説明

セラミック基板の製造方法

【課題】立体形状の制約が小さくなり成形密度が高い成形体が得られるセラミック基板の製造方法を提供する。
【解決手段】セラミック基板の製造方法は、(a) 第1のセラミックスグリーンシートの温度をガラス転移温度以上に昇温する工程と、(b) 前記工程(a)の後に前記第1のセラミックスグリーンシートの第1の主面に型を圧入する工程と、(c) 前記第1のセラミックスグリーンシートの第1の主面に前記型を圧入した状態のまま前記第1のセラミックスグリーンシートの温度をガラス転移温度未満に降温する工程と、(d) 前記工程(c)の後に前記第1のセラミックスグリーンシートと前記型とを分離する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図45〜図47は、従来の液滴吐出装置9の構成を示す模式図である。図45は、液滴吐出装置9の斜視図、図46は、図45のXLVI−XLVIに沿う液滴吐出装置9の横断面図、図47は、図45のXLVII−XLVIIに沿う液滴吐出装置9の縦断面図となっている。
【0003】
図45〜図47に示すように、液滴吐出装置9は、複数個の振動体920を基板902の上面9021に規則的に配列した構造を有している。
【0004】
図46及び図47に示すように、基板902は、板の内部にキャビティ908並びに液体の流路となる吐出孔910及び供給孔912を形成した構造を有する。キャビティ908は、基板902の上面9021と振動板904で隔てられている。このような構造により、振動板904の上面9041に固設された振動体920が振動板904を屈曲振動させると、キャビティ908に充填された液体が押圧され、吐出孔910から液滴が吐出される。
【0005】
図46及び図47に示すように、従来の液滴吐出装置9では、キャビティの横幅W91、縦幅W92及び深さD91はいずれも一定となっている。これは、金型で打ち抜き加工したセラミックスグリーンシートやレーザ光で穿孔加工したセラミックスグリーンシート等を熱圧着した後に焼成することにより基板902を製造していたため、キャビティ908の内側面9081〜9084を基板902の上面9021に垂直にし、キャビティ908の内下面9086を基板902の上面9021に平行にせざるを得なかったためである。
【0006】
特許文献1は、従来の液滴吐出装置に関する文献公知発明が記載された先行技術文献である。特許文献1に記載された液滴吐出装置でも、キャビティの幅及び深さは一定となっている。
【0007】
特許文献2は、本願発明と関連する文献公知発明が記載された先行技術文献である。特許文献2は、キャビティ(インク室5)の幅が吐出孔(ノズル8)の側へ向かって狭くなり、キャビティの深さが吐出孔の側へ向かって深くなる液滴吐出装置(インクジェットヘッド1)に言及している。特許文献2の液滴吐出装置は、基板の主面と垂直に延在する圧電/電歪体膜と電極膜とを交互に積層したと思われる振動体(ピエゾ素子13)の上端を振動板(振動膜3)に固定し、基板の主面と垂直な方向の振動体の伸縮を振動板に伝えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−075305号公報
【特許文献2】特開2002−036538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
金型で打ち抜き加工したセラミックスグリーンシートやレーザ光で穿孔加工したセラミックスグリーンシート等を熱圧着した後に焼成することにより基板902を製造する従来の基板902の製造方法では、キャビティの立体形状の制約が大きく、液滴の吐出量を増加させることができる立体形状を有するキャビティを形成することは困難である。絶縁セラミックス粉末を分散媒に分散させたスラリーを鋳型に流し込むキャスティング法により基板902を製造する従来の基板902の製造方法では、成形密度が高い成形体を得ることが困難である。
【0010】
本発明は、これらの問題点を解決するためになされたもので、立体形状の制約が小さくなり成形密度が高い成形体が得られるセラミック基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、セラミック基板の製造方法に向けられる。
【0012】
本発明の第1の局面においては、セラミック基板の製造方法は、(a) 第1のセラミックスグリーンシートの温度をガラス転移温度以上に昇温する工程と、(b) 前記工程(a)の後に前記第1のセラミックスグリーンシートの第1の主面に型を圧入する工程と、(c) 前記第1のセラミックスグリーンシートの第1の主面に前記型を圧入した状態のまま前記第1のセラミックスグリーンシートの温度をガラス転移温度未満に降温する工程と、(d) 前記工程(c)の後に前記第1のセラミックスグリーンシートと前記型とを分離する工程と、を備える。
【0013】
本発明の第2の局面は、本発明の第1の局面にさらなる事項を付加する。本発明の第2の局面においては、前記型が、根元の幅よりも先端の幅が狭い台形の横断面形状を有する圧入部を有する。
【0014】
本発明の第3の局面は、本発明の第1の局面にさらなる事項を付加する。本発明の第3の局面においては、セラミック基板の製造方法は、(e) 前記工程(d)の後に前記型の圧入により窪みが形成された前記第1のセラミックスグリーンシートの第1の主面の側に第2のセラミックスグリーンシートを熱圧着する工程と、(f) 前記工程(e)の後に前記第1のセラミックスグリーンシート及び前記第2のセラミックスグリーンシートを一体的に焼成する工程と、をさらに備える。
【0015】
本発明の第4の局面は、本発明の第1から第3までのいずれかの局面にさらなる事項を付加する。本発明の第4の局面においては、セラミック基板の製造方法は、(g) 前記工程(a)の前に前記第1のセラミックスグリーンシートの第1の主面の窪みが形成される領域の外側にセラミックス層を形成する工程、をさらに備える。
【0016】
本発明の第5の局面は、本発明の第4の局面にさらなる事項を付加する。本発明の第4の局面においては、前記セラミックス層のガラス転移温度が前記第1のセラミックスグリーンシートのガラス転移温度より低い。
【0017】
本発明の第6の局面は、本発明の第1の局面にさらなる事項を付加する。本発明の第6の局面においては、セラミック基板の製造方法は、(h) 前記工程(d)の後に前記第1のセラミックスグリーンシートの第1の主面に形成された窪みの内面と前記第1のセラミックスグリーンシートの第2の主面とを貫通する貫通孔を形成する工程、をさらに備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1の局面によれば、立体形状の制約が小さくなり成形密度が高い成形体が得られる。
【0019】
本発明の第4の局面によれば、窪みの深さを深くすることができる。
【0020】
本発明の第5の局面によれば、熱圧着するときの加熱により第1のセラミックスグリーンシートを著しく軟化させることなくセラミックス層だけを軟化させることができるので、熱圧着するときの加圧により第1のセラミックスグリーンシートが変形することを抑制することができ、基板の寸法の精度を向上することができる。
【0021】
本発明の第6の局面によれば、第1のセラミックスグリーンシートに型を圧入したときに貫通孔が狭窄したり閉塞したりすることを防止することができる。
【0022】
この発明の目的、特徴、局面、および利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態に係る液滴吐出装置の斜視図である。
【図2】図1のII−IIに沿う液滴吐出装置の断面図である。
【図3】図1のIII−IIIに沿う液滴吐出装置の断面図である。
【図4】キャビティの別例を示す断面図である。
【図5】第1実施形態に係る液滴吐出装置の製造方法を説明するフローチャートである。
【図6】第1実施形態に係る基板の作製に使用する成形機の断面図である。
【図7】成形中のグリーンシートの温度及び型に印加される荷重の時間変化を示す図である。
【図8】第1実施形態に係る基板の作製方法を説明する断面図である。
【図9】第1実施形態に係る基板の作製方法を説明する断面図である。
【図10】第1実施形態に係る基板の作製方法を説明する断面図である。
【図11】第1実施形態に係る基板の作製方法を説明する断面図である。
【図12】第1実施形態に係る振動体の作製方法を説明する断面図である。
【図13】第1実施形態に係る振動体の作製方法を説明する断面図である。
【図14】第1実施形態に係る振動体の作製方法を説明する断面図である。
【図15】第1実施形態に係る振動体の作製方法を説明する断面図である。
【図16】第1実施形態に係る振動体の作製方法を説明する断面図である。
【図17】第1実施形態に係る振動体の作製方法を説明する断面図である。
【図18】第1実施形態に係る振動体の作製方法を説明する断面図である。
【図19】第1実施形態に係る振動体の作製方法を説明する断面図である。
【図20】第1実施形態に係る振動体の作製方法を説明する断面図である。
【図21】第1実施形態に係る振動体の作製方法を説明する断面図である。
【図22】第1実施形態に係るレジストパターンの形成方法を説明する断面図である。
【図23】第1実施形態に係るレジストパターンの形成方法を説明する断面図である。
【図24】第1実施形態に係るレジストパターンの形成方法を説明する断面図である。
【図25】第1実施形態に係るレジストパターンの形成方法を説明する断面図である。
【図26】第1実施形態に係るレジストパターンの形成方法を説明する断面図である。
【図27】第1実施形態に係るレジストパターンの形成方法を説明する断面図である。
【図28】第1実施形態に係るレジストパターンの形成方法を説明する断面図である。
【図29】第2実施形態に係る基板の作製方法を説明する断面図である。
【図30】第2実施形態に係る基板の作製方法を説明する断面図である。
【図31】第2実施形態に係る基板の作製方法を説明する断面図である。
【図32】第2実施形態に係る基板の作製方法を説明する断面図である。
【図33】第2実施形態に係る基板の作製方法を説明する断面図である。
【図34】図30のA部を拡大した図である。
【図35】第3実施形態に係るキャビティの形状を示す断面図である。
【図36】第3実施形態に係るキャビティの形状を示す断面図である。
【図37】第4実施形態に係るキャビティの形状を示す断面図である。
【図38】第4実施形態に係るキャビティの形状を示す断面図である。
【図39】第4実施形態に係るキャビティの形状を示す断面図である。
【図40】桟幅差を変化させた場合の相対変位量及びクロストークの変化を示す図である。
【図41】桟幅差を変化させた場合の相対変位量及び下部電極膜の被覆率の変化を示す図である。
【図42】桟幅差を変化させた場合の振動板のワレ不良率を示す図である。
【図43】液滴吐出装置の各部の寸法を説明する断面図である。
【図44】キャビティの縦断面形状による液滴の吐出量の変化を示す図である。
【図45】従来の液滴吐出装置の斜視図である。
【図46】図45のXLVI−XLVIに沿う液滴吐出装置の断面図である。
【図47】図45のXLVII−XLVIIに沿う液滴吐出装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<1 第1実施形態>
<1−1 液滴吐出装置1の構成>
図1〜図3は、本発明の第1実施形態に係る液滴吐出装置1の構成を示す模式図である。図1は、液滴吐出装置1の斜視図、図2は、図1のII−IIに沿う液滴吐出装置1の横断面図、図3は、図1のIII−IIIに沿う液滴吐出装置1の縦断面図である。液滴吐出装置1は、インクジェットプリンタのヘッドに使用されるインク吐出用の液滴吐出装置である。ただし、このことは、下述する液滴吐出装置1の構成や製造方法を他の種類の液滴吐出装置において採用することを妨げない。
【0025】
図1〜図3に示すように、液滴吐出装置1は、複数個の振動体120を基板102の上面1021に規則的に配列した構造を有している。振動体120の配列間隔は、制限されないが、典型的には、70〜212μmである。
【0026】
<1−2 基板102の構成>
基板102は、絶縁セラミックスの焼成体である。絶縁セラミックスの種類は制限されないが、耐熱性、化学的安定性及び絶縁性の観点から、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ムライト、窒化アルミニウム及び窒化ケイ素からなる群より選択される少なくとも1種類を含むことが望ましい。中でも、機械的強度及び靭性の観点から、安定化された酸化ジルコニウムが望ましい。ここで、「安定化された酸化ジルコニウム」とは、安定化剤の添加によって結晶の相転移を抑制した酸化ジルコニウムをいい、安定化酸化ジルコニウムの他、部分安定化酸化ジルコニウムを包含する。
【0027】
図2及び図3に示すように、基板102は、略平坦な上面1021及び下面1022を有する板の内部に空洞となるキャビティ108並びに液体の流路となる吐出孔110及び供給孔112を形成した構造を有する。細長矩形の平面形状を有するキャビティ108は、基板102の上面1021と細長矩形の平面形状を有する振動板104で隔てられている。このような構造により、振動板104の上面1041に固設された振動体120が振動板104を屈曲振動させると、キャビティ108に充填された液体が押圧され、吐出孔110から液滴が吐出される。なお、吐出孔110の数を2個以上としてもよいし、供給孔112の数を2個以上としてもよい。また、キャビティ108及び振動板104の平面形状を矩形以外としてもよく、頂点を丸めてもよい。
【0028】
図2に示すように、液滴吐出装置1は、キャビティ108並びに吐出孔110及び供給孔112と振動板104とを備える単位構造131を配列して構成されている。単位構造131の配列方向は、振動板104及びキャビティ108の短手方向と一致している。
【0029】
図2に示すように、キャビティ108の横断面形状は台形であり、キャビティ108の短手方向の内側面1081,1082は、基板102の上面1021に垂直な面からキャビティ108の短手方向に傾斜している。内側面1081と内側面1082とは、基板102の上面1021の側で相対的に遠離しており、基板102の下面1022の側で相対的に近接している。したがって、基板102の上面1021と平行な短手方向のキャビティ108の寸法である横幅W11は基板102の上面1021の側から基板102の下面1022の側へ向かって狭くなる。このように基板102の上面1021の側から基板102の下面1022の側へ向かってキャビティ108を先細りにすれば、隣接するキャビティ108の間の桟106の強度を保ったまま振動板104の横幅を広くすることができるので、隣接する単位構造の間の干渉を抑制しながら屈曲振動の変位量を増加させることができ、液滴の吐出量を増加させることができる。
【0030】
なお、内側面1081と内側面1082とが基板102の上面1021と垂直な面について対称であることは必須ではなく、図4の断面図に示すような基板502の上面5021と垂直な面について対称でない内側面5081,5082を有するキャビティ508をキャビティ108に代えて採用してもよい。
【0031】
一方、図3に示すように、キャビティ108の縦断面形状も台形であり、キャビティ108の長手方向の内側面1083,1084は、基板102の上面1021と垂直になっている。したがって、基板102の上面1021と平行な長手方向のキャビティ108の寸法である縦幅W12は一定である。
【0032】
また、図3に示すように、キャビティ108の内上面1085すなわち振動板104の下面1042は、基板102の上面1021と平行になっている。また、キャビティ108の内下面1086は、基板102の上面1021に平行な面からキャビティ108の長手方向に傾斜している。したがって、基板102の上面1021と垂直な方向のキャビティ108の寸法である深さD11、D13は、D11>D13の場合、供給孔112の側から吐出孔110の側へ向かって深くなる。(D11=D13の場合は、図47と同じ縦断面形状になる。)このようにキャビティ108を吐出孔110の側から供給孔112の側へ向かって先細りにすれば、吐出孔110の側から供給孔112の側への液体の流れが阻害されるので、振動板104を屈曲振動させてキャビティ108に充填された液体を押圧したときに供給孔112から液体が排出されることを抑制することができ、吐出孔110からの液滴の吐出量を増加させることができる。
【0033】
キャビティ108の内側面1081〜1084、内上面1085及び内下面1086は、段差がない平坦面となっている。このため、キャビティ108の横幅W11は基板102の上面1021の側から基板102の下面1022の側へ向かって連続的に狭くなり、キャビティ108の深さD11、D13は、D11>D13の場合、供給孔112の側から吐出孔110の側へ向かって連続的に深くなる。(D11=D13の場合は、図47と同じ縦断面形状になる。)このようにキャビティ108の内側面1081〜1084、内上面1085及び内下面1086から気泡の原因となる段差を排除すれば、キャビティ108の内部における気泡の発生を抑制することができる。なお、内側面1081〜1084、内上面1085及び内下面1086の全部から段差を排除することが最も望ましいが、内側面1081〜1084、内上面1085及び内下面1086の一部から段差を排除しただけでもある程度の気泡抑制効果を得ることができる。
【0034】
吐出孔110は、キャビティ108から基板102の外部へ至る液体の流路である。吐出孔110は、キャビティ108の内下面1086の長手方向の一端の近傍と基板102の下面1022とを基板102の上面1021に垂直に貫通する丸孔である。また、供給孔112は、基板102の外部からキャビティ108へ至る液体の流路である。供給孔112は、キャビティ108の内下面1086の長手方向の他端の近傍と基板102の下面1022とを基板102の上面1021に垂直に貫通する丸孔である。なお、吐出孔110の吐出口及び供給孔112の供給口を基板102の下面1022に設けることは必須ではなく、基板102の外面の他の場所に設けてもよい。また、吐出孔110及び供給孔112がまっすぐな孔であることも必須ではなく、曲がった孔であってもよい。さらに、吐出孔110及び供給孔112の孔径が一定であることも必須ではなく、連続的又は不連続的に細くなってもよい。
【0035】
振動板104は、略平坦な上面1041及び下面1042を有する板である。ただし、振動板104の上面1041及び下面1042が略平坦であることは必須ではなく、若干の凹凸や湾曲を有していてもよい。振動板104の板厚は、0.5〜5μmであることが望ましい。この範囲を下回ると、振動板104が損傷しやすくなるからであり、この範囲を上回ると、振動板104の剛性が高くなり、屈曲振動の変位量が減少する傾向があるからである。振動板104の短手方向の寸法である横幅及び長手方向の寸法である縦幅は制限されないが、横幅は0.06〜0.2mmであることが望ましく、縦幅は0.3〜2.0mmであることが望ましい。
【0036】
<1−3 振動体120の構成>
振動体120は、基板102の上面1021に平行に延在する下部電極膜122、圧電/電歪体膜124及び上部電極膜126を列記した順序で下から上へ積層した構造を有している。なお、1層の圧電/電歪体膜124を備える単層型の振動体120ではなく、2層以上の圧電/電歪体膜を備え圧電/電歪体膜と電極膜とを交互に積層した構造を有する多層型の振動体を採用してもよい。この場合、振動体を構成する圧電/電歪体膜の全部が電界が印加される活性層であることは必須ではなく、振動体を構成する圧電/電歪体膜の一部(典型的には、最下層や最上層の圧電/電歪体膜)が電界が印加されない不活性層であってもよい。
【0037】
{下部電極膜122及び上部電極膜126}
下部電極膜122及び上部電極膜126は、導電材料の焼成体の膜である。導電材料の種類は制限されないが、電気抵抗及び耐熱性の観点から、白金、パラジウム、ロジウム、金、銀等の金属又はこれらを主成分とする合金であることが望ましい。中でも、耐熱性に特に優れる白金又は白金を主成分とする合金であることが望ましい。
【0038】
下部電極膜122及び上部電極膜126の膜厚は、0.5〜3μmであることが望ましい。この範囲を上回ると、下部電極膜122及び上部電極膜126の剛性が高くなり、屈曲振動の変位量が減少する傾向があり、この範囲を下回ると、下部電極膜122及び上部電極膜126の電気抵抗が上昇する傾向があるからである。
【0039】
{圧電/電歪体膜124}
圧電/電歪体膜124は、圧電/電歪セラミックスの焼成体の膜である。圧電/電歪セラミックスの種類は制限されないが、電界誘起歪の大きさの観点から、鉛(Pb)系ペロブスカイト酸化物であることが望ましく、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT;Pb(ZrxTi1-x)O3)又は単純酸化物、複合ペロブスカイト酸化物等を導入したチタン酸ジルコン酸鉛の変性物であることがさらに望ましい。中でも、チタン酸ジルコン酸鉛とマグネシウム酸ニオブ酸鉛(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3)との固溶体に酸化ニッケル(NiO)を導入したものやチタン酸ジルコン酸鉛とニッケル酸ニオブ酸鉛(Pb(Ni1/3Nb2/3)O3)との固溶体であることが望ましい。
【0040】
圧電/電歪体膜124の膜厚は、1〜10μmであることが望ましい。この範囲を下回ると、圧電/電歪体膜124の緻密化が不十分になる傾向があり、この範囲を上回ると、圧電/電歪体膜124の焼結時の収縮応力が大きくなるため、振動板104の板厚を厚くする必要が生じるからである。
【0041】
{下部配線電極128及び上部配線電極130}
振動体120は、下部電極膜122への給電経路となる下部配線電極128と、上部電極膜126への給電経路となる上部配線電極130とを備える。下部配線電極128の一端は、下部電極膜122と圧電/電歪体膜124との間にあって下部電極膜122の一端と電気的に導通しており、下部配線電極128の他端は、屈曲振動する振動板104が設けられた振動領域191の外側に位置している。上部配線電極130の一端は、上部電極膜126の上にあって上部電極膜126の一端と電気的に導通しており、上部電極膜126の他端も、振動領域191の外側に位置している。
【0042】
下部配線電極128及び上部配線電極130を設け、下部配線電極128及び上部配線電極130の振動領域191の外側に位置する給電点に駆動信号を給電するようにすれば、屈曲振動に影響を与えることなく、圧電/電歪体膜124に電界を印加することができる。
【0043】
{振動体120の駆動}
振動体120は、キャビティ108の上方において振動板104と一体化されている。このような構造により、下部配線電極128及び上部配線電極130を経由して圧電/電歪体膜124を挟んで対向する下部電極膜122と上部電極膜126との間に駆動信号を給電し、圧電/電歪体膜124に電界を印加すると、圧電/電歪体膜124が基板102の上面1021と平行な方向に伸縮し、一体化された振動体120及び振動板104が屈曲振動する。この屈曲振動により、キャビティ108に充填された液体は、吐出口110から吐出される。
【0044】
<1−4 液滴吐出装置1の製造方法>
図5は、本発明の第1実施形態に係る液滴吐出装置1の製造方法を説明するフローチャートである。図5に示すように、液滴吐出装置1は、基板102を作製し(ステップS101)、作製した基板102の上面1021に振動体120を作製する(ステップS102)ことにより製造される。
【0045】
<1−5 基板102の作製方法>
図6は、第1実施形態に係る基板102の作製に使用する成形機180の模式図である。図6は、成形機180の断面図となっている。また、図7は、絶縁セラミックスの粉末をシート形状に成形した絶縁セラミックスグリーンシート(以下では、「グリーンシート」という)132の温度及び型183に印加される荷重の時間変化を示す図である。さらに、図8〜図11は、第1実施形態に係る基板102の作製方法を説明する模式図である。図8〜図11は、作製の途上の基板102の断面図となっている。
【0046】
{成形機}
図6に示すように、成形機180は、グリーンシート132を成形する型183と、グリーンシート132を真空吸引して固定するとともにグリーンシート132を加熱する熱板182と、型183を上方から支持するとともに型183を加熱する熱板185とを備える。熱板182,185には、それぞれ、加熱用のヒータ181,184が内蔵されている。
【0047】
型183は、キャビティ108の立体形状に応じた立体形状を有する。型183の立体形状は、熱圧着時の変形、焼成時の収縮等を考慮して最終的に所望のキャビティ108の立体形状を得ることができるような立体形状とする。型183は、根元の幅よりも先端の幅が狭い台形の横断面形状を有する圧入部1832を基台部1831の下面に設けた構造を有している。
【0048】
{グリーンシート132の温度の昇温(タイミングt1〜t2)}
基板102の作製にあたっては、まず、グリーンシート132をヒータ181により加熱された熱板182に載置して真空吸引する。これにより、グリーンシート132は、熱板182に固定され、グリーンシート132の温度は、ガラス転移温度Tg以上に昇温される。ガラス転移温度Tgは、グリーンシート132に使用されているバインダの種類等によって変化するが、典型的には数10℃である。
【0049】
{グリーンシート132への型183の圧入(タイミングt2〜t3)}
グリーンシート132の温度をガラス転移温度Tg以上に昇温した後に、型183に加重を加え、型183をグリーンシート132の上面1321に圧入する。この間、ヒータ181による熱板182の加熱を継続し、グリーンシート132の温度を一定の温度Ttに保つことが望ましい。もちろん、温度Ttは、ガラス転移温度Tg以上の温度である。型183の圧入によりグリーンシート132の温度が低下することを防止するため、圧入の前にヒータ184により型183をあらかじめ加熱しておくことも望ましい。このように加熱されて塑性変形しやすくなっているグリーンシート132に型183を圧入すると、図8に示すように、グリーンシート132が塑性変形し、型183の立体的形状がグリーンシート132の上面1321に転写される。
【0050】
{型183を圧入した状態の保持(タイミングt3〜t4)}
続いて、グリーンシート132の上面1321に型183を圧入した状態を保持する。この間も、ヒータ181による熱板182の加熱を継続し、グリーンシート132の温度を一定の温度Ttに保つことが望ましい。
【0051】
{グリーンシート132の温度の降温(タイミングt4〜t5)}
続いて、グリーンシート132の上面1321に型183を圧入した状態のままヒータ181による熱板182の加熱を中止し、グリーンシート132の温度をガラス転移温度Tg未満に降温する。もちろん、型183も加熱している場合には、型183の加熱も中止する。
【0052】
{グリーンシート132と型183との分離(タイミングt5〜t6)}
グリーンシート132の温度をガラス転移温度Tg未満に降温した後にグリーンシート132と型183とを分離する。このとき、グリーンシート132は弾性をほとんど失っているので、スプリングバックはほとんど起こらず、グリーンシート132の上面1321には後にキャビティ108となる窪み134が形成される。
【0053】
{貫通孔136の形成}
続いて、図9に示すように、窪み134の内下面1341とグリーンシート132の下面1322とを貫通する貫通孔136をグリーンシート132に形成する。貫通孔136は、金型で打ち抜き加工することにより形成してもよいし、レーザ光で穿孔加工することにより形成してもよい。なお、窪み134を形成した後に貫通孔136を形成すれば、グリーンシート132に型183を圧入したときに貫通孔136が狭窄したり閉塞したりすることを防止することができる。ただし、このことは、グリーンシート132の上面1321と下面1322とを貫通する貫通孔を形成した後に窪みを形成することを妨げない。
【0054】
{グリーンシート138,140の熱圧着}
続いて、図10に示すように、グリーンシート132の上面1321にグリーンシート138、グリーンシート132の下面1322にグリーンシート140を熱圧着する。グリーンシート140には、貫通孔136と同じ位置に上面1401と下面1402とを貫通する貫通孔142が形成されている。このようにグリーンシート138を熱圧着することにより窪み134は圧着体の内部の空洞となる。また、グリーンシート140を熱圧着することにより、吐出孔110及び供給孔112の長さを長くしたり、吐出孔110及び供給孔112の孔径を段階的に変化させたりすることができる。もちろん、そのような必要がない場合は、グリーンシート140を熱圧着することを省略してもよい。
【0055】
{一体的な焼成}
続いて、グリーンシート132,138,140を一体的に焼成する。これにより、図11に示すような一体化された剛性が高い基板102が得られる。
【0056】
このようにインプリント成形により後にキャビティ108となる窪み134を形成すると、キャビティ108の立体形状の制約が小さくなるので、液滴の吐出量を増加させることができる立体形状を有するキャビティ108を形成することができる。
【0057】
なお、このような立体形状を有するキャビティ108が形成された基板102は、絶縁セラミックス粉末を分散媒に分散させたスラリーを鋳型に流し込むキャスティング法により作製することもできるし、半導体装置の製造と同様にして素基板をエッチング加工するエッチング法により作製することもできる。ただし、キャスティング法及びエッチング法には、上述したインプリント法と対比して以下の問題がある。
【0058】
すなわち、キャスティング法では、成形密度が高い成形体を得ることが困難であるのに加えて、熱圧着するときに桟106以外の部分に圧力を印加することができないため、焼成により得られた基板102において桟106以外の部分の気孔率が高くなり、剛性が高い基板102を得ることができない。
【0059】
また、エッチング法では、キャビティ108の内下面1086を傾斜させることは困難であり、内側面1081,1082を傾斜させることは可能ではあるが手間がかかり、内側面1081,1082を平坦面とすることは困難である。また、貼りあわせにより振動板104を形成するため、剛性が高い基板102を得ることができない。
【0060】
<1−6 振動体120の作製方法>
図12〜図21は、第1実施形態に係る振動体120の作製方法を説明する模式図である。図12〜図21は、基板102及び作製の途上の振動体120の断面図となっている。
【0061】
{下部電極膜122の形成}
振動体120の作製にあたっては、まず、図12に示すように、下部電極膜122を形成する領域(以下では、「下部電極膜形成領域」という)192の外側を覆うレジストパターン142を基板102の上面1021に形成する。レジストパターン142は、基板102の上面1021を覆う後述するレジスト膜152を基板102をフォトマスクとしてフォトリソグラフィ法によりパターニングすることにより形成する。
【0062】
レジストパターン142を形成した後に、図13に示すように、基板102の上面1021の下部電極膜形成領域192に後に下部電極膜122となる導電材料膜144を形成する。なお、レジストパターン142は後に除去されるので、下部電極膜形成領域192の外側に導電材料膜144がはみ出しても問題はない。導電材料膜144の形成は、導電材料を分散媒に分散させたペースト(以下では「導電ペースト」という)や導電材料のレジネートを溶媒に溶解させた溶液(以下では「導電レジネート溶液」という)を塗布してから分散媒又は溶媒を除去することによって行ってもよいし、導電材料を蒸着することにより行ってもよい。導電ペーストの塗布は、スクリーン印刷等により行うことができ、導電レジネート溶液の塗布は、スピンコート、吹きつけ等により行うことができる。導電材料の蒸着は、スパッタ蒸着、抵抗加熱蒸着等により行うことができる。
【0063】
導電材料膜144を形成した後に、図14に示すように、下部電極膜形成領域192の外側に残存しているレジストパターン142を剥離して除去する。これにより、キャビティ108と同じ平面位置に導電材料膜144が形成される。レジストパターン142の剥離は、薬液法により行う。また、レジストパターン142の剥離を、熱処理法、プラズマ処理法等により行ってもよく、熱処理法により行う場合、処理温度は200〜300℃であることが望ましい。
【0064】
レジストパターン142を剥離した後に、導電材料膜144を焼成する。これにより、図15に示すように、導電材料膜144は、下部電極膜122となり、キャビティ108と同じ平面位置に下部電極膜122が形成される。下部電極膜122は、振動板104の上面1041に固着される。ここでいう「固着」とは、下部電極膜122と振動板104との界面における固相反応(相互拡散反応)により下部電極膜122と振動板104とを接着剤を用いないで接合することである。このような「固着」による下部電極膜122と振動板104との接合には、振動体120を振動板104に押し付ける必要がないので、振動板104が薄くなっても振動板104が損傷しにくくなるという利点がある。このことは、液滴吐出装置1の小型化に寄与する。白金のナノ粒子を分散媒に分散させた導電ペーストをスクリーン印刷することにより導電材料膜144を形成した場合、焼成温度は200〜300℃以下であることが望ましく、白金の粉末を分散媒に分散させた導電ペーストをスクリーン印刷することにより導電材料膜を形成した場合、焼成温度は1000℃〜1350℃であることが望ましい。また、白金レジネートを溶媒に溶解させた導電レジネート溶液をスピンコートすることにより導電材料膜144を形成した場合、焼成温度は600℃〜800℃以下であることが望ましい。
【0065】
{下部配線電極128の形成}
続いて、下部配線電極128を形成する。下部配線電極128は、導電ペーストをスクリーン印刷した後に焼成することにより形成してもよいし、導電材料を蒸着することにより形成してもよい。
【0066】
{圧電/電歪体膜124の形成}
続いて、図16に示すように、後に圧電/電歪体膜124となる圧電/電歪材料膜146を形成する。圧電/電歪材料膜146の形成は、圧電/電歪材料を分散媒に分散させたスラリーに、仕掛品及び対向電極を間隔を置いて浸漬するとともに下部電極膜122と対向電極とに電圧を印加し、圧電/電歪材料を下部電極膜122に向かって電気泳動させることにより行うことができる。これにより、下部電極膜122と同じ平面位置に圧電/電歪材料膜146が形成される。なお、電気泳動法により形成した圧電/電歪体膜124に代えて、下部電極膜122をフォトマスクとして基板102の上面1021を覆うレジスト膜をフォトリソグラフィ法によりパターニングすることにより形成したレジストパターンを使用して形成した圧電/電歪体膜を用いてもよい。
【0067】
圧電/電歪材料膜146を形成した後に、圧電/電歪材料膜146を焼成する。これにより、図17に示すように、圧電/電歪材料膜146は、圧電/電歪体膜124となり、下部電極膜122と同じ平面位置に圧電/電歪体膜124が形成される。圧電/電歪材料膜146の焼成は、仕掛品をアルミナ、マグネシア等のサヤに収容した状態で行うことが望ましい。
【0068】
{上部電極膜126の形成}
圧電/電歪材料膜146を焼成した後に、図18に示すように、圧電/電歪体膜124を形成した領域(以下では「圧電/電歪体膜形成領域」という)193の外側を覆うレジストパターン148を基板102の上面1021に形成する。レジストパターン142は、圧電/電歪体膜124をフォトマスクとして基板102の上面1021を覆う後述するレジスト膜160をフォトリソグラフィ法によりパターニングすることにより形成する。
【0069】
レジストパターン148を形成した後に、図19に示すように、基板102の上面1021の圧電/電歪体膜形成領域193に後に上部電極膜126となる導電材料膜150を圧電/電歪体膜124の上に重ねて形成する。なお、レジストパターン148は後に除去されるので、圧電/電歪体膜形成領域193の外側に導電材料膜150がはみ出しても問題はない。導電材料膜150の形成は、上述した導電材料膜144と同様に行うことができる。
【0070】
導電材料膜150を形成した後に、図20に示すように、圧電/電歪体膜形成領域193の外側に残存しているレジストパターン148を剥離して除去する。これにより、圧電/電歪体膜124と同じ平面位置に導電材料膜150が形成される。レジストパターン148の剥離は、上述したレジストパターン142の剥離と同様に行うことができる。
【0071】
レジストパターン148を剥離した後に、導電材料膜150を焼成する。これにより、図21に示すように、導電材料膜150は、上部電極膜126となり、圧電/電歪体膜124と同じ平面位置に上部電極膜126が形成される。導電材料膜150の焼成は、上述した導電材料膜144の焼成と同様に行うことができる。
【0072】
{上部配線電極130の形成}
導電材料膜150を焼成した後に、上部配線電極130を形成する。上部配線電極130は、下部配線電極128と同様に形成することができる。
【0073】
<1−7 レジストパターン142,148の形成方法>
図22〜図28は、第1実施形態に係るレジストパターン142,148の形成方法を説明する模式図である。図22〜図28は、基板102及び作製の途上のレジストパターン142,148の断面図となっている。
【0074】
レジストパターン142の形成にあたっては、まず、図22に示すように、基板102の上面1021に全面を覆うレジスト膜152を形成する。レジスト膜152は、露光されると現像液に対する溶解性が低下するネガ型の感光膜である。
【0075】
レジスト膜152を形成した後に、図23に示すように、キャビティ108に遮光剤154を充填し、下部電極膜形成領域192を遮蔽するマスクの機能を基板102に付与する。基板102は、同種の絶縁セラミックスを一体焼成したセラミックス基板であることが望ましい。異種の材料の界面が基板102からなくなれば、当該界面における光の屈折又は散乱が抑制されるので、パターニングに必要な光を安定して得ることができるからである。また、基板102は透光体であることが望ましい。したがって、基板102を構成する絶縁セラミックスは、光を透過する酸化イットリウム等、又は、光を透過しやすいジルコニア、アルミナ等であることが望ましい。基板102が透光体であれば、パターニングに必要な光を十分に得ることができるからである。
【0076】
レジスト膜152を形成し、キャビティ108に遮光剤154を充填した後に、図24に示すように、基板102の下面1022の側から光を照射し、下部電極膜形成領域192の外側に形成されているレジスト膜152を選択的に露光して未露光部156及び露光部158を形成する。これにより、レジスト膜152には、キャビティ108の平面形状を反転転写した潜像が描写される。
【0077】
潜像を描写した後、図25に示すように、下部電極膜形成領域192に形成されているレジスト膜152の未露光部156を現像により除去する。
【0078】
潜像を現像した後に、基板102の下面1022の側から光を照射し、下部電極膜形成領域192の外側に残存している露光部158をさらに露光し、露光部158を焼き固めるとともに、キャビティ108から遮光剤154を除去する。これにより、図12に示すレジストパターン142が完成する。
【0079】
なお、レジストパターン142の形成にあたって、露光されると現像液に対する溶解性が上昇するポジ型のレジスト膜をネガ型のレジスト膜152に代えて使用することもできる。この場合、キャビティ108に斜光剤154を充填することなく、キャビティ108の部分の光の透過率が残余の部分の光の透過率よりも高いことを利用して、キャビティ108の平面形状を反転転写した潜像をレジスト膜に描写する。
【0080】
一方、レジストパターン148の形成にあたっては、まず、図26に示すように、基板102の上面1021に圧電/電歪体膜124の上に重ねて全面を覆うレジスト膜160を形成する。レジスト膜160は、露光されると現像液に対する溶解性が低下するネガ型の感光膜である。
【0081】
レジスト膜160を形成した後に、図27に示すように、基板102の下面1022の側から光を照射し、圧電/電歪体膜形成領域193の外側に形成されているレジスト膜160を選択的に露光して未露光部162及び露光部164を形成する。これにより、レジスト膜160には、圧電/電歪体膜124の平面形状を反転転写した潜像が描写される。
【0082】
潜像を描写した後、図28に示すように、圧電/電歪体膜形成領域193に形成されているレジスト膜160の未露光部162を現像により除去する。
【0083】
潜像を現像した後に、基板102の下面1022の側から光を照射し、圧電/電歪体膜形成領域193の外側に残存している露光部164をさらに露光し、露光部164を焼き固める。これにより、図18に示すレジストパターン148が完成する。
【0084】
<1−8 振動体120の作製方法の利点>
このような振動体120の作製方法によれば、キャビティ108の平面位置と下部電極膜122の平面位置とのずれを防ぐことができ、下部電極膜122の平面位置と圧電/電歪体膜124の平面位置とのずれを防ぐことができ、圧電/電歪体膜124の平面位置と上部電極膜126の平面位置とのずれを防ぐことができる。これにより、キャビティ108の平面位置と振動体120を構成する下部電極膜122、圧電/電歪体膜124及び上部電極膜126の平面位置とのずれを防ぐことができ、結果として、キャビティ108の平面位置と振動体120の平面位置とのずれを防ぐことができる。このことは、振動体120を含んで構成される圧電/電歪アクチュエータのインクの吐出量のばらつきを抑制することに寄与する。
【0085】
また、振動体120を構成する最下層の膜である下部電極膜122の形成にあたって、キャビティ108の部分とそれ以外の部分とで光の透過率が異なる基板102をフォトマスクとしてパターニングしたレジストパターンを使用した場合、光の透過率が振動領域191の外側に近づく振動領域191の周縁部には下部電極膜122が形成されないので、振動体120が振動領域191の外側にはみ出して屈曲振動の変位量の低下の原因となることも防止することができる。
【0086】
ただし、これらのことは、下部電極膜122、圧電/電歪体膜124及び上部電極膜126の全部又は一部を上述した方法とは異なる方法、例えば、スクリーン印刷により形成した塗布膜を焼成することにより形成することを妨げない。
【0087】
<2 第2実施形態>
第2実施形態は、第1実施形態に係る基板102の作製方法に代えて採用することができる基板202の作製方法に関する。
【0088】
<2−1 基板202の作製方法>
図6は、第2実施形態に係る基板202の作製に使用する成形機280の模式図でもある。また、図7は、グリーンシート232の温度及び型283に印加される荷重の時間変化を示す図でもある。さらに、図29〜図32は、第2実施形態に係る基板202の作製方法を説明する模式図である。図29〜図32は、作製の途上の基板202の横断面図となっている。
【0089】
{接着層252の形成}
基板202の作製にあたっては、まず、図29に示すように、グリーンシート232の上面2321の窪み234が形成される領域すなわち型283が圧入される領域の外側に接着層252を形成する。接着層252に含まれる絶縁セラミックスの組成は、グリーンシート232に含まれる絶縁セラミックスの組成と略同一とすることが望ましい。また、接着層252には、グリーンシート232より多量のバインダを含有させ、接着層252のガラス転移温度がグリーンシート232のガラス転移温度よりも低くなるようにすることが望ましい。接着層252の膜厚は、窪み234の深さの30〜50%程度とすることが望ましく、0.01〜0.05mmとすることが望ましい。また、接着層252の幅は、0.01〜0.08mmとすることが望ましい。接着層252は、例えば、絶縁セラミックスの粉末及びバインダを分散媒に分散させたペーストをスクリーン印刷法やスポッティング法で塗布することにより形成する。ただし、このことは、他の方法で接着層252を形成することを妨げない。
【0090】
{グリーンシート232の温度の昇温(タイミングt1〜t2)}
続いて、第1実施形態の場合と同様にして、グリーンシート232をヒータ281により加熱された吸引台282に載置して真空吸引する。これにより、グリーンシート232は、熱板282に固定され、グリーンシート232の温度は、ガラス転移温度Tg以上に昇温される。
【0091】
{グリーンシート232への型283の圧入(タイミングt2〜t3)}
グリーンシート232の温度をガラス転移温度Tg以上に昇温した後に、第1実施形態の場合と同様にして、型283をグリーンシート232の上面2321に圧入する。このように加熱されて塑性変形しやすくなっているグリーンシート232に型283を圧入すると、図30に示すように、グリーンシート232が塑性変形し、型283の立体的形状がグリーンシート232の上面2321に転写される。
【0092】
グリーンシート232への型283の圧入のときには、接着層252にも型283を接触させ、型283で接着層252を塑性変形させることが望ましい。これにより、グリーンシート232及び接着層252で後に桟206となる立体構造物を構成することができるので、窪み234の深さを深くすることができ、キャビティ208の深さを深くすることができる。また、図30のA部を拡大した図34に示すように、グリーンシート232と接着層252との間に段差が生じることもなく、立体構造物の表面を略平坦とすることができる。接着層252に型283を接触させる場合は、接着層252と型283との離型性を向上するため、型283に離型剤を塗布したり、型283をフッ素樹脂等でコーティングしたりすることが望ましい。
【0093】
{型283を圧入した状態の保持(タイミングt3〜t4)}
続いて、第1実施形態の場合と同様にして、グリーンシート232の上面2321に型283を圧入した状態を保持する。
【0094】
{グリーンシート232の温度の降温(タイミングt4〜t5)}
続いて、グリーンシート232の上面2321に型283を圧入した状態のままヒータ281による熱板282の加熱を中止し、グリーンシート232の温度をガラス転移温度Tg未満に降温する。もちろん、型283も加熱している場合には、型283の加熱も中止する。
【0095】
{グリーンシート232と型283との分離(タイミングt5〜t6)}
グリーンシート232の温度をガラス転移温度Tg未満に降温した後にグリーンシート232と型283とを分離する。このとき、グリーンシート232は弾性をほとんど失っているので、スプリングバックはほとんど起こらず、グリーンシート232の上面2321には後にキャビティ208となる窪み234が形成される。
【0096】
{貫通孔236の形成}
続いて、図31に示すように、第1実施形態の場合と同様にして、窪み234の内下面2341とグリーンシート232の下面2322とを貫通する貫通孔236をグリーンシート232に形成する。
【0097】
{グリーンシート238,240の熱圧着}
続いて、図32に示すように、第1実施形態の場合と同様にして、グリーンシート232の上面2321の接着層252の上にグリーンシート238、グリーンシート232の下面2322にグリーンシート240を熱圧着する。グリーンシート240には、貫通孔236と同じ位置に上面2401と下面2402とを貫通する貫通孔242が形成されている。このようにグリーンシート238を熱圧着することにより窪み234は圧着体の内部の空洞となる。なお、上述したように接着層252のガラス転移温度がグリーンシート232のガラス転移温度よりも低くなっている場合は、熱圧着のときの加熱によりグリーンシート232を著しく軟化させることなく接着層252だけを軟化させることが可能になる。したがって、グリーンシート240を熱圧着するときの加圧によりグリーンシート232が変形することを抑制することができ、基板202の寸法の精度、例えば、単位構造同士の相対的な位置の精度を向上することができる。
【0098】
{一体的な焼成}
続いて、第1実施形態の場合と同様にして、グリーンシート232,238,240及び接着層252を一体的に焼成する。これにより、図33に示すような一体化された剛性が高い基板202が得られる。
【0099】
このような基板202は、第1実施形態に係る基板102に代えて使用することができるが、キャビティ208の深さを深くすることができ、液滴の吐出量を増加させることができるという有利な効果を有している。
【0100】
<3 第3実施形態>
第3実施形態は、第1実施形態に係るキャビティ108に代えて採用することができるキャビティ308に関する。
【0101】
図35〜図36は、キャビティ308が形成された基板302の模式図である。図35は、図2と同様の断面における基板302の横断面図、図36は、図3と同様の断面における基板302の縦断面図である。
【0102】
図35に示すように、キャビティ308の短手方向の内側面3081,3082は、第1実施形態の場合と同様に、基板302の上面3021に垂直な面からキャビティ308の短手方向に傾斜している。内側面3081と内側面3082とは、基板302の上面3021の側で相対的に遠離しており、基板302の下面3022の側で相対的に近接している。したがって、基板302の上面3021と平行な短手方向のキャビティ308の寸法である横幅W31は基板302の上面3021の側から基板302の下面3022の側へ向かって狭くなる。
【0103】
一方、第3実施形態では、図36に示すように、キャビティ308の長手方向の内側面3083,3084も、基板302の上面3021に垂直な面からキャビティ308の長手方向に傾斜している。内側面3083と内側面3084とは、基板302の上面3021の側で相対的に遠離しており、基板302の下面3022の側で相対的に近接している。したがって、基板302の上面3021と平行な長手方向のキャビティ308の寸法である縦幅W32は基板302の上面3021の側から基板302の下面3022の側へ向かって狭くなる。
【0104】
図36に示すように、キャビティ308の内上面3085すなわち振動板304の下面3042は、第1実施形態の場合と同様に、基板302の上面3021と平行になっている。また、キャビティ308の内下面3086は、第1実施形態の場合と同様に、基板302の上面3021に平行な面からキャビティ308の長手方向に傾斜している。したがって、基板302の上面3021と垂直な方向のキャビティ308の寸法である深さD31は、供給孔312の側から吐出孔310の側へ向かって深くなる。
【0105】
このようなキャビティ308をキャビティ108に代えて採用しても、隣接する単位構造の間の干渉を抑制しながら屈曲振動の変位量を増加させることができ、液滴の吐出量を増加させることができる。
【0106】
<4 第4実施形態>
第4実施形態は、第1実施形態に係るキャビティ108に代えて採用することができるキャビティ408に関する。
【0107】
図37〜図39は、キャビティ408が形成された基板402の模式図である。図37は、図3と同様の断面における基板402の縦断面図、図38は、図37のXXXVIII-XXXVIIIに沿う基板402の横断面図、図39は、図37のXXXIX-XXXIXに沿う基板402の横断面図である。
【0108】
図37に示すように、キャビティ408の内上面4085すなわち振動板404の下面4042は、第1実施形態の場合と同様に、基板402の上面4021と平行になっている。また、振動板404の下面4042と対向するキャビティ408の内底面4086は、基板402の上面4021に平行な面からキャビティ408の長手方向に傾斜しているが、供給孔412の側にある相対的に小さな範囲を占める第1の部分472においては、供給孔412の側から吐出孔410の側へ向かってキャビティ408の内底面4086が振動板404の下面4042へ近づき、吐出孔410の側にある相対的に大きな範囲を占める第2の部分474においては、供給孔412の側から吐出孔410の側へ向かってキャビティ408の内底面4086が振動板404の下面4042から遠ざかる。したがって、基板402の上面4021と垂直な方向のキャビティ408の寸法である深さD41は、第1の部分472においては供給孔412の側から吐出孔410の側へ向かって浅くなり、第2の部分474においては、供給孔412の側から吐出孔410の側へ向かって深くなる。このように吐出孔410の側にある相対的に大きな範囲を占める第2の部分においてキャビティ408を吐出孔410の側から供給孔412の側へ向かって先細りにすれば、吐出孔410の側から供給孔412の側への液体の流れが阻害されるので、振動板404を屈曲振動させてキャビティ408に充填された液体を押圧したときに供給孔412から液体が排出されることを抑制することができ、吐出孔410からの液滴の吐出量を増加させることができる。
【0109】
キャビティ408の内側面4081〜4084及び内上面4085、段差がない平坦面となっている。また、キャビティ408の内底面4086も、第1の部分472及び第2の部分474の各々において段差がない平坦面となっている。このため、キャビティ408の横幅W41は基板402の上面4021の側から基板402の下面4022の側へ向かって連続的に狭くなり、キャビティ408の深さD41は、第1の部分472において供給孔412の側から吐出孔410の側へ向かって連続的に浅くなり、第2の部分474において供給孔412の側から吐出孔410の側へ向かって連続的に深くなる。このようにキャビティ408の内側面4081〜4084、内上面4085及び内下面4086から気泡の原因となる段差を減らせば、キャビティ408の内部における気泡の発生を抑制することができる。
【0110】
キャビティ408には、キャビティ108と比較して、型の圧入の後のグリーンシートの密度差に起因する基板402の下面4022のうねりを抑制することができるという利点がある。すなわち、キャビティ108を採用した場合、基板102の下面1022が下方に突出するうねりが発生しやすいが、キャビティ408を採用した場合、第1の部分472のうねりに対する寄与と第2の部分474のうねりに対する寄与を相殺することができ、基板402の下面4022が下方に突出するうねりが発生しにくい。
【0111】
図38及び図39に示すように、キャビティ408の短手方向の内側面4081,4082は、第1実施形態の場合と同様に、基板402の上面4021に垂直な面からキャビティ408の短手方向に傾斜している。内側面4081と内側面4082とは、基板402の上面4021の側で相対的に遠離しており、基板402の下面4022の側で相対的に近接している。したがって、基板402の上面4021と平行な短手方向のキャビティ408の寸法である横幅W41は基板402の上面4021の側から基板402の下面4022の側へ向かって狭くなる。このように基板402の上面4021の側から基板402の下面4022の側へ向かってキャビティ408を先細りにすれば、隣接するキャビティ408の間の桟406の強度を保ったまま振動板404の横幅を広くすることができるので、隣接する単位構造の間の干渉を抑制しながら屈曲振動の変位量を増加させることができ、液滴の吐出量を増加させることができる。
【0112】
一方、図37に示すように、キャビティ408の長手方向の内側面4083,4084は、基板402の上面4021と垂直になっている。したがって、基板402の上面4021と平行な長手方向のキャビティ408の寸法である縦幅W42は一定である。
【0113】
このようなキャビティ408をキャビティ108に代えて採用しても、隣接する単位構造の間の干渉を抑制しながら屈曲振動の変位量を増加させることができ、液滴の吐出量を増加させることができる。
【0114】
第4実施形態については、下部電極膜と振動板とを相互拡散反応により固着することは必須ではないし、振動板404を屈曲させる振動体の構造も制限されない。したがって、本願は、以下の発明を含む。
【0115】
液滴吐出装置であって、
第1の主面と振動板で隔てられたキャビティ並びに前記キャビティから外部へ至る第1の液体の流路及び外部から前記キャビティへ至る第2の液体の流路が形成された基板と、
前記振動板に固設され前記振動板を屈曲振動させる振動体と、
を備え、
前記第2の流体の流路の側にある相対的に小さな範囲を占める第1の部分において前記第2の液体の流路の側から前記第1の液体の流路の側へ向かって前記第1の主面と垂直な第1の方向の前記キャビティの寸法である深さが浅くなり、
前記第1の流体の流路の側にある相対的に大きな範囲を占める第2の部分において前記第2の液体の流路の側から前記第1の液体の流路の側へ向かって前記キャビティの深さが深くなる、
液滴吐出装置。
【実施例】
【0116】
<その1>
以下では、図2又は図46に示す横断面形状が台形又は長方形のキャビティ108,908を有する液滴吐出装置1,9を試作し、その特性を評価した結果について説明する。この試作では、基板102,902は、ジルコニア製とし、振動板104、904の厚みは1〜3μm、キャビティ108の寸法である深さD11、D13はD11=D13とし(図47と同じ縦断面形状)、キャビティ108,908の上端における幅WCは60μm(図43参照)、単位構造131,931の配列間隔は70μmとした。屈曲変位の変位量は、レーザドップラー法により測定した。
【0117】
{相対変位量及びクロストーク}
【0118】
図40のグラフは、桟106,906の上端における桟幅WUと下端における桟幅WLとの桟幅差DW=WL−WU(図43参照)を変化させた場合の相対変位量及びクロストークの変化を示している。もちろん、DW>0の場合には、図2に示す横断面形状が台形のキャビティ108が得られ、DW=0の場合には、図46に示す横断面形状が長方形のキャビティ908が得られる。このことは、続いて説明する「下部電極膜122,922の被覆率」及び「振動板104,904のワレ不良率」においても同様である。
【0119】
ここでいう「相対変位量」は、隣接する3個の振動体120,920のうちの中央の振動体120,920のみを駆動した場合の中央の振動体120が固設されている振動板104,904の屈曲変位量R1の最大値を100%としたときの相対値を意味している。また、ここでいう「クロストーク」は、隣接する3個の振動体120,920の全部を同時に駆動した場合の中央の振動体120,920が固設されている振動板104,904の屈曲変位量R3と、隣接する3個の振動体120,920のうちの中央の振動体120,920のみを駆動した場合の中央の振動体120,920が固設されている振動板104,904の屈曲変位量R1との差R3−R1の、屈曲変位量R1に対する比(R3−R1)/R1を意味している。
【0120】
図40に示すように、桟幅差DWが約18μmのときに相対変位量は最大となり、桟幅差DWが約18μmを下回っているときは、桟幅差DWが大きくなるにつれて相対変位量が大きくなり、桟幅差DWが約18μmを上回っているときは、桟幅差DWが大きくなるにつれて相対変位量が小さくなる。これは、桟幅差DWが小さくなりすぎると、下部電極膜122,922の被覆率が大きくなり、振動板104,904のうち、下部電極膜122,922に被覆されない撓みやすい部分の面積が狭くなるからである。一方、桟幅差DWが大きくなりすぎると、下部電極膜122,922の被覆率が小さくなり、圧電/電歪体膜124,924のうち電界が印加される部分の面積が小さくなるからである。
【0121】
一方、クロストークの絶対値は、桟幅差DWが大きくなるにつれて小さくなる。
【0122】
相対変位量及びクロストークを総合的に考慮すると、望ましい桟幅差DWの範囲は、概ね、10〜25μmである。
【0123】
{下部電極膜122,922の被覆率}
図41のグラフは、桟幅差DW=WL−WUを変化させた場合の相対変位量及び下部電極膜122,922の被覆率の変化を示している。ここでいう「被覆率」は、短手方向のキャビティ108,908すなわち振動板104,904の寸法である幅WCに対する短手方向の下部電極膜122,922の寸法である幅WEの比WE/WC(図43参照)を意味している。
【0124】
図41に示すように、桟幅差DWが大きくなるにつれ、被覆率は小さくなる。これは、桟幅差DWが大きくなると、キャビティ108に遮光剤154を充填したマスクとしての基板102において、キャビティ108の端部の近傍を光が通りやすくなるからである。
【0125】
相対変位量を考慮すると、望ましい被覆率の範囲は80〜90%である。この望ましい被覆率の範囲は、キャビティ108に代えてキャビティ308又はキャビティ408を採用した場合も同様である。
【0126】
横断面形状が「台形」のキャビティ108を採用した場合、振動板104には、下部電極膜122に被覆される、すなわち、下部電極膜122が固着される固着領域172の短手方向両側に短手方向の寸法である幅が等しい下部電極膜122が固着されない非固着領域174,176ができる(図43(a)参照)。このような撓みやすい非固着領域174,176が固着領域172の両側にあることも、相対変位量の向上に寄与する。
【0127】
{振動板104,904のワレ不良率}
図42のグラフは、桟幅差DW=WL−WUを変化させた場合の振動板104,904のワレ不良率の変化を示している。
【0128】
図42に示すように、桟幅差DWが約25μmを上回っているときは、振動板104,904のワレ不良率は顕著に大きくなる。これは、桟幅差DWが大きくなりすぎると、振動板104,904のうち、保護膜としても機能する下部電極膜122,922によって被覆されない部分の面積が広くなるからである。
【0129】
<その2>
以下では、図3又は図37に示す縦断面形状を有するキャビティ108,408を有する液滴吐出装置を試作し、その特性を評価した結果について説明する。この試作では、基板102,402は、ジルコニア製とし、振動板104、404の厚みは1〜3μm、キャビティ108の寸法である深さD11、D13はD11≧D13とし、キャビティ108,408の上端における幅2C1は60μm、キャビティ108,408が最も深くなる位置におけるキャビティ108,408の上端における幅2C1と下端における幅2C2との差2C1−2C2は10〜25μm、キャビティ108,408が最も深くなる位置におけるキャビティ108,408の深さsは60〜80μmとした(図37〜図39参照)。
【0130】
{横断面の断面積の比A2/A1の影響}
表1は、キャビティ108,408が最も深くなる位置におけるキャビティ108,408の横断面の断面積A1に対するキャビティ108,408が最も浅くなる位置におけるキャビティ108,408の横断面の断面積A2の比A2/A1を変化させた場合の下部電極膜122の幅のばらつきσ、基板104,404のうねり及び液滴の吐出量の変化を示している。比A2/A1は、式(1)により算出される。
【0131】
【表1】

【0132】
【数1】

【0133】
表1は、後述する比b/aを0.7〜0.9としたときの結果を示している。もちろん、深さsと深さtとが異なる場合は図37に示す縦断面形状を有するキャビティ408が得られ、深さsと深さtとが異ならない場合は図3に示す縦断面形状でD11=D13の場合の縦断面形状(図47と同じ縦断面形状)を有するキャビティ108が得られる。
【0134】
ここでいう「下部電極膜122の幅のばらつき」は、キャビティ108,408が最も浅くなる位置における短手方向の下部電極膜122の寸法である幅とキャビティ108,408が最も深くなる位置における短手方向の下部電極膜122の寸法である幅の差を意味している。下部電極膜122の幅のばらつきが生じるのは、キャビティ408が最も浅くなる位置に近づくにつれて遮光剤による遮光が不十分になるため、レジスト膜152の未露光部156の幅が狭くなるからである。また、ここでいう「吐出量」は、比A2/A1=1であるときの値を1としたときの相対値を意味している。
【0135】
表1に示すように、下部電極膜122の幅のばらつきは、比A2/A1が0.6〜1であれば問題とならないが、比A2/A1が0.6より小さくなると大きくなる。これに起因して、比A2/A1が0.6より小さくなると吐出量の低下が顕著になる。一方、比A2/A1が0.8より大きくなっても吐出量の低下が顕著になる。
【0136】
また、表1に示すように、基板のうねりは、比A2/A1が0.6〜0.8であれば問題とならないが、この範囲外となると問題となる。
【0137】
これらのことから、比A2/A1の望ましい範囲は、0.6〜0.8である。
【0138】
{距離の比b/aの影響}
表2は、キャビティの長手方向の中心の位置からキャビティ408が最も深くなる位置までの距離aに対する中心の位置からキャビティ408が最も浅くなる位置までの距離bの比b/aを変化させた場合の吐出量、逆流量及びその他不具合の変化を示している。もちろん、比b/aが1でない場合は図37に示す縦断面形状を有するキャビティ408が得られ、比b/aが1である場合は図3に示す縦断面形状でD11>D13の場合の縦断面形状を有するキャビティ108が得られる。表2は、先述した比A2/A1を0.6〜0.8としたときの結果を示している。
【0139】
【表2】

【0140】
ここでいう「吐出量」は、表1の横断面の断面積比A2/A1が1である時の吐出孔410から吐出される液滴の吐出量を1としたときの、吐出孔410から吐出される液滴の吐出量の相対値を意味している。
【0141】
ここでいう「逆流量」は、供給孔412から吐出される液滴の吐出量を表1の横断面の断面積比A2/A1が1である時の吐出量と比較した結果である。
【0142】
表2に示すように、吐出量は、比b/aが0.5〜1.0の範囲全てで吐出量が1.2倍になる。
【0143】
また、表2に示すように、逆流量は、比b/aが0.7〜1であれば同等又は減少するが、比が0.7より小さくなると増加する。
【0144】
さらに、比b/aが0.5〜0.9の範囲内にあればその他不具合を生じないが、比b/aが0.9より大きくなると離型が安定しないという問題を生じる。
【0145】
これらのことから、比b/aの望ましい範囲は、0.7〜0.9である。
【0146】
<その3>
{液滴吐出量}
図44の一覧表の中の実施例1、2の欄には、図3に示すような縦断面形状が台形のキャビティ108を有する液滴吐出装置1におけるキャビティ108の深さ及び液滴の吐出量が示されている。また、図44の一覧表の中の比較例1の欄には、図47に示すような縦断面形状が長方形のキャビティ908を有する液滴吐出装置9におけるキャビティ908の深さ及び液滴の吐出量が示されている。ここでいう「液滴の吐出量」は、振動体120,920を所定回数だけ駆動したときに吐出孔110,910から吐出された液滴の総重量であり、比較例1を「1」とした場合の相対値である。なお、実施例1、2及び比較例1においては、最上端におけるキャビティの横幅W11,W91は180μmとしている。また、最上端におけるキャビティの縦幅W12,W92は1.1mmとしている。
【0147】
図44に示すように、キャビティの縦断面形状を台形とした場合の方が長方形とした場合よりも液滴の吐出量を増加させることができる。
【0148】
この発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。特に、説明した技術を適宜組み合わせることは当然に予定されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック基板の製造方法であって、
(a) 第1のセラミックスグリーンシートの温度をガラス転移温度以上に昇温する工程と、
(b) 前記工程(a)の後に前記第1のセラミックスグリーンシートの第1の主面に型を圧入する工程と、
(c) 前記第1のセラミックスグリーンシートの第1の主面に前記型を圧入した状態のまま前記第1のセラミックスグリーンシートの温度をガラス転移温度未満に降温する工程と、
(d) 前記工程(c)の後に前記第1のセラミックスグリーンシートと前記型とを分離する工程と、
を備えるセラミック基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1のセラミック基板の製造方法において、
前記型が、根元の幅よりも先端の幅が狭い台形の横断面形状を有する圧入部を有する
セラミック基板の製造方法。
【請求項3】
請求項1のセラミック基板の製造方法において、
(e) 前記工程(d)の後に前記型の圧入により窪みが形成された前記第1のセラミックスグリーンシートの第1の主面の側に第2のセラミックスグリーンシートを熱圧着する工程と、
(f) 前記工程(e)の後に前記第1のセラミックスグリーンシート及び前記第2のセラミックスグリーンシートを一体的に焼成する工程と、
をさらに備えるセラミック基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかのセラミック基板の製造方法において、
(g) 前記工程(a)の前に前記第1のセラミックスグリーンシートの第1の主面の窪みが形成される領域の外側にセラミックス層を形成する工程、
をさらに備えるセラミック基板の製造方法。
【請求項5】
請求項4のセラミック基板の製造方法において、
前記セラミックス層のガラス転移温度が前記第1のセラミックスグリーンシートのガラス転移温度より低い、
セラミック基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1のセラミック基板の製造方法において、
(h) 前記工程(d)の後に前記第1のセラミックスグリーンシートの第1の主面に形成された窪みの内面と前記第1のセラミックスグリーンシートの第2の主面とを貫通する貫通孔を形成する工程、
をさらに備えるセラミック基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【公開番号】特開2012−30598(P2012−30598A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198650(P2011−198650)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【分割の表示】特願2009−529448(P2009−529448)の分割
【原出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】