説明

セラミック・フィルタのための低収縮率施栓用混合物、栓を施されたハニカム・フィルタおよびその製造方法

セラミック壁流通型フィルタを形成するための施栓用混合物が開示されている。この施栓用混合物は、乾燥工程時における体積収縮のパーセンテージが低減されており、かつ一般にセラミック形成用無機粉末バッチ組成物、有機バインダ、液状ビヒクル、および非発泡体積変換剤を含む。このような施栓用混合物で栓を施されたセラミック壁流通型フィルタの形成方法も開示されている。

【発明の詳細な説明】
【優先権主張】
【0001】
本願は、「セラミック・フィルタのための低収縮率施栓用混合物、栓を施されたハニカム・フィルタおよびその製造方法」と題して2007年3月20日付けで提出された米国仮特許出願第60/918,950号の優先権を主張した出願である。
【技術分野】
【0002】
本発明は、多孔質セラミック・ハニカム構造体の製造に関し、特に多孔質セラミック・ハニカムの選択されたセルチャンネルを封止するための改良された材料および方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
セラミック壁流通型フィルタが、ディーゼルエンジンまたはその他の内燃機関の排気流から微粒子を除去するために広く用いられている。このようなフィルタは、ディーゼル微粒子フィルタ(DPF)として知られている。多孔質セラミックから形成された多数のセルチャンネルを備えたハニカム構造体から、このようなフィルタを製造するための多くの手法が知られている。最も一般的な手法は、このような構造体の多数のセルチャンネル内に封止材料からなる栓を配置して、排気流がセルチャンネルを真直ぐに吹き抜けるのを阻止し、排気流このフィルタから出る前に、ハニカム体の多孔質のセル壁を強制的に通過させるようにすることである。ディーゼルエンジンに用いられるDPFは一般に、卓越した耐熱衝撃性、低いエンジン背圧および許容できる耐用年数を提供するために選ばれた無機材料系から形成される。最も一般的なフィルタ組成は、チタン酸アルミニウム、コージェライト、および炭化珪素を主成分としている。フィルタの形状寸法は、エンジン背圧を最小にし、かつ単位体積当たりの濾過表面積を最大にするように設計される。具体的な手法は、コージェライト(MgO−Al−SiO)を形成するセラミック粉末混合物と、熱硬化性または熱可塑性プラスチック・バインダ系とを含む封止材料を用いてこのような栓を作製することが記載されている特許文献1に開示されている。
【0004】
一般にDPFは、エンジンからの排気ガスが、フィルタから外に出るためには必ずセルチャンネルの壁を通過しなければならないように、両面におけるセルチャンネルが一つ置きに市松模様に封止された多数のセルチャンネルの平行アレイから構成されている。このような構成を有するDPFは、一般に可塑化されたバッチを押出し成形することによって形成されて、セルチャンネルの平行アレイを構成し、次いで、一般に二次的な処理工程において一部のセルチャンネルを封止用セメントで封止、すなわち「施栓」する。最初に、フィルタは完全に焼成された構造体に対して栓を施すことによって形成され、次いで2回目の焼成によって栓が焼結または半ば焼結される。随意的に上記施栓工程は、焼成されていない(生の)状態の構造体に対して栓を施し、次いで構造体と栓とを同時に通常の焼成サイクルで焼成することもある。
【0005】
二度手間の焼成工程よりも、只一度だけの焼成工程を採用することの方が経済的には圧倒的に好ましいが、生のハニカム体に栓を施すことは、製造時において幾つかの問題を提供する。第1に、生の部分の強度が、焼成された部分の強度よりも低いので、生の部分を取扱いかつ処理するときには、これらの部分が破損しないように注意しなければならない。第2の課題は、封止用セメント中に(ビヒクルとして)存在する水が、未焼成組織中の有機バインダと相互作用をする事実から生じる。この相互作用は、封止用セメントが存在する組織部分を軟化させ、変形または膨張させる可能性さえもある。軟化された組織は、続く施栓用セメントの乾燥中に、フィルタの面上に容易にひび割れを発生させる問題を惹き起こす。このような、生のハニカムに栓を施すときに発生する乾燥ひび割れは、軟化された組織に組合せられる封止用セメントの乾燥収縮による、セルチャンネルに沿った栓/構造体界面に発生する応力によって促進される。この組織の再湿潤または有機物と封止用セメントとの相互作用を最小限に抑える二、三の対策が昨今の文献で検討されている。一つの対策は、バインダを著しく再溶解させないオイルまたはアルコール等の可塑剤を用いることである。別の対策は、調製工程においてバインダの一部を優先的に焼き切ることによって、溶解に影響を与えるバインダの量を減らすことである。バインダの再湿潤を防止するために、施栓されるべきセルチャンネルの壁を被覆する(例えば表面安定化処理)方法も上記文献に記載されている。
【0006】
さらに、組織の軟化および変形の問題は、未焼成部分の施栓の所産であるが、栓における窪みまたは凹み(一般に栓の端部における)の形成は、未焼成部分および焼成部分双方の施栓に伴う問題である。施栓装置から離れるときにその部分を捩じったり、あるいはエアを吹き付けたりする等の、窪みを解消する機械的な手段が試みられている。さらに、二つのタイプのセメント(膨張性セメントおよび高粘度セメント)を用いて窪みを解消することも試みられている。文献には、これらの窪みの形成に関していくつかの説明がされているが、このことを説明する、本発明者等によって最も良く認められかつ理解される最も単純な原理は、鋳込み成形(slip casting )現象により窪みが形成されるということである。セメントからの水分が組織に吸収され、この組織によって奪われた水分の体積にほぼ等しい空間が痕として残るというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,809,139号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、DPF施栓技術において、セラミック壁流通型フィルタを形成するための改良されたセメント混合物が必要とされている。特に、乾燥ひび割れを低減もしくは排除するために、乾燥工程における収縮が軽減されたセメント混合物が必要とされている。さらに、栓の内表面および/または外表面上の望ましくない窪みまたは凹みを低減もしくは排除することができる施栓用混合物が必要とされている認識がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、改良されたセメント混合物を提供するものであり、特に、例えば多孔質セラミック壁流通型フィルタに栓を形成するために有用な施栓用セメント混合物を提供するものである。このセメント混合物およびそれから形成された栓は、乾燥収縮が少ない。栓に関して収縮が少なければ、得られた焼成された栓の物理的特性に悪影響を与えない。一つの実施の形態において、乾燥時における施栓用混合物の収縮は、セメント混合物中に非発泡・体積変換剤を混入することによって相殺される。非発泡・体積変換剤は、乾燥時に体積が膨張して、全体の乾燥収縮を減少させる。この体積膨張は、比較的低温の乾燥温度で、すなわち、例えば200℃以下で生じる。本発明の実施の形態による施栓用混合物は、収縮が少ないことに加えて、表面および/または栓の内部における望ましくない窪みの形成を低減ないし排除する。複数の実施の形態によれば、上記体積変換剤はさらに、50℃≦TVT≦200℃の体積変換温度(TVT)を示す。別の実施の形態においては、TVT≦120℃、TVT≦110℃、または50℃≦TVT≦110℃さえも示す。好ましい体積変換剤は、澱粉(例えば馬鈴薯澱粉)等の含水材料、およびガスを封入されたポリマー微小球等の非含水材料である。さらなる実施の形態によれば、上記セメント混合物が、焼成によりコージェライト相を形成することができる。
【0010】
別の実施の形態において、本発明は、セラミック形成用無機粉末バッチ組成物(コージェライト形成用バッチ混合物等)、有機バインダ、液状ビヒクル、および非発泡・体積変換剤を含む、壁流通型フィルタ等のセラミック・ハニカム物品のための施栓用セメント混合物を提供するものであり、上記体積変換剤は、50℃≦TVT≦200℃の体積変換温度(TVT)を示す。
【0011】
別の実施の形態において、本発明は、入力端から出力端まで縦方向に延びる多数の多孔質の壁によって境界を定められた多数のセルチャンネルを画成するハニカム構造体を備えた多孔質セラミック壁流通型フィルタを提供するものである。上記多数のセルチャンネルの一部分はそれぞれ壁に封着された栓を備えている。この実施の形態によれば、上記栓は、セラミック形成用無機粉末バッチ組成物、有機バインダ、液状ビヒクル、および50℃≦TVT≦200℃の体積変換温度(TVT)を有する非発泡・体積変換剤を含む施栓用混合物から形成される。
【0012】
さらに別の実施の形態において、本発明は、多孔質セラミック壁流通型フィルタの製造方法を提供するものである。この方法は、入力端から出力端まで縦方向に延びる多数の多孔質の壁によって境界を定められた多数のセルチャンネルを画成するハニカム構造体を提供することを含む。少なくとも1本の所定のチャンネルの一部分は、セラミック形成用無機粉末バッチ組成物(コージェライト形成用バッチ混合物)、有機バインダ、液状ビヒクル、および非発泡・体積変換剤を含む本発明の施栓用混合物を用いて選択的に栓を施される。この選択的に施栓されたハニカム構造体は、次いで少なくとも1本のチャンネル内に、焼成された相のセラミック栓を形成するのに有効な条件下で焼成される。複数の実施の形態において、上記非発泡体積変換剤は50℃≦TVT≦200℃の体積変換温度(TVT)を示す。
【0013】
さらに別の実施の形態において、本発明は、縦方向に延びる多数の壁によって境界を定められた多数のセルチャンネルを画成する生のハニカム構造体と、この生のハニカム構造体の少なくとも1本のチャンネル内に形成された栓とを含む生のハニカム物品であり、上記栓は、セラミック形成用無機粉末バッチ組成物、有機バインダ、液状ビヒクル、および50℃≦TVT≦200℃の体積変換温度(TVT)を示す非発泡・体積変換剤を含む。
【0014】
さらに別の実施の形態において、本発明は、セラミック形成用無機粉末バッチ組成物、有機バインダ、液状ビヒクル、およびTVT≦120℃の体積変換温度(TVT)を有する非発泡・体積変換剤を含む、セラミック・ハニカム物品のためのセメント混合物である。
【0015】
さらに別の実施の形態において、本発明は、多数の壁によって境界を定められた多数のセルチャンネルを有し、これらセルチャンネルの一部分が栓を備えている多孔質セラミック・ハニカム基体を備えた多孔質セラミック・ハニカム・フィルタである。上記栓は、壁から隣の壁までの幅に亘って実質的に一様の断面開口数(sectional numerical aperture)を示す。特に、栓の幅方向の断面開口数は、10%未満、あるいは8%未満しか変動しない。別の態様において、断面開口数(SNA)の標準偏差は、栓を横切る平均SNAから2%未満である。
【0016】
本発明のさらなる実施の形態は、一部が詳細な説明に述べられており、下記の何れの請求項およびその一部もその詳細な説明から導かれ、あるいは本発明の実施によって会得することができる。上述の概略説明および後述の詳細説明は、例示であって、解説に過ぎず、開示された発明を限定するものではないものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1Aおよび図1Bは、本発明の一態様による馬鈴薯澱粉の典型的体積膨張を示す顕微鏡写真である。
【図2】図2Aおよび図2Bは、本発明の一態様によるガスを封入された微小球の典型的体積膨張を示す図である。
【図3】図3は、本発明の一実施の形態による栓を施された壁流通型フィルタの斜視図である。
【図4】本発明の施栓用混合物および従来の施栓用混合物に関する典型的体積収縮データを比較したグラフである。
【図5】図5Aおよび図5Bは、窪みの形成が見られない本発明の一態様による施栓用混合物を、窪みの形成が見られる従来の施栓用混合物と比較して示す図である。
【図6】図6A〜図6Fは、生のものが乾かされた状態にある本発明の施栓用混合物を、生のものが乾かされた状態にある従来の施栓用混合物と比較して示す断面図および平面図である。
【図7】図7Aおよび図7Bはそれぞれ、焼成された状態にある本発明の施栓用混合物の断面図および平面図である。
【図8】栓の幅方向に亘って実質的に一様な多孔度および断面開口数を示す本発明の実施の形態による多孔質の焼成された栓の断面側面図である。
【図9】栓の幅方向に亘って実質的に一様な断面開口数を示す、セルの幅X(mm)に対する断面開口数のグラフである。
【図10】体積膨張剤の温度に伴う体積の実質的な変化を、温度(℃)に対する相対体積変化(%)で示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の本発明の説明は、現在知られた最良の実施の形態において本発明の教示を可能にするものとして提供されたものである。このため、本発明の有益な成果をなおも得ながら、本明細書に記載されている本発明の種々の実施の形態に対する多くの変更が可能なことは、当業者は理解しかつ評価するであろう。また、本発明のいくつかの特徴を選択することによって、その他の特徴を利用することなしに、本発明の所望のいくつかの効果が得られることも明かであろう。したがって、本発明に対する多くの改良および適応が可能であり、かつ環境によってはそれが望ましいことであり、それらも本発明の一部であることを当業者は認識するであろう。それ故に、下記の説明は、本発明の原理を例示するために提供されるものであって、本発明を限定するものではないものである。
【0019】
本明細書で用いられている名詞の単数形は、単数に限ると明示されていない限り複数形を含む。それ故に、例えば「体積変換剤」について言えば、一種類に限ると明示されていない限り、複数種類の体積変換剤を含む。
【0020】
本明細書では、範囲を「約」一つの具体値および「約」別の具体値として、または「約」一つの具体値から「約」別の具体値までとして表すことができる。このように範囲が表現されている場合、他の実施の形態は、上記一つの具体値および上記他の具体値と、または上記一つの具体値から上記他の具体地までとを含む。同様に、「約」を付すことによって概略値として表現されている場合に、その具体値は他の実施の形態を形成すると理解される。各範囲の両端の値は、他の端点との関連と、他の端点とは独立的との双方に意義があると理解される。
【0021】
本明細書で用いられている或る成分の「重量%」は、それ以外であると明示されていない限り、その成分が含まれる組成物または物品全体の重量に基づく。
【0022】
上述に簡潔に要約されているように、本発明は、一般的に、セラミック形成用無機粉末組成物、有機バインダ、液状ビヒクル、および体積変換剤を含む施栓用混合物を提供するものである。この施栓用混合物は、多孔質セラミック壁流通型フィルタの形成に用いるのに適している。現存の施栓用混合物を上回るいくつかの利点の中で、この施栓用混合物は、焼成工程時における乾燥収縮を低減することができ、それ故に、従来の施栓用混合物に比較して、乾燥ひび割れの形成がより少ないかまたは全く生じないという結果を得ることができる。別の実施の形態においては、この施栓用混合物は、形成された栓の端面上における窪みまたは凹みの形成がより少ないかまたは全く生じないようにすることができる。
【0023】
ここで用いられている体積変換剤は、加熱時に体積を膨張させることができる施栓用混合物の成分を意味する。この体積変換剤は、温度に対する体積膨張度合いの尺度を提供する測定された体積変換温度を備えている。本発明の一実施の形態によれば、体積変換剤は非発泡剤であり、あるいは体積変換剤は発泡剤ではない。使用時には、体積変換剤の体積膨張が、焼成によりセメント(例えば施栓用混合物)に発生し得る如何なる収縮をも少なくとも部分的に相殺することができる。特にこの体積変換剤は、完全に乾燥した室温体積に比較して係数2Xだけ体積が膨張する温度として定義される体積変換温度(TVT)を備えている。含水体積変換剤の場合には、上記体積変換温度は水分の存在における体積変換温度と定義される。非含水体積変換剤の場合には、上記体積変換温度は水分の不存在において定義される。本発明の態様による体積変換温度の実例は、約50℃から約200℃の範囲内にあり、例えば120℃未満、110℃未満、50℃から120℃までの範囲の温度、または50℃から100℃までの範囲の温度を含む約50℃から約200℃の範囲内にある。上記体積変換温度は、上記栓を乾燥させるために利用される温度よりも低い。
【0024】
一つの実施の形態において、施栓用セメント混合物中の体積変換剤は、馬鈴薯澱粉気孔形成剤等の含水澱粉材料からなるものとすることができる。この実施の形態によれば、馬鈴薯澱粉気孔形成剤は、例えば施栓用材料の乾燥条件に曝された場合に相変換に耐えることができる。特に気孔形成剤は、施栓用混合物中に含まれる液状ビヒクルの少なくとも一部を吸収することができる。水等の液状ビヒクルの吸収は、乾燥工程中の施栓用混合物から液状ビヒクルが失われることにより生じる収縮を少なくとも一部分を相殺するのに十分な体積変換を生じさせることができる。市販の如何なる馬鈴薯澱粉も体積膨張剤として用いることができる。しかしながら、一つの実施の形態においては、上記馬鈴薯澱粉が40μmから50μmまでの範囲内の中央粒径d50を有する。
【0025】
図1Aおよび図1Bを参照すると、典型的馬鈴薯澱粉の体積変換(膨張)が示されている。特に図1Aは、約50℃の温度における本発明の完全に湿った施栓用セメント混合物中の澱粉粒子を示す。これに対して、図1Bは、約70℃の温度における本発明の湿った施栓用混合物中の同じ澱粉粒子を示す。図示のように、図1Bにおける澱粉粒子は、約2倍の大きさを有し、すなわち実質的に体積が膨張している。澱粉を含む体積膨張剤の場合に、体積変換は、材料を加熱しかつHOの存在下でその体積膨張を測定することにより決定される。澱粉に関して、体積変換温度は、ホットプレート上で(十分な量のビヒクルの存在において)10℃/分の温度勾配で加熱したとき、その澱粉の室温体積(ビヒクルのみと混合されている)の2倍(200%)に体積が膨張したときの温度である。図10は、代表的な馬鈴薯澱粉粒子の相対体積変化(%)を示すグラフである(光学的に測定)。このデータから明らかなように、体積変換温度(TVT)は120℃未満で、特に100℃未満で、または90℃未満でも生じている。馬鈴薯澱粉であるこの実施の形態においては、体積変換温度(TVT)が50℃と80℃との間で生じている。澱粉の体積は膨張後に縮小するが(例えば90℃を超えると)、栓内に窪みが生じないようにセメントおよび特にバインダはすでに固化されており、澱粉の体積が縮小しても、これ以上の目立った収縮は生じない。それ故に、体積変換剤の何れの目立った縮小が生じる以前に、セメントが十分に固化されることが望ましいことを認識しなければならない。例えば、材料の固化は、体積膨張剤が最大体積から50%未満に縮小する以前に発生するのがよい。最も好ましいのは、体積膨張剤の効果が失われないように、体積膨張剤の体積が2倍に達する以前にセメントの固化が生じることである。
【0026】
別の実施の形態においては、体積変換剤が、ガスが封入された複数のポリマー微小球等の非含水材料を含む。この実施の形態によれば、ガスが封入されたポリマー微小球が、施栓用セメント混合物の乾燥温度を上回る温度に熱せられると、微小球内に封入されているガスは膨張することができる。膨張するガスにより増大した圧力は微小球の体積を増大させ、したがって、乾燥工程中に施栓用混合物から液状ビヒクルが失われることによる収縮を少なくとも部分的に相殺する。本発明の施栓用混合物に用いるのに適した微小球の例は、中空ポリマー微小球を含む。例えば、米国ジョージア州ダルース所在のエクスパンセル社(Akzo Nobel社の子会社)から入手可能な市販のExpancel(登録商標)が用いられる。
【0027】
図2Aおよび図2Bを参照すると、典型的な膨張性ポリマー微小球が示されている。特にこの典型的な微小球は、膨張性「Expancel」642WU40微小球である。これらの典型的な微小球は、ガスを封入したポリマーシェルからなる小さな球状プラスチック粒子である。シェル内部のガスが熱せられると、ガスは圧力を増大させ、熱可塑性シェルが軟化し、微小球の体積が劇的に増大する。完全に膨張すると、微小球の体積は例えば40倍を超えるまで増大する。図2Aと図2Bとを比較すると、熱せられた典型的な微小球の実質的な体積膨張を示している。微小球の体積変換温度を決定する場合は、これらをホットプレート上で10℃/分の温度勾配で単純に加熱したとき、体積が室温体積の2倍(200%)に膨張したときの温度(℃)を体積変換温度と決定する。
【0028】
上記体積変換剤は、如何なる所望の量であっても施栓用セメント混合物中に混入することができる。しかしながら、一つの実施の形態においては、体積変換剤が施栓用セメント混合物中に添加剤として、セラミック形成用無機粉末バッチ組成物の約1.0重量%から約15重量%までの範囲内で存在するのが好ましい。さらに別の実施の形態においては、体積変換剤が添加剤として、セラミック形成用無機粉末バッチ組成物の約8重量%から約13重量%までの範囲内で存在するのが好ましい。
【0029】
上記無機粉末バッチ組成物は、例えば反応性無機粉末バッチ組成物である。この無機粉末バッチ組成物は、例えば、セラミック、ガラスセラミック、ガラスおよびそれらの混合物からなる焼成された相を主成分とする組成物を含む所望の焼成された相のセラミック組成物を形成するのに十分な無機バッチ組成物の所望の組合せからなる。ここで用いられているガラス、セラミックおよび/またはガラスセラミック組成物は、例えば混合物または複合材料のような物理的および/または化学的組合せを含む。このため、これらの無機セラミック粉末バッチ混合物に適した典型的かつ非限定的無機粉末材料は、コージェライト、チタン酸アルミニウム、ムライト、粘土、カオリン、マグネシア形成用原料、タルク、ジルコン、ジルコニア、スピネル、アルミナおよびそれらの先駆体を含むアルミナ形成用原料、シリカおよびそれらの先駆体を含むシリカ形成用原料、珪酸塩、アルミン酸塩、リチウム・アルミノ珪酸塩、アルミナ・シリカ、長石、チタニア形成用原料、溶融シリカ、窒化物、炭化物、硼化物、例えば炭化珪素、窒化珪素またはそれらの混合物を含む。
【0030】
例えば一つの実施の形態において、本発明の施栓用混合物は、焼成された相のチタン酸アルミニウムを主成分とするセラミック栓を提供するのに有効な条件下で熱処理されることができる無機粉末バッチ組成物の混合物を形成するチタン酸アルミニウムを主成分とするセラミックを含む。この実施の形態によれば、無機粉末バッチ組成物は、アルミナ形成用原料、シリカ形成用原料、およびチタニア形成用原料を含む反応焼成され粉末にされた原材料を含む。これらの粉末にされた無機原材料は、例えば、酸化物の重量%を基準として、約8重量%から約15重量%までのSiO、約45重量%から約53重量%までのAl、および約27重量%から約33重量%までのTiOを含む。典型的な無機チタン酸アルミニウム先駆体粉末バッチ組成物は、約10%の石英、約47%のアルミナ、約30%のチタニアおよび約13%の無機添加物である。チタン酸アルミニウムを形成するのに適した典型的非限定的な無機バッチ成分混合物は、米国特許第4,483,944号、第4,855,265号、第5,290,739号、第6,620,751号、第6,942,713号、第6,849,181号明細書、米国特許出願公開第2004/0020846号明細書、第2004/0092381号明細書、ならびに国際公開第2006/015240号、2005/046840号および2004/011386号パンフレットに開示されているものを含む。上記の特許文献に開示された内容のすべてが、本明細書に引用される。
【0031】
別の実施の形態において、本発明の施栓用混合物は、焼成された相のコージェライトを主成分とするセラミック栓を提供するのに有効な条件下で熱処理され得る無機粉末バッチ組成物混合物を形成するコージェライトを主成分とするセラミックを含む。一つのコージェライト・セラミックを形成する実施の形態によれば、無機粉末バッチ組成物を形成するセラミックは、マグネシア形成用原料、アルミナ形成用原料およびシリカ形成用原料を含むコージェライト形成用無機粉末バッチ組成物である。例えば、限定ではなく、無機セラミック粉末バッチ組成物は、少なくとも93重量%のコージェライトを含むセラミック物品を提供するために選択され、このコージェライトは、約49重量%から約53重量%までのSiO、約33量%から約38重量%までのAl、および約12重量%から約16重量%までのMgOから実質的になる。このため、典型的な無機コージェライト先駆体粉末バッチ組成物は、約33重量%から約41重量%までのアルミナ形成用原料、約46重量%から約53重量%までのシリカ形成用原料、および約11量%から約17重量%までのマグネシア形成用原料を含む。コージェライトを形成するためのさらなる典型的セラミック・バッチ材料組成物は、その内容がここに引用される米国特許第3,885,977号明細書に開示されているものを含む。
【0032】
本発明の施栓用混合物の形成に用いるのに適した無機セラミック粉末バッチ材料は、酸化物、水酸化物等の合成された材料であることを理解すべきである。あるいは、粘土、タルク、またはこれらの組合せ等の天然に産する材料であってもよい。さらに、粉末バッチ組成物は、合成および天然の双方により産するももの所望の混合物とすることができる。それ故に、本発明は、粉末または原材料の形式に限定されず、最終的なセラミック体に望ましい特性に応じて選択できることを理解すべきである。さらに、無機セラミック粉末材料は一般に細かく(粗い粒にされた材料とは異なり)、粘土等の成分が水等の液状ビヒクルと混合された場合に塑性を付与され、あるいは、メチルセルロースまたはポリビニルアルコール等の有機材料と混合されたときに塑性に寄与することができる。
【0033】
ここで用いられているように、アルミナ形成用原料は、他の原料が存在しない場合に十分に高い温度で熱せられると、実質的に純粋なアルミニウム酸化物を生成する。アルミナ形成用原料の典型的かつ非限定的実施例は、コランダム、またはガンマアルミナ、遷移アルミナ、ギブス石およびバイヤライト等の水酸化アルミニウム、ベーム石、ダイアスポア、アルミニウム・イソプロポキシド等を含む。アルミナ原料の中央粒径は、例えば10μm、15μm、20μmまたは25μmまでを含む5μmを超えることが好ましい。市販のアルミナは、約4〜6μmの粒径と約0.5〜1m/gの表面積とを有する比較的粗いアルミナと、約0.5〜2μmの粒径と約8〜11m/gの表面積とを有する比較的細かいアルミナとを含む。
【0034】
必要に応じて、アルミナ形成用原料は、分散可能なアルミナ形成用原料を含むことが可能である。ここで用いられているように、分散可能なアルミナ形成用原料は、少なくとも実質的に溶媒また液状媒体中に分散可能な、および溶媒また液状媒体中にコロイド懸濁液を提供するのに用いることができるアルミナ形成用原料である。一つの実施の形態において、分散可能なアルミナ原料は、少なくとも20m/gの表面積を有する比較的高い表面積のアルミナ原料である。あるいは、分散可能なアルミナ原料は、少なくとも50m/gの表面積を有することができる。具体的な実施の形態において、本発明の方法に用いることができる適当な酸化アルミニウムは、通常はベーム石、擬似ベーム石、およびアルミニウム・モノハイドレートと呼ばれるα酸化物・水酸化アルミニウム(AlOOHO)を含む。別の具体的な実施の形態において、分散可能なアルミナ原料は、種々の量の化学的に拘束された水またはヒドロキシル官能基を含有する所謂遷移または活性化されたアルミナ(すなわち、オキシ水酸化アルミニウムおよびχ、η、ρ、ι、κ、γ、δ、およびθアルミナ)を含む。
【0035】
一つの実施の形態において適当なアルミナ形成用原料は、例えば、生のカオリン、焼成されたカオリン、および/またはそれらの混合物等の粘土または混合物である。典型的かつ非限定的な粘土は、約7〜9μmの粒径と5〜7m/gの表面積を有する非離層カオリナイト粘土、約2〜5μmの粒径と10〜14m/gの表面積を有する非離層カオリナイト粘土、および生のA-10粘土、約1〜3μmの粒径と13〜17m/gの表面積を有する離層カオリナイト、約1〜3μmの粒径と6〜8m/gの表面積を有する焼成された粘土を含む。
【0036】
さらなる実施の形態において、シリカ形成用原料は、石英またはクリストバル石等の結晶シリカ、溶融シリカまたはゾル・ゲルシリカ、シリコーン樹脂、ゼオライトおよび珪藻シリカ等の非結晶シリカを含むことを理解すべきである。さらに他の実施の形態においては、シリカ形成用原料が、例えば珪酸または珪素有機金属化合物等の、熱せられて自由シリカを形成する化合物を含む。
【0037】
チタン酸アルミニウム栓の場合、チタニア形成用原料は、ルチル形およびアナターゼ形チタニアからなる群から選ばれるのが好ましいが、それらに限定されない。一つの実施の形態においては、チタニア原料の中央粒径の最適化が、焼成されたセラミック組織中における核の急激な成長による非反応酸化物の閉じ込めを防止するために適用される。したがって、一つの実施の形態において、チタニアの中央粒径は20μmまでが好ましい。
【0038】
典型的かつ非限定的マグネシア形成用原料はタルクを含む。さらなる実施の形態において、適当なタルクは、少なくとも約5μmの、少なくとも約8μmの、少なくとも約12μmの平均粒径を有するタルクを含む。粒径は、Micrometric社が販売しているSedigraphによって、粒径分布(PSD)計測手法により計測されるのが好ましい。タルクは15μmと25μmとの間の粒径を有することが好ましい。さらに別の実施の形態においては、タルクが板状タルクとすることができる。ここで用いられている板状タルクとは、小板状粒子形態を示すタルク、すなわち、二つの長い寸法と一つの短い寸法を有する、例えば厚さよりもずっと大きい長さおよび幅を有する粒子を意味する。一つの実施の形態において、このタルクは、約0.50,0.60,0.70または0.80よりも大きい形態指数(MI)(morphology index)を有する。このために、米国特許第5,141,686号明細書に開示された形態指数は、タルクの板状度を測定したものである。形態指数を測定するための一つの手順は、ホルダ内にサンプルを、サンプルホルダの面内で板状タルクの寸法が最大になるような方位に置く。次に、X線回折(XRD)パターンによりタルクの方位が確定される。形態指数は、下記の等式を用いてタルクの板状形質を半定量的にそのXRD尖頭値に関連付ける。すなわち、
M=I/(I+2I
ここでIは尖頭値、Iはその反射値である。
【0039】
上述のセラミック形成用原材料を含む無機セラミック粉末バッチ組成物は、本発明の施栓用セメント混合物を提供するために、上述の体積変換剤、無機バインダ系、および液状ビヒクルと共に混合される。当業者であれば理解するように、無機バインダを無機セラミック先駆体バッチ組成物中に組み入れると、混合物を整形するための、かつハニカム体の選択された部分に栓を施すための施栓用混合物の凝集性および塑性にさらに寄与することができる。
【0040】
適当な一時的バインダに対して溶剤作用を示す他の液状ビヒクルも使用可能であるが、これらの施栓用混合物に流動的およびペースト状の粘性を提供するための好ましい液状ビヒクルは水である。このため、液状ビヒクル成分の量は、一つには理想的な取扱い特性およびセラミック・バッチ混合物中の他の成分との適合性のために変えることができる。一般に液状ビヒクルの含有量は、塑性化された組成物の15重量%から60重量%の量が、より好ましくは、塑性化された組成物の20重量%から50重量%の量が添加物として存在する。しかしながら、別の実施の形態においては、ハニカム構造体の選択された端部に強制的に注入されることが可能なペースト状の凝集性をなおも保ちながら、可能な限り少量の液状ビヒクルが使用されるのが望ましい。施栓用混合物中の液体成分を最少にすることは、乾燥工程中の施栓用混合物の乾燥収縮をさらに低減することができる。
【0041】
好ましい水ビヒクルを含む施栓用混合物に用いるのに適した一時的なバインダは、メチルセルロース、ヒドロキシプロピル・メチルセルロース、メチルセルロース誘導体、および/またはこれらの何れかの組合せ等の水溶性セルロース・エーテル・バインダを含む。特に好ましい例は、メチルセルロースおよびヒドロキシプロピル・メチルセルロースである。一般に、施栓用混合物中に添加物として存在する有機バインダは、チタン酸アルミニウム先駆体反応性バッチ組成物の0.1重量%から5.0重量%までの範囲内の量であり、セラミック形成用先駆体バッチ組成物の0.5重量%から2.0重量%までの範囲内の量がより好ましい。
【0042】
施栓用混合物は、可塑化剤、滑剤、界面活性剤、焼成助剤、および/または気孔形成剤等の少なくとも一種類の付加的処理剤および/または添加剤を随意的に含有することができる。施栓用混合物の調製に用いる可塑化剤の一例はグリセリンである。滑剤の一例は炭化水素油またはタル油である。気孔形成剤は、得られた栓材料の気孔率および/または中央気孔径を最適化するために随意的に用いられる。典型的かつ非限定的気孔形成剤は、グラファイト、澱粉、ポリエチレンビーズ、および小麦粉である。
【0043】
随意的な焼成助剤の添加は、焼成後のセラミック栓組織の強度を増大させることができる。適当な焼成助剤は、ストロンチウム、バリウム、鉄、マグネシウム、亜鉛、カルシウム、アルミニウム、ランタン、イットリウム、チタン、ビスマス、またはタングステン等の一種類または複数種類の金属の酸化物原料を含む。一つの実施の形態において、好ましい焼成助剤は、酸化ストロンチウム原料、酸化カルシウム原料、および酸化鉄原料を含む。別の実施の形態においては、焼成助剤が少なくとも一種類の希土類金属を含む。さらに、焼成助剤は粉末状および/または液状で施栓用混合物に添加することができる。
【0044】
さらに、本発明の施栓用混合物は、この施栓用混合物が用いられる一般的な壁流通型フィルタ材料に良く一致した膨張係数を有する一種類または複数種類の予備反応済み無機耐熱性充填剤を随意的に含有することができる。これらの予備反応済み無機耐熱性充填剤は、例えばアルミノ珪酸塩粘土の処理によって形成された耐熱性アルミノ珪酸塩繊維のみでなく、炭化珪素、窒化珪素、コージェライト、チタン酸アルミニウム、アルミン酸カルシウム、βユークリプタイト、およびβリシア輝石を含み得る。随意的な反応済み無機耐熱性充填剤は、焼成工程時の施栓用ペーストの収縮および/またはレオロジーを最適化または制御するために施栓用混合物に利用することができる。
【0045】
さらに上述に要約されているように、本発明の施栓用混合物は、栓を施された多孔質セラミック壁流通型フィルタを提供するのに用いることができる。特に、これらの施栓用セメント混合物は、栓を施されたセラミック・ハニカム体に最適である。例えば、一つの実施の形態において、栓を施されたセラミック壁流通型フィルタは、上流側の入力端から下流側の出力端まで縦方向に延びる多孔質のセル壁によって境界を定められた多数のセルチャンネルを画成するハニカム基体から形成されることができる。多数のセルチャンネルの第1の部分は、ここで説明されているような施栓用混合物から形成されかつ下流側の出力端またはその近傍の個々のチャンネル壁に封着された栓を備えて、入力側セルチャンネルを形成することができる。多数のセルチャンネルの第2の部分は、ここで説明されているような施栓用混合物から形成されかつ上流側の入力端またはその近傍の個々のセル壁に封着された栓を備えて、出力側セルチャンネルを形成することができる。しかしながら、施栓用混合物は、セルチャンネル内部の如何なる所望の位置にも配置されて、これにより、如何なる所望の位置にも栓を形成することができ、両端部のみに配置されるものと限定されるものではない。
【0046】
したがって、本発明は、セラミック・ハニカム構造および多孔質セラミック壁によって境界を定められた多数のセルチャンネルを有し、選択されたセルチャンネルのそれぞれが、セル壁に封着された栓を備えている、多孔質セラミック壁流通型フィルタの製造方法を提供するものである。この方法は、概略的に言うと、上流側の入力端から下流側の出力端まで縦方向に延びる多孔質のセル壁によって境界を定められた多数のセルチャンネルを画成するハニカム構造体を提供するステップと、少なくとも1本の所定のセルチャンネルに、ここに説明されている施栓用セメント混合物で栓を施すステップとを含む。栓を施されたハニカム構造体は、次いで、上記少なくとも1本の選択的に栓を施されたセルチャンネル内に焼成された相のセラミック栓が形成されるのに有効な条件下で焼成される。
【0047】
図3を参照すると、典型的な施栓された壁流通型フィルタ100が示されている。図示のように、この壁流通型フィルタ100は、上流側の入力端102および下流側の出力端104、ならびに入力端から出力端まで縦方向に延びる多数のセルチャンネル108(入力側)、110(出力側)を有する。多数のセルは、交差する多孔質セル壁106から形成されている。多数のセルチャンネルのうちの第1部分は、下流側の出力端(不図示)またはその近傍において栓112を施されて入力側セルチャンネルを形成し、第2部分は、上流側の入力端またはその近傍において栓112を施されて出力側セルチャンネルを形成している。例示された施栓構造は、入力端102に開口しているセルチャンネルを通じてフィルタ内に流入した流体流が、次いで多孔質のセル壁106を通り抜け、かつ出力端104に開口しているセルチャンネルを通じてフィルタの外に出るように、入力側チャンネルと出力側チャンネルとが交互に施栓されている。例示されている端部に栓が施されている施栓構造は、交互チャンネル施栓に起因する流路が、処理される流体流を、それがフィルタを出る以前に多孔質のセラミック・セル壁を通り抜けるように導くことにより、「壁流通型」と呼ぶことができる。
【0048】
ハニカム基体は、多孔質のモノリシック・ハニカカム体を形成するのに適した材料であれば、如何なる材料からも作製することができる。例えば、一つの実施の形態においては、上記基体は塑性化されたセラミック形成用組成物から作製することができる。典型的なセラミック形成用組成物は、コージェライト、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、ジルコニア、マグネシウムで安定化されたジルコニア、ジルコニアで安定化されたアルミナ、イットリウムで安定化されたジルコニア、カルシウムで安定化されたジルコニア、アルミナ、マグネシウムで安定化されたアルミナ、カルシウムで安定化されたアルミナ、チタニア、シリカ、マグネシア、ニオビア、バナディア、窒化物、炭化物またはこれらの組合せ等を形成するために従来から知られている組成物を含む。
【0049】
上記ハニカム基体は、ハニカム・モノリス体を形成するのに適した如何なる従来の方法によっても形成することができる。例えば一つの実施の形態において、塑性化されたセラミック形成用バッチ組成物は、例えば、押出し成形、射出成形、鋳込み成形、遠心鋳造、圧力鋳造、乾式成形等の従来から知られている如何なるセラミック形成工程によっても未焼成体を成形することができる。一般に、セラミック先駆体バッチ組成物は、例えば上述の一種類または複数種類の焼成された相のセラミック組成物を形成することができる無機セラミック形成用バッチ成分、液状ビヒクル、バインダ、ならびに、例えば滑剤および/または気孔形成剤を含む一種類または複数種類の随意的な処理助剤および添加物を包含する。典型的な実施の形態において、押出し成形は、油圧ラム押出しプレス、または2段階脱気シングル・オーガー押出し成形機、または排出端に取り付けられたダイ・アセンブリを備えたツインスクリュー・ミキサを用いて行なうことができる。後者においては、ダイを通過するバッチ材料を付勢するのに十分な圧力を発生させるために、材料およびその他の処理条件に応じて、適切なスクリュー素子が選択される。
【0050】
形成されたモノリシック・ハニカムは、如何なる所望のセル密度をも備えることができる。例えば典型的なハニカム体101は、約70セル/平方インチ(10.9セル/cm)から約400セル/平方インチ(82セル/cm)までのセル密度を有する。さらに、上述のように、入力端102またはその近傍におけるセルチャンネルの一部110には、ハニカム体101と同一または類似した組成を有するペーストで栓が施されている。施栓はセルの端部で行なわれて、一般に約5〜20mmの深さを有する栓112を形成するのが好ましいが、これは変えることができる。入力端102において栓が施されたセルチャンネルに相当しない残りのセルチャンネルには、出力端104において同様のパターンで栓が施される。したがって、各セルチャンネルには、一端のみにおいて栓が施されることが好ましい。それ故に、好ましい構成は、図3に示されているように、各端面におけるセルチャンネルには一つおきに市松模様に栓が施される。さらに、入力側および出力側のセルチャンネルは如何なる所望の形状にもすることができる。しかしながら、図3に示された典型的な実施の形態においては、セルチャンネルが正方形の形状を有する。
【0051】
当業者であれば、過度の実験を必要とすることなしに、特に望ましいセラミック・ハニカム基体を形成するのに適した所望のセラミック形成用無機バッチ成分を決定しかつ最適化することが可能なことを理解すべきである。例えば上記無機バッチ成分は、コージェライト、ムライト、スピネル、チタン酸アルミニウム、またはそれらの混合物が焼成により生成するように選択することができる。例えば、そして限定的ではなく、一つの実施の形態において、無機バッチ成分は、焼成により、約49重量%から約53量%までのSiO、約33重量%から約38重量%までのAl、および約12重量%から約16重量%までのMgOから実質的になるコージェライト組成物を提供するために選択される。このため、典型的な無機コージェライト先駆体粉末バッチ組成物は、約33重量%から約41重量%までの酸化アルミニウム原料、約46重量%から約53量%までのシリカ原料、および約11重量%から約17重量%までの酸化マグネシウム原料を含むことが好ましい。コージェライトを形成するのに適した典型的かつ非限定的な無機バッチ成分混合物は、米国特許第3,885,977号、再発行特許第38,888号、第6,368,992号、第6,319,870号、第6,24,437号、第6,210,626号、第5,183,608号、第5,258,150号、第6,432,856号、第6,773,657号、第6,864,198号の各明細書、および米国特許出願公開第2004/0029707号、第2004/0261384号の各明細書に開示されているものを含む。
【0052】
あるいは、別の実施の形態においては、無機バッチ成分は、酸化物の重量%を基準として特徴付けた場合に、焼成により、27重量%から30重量%までのSiOと、約68重量%から72重量%までのAlとから実質的になるムライト組成物を提供するために選択されることができる。典型的な無機ムライト先駆体粉末バッチ組成物は、約76重量%のムライト耐火骨材、約9.0重量%の微細粒粘土、および約15重量%のαアルミナを含むことができる。ムライトを形成するのに適したさらなる典型的かつ非限定的な無機バッチ成分の混合物は、米国特許第6,254,822号および第6,238,618号明細書に開示されている。
【0053】
なおさらに、無機バッチ成分は、酸化物の重量%で特徴付けた場合に、焼成により、約8重量%から約15重量%までのSiO、約45重量%から約53重量%までのAl、および約27から約33重量%までのTiOから実質的になるチタン酸アルミニウムを提供するために選択されることができる。典型的な無機チタン酸アルミニウム先駆体粉末バッチ組成物は、約10重量%の石英、約47重量%のアルミナ、約30重量%のチタニア、および約13重量%のさらなる無機添加物である。チタン酸アルミニウムを形成するためのさらなる典型的かつ非限定的な無機バッチ成分混合物は、米国特許第4,483,944号、第4,855,265号、第5,290,739号、第6,620,751号、第6,942,713号、第6,849,181号明細書、および米国特許出願公開第2004/0020846号、第2004/0092381号明細書、ならびに国際公開第2006/015240号、第2005/046840号、および第2004/011386号パンフレットに開示されたものを含む。
【0054】
形成された未焼成体を焼成された相のセラミック組成物に転化させるための理想的な焼成スケジュールは、当業者であれば直ちに入手可能と思われるので、具体的な焼成スケジュールについてはここでは説明しない。
【0055】
ハニカム基体が形成されると、従来から知られている施栓方法の一つによって、上述のような施栓用混合物が、ハニカム基体の選択された開口セルチャンネル内に所望の施栓パターンをもってかつ所望の深さに強制的に注入される。例えば、選択されたチャンネルの端部に、図3に示されているように施栓されて、「壁流通」構造を提供し、これにより、交互チャンネル施栓態様で形成された流路が、典型的なハニカム基体の上流側の入力端に流入する流体、すなわちガスを導き、下流側の出力端においてフィルタから流出する以前に、多孔質セラミック・セル壁を通過させる。
【0056】
栓を施されたハニカム構造体は次に乾かされ、次いで施栓用材料が、この施栓用材料を本来の焼成された相のセラミック組成に変換するのに有効な条件下で焼成される。施栓用材料を機能的に乾燥させるのに有効な条件は、施栓用材料中に存在する少なくとも実質的に全ての液状ビヒクルを除去することができる条件である。ここで用いられている、少なくとも実質的に全てのというのは、施栓用混合物中に存在する液状ビヒクルの少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、あるいは少なくとも99.9%を除去することを含む。上記液状ビヒクルの除去に適した典型的かつ非限定的乾燥条件は、少なくとも50℃、少なくとも60℃、少なくとも70℃、少なくとも80℃、少なくとも90℃、少なくとも100℃、少なくとも110℃、少なくとも120℃、少なくとも130℃、少なくとも140℃、あるいは少なくとも150℃の温度において、施栓用混合物から液状ビヒクルを少なくとも実質的に除去するのに十分な期間に亘って、端部に施栓されたハニカム基体を加熱することを含む。一つの実施の形態において、液状ビヒクルを少なくとも実質的に除去するのに有効な条件は、施栓用混合物を60℃から120℃までの範囲内の温度で施栓用混合物を加熱することを含む。さらに、加熱は、例えば、熱風乾燥、または高周波乾燥および/またはマイクロウェーブ乾燥を含む従来から周知の方法の何れかによって行なうことができる。
【0057】
乾燥時に従来の施栓用混合物は、乾燥工程中に発生する少なからぬ収縮の結果として望ましくないひび割れが発生していた。これに対して、本発明の一つの実施の形態の施栓用混合物は、施栓用混合物から液状ビヒクルを少なくとも実質的に除去するのに有効な条件下で乾かされた場合に、約6.0%未満の体積収縮率しか示さなかった。別の実施の形態において、本発明の施栓用混合物は、液状ビヒクルを少なくとも実質的に除去するのに有効な条件下で乾かされた場合に、約6.0%未満、約4.0%未満、あるいは約2.0%未満の体積収縮率しか示さなかった。この本発明の施栓用混合物によって提供される乾燥収縮の著しい低減もしくは排除は、乾燥工程中の乾燥ひび割れの発生を効果的に低減もしくは排除する。乾燥収縮は、完全に湿った混合物に関して測定される。
【0058】
図4を参照すると、従来の施栓用混合物および本発明による施栓用混合物に関する典型的かつ非限定的な収縮データが示されている。図示のように、体積変換剤として、少なくとも10%の馬鈴薯澱粉を含む3種類の施栓用混合物(白抜きの正方形で示されている)および少なくとも10%の微小球を含む1種類の施栓用混合物(黒色三角形で示されている)の体積収縮率が、施栓用混合物中に添加された水分の関数としてテストされた。本発明の施栓用混合物のそれぞれは、乾燥後約6.0%未満の、4.0%未満の、あるいは2.0%未満の体積収縮率を示した。これに対して、現在使用されている従来の施栓用混合物の乾燥収縮率は、少なくとも約7.0%の、および12%にもなる高い平均収縮率を示す結果となった(直線Cで示されている)。
【0059】
さらに別の実施の形態において、本発明の施栓用セメント混合物は、乾燥された栓の表面上に形成される望ましくない窪みの存在および/または栓内部の空洞の発生を低減もしくは排除することができる。当業者であれば理解しているように、窪みは、施栓後短時間に現れる栓の表面〈内表面および外表面〉に形成される陥没である。空洞はまた栓の中心線上および栓の内部にも発生する。特定の理論に縛られるつもりはないが、これらは、栓セメントとハニカム体の壁との間に発生する鋳込み成形効果(slip casting effect)の結果であると思われる。特に、施栓用セメント混合物からの水等の液状ビヒクルが、壁によって、一般に栓の中心に小さい気孔を残して逃れ去ることができ、栓の内部に凹みおよび/または大きな空洞を形成する。表面上に形成される窪み種類および/または空洞の性質は、例えば含水量、セルの幾何学的形状・寸法、壁の材料等を含むいくつかの因子に左右される。一つの実施の形態において、本発明の施栓用混合物は、これらの望ましくない窪みおよび/または空洞の形成を低減もしくは排除することができる。
【0060】
さらに、本発明の別の態様によれば、焼成により、焼成された栓の幅方向(図8のXが付された矢印の方向)に亘って測定した断面開口数(SNA)は実質的に一様である。このSNAは、Media Cybemetics社から入手可能なる画像であるPro plus(商品名)上の断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真によって測定される。さらに、栓全体の多孔度は、隅から隅まで、特に栓の幅方向に亘って、しかし長さ方向に沿っても一様である。例えば、断面開口数は、壁から隣の壁までの栓の幅に亘って10%未満、あるいは8%未満しか変化しない。
【0061】
これに加えて、栓の壁に隣接する位置のSNAと中心のSNAは実質的に同一である。図8および図9は、本発明これらの態様による栓の幅方向に亘る比較的一様な多孔度および断面開口数(%)を示す。特に、栓の幅方向に亘る多孔度および測定された断面開口数には若干の変動はあるが、測定地点から±0.2mm以内のSNAの平均値を考慮に入れた局所平均は、幅方向に亘って実質的に一定である。換言すれば、壁の近傍の局所平均は栓の中心におけるよりも低くない。したがって、局所平均は、栓の幅方向に亘って実質的に一定である。
【0062】
図8は、焼成された栓の幅方向および長さ方向(セルチャンネルの長さ方向に一致)に亘る全体の多孔度の実質的な一様性を示す研磨された栓の50倍に拡大された断面を映像で示す図である。同様に、図9は、本発明によるセメントを用いて作製された代表的な栓の幅方向に測定した場合の距離X(mm)に対する断面開口数(%)の実際のテストデータを示す。ここでの断面開口数は、両端における不規則性を無視した(破線AとBとの間のみの測定)栓の代表的な垂直断面に沿った(栓の長手方向寸法に沿った、かつ栓の中心軸線に平行な)全体の長さを、同じ全体の長さに沿った気孔空間(栓の多孔性による)の長さで割って100を掛けた値として定義される。代表的な測定値は、短い一つの壁から隣の壁までの短い間隔の幅に沿って求められる。測定領域の幅は4画素分(0.0103mm)でセル幅に左右され、120および150の測定値が求められかつ図9におけるようにプロットされる。何れの特定のX寸法においても断面開口数(SNA)の等式は下記の通りである。すなわち、
SNA(%)=(全長/気孔長さ)×100
下記の表1は、本発明のハニカム・フィルタのいくつかの実施例(A〜C)の代表的な焼成された栓からのデータを示す。これらの焼成された栓は、本発明のセメント組成から形成された。測定されたSNAの平均値(%)、測定されたSNAの最小値、およびSNAの標準偏差(%)が示されている。
【表1】

【0063】
上述のデータから、平均SNAからの差は10%未満、8%未満、7%未満であり、或る実施例においては6%未満である。平均SNAからの標準偏差は2%未満である。このデータは、SNAが、壁から隣の壁までの栓の幅に亘って実質的に一定であることを示している。
【0064】
乾燥後、ここに説明されている施栓用混合物は、この施栓用混合物を本来の焼成された相のセラミック組成物に転化させるのに有効な条件下で焼成可能である。この有効な条件は、施栓用材料の組成に一部左右される。しかしながら、有効な焼成条件は、一般的に、約1300℃から約1500℃までの範囲内の最高焼成温度で、より好ましくは1375℃から1425℃までの範囲内の最高焼成温度で、施栓用材料を焼成することを含む。
【0065】
一つの実施の形態において、施栓用材料の焼成ステップは、「1回焼成」工程である。この実施の形態によれば、端部に選択的に施栓されたハニカム基体は、乾かされた組成かされたセラミック形成用先駆体組成を有する生の、すなわち未焼成のハニカム体である。施栓用混合物を焼成するのに有効な条件はまた、生のハニカム体の乾かされたセラミック先駆体組成を、焼成された相のセラミック組成物に転化させるのにも有効である。さらに、この実施の形態によれば、焼成されていない生のハニカム体は、この生のハニカム体の無機組成に実質的に等しい組成を有する施栓用混合物で選択的に栓を施すことができる。それ故に、施栓用材料は、同じ生の原料、または生のハニカムの乾燥収縮および焼成収縮に少なくとも実質的にマッチするように選択された生の原料を含む。上述のように、施栓用混合物および生のハニカム体の同時1回焼成は、1300℃から1500℃までの範囲内の最高焼成温度で、より好ましくは1375℃から1425℃までの範囲内の最高焼成温度で、選択的に施栓されたハニカム構造体を焼成することを含む。焼成後、完成された栓は、ハニカム体の熱的、化学的、および/または機械的特性に類似した熱的、化学的、および/または機械的特性を示さなければならない。
【0066】
別の実施の形態においては、施栓用材料の焼成ステップは「2回目焼成」工程である。この実施の形態によれば、与えられたハニカム基体は、本発明の施栓用混合物でハニカム基体が端部に選択的に栓を施される以前に既に焼成されて、セラミック・ハニカム構造を備えている。したがって、施栓用混合物の焼成に有効な条件は、この施栓用混合物をセラミック組成物に転化させるのに有効な条件である。このため、ハニカム体の1本または複数本のチャンネルに対して、ハニカムに類似した物理的特性を有する栓となる施栓用混合物で選択的に栓を施すことが望ましいが、この施栓用混合物は、先に焼成されているハニカム基体の特性を変えることなしに焼成されることが可能な施栓用混合物である。例えば、この実施の形態による施栓用混合物は、栓の焼成に必要な最高焼成温度が、焼成されたセラミック・ハニカム体の最高焼成温度よりも低いものを選択することができる。例えば、コージェライトを主成分とする本発明の施栓用混合物は、チタン酸アルミニウムの基体に栓を施すのに用いるのがよい。
【0067】
再び述べると、2回目の焼成工程において施栓用混合物を焼成するのに有効な条件は、1300℃から1500℃、1350℃から1500℃の範囲内の最高焼成温度において、および1375℃から1425℃までの範囲内の最高焼成温度において選択的に施栓されたハニカム構造体を焼成することを含む。焼成後、完成された栓は、ハニカム基体のハニカム体の熱的、化学的、および/または機械的特性に類似した熱的、化学的、および/または機械的特性を示さなければならない。
【実施例】
【0068】
本発明の原理をさらに説明するために、下記の実施例は、請求項に記載されているセラミック・セメント混合物、物品および方法が如何にして作製されかつ評価されたかの完全な開示および説明を当業者に提供するために提案されるものである。これらは単に本発明の例示を目的とするもので、発明者等が彼等の発明の範囲を限定することを意図したものではない。数値(例えば、量、温度等)に関しては正確を期したが、若干の誤差および偏差は生じている。特に指示がない限り、部は重量部であり、温度は℃または室温であり、圧力は大気圧またはその近傍である。
【0069】
実施例1:体積膨張剤としての馬鈴薯澱粉の評価
体積膨張剤として馬鈴薯澱粉を含む本発明のコージェライトを主成分とする2種類の施栓用混合物が調製され、かつ馬鈴薯澱粉からなる体積変換剤の代わりにグラファイト気孔形成剤を含有する従来のコージェライト施栓用セメントと比較して評価された。種々の施栓用混合物に関する仕様が下記の表2に示されている。
【表2】

【0070】
調製された施栓用セメント混合物は、次にコージェライトを主成分とするハニカム体内のセルチャンネルの施栓に用いられて、フィルタを形成した。施栓作業の完了後、施栓用セメント混合物は乾かされて、施栓用混合物から水分が少なくとも実質的に除去された。乾燥工程後の栓の目視検査の結果、比較例Aの施栓用混合物は、栓の深さにバラツキがあり、ハニカム部分の周辺部に比較的深い栓が用いられた場合に、施栓用材料の目視品質が合格であった。これに対し、本発明の仕様1および2の施栓用材料の目視検査によれば、施栓状態は良好で、栓の深さのバラツキは僅かまたは皆無であり、栓が優れた一様の多孔度を有していた。これに加えて、僅かな重量パーセンテージの澱粉であっても、焼成後の栓全体が、例えば50%、60%を超え、60%さえ超えるという多孔度を示した。
【0071】
これに加えて、体積変換剤としての馬鈴薯澱粉の量の変化の関数である乾燥収縮パーセンテージを評価するために、本発明の仕様1および2に類似した組成を有する4種類の施栓用材料も調製された。特に、4種類の組成物のそれぞれは、液状ビヒクルとして約24重量%の水分全量を含み、さらに、それぞれ1重量%、2重量%、5重量%および10重量%の馬鈴薯澱粉を含んでいた。これらの施栓用混合物は、次に110℃で約6時間加熱されることにより実質的に乾かされ、乾燥工程による体積収縮のパーセンテージに関して評価された。この体積収縮の評価の結果は、下記の表3に示されている。
【表3】

【0072】
上述のデータから明らかなように、体積変換剤としての馬鈴薯澱粉を僅かに添加しただけでも、乾燥収縮のパーセンテージは著しく低減する。例えば、2重量%以上の澱粉(例えば馬鈴薯澱粉)の添加により、乾燥収縮は1%未満になった。それ故に、馬鈴薯澱粉は極めて有効な体積変換剤であり、上記セメントの乾燥収縮を実質的に低減させるものである。
【0073】
図5Aおよび図5Bは、従来の施栓用混合物から生じる窪み形成の存在〈図5A〉を、仕様1および2に類似した本発明の施栓用混合物と比較したものである、図示のように、従来の施栓用混合物では、栓の中心部に窪みが見られる。これに対して、図5Bは、本発明の施栓用混合物から形成された栓には窪みが見られないことを示している。
【0074】
同様に、図6A〜図6Fは、仕様1および2に類似した本発明の施栓用混合物と比較例Aの仕様に類似した従来の施栓用混合物とを比較した断面図および平面図を示す。特に、図6A〜図6Cは、本発明の施栓用混合物の二つの断面図と一つの平面図とを示す。これらの図に見られるように、乾かされた施栓用混合物には、乾燥ひび割れが僅かしかまたは全く見られず、かつ栓の表面上の窪みも見られない。図6D〜図6Fも、従来の施栓用混合物の二つの断面図と一つの平面図とを示す。従来の施栓用混合物には、図6A〜図6Cに示された施栓用混合物と比較して、端部の栓の表面上に窪みが見えるのみでなく、かなりの乾燥ひび割れが見受けられる。
【0075】
さらに図7Aおよび図7Bは、施栓用混合物を焼成して、本来の焼成された相のセラミック組成物に転化させた後の断面図および平面図を示す。再び述べると、焼成後の施栓用混合物には、乾燥ひび割れが僅かしかまたは全く見られず、かつ栓の表面上の窪みも見られない。
【0076】
実施例2:体積膨張剤としての微小球の評価
非発泡・体積変換剤としてのExpancel(登録商標)微小球を変量して含有するコージェライトを主成分とする4種類の本発明の施栓用セメント混合物が調製され、かつ微小球体積変換剤の代わりにグラファイト気孔形成剤を含有する従来のコージェライト施栓用セメントと比較して評価された。種々の施栓用混合物に関する仕様が下記の表4に示されている。
【表4】

【0077】
これに加えて、非発泡・体積変換剤としてのExpancel(登録商標)微小球の変量の関数として乾燥収縮パーセンテージを評価するために、本発明の仕様3,4,5および6の組成に類似した4種類の施栓用混合物も調製された。特に、4種類の組成物のそれぞれは、液状ビヒクルとして約24重量%の水分全量を含み、さらに、それぞれ1重量%、2重量%、5重量%および10重量%の「Expancel」微小球(642WU40)を含んでいた。これらの施栓用混合物は、次に85℃で約12時間の加熱により実質的に乾かされ、乾燥工程による体積収縮のパーセンテージが評価された。この微小球の体積収縮の評価の結果は、下記の表5に示されている。
【表5】

【0078】
上述のデータから明らかなように、ポリマー微小球を5重量%以上のような僅かな量を添加しただけでも、上記セメントの実質的な乾燥によるセメントの収縮のパーセンテージは著しく低減する。10重量%以上の添加により、収縮は2%未満になる。これに加えて、施栓用セメントとして用いられた場合に、本発明は、比較的高い多孔率(50%を超える全多孔率)に組合せられた低い収縮率を備えた栓を形成することができる。
【0079】
最後に、いくつかの特定の実施の形態に関して本発明が詳細に説明されたが、本発明はこれらに限定されるものではなく、添付の請求項において規定された本発明の広範な範囲から離れることなしに、種々の変形および仕様が可能なことを理解すべきである。例えば、基体および/またはフィルタへの外皮付けが施された後に、乾燥収縮率の低いセメントが用いられてもよい。これに加えて、上記セメントは、このセメントと比較して異なる組成を有する基体に栓を形成するために用いられてもよい。例えば、上記施栓用セメントが、チタン酸アルミニウムに栓を施すのに用いられてもよい。
【符号の説明】
【0080】
100 壁流通型フィルタ
101 モリシック・ハニカム体
102 ハニカム体の入力端
104 ハニカム体の出力端
106 多孔質セル壁
108,110 セルチャンネル
112 栓
【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック形成用無機粉末バッチ組成物、
有機バインダ、
液状ビヒクル、および
50℃≦TVT≦200℃の体積変換温度(TVT)を有する非発泡体積変換剤、
を含むことを特徴とする、セラミック壁流通型フィルタのための施栓用混合物。
【請求項2】
前記体積変換剤が澱粉を含むことを特徴とする請求項1記載の施栓用混合物。
【請求項3】
前記体積変換剤が馬鈴薯澱粉を含むことを特徴とする請求項2記載の施栓用混合物。
【請求項4】
前記澱粉が、40μmから50μmまでの範囲内の中央粒径を有することを特徴とする請求項2記載の施栓用混合物。
【請求項5】
入力端から出力端まで縦方向に延びる多数の壁によって境界を定められた多数のセルチャンネルを画成するハニカム構造体を提供し、
セラミック形成用無機粉末バッチ組成物、有機バインダ、液状ビヒクル、および50℃≦TVT≦200℃の体積変換温度(TVT)を有する非発泡体積変換剤を含む施栓用混合物を用いて少なくとも一つのチャンネルに栓を施し、
焼成された相のセラミック栓を前記少なくとも一つのチャンネル内に形成するのに有効な条件下で前記施栓されたハニカム構造体を焼成する、
諸ステップを含むことを特徴とする、多孔質セラミック・ハニカム・フィルタの製造方法。
【請求項6】
少なくとも前記液状ビヒクルを実質的に除去するのに有効な条件が、60℃から120℃の範囲内の温度で前記施栓用混合物を加熱することを含むことを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記体積変換剤が、ガスを封止されたポリマー微小球を含むことを特徴とする請求項5記載の方法。

【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−522106(P2010−522106A)
【公表日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500913(P2010−500913)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/003247
【国際公開番号】WO2008/115378
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】