説明

セラミック体、セラミック触媒体及びその製造方法

【課題】高温安定、高比表面積のコーディエライト多孔体を基材とし、該基材表面に針状粒子を発現させ、その針状粒子の表面の一部あるいは全体に該針状粒子と異なる成分が被覆されているセラミック体、及びセラミック触媒体を提供する。
【解決手段】排ガス浄化用触媒あるいはフィルターの多孔質基材として使用され、排ガスの接触する面に針状粒子が存在するセラミック体において、多孔質基材表面に該基材主成分と成分が異なる針状粒子が形成されていることを特徴とするセラミック体、セラミック触媒体及びその製造方法。
【効果】比表面積が大きく、焼結による比表面積の低下が抑制され、熱容量が小さく、触媒の早期活性化が可能であり、また、圧損が少ない、新しい排ガス浄化用セラミック触媒体を製造し、提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック体、セラミック触媒体に関するものであり、更に詳しくは、例えば、NOx除去のための自動車用三元触媒、ガスタービン用燃焼触媒、及び高温ガス浄化用触媒のような、800℃を超える高温・高速気流に曝される部位に好適に使用することが可能なセラミックハニカム触媒体に関するものである。従来、例えば、自動車の三元触媒の触媒担持用の酸化物系ハニカム構造体の製造技術分野において、高比表面積を有し、しかも、高温に長時間曝されても、焼結による比表面積の低下が少ない、高比表面積コーディエライト多孔体の開発が強く求められていた。本発明は、高い比表面積を有し、800℃を超える温度に長時間曝されても、焼結による比表面積の低下が少ないコーディエライト多孔体を基材とするセラミック体、及びそのような多孔質コーディエライトで直接形成される触媒担持用ハニカム構造体等を製造することを可能とする新しいコーディエライト多孔体の製造技術及びその製品を提供するものである。本発明は、コーディエライト多孔体を基材とするセラミック体について、焼結による比表面積の低下を抑制すること、溶液等を被覆することにより針状形状粒子を壁面に発現させたコーディエライトハニカムを製造すること、及びそれらの安価な製造方法を提供すること、等を実現するものとして有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、触媒担持用の酸化物系ハニカム構造体については、例えば、自動車の三元触媒や燃焼触媒等の高温で長時間曝されるような部位で、すでに実用化が果たされており、また、その更なる特性の向上を目的とした開発が進められている。それらの内、特にコーディエライトについては、融点が1400℃程度と高いこと、熱膨張係数が極端に小さいこと、耐熱衝撃性に優れていること等から、例えば、自動車の三元触媒やガスタービン用の燃焼触媒、あるいは高温ガス浄化用の触媒等の、800℃を超える高温部における触媒の担体として、そのハニカム構造体が用いられている。
【0003】
このように、従来、コーディエライトの触媒担体としての有用性は認められているものの、従来のコーディエライト多孔体の製造法では、高い比表面積を有し、熱的に安定なものを作製することが困難であり、そのため、排ガス浄化用触媒として、従来より、高耐熱衝撃性のコーディエライトハニカム構造体よりなる担体表面を、ガンマアルミナで被覆(コート)し、貴金属触媒を担持させたものが広く用いられている。コート層を形成するのは、コーディエライトの比表面積が小さく、そのままでは、必要な量の触媒成分を担持させることができないからであり、ガンマアルミナのような高比表面積材料を用いて、担体の比表面積を大きくしている。
【0004】
しかしながら、担体のセル壁表面をガンマアルミナでコートすることは、重量増加による熱容量増加を招く。近年、触媒の早期活性化のために、セル壁を薄くして熱容量を下げることが検討されているが、コート層を形成すると、その効果が半減してしまうことから、その改善が課題となっていた。また、コート層を形成した場合、各セルの開口面積が低下するため、圧損が増加する、担体としての熱膨張係数がコーディエライトのみの場合より大きくなる、ガンマアルミナは、1000℃以上の高温では、アルファアルミナに転移し、また、焼結が進行するために、高比表面積を維持することが困難であるという問題点がある、といった不具合があった。
【0005】
本発明者らは、これまでに、サブミクロンの直径を有するコーディエライト針状結晶で構成されるコーディエライト多孔体の開発に成功しており、先行技術文献に記載されているように、コーディエライト多孔体で構成されるハニカム構造体としては、コーディエライト多孔体を直接利用するもの、及びコーディエライト多孔体の内壁へコーティングを施したものを提案した(特許文献1〜7参照)。
【0006】
従来、コーディエライトを高温に曝される部位に用いる場合には、ハニカム構造体の内壁にガンマアルミナ等のコーティングを施す以外に方法がなかった。このため、コート層を形成することなく、触媒成分を担持可能なセラミック体について種々検討がなされている。先行技術文献には、例えば、酸処理した後、熱処理することによりコーディエライト自体の比表面積を向上させる方法が提案されている(特許文献8参照)。しかしながら、この方法では、酸処理や熱処理によりコーディエライトの結晶格子が破壊されて強度が低いという問題があり、実用的ではなかった。
【0007】
そこで、本発明者らは、先に、比表面積を向上させるためのコート層を形成することなく、必要量の触媒成分を担持可能なセラミック担体を提案した(特許文献9参照)。このセラミック担体は、基材セラミックを構成する元素の内の少なくとも1種類又はそれ以上の元素を、構成元素以外の元素と置換してなり、このセラミック担体を、例えば、ヘキサクロロ白金酸、塩化第二白金、塩化ロジウム等の貴金属化合物の溶液に浸漬後、焼成することによって、貴金属触媒を置換元素上に直接担持することが可能である。このセラミック担体は、酸処理や熱処理を行って空孔を形成する従来の担体に比べて、強度が高く、耐久性が向上する。また、他の先行技術文献として、例えば、触媒成分を直接担持可能なセラミック担体に、主触媒成分と助触媒成分を担体表面に直接担持させるにあたり、主触媒を先に、助触媒を後に担持させることにより、熱劣化し難い触媒体としたセラミック触媒が提案されている(特許文献10参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2003−321280号公報
【特許文献2】特開2003−212672号公報
【特許文献3】特開2003−025316号公報
【特許文献4】特開2002−355511号公報
【特許文献5】特開2002−119870号公報
【特許文献6】特開2002−172329号公報
【特許文献7】特開2001−310128号公報
【特許文献8】特開昭62−004441号公報
【特許文献9】特開2003−080080号公報
【特許文献10】特開2003−230838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術における諸問題を抜本的に解決することを可能とする、新しい触媒担持用コーディエライトハニカム構造体を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、コーディエライト基材に針状粒子を発現させ、その針状粒子の表面の一部あるいは全体に、該針状粒子と異なる成分を被覆することにより、比表面積を飛躍的に向上させることができること、針状粒子が高温に曝されても安定であることから、焼結による比表面積の低下を劇的に抑制させ得ることが可能となること、針状粒子の表面に触媒担持能を有する被覆を施すことにより、優れた触媒性能を有するセラミック触媒体の実現が可能であること、それにより、従来の製造法におけるハニカム構造体の内壁へのガンマアルミナのコーティングが不要になること等の新規知見を見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、高温安定で、高比表面積の触媒担持用セラミック体、及び該セラミック体を担体として用いた、優れた触媒性能を有するセラミック触媒体を提供することを目的とするものである。また、本発明は、高比表面積を有し、1000℃の熱処理でも比表面積の低下を抑制することが可能な、新規コーディエライト多孔体を基材とするセラミック体、そのハニカム構造体、それらの製造方法及びその製品としてのセラミック触媒体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)排ガス浄化用触媒あるいはフィルターの多孔質基材として使用され、排ガスの接触する面に針状粒子が存在するセラミック体において、多孔質基材表面に該基材主成分と成分が異なる針状粒子が形成されていることを特徴とするセラミック体。
(2)上記針状粒子が、微細な凹凸を有する多結晶体である、前記(1)に記載のセラミック体。
(3)上記針状粒子の表面の一部あるいは全体に、被覆層が形成されている、前記(1)に記載のセラミック体。
(4)上記基材主成分が、コーディエライトである、前記(1)に記載のセラミック体。
(5)上記針状粒子が、ムライトである、前記(1)に記載のセラミック体。
(6)上記針状粒子の表面に被覆された物質が、少なくともSi又はAlを含む、前記(3)に記載のセラミック体。
(7)上記針状粒子の表面に被覆された物質が、コーディエライトである、前記(3)に記載のセラミック体。
(8)上記針状粒子の表面に被覆された物質が、コーディエライトであり、その結晶格子を構成する元素の一部が、W、Tiの少なくとも一方で置換されている、前記(3)に記載のセラミック体。
(9)上記多孔質基材の気孔率が、30%以上である、前記(1)に記載のセラミック体。
(10)上記針状粒子の径が、1μm以下である、前記(1)に記載のセラミックス体。
(11)上記針状粒子のアスペクト比が、5以上である、前記(1)に記載のセラミック体。
(12)上記セラミック体の形状が、粉末、ペレット、不織布、織布、繊維、又はハニカム形状である、前記(1)から(11)のいずれかに記載のセラミック体。
(13)上記セラミック体の比表面積が、1m/g以上である、前記(1)から(12)のいずれかに記載のセラミック体。
(14)前記(1)から(13)のいずれかに記載のセラミック体に、触媒成分を担持したことを特徴とするセラミック触媒体。
(15)上記触媒成分が、化学的結合により担持されている、前記(14)に記載のセラミック触媒体。
(16)上記触媒成分が、貴金属である、前記(14)又は(15)に記載のセラミック触媒体。
(17)針状粒子を含むスラリーを多孔質基材に被覆あるいは含浸した後、焼成することにより、針状粒子を基材表面に発現させ、更に針状粒子表面の一部あるいは全体に、該針状粒子と異なる成分を被覆することを特徴とするセラミック体の製造方法。
(18)針状粒子となり得る成分を含有するスラリーを多孔質基材に被覆あるいは含浸した後、焼成することにより、針状粒子を基材表面に発現させる、前記(17)に記載のセラミック体の製造方法。
(19)基材表面に発現させた針状粒子が、微細な凹凸を有する多結晶針状ムライト粒子である、前記(17)に記載のセラミック体の製造方法。
(20)前記(1)から(13)のいずれかに記載のセラミック体に、触媒成分を担持させることを特徴とするセラミック触媒体の製造方法。
【0012】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、排ガス浄化用触媒あるいはフィルターの多孔質基材として使用され、排ガスの接触する面に針状粒子が存在するセラミック体において、多孔質基材表面に該基材主成分と成分が異なる針状粒子が形成されていることを特徴とするものである。また、本発明は、セラミック触媒体であって、上記セラミック体に、触媒成分を担持したことを特徴とするものである。また、本発明は、上記セラミック体の製造方法であって、針状粒子を含むスラリーを多孔質基材に被覆あるいは含浸した後、焼成することにより、針状粒子を基材表面に発現させ、更に針状粒子表面の一部あるいは全体に、該針状粒子と異なる成分を被覆することを特徴とするものである。更に、本発明は、上記セラミック触媒体の製造方法であって、上記セラミック体に、触媒成分を担持させることを特徴とするものである。
【0013】
本発明は、排ガス浄化用触媒あるいはフィルターの多孔質基材の表面に針状粒子が形成され、該針状粒子の表面の一部あるいは全体に、内部と異なる物質が被覆されていることを特徴とするセラミック体、セラミック触媒体及びそれらの製造方法に係るものである。本発明のセラミック体は、針状粒子を含むスラリー又は針状粒子となり得る成分を含有するスラリーを、基材に被覆あるいは含浸した後、焼成することにより、基材表面に針状粒子を発現させ、更に針状粒子表面の一部あるいは全体に、該針状粒子と異なる成分が被覆されていることを特徴とするものである。針状粒子を発現させる方法としては、例えば、針状粒子を含むスラリー又は針状粒子となり得る成分を含有するスラリーを、基材表面に被覆あるいは噴霧する方法、ハニカム内部でゾルゲル溶液の加水分解反応を利用する方法等が挙げられる。
【0014】
まず、本発明のセラミックス体について説明する。本発明では、多孔質基材の出発物質として、コーディエライト組成になるように配合した出発粉末が用いられる。例えば、出発物質として、カオリン、タルク、アルミナ、シリカ粉末を使用し、これらをコーディエライト組成になるように秤量し、配合する。この際に、造孔材として、例えば、カーボンブラック等の炭素含有成分を配合する。造孔材の量は、目的とする気孔率を考慮し、添加量として、例えば、5〜30重量%のカーボンブラック等を添加することができる。それにより、気孔率が30%以上、例えば、38〜55%の気孔率の焼結体を得ることが可能となる。
【0015】
本発明で使用する造孔材として、例えば、カーボンブラック、でんぷん、フェノール樹脂、ポリスチレン等が例示される。本発明では、上記出発粉末と造孔材を、例えば、ボールミル混合し、得られた混合スラリーを、エバポレーター、オーブン等で乾燥させ、得られた乾燥体を粉砕し、分級し、次いで、この粉末を加圧成形し、1200〜1400℃で焼結する。それにより、サブミクロンのコーディエライト結晶相を有するコーディエライト多孔体を作製することができる。
【0016】
本発明では、針状粒子の成分が、ムライトであることが好適である。この針状粒子を作製する場合には、ゾルゲル法を利用する。アルミニウム及びシリカ成分となり得るアルコキシドを、ムライト(3Al・2SiO)の化学量論組成となるように秤量し、溶媒としてアルコールを用いる。アルコキシドとしては、アルミニウムイソプロポキシド、オルトケイ酸テトラエチルが好適であり、溶媒としては、エタノールが好適である。この溶液をホットスターラーで加熱し、攪拌する。攪拌時の温度は50℃が望ましい。
【0017】
十分に攪拌した後、更に、高い温度で加熱する。このときの温度は、80℃が好適である。加熱後、この溶液に純水を適量添加し、更に攪拌し、ゲル化させる。得られたゲルを60〜80℃で乾燥後、粉砕し、針状ムライト前駆体を作製する。得られる前駆体は、微細なアモルファス粒子で構成された針状形状を有する。得られた前駆体を、1200〜1400℃で熱処理することにより、結晶化し、微細な凹凸を有する、径が1μm以下であり、アスペクト比が5以上の多結晶体針状ムライトとなる。
【0018】
本発明では、針状粒子の表面に、少なくともSi又はAlを含む物質が被覆されていることが好適である。この被覆物質として、コーディエライトが好適であり、触媒成分を直接担持可能な第二成分を含ませることが望ましい。第二成分としては、Cr、Mo、W、Co、Ti、Fe、Ga、Ni等が例示される。本発明では、目的物質の被覆は、目的物質の成分を含有する溶液を調製し、針状粒子に被覆し、加熱することにより行われる。
【0019】
溶液は、例えば、それぞれの成分のアルコキシドや硝酸塩等を用いて、目的の成分となるように配合し、調製する。また、均質な溶液を調製するために、例えば、硝酸等の酸を添加することが望ましい。溶液を針状粒子に被覆後、加熱することにより、結晶化を促進する。被覆溶液の濃度、被覆回数を変えることにより、針状粒子表面への被覆量を変えることが可能である。また、針状粒子表面への被覆は、溶液法以外に、気相法又は固相法により行うことも可能である。
【0020】
本発明のセラミック体を製造する場合には、出発物質として、コーディエライト組成となるように配合したセラミック原料、例えば、高純度のカオリン、タルク、アルミナ、シリカ粉末に、造孔材を配合した後、ハニカム形状等として、大気中、1200〜1400℃で焼成した後、ゾルゲル法により得られた針状ムライトを分散したアルコール系、あるいは水系スラリーで被覆し、再度1200〜1400℃で焼成する。
【0021】
その後、少なくともSi又はAlを含む成分をアルコキシド等を用いた溶液法により被覆し、1200〜1400℃で焼成する。この手法により、針状粒子の表面の一部あるいは全体に少なくともSi又はAlを含む被覆層が形成されていることを特徴とするコーディエライト多孔体を作製することが可能である。また、上記焼成工程は、少なくとも最終工程で行えばよく、それ以外の焼成工程は省略することも可能である。
【0022】
針状粒子を発現させる方法としては、例えば、針状粒子を含むスラリー又は針状粒子となり得る成分を含有するスラリーを基材表面に被覆あるいは噴霧する方法、ハニカム内部でゾルゲル溶液の加水分解反応を利用する方法等が挙げられる。針状粒子スラリーには、基材との密着性の向上、及び針状粒子同士の密着を防ぐために、適量のバインダーを添加することも可能である。バインダーとしては、ポリビニールアルコール(PVA)、ポリビニールブチラール(PVB)、メチルセルロース等が用いられる。
【0023】
本発明のセラミック体の基材である、コーディエライト多孔体表面に、針状ムライト粒子を発現させると、比表面積が増加する。また、針状ムライトは、高温で安定であり、焼結が進行しにくい構造となり、高温での熱処理によっても、焼結による基材自体の比表面積の低下を抑制することができる。このことから、本発明のセラミック体の基材である高温安定・高比表面積コーディエライト多孔体から、直接、触媒担体としてのハニカム構造体を製造することが可能となる。
【0024】
また、本発明では、上記高温安定・高比表面積コーディエライト多孔体を触媒担持用ハニカム構造体として用いることにより、従来製品で問題となっていた、長時間使用することによるガンマアルミナコーティング層の焼結の進行及び剥離に起因する触媒品質の劣化を、皆無とすることができる。本発明では、上記高温安定・高比表面積コーディエライト多孔体を、触媒担持用ハニカム構造体として用いることにより、貴金属触媒を担持させたハニカム触媒を、低コストで製造し、提供することができる。
【0025】
本発明のセラミック体の基材である、コーディエライト多孔体表面に、高温で安定な針状ムライト粒子を発現させると、焼結が進行しにくい構造となり、高温での熱処理によっても、焼結による基材自体の比表面積の低下を抑制することができる。更に、針状ムライト粒子の表面に、触媒担持能を有する被覆を施すことにより、高温で安定な高比表面積を有する触媒担持用コーディエライトハニカム構造体として直接製造することが可能であり、それにより、例えば、高温安定・高比表面積触媒担持用コーディエライト多孔体として好適に使用することが可能なハニカム構造体を提供することができる。
【0026】
上述の方法により作製した触媒担持能を有するコーディエライトハニカム構造体は、内燃機関の排ガス浄化用触媒等に用いられるセラミック担体として好適に使用される。このセラミック担体は、例えば、コーディエライトハニカム構造体が有する細孔や、ハニカム内壁に生成した針状粒子表面に、ガンマアルミナのコートなしに、触媒成分を担持することができ、これにより、低熱容量、高耐熱衝撃性、低圧損なセラミック触媒体が得られる。触媒成分としては、触媒能を有する金属、及び触媒能を有する金属の酸化物の少なくとも1種類を用いる。
【0027】
触媒能を有する金属としては、例えば、Pt、Pd、Rh等の貴金属が、触媒能を有する金属の酸化物としては、例えば、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Sn、Pb等の金属のうち少なくとも1つ以上の金属を含む酸化物が使用される。また、助触媒として、ランタノイド元素、遷移金属元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素又はその酸化物複合酸化物の1種又は複数種を同時に使用することができる。
【0028】
触媒成分を担持する方法としては、例えば、触媒成分を溶媒に溶解して、コーディエライトハニカム構造体に含浸させ、触媒成分を担持させる液相法の他、CVD法、PVD法等の気相法、超臨界流体を使用する方法等が使用される。液相法では、溶媒として水を用いることもできるが、水よりも表面張力が小さな溶媒、例えば、メタノール等のアルコール系溶媒を用いることが好ましい。
【0029】
このようにして作製される本発明のセラミック触媒体は、セラミック担体表面にガンマアルミナのコート層を形成することなしに、必要量の触媒成分が、直接、且つ狭い間隔で担持された、浄化性能に優れたセラミック触媒体となる。
【0030】
従来の排ガス浄化用触媒の多孔質担体では、比表面積を向上させるために、担体表面にガンマアルミナを被覆することが行われていたが、重量増加による熱容量の上昇と1000℃以上の高温でのアルファアルミナへの転移及び焼結の進行による触媒の劣化の問題があり、それらの解決が求められていた。これに対し、本発明では、多孔質基材表面に、該基材主成分と成分が異なる高温で安定な針状粒子を発現させることが可能であり、それにより、高温安定・高比表面積触媒担体用セラミック体及びセラミック触媒体を構築し、提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)高比表面積を有するコーディエライト多孔体からなるセラミック体及びセラミック触媒体を提供できる。
(2)このセラミック体は、基材表面に高温で安定な針状粒子が発現しているため、例えば、1000℃を超える高温に長時間曝されても、焼結による比表面積の低下が抑制できる。
(3)針状形状粒子の表面に触媒担持能を有する被覆を施すことにより、高温で安定な高比表面積を有する触媒担持用コーディエライトハニカム構造体を作製することができる。
(4)低コストで高品質のハニカム体を製造することが可能な新しい製造技術を提供できる。
(5)従来法による、例えば、コーディエライトハニカム体の内壁にガンマアルミナをコートした製品では、1000℃以上の高温で、ガンマアルミナがアルファアルミナに転移し、また、焼結が進行するために高比表面積を維持することが困難であるという問題があったが、本発明の製品では、そのような問題がない。
(6)熱容量が小さいために触媒の早期活性化が可能であり、また、圧損が少ないという利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
アルミニウムイソプロポキシドとオルトケイ酸テトラエチルをムライトの化学量論組成となるように秤量し、エタノールに添加した。ホットスターラーで50℃、24時間撹拌した後、80℃に加熱した。この溶液に純水を添加し、更に、80℃、2時間撹拌することによりゲル化させた。得られたゲルを70℃で乾燥後、乳鉢で粉砕し、針状ムライト前駆体を作製した。前駆体のTEM写真及びSEM写真を図1に示す。
【0034】
得られた針状ムライト前駆体は、微細なアモルファス粒子で構成されていた。得られた針状ムライト前駆体を1300℃、大気中、4時間の条件で焼成し、針状ムライトとした。得られた針状ムライトのTEM写真及びSEM写真を図2に示す.得られた針状ムライトは、微細なアモルファス粒子が結晶化し、微細な凹凸を有する多結晶体であった。このプロセスにより得られた針状ムライトをエタノールに分散させ、ムライトスラリーを調製した。
【0035】
水酸化アルミニウム、シリカ、酸化マグネシウムを原料とし、コーディエライトの化学量論組成となるように秤量した。原料粉末を、ボールミルにより24時間混合した後、乾燥・粉砕し、得られた混合粉末を一軸加圧成形でペレットとし、1350℃、大気中、4時間焼成し、コーディエライトペレットを得た。
【0036】
上記の方法で調製した針状ムライト粉末スラリーを、コーディエライトペレットにディップコートし、室温にて乾燥後、1350℃、大気中、4時間の条件で焼成することにより、針状ムライト被覆コーディエライトペレットを作製した。図3に、ペレット表面に被覆された針状ムライトのSEM写真を示す。また、針状ムライト粒子は、基材と接している面に対して強固に結合していることが分かった。
【0037】
アルミニウムイソプロポキシド、オルトケイ酸テトラエチル、マグネシウムエトキシド、チタンイソプロポキシド、及びメタタングステン酸アンモニウムを原料とし、コーディエライトの化学量論組成となるように秤量し、所定量のエタノールに添加した。ホットスターラーで50℃、24時間撹拌後、硝酸を添加し、完全に溶解させた。
【0038】
得られた溶液を、上記の針状ムライト被覆コーディエライトペレットにディップコートし、室温で乾燥後、1350℃、大気中、4時間焼成した。得られたペレットの表面をX線回折により分析したところ、ムライト相及びコーディエライト相に起因するピークが確認された。また、EPMA及びEDSによる元素分析の結果から、針状ムライト表面には、コーディエライトが部分的あるいは全体的に被覆されていた。
【実施例2】
【0039】
原料として、カオリン、タルク、水酸化アルミニウム、及びシリカを出発原料として用いた。バインダーとしてメチルセルロースを6wt%添加し、適量の水を加えて混練し、セル壁厚100μm、セル密度400cpsi、φ50mm、L100mmのハニカムを押出成形した。この成形体を1400℃、大気中、4時間焼成した。このハニカムに、実施例1と同様の針状ムライトスラリーを含浸させ、針状ムライトをハニカム壁面に被覆した。このハニカムを1350℃、大気中、4時間焼成した。
【0040】
また、針状ムライトを被覆したハニカムに実施例1で調製したコーディエライト前駆体溶液を含浸させ、室温で乾燥後、1350℃、大気中、4時間焼成した。図4に、針状ムライト被覆コーディエライトハニカムのSEM写真を示す。得られたハニカム壁面には、実施例1と同様に、針状ムライトが全体的に被覆されており、EPMA及びEDSによる元素分析の結果から、針状ムライト表面には、コーディエライトが部分的あるいは全体的に被覆されていた。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ゾルゲル法により合成した針状ムライト前駆体のTEM写真及びSEM写真を示す。
【図2】1300℃、大気中、4時間の条件で焼成した針状ムライトのTEM写真及びSEM写真を示す。
【図3】1350℃、大気中、4時間の条件で焼成した針状ムライト被覆ペレット表面のSEM写真を示す。
【図4】1350℃、大気中、4時間の条件で焼成した針状ムライト被覆コーディエライトハニカム壁面のSEM写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス浄化用触媒あるいはフィルターの多孔質基材として使用され、排ガスの接触する面に針状粒子が存在するセラミック体において、多孔質基材表面に該基材主成分と成分が異なる針状粒子が形成されていることを特徴とするセラミック体。
【請求項2】
上記針状粒子が、微細な凹凸を有する多結晶体である、請求項1に記載のセラミック体。
【請求項3】
上記針状粒子の表面の一部あるいは全体に、被覆層が形成されている、請求項1に記載のセラミック体。
【請求項4】
上記基材主成分が、コーディエライトである、請求項1に記載のセラミック体。
【請求項5】
上記針状粒子が、ムライトである、請求項1に記載のセラミック体。
【請求項6】
上記針状粒子の表面に被覆された物質が、少なくともSi又はAlを含む、請求項3に記載のセラミック体。
【請求項7】
上記針状粒子の表面に被覆された物質が、コーディエライトである、請求項3に記載のセラミック体。
【請求項8】
上記針状粒子の表面に被覆された物質が、コーディエライトであり、その結晶格子を構成する元素の一部が、W、Tiの少なくとも一方で置換されている、請求項3に記載のセラミック体。
【請求項9】
上記多孔質基材の気孔率が、30%以上である、請求項1に記載のセラミック体。
【請求項10】
上記針状粒子の径が、1μm以下である、請求項1に記載のセラミックス体。
【請求項11】
上記針状粒子のアスペクト比が、5以上である、請求項1に記載のセラミック体。
【請求項12】
上記セラミック体の形状が、粉末、ペレット、不織布、織布、繊維、又はハニカム形状である、請求項1から11のいずれかに記載のセラミック体。
【請求項13】
上記セラミック体の比表面積が、1m/g以上である、請求項1から12のいずれかに記載のセラミック体。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載のセラミック体に、触媒成分を担持したことを特徴とするセラミック触媒体。
【請求項15】
上記触媒成分が、化学的結合により担持されている、請求項14に記載のセラミック触媒体。
【請求項16】
上記触媒成分が、貴金属である、請求項14又は15に記載のセラミック触媒体。
【請求項17】
針状粒子を含むスラリーを多孔質基材に被覆あるいは含浸した後、焼成することにより、針状粒子を基材表面に発現させ、更に針状粒子表面の一部あるいは全体に、該針状粒子と異なる成分を被覆することを特徴とするセラミック体の製造方法。
【請求項18】
針状粒子となり得る成分を含有するスラリーを多孔質基材に被覆あるいは含浸した後、焼成することにより、針状粒子を基材表面に発現させる、請求項17に記載のセラミック体の製造方法。
【請求項19】
基材表面に発現させた針状粒子が、微細な凹凸を有する多結晶針状ムライト粒子である、請求項17に記載のセラミック体の製造方法。
【請求項20】
請求項1から13のいずれかに記載のセラミック体に、触媒成分を担持させることを特徴とするセラミック触媒体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−277037(P2007−277037A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−104708(P2006−104708)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】