス材11として窒化ケイ素板(100×100×t2mm)、金属材12としてSUS310ステンレス鋼板(100×100×t5mm)を準備した。実施例9〜12の接合体10における中間層13を形成する金属多孔質材12は、スラリー発泡法により形成した発泡金属板である。
【0031】
実施例9〜12における金属多孔質材12の作成方法について説明する。まず、SUS310ステンレス鋼(Fe−25%Cr−20%Ni)製、平均粒径15μmの合金粉末と、結着剤としてポリビニルアルコールと、可塑剤としてグリセリンと、界面活性剤としてアルキルベンゼンスルホン酸塩と、発泡剤としてヘプタンとを、溶媒の水とともに混練することにより、スラリーを作製した。
【0032】
このスラリーを、ダイコータを用いてPETフィルム上に均一に塗工し、湿度75%、温度60℃の発泡装置にて30分間保持して発泡させた。その後、乾燥機にて90℃で10分間放置して乾燥させてグリーンとした。
【0033】
その後、PETフィルムからグリーンを剥離し、脱脂、焼結することにより金属多孔質材12を得、厚さ2mm、100×100mmの寸法にカッターで切断した。このときの金属多孔質材の気孔率は90%であった。
【0034】
そして、セラミックス材11と金属材14との間に金属多孔質材12を介在させるようにこれらを積層し、荷重5kPaとなるように錘を載せ、真空もしくはアルゴン雰囲気下、表2に示す条件で加熱処理し、接合を行った。接合後、中間層13の厚さは2mmとなった。
【0035】
接合後、実施例1〜8と同様に、実施例9〜12の各接合体10における接合面の剥離の有無を観察し、接合強度を測定した(表2)。
【0036】
(比較例5,6)
比較例5,6は、実施例9〜12と同じセラミックス材、金属材および金属多孔質材を用いたが、加熱処理を本発明の範囲に含まれない温度で行った。金属多孔質材の作成方法、セラミックス材および金属材と金属多孔質材との接合方法、剥離の有無の確認方法および接合強度の測定方法は実施例9〜12と同じである(表2参照)。
【0037】
【表2】

【0038】
以上の結果から、加熱処理温度が低すぎると接合強度が低下し、高すぎると中間層が溶融するため接合体を製造できないことが確認できた。
【0039】
(実施例13,14)
実施例13,14では、それぞれ実施例1,2と同じセラミックス材11、金属材14,多孔質金属材12を準備し、ろう材15を用いてこれらを接合した(図3)。
【0040】
ろう材15として、JISZ3265 BNi−5で規定されるニッケルろう粉末(平均粒径20μm):100gに対し、ポリビニルアルコール:10g、水:20gを加えて混練し、Niろう材ペーストを作製し用意した。
【0041】
まず、このろう材15(Niろう材ペースト)を発泡金属材12の片面に塗布し、60℃、30分間の条件で乾燥させた。次に、発泡金属材12のろう材15を塗布した面をセラミックス材11に接触させるように、セラミックス材11と金属材14との間に発泡金属材12を介在させてこれらを積層し、ホットプレスにより1100℃、保持時間0.5時間、荷重5kPaの条件で加熱処理を行い、接合した。
【0042】
接合後、実施例1〜8と同様に、実施例13,14の各接合体10における接合面の剥離の有無を観察し、接合強度を測定した(表3)。
【0043】
(比較例7)
比較例7は、比較例1と同じセラミックス材、金属材、多孔質金属材を準備し、実施例13,14と同じろう材を用いてこれらを接合した。接合後、実施例13,14と同様に、比較例7の接合体における接合面の剥離の有無を観察し、接合強度を測定した(表3)。
【0044】
【表3】

【0045】
以上の結果から、セラミックス材と多孔質金属材とをろう付する場合にも、金属多孔質材に含まれるCr量が低いと接合強度が低下することが確認できた。
【0046】
以上説明したように、本発明によれば、クロム成分を含む金属多孔質材を中間層として介在させてセラミックス材と金属材とを接合するので、加熱処理時に蒸発したクロム成分がセラミックス材の表面を被覆し、セラミックス材と中間層との強固な接合が可能となる。したがって、熱膨張差による接合界面の剥離を防止しながら、少ない工程数により低コストでセラミックス材と金属材との接合体を製造できる。
【0047】
なお、本発明は前述の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。たとえば、前記実施例ではFe−CrまたはNi−Crの二元系合金を用いたが、耐熱性、耐食性の向上を目的としてMo,Co,W,Al,Ti,Nb,Ta,Mnなどの添加元素を加えてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10 接合体
11 セラミックス材
12 金属多孔質材
13 中間層
14 金属材
15 ろう材
20 エポキシ樹脂系接着剤
21 測定用金属板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス材と金属材とが接合されてなる接合体の製造方法であって、
クロムを10wt%以上40wt%以下含有する鉄基合金もしくはニッケル基合金からなる三次元網目状の金属多孔質材を、前記セラミックス材および金属材の間に介在させるように積層し、積層方向に加圧しながら加熱する加熱処理を行うことにより、
前記金属多孔質材を気孔率が60%以上95%以下である中間層として前記セラミックス材および前記金属材に接合することを特徴とするセラミックス材と金属材との接合体の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理を、真空中もしくはアルゴン雰囲気下、1000℃以上で行うことを特徴とする請求項1に記載のセラミックス材と金属材との接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−91975(P2012−91975A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241911(P2010−241911)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】