セラミックス膜構造体とその形成方法及び装置
本発明は、エアロゾルデポジション法等で形成された微結晶セラミックス膜に、セラミックス自体は吸収しやすく、逆に金属では反射するという赤外線のセラミックス材料に対する光学特性を利用したレーザー照射による加熱処理を行うことにより、微結晶セラミックス膜が基板から剥離することなく粒成長及び欠陥回復が可能なセラミックス膜構造体、その形成方法及び装置を提供することを目的とする。
本発明のセラミックス膜構造体の形成方法は、金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成した後、該微結晶セラミックス膜に赤外線レーザーを照射することを特徴とする。
本発明のセラミックス膜構造体の形成方法は、金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成した後、該微結晶セラミックス膜に赤外線レーザーを照射することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エアロゾルデポジションによるセラミックス膜構造体とその形成方法及び装置に関し、更に詳細には、基板上の誘電体、強誘電体、磁性体及び強磁性体等のセラミックス膜構造体を剥離させることなく粒成長及び欠陥回復するようにしたセラミックス膜構造体とその形成方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属やプラスチックで構成される基板上に誘電体や強誘電体、磁性体や強磁性体など電子セラミックス膜を形成する方法として、バルクを薄く機械加工して接着剤で貼り付ける技術と、スパッタ法やゾルゲル法のように直接基板上に形成するいわゆる薄膜形成技術がある。しかし、これらの技術はそれぞれ膜厚が100μm以上の厚膜、1μm以下の薄膜を形成する技術であり、1μm〜l00μmの膜を短時間で性能良く形成することはできない。
近年、サブミクロン粒子やナノ粒子などいわゆる超微粒子を溶融させないで固相状態のまま基板に衝突させ、低温で高速に超微粒子膜を成膜できる技術としてコールドスプレー法やガスデポジション法、エアロゾルデポジション法がある。しかし、コールドスプレー法に関しては金属膜だけでセラミックス膜の形成例がなく、ガスデポジション法に関してはセラミックス膜を形成した場合は、膜密度が55〜80%程度の圧粉体となり、これを焼結体とするための加熱処理が必要不可欠である。このガスデポジション法に関してはセラミックス膜を形成する場合の加熱処理としては、レーザーを超微粒子流の噴出方向に対して垂直に照射する技術(特許文献1)や成膜中に照射する技術(特許文献2)あるいは成膜後に照射する技術(特許文献3、特許文献4、特許文献5)として提案されている。
一方、エアロゾルデポジション法と呼ばれる脆性材料の膜あるいは構造物の形成方法がある。エアロゾルデポジション法とは脆性材料の微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを搬送し、高速で基板表面に噴射して衝突させ、微粒子を破砕・変形せしめ、基板との界面にアンカー層を形成して接合させるとともに、破砕した断片粒子同士を接合させることにより、基板との密着性が良好で強度の大きい脆性材料構造物を基板上にダイレクトに形成させることができる手法である。このエアロゾルデポジション法は常温衝撃固化現象によって短時間で理論密度の95%以上の非常に緻密な結晶化した厚膜を金属やガラス、プラスチックの上に直接形成することができる(非特許文献1)他のプロセスに類を見ない画期的な技術であり、上記の膜厚が1μm〜100μmの膜を、接着剤を用いないで短時間で性能良く形成できる(非特許文献2)。
エアロゾルデポジション法によって形成されたセラミックス膜は、成膜した状態で既に結晶化しているという大きな特徴を持つが、サブμmオーダーの結晶子サイズの超微粒子原料を用いる結果、数十nmのナノクリスタル構造をもつ(非特許文献3)ためにデバイス化したとき、電気特性や電気機械特性がバルク焼結体の特性と比較して十分に発揮されない。よって、実用化に耐えうる特性を引き出すためには、膜の粒成長の促進と欠陥回復のために基板加熱やポストアニーリングのような加熱プロセスの適用が不可欠である。例えばマイクロアクチュエータや光スキャナーなどいわゆる圧電材料の1つであるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の場合、従来は電気炉を用いて850℃以上で1時間以上ものポストアニーリングによってようやくバルク焼結体と同等の電気特性が得られている(非特許文献4)。
しかし、上記のような高い温度での基板加熱はもちろん電気炉加熱のように炉内部に設けてある発熱体による外部加熱では、膜だけでなく基板全体も加熱されてしまう。その結果、熱処理が不要な他の部材まで加熱されて熱的なダメージならびに熱応力による寸法精度のずれを与え、電子セラミックスとしての性能を著しく低下させてしまう恐れがあり、実用化を大きく妨げる。すなわち、加熱処理は、先述したようにバルク焼結体と同等の結晶粒径や電気特性、ならびに電気機械特性をセラミックス膜が回復するために必要不可欠であるが、このような熱処理方法では、熱に脆弱な金属基板やプラスチック基板を利用することはできない。具体的には金属基板では600℃以下、プラスチック基板では300℃以下のプロセス温度にしなければならない。
電気加熱炉の場合、膜自身を炉内に入れるため、例えば金属基板上の膜の場合に金属基板の熱影響による金属光沢の消失、熱溶融、熱変形及び機械的特性の劣化などが生じてしまう。また、炉内に入れた膜全体が加熱されるため、膜と基板の熱膨張係数差による剥離が生じたり、膜と基板との界面に厚い相互拡散層からなる異層が形成されるという問題がある。
【特許文献1】特開2000−256832号公報
【特許文献2】特開2000−260323号公報
【特許文献3】特開平5−44045号公報
【特許文献4】特開平6−49656号公報
【特許文献5】特開平6−116743号公報
【非特許文献1】明渡 純、Maxim Lebedev:まてりあ 41(2002)459−466.
【非特許文献2】明渡 純:セラミックス 38(2003)363−368.
【非特許文献3】明渡 純、清原正勝:粉体工学会誌 40(2003)46−54.
【非特許文献4】J.Akedo and M.Lebedev:J.Cryst.Growth 235(2002)415−420.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
先述したように、ガスデポジション法で形成したセラミックス膜は圧粉体であり、レーザーはこれを焼結体とするための加熱処理であって、レーザーの波長を、単に圧粉体並びに粒子ビームを構成している超微粒子の粒径より大きい波長で選択するというものである。
また、エアロゾルデポジション法で形成した膜はもちろん、スパッタ法やゾルゲル法で形成した膜も熱処理条件によっては基板から剥離する場合がある。ましてや膜にレーザーを直接照射して加熱する場合、急熱急冷プロセスのために膜は非常に剥離しやすい。さらに、従来のレーザー照射との組み合わせ技術では、照射するレーザーの種類、パワー、時間、照射方法等によっては基材と膜との熱膨張係数の違いや基材の熱伝導率、ヤング率や厚み、大きさから剥離が生じる問題があり、特に厚膜を形成した場合に顕著になって現れる。すなわち、従来のレーザー照射との組み合わせ技術では膜剥離に対して対応できず、実用的ではなく、解決すべき課題である。
さらに、レーザーを成膜中に照射する場合、減圧下では膜の放熱量が減少するために大気圧下と同様の条件でレーザー照射を行うと、過剰な加熱が生じ、膜の分解や酸素欠損が起こる。さらに、圧電アクチュエータの材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)や光シャッターの材料であるチタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PLZT)など鉛系セラミックスの場合では鉛欠損も生じ、化学量論組成比が崩れて特性が大幅に劣化する問題が生じる。
本発明は、エアロゾルデポジション法等で形成された微結晶セラミックス膜に、セラミックス自体は吸収しやすく、逆に金属では反射するという赤外線のセラミックス材料に対する光学特性を利用したレーザー照射による加熱処理を行うことにより、微結晶セラミックス膜が基板から剥離することなく粒成長及び欠陥回復が可能なセラミックス膜構造体、その形成方法及び装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、エアロゾルデポジション法等にレーザー照射を組み込む技術において、熱膨張係数や熱伝導率、ヤング率、基板サイズの点から基板材料の選択を行い、レーザーパワーの制御、加熱時間や温度制御(昇温、降温パターン)、レーザーの走査方法、粒子ビームとレーザー照射位置の関係を工夫することで膜剥離に関する問題点を解決し、実用的な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明における第1の発明は、セラミックス膜構造体の形成方法において、金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成した後、該微結晶セラミックス膜に赤外線レーザーを照射することを特徴としている。
また、本発明における第2の発明は、上記した第1の発明において、赤外線レーザーの照射により微結晶セラミックス膜の表面側から金属基板側に向けて膜厚方向に1℃/μm〜l00℃/μmの範囲で低下する温度勾配を保持させてなることを特徴としている。
また、本発明における第3の発明は、上記した第1又は第2の発明において、エアロゾルデポジション法により金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成することを特徴としている。
また、本発明における第4の発明は、上記した第1乃至第3のいずれか1つの発明において、赤外線レーザーの照射による微結晶セラミックス膜への単位面積当たりの入熱量、金属基板と微結晶セラミックス膜との熱膨張係数の差から、金属基板上に形成される微結晶セラミックス膜の膜厚及び膜面積の上限を定めることを特徴としている。
また、本発明における第5の発明は、上記した第4の発明において、微結晶セラミックス膜が積層により形成されることを特徴としている。
また、本発明における第6の発明は、上記した第4又は第5の発明において、微結晶セラミックス膜をチタン酸ジルコン酸鉛とし、赤外線レーザーの照射によるチタン酸ジルコン酸鉛膜への単位面積当たりの入熱量が10J/mm2以上の場合、チタン酸ジルコン酸鉛膜の膜面積を100mm2以下あるいは膜厚を20μm以下とすることを特徴としている。
また、本発明における第7の発明は、上記した第1乃至第3のいずれか1つの発明において、赤外線レーザーの照射による入熱を、微結晶セラミックス膜の単位面積当たりの入熱量、レーザービーム径及び照射時間により制御するとともにレーザー照射後バイアス加熱により徐々に温度を下げるように制御することを特徴としている。
また、本発明における第8の発明は、上記した第7の発明において、膜の温度が300℃以下になるまでは300℃/h以下の降温速度になるように制御することを特徴としている。
また、本発明における第9の発明は、セラミックス膜構造体の形成方法において、金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成中に赤外線レーザーを照射して成膜するとともに、成膜後に低ガス圧雰囲気で赤外線レーザーを照射することを特徴としている。
また、本発明における第10の発明は、上記した第9の発明において、低ガス圧雰囲気が1×10−6〜1kPaであることを特徴としている。
また、本発明における第11の発明は、上記した第9又は第10の発明において、成膜後の低ガス圧雰囲気での赤外線レーザー照射中、膜の基板からの剥離を、前記赤外線レーザーとは別の可視光レーザーにより検出することを特徴としている。
また、本発明における第12の発明は、金属基板を固定する移動自在な基板ホルダーを設け、該金属基板の表面にセラミックスのエアロゾルを噴射するノズルを設けるとともに、赤外線レーザー発振器及び光学系を設け、赤外線レーザー発振器から出力された赤外線レーザーを光学系を介して金属基板上に結晶化された微結晶セラミックス膜に照射するようにしたことを特徴としている。
また、本発明における第13の発明は、上記した第12の発明において、基板ホルダーを回転自在とすることを特徴としている。
また、本発明における第14の発明は、上記した第12又は第13の発明において、酸化物セラミックス及び窒化物セラミックスに対して酸素及び窒素等など反応性ガスを用いたエアロゾルジェットをノズルから噴射するようしたことを特徴としている。
また、本発明における第15の発明は、上記した第12乃至第14のいずれか1つの発明において、光学系にコリメーター及びレンズを備え、赤外線レーザーをミラーで広い範囲で走査する場合、常に膜に対する入熱が同じになるように赤外線レーザーのパワー及びビーム径を制御することを特徴としている。
また、本発明における第16の発明は、上記した第12乃至第15のいずれか1つの発明において、エアロゾルの搬送ガス及び金属基板を加熱する加熱手段を設けることを特徴としている。
また、本発明における第17の発明は、上記した第12乃至第16のいずれか1つの発明において、金属基板の熱伝導率に応じてセラミックス膜への加熱の程度を制御する手段を設けたことを特徴としている。
また、本発明における第18の発明は、上記した第12乃至第17のいずれか1つの発明において、少なくとも熱膨張係数が30×10−6/℃以下の基材を組み合わせてなる金属基板を用いたことを特徴としている。
また、本発明における第19の発明は、上記した第12乃至第18のいずれか1つの発明において、少なくとも熱伝導率が450W/mK以下の基材を組み合わせてなる金属基板を用いたことを特徴としている。
また、本発明における第20の発明は、上記した第12乃至第19のいずれか1つの発明において、少なくとも1〜100μmの厚さの金属基板を用いたことを特徴としている。
また、本発明における第21の発明は、上記した第12乃至第20のいずれか1つの発明において、少なくともヤング率が500GPa以下の基材を組み合わせてなる金属基板を用いたことを特徴としている。
また、本発明における第22の発明は、上記した第12乃至第17のいずれか1つの発明において、金属基板としてSUS430を用いたことを特徴としている。
また、本発明における第23の発明は、熱膨張係数が30×10−6/℃以下、熱伝導率が450W/mK以下及びヤング率が500GPa以下の基材を組み合わせてなる厚さが1〜100μmの金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成し、該微結晶セラミックス膜に赤外線レーザーを照射して作製されたことを特徴としている。
また、本発明における第24の発明は、上記した第23の発明において、金属基板がSUS430であることを特徴としている。
また、本発明における第25の発明は、上記した第23又は請求項24の発明において、微結晶セラミックス膜の材料組成がチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とすることを特徴としている。
また、本発明における第26の発明は、上記した第23乃至第25のいずれか1つの発明において、微結晶セラミックス膜の厚さが0.1〜20μmであることを特徴としている。
また、本発明における第27の発明は、上記した第23乃至第26のいずれか1つの発明において、微結晶セラミックス膜の結晶粒子サイズが膜表面近傍から金属基板界面近傍に向けて小さくなるように傾斜分布されていることを特徴としている。
また、本発明における第28の発明は、上記した第23乃至第27のいずれか1つの発明において、微結晶セラミックス膜と金属基板との界面に形成される相互拡散層の厚みが1nm〜200nmの範囲にあることを特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
(1)微結晶セラミックス膜と基板との剥離を防止し、かつ、微結晶セラミックス膜の粒成長及び欠陥回復がなされたセラミックス膜構造体を得ることができる。
(2)赤外線レーザー照射により、電気炉加熱のように基板に熱的影響を与えることがないため、安価なステンレス基板等を使用することができる。また、電気炉加熱したものに比べて高残留分極のあるセラミックス膜構造体を得ることができる。
(3)選択的な加熱処理が可能であり、熱エネルギーを効率的に用いることができる。
(4)レーザーを加熱したい膜だけに照射することができるため、金属基板への熱影響はほとんどない。たとえ、レーザーが金属部分に照射されても、使用しているレーザーが赤外波長であるためにほとんど金属部分で反射され、膜の部分のみ吸収が起こって加熱処理される。
(5)膜剥離が生じない薄い膜の上にさらに膜を積層することにより、膜剥離のない厚い膜を得ることができる。また、強誘電体及び強磁性体膜等の別々の特性を持つセラミックス膜の積層体を得ることができる。
(6)基板として適当な熱膨張係数、熱伝導率、ヤング率及び基板サイズを選択することにより、剥離のないセラミックス膜構造体を得ることができる。また、基板による膜の加熱の程度が制御可能である。
(7)レーザー照射によると、膜のレーザー吸収により内部から加熱されるため電気炉加熱の場合より低い温度で粒成長及び欠陥回復が可能である。
(8)レーザー照射の熱的効果による膜の結晶性や粒成長は、照射した膜の表面近傍が最も顕著であり、基板との界面に向けてその効果が減少しているため、基板側の膜よりも表面に近い内部膜の結晶粒子サイズの成長を図ることができる。
(9)レーザー照射による熱的効果は膜厚方向に対して勾配を持つため、膜と基板との界面に形成される相互拡散層からなる異相を減少させることができ、異相の厚みを1nm〜200nmの範囲に抑制することができる。
(10)基板を回転させることにより、走査速度を速めることができ、膜厚を非常に薄く制御できるとともにレーザー照射の入熱を減少できる。
(11)低ガス雰囲気でレーザーを照射することにより、効率的に低い入熱を膜に与えることができるだけでなく、膜表面からの放熱が抑制されるため剥離の大きな原因の1つである急冷を抑制することができる。
(12)膜形成中の赤外線レーザーの照射に加えて、膜形成後にも赤外線レーザーを照射することにより、高い残留分極値を示す膜を得ることができ、膜形成中にのみ赤外線レーザーを照射したものに比べて著しい特性の改善の効果が見られた。
(13)成膜部分に照射する可視光レーザーの反射光を検出することにより、膜剥離の有無を早急に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】1図は、本発明による微結晶セラミックスが厚膜化できる方法の一例を説明する図である。
【図2】2図は、本発明によるレーザー照射による加熱パターンの説明図である。
【図3】3図は、本発明によるレーザーのビームプロファイルの説明図である。
【図4】4図は、本発明による基材の熱伝導率によって膜の加熱状態が制御できる構造物の一例を説明する図である。
【図5】5図は、成膜されていないステンレス基板とPZT膜付きステンレス基板のレーザー照射に対する基板裏の温度特性を示すグラフである。
【図6】6図は、本発明によるセラミックス膜構造体の形成装置を示す概要図である。
【図7】7図は、レーザー照射によって剥離しなかった膜表面と剥離した膜表面の光学顕微鏡写真である。
【図8】8図は、成膜したままの未処理のPZT膜と電気炉加熱ならびにレーザー照射したPZT膜の電界強度−残留分極値特性を示すグラフである。
【図9】9図は、成膜中の赤外線レーザー照射に加えて成膜後にも赤外線レーザーを照射した場合におけるPZT膜の残留分極特性を示すグラフである。
【図10】10図は、ステンレス基板上に直接形成したPZT膜の基板側PZT膜及び表面に近い内部PZT膜の断面透過電子顕微鏡像(上段の図)及び電子線回折像(下段の図)を示したものである。
【図11】11図は、ステンレス基板上に直接形成したPZT膜を電気炉アニール及びレーザーアニールした断面透過顕微鏡像を示したものである。
【符号の説明】
【0007】
1 成膜チャンバー
2 真空ポンプ
3 X−Y−Zステージ
4 基板ホルダーa
5 金属基板
6 ノズル
7 炭酸ガスレーザー発振器
8 コントローラー
9 パワーモニターa
10 シャッター
11 ファンクションジェネレーター
12 オシロスコープ
13 光学系a
14 赤外線透過窓
15 パワーモニターb
16 基板ホルダーb
17 光学系b
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、セラミックス膜構造体とその形成方法及び装置において、基板上に形成したセラミックス膜にレーザーを照射して、膜が基板から剥離しないようにするとともにセラミックス膜の粒成長及び欠陥回復を実現可能とするものである。
基板の上に成膜したセラミックス膜は既に緻密で結晶化しており、レーザーを照射することによって微結晶粒の粒成長促進と欠陥回復を行う。照射するレーザーとしては赤外線領域で発振する赤外線レーザーであり、炭酸ガスレーザーが最適である。炭酸ガスレーザーは、同じ赤外線領域の波長を持つYAGレーザーと比較して、多くのセラミックスに対して吸収を示し、なおかつ金属に対しては殆ど吸収を示さない特性を有する。即ちこの特性を利用すると、セラミックス膜だけを効果的に加熱処理することができ、さらには基板の金属面上に成膜したセラミックス膜やビーム径より小さなセラミックス膜だけを選択的に加熱処理することが可能である。
また、レーザーを加熱したい膜だけに照射できるため、金属基板への熱影響はほとんどない。たとえ、レーザーが金属部分に照射されても、使用しているレーザーが赤外の波長であるためほとんど金属部分で反射され、膜の部分のみ吸収が起こって加熱処理される。
さらに、レーザーの熱的効果だけを利用するという観点から、照射に必要なレーザーのパワーは100W以下のクラス4であるレーザーで充分であり、レーザーパワーを上記の点を満たすように適切に制御すれば、赤外領域の半導体レーザーやYAGレーザーも利用可能である。この様な加熱で粒成長や欠陥回復をセラミックス膜に生じせしめる温度としては、対象とするセラミックス材料にもよるが、少なくとも600℃以上の温度が必要で、好ましくは800℃以上の温度が必要となる。また、上記のようなレーザー照射は、スパッタ法やゾルゲル法、CVD法などで成膜した膜でも特性回復の効果は十分にある。
【0009】
基板の上に成膜されるセラミックス膜はエアロゾルデポジション法で成膜するのが好ましい。本発明である実用化に耐え得る微結晶セラミックスを形成するためには、レーザー照射前の膜は既に結晶化している必要がある。さらに、膜は緻密で機械的特性も充分であり、唯一、加熱による粒成長促進や欠陥回復が求められるレベルの膜である必要がある。エアロゾルデポジション法は粒径0.08〜2μm程度のセラミックス焼結体の超微粒子を利用して、室温で金属やガラス、プラスチック基板上に結晶化した膜を20MPa以上の高い密着力で高速かつ緻密に成膜できる現在唯一の方法である。室温形成された膜の微細組織は、結晶粒径5nmから80nm程度の微結晶体から構成されるのが特徴である。
炭酸ガスレーザーを金属基板上のセラミックス膜に照射した場合、膜はレーザーを吸収して発熱し、下地の金属基板はレーザーの吸収ではなく、膜からの熱伝導によってのみ加熱される。このとき、膜厚や膜面積が大きいほどより炭酸ガスレーザーを吸収して発熱し、その結果、基材や基材と膜との熱膨張係数の違いから熱衝撃が生じ、膜剥離が起こる。よって照射するレーザーパワーと金属基板の熱膨張係数に対して膜厚や膜面積の上限を定め、膜剥離が生じない膜厚の範囲を決定する必要がある。ステンレス(SUS304)基板上のPZT膜は、少なくとも100mm2以上の膜面積、あるいは、20μm以上の膜厚のとき、少なくとも10J/mm2以上の入熱で剥離が引き起こされる。膜厚は20μm、好ましくは0.1〜20μm,より好ましくは1〜10μmである。しかし、20μm以上でも、100mm2より狭い面積の膜へのレーザー照射や、20μmより薄い剥離しない膜の上にさらにセラミックス膜を積層してレーザー照射することによって膜剥離が生じない20μm以上の膜厚のセラミックス膜の形成も可能である。また、強誘電体膜や強磁性体膜など別々の特性を持つセラミックス膜の積層化も可能である。
【0010】
基板上に成膜されたセラミックス膜にレーザーを照射する場合、膜に対する入熱ステップも考慮する必要がある。すなわち、入熱は単位面積あたりのレーザーパワーと照射時間の積で表されるので、レーザーパワーとビーム径、照射時間の制御が必要である。ビーム径の制御はレンズによって可能である。PZT膜の面積はビーム径より著しく大きい場合、膜と基板の界面に働く成膜時に導入される歪だけでなく、レーザー照射時に膜内で発生した熱応力によってビーム径の大きさに依存した剥離が生じる。
特に膜剥離はレーザー照射後の急激な降温時に起こると考えられるので、第2図に示すような、レーザー照射後、急激に膜の温度が下がらないようにバイアス加熱をすると効果的である。例えば、レーザーパワーをゆっくり下げたり、ビーム径をレンズで広げたりして急激な入熱の変化を抑制したり、予備加熱用のレーザーを加熱用レーザーの照射後に利用したりすることによって膜剥離の防止が可能である。また、電気炉加熱による実際の降温パターンは炉冷であるが、炉内温度が300℃に下がるまで300℃/hの降温速度以上にならないように降温パターンを設定した場合、膜剥離は生じていない。よって、レーザーによる入熱ステップは、レーザー照射後、膜の温度が300℃以下になるまで300℃/h以下の降温速度になるようにバイアス加熱すれば良い。上述の技術によって、膜剥離が生じない膜が形成できれば、さらにその上にセラミックス膜を成膜させ、レーザーを照射するというプロセスの繰り返しによって、膜の積層化が実現し、より厚い膜や例えば強誘電体膜と強磁性体膜の積層化が可能である(第1図)。
【0011】
成膜後のチャンバー内で炭酸ガスレーザーを照射する場合、チャンバー内は減圧下であるので大気圧下と同様のレーザーの入熱では放熱量が減少し、熱的バランスが崩れ、必要以上に膜の加熱が生じ、結果的に膜剥離が起こる。よってレーザー照射時の雰囲気も放熱の観点から考慮する必要がある。ここで熱的バランスは、次式で表現される。
ここでmiは照射される物体の全熱容量、tは照射時間、T0は初期温度、Tはレーザー照射時の温度、I0は吸収パワー、eは放射率、σはStefan−Boltzmann定数、Sは照射される物体の表面積、Gは雰囲気の熱伝導率である。
しかし逆に減圧下でも、酸化物セラミックスや窒化物セラミックスに関して、それぞれ酸素や窒素など反応性ガスを供給し、圧力制御すると、反応性ガスを供給しない場合よりも低い入熱のレーザーで膜の粒成長が促進されると考えられる。すなわち、粒子ビーム(エアロゾルジェット)に酸素、窒素などの反応性ガスを使用、あるいはヘリウムやアルゴンなど不活性ガスと一緒に混合した場合や、別途、反応性ガス供給用のノズルを設ける方法がある。反応性ガスはそのノズルがエアロゾルジェットやレーザーを遮らない程度にレーザーの照射位置に近づけて吹き付けられるのが好ましい。供給方法としては、ガスの供給とレーザー照射をエアロゾルジェットに対して垂直にすることによって、基板や膜に超微粒子流が到達する前に活性状態の超微粒子流を作り出して粒成長を促進させたり、非熱平衡状態が起きている位置、すなわちエアロゾルジェットが基板や膜に衝突する位置にガスの供給とレーザー照射をすることによって粒成長を促進させたり、成膜後の膜表面にガス供給とレーザー照射を行って粒成長を促進させる方法がある。
【0012】
また、レーザーのビーム径より広い範囲を持つ膜を加熱処理する場合、レーザーをミラーで走査する必要がある。その場合、レーザーの照射角度によって膜に対する照射面積が変化する。よって、常に膜に対する入熱が同じになるようにパワーやビーム径を制御することが膜剥離を抑制するだけでなく、均質な加熱処理を実現する意味で重要である。また、ビームの周辺付近では著しい温度勾配があると考えられるので、ビームのプロファイルのとしてはビーム強度が中心より周辺が大きい形が好ましい(第3図)。
成膜中にレーザーを照射する場合、エアロゾルジェットとレーザーの位置関係も非常に重要である。レーザーをエアロゾルジェットの走査方向に対して前後に照射した場合、成膜後に照射する場合と違って膜厚が薄いことから、より低いレーザーパワーで、成膜後のレーザー照射効果と同様の結果が得られる可能性がある。また、レーザーをエアロゾルジェットの基板への衝突位置に照射した場合、エアロゾルデポジション法特有の非熱平衡状態の成膜プロセスに、さらにレーザーの急熱急冷による非熱平衡プロセスを重畳することによって非熱平衡プロセスに拍車がかかり、例えば、逆に意図的な欠陥を導入したり、欠陥量を制御したりすることで物性を制御するなど、全く新しい機械特性や電気特性、結晶構造を発現した機能性セラミックスの成膜が実現できる可能性がある。一方、エアロゾルジェットにレーザーを照射する場合、レーザーパワーの制御によって、加熱による超微粒子のクリーニングで膜中の欠陥抑制や、超微粒子の粒成長で結晶粒が大きい膜の形成が期待される。
【0013】
しかし、レーザーをエアロゾルジェットの走査方向に対して前後に照射する場合は、基板表面を流れる搬送ガスによって膜の冷却が生じるため、レーザー照射面の吸熱と放熱のバランスを考慮する必要がある。また、レーザーをエアロゾルジェットの基板や膜への衝突位置に照射した場合、ノズルから噴出されたエアロゾルジェットに曝された基板ならびに形成膜は、断熱膨張によって局部的に冷却される可能性もあるため、膜厚方向ならびに走査方向に対して非常に大きな温度勾配が生じ、結果として熱衝撃による膜剥離が起こる可能性がある。
上記の冷却の問題を解消する方法として、あらかじめ搬送ガスや基板を数百度の温度に上げておくことで熱衝撃を抑制することが可能である。温度としてはレーザー照射前の膜の温度が、熱衝撃による剥離防止を考慮すると600℃以下、また、基材へのダメージを考慮すると、高くても400℃程度以下になることが好ましい。基板の加熱方法としてはレーザー照射を利用し、投入エネルギー密度をビーム径あるいはレーザーパワーを制御することによって変化させ、基板の予備加熱用と膜の熱処理用との区別ができるものとする。その際、別途基板・膜表面温度センシング用のレーザーを利用し、基板の予備加熱用と膜の熱処理用のレーザーコントローラーにフィードバックさせることで投入エネルギー密度の制御を行うことが出来るものとする。また、基板加熱や搬送ガス加熱をしているところにレーザー照射をすると、レーザー照射による熱衝撃が緩和され、制御性も向上し、実用性も高いと考えられる。
膜剥離を抑制する他の手段として、成膜中における赤外線照射に加えて、成膜後に1×10−6kPa、より好ましくは50〜1kPaの低ガス圧雰囲気で赤外線レーザーを照射する方法がある。これによって先述した効率的により低い入熱を膜に与えることができるだけでなく、膜表面からの放熱が抑制されるために断熱効果、すなわち大気中や高いガス圧雰囲気の場合と比較して放冷が抑制され、膜剥離の大きな原因の1つである急冷が抑制できる。さらに、成膜後エアロゾルジエットのみを停止させて赤外線レーザーを照射するために、成膜状態のまま基板−膜−マスクの構成は全く変わらず、赤外線レーザーによる熱処理後、再び成膜を開始することによって寸法精度が良い厚膜あるいは多層膜を形成することができる。
【0014】
上記した熱処理用の赤外線レーザーとは別に可視光レーザーを成膜部に向けて照射するように手段を設けることにより、成膜後の赤外線照射中、膜が基板から剥離した場合、可視光レーザーが基板剥離面で反射するため、その光を検出することによって膜剥離の有無を早急に確認することができる。
また、炭酸ガスレーザーを吸収してセラミックス膜が発熱しても、基板の熱伝導率が高すぎる場合、セラミックス膜は特性が改善されるほどには加熱されない。この場合、膜の特性の改善のために、さらに大きな入熱のレーザー照射によって膜を加熱した場合、膜と同時に周辺の部材も加熱される。すなわち、結果としてセラミックス膜ではなく、周辺の部材が熱によるダメージを受ける。逆に、基板の熱伝導率が低すぎる場合、加熱されるセラミックス膜と基板の接合界面に熱膨張係数の違いによる大きなせん断力が発生し、膜剥離が生じる。また、その際、基板の厚みが適切ではなく、薄すぎると、発生したせん断力によって基板は大きく変形したり、熱影響によって著しい変色や変質が生じたりする。よって、基板としては適当な熱膨張係数や熱伝導率、基板サイズの選定が重要である。逆にこのような基板の材質を特に熱伝導率で設計し、組み合わせることによって膜の加熱の程度が制御できる(第4図)。
【0015】
炭酸ガスレーザーを照射するセラミックス膜としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とした膜が好ましく、その結晶組織は緻密なナノ結晶構造である。そして上述した膜剥離の抑制のために制御されたレーザー照射によって、0.08μm以上、2μm以下の結晶子サイズに粒成長制御される必要がある。これは、PZTアクチュエータのような圧電材料の電気機械特性を利用する場合、上記のような結晶粒子径の範囲を調節することで、大きな圧電応答と高い機械強度、温度安定性、周波数安定性を両立させることが可能となり、また脱分極が生じにくいなどのアクチュエータとしての性能向上が可能となるためである。
【0016】
基板の材料としては単結晶シリコンと同程度のヤング率を有するステンレス基板が好ましい。ステンレス基板は表1に示すように、純金属より一般的に低い熱伝導率(SUS304=17.3W/mK、SUS430=26W/mK)であるため、成膜されたセラミックス膜はレーザー照射によって加熱されやすい。さらにステンレス基板の中でも熱膨張係数を加味すると、SUS430はSUS304より熱膨張係数が小さいので(SUS430:10.5×10−6/℃、SUS304:16.3×10−6/℃)、レーザー照射時の熱応力を緩和するためにはSUS430の利用が有効であると考えられる。また純金属ではステンレスと同程度の熱伝導率(17W/mK)と低い熱膨張係数(8.6×10−6/℃)を示すチタン基板の利用が適当であると考えられる。上記の条件を総合すると剥離しない基材の条件は、少なくとも熱膨張係数が30×10−6/℃以下、好ましくは1×10−6/℃〜30×10−6/℃、より好ましくは1×10−6/℃〜20×10−6/℃、熱伝導率が450W/mK以下、好ましくは0.01〜450W/mK、より好ましくは10〜150W/mKであることが分かる。
【表1】
【0017】
一方、機械的性質の観点から、基板の材料としてヤング率の小さいアルミニウム(68.5GPa)や金(79.5GPa)、銀(73.2GPa)なども有効である(表1)。すなわち、ヤング率が小さいと柔らかいため、熱膨張係数の差が大きくても膜と基板界面に働くせん断応力が緩和されるためである。よって、これらの材料は基板の材料のみならず、膜と基板の間に挿入される緩和層としても有効である。以上の観点からヤング率は少なくとも500GPa以下、好ましくは0.001〜500GPa、より好ましくは50〜100GPaの材料が膜剥離を防止する上で有効である。
本発明によれば、エアロゾルデポジション法を用いて100μmの厚さのSUS304ステンレス基板上に成膜した、緻密で結晶化したPZT厚膜の粒成長促進やその電気特性、電気機械特性を改善するために、13Wのパワーの炭酸ガスレーザーを4mmのビーム径で膜に照射させた。その結果、レーザーを50秒間照射した場合、膜厚が20μm以上では膜剥離が生じ、5μm以下にした場合は膜剥離が起こらず、ステンレス基板もほとんど熱影響を受けないで、膜だけを加熱処理することが出来た。レーザーが照射されたPZT膜は電子顕微鏡観察の結果、粒成長やネッキングを起こしており、30μC/cmという高い残留分極値を示した。この値は電気炉加熱を行った膜より優れており、さらにはPZT膜の成膜されていないステンレス基板にレーザーを照射しても基板は全く変化しなかったことから、従来技術では不可能であった、安価なステンレス基板上に形成した微小なPZT圧電デバイスの選択的な加熱処理が短時間で実現できることを見出した。
【実施例1】
【0018】
第5図は、何も成膜されていないステンレス基板と4〜5μm及び45μmの膜厚のPZTが成膜されたステンレス基板に対する炭酸ガスレーザー照射時の基板裏の温度変化を示すグラフである。データロガーはレーザー照射10秒前から記録してあり50秒間レーザーを照射してある。レーザーを照射した結果、照射開始からわずか10秒足らずでほぼ最高温度に達成できることが分かる。何も成膜されていないステンレス基板にレーザーを照射した場合は120℃程度しか温度は上昇せず、基板の変形や基板表面の色の変化なども全く確認されなかった。一方、PZT膜が成膜されたステンレス基板にレーザーを照射した場合、4〜5μmでは280℃〜350℃程度、45μmでは600℃程度の基板裏面の温度上昇が確認され、確かに炭酸ガスレーザーの吸収特性がPZT膜とステンレス基板とで異なっていることが分かる。一方、600℃で1時間の電気炉加熱を施した場合はステンレス基板全体が茶褐色に変色していた。また、電気炉加熱の場合、炉内にある発熱体の輻射熱によってセラミックス膜は外部から加熱されるが、レーザー照射の場合、膜はレーザーの吸収によって内部から加熱される。よってレーザー照射によって電気炉加熱の場合より低い温度で粒成長や欠陥回復の効果が期待される。
【実施例2】
【0019】
第6図は、本発明の微結晶セラミックスの形成装置を説明するための概略図であり、微結晶セラミックスはエアロゾルデポジション法で成膜される。すなわち、図中1は成膜チャンバーであり、真空ポンプ2によって50〜1kPa前後に真空排気され、雰囲気ガスの導入によって50〜1×103Pa前後に調節されている。成膜チャンバー1の内部にはX−Y−Zステージ3が設置されており、基板ホルダーa4と接続されており、プログラムによって走査させることができる。金属基板5は基板ホルダーa4に固定され、ノズル6から噴出されたエアロゾルジェットあるいは成膜チャンバー1内に導入された赤外線レーザーの照射に対して自由に向きを変えることができる。また、基板ホルダーa4及びb16には回転機構が設けてあり、レーザーの照射時間を回転数で制御したり、基板を同軸回転させたりすることによって膜厚や膜に対するレーザーの照射ムラの抑制が可能である。膜厚を100nmの精度で制御することにより、膜厚制御による膜剥離防止だけでなく、レーザーの膜に対する入熱を減少できる効果がある。すなわち、X−Y−Zステージを用いた基板の移動では10mm/s以上の走査は困難であるため、モーターを用いた回転運動によって1回の走査速度を速めることで、1層の膜厚を非常に薄くすることができ、レーザー照射による入熱は減少できる。さらに上記のような単層を積層化することによって粒径が0.08〜2μmの膜をX−Y−Zステージを用いた場合より低い入熱で形成することができる。その際、基板の周速度としては10mm/s〜1km/sが好ましい。
レーザーは炭酸ガスレーザー発振器7によって出力され、コントローラー8によってオン・オフすることができる。炭酸ガスレーザー発振器7から出力されたレーザーはパワーモニターa9によってモニタリングされ、コントローラー8と連動することによって所望のパワーのレーザーを出力することができる。
レーザーはシャッター10によってもオン・オフすることができ、コントローラー8と独立構成にすることで、赤外線レーザー発振器7がレーザーを安定発振するまでシャッターを閉じることができる。シャッター10はファンクションジェネレーター11によって形成された信号によってシャッターの開閉時間を調節することができ、それによってレーザーの照射時間を制御することができる。ファンクションジェネレーター11はオシロスコープ12によって信号波形のモニタリングがされている。
エアロゾルデポジション法によるセラミックス膜の成膜中にレーザーを照射する場合は、コリメーターやレンズ、ミラーを具備した光学系a13によって成膜チャンバー1に設けられた赤外線透過窓14を通して膜上に照射される。照射されたレーザーは光学系a13によって所望のビーム径にすることができる。また、レーザーは、走査方向に対してエアロゾルジェットの前後、あるいはエアロゾルジェット中に照射することもでき、光学系a13中のミラーを制御することによって2次元的に走査することも可能である。
成膜チャンバー1に導入される直前のレーザーのパワーは光学系a13によって若干損失する可能性があるため、より正確なレーザーパワーを把握するためにパワーモニターb15によってもモニタリングすることができる。
エアロゾルデポジション法によるセラミックス膜の成膜後にレーザーを照射する場合は、破線で示した基板ホルダーb16にセラミックス膜付基板を固定して加熱処理する。膜に照射されるレーザーのビーム径は、シャッター10の後にコリメーターとレンズを具備した光学系b17を使うことによって調節することができる。基板ホルダーb16は成膜チャンバー1の内部あるいは外部のどちらに設置されていても良い。
【実施例3】
【0020】
エアロゾルデポジション法において、厚さ100mmのステンレス(SUS304)基板の上にPZTの成膜を行った。基板表面は特に鏡面研磨をしていないものを用いた。基板はX−Y−Zステージ3に接続された基板ホルダーa4に固定され、一軸方向に1.25mm/sの速度で30mm走査させた。成膜雰囲気は40Pa前後であり、ノズル6からPZT微粒子とヘリウムガスのエアロゾルジェットを基板に吹き付けた。ノズルは先端出口が10×0.4mm2のオリフィス形状のものを使用し、ノズルと基板までの距離は10mmであった。PZT微粒子は固相法で作成された市販の焼結用のものを利用し、組成はPb(Zr0.52,Ti0.48)O3で粒度分布は0.08〜0.5μmであった。ヘリウムガス流量は2.51/minであった。成膜はマスクを用いて行い、PZT膜を4mm角の面積で成膜した。
上記で作成したPZT膜に炭酸ガスレーザーを照射した。照射雰囲気は大気圧、大気中であり、レーザーパワーは13W、ビーム径は4mm、照射時間は50秒で行い、特に基板バイアス加熱による膜剥離に対する対策は行わなかった。その結果、PZTの膜厚が20μm以上の場合、全ての膜においてレーザー照射中に膜が赤熱し、ビーム径の大きさで膜剥離が生じた。一方、膜厚が20μm以下の場合、一部剥離しない膜が見られ、5μm以下では全ての膜において膜隔離は生じず、照射後、膜の色が黄色に変色しているのが確認された。
第7図は、典型的な剥離した膜と剥離しなかった膜の光学顕微鏡写真である。この結果は、膜厚が大きくなるとレーザーによる膜の熱吸収量がより大きくなり、膜と基板の熱膨張係数の違いから界面に大きなせん断力が発生し、膜の基板に対する密着力を上回って剥離が生じたものと考えられる。膜剥離はレーザーの照射時間を50秒より長くした場合にも確認され、上記と同様の要因であると考えられる。
【実施例4】
【0021】
また、50μmの厚さのステンレス基板を用いて上記と同様な実験を行った場合、レーザー照射後に熱影響による基板の大きな変形と基板裏面の大きな変色が確認された。電界強度−残留分極値特性を調べた結果ではヒステリシス曲線は描くものの、著しい耐電圧の低下や漏れ電流の影響によるヒステリシス曲線の変形が見られた。これはレーザー照射によって加熱された膜から基板に伝導した熱によって膜と基板の熱膨張係数の違いから基板に大きな熱変形が生じ、膜と基板界面の密着強度の低下や部分的な剥離が生じたり、膜に間隙が生じて上部電極形成時に電気的な短絡経路が形成されたりしやすい状況になったものと考えられる。これはレーザー照射時の基板加熱をすることで膜と基板界面に発生する熱応力を緩和したり、照射時間を短縮する代わりにレーザーパワーを大きくして入熱を制御し、基板が熱影響を受けない程度に膜を加熱したらすることによって解決できる。
次に、Pt/Al2O3基板、ならびにPt/Ti/SiO2/Si基板上に600℃の基板加熱をしながらエアロゾルデポジション法を用いて成膜された、膜厚が20μmのPZTに実施例3記載の条件でレーザーを照射した。その結果、Pt/Al2O3基板上のPZTは変色していたものの膜剥離と基板の破砕が生じた。一方、Pt/Ti/SiO2/Si基板上のPZTは全く変化を示さず、レーザーをレンズで絞って、エネルギー密度を高くしても全く変化を示さなかった。その後、電気特性を計測した結果、未照射の膜より若干特性改善が見られただけであった。この結果は、実施例1で明らかとなった基板の熱膨張係数の違いに加え、基板の熱伝導率が大きな要因になっているものと考えられる。すなわち、Pt/Al2O3基板上のPZTにレーザーを照射した場合、Ptは熱伝導率が良く、膜厚が非常に薄いために下地のAl2O3基板もすぐ加熱される。しかし、Al2O3基板の熱伝導率はステンレスと同程度で熱膨張係数も小さいものの、金属材料と違って脆性材料であるためにレーザー照射による急熱急冷によって熱衝撃が生じ、破砕したものと考えられる。この問題に関しては、レーザーを照射後にPt/Al2O3基板が急冷されないように、基板加熱や予備レーザーによる加熱、レーザーの照射パターンを第1図のようにすることによって解決可能である。
一方、Pt/Ti/SiO2/Si基板上のPZTにレーザーを照射した場合、上記同様、熱伝導率の高いPt層と、極薄のTi層を通じてSi基板が加熱される。しかし、Si基板の熱膨張係数は小さいものの、熱伝導率が非常に大きいため、加熱されている膜から熱を奪い去り、結果としてPZTは600℃以上に加熱されなかったものと考えられる。この場合、膜から奪われた熱はSi基板全体によって平均化されるが、膜の改質を期待するあまり、照射時間を長くすることによって投入熱量を増加すると、Si基板も加熱されることになり、膜周辺の部材に熱によるダメージを与えることとなる。よってレーザーパワーを増加させ、少なくても膜周辺の部材が熱伝導によって400℃以上にならないように照射時間並びに照射パターンを制御することによって解決可能である。表1に代表的な金属及びセラミックスの熱膨張係数と熱伝導率を示す。
【実施例5】
【0022】
3.5μmの膜厚のPZT膜を実施例1と同じ条件でステンレス(SUS304)基板上に2つ成膜し、1つを汎用電気炉で加熱処理し、もう1つをレーザー照射によって加熱処理した。電気炉は大気雰囲気中で室温から300℃/hの昇温速度で600℃まで上昇させ、そのまま1時間保持して加熱処理を施し、その後炉冷した。レーザー照射は上記と同じ条件で行った。その後、加熱処理したPZT膜はダイヤモンドペーストを用いて表面を研磨し、清浄にした後、マスクを用いて1mm角の金電極をスパッタ法で形成し、電気特性の測定によって、電気炉加熱の場合とレーザー照射の場合を比較した。
第8図は、ステンレス基板上に成膜したままである未処理のPZT膜と電気炉加熱ならびにレーザー照射を行った場合の電界強度−残留分極値特性を示すグラフである。膜厚はどちらも3.5μmであった。成膜したままである未処理のPZT膜は電界強度に対して原点を通る線形的な挙動を示していることから本来のPZTの特性である強誘電性ではなく常誘電性であることが分かる。これはエアロゾルデポジション法が衝撃固化現象を利用した成膜プロセスであるために、成膜時の膜内に様々な構造欠陥や残留応力が導入され、さらには形成された膜が微結晶粒構造であることから、ドメインの分極反転が非常に困難になっているものと考えられる。一方、電気炉加熱やレーザー照射を行ったPZT膜に関しては、電界強度に対してヒステリシスループを描いた。このことからエアロゾルデポジションで形成した常誘電性を示したPZT膜は、加熱処理することで微結晶の粒成長や欠陥回復が行われ、本来の特性である強誘電性を示すものと考えられる。
電気炉加熱とレーザー照射を比較した場合、電気炉加熱では16μC/cm2の残留分極値を示したのに対して、レーザー照射を行った場合の方は30μC/cm2という高い残留分極値を示した。また、レーザーを照射した膜と照射しなかった膜の電子顕微鏡観察、ならびにX線回折を行い比較した結果、レーザー照射した膜は照射しなかった膜より粒同士のネッキングや粒成長が見られ、さらにX線回折ピークもシャープになっていた。上記の結果から、電気炉加熱では膜とステンレス基板全体が発熱体の輻射熱で加熱されるのに対し、レーザー照射は膜の部分だけに照射、吸収され、熱に変換された結果、殆ど膜だけが効率的に加熱処理されたものと考えられる。さらにレーザーの集光性とセラミックスと金属に対する炭酸ガスレーザーの吸収特性の違いから、電気炉加熱のようなステンレス基板の過熱が生じず、膜の電気特性を劣化させる金属基板表面の酸化物層の形成や基板の機械特性の劣化も抑制されるものと考えられる。
レーザー照射の熱的効果による膜の結晶性や粒子成長は、照射した膜の表面近傍が最も顕著であり、基板との界面に向けてその効果は減少している。すなわち、レーザー照射による熱的効果は膜厚方向に対して勾配を持つ。具体的には、微結晶セラミックス膜の表面側から金属基板に向けて膜厚方向に1℃/μm〜100℃/μmの範囲で低下する温度勾配を生じさせることができる。したがって、膜表層に比べ、基板との界面近傍の温度は極端に低いため、基板の熱影響による溶融及び変形、表面酸化、機械特性の劣化を抑制することができる。また、膜と基板界面の相互拡散層からなる異相生成を抑制することによって、膜の組成ずれを防止できる。さらに、異相はしばしば低誘電率層であるため、高誘電率層との直列回路によって生じる高誘電率膜の誘電特性劣化も防止できる。なお、従来法である電気炉アニーリングでは、大きな構造体の場合、内部に温度勾配が生じるが、膜構造体の場合では全体が加熱されてしまうため、基板の表面及び機械特性の劣化はもちろん、膜と基板界面の異相も成長してしまう。
第10図は、ステンレス基板上に直接形成したPZT膜の基板側PZT膜及び表面に近い内部PZT膜の断面透過電子顕微鏡像(上段の図)及び電子線回折像(下段の図)を示したものである。その結果、表面に近い内部PZT膜の方が基板側PZT膜よりも結晶粒子サイズは大きく、結晶性を示す電子回折像も微結晶(アモルファス)を示すハロー状のブロードな成分を含まない明確なリングを示していることがわかる。すなわち、基板側PZT膜よりも内部PZT膜の結晶性の向上、すなわち結晶粒子サイズの成長が認められ、具体的には、膜表面近傍の結晶粒子サイズは1000nm、基板との界面近傍の結晶粒子サイズ10nmと傾斜分布ができる。結晶粒子サイズの分布が勾配をもつことにより、膜中の応力が低減(分散、緩和)され、剥離の防止や応力に起因する膜特性、例えば電気特性の劣化が防止できる。また、微細な粒径による膜の機械的強度と粒成長による膜の電気的特性等の両立が図れる。さらに、粒径が異なる粒子間の界面に結晶力学的圧力が導入されるため、膜を構成する結晶の格子が歪み、その結果、電気炉アニーリングした膜及び焼結体を超えるような非常にに大きな物性値、例えば巨大誘電率等の物性値の発現が期待される。
第11図は、ステンレス基板上に直接形成したPZT膜を電気炉アニール及びレーザーアニールした断面透過顕微鏡像を示したものである。レーザー照射による熱的効果は膜厚方向に対して勾配を持つため、膜と基板との界面に形成される相互拡散層からなる異相の厚さを減少させることができる。しかもこのとき、膜と基板との密着性は保たれたままである。具体的には、異相の厚みを1nm〜200nmの範囲に抑制することができる。
実際に、厚さ100nmのステンレス箔基板上に形成した厚さ35nmのPZT膜に本発明を適用した結果、従来法である電気加熱炉の場合、結晶粒子サイズが40〜60nm、異相の厚さは250nmに対して、レーザー照射の場合、結晶粒子サイズは30〜50nm、異相の厚さは100nmであった。しかも、レーザー照射した膜の平均結晶粒子サイズが電気炉加熱より小さく、すなわち機械的強度が大きくなっているにも関わらず、電気特性は電気炉加熱の場合よりも優れていた。実際に、強誘電性を測定した結果、残留分極値、抗電界値はそれぞれ電気加熱炉の場合、22μC/cm2、50kV/cm、レーザー照射の場合、28μC/cm2、30kV/cmであり、誘電特性を測定した結果、誘電率、誘電損失はそれぞれ1kHzの周波数で電気炉加熱の場合、680.7%、レーザー照射の場合、1370.5%であった。
PZT膜を走査速度が0.3125mm/sで往復運動しているSUS430ステンレス基板上に酸素流量が61/minのエアロゾルジエット及びパワー10W、ビーム径4mmの赤外線レーザーを照射しながら5分間成膜後、エアロゾルジエットのみを停止させ、5Pa以下の低ガス圧状態で基板の走査速度並びに赤外線レーザー照射条件はそのままで約3分間加熱処理を行った。その結果、15μmの膜厚のPZTにおいて、成膜時の赤外線レーザー照射は全く効果がなかったが、成膜後の赤外線レーザー照射では、第9図に示すように、残留分極値が28.4μC/cm2、抗電界が47.6kV/cmの膜を直接SUS430ステンレス基板上で得ることができた。すなわち、赤外線レーザー照射による特性改善の効果は成膜中の照射だけでは得られず、成膜後の照射によって初めて得られた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、緻密で結晶化した膜にレーザーを照射することによって、膜の粒成長の促進や電気特性ならびに電気機械特性の改善を行うセラミックス超微粒子膜の成膜に関するものであり、特に圧電材料への適用は、次世代インクジェットプリンターやレーザーディスプレイ、網膜投射型ディスプレイなどの次世代表示デバイスのキーコンポーネントである高速光スキャナー、ナノ位置決め用の高速アクチュエータ、微小超音波デバイスなどへの利用ができる。さらに、次世代携帯端末に使われる高周波回路部品、微小電気機械システム(MEMS、NEMS)やマイクロ化学分析システム(μ−TAS)の分野への応用も期待できる。
【技術分野】
【0001】
この発明は、エアロゾルデポジションによるセラミックス膜構造体とその形成方法及び装置に関し、更に詳細には、基板上の誘電体、強誘電体、磁性体及び強磁性体等のセラミックス膜構造体を剥離させることなく粒成長及び欠陥回復するようにしたセラミックス膜構造体とその形成方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属やプラスチックで構成される基板上に誘電体や強誘電体、磁性体や強磁性体など電子セラミックス膜を形成する方法として、バルクを薄く機械加工して接着剤で貼り付ける技術と、スパッタ法やゾルゲル法のように直接基板上に形成するいわゆる薄膜形成技術がある。しかし、これらの技術はそれぞれ膜厚が100μm以上の厚膜、1μm以下の薄膜を形成する技術であり、1μm〜l00μmの膜を短時間で性能良く形成することはできない。
近年、サブミクロン粒子やナノ粒子などいわゆる超微粒子を溶融させないで固相状態のまま基板に衝突させ、低温で高速に超微粒子膜を成膜できる技術としてコールドスプレー法やガスデポジション法、エアロゾルデポジション法がある。しかし、コールドスプレー法に関しては金属膜だけでセラミックス膜の形成例がなく、ガスデポジション法に関してはセラミックス膜を形成した場合は、膜密度が55〜80%程度の圧粉体となり、これを焼結体とするための加熱処理が必要不可欠である。このガスデポジション法に関してはセラミックス膜を形成する場合の加熱処理としては、レーザーを超微粒子流の噴出方向に対して垂直に照射する技術(特許文献1)や成膜中に照射する技術(特許文献2)あるいは成膜後に照射する技術(特許文献3、特許文献4、特許文献5)として提案されている。
一方、エアロゾルデポジション法と呼ばれる脆性材料の膜あるいは構造物の形成方法がある。エアロゾルデポジション法とは脆性材料の微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを搬送し、高速で基板表面に噴射して衝突させ、微粒子を破砕・変形せしめ、基板との界面にアンカー層を形成して接合させるとともに、破砕した断片粒子同士を接合させることにより、基板との密着性が良好で強度の大きい脆性材料構造物を基板上にダイレクトに形成させることができる手法である。このエアロゾルデポジション法は常温衝撃固化現象によって短時間で理論密度の95%以上の非常に緻密な結晶化した厚膜を金属やガラス、プラスチックの上に直接形成することができる(非特許文献1)他のプロセスに類を見ない画期的な技術であり、上記の膜厚が1μm〜100μmの膜を、接着剤を用いないで短時間で性能良く形成できる(非特許文献2)。
エアロゾルデポジション法によって形成されたセラミックス膜は、成膜した状態で既に結晶化しているという大きな特徴を持つが、サブμmオーダーの結晶子サイズの超微粒子原料を用いる結果、数十nmのナノクリスタル構造をもつ(非特許文献3)ためにデバイス化したとき、電気特性や電気機械特性がバルク焼結体の特性と比較して十分に発揮されない。よって、実用化に耐えうる特性を引き出すためには、膜の粒成長の促進と欠陥回復のために基板加熱やポストアニーリングのような加熱プロセスの適用が不可欠である。例えばマイクロアクチュエータや光スキャナーなどいわゆる圧電材料の1つであるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の場合、従来は電気炉を用いて850℃以上で1時間以上ものポストアニーリングによってようやくバルク焼結体と同等の電気特性が得られている(非特許文献4)。
しかし、上記のような高い温度での基板加熱はもちろん電気炉加熱のように炉内部に設けてある発熱体による外部加熱では、膜だけでなく基板全体も加熱されてしまう。その結果、熱処理が不要な他の部材まで加熱されて熱的なダメージならびに熱応力による寸法精度のずれを与え、電子セラミックスとしての性能を著しく低下させてしまう恐れがあり、実用化を大きく妨げる。すなわち、加熱処理は、先述したようにバルク焼結体と同等の結晶粒径や電気特性、ならびに電気機械特性をセラミックス膜が回復するために必要不可欠であるが、このような熱処理方法では、熱に脆弱な金属基板やプラスチック基板を利用することはできない。具体的には金属基板では600℃以下、プラスチック基板では300℃以下のプロセス温度にしなければならない。
電気加熱炉の場合、膜自身を炉内に入れるため、例えば金属基板上の膜の場合に金属基板の熱影響による金属光沢の消失、熱溶融、熱変形及び機械的特性の劣化などが生じてしまう。また、炉内に入れた膜全体が加熱されるため、膜と基板の熱膨張係数差による剥離が生じたり、膜と基板との界面に厚い相互拡散層からなる異層が形成されるという問題がある。
【特許文献1】特開2000−256832号公報
【特許文献2】特開2000−260323号公報
【特許文献3】特開平5−44045号公報
【特許文献4】特開平6−49656号公報
【特許文献5】特開平6−116743号公報
【非特許文献1】明渡 純、Maxim Lebedev:まてりあ 41(2002)459−466.
【非特許文献2】明渡 純:セラミックス 38(2003)363−368.
【非特許文献3】明渡 純、清原正勝:粉体工学会誌 40(2003)46−54.
【非特許文献4】J.Akedo and M.Lebedev:J.Cryst.Growth 235(2002)415−420.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
先述したように、ガスデポジション法で形成したセラミックス膜は圧粉体であり、レーザーはこれを焼結体とするための加熱処理であって、レーザーの波長を、単に圧粉体並びに粒子ビームを構成している超微粒子の粒径より大きい波長で選択するというものである。
また、エアロゾルデポジション法で形成した膜はもちろん、スパッタ法やゾルゲル法で形成した膜も熱処理条件によっては基板から剥離する場合がある。ましてや膜にレーザーを直接照射して加熱する場合、急熱急冷プロセスのために膜は非常に剥離しやすい。さらに、従来のレーザー照射との組み合わせ技術では、照射するレーザーの種類、パワー、時間、照射方法等によっては基材と膜との熱膨張係数の違いや基材の熱伝導率、ヤング率や厚み、大きさから剥離が生じる問題があり、特に厚膜を形成した場合に顕著になって現れる。すなわち、従来のレーザー照射との組み合わせ技術では膜剥離に対して対応できず、実用的ではなく、解決すべき課題である。
さらに、レーザーを成膜中に照射する場合、減圧下では膜の放熱量が減少するために大気圧下と同様の条件でレーザー照射を行うと、過剰な加熱が生じ、膜の分解や酸素欠損が起こる。さらに、圧電アクチュエータの材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)や光シャッターの材料であるチタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PLZT)など鉛系セラミックスの場合では鉛欠損も生じ、化学量論組成比が崩れて特性が大幅に劣化する問題が生じる。
本発明は、エアロゾルデポジション法等で形成された微結晶セラミックス膜に、セラミックス自体は吸収しやすく、逆に金属では反射するという赤外線のセラミックス材料に対する光学特性を利用したレーザー照射による加熱処理を行うことにより、微結晶セラミックス膜が基板から剥離することなく粒成長及び欠陥回復が可能なセラミックス膜構造体、その形成方法及び装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、エアロゾルデポジション法等にレーザー照射を組み込む技術において、熱膨張係数や熱伝導率、ヤング率、基板サイズの点から基板材料の選択を行い、レーザーパワーの制御、加熱時間や温度制御(昇温、降温パターン)、レーザーの走査方法、粒子ビームとレーザー照射位置の関係を工夫することで膜剥離に関する問題点を解決し、実用的な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明における第1の発明は、セラミックス膜構造体の形成方法において、金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成した後、該微結晶セラミックス膜に赤外線レーザーを照射することを特徴としている。
また、本発明における第2の発明は、上記した第1の発明において、赤外線レーザーの照射により微結晶セラミックス膜の表面側から金属基板側に向けて膜厚方向に1℃/μm〜l00℃/μmの範囲で低下する温度勾配を保持させてなることを特徴としている。
また、本発明における第3の発明は、上記した第1又は第2の発明において、エアロゾルデポジション法により金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成することを特徴としている。
また、本発明における第4の発明は、上記した第1乃至第3のいずれか1つの発明において、赤外線レーザーの照射による微結晶セラミックス膜への単位面積当たりの入熱量、金属基板と微結晶セラミックス膜との熱膨張係数の差から、金属基板上に形成される微結晶セラミックス膜の膜厚及び膜面積の上限を定めることを特徴としている。
また、本発明における第5の発明は、上記した第4の発明において、微結晶セラミックス膜が積層により形成されることを特徴としている。
また、本発明における第6の発明は、上記した第4又は第5の発明において、微結晶セラミックス膜をチタン酸ジルコン酸鉛とし、赤外線レーザーの照射によるチタン酸ジルコン酸鉛膜への単位面積当たりの入熱量が10J/mm2以上の場合、チタン酸ジルコン酸鉛膜の膜面積を100mm2以下あるいは膜厚を20μm以下とすることを特徴としている。
また、本発明における第7の発明は、上記した第1乃至第3のいずれか1つの発明において、赤外線レーザーの照射による入熱を、微結晶セラミックス膜の単位面積当たりの入熱量、レーザービーム径及び照射時間により制御するとともにレーザー照射後バイアス加熱により徐々に温度を下げるように制御することを特徴としている。
また、本発明における第8の発明は、上記した第7の発明において、膜の温度が300℃以下になるまでは300℃/h以下の降温速度になるように制御することを特徴としている。
また、本発明における第9の発明は、セラミックス膜構造体の形成方法において、金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成中に赤外線レーザーを照射して成膜するとともに、成膜後に低ガス圧雰囲気で赤外線レーザーを照射することを特徴としている。
また、本発明における第10の発明は、上記した第9の発明において、低ガス圧雰囲気が1×10−6〜1kPaであることを特徴としている。
また、本発明における第11の発明は、上記した第9又は第10の発明において、成膜後の低ガス圧雰囲気での赤外線レーザー照射中、膜の基板からの剥離を、前記赤外線レーザーとは別の可視光レーザーにより検出することを特徴としている。
また、本発明における第12の発明は、金属基板を固定する移動自在な基板ホルダーを設け、該金属基板の表面にセラミックスのエアロゾルを噴射するノズルを設けるとともに、赤外線レーザー発振器及び光学系を設け、赤外線レーザー発振器から出力された赤外線レーザーを光学系を介して金属基板上に結晶化された微結晶セラミックス膜に照射するようにしたことを特徴としている。
また、本発明における第13の発明は、上記した第12の発明において、基板ホルダーを回転自在とすることを特徴としている。
また、本発明における第14の発明は、上記した第12又は第13の発明において、酸化物セラミックス及び窒化物セラミックスに対して酸素及び窒素等など反応性ガスを用いたエアロゾルジェットをノズルから噴射するようしたことを特徴としている。
また、本発明における第15の発明は、上記した第12乃至第14のいずれか1つの発明において、光学系にコリメーター及びレンズを備え、赤外線レーザーをミラーで広い範囲で走査する場合、常に膜に対する入熱が同じになるように赤外線レーザーのパワー及びビーム径を制御することを特徴としている。
また、本発明における第16の発明は、上記した第12乃至第15のいずれか1つの発明において、エアロゾルの搬送ガス及び金属基板を加熱する加熱手段を設けることを特徴としている。
また、本発明における第17の発明は、上記した第12乃至第16のいずれか1つの発明において、金属基板の熱伝導率に応じてセラミックス膜への加熱の程度を制御する手段を設けたことを特徴としている。
また、本発明における第18の発明は、上記した第12乃至第17のいずれか1つの発明において、少なくとも熱膨張係数が30×10−6/℃以下の基材を組み合わせてなる金属基板を用いたことを特徴としている。
また、本発明における第19の発明は、上記した第12乃至第18のいずれか1つの発明において、少なくとも熱伝導率が450W/mK以下の基材を組み合わせてなる金属基板を用いたことを特徴としている。
また、本発明における第20の発明は、上記した第12乃至第19のいずれか1つの発明において、少なくとも1〜100μmの厚さの金属基板を用いたことを特徴としている。
また、本発明における第21の発明は、上記した第12乃至第20のいずれか1つの発明において、少なくともヤング率が500GPa以下の基材を組み合わせてなる金属基板を用いたことを特徴としている。
また、本発明における第22の発明は、上記した第12乃至第17のいずれか1つの発明において、金属基板としてSUS430を用いたことを特徴としている。
また、本発明における第23の発明は、熱膨張係数が30×10−6/℃以下、熱伝導率が450W/mK以下及びヤング率が500GPa以下の基材を組み合わせてなる厚さが1〜100μmの金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成し、該微結晶セラミックス膜に赤外線レーザーを照射して作製されたことを特徴としている。
また、本発明における第24の発明は、上記した第23の発明において、金属基板がSUS430であることを特徴としている。
また、本発明における第25の発明は、上記した第23又は請求項24の発明において、微結晶セラミックス膜の材料組成がチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とすることを特徴としている。
また、本発明における第26の発明は、上記した第23乃至第25のいずれか1つの発明において、微結晶セラミックス膜の厚さが0.1〜20μmであることを特徴としている。
また、本発明における第27の発明は、上記した第23乃至第26のいずれか1つの発明において、微結晶セラミックス膜の結晶粒子サイズが膜表面近傍から金属基板界面近傍に向けて小さくなるように傾斜分布されていることを特徴としている。
また、本発明における第28の発明は、上記した第23乃至第27のいずれか1つの発明において、微結晶セラミックス膜と金属基板との界面に形成される相互拡散層の厚みが1nm〜200nmの範囲にあることを特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
(1)微結晶セラミックス膜と基板との剥離を防止し、かつ、微結晶セラミックス膜の粒成長及び欠陥回復がなされたセラミックス膜構造体を得ることができる。
(2)赤外線レーザー照射により、電気炉加熱のように基板に熱的影響を与えることがないため、安価なステンレス基板等を使用することができる。また、電気炉加熱したものに比べて高残留分極のあるセラミックス膜構造体を得ることができる。
(3)選択的な加熱処理が可能であり、熱エネルギーを効率的に用いることができる。
(4)レーザーを加熱したい膜だけに照射することができるため、金属基板への熱影響はほとんどない。たとえ、レーザーが金属部分に照射されても、使用しているレーザーが赤外波長であるためにほとんど金属部分で反射され、膜の部分のみ吸収が起こって加熱処理される。
(5)膜剥離が生じない薄い膜の上にさらに膜を積層することにより、膜剥離のない厚い膜を得ることができる。また、強誘電体及び強磁性体膜等の別々の特性を持つセラミックス膜の積層体を得ることができる。
(6)基板として適当な熱膨張係数、熱伝導率、ヤング率及び基板サイズを選択することにより、剥離のないセラミックス膜構造体を得ることができる。また、基板による膜の加熱の程度が制御可能である。
(7)レーザー照射によると、膜のレーザー吸収により内部から加熱されるため電気炉加熱の場合より低い温度で粒成長及び欠陥回復が可能である。
(8)レーザー照射の熱的効果による膜の結晶性や粒成長は、照射した膜の表面近傍が最も顕著であり、基板との界面に向けてその効果が減少しているため、基板側の膜よりも表面に近い内部膜の結晶粒子サイズの成長を図ることができる。
(9)レーザー照射による熱的効果は膜厚方向に対して勾配を持つため、膜と基板との界面に形成される相互拡散層からなる異相を減少させることができ、異相の厚みを1nm〜200nmの範囲に抑制することができる。
(10)基板を回転させることにより、走査速度を速めることができ、膜厚を非常に薄く制御できるとともにレーザー照射の入熱を減少できる。
(11)低ガス雰囲気でレーザーを照射することにより、効率的に低い入熱を膜に与えることができるだけでなく、膜表面からの放熱が抑制されるため剥離の大きな原因の1つである急冷を抑制することができる。
(12)膜形成中の赤外線レーザーの照射に加えて、膜形成後にも赤外線レーザーを照射することにより、高い残留分極値を示す膜を得ることができ、膜形成中にのみ赤外線レーザーを照射したものに比べて著しい特性の改善の効果が見られた。
(13)成膜部分に照射する可視光レーザーの反射光を検出することにより、膜剥離の有無を早急に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】1図は、本発明による微結晶セラミックスが厚膜化できる方法の一例を説明する図である。
【図2】2図は、本発明によるレーザー照射による加熱パターンの説明図である。
【図3】3図は、本発明によるレーザーのビームプロファイルの説明図である。
【図4】4図は、本発明による基材の熱伝導率によって膜の加熱状態が制御できる構造物の一例を説明する図である。
【図5】5図は、成膜されていないステンレス基板とPZT膜付きステンレス基板のレーザー照射に対する基板裏の温度特性を示すグラフである。
【図6】6図は、本発明によるセラミックス膜構造体の形成装置を示す概要図である。
【図7】7図は、レーザー照射によって剥離しなかった膜表面と剥離した膜表面の光学顕微鏡写真である。
【図8】8図は、成膜したままの未処理のPZT膜と電気炉加熱ならびにレーザー照射したPZT膜の電界強度−残留分極値特性を示すグラフである。
【図9】9図は、成膜中の赤外線レーザー照射に加えて成膜後にも赤外線レーザーを照射した場合におけるPZT膜の残留分極特性を示すグラフである。
【図10】10図は、ステンレス基板上に直接形成したPZT膜の基板側PZT膜及び表面に近い内部PZT膜の断面透過電子顕微鏡像(上段の図)及び電子線回折像(下段の図)を示したものである。
【図11】11図は、ステンレス基板上に直接形成したPZT膜を電気炉アニール及びレーザーアニールした断面透過顕微鏡像を示したものである。
【符号の説明】
【0007】
1 成膜チャンバー
2 真空ポンプ
3 X−Y−Zステージ
4 基板ホルダーa
5 金属基板
6 ノズル
7 炭酸ガスレーザー発振器
8 コントローラー
9 パワーモニターa
10 シャッター
11 ファンクションジェネレーター
12 オシロスコープ
13 光学系a
14 赤外線透過窓
15 パワーモニターb
16 基板ホルダーb
17 光学系b
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、セラミックス膜構造体とその形成方法及び装置において、基板上に形成したセラミックス膜にレーザーを照射して、膜が基板から剥離しないようにするとともにセラミックス膜の粒成長及び欠陥回復を実現可能とするものである。
基板の上に成膜したセラミックス膜は既に緻密で結晶化しており、レーザーを照射することによって微結晶粒の粒成長促進と欠陥回復を行う。照射するレーザーとしては赤外線領域で発振する赤外線レーザーであり、炭酸ガスレーザーが最適である。炭酸ガスレーザーは、同じ赤外線領域の波長を持つYAGレーザーと比較して、多くのセラミックスに対して吸収を示し、なおかつ金属に対しては殆ど吸収を示さない特性を有する。即ちこの特性を利用すると、セラミックス膜だけを効果的に加熱処理することができ、さらには基板の金属面上に成膜したセラミックス膜やビーム径より小さなセラミックス膜だけを選択的に加熱処理することが可能である。
また、レーザーを加熱したい膜だけに照射できるため、金属基板への熱影響はほとんどない。たとえ、レーザーが金属部分に照射されても、使用しているレーザーが赤外の波長であるためほとんど金属部分で反射され、膜の部分のみ吸収が起こって加熱処理される。
さらに、レーザーの熱的効果だけを利用するという観点から、照射に必要なレーザーのパワーは100W以下のクラス4であるレーザーで充分であり、レーザーパワーを上記の点を満たすように適切に制御すれば、赤外領域の半導体レーザーやYAGレーザーも利用可能である。この様な加熱で粒成長や欠陥回復をセラミックス膜に生じせしめる温度としては、対象とするセラミックス材料にもよるが、少なくとも600℃以上の温度が必要で、好ましくは800℃以上の温度が必要となる。また、上記のようなレーザー照射は、スパッタ法やゾルゲル法、CVD法などで成膜した膜でも特性回復の効果は十分にある。
【0009】
基板の上に成膜されるセラミックス膜はエアロゾルデポジション法で成膜するのが好ましい。本発明である実用化に耐え得る微結晶セラミックスを形成するためには、レーザー照射前の膜は既に結晶化している必要がある。さらに、膜は緻密で機械的特性も充分であり、唯一、加熱による粒成長促進や欠陥回復が求められるレベルの膜である必要がある。エアロゾルデポジション法は粒径0.08〜2μm程度のセラミックス焼結体の超微粒子を利用して、室温で金属やガラス、プラスチック基板上に結晶化した膜を20MPa以上の高い密着力で高速かつ緻密に成膜できる現在唯一の方法である。室温形成された膜の微細組織は、結晶粒径5nmから80nm程度の微結晶体から構成されるのが特徴である。
炭酸ガスレーザーを金属基板上のセラミックス膜に照射した場合、膜はレーザーを吸収して発熱し、下地の金属基板はレーザーの吸収ではなく、膜からの熱伝導によってのみ加熱される。このとき、膜厚や膜面積が大きいほどより炭酸ガスレーザーを吸収して発熱し、その結果、基材や基材と膜との熱膨張係数の違いから熱衝撃が生じ、膜剥離が起こる。よって照射するレーザーパワーと金属基板の熱膨張係数に対して膜厚や膜面積の上限を定め、膜剥離が生じない膜厚の範囲を決定する必要がある。ステンレス(SUS304)基板上のPZT膜は、少なくとも100mm2以上の膜面積、あるいは、20μm以上の膜厚のとき、少なくとも10J/mm2以上の入熱で剥離が引き起こされる。膜厚は20μm、好ましくは0.1〜20μm,より好ましくは1〜10μmである。しかし、20μm以上でも、100mm2より狭い面積の膜へのレーザー照射や、20μmより薄い剥離しない膜の上にさらにセラミックス膜を積層してレーザー照射することによって膜剥離が生じない20μm以上の膜厚のセラミックス膜の形成も可能である。また、強誘電体膜や強磁性体膜など別々の特性を持つセラミックス膜の積層化も可能である。
【0010】
基板上に成膜されたセラミックス膜にレーザーを照射する場合、膜に対する入熱ステップも考慮する必要がある。すなわち、入熱は単位面積あたりのレーザーパワーと照射時間の積で表されるので、レーザーパワーとビーム径、照射時間の制御が必要である。ビーム径の制御はレンズによって可能である。PZT膜の面積はビーム径より著しく大きい場合、膜と基板の界面に働く成膜時に導入される歪だけでなく、レーザー照射時に膜内で発生した熱応力によってビーム径の大きさに依存した剥離が生じる。
特に膜剥離はレーザー照射後の急激な降温時に起こると考えられるので、第2図に示すような、レーザー照射後、急激に膜の温度が下がらないようにバイアス加熱をすると効果的である。例えば、レーザーパワーをゆっくり下げたり、ビーム径をレンズで広げたりして急激な入熱の変化を抑制したり、予備加熱用のレーザーを加熱用レーザーの照射後に利用したりすることによって膜剥離の防止が可能である。また、電気炉加熱による実際の降温パターンは炉冷であるが、炉内温度が300℃に下がるまで300℃/hの降温速度以上にならないように降温パターンを設定した場合、膜剥離は生じていない。よって、レーザーによる入熱ステップは、レーザー照射後、膜の温度が300℃以下になるまで300℃/h以下の降温速度になるようにバイアス加熱すれば良い。上述の技術によって、膜剥離が生じない膜が形成できれば、さらにその上にセラミックス膜を成膜させ、レーザーを照射するというプロセスの繰り返しによって、膜の積層化が実現し、より厚い膜や例えば強誘電体膜と強磁性体膜の積層化が可能である(第1図)。
【0011】
成膜後のチャンバー内で炭酸ガスレーザーを照射する場合、チャンバー内は減圧下であるので大気圧下と同様のレーザーの入熱では放熱量が減少し、熱的バランスが崩れ、必要以上に膜の加熱が生じ、結果的に膜剥離が起こる。よってレーザー照射時の雰囲気も放熱の観点から考慮する必要がある。ここで熱的バランスは、次式で表現される。
ここでmiは照射される物体の全熱容量、tは照射時間、T0は初期温度、Tはレーザー照射時の温度、I0は吸収パワー、eは放射率、σはStefan−Boltzmann定数、Sは照射される物体の表面積、Gは雰囲気の熱伝導率である。
しかし逆に減圧下でも、酸化物セラミックスや窒化物セラミックスに関して、それぞれ酸素や窒素など反応性ガスを供給し、圧力制御すると、反応性ガスを供給しない場合よりも低い入熱のレーザーで膜の粒成長が促進されると考えられる。すなわち、粒子ビーム(エアロゾルジェット)に酸素、窒素などの反応性ガスを使用、あるいはヘリウムやアルゴンなど不活性ガスと一緒に混合した場合や、別途、反応性ガス供給用のノズルを設ける方法がある。反応性ガスはそのノズルがエアロゾルジェットやレーザーを遮らない程度にレーザーの照射位置に近づけて吹き付けられるのが好ましい。供給方法としては、ガスの供給とレーザー照射をエアロゾルジェットに対して垂直にすることによって、基板や膜に超微粒子流が到達する前に活性状態の超微粒子流を作り出して粒成長を促進させたり、非熱平衡状態が起きている位置、すなわちエアロゾルジェットが基板や膜に衝突する位置にガスの供給とレーザー照射をすることによって粒成長を促進させたり、成膜後の膜表面にガス供給とレーザー照射を行って粒成長を促進させる方法がある。
【0012】
また、レーザーのビーム径より広い範囲を持つ膜を加熱処理する場合、レーザーをミラーで走査する必要がある。その場合、レーザーの照射角度によって膜に対する照射面積が変化する。よって、常に膜に対する入熱が同じになるようにパワーやビーム径を制御することが膜剥離を抑制するだけでなく、均質な加熱処理を実現する意味で重要である。また、ビームの周辺付近では著しい温度勾配があると考えられるので、ビームのプロファイルのとしてはビーム強度が中心より周辺が大きい形が好ましい(第3図)。
成膜中にレーザーを照射する場合、エアロゾルジェットとレーザーの位置関係も非常に重要である。レーザーをエアロゾルジェットの走査方向に対して前後に照射した場合、成膜後に照射する場合と違って膜厚が薄いことから、より低いレーザーパワーで、成膜後のレーザー照射効果と同様の結果が得られる可能性がある。また、レーザーをエアロゾルジェットの基板への衝突位置に照射した場合、エアロゾルデポジション法特有の非熱平衡状態の成膜プロセスに、さらにレーザーの急熱急冷による非熱平衡プロセスを重畳することによって非熱平衡プロセスに拍車がかかり、例えば、逆に意図的な欠陥を導入したり、欠陥量を制御したりすることで物性を制御するなど、全く新しい機械特性や電気特性、結晶構造を発現した機能性セラミックスの成膜が実現できる可能性がある。一方、エアロゾルジェットにレーザーを照射する場合、レーザーパワーの制御によって、加熱による超微粒子のクリーニングで膜中の欠陥抑制や、超微粒子の粒成長で結晶粒が大きい膜の形成が期待される。
【0013】
しかし、レーザーをエアロゾルジェットの走査方向に対して前後に照射する場合は、基板表面を流れる搬送ガスによって膜の冷却が生じるため、レーザー照射面の吸熱と放熱のバランスを考慮する必要がある。また、レーザーをエアロゾルジェットの基板や膜への衝突位置に照射した場合、ノズルから噴出されたエアロゾルジェットに曝された基板ならびに形成膜は、断熱膨張によって局部的に冷却される可能性もあるため、膜厚方向ならびに走査方向に対して非常に大きな温度勾配が生じ、結果として熱衝撃による膜剥離が起こる可能性がある。
上記の冷却の問題を解消する方法として、あらかじめ搬送ガスや基板を数百度の温度に上げておくことで熱衝撃を抑制することが可能である。温度としてはレーザー照射前の膜の温度が、熱衝撃による剥離防止を考慮すると600℃以下、また、基材へのダメージを考慮すると、高くても400℃程度以下になることが好ましい。基板の加熱方法としてはレーザー照射を利用し、投入エネルギー密度をビーム径あるいはレーザーパワーを制御することによって変化させ、基板の予備加熱用と膜の熱処理用との区別ができるものとする。その際、別途基板・膜表面温度センシング用のレーザーを利用し、基板の予備加熱用と膜の熱処理用のレーザーコントローラーにフィードバックさせることで投入エネルギー密度の制御を行うことが出来るものとする。また、基板加熱や搬送ガス加熱をしているところにレーザー照射をすると、レーザー照射による熱衝撃が緩和され、制御性も向上し、実用性も高いと考えられる。
膜剥離を抑制する他の手段として、成膜中における赤外線照射に加えて、成膜後に1×10−6kPa、より好ましくは50〜1kPaの低ガス圧雰囲気で赤外線レーザーを照射する方法がある。これによって先述した効率的により低い入熱を膜に与えることができるだけでなく、膜表面からの放熱が抑制されるために断熱効果、すなわち大気中や高いガス圧雰囲気の場合と比較して放冷が抑制され、膜剥離の大きな原因の1つである急冷が抑制できる。さらに、成膜後エアロゾルジエットのみを停止させて赤外線レーザーを照射するために、成膜状態のまま基板−膜−マスクの構成は全く変わらず、赤外線レーザーによる熱処理後、再び成膜を開始することによって寸法精度が良い厚膜あるいは多層膜を形成することができる。
【0014】
上記した熱処理用の赤外線レーザーとは別に可視光レーザーを成膜部に向けて照射するように手段を設けることにより、成膜後の赤外線照射中、膜が基板から剥離した場合、可視光レーザーが基板剥離面で反射するため、その光を検出することによって膜剥離の有無を早急に確認することができる。
また、炭酸ガスレーザーを吸収してセラミックス膜が発熱しても、基板の熱伝導率が高すぎる場合、セラミックス膜は特性が改善されるほどには加熱されない。この場合、膜の特性の改善のために、さらに大きな入熱のレーザー照射によって膜を加熱した場合、膜と同時に周辺の部材も加熱される。すなわち、結果としてセラミックス膜ではなく、周辺の部材が熱によるダメージを受ける。逆に、基板の熱伝導率が低すぎる場合、加熱されるセラミックス膜と基板の接合界面に熱膨張係数の違いによる大きなせん断力が発生し、膜剥離が生じる。また、その際、基板の厚みが適切ではなく、薄すぎると、発生したせん断力によって基板は大きく変形したり、熱影響によって著しい変色や変質が生じたりする。よって、基板としては適当な熱膨張係数や熱伝導率、基板サイズの選定が重要である。逆にこのような基板の材質を特に熱伝導率で設計し、組み合わせることによって膜の加熱の程度が制御できる(第4図)。
【0015】
炭酸ガスレーザーを照射するセラミックス膜としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とした膜が好ましく、その結晶組織は緻密なナノ結晶構造である。そして上述した膜剥離の抑制のために制御されたレーザー照射によって、0.08μm以上、2μm以下の結晶子サイズに粒成長制御される必要がある。これは、PZTアクチュエータのような圧電材料の電気機械特性を利用する場合、上記のような結晶粒子径の範囲を調節することで、大きな圧電応答と高い機械強度、温度安定性、周波数安定性を両立させることが可能となり、また脱分極が生じにくいなどのアクチュエータとしての性能向上が可能となるためである。
【0016】
基板の材料としては単結晶シリコンと同程度のヤング率を有するステンレス基板が好ましい。ステンレス基板は表1に示すように、純金属より一般的に低い熱伝導率(SUS304=17.3W/mK、SUS430=26W/mK)であるため、成膜されたセラミックス膜はレーザー照射によって加熱されやすい。さらにステンレス基板の中でも熱膨張係数を加味すると、SUS430はSUS304より熱膨張係数が小さいので(SUS430:10.5×10−6/℃、SUS304:16.3×10−6/℃)、レーザー照射時の熱応力を緩和するためにはSUS430の利用が有効であると考えられる。また純金属ではステンレスと同程度の熱伝導率(17W/mK)と低い熱膨張係数(8.6×10−6/℃)を示すチタン基板の利用が適当であると考えられる。上記の条件を総合すると剥離しない基材の条件は、少なくとも熱膨張係数が30×10−6/℃以下、好ましくは1×10−6/℃〜30×10−6/℃、より好ましくは1×10−6/℃〜20×10−6/℃、熱伝導率が450W/mK以下、好ましくは0.01〜450W/mK、より好ましくは10〜150W/mKであることが分かる。
【表1】
【0017】
一方、機械的性質の観点から、基板の材料としてヤング率の小さいアルミニウム(68.5GPa)や金(79.5GPa)、銀(73.2GPa)なども有効である(表1)。すなわち、ヤング率が小さいと柔らかいため、熱膨張係数の差が大きくても膜と基板界面に働くせん断応力が緩和されるためである。よって、これらの材料は基板の材料のみならず、膜と基板の間に挿入される緩和層としても有効である。以上の観点からヤング率は少なくとも500GPa以下、好ましくは0.001〜500GPa、より好ましくは50〜100GPaの材料が膜剥離を防止する上で有効である。
本発明によれば、エアロゾルデポジション法を用いて100μmの厚さのSUS304ステンレス基板上に成膜した、緻密で結晶化したPZT厚膜の粒成長促進やその電気特性、電気機械特性を改善するために、13Wのパワーの炭酸ガスレーザーを4mmのビーム径で膜に照射させた。その結果、レーザーを50秒間照射した場合、膜厚が20μm以上では膜剥離が生じ、5μm以下にした場合は膜剥離が起こらず、ステンレス基板もほとんど熱影響を受けないで、膜だけを加熱処理することが出来た。レーザーが照射されたPZT膜は電子顕微鏡観察の結果、粒成長やネッキングを起こしており、30μC/cmという高い残留分極値を示した。この値は電気炉加熱を行った膜より優れており、さらにはPZT膜の成膜されていないステンレス基板にレーザーを照射しても基板は全く変化しなかったことから、従来技術では不可能であった、安価なステンレス基板上に形成した微小なPZT圧電デバイスの選択的な加熱処理が短時間で実現できることを見出した。
【実施例1】
【0018】
第5図は、何も成膜されていないステンレス基板と4〜5μm及び45μmの膜厚のPZTが成膜されたステンレス基板に対する炭酸ガスレーザー照射時の基板裏の温度変化を示すグラフである。データロガーはレーザー照射10秒前から記録してあり50秒間レーザーを照射してある。レーザーを照射した結果、照射開始からわずか10秒足らずでほぼ最高温度に達成できることが分かる。何も成膜されていないステンレス基板にレーザーを照射した場合は120℃程度しか温度は上昇せず、基板の変形や基板表面の色の変化なども全く確認されなかった。一方、PZT膜が成膜されたステンレス基板にレーザーを照射した場合、4〜5μmでは280℃〜350℃程度、45μmでは600℃程度の基板裏面の温度上昇が確認され、確かに炭酸ガスレーザーの吸収特性がPZT膜とステンレス基板とで異なっていることが分かる。一方、600℃で1時間の電気炉加熱を施した場合はステンレス基板全体が茶褐色に変色していた。また、電気炉加熱の場合、炉内にある発熱体の輻射熱によってセラミックス膜は外部から加熱されるが、レーザー照射の場合、膜はレーザーの吸収によって内部から加熱される。よってレーザー照射によって電気炉加熱の場合より低い温度で粒成長や欠陥回復の効果が期待される。
【実施例2】
【0019】
第6図は、本発明の微結晶セラミックスの形成装置を説明するための概略図であり、微結晶セラミックスはエアロゾルデポジション法で成膜される。すなわち、図中1は成膜チャンバーであり、真空ポンプ2によって50〜1kPa前後に真空排気され、雰囲気ガスの導入によって50〜1×103Pa前後に調節されている。成膜チャンバー1の内部にはX−Y−Zステージ3が設置されており、基板ホルダーa4と接続されており、プログラムによって走査させることができる。金属基板5は基板ホルダーa4に固定され、ノズル6から噴出されたエアロゾルジェットあるいは成膜チャンバー1内に導入された赤外線レーザーの照射に対して自由に向きを変えることができる。また、基板ホルダーa4及びb16には回転機構が設けてあり、レーザーの照射時間を回転数で制御したり、基板を同軸回転させたりすることによって膜厚や膜に対するレーザーの照射ムラの抑制が可能である。膜厚を100nmの精度で制御することにより、膜厚制御による膜剥離防止だけでなく、レーザーの膜に対する入熱を減少できる効果がある。すなわち、X−Y−Zステージを用いた基板の移動では10mm/s以上の走査は困難であるため、モーターを用いた回転運動によって1回の走査速度を速めることで、1層の膜厚を非常に薄くすることができ、レーザー照射による入熱は減少できる。さらに上記のような単層を積層化することによって粒径が0.08〜2μmの膜をX−Y−Zステージを用いた場合より低い入熱で形成することができる。その際、基板の周速度としては10mm/s〜1km/sが好ましい。
レーザーは炭酸ガスレーザー発振器7によって出力され、コントローラー8によってオン・オフすることができる。炭酸ガスレーザー発振器7から出力されたレーザーはパワーモニターa9によってモニタリングされ、コントローラー8と連動することによって所望のパワーのレーザーを出力することができる。
レーザーはシャッター10によってもオン・オフすることができ、コントローラー8と独立構成にすることで、赤外線レーザー発振器7がレーザーを安定発振するまでシャッターを閉じることができる。シャッター10はファンクションジェネレーター11によって形成された信号によってシャッターの開閉時間を調節することができ、それによってレーザーの照射時間を制御することができる。ファンクションジェネレーター11はオシロスコープ12によって信号波形のモニタリングがされている。
エアロゾルデポジション法によるセラミックス膜の成膜中にレーザーを照射する場合は、コリメーターやレンズ、ミラーを具備した光学系a13によって成膜チャンバー1に設けられた赤外線透過窓14を通して膜上に照射される。照射されたレーザーは光学系a13によって所望のビーム径にすることができる。また、レーザーは、走査方向に対してエアロゾルジェットの前後、あるいはエアロゾルジェット中に照射することもでき、光学系a13中のミラーを制御することによって2次元的に走査することも可能である。
成膜チャンバー1に導入される直前のレーザーのパワーは光学系a13によって若干損失する可能性があるため、より正確なレーザーパワーを把握するためにパワーモニターb15によってもモニタリングすることができる。
エアロゾルデポジション法によるセラミックス膜の成膜後にレーザーを照射する場合は、破線で示した基板ホルダーb16にセラミックス膜付基板を固定して加熱処理する。膜に照射されるレーザーのビーム径は、シャッター10の後にコリメーターとレンズを具備した光学系b17を使うことによって調節することができる。基板ホルダーb16は成膜チャンバー1の内部あるいは外部のどちらに設置されていても良い。
【実施例3】
【0020】
エアロゾルデポジション法において、厚さ100mmのステンレス(SUS304)基板の上にPZTの成膜を行った。基板表面は特に鏡面研磨をしていないものを用いた。基板はX−Y−Zステージ3に接続された基板ホルダーa4に固定され、一軸方向に1.25mm/sの速度で30mm走査させた。成膜雰囲気は40Pa前後であり、ノズル6からPZT微粒子とヘリウムガスのエアロゾルジェットを基板に吹き付けた。ノズルは先端出口が10×0.4mm2のオリフィス形状のものを使用し、ノズルと基板までの距離は10mmであった。PZT微粒子は固相法で作成された市販の焼結用のものを利用し、組成はPb(Zr0.52,Ti0.48)O3で粒度分布は0.08〜0.5μmであった。ヘリウムガス流量は2.51/minであった。成膜はマスクを用いて行い、PZT膜を4mm角の面積で成膜した。
上記で作成したPZT膜に炭酸ガスレーザーを照射した。照射雰囲気は大気圧、大気中であり、レーザーパワーは13W、ビーム径は4mm、照射時間は50秒で行い、特に基板バイアス加熱による膜剥離に対する対策は行わなかった。その結果、PZTの膜厚が20μm以上の場合、全ての膜においてレーザー照射中に膜が赤熱し、ビーム径の大きさで膜剥離が生じた。一方、膜厚が20μm以下の場合、一部剥離しない膜が見られ、5μm以下では全ての膜において膜隔離は生じず、照射後、膜の色が黄色に変色しているのが確認された。
第7図は、典型的な剥離した膜と剥離しなかった膜の光学顕微鏡写真である。この結果は、膜厚が大きくなるとレーザーによる膜の熱吸収量がより大きくなり、膜と基板の熱膨張係数の違いから界面に大きなせん断力が発生し、膜の基板に対する密着力を上回って剥離が生じたものと考えられる。膜剥離はレーザーの照射時間を50秒より長くした場合にも確認され、上記と同様の要因であると考えられる。
【実施例4】
【0021】
また、50μmの厚さのステンレス基板を用いて上記と同様な実験を行った場合、レーザー照射後に熱影響による基板の大きな変形と基板裏面の大きな変色が確認された。電界強度−残留分極値特性を調べた結果ではヒステリシス曲線は描くものの、著しい耐電圧の低下や漏れ電流の影響によるヒステリシス曲線の変形が見られた。これはレーザー照射によって加熱された膜から基板に伝導した熱によって膜と基板の熱膨張係数の違いから基板に大きな熱変形が生じ、膜と基板界面の密着強度の低下や部分的な剥離が生じたり、膜に間隙が生じて上部電極形成時に電気的な短絡経路が形成されたりしやすい状況になったものと考えられる。これはレーザー照射時の基板加熱をすることで膜と基板界面に発生する熱応力を緩和したり、照射時間を短縮する代わりにレーザーパワーを大きくして入熱を制御し、基板が熱影響を受けない程度に膜を加熱したらすることによって解決できる。
次に、Pt/Al2O3基板、ならびにPt/Ti/SiO2/Si基板上に600℃の基板加熱をしながらエアロゾルデポジション法を用いて成膜された、膜厚が20μmのPZTに実施例3記載の条件でレーザーを照射した。その結果、Pt/Al2O3基板上のPZTは変色していたものの膜剥離と基板の破砕が生じた。一方、Pt/Ti/SiO2/Si基板上のPZTは全く変化を示さず、レーザーをレンズで絞って、エネルギー密度を高くしても全く変化を示さなかった。その後、電気特性を計測した結果、未照射の膜より若干特性改善が見られただけであった。この結果は、実施例1で明らかとなった基板の熱膨張係数の違いに加え、基板の熱伝導率が大きな要因になっているものと考えられる。すなわち、Pt/Al2O3基板上のPZTにレーザーを照射した場合、Ptは熱伝導率が良く、膜厚が非常に薄いために下地のAl2O3基板もすぐ加熱される。しかし、Al2O3基板の熱伝導率はステンレスと同程度で熱膨張係数も小さいものの、金属材料と違って脆性材料であるためにレーザー照射による急熱急冷によって熱衝撃が生じ、破砕したものと考えられる。この問題に関しては、レーザーを照射後にPt/Al2O3基板が急冷されないように、基板加熱や予備レーザーによる加熱、レーザーの照射パターンを第1図のようにすることによって解決可能である。
一方、Pt/Ti/SiO2/Si基板上のPZTにレーザーを照射した場合、上記同様、熱伝導率の高いPt層と、極薄のTi層を通じてSi基板が加熱される。しかし、Si基板の熱膨張係数は小さいものの、熱伝導率が非常に大きいため、加熱されている膜から熱を奪い去り、結果としてPZTは600℃以上に加熱されなかったものと考えられる。この場合、膜から奪われた熱はSi基板全体によって平均化されるが、膜の改質を期待するあまり、照射時間を長くすることによって投入熱量を増加すると、Si基板も加熱されることになり、膜周辺の部材に熱によるダメージを与えることとなる。よってレーザーパワーを増加させ、少なくても膜周辺の部材が熱伝導によって400℃以上にならないように照射時間並びに照射パターンを制御することによって解決可能である。表1に代表的な金属及びセラミックスの熱膨張係数と熱伝導率を示す。
【実施例5】
【0022】
3.5μmの膜厚のPZT膜を実施例1と同じ条件でステンレス(SUS304)基板上に2つ成膜し、1つを汎用電気炉で加熱処理し、もう1つをレーザー照射によって加熱処理した。電気炉は大気雰囲気中で室温から300℃/hの昇温速度で600℃まで上昇させ、そのまま1時間保持して加熱処理を施し、その後炉冷した。レーザー照射は上記と同じ条件で行った。その後、加熱処理したPZT膜はダイヤモンドペーストを用いて表面を研磨し、清浄にした後、マスクを用いて1mm角の金電極をスパッタ法で形成し、電気特性の測定によって、電気炉加熱の場合とレーザー照射の場合を比較した。
第8図は、ステンレス基板上に成膜したままである未処理のPZT膜と電気炉加熱ならびにレーザー照射を行った場合の電界強度−残留分極値特性を示すグラフである。膜厚はどちらも3.5μmであった。成膜したままである未処理のPZT膜は電界強度に対して原点を通る線形的な挙動を示していることから本来のPZTの特性である強誘電性ではなく常誘電性であることが分かる。これはエアロゾルデポジション法が衝撃固化現象を利用した成膜プロセスであるために、成膜時の膜内に様々な構造欠陥や残留応力が導入され、さらには形成された膜が微結晶粒構造であることから、ドメインの分極反転が非常に困難になっているものと考えられる。一方、電気炉加熱やレーザー照射を行ったPZT膜に関しては、電界強度に対してヒステリシスループを描いた。このことからエアロゾルデポジションで形成した常誘電性を示したPZT膜は、加熱処理することで微結晶の粒成長や欠陥回復が行われ、本来の特性である強誘電性を示すものと考えられる。
電気炉加熱とレーザー照射を比較した場合、電気炉加熱では16μC/cm2の残留分極値を示したのに対して、レーザー照射を行った場合の方は30μC/cm2という高い残留分極値を示した。また、レーザーを照射した膜と照射しなかった膜の電子顕微鏡観察、ならびにX線回折を行い比較した結果、レーザー照射した膜は照射しなかった膜より粒同士のネッキングや粒成長が見られ、さらにX線回折ピークもシャープになっていた。上記の結果から、電気炉加熱では膜とステンレス基板全体が発熱体の輻射熱で加熱されるのに対し、レーザー照射は膜の部分だけに照射、吸収され、熱に変換された結果、殆ど膜だけが効率的に加熱処理されたものと考えられる。さらにレーザーの集光性とセラミックスと金属に対する炭酸ガスレーザーの吸収特性の違いから、電気炉加熱のようなステンレス基板の過熱が生じず、膜の電気特性を劣化させる金属基板表面の酸化物層の形成や基板の機械特性の劣化も抑制されるものと考えられる。
レーザー照射の熱的効果による膜の結晶性や粒子成長は、照射した膜の表面近傍が最も顕著であり、基板との界面に向けてその効果は減少している。すなわち、レーザー照射による熱的効果は膜厚方向に対して勾配を持つ。具体的には、微結晶セラミックス膜の表面側から金属基板に向けて膜厚方向に1℃/μm〜100℃/μmの範囲で低下する温度勾配を生じさせることができる。したがって、膜表層に比べ、基板との界面近傍の温度は極端に低いため、基板の熱影響による溶融及び変形、表面酸化、機械特性の劣化を抑制することができる。また、膜と基板界面の相互拡散層からなる異相生成を抑制することによって、膜の組成ずれを防止できる。さらに、異相はしばしば低誘電率層であるため、高誘電率層との直列回路によって生じる高誘電率膜の誘電特性劣化も防止できる。なお、従来法である電気炉アニーリングでは、大きな構造体の場合、内部に温度勾配が生じるが、膜構造体の場合では全体が加熱されてしまうため、基板の表面及び機械特性の劣化はもちろん、膜と基板界面の異相も成長してしまう。
第10図は、ステンレス基板上に直接形成したPZT膜の基板側PZT膜及び表面に近い内部PZT膜の断面透過電子顕微鏡像(上段の図)及び電子線回折像(下段の図)を示したものである。その結果、表面に近い内部PZT膜の方が基板側PZT膜よりも結晶粒子サイズは大きく、結晶性を示す電子回折像も微結晶(アモルファス)を示すハロー状のブロードな成分を含まない明確なリングを示していることがわかる。すなわち、基板側PZT膜よりも内部PZT膜の結晶性の向上、すなわち結晶粒子サイズの成長が認められ、具体的には、膜表面近傍の結晶粒子サイズは1000nm、基板との界面近傍の結晶粒子サイズ10nmと傾斜分布ができる。結晶粒子サイズの分布が勾配をもつことにより、膜中の応力が低減(分散、緩和)され、剥離の防止や応力に起因する膜特性、例えば電気特性の劣化が防止できる。また、微細な粒径による膜の機械的強度と粒成長による膜の電気的特性等の両立が図れる。さらに、粒径が異なる粒子間の界面に結晶力学的圧力が導入されるため、膜を構成する結晶の格子が歪み、その結果、電気炉アニーリングした膜及び焼結体を超えるような非常にに大きな物性値、例えば巨大誘電率等の物性値の発現が期待される。
第11図は、ステンレス基板上に直接形成したPZT膜を電気炉アニール及びレーザーアニールした断面透過顕微鏡像を示したものである。レーザー照射による熱的効果は膜厚方向に対して勾配を持つため、膜と基板との界面に形成される相互拡散層からなる異相の厚さを減少させることができる。しかもこのとき、膜と基板との密着性は保たれたままである。具体的には、異相の厚みを1nm〜200nmの範囲に抑制することができる。
実際に、厚さ100nmのステンレス箔基板上に形成した厚さ35nmのPZT膜に本発明を適用した結果、従来法である電気加熱炉の場合、結晶粒子サイズが40〜60nm、異相の厚さは250nmに対して、レーザー照射の場合、結晶粒子サイズは30〜50nm、異相の厚さは100nmであった。しかも、レーザー照射した膜の平均結晶粒子サイズが電気炉加熱より小さく、すなわち機械的強度が大きくなっているにも関わらず、電気特性は電気炉加熱の場合よりも優れていた。実際に、強誘電性を測定した結果、残留分極値、抗電界値はそれぞれ電気加熱炉の場合、22μC/cm2、50kV/cm、レーザー照射の場合、28μC/cm2、30kV/cmであり、誘電特性を測定した結果、誘電率、誘電損失はそれぞれ1kHzの周波数で電気炉加熱の場合、680.7%、レーザー照射の場合、1370.5%であった。
PZT膜を走査速度が0.3125mm/sで往復運動しているSUS430ステンレス基板上に酸素流量が61/minのエアロゾルジエット及びパワー10W、ビーム径4mmの赤外線レーザーを照射しながら5分間成膜後、エアロゾルジエットのみを停止させ、5Pa以下の低ガス圧状態で基板の走査速度並びに赤外線レーザー照射条件はそのままで約3分間加熱処理を行った。その結果、15μmの膜厚のPZTにおいて、成膜時の赤外線レーザー照射は全く効果がなかったが、成膜後の赤外線レーザー照射では、第9図に示すように、残留分極値が28.4μC/cm2、抗電界が47.6kV/cmの膜を直接SUS430ステンレス基板上で得ることができた。すなわち、赤外線レーザー照射による特性改善の効果は成膜中の照射だけでは得られず、成膜後の照射によって初めて得られた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、緻密で結晶化した膜にレーザーを照射することによって、膜の粒成長の促進や電気特性ならびに電気機械特性の改善を行うセラミックス超微粒子膜の成膜に関するものであり、特に圧電材料への適用は、次世代インクジェットプリンターやレーザーディスプレイ、網膜投射型ディスプレイなどの次世代表示デバイスのキーコンポーネントである高速光スキャナー、ナノ位置決め用の高速アクチュエータ、微小超音波デバイスなどへの利用ができる。さらに、次世代携帯端末に使われる高周波回路部品、微小電気機械システム(MEMS、NEMS)やマイクロ化学分析システム(μ−TAS)の分野への応用も期待できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス膜構造体の形成方法において、金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成した後、該微結晶セラミックス膜に赤外線レーザーを照射することを特徴とするセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項2】
赤外線レーザーの照射により微結晶セラミックス膜の表面側から金属基板側に向けて膜厚方向に1℃/μm〜l00℃/μmの範囲で低下する温度勾配を保持させてなることを特徴とする請求の範囲第1項記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項3】
エアロゾルデポジション法により金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成することを特徴とする請求の範囲第1項又は請求の範囲第2項記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項4】
赤外線レーザーの照射による微結晶セラミックス膜への単位面積当たりの入熱量、金属基板と微結晶セラミックス膜との熱膨張係数の差から、金属基板上に形成される微結晶セラミックス膜の膜厚及び膜面積の上限を定めることを特徴とする請求の範囲第1項乃至請求の範囲第3項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項5】
微結晶セラミックス膜が積層により形成されることを特徴とする請求の範囲第4項記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項6】
微結晶セラミックス膜をチタン酸ジルコン酸鉛とし、赤外線レーザーの照射によるPZT膜への単位面積当たりの入熱量が10J/mm2以上の場合、チタン酸ジルコン酸鉛膜の膜面積を100mm2以下あるいは膜厚を20μm以下とすることを特徴とする請求の範囲第4項又は請求の範囲第5項記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項7】
赤外線レーザーの照射による入熱を、微結晶セラミックス膜の単位面積当たりの入熱量、レーザービーム径及び照射時間により制御するとともにレーザー照射後バイアス加熱により徐々に温度を下げるように制御することを特徴とする請求の範囲第1項乃至請求の範囲第3項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項8】
膜の温度が300℃以下になるまでは300℃/h以下の降温速度になるように制御することを特徴とする請求の範囲第7項記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項9】
セラミックス膜構造体の形成方法において、金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成中に赤外線レーザーを照射して成膜するとともに、成膜後に低ガス圧雰囲気で赤外線レーザーを照射することを特徴とするセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項10】
低ガス圧雰囲気か1×10−6〜1kPaであることを特徴とする請求の範囲第9項記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項11】
成膜後の低ガス圧雰囲気での赤外線レーザー照射中、膜の基板からの剥離を、前記赤外線レーザーとは別の可視光レーザーにより検出することを特徴とする請求の範囲第9項又は請求の範囲第10項記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項12】
金属基板を固定する移動自在な基板ホルダーを設け、該金属基板の表面にセラミックスのエアロゾルを噴射するノズルを設けるとともに、赤外線レーザー発振器及び光学系を設け、赤外線レーザー発振器から出力された赤外線レーザーを光学系を介して金属基板上に結晶化された微結晶セラミックス膜に照射するようにしたことを特徴とするセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項13】
基板ホルダーを回転自在とすることを特徴とする請求の範囲第12項記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項14】
酸化物セラミックス及び窒化物セラミックスに対して酸素及び窒素等など反応性ガスを用いたエアロゾルジェットをノズルから噴射するようしたことを特徴とする請求の範囲第12項又は請求の範囲第13項記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項15】
光学系にコリメーター及びレンズを備え、赤外線レーザーをミラーで広い範囲で走査する場合、常に膜に対する入熱が同じになるように赤外線レーザーのパワー及びビーム径を制御することを特徴とする請求の範囲第12項乃至は請求の範囲第14項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項16】
エアロゾルの搬送ガス及び金属基板を加熱する加熱手段を設けることを特徴とする請求の範囲第12項乃至請求の範囲第15項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項17】
金属基板の熱伝導率に応じてセラミックス膜への加熱の程度を制御する手段を設けたことを特徴とする請求の範囲第12項乃至請求の範囲第16項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項18】
少なくとも熱膨張係数が30×10−6/℃以下の基材を組み合わせてなる金属基板を用いたことを特徴とする請求の範囲第12項乃至請求の範囲第17項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項19】
少なくとも熱伝導率が450W/mK以下の基材を組み合わせてなる金属基板を用いたことを特徴とする請求の範囲第12項乃至請求の範囲第18項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項20】
少なくとも1〜100μmの厚さの金属基板を用いたことを特徴とする請求の範囲第12項乃至請求の範囲第19項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項21】
少なくともヤング率が500GPa以下の基材を組み合わせてなる金属基板を用いたことを特徴とする請求の範囲第12項乃至請求の範囲第20項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項22】
金属基板としてSUS430を用いたことを特徴とする請求の範囲第12項乃至請求の範囲第17項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項23】
熱膨張係数が30×10−6/℃以下、熱伝導率が450W/mK以下及びヤング率が500GPa以下の基材を組み合わせてなる厚さが1〜100μmの金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成し、該微結晶セラミックス膜に赤外線レーザーを照射して作製されたことを特徴とするセラミックス膜構造体。
【請求項24】
金属基板がSUS430であることを特徴とする請求の範囲第23項記載のセラミックス膜構造体。
【請求項25】
微結晶セラミックス膜の材料組成がチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とすることを特徴とする請求の範囲第23項又は請求の範囲第24項記載のセラミックス膜構造体。
【請求項26】
微結晶セラミックス膜の厚さが0.1〜20μmであることを特徴とする請求の範囲第23項乃至請求の範囲第25項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体。
【請求項27】
微結晶セラミックス膜の結晶粒子サイズが膜表面近傍から金属基板界面近傍に向けて小さくなるように傾斜分布されていることを特徴とする請求の範囲第23項乃至請求の範囲第26項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体。
【請求項28】
微結晶セラミックス膜と金属基板との界面に形成される相互拡散層の厚みが1nm〜200nmの範囲にあることを特徴とする請求の範囲第23項乃至請求の範囲第27項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体。
【請求項1】
セラミックス膜構造体の形成方法において、金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成した後、該微結晶セラミックス膜に赤外線レーザーを照射することを特徴とするセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項2】
赤外線レーザーの照射により微結晶セラミックス膜の表面側から金属基板側に向けて膜厚方向に1℃/μm〜l00℃/μmの範囲で低下する温度勾配を保持させてなることを特徴とする請求の範囲第1項記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項3】
エアロゾルデポジション法により金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成することを特徴とする請求の範囲第1項又は請求の範囲第2項記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項4】
赤外線レーザーの照射による微結晶セラミックス膜への単位面積当たりの入熱量、金属基板と微結晶セラミックス膜との熱膨張係数の差から、金属基板上に形成される微結晶セラミックス膜の膜厚及び膜面積の上限を定めることを特徴とする請求の範囲第1項乃至請求の範囲第3項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項5】
微結晶セラミックス膜が積層により形成されることを特徴とする請求の範囲第4項記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項6】
微結晶セラミックス膜をチタン酸ジルコン酸鉛とし、赤外線レーザーの照射によるPZT膜への単位面積当たりの入熱量が10J/mm2以上の場合、チタン酸ジルコン酸鉛膜の膜面積を100mm2以下あるいは膜厚を20μm以下とすることを特徴とする請求の範囲第4項又は請求の範囲第5項記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項7】
赤外線レーザーの照射による入熱を、微結晶セラミックス膜の単位面積当たりの入熱量、レーザービーム径及び照射時間により制御するとともにレーザー照射後バイアス加熱により徐々に温度を下げるように制御することを特徴とする請求の範囲第1項乃至請求の範囲第3項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項8】
膜の温度が300℃以下になるまでは300℃/h以下の降温速度になるように制御することを特徴とする請求の範囲第7項記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項9】
セラミックス膜構造体の形成方法において、金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成中に赤外線レーザーを照射して成膜するとともに、成膜後に低ガス圧雰囲気で赤外線レーザーを照射することを特徴とするセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項10】
低ガス圧雰囲気か1×10−6〜1kPaであることを特徴とする請求の範囲第9項記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項11】
成膜後の低ガス圧雰囲気での赤外線レーザー照射中、膜の基板からの剥離を、前記赤外線レーザーとは別の可視光レーザーにより検出することを特徴とする請求の範囲第9項又は請求の範囲第10項記載のセラミックス膜構造体の形成方法。
【請求項12】
金属基板を固定する移動自在な基板ホルダーを設け、該金属基板の表面にセラミックスのエアロゾルを噴射するノズルを設けるとともに、赤外線レーザー発振器及び光学系を設け、赤外線レーザー発振器から出力された赤外線レーザーを光学系を介して金属基板上に結晶化された微結晶セラミックス膜に照射するようにしたことを特徴とするセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項13】
基板ホルダーを回転自在とすることを特徴とする請求の範囲第12項記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項14】
酸化物セラミックス及び窒化物セラミックスに対して酸素及び窒素等など反応性ガスを用いたエアロゾルジェットをノズルから噴射するようしたことを特徴とする請求の範囲第12項又は請求の範囲第13項記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項15】
光学系にコリメーター及びレンズを備え、赤外線レーザーをミラーで広い範囲で走査する場合、常に膜に対する入熱が同じになるように赤外線レーザーのパワー及びビーム径を制御することを特徴とする請求の範囲第12項乃至は請求の範囲第14項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項16】
エアロゾルの搬送ガス及び金属基板を加熱する加熱手段を設けることを特徴とする請求の範囲第12項乃至請求の範囲第15項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項17】
金属基板の熱伝導率に応じてセラミックス膜への加熱の程度を制御する手段を設けたことを特徴とする請求の範囲第12項乃至請求の範囲第16項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項18】
少なくとも熱膨張係数が30×10−6/℃以下の基材を組み合わせてなる金属基板を用いたことを特徴とする請求の範囲第12項乃至請求の範囲第17項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項19】
少なくとも熱伝導率が450W/mK以下の基材を組み合わせてなる金属基板を用いたことを特徴とする請求の範囲第12項乃至請求の範囲第18項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項20】
少なくとも1〜100μmの厚さの金属基板を用いたことを特徴とする請求の範囲第12項乃至請求の範囲第19項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項21】
少なくともヤング率が500GPa以下の基材を組み合わせてなる金属基板を用いたことを特徴とする請求の範囲第12項乃至請求の範囲第20項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項22】
金属基板としてSUS430を用いたことを特徴とする請求の範囲第12項乃至請求の範囲第17項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体の形成装置。
【請求項23】
熱膨張係数が30×10−6/℃以下、熱伝導率が450W/mK以下及びヤング率が500GPa以下の基材を組み合わせてなる厚さが1〜100μmの金属基板上に微結晶セラミックス膜を形成し、該微結晶セラミックス膜に赤外線レーザーを照射して作製されたことを特徴とするセラミックス膜構造体。
【請求項24】
金属基板がSUS430であることを特徴とする請求の範囲第23項記載のセラミックス膜構造体。
【請求項25】
微結晶セラミックス膜の材料組成がチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とすることを特徴とする請求の範囲第23項又は請求の範囲第24項記載のセラミックス膜構造体。
【請求項26】
微結晶セラミックス膜の厚さが0.1〜20μmであることを特徴とする請求の範囲第23項乃至請求の範囲第25項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体。
【請求項27】
微結晶セラミックス膜の結晶粒子サイズが膜表面近傍から金属基板界面近傍に向けて小さくなるように傾斜分布されていることを特徴とする請求の範囲第23項乃至請求の範囲第26項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体。
【請求項28】
微結晶セラミックス膜と金属基板との界面に形成される相互拡散層の厚みが1nm〜200nmの範囲にあることを特徴とする請求の範囲第23項乃至請求の範囲第27項のいずれか1項に記載のセラミックス膜構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【国際公開番号】WO2005/031036
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514159(P2005−514159)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011332
【国際出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/011332
【国際出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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