説明

セラミックス部材の不純物分析方法

【課題】セラミックス部材の表面の一部のみを効率的にエッチングすることが可能であり、また、該部材の形状により、酸性溶液によって該部材の表面以外の部分がエッチングされたり、抽出液を回収できなかったりする等の不具合を生じることなく、金属不純物の抽出液を簡便かつ効率的に回収して、該部材の表面の金属不純物を高精度で分析することができるセラミックス部材の不純物分析方法を提供する。
【解決手段】セラミックス部材の表面の一部に、酸性溶液の液滴を形成した後、前記酸性溶液の膜を形成してエッチングし、金属不純物を抽出する工程(S101)と、前記金属不純物の抽出液を回収する工程(S102)と、前記抽出液に含まれる金属不純物を分析する工程(S103)とを経て、分析を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス部材の表面の金属不純物を分析するセラミックス部材の不純物分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高集積化、高性能化に伴い、半導体製造装置用として用いられるセラミックス部材には、金属不純物をできる限り低減化させた高純度品であることが要求されている。特に、半導体製造装置用セラミックス部材の表面に存在する金属不純物の低減化に対する要求が厳しくなっている。
このため、高純度で高品質のセラミックス部材を製造する上で、セラミックス部材の表面の金属不純物を分析し、品質管理を行うことは重要である。
【0003】
前記セラミックス部材の不純物分析は、従来、直接滴下法、浸漬溶解法、マスキング法等により、前記部材の表面または全体の不純物を抽出し、回収した抽出液について、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−OES)、原子吸光分析(AAS)等により不純物を定量することにより行われていた。
【0004】
前記各種分析に供するための抽出液を得る方法の一つである直接滴下法は、部材の表面に、フッ化水素酸、塩酸、過酸化水素水等の混合液による酸性溶液を直接滴下し、前記部材表面をエッチングして金属不純物を抽出し、この抽出液を回収する方法である(例えば、特許文献1参照)。
また、浸漬溶解法は、製品のサイズが50mm程度以下と小さい場合に適用される方法であり、フッ素樹脂製容器中の上記と同様の酸性溶液に浸漬させて、必要に応じて加圧し、金属不純物を抽出する方法である(例えば、特許文献2,3参照)。
また、マスキング法は、フッ素樹脂製シート等によりマスキングして、部材表面の一定面積の露出面について、上記と同様の酸性溶液や酸蒸気に接触させて不純物の抽出液を得る方法である。
【0005】
【特許文献1】特開2004−205330号公報
【特許文献2】特開2000−314689号公報
【特許文献3】特開2004−12315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、直接滴下法は、一般的に、シリコン基板表面の不純物分析に用いられる方法であり、これをセラミックス部材に適用する場合には、該部材の形状によっては、該部材の表面以外の部分がエッチングされたり、また、抽出液を回収できなかったりする等の問題があり、高精度の不純物分析に適しているとは言えなかった。
【0007】
また、浸漬溶解法は、分析対象の部材全体を酸性溶液中に浸漬させて行わなければならず、前記部材のサイズが大きい場合には、酸性溶液および前記部材を収容する容器自体を大きくする必要があり、金属不純物を抽出するための装置自体が大型化し、煩雑となる。
また、マスキング法は、分析対象の部材が、マスキング材によって汚染されるという懸念があった。
また、上述したいずれの方法によっても、部材の表面の一部のみを効率的にエッチングして分析することは、技術的に困難であった。
【0008】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、セラミックス部材の表面の一部のみを効率的にエッチングすることが可能であり、また、該部材の形状により、該部材の表面以外の部分がエッチングされたり、抽出液を回収できなかったりする等の不具合が生じることなく、金属不純物の抽出液を簡便かつ効率的に回収して、該部材の表面の金属不純物を高精度で分析することができるセラミックス部材の不純物分析方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るセラミックス部材の不純物分析方法は、セラミックス部材の表面の一部に、酸性溶液の液滴を形成した後、前記酸性溶液の膜を形成してエッチングし、金属不純物を抽出する工程と、前記金属不純物の抽出液を回収する工程と、前記抽出液に含まれる金属不純物を分析する工程とを備えていることを特徴とする。
このような方法によれば、該液滴が形成された部分の表面が若干エッチングされ、酸性溶液の膜を、広がりすぎたり、流れ落ちたりすることなく、形成することができ、セラミックス部材の表面の一部のみ確実に、効率的にエッチングすることができる。
【0010】
上記分析方法においては、前記酸性溶液の膜の形成は、円周状に前記酸性溶液の液滴を形成し、前記円周状の内側方向に前記液滴を広げるように行うことが好ましい。
このような方法によれば、前記酸性溶液の膜が円周状の外側方向に広がることなく、確実に、部材の表面を局所的かつ効率的にエッチングすることができる。
【0011】
また、上記分析方法においては、金属不純物の抽出液を簡便かつ効率的に回収するため、前記抽出液の回収は、前記部材の表面を傾けて、マイクロピペットを用いて行うことが好ましい。
【0012】
前記金属不純物の分析は、高感度微量分析を行う観点から、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)またはフレームレス原子吸光分析法(FL−AA)により行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、部材の表面の一部のみを効率的にエッチングすることが可能であり、また、該部材の形状により、酸性溶液によって該部材の表面以外の部分がエッチングされたり、抽出液を回収できなかったりする等の不具合が解消され、金属不純物の抽出液を簡便かつ効率的に回収することができ、セラミックス部材の表面の金属不純物を高精度で分析することができる。
したがって、本発明に係る方法は、セラミックス部材の品質管理に好適に利用することができ、ひいては、該部材の品質向上に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を、より詳細に説明する。
図1は、本発明に係るセラミックス部材の不純物分析方法を説明するための工程フロー図である。
本発明に係るセラミックス部材の不純物分析方法は、セラミックス部材の表面の一部に酸性溶液の液滴を形成した後、前記酸性溶液の膜を形成してエッチングし、金属不純物を抽出する工程(S101)と、前記金属不純物の抽出液を回収する工程(S102)と、前記抽出液に含まれる金属不純物を分析する工程(S103)とを備えている。
【0015】
前記酸性溶液の膜の形成は、図2に示すような方法により行う。図2は、セラミックス部材の表面に酸性溶液の膜を局所的に形成する方法を説明するための断面図である。
前記酸性溶液の膜は、図2に示すように、セラミックス部材10の表面10a上に、マイクロピペット20により酸性溶液30を滴下し(図2(a))、酸性溶液30の液滴30aを形成した後(図2(b))、この液滴30aを膜状化させて形成する(図2(c))。
このような方法によれば、セラミックス部材の表面に、局所的かつ効率的に、エッチングするための酸性溶液の膜を容易に形成することができる。
前記液滴の膜状化(図2(c))は、ピペットチップを用いて、該ピペットチップのチップ部で行うことが好ましい。
これにより、前記部材の表面に容易かつ均等に前記酸性溶液の膜を形成することができる。
【0016】
より具体的には、前記酸性溶液の膜の形成は、前記部材の表面に円周状に酸性溶液の液滴を形成した後、ピペットチップを用いて、前記液滴を前記ピペットチップのチップ部でなぞりながら、前記円周状の内側方向に前記液滴を広げるように行うことが好ましい。
【0017】
図3は、酸性溶液の膜を局所的に形成する工程の他の態様を説明するための上面図である。
図3においては、最初に、セラミックス部材10の表面10aに、円周状に酸性溶液の液滴30bを形成する(図3(a))。この円周状の液滴30bの形成は、例えば、ピペットチップを用い、ピペットチップを倒して、前記表面10a上をなぞりながら行う。
次に、ピペットチップを用いて、前記液滴30bを該ピペットチップのチップ部でなぞりながら、前記円周状の内側方向に液滴30bを広げるようにして膜を形成する(図3(b))。
このような方法によれば、前記円周状の液滴を形成した際、該液滴を形成した部分の部材の表面は若干エッチングされるため、前記液滴がその外側方向に広がることなく、確実に、部材の表面を、局所的かつ効率的にエッチングすることが可能となる。
【0018】
上記のようにして酸性溶液の膜を形成した後、所定時間放置して、前記酸性溶液により部材10の表面10aの前記膜を形成した部分をエッチングし、金属不純物を抽出する。
【0019】
前記金属不純物の抽出液の回収は、図4に示すような方法で行うことができる。図4は、前記酸性溶液の膜により抽出した抽出液を回収する工程を説明するための断面図である。
図4に示すように、液滴30a(30b)の膜が形成されたセラミックス部材10の表面10aを傾け、膜状化した液滴30a(30b)を、液滴状態に戻した状態(図4(b))で、マイクロピペット(図示せず)を用いて、抽出液を回収する。
このような方法によれば、前記抽出液の回収の際、マイクロピペットのみを用いれば足り、操作性の点からも簡便であり、効率的に行うことができる。
【0020】
本発明においては、エッッチングのために使用する酸性溶液は、特に限定されず、塩酸、硫酸等を用いることができる。
【0021】
また、前記抽出液に含まれる金属不純物の分析は、高感度微量分析を迅速に行う観点から、ICP−MSやFL−AAを用いて行うことが好ましい。
このような装置分析によれば、1010atoms/cm2オーダーでの高精度分析も可能である。
【0022】
また、上記分析方法を用いることにより、同一領域を複数回繰り返しエッチングし、1回毎の抽出液に含まれる金属不純物量を求め、また、当該1回につきエッチングされたセラミックス部材の厚さと照合して、該部材表面からの深さ方向における不純物量分布も求めることもできる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
アルミナセラミックス製の平板の表面上に、濃度3.0%の塩酸2mlをマイクロピペットにより滴下して、該表面上に液滴を形成した後、ピペットチップのチップ部で、該液滴を膜状化させた。
この状態で3分間保持し、前記平板の表面をエッチングした。その際、水平方向(該表面と平行な方向)に軽い振動を与え、前記平板の表面上のエッチング液(塩酸)の膜の移動の有無を観察したところ、形成された膜の位置は動かなかった。
その後、前記平板の表面を傾けて、マイクロピペットを用いて、エッチングした抽出液を回収したところ、約1.7mlを回収することができた。
【0024】
[実施例2]
アルミナセラミックス製の平板の表面上に、濃度3.0%の塩酸2mlを1mlずつ2回に分けて、マイクロピペットにより、該表面上を軽くなぞりながら、該表面上に直径約2インチの円周状の液滴を形成した後、ピペットチップを用いて、前記液滴をピペットチップのチップ部でなぞりながら、前記円周状の内側方向に該液滴を広げて、前記液滴を膜状化させた。
この状態で3分間保持し、前記平板の表面をエッチングした。その際、水平方向(該表面と平行な方向)に軽い振動を与え、前記平板の表面上のエッチング液(塩酸)の膜の移動の有無を観察したところ、形成された膜の位置は動かなかった。
その後、前記平板の表面を傾けて、マイクロピペットを用いて、エッチングした抽出液を回収したところ、約1.6mlを回収することができた。
【0025】
[比較例1]
液滴を膜状化させず、それ以外は、実施例1と同様にして、前記平板の表面をエッチングした。その際、水平方向(該表面と平行な方向)に軽い振動を与え、液滴の移動の有無を観察したところ、液滴は最初に形成した位置から水平方向に移動したことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るセラミックス部材の不純物分析方法を説明するための工程フロー図である。
【図2】セラミックス部材の表面に酸性溶液の膜を局所的に形成する方法を説明するための断面図である。
【図3】酸性溶液の膜を局所的に形成する他の態様の工程を示す上面図である。
【図4】酸性溶液の膜により抽出した抽出液を回収する工程を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0027】
10 セラミックス部材
20 マイクロピペット
30 酸性溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス部材の表面の一部に、酸性溶液の液滴を形成した後、前記酸性溶液の膜を形成してエッチングし、金属不純物を抽出する工程と、前記金属不純物の抽出液を回収する工程と、前記抽出液に含まれる金属不純物を分析する工程とを備えていることを特徴とするセラミックス部材の不純物分析方法。
【請求項2】
前記酸性溶液の膜の形成は、円周状に前記酸性溶液の液滴を形成し、前記円周状の内側方向に前記液滴を広げるように行うことを特徴とする請求項1に記載のセラミックス部材の不純物分析方法。
【請求項3】
前記抽出液の回収は、前記部材の表面を傾けて、マイクロピペットを用いて行うことを特徴とする請求項1または2に記載のセラミックス部材の不純物分析方法。
【請求項4】
前記金属不純物の分析は、誘導結合プラズマ質量分析法またはフレームレス原子吸光分析法により行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセラミックス部材の不純物分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−139255(P2010−139255A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313267(P2008−313267)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】