説明

セラミック多孔質体の製造方法

【課題】 従来、専ら管理型埋立て処分対象とされてきたボトムアッシュ(クリンカアッシュ)を出発原料の一部として、有害重金属類溶出の危険性のない、透水・保水性材料、濾過材料、微生物を担持する水浄化材料、吸音材料、保湿材料、耐火断熱材料、植栽用材料等として用いられるセラミック多孔質体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 重量で、フライアッシュ:10%〜60%、廃ガラス:15%〜50%、ボトムアッシュ(クリンカアッシュ):10%〜70%の配合比率の原料を粒粉体とし、該原料を混合して空気遮断状態下に、600℃〜1100℃の温度域で10分間〜120分間の焼成を行った後、空気遮断状態下に冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭火力発電所等から排出されるボトムアッシュ(クリンカアッシュ)、フライアッシュ、および廃ガラスを原料とするセラミック多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界の石油需給の長期的展望から、電力供給において石炭火力発電が重視されてきており、今後その比率が増大することは必至である。これに対応して石炭灰の発生量も年間1080万トン(2002年、財団法人 石炭エネルギーセンター)であり、発生石炭灰のうち973万トン/年はセメント製造分野、土木分野、建築分野(軽量ボード等として)などで有効利用されているが、残る107万トン/年は埋立て処分されている。
【0003】
石炭火力発電所等で燃焼される石炭からの石炭灰の約90%がフライアッシュであり、10%がボトムアッシュ(クリンカアッシュ)である。フライアッシュは集塵装置で捕集された微粒状石炭灰であり、ボトムアッシュはボイラ底部で回収される塊状石炭灰でクリンカアッシュともいう。
【0004】
処で、ボトムアッシュ(クリンカアッシュ)は砒素や、カドミウム、鉛といった有害重金属類を含んでおり、ボトムアッシュ(クリンカアッシュ)を埋立て処分するときは溶出の危険性がある処から、管理型処分(有害重金属が地下水等に溶出流入することがないよう、遮断設備を施して埋立て処分する)対象となっており、その処分には高いコストを伴っている。これは、表6および表7に示すように、ボトムアッシュからの溶出量がフライアッシュのそれよりもはるかに多いことに起因している。ボトムアッシュ(クリンカアッシュ)の低コスト無害化さらには資源化のための技術が強く望まれている処である。
【0005】
【表6】

【0006】
【表7】

【0007】
一方、廃ガラス(板ガラスを除く)は年間260万トン放出され、そのうちの165万トン/年は再利用されている。残りの95万トン/年が廃棄物として埋立て処分されている。廃ガラスの廃棄量は今後も増加の傾向にあり、その有効利用のための技術が望まれている。
【0008】
他方、ボトムアッシュ(クリンカアッシュ)を骨材とし、その表面の少なくとも一部に被覆した、10μm〜100μmの通孔をもつ、ソーダ石灰ガラスと水硬性セメントからなる多孔質結晶化ガラスを介してクリンカアッシュを部分的に結合せしめるとともに、このクリンカアッシュの粒子間に100μm〜500μmの孔隙を有するセラミック焼結体が既知である(特許文献1参照)。そして、この先行技術にあっては、フライアッシュを20重量%以下の範囲で添加する態様もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら特許文献1には、ボトムアッシュ(クリンカアッシュ)が含んでいる砒素や、カドミウム、鉛といった有害重金属類溶出の問題を解決するという課題およびそれを解決するための技術的手段について教示する処がない。また、この先行技術にあって必須の多孔質結晶化ガラスは、ソーダ石灰ガラスと水硬性セメントからなる。而して、多孔質結晶化ガラスを製造するための別途のプロセスを必要とする。
【0010】
本発明は、従来、専ら管理型埋立て処分対象とされてきたボトムアッシュ(クリンカアッシュ)を出発原料の一部として、有害重金属類溶出の危険性のない、透水・保水性材料、濾過材料、微生物を担持する水浄化材料、吸音材料、保湿材料、耐火断熱材料、植栽用材料等として用いられるセラミック多孔質体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、重量で、フライアッシュ:10%〜60%、廃ガラス:15%〜50%、ボトムアッシュ(クリンカアッシュ):10%〜70%の配合比率の原料を粒粉体とし、該原料を混合して空気遮断状態下に、600℃〜1100℃の温度域で10分間〜120分間の焼成を行った後、空気遮断状態下に冷却するようにしたセラミック多孔質体の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、配合原料中の廃ガラスがバインダとしての機能を有するから別途バインダを加える必要はなく、強度に優れたセラミック多孔質体を得ることができる。また、ボムアッシュ(クリンカアッシュ)中に含まれる砒素や、カドミウム、鉛といった有害重金属類はガラス骨格内に閉じ込められ(ガラス固化され)、セラミック多孔質体からの溶出が殆どなくなる。
【0013】
また、フライアッシュに含まれている炭素、硫黄といった元素の燃焼によって溶融ガラス中で多数の独立気泡→連続気孔(微細孔)が形成され、比表面積のきわめて大きな吸水性に優れたセラミック多孔質体を得ることができる。このセラミック多孔質体は、その微細孔中に微生物を棲まわせ、水質を浄化する要素として利用することができるほか、透水・保水性材料、濾過材料、吸音材料、保湿材料、耐火断熱材料、植栽用材料等として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例に係るセラミック多孔質体を用いての浸漬濾床法による水質浄化試験(COD)の結果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例に係るセラミック多孔質体を用いての浸漬濾床法による水質浄化試験(BOD)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のセラミック多孔質体は、フライアッシュ、廃ガラス、ボトムアッシュ(クリンカアッシュ)を出発原料とし、これら原料を特定の比率で配合し微粉砕、混合を行った後、空気遮断状態下に600℃〜1100℃の温度域で10分間〜120分間の焼成を行うことによって得られる。
これら出発原料の化学的組成の一例を、表1乃至表3に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
また、石炭灰中に含まれる重金属の一例を、表4に示す。
【0020】
【表4】

【0021】
出発原料の配合比率は、重量で、フライアッシュ:10%〜60%、廃ガラス:15%〜50%、ボトムアッシュ(クリンカアッシュ):10%〜70%である。
フライッシュは通常、重量で、数%の炭素や硫黄を含んでおり、焼成過程でこれらが燃焼、ガス化し溶融したガラス中で独立気泡→連続気孔(微細孔)を形成し、最終的に無数の連続気孔(微細孔)を形成する。而して、フライアッシュは少なくとも10%は必要であり、これに満たない配合比率では炭素、硫黄の燃焼、ガス化による連続気孔(微細孔)の形成が不十分となる。一方、60%を超えるフライアッシュの配合は廃ガラスおよびボトムアッシュの配合比率を過少ならしめ、わけてもバインダとして機能する廃ガラスの量を過少ならしめて焼結を不十分なものとし、得られるセラミック多孔質体の強度不足を招く。
【0022】
廃ガラスはバインダとして機能しその配合比率を増していくと、焼結性を良好ならしめて得られるセラミック多孔質体の強度を高める。而して、その配合比率が15%に満たないと、焼結を不十分なものとし、得られるセラミック多孔質体の強度不足を招く。一方、50%を超える配合比率では、フライアッシュおよびボトムアッシュ(クリンカアッシュ)の配合比率が過少となり、連続気孔(微細孔)の形成が不十分となる。
【0023】
上記配合比率の出発原料を、好ましくは100μm以下の粒粉体とし、これらを混合して空気遮断状態下に600℃〜1100℃の温度域で10分間〜120分間加熱して焼結させ、空気遮断状態下に自然冷却して数μm〜数mm直径の連続気孔(微細孔)を有するセラミック多孔質体を得る。
【0024】
出発原料を100μm以下に粉砕し、この原料混合物に水を添加して混練したものを型に注入して成型物を得、自然乾燥した後、空気遮断状態下に600℃〜1100℃の温度域で10分間〜120分間の焼成を行って、空気遮断状態下に自然冷却して数μm〜数mm直径の連続気孔(微細孔)を有する所望形状のセラミック多孔質体を得ることができる。
【0025】
焼成過程における加熱温度が600℃未満では配合原料中の廃ガラスは溶融せず、フライアッシュ中の炭素や硫黄が燃焼してガス化しても微細孔を形成することなく拡散してしまう。一方、1100℃を超える高温になると、ガラスはほぼ完全に溶けてしまい、ガラス相中に発生した気体の多くは速やかに系外に放出される。而して、好ましくは、650℃〜1050℃の温度域で溶融したガラス中で炭素や硫黄が燃焼して発生したガスによって効率よく独立気泡→連続気孔(微細孔)を形成させてセラミック多孔質体とするのがよい。
【0026】
加熱時間が10分間未満では満足な焼結体を得ることが困難である。また、加熱時間が120分間を超えると、微細孔同士が連結して孔のサイズが大きくなるとともに、製造コストの上昇を招く。
【実施例1】
【0027】
重量で、フライアッシュ:廃ガラス:ボトムアッシュ(クリンカアッシュ)=1:1:1の配合比率で出発原料とし、これらを100μm以下に微粉砕して混合した後、900℃×60分間、および1000℃×60分間のプロセス条件で空気遮断状態下に坩堝を用いて電気炉中で加熱・焼成を行った。その後、空気遮断状態下の電気炉中で焼結体を坩堝内ごと常温まで自然冷却して数μm〜数mm直径の連続気孔(微細孔)を有するセラミック多孔質体とした。
【0028】
得られたセラミック多孔質体を用いて浸漬濾床法によって水質浄化試験を行った。その結果を、図1(COD値)に示す。また、BOD値の経時変化を図2に示す。図1および図2から明らかなように、当初(0日目)に、COD:400mg/L程度、BOD:800mg/L程度の値を示していたものが、3日目には、COD:30mg/L程度、BOD:30mg/L程度にまで急激に低下している。その後緩やかに数値が下降し、15日目には、COD:10mg/L程度、BOD:7mg/Lにまで浄化された。
【実施例2】
【0029】
重量で、フライアッシュ:廃ガラス:ボトムアッシュ(クリンカアッシュ)=5:2:1(62.5%:25.0%:12.5%)の配合比率で出発原料とし、これらを100μm以下に微粉砕して混合した後、900℃×60分間、および1000℃×60分間のプロセス条件で空気遮断状態下に坩堝を用いてで電気炉中で加熱・焼成を行った。その後、空気遮断状態下で焼結体を坩堝ごと常温まで自然冷却して数μm〜数mm直径の連続気孔(微細孔)を有するセラミック多孔質体とした。
【0030】
得られたセラミック多孔質体を用いて浸漬濾床法によって水質浄化試験を行った。その結果を、図1(COD値)に実施例1のものと併せて示す。また、BOD値の経時変化を図2に実施例1のものと併せて示す。図1および図2から明らかなように、当初(0日目)に、COD:400mg/L程度、BOD:800mg/L程度の値を示していたものが、3日目には、COD:120mg/L程度、BOD:180mg/L程度にまで低下している。その後緩やかに数値が下降し、15日目には、COD:10mg/L以下、BOD:2mg/Lにまで浄化された。
【0031】
実施例1および実施例2によって得られたセラミック多孔質体の溶出液の分析を下記手順によって行った。
1)プラスチック容器にセラミック多孔質体および超純水(セラミック多孔質体の重量の10倍量)を入れ、振盪恒温槽(30℃)に6時間装入した。
2)その後、セラミック多孔質体を取り出し、溶出液を吸引濾過した。
3)濾液を1リットル採取し、財団法人九州環境管理協会に成分分析を依頼した。その結果を、表5に示す。
【0032】
【表5】

【0033】
表5から明らかなように、本発明のセラミック多孔質体は有害重金属の溶出量は排出基準値を大きく下回っており、環境基準値と同等或いはそれ以下ときわめて低い値となっている。よって、微生物を棲まわせて水の浄化を行う安全な浄化要素等として利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によって得られるセラミック多孔質体は、その微細孔中に微生物を棲まわせ、水質を浄化する要素として利用することができるほか、透水・保水性材料、濾過材料、吸音材料、保湿材料、耐火断熱材料、植栽用材料等として用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0035】
【特許文献1】特開平11−139886号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量で、フライアッシュ:10%〜60%、廃ガラス:15%〜50%、ボトムアッシュ(クリンカアッシュ):10%〜70%の配合比率の原料を粒粉体とし、該原料を混合して空気遮断状態下に、600℃〜1100℃の温度域で10分間〜120分間の焼成を行った後、空気遮断状態下に冷却するようにしたことを特徴とするセラミック多孔質体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−131702(P2012−131702A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−14687(P2012−14687)
【出願日】平成24年1月27日(2012.1.27)
【分割の表示】特願2007−172753(P2007−172753)の分割
【原出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(802000031)公益財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】