説明

セラミック接合体の製造方法

【課題】セラミック多孔体とセラミック基材とが剥離し難い、品質安定性に優れたセラミック接合体を製造する方法を提供すること。
【解決手段】
本発明によって提供される製造方法は、セラミック基材20の表面にセラミック多孔体10が接合されたセラミック接合体30を製造する方法である。この製造方法は、少なくともセラミック粉末と有機バインダと非水溶性有機溶剤と水とを含有しているセラミック多孔体形成用組成物を調製すること、ここで、該組成物中における水の含有量はセラミック粉末とバインダと非水溶性有機溶剤との合計質量に対して1質量%〜50質量%に相当する量である;該組成物をセラミック基材20の表面に塗工すること;及び、その塗工物を焼成してセラミック基材20の表面にセラミック多孔体10が接合されたセラミック接合体30を得ること;を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック接合体の製造方法、及び該製造方法に用いられるセラミック多孔体形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
大孔径(例えば50μm以上)の気孔を有するセラミック多孔体は、プラスチックなどの樹脂材料や金属材料よりも耐熱性や耐腐食性が優れていることから、工業用砥石、工業用セラミック型、耐火物、焼成用セッター等を構成する部材として好ましく用いられている。また、近年では、液体あるいはガス透過性が高いことから、燃料電池用多孔質基材、セラミックフィルター、触媒担体等の機能性セラミックス部材としても活用が期待されている。
【0003】
従来、セラミック多孔体の製造には、高温で焼失する気孔形成材(例えばカーボン)をセラミック粉末に大量に添加し、所要の形状に成形した後、焼成処理することにより気孔形成材を焼失させて気孔を形成する方法が用いられている。また、気孔形成材を用いずに、セラミック粉末を低密度に加圧成形し、その成形体を焼結固化させることにより原料粉末同士の間隙を気孔として残存させる方法もある。これらのうち、最もシンプルでコストも安価であることから、セラミック粉末の低密度成形体を形成し、粒子間隙を気孔として残存させる方法がよく採用されている。この種のセラミック多孔体に関する従来技術としては特許文献1〜6が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−1673号公報
【特許文献2】特開平07−215777号公報
【特許文献3】特開2006−282419号公報
【特許文献4】特開平08−12463号公報
【特許文献5】特開平09−71482号公報
【特許文献6】特開平09−87704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、大孔径(例えば50μm以上)の気孔を有するセラミック多孔体は、緻密質セラミックスや小気孔セラミック多孔体に比べて、その機械的強度が劣るため、従来、厚みを厚くして強度を一定レベルに高めたうえで使用されている。また、更なる強度向上を図るために、セラミック多孔体は、緻密質または孔径が相対的に小さい同種または異種の多孔質セラミック基材と接合(一体化)して使用される場合が多い。セラミック多孔体とセラミック基材とを一体化する方法としては、例えば、セラミック多孔体とセラミック基材とを焼成により一体焼結する方法が用いられている。
【0006】
しかしながら、緻密質または孔径が相対的に小さい同種または異種の多孔質セラミック基材上に、上述したような大孔径(例えば50μm以上)を有するセラミック多孔体を接合(一体焼結)しようとすると、両者の気孔径(ひいては焼成収縮率)が大きく異なるため、接合性が悪くなりがちである。そのため、焼結後の接合部の強度が低くなりやすく、接合部が小さな力で簡単に剥離するという問題があった。接合部の強度が不十分であると、接合部に耐圧性や耐荷重性が要求される用途(例えば工業用砥石、セラミックフィルター等)には実用化できないため好ましくない。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、セラミック多孔体とセラミック基材とが剥離し難い、品質安定性に優れたセラミック接合体を製造することができるセラミック接合体の製造方法を提供することである。また、そのようなセラミック接合体の製造に好適に用いられるセラミック多孔体形成用組成物を提供することを他の目的とする。
【0008】
本発明によると、セラミック基材の表面にセラミック多孔体が接合されたセラミック接合体(積層体)を製造する方法が提供される。この製造方法は、少なくともセラミック粉末と有機バインダと非水溶性有機溶剤と水とを含有しているセラミック多孔体形成用組成物を調製することを包含する。ここで、該組成物中における水の含有量は前記セラミック粉末と前記バインダと前記非水溶性有機溶剤との合計質量に対して1質量%〜50質量%に相当する量である。上記製造方法は、また、該組成物をセラミック基材の表面に塗工することを包含する。そして、その塗工物を焼成して上記セラミック基材の表面にセラミック多孔体が接合(一体焼結)されたセラミック接合体を得ることを包含する。
【0009】
本発明の製造方法によると、非水溶性有機溶剤と水とを含有しているセラミック多孔体形成用組成物を用いることにより、該組成物を被接合体であるセラミック基材に塗工した際に該組成物がセラミック基材に馴染みやすくなる。そのため、焼成後に得られたセラミック多孔体のセラミック基材への密着性(アンカー効果等が寄与する接合強度)が向上し、セラミック多孔体とセラミック基材とを強固に接合することができる。したがって、本発明によると、セラミック多孔体とセラミック基材とが剥離し難い、品質安定性に優れた(例えばセラミック多孔体とセラミック基材との剥離をより長時間に亘って阻止し得る)セラミック接合体を製造することができる。
【0010】
上記組成物中における水の含有量としては、セラミック粉末とバインダと非水溶性有機溶剤との合計質量に対し、概ね1質量%以上が適当であり、好ましくは5質量%以上であり、特に好ましくは20質量%以上である。かかる水含有量の組成物を用いることにより、セラミック基材との密着性の極めて大きいセラミック多孔体を形成することができる。水の含有量が少なすぎると、セラミック多孔体とセラミック基材との密着性(アンカー効果等が寄与する接合強度)が不足し、該セラミック多孔体が部分的にセラミック基材から浮き上がったり剥落しやすくなったりすることがある。その一方、水の含有量が多すぎると、有機溶剤と水とが相分離するため、上述した効果が適切に発揮されない場合がある。
【0011】
ここに開示される好ましい一態様では、上記組成物中における上記非水溶性有機溶剤と上記水との混合比率は、質量比で有機溶剤:水=95:5〜30:70の範囲が好ましく、90:10〜40:60がより好ましく、80:20〜50:50が特に好ましい。有機溶剤:水=95:5よりも水が少なくなると、水の含有による性能向上効果(セラミック多孔体とセラミック基材との密着性向上効果)が不十分になる場合があり、その一方で、有機溶剤:水=30:70よりも水が多くなると、有機溶剤と水とが相分離するため、上述した効果が適切に発揮されない場合がある。
【0012】
ここに開示されるセラミック接合体製造方法の好ましい一態様では、上記セラミック多孔体の水銀圧入法に基づく平均細孔径が、50μm〜200μmである。ここに開示されるセラミック多孔体形成用組成物を用いることによるセラミック多孔体とセラミック基材との接合強度の向上については、上述したような大孔径(例えば50μm以上)を有するセラミック多孔体をセラミック基材上に接合(一体焼結)する場合に特に有効に発揮され得る。
【0013】
ここに開示されるセラミック接合体製造方法の好ましい一態様では、上記セラミック基材は、緻密質または上記セラミック多孔体より平均細孔径が相対的に小さい(例えば平均細孔径1μm以下の)多孔質セラミック基材である。ここに開示されるセラミック多孔体形成用組成物を用いることによるセラミック多孔体とセラミック基材との接合強度の向上については、上記のような緻密質または孔径が相対的に小さい多孔質セラミック基材上に、上述したような大孔径(例えば50μm以上)を有するセラミック多孔体を接合(一体焼結)する場合に特に有効に発揮され得る。
【0014】
ここに開示されるセラミック接合体製造方法の好ましい一態様では、上記セラミック基材と上記セラミック多孔体とが同種の材料により構成されている。このような同種の材料により構成されたセラミック基材を用いることにより、セラミック多孔体とセラミック基材との間でアンカー効果がより確実に発揮されて、十分な接合強度を確保することができる。
【0015】
ここに開示されるセラミック接合体製造方法の好ましい一態様では、上記塗工物の焼成は、最高焼成温度が600℃〜900℃となるように行われる。このことによって、セラミック多孔体とセラミック基材とが強固に一体焼結(接合)されたセラミック接合体を得ることができる。したがって、セラミック接合体に所要の耐久性が確保され、セラミック接合体の性能が安定する。
【0016】
ここに開示されるセラミック接合体製造方法の好ましい一態様では、上記セラミック多孔体の平均厚さが、100μm以上である。セラミック多孔体を100μm以上の厚膜に形成する構成は、セラミック多孔体の機械的強度および耐久性を高めるのに有利である一方で、セラミック多孔体を100μm以上の厚膜に形成しようとすると、セラミック多孔体とセラミック基材との密着性(アンカー効果等が寄与する接合強度)が不足し、該セラミック多孔体が部分的にセラミック基材から浮き上がったり剥落しやすくなったりすることがある。ここに開示される製造方法によると、上記のようにセラミック多孔体を100μm以上の厚膜に形成する場合でも、セラミック多孔体とセラミック基材とを強固に接合することができ、セラミック多孔体とセラミック基材との剥離をより長時間に亘って阻止し得る。
【0017】
ここに開示されるセラミック接合体製造方法の好ましい一態様では、上記組成物の塗工は、凹版印刷により行われる。凹版印刷を使用してセラミック多孔体をセラミック基材上に形成しようとすると、セラミック多孔体とセラミック基材との密着性が弱く、セラミック多孔体がセラミック基材から剥落しやすくなることから、本発明を適用することが特に有用である。
【0018】
本発明によると、また、ここで開示されるセラミック接合体製造方法に好適に用いられるセラミック多孔体形成用組成物が提供される。すなわち、セラミック基材の表面に塗工して用いられるセラミック多孔体形成用組成物であって、少なくともセラミック粉末と有機バインダと水とを非水溶性有機溶剤中に含有している。そして、上記水の含有量が、上記セラミック粉末と上記バインダと上記非水溶性有機溶剤との合計質量に対して1質量%〜50質量%に相当する量である。このようなセラミック多孔体形成用組成物を用いれば、セラミック基材の表面に強固に接合(一体焼結)されたセラミック多孔体を形成することができる。したがって、セラミック多孔体とセラミック基材とが剥離し難い、品質安定性に優れたセラミック接合体を製造することができる。
【0019】
ここに開示されるセラミック多孔体形成用組成物の好ましい一態様では、上記セラミック粉末のレーザ散乱法に基づく平均粒径が50μm以上(例えば50μm〜200μm)である。平均粒径が50μm以上のセラミック粉末を用いることにより、焼成後においても粉末同士の間隙を気孔として有効に残存させることができる。このため、セラミック多孔体の孔径および気孔率をより効果的に大きくすることができる。なお、セラミック粉末の材料としては特に限定がなく、例えば金属の酸化物、炭化物、窒化物等の種々のセラミック粉末を採用することができる。例えば、アルミナまたはシリカを主体として構成されたセラミック粉末を好ましく使用することができる。ここでいう「主体とする」とは、セラミック粉末全体の50質量%以上(好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%〜100質量%)がアルミナまたはシリカであることを意味する。
【0020】
ここに開示される組成物に用いられる非水溶性有機溶剤としては、水に不溶かあるいは難溶であればいずれの有機溶剤を用いても構わないが、セラミック粉末と有機バインダとを良好に分散させて混合できるものであることが好ましい。また、水との相溶を抑制する観点からは、25℃における水への溶解度が15(g/100ml)以下のものであることが好ましく、10(g/100ml)以下のものであることが特に好ましい。そのような有機溶剤としては、例えば、イソブチルアルコール(IBA)、1‐ブタノール、2‐ブタノール、tert‐ブチルアルコール、1‐ペンタノール、2‐ペンタノール、3‐ペンタノール、等の炭素数が4以上(好ましくは4〜10)のアルコール系溶剤が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係るセラミック接合体を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るセラミック接合体製造方法の製造フローを示す図である。
【図3】本発明の一試験例に係るセラミック接合体の剥離面を示すSEM像である。
【図4】本発明の一試験例に係るセラミック接合体の剥離面を示すSEM像である。
【図5】本発明の一試験例に係るセラミック接合体の剥離面を示すSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、セラミック接合体の製造方法及び該製造方法に用いられるセラミック多孔体形成用組成物)以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(セラミック原料粉末の合成方法など)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0023】
図1を参照しつつ本実施形態に係るセラミック接合体について説明する。図1は、セラミック接合体30を模式的に示す断面図である。本実施形態に係るセラミック接合体30は、図1に示すように、セラミック多孔体10と所定のセラミック基材20とが焼成により一体焼結(接合)されて形成されている。
【0024】
セラミック多孔体10を構成し得る材料としては、従来から、焼結によってセラミック多孔体を製造するのに用いられているものであれば特に制限なく用いることができる。例えば、金属の酸化物、炭化物、窒化物等の種々のセラミック粉末を採用することができる。例えば、α−アルミナ、γ−アルミナ、シリカ、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、チタニア、カルシア、各種ゼオライト等のセラミック材料を好ましく使用することができる。また、これらの複合物または混合物から形成されたセラミック材料であってもよい。
【0025】
セラミック多孔体10の水銀圧入法に基づく気孔率としては、概ね10%〜60%の範囲であり、好ましくは30%〜40%の範囲である。また、平均細孔径(水銀圧入法に基づく。)が概ね50μm〜200μmの範囲であり、好ましくは60μm〜150μmであり、特に好ましくは80μm〜120μmである。このような気孔径が大きく、かつ気孔率が大きいセラミック多孔体は、工業用砥石やセラミックフィルター等の用途として好適に用いることができる。セラミック多孔体10の厚さは、用途に応じて適宜厚さを決定することができるが、通常は概ね100μm〜1000μmであり、好ましくは100μm〜500μmであり、特に好ましくは100μm〜400μmである。セラミック多孔体10の厚みが上記所定の範囲内であると、セラミック多孔体10の機械的強度および耐久性を十分に確保することができる。
【0026】
セラミック基材20を構成し得る材料としては、従来から、焼結によってセラミック多孔体と接合(一体焼結)されるのに用いられているものであれば特に制限なく使用することができる。例えば、α−アルミナ、γ−アルミナ、シリカ、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、チタニア、カルシア、各種ゼオライト等のセラミック材料を好ましく使用することができる。また、これらの複合物または混合物から形成されたセラミック材料であってもよい。セラミック多孔体10との接合性を良好にする観点からは、セラミック多孔体と同種の材料であることが望ましい。
【0027】
セラミック基材20は緻密質でも多孔質でも構わないが、セラミック基材20の孔径は、セラミック多孔体10の孔径よりも小さいことが好ましい。例えば、平均細孔径が10μm以下(例えば0.1μm〜10μm)のセラミック基材の使用が好ましく、より好ましくは5μm以下(例えば0.1μm〜5μm)であり、特に好ましくは1μm以下(例えば0.1μm〜1μm)である。また、気孔率としては、概ね20%以下であり、好ましくは5%以下である。このような孔径および気孔率が相対的小さいセラミック基材20上に、上述したような大孔径(例えば50μm以上)を有するセラミック多孔体10を接合することにより、セラミック多孔体10の機械的強度を補強することができる。したがって、セラミック構造材や機能性セラミック等の用途において、高強度化した多孔体部材として好適に使用することができる。
【0028】
続いて、図2を加えて、本実施形態に係るセラミック接合体30の製造方法について説明する。図2は、セラミック接合体30の製造フローを示す図である。
【0029】
本実施形態に係るセラミック接合体30は、図2に示すように、組成物調製工程(ステップS10)と塗工工程(ステップS20)と焼成工程(ステップS30)を経て製造することができる。組成物調製工程には、少なくともセラミック粉末と有機バインダと非水溶性有機溶剤と水とを含有しているセラミック多孔体形成用組成物を調製することが含まれる。ここで、該組成物中における水の含有量は上記セラミック粉末と上記バインダと上記非水溶性有機溶剤との合計質量に対して1質量%〜50質量%に相当する量である。また、塗工工程には、該組成物を上記セラミック基材の表面に塗工することが含まれる。さらに、焼成工程には、その塗工物を焼成して上記セラミック基材の表面にセラミック多孔体が接合(一体焼結)されたセラミック接合体を得ることが含まれる。以下、各工程を詳細に説明する。
【0030】
<組成物調製工程>
組成物調製工程では、少なくともセラミック粉末と有機バインダと水とが非水溶性有機溶剤中に分散されてなるセラミック多孔体形成用組成物を調製する。
【0031】
<セラミック粉末>
使用するセラミック粉末としては、前述したセラミック多孔体10を構成する材料からなる粉末を特に制限なく用いることができる。使用するセラミック粉末の形状(外形)は特に限定されず、球形又はそれに近い形状のみならず、例えばロールミルがけやスタンプミルがけによって調製された不規則形状の粒子の集合物である粉末も好適に使用することができる。焼成時の緻密化(セラミック粒子の移動)を抑制する観点から、不規則形状(例えば針状または板状)のセラミック粉末を好ましく使用し得る。
【0032】
かかるセラミック粉末としては、平均粒径(レーザ散乱法に基づく)が概ね50μm〜200μmのものが適当であり、また平均粒径が50μm〜150μmであるものが好適であり、60μm〜120μmであるものがさらに好ましく、80μm〜100μmであるものが特に好ましい。平均粒径が50μm以上のセラミック粉末を用いることにより、焼成後においても粉末同士の間隙を気孔として有効に残存させることができる。このため、セラミック構造材(例えば工業用砥石)や機能性セラミック(例えば燃料電池用多孔質基材、セラミックフィルター、触媒担体)の用途として好適な孔径の細孔に富むセラミック多孔体を製造することができる。その一方、平均粒径が200μmよりも大きすぎると、製造されるセラミック多孔体の孔径及び気孔率が大きくなりすぎるため、機械的強度及び耐久性が低下傾向になる場合がある。高気孔率化と機械的強度とを両立させる観点では、概ね50μm〜200μm(好ましくは50μm〜100μm)が適当である。上記組成物中に占めるセラミック粉末の割合としては、概ね10質量%〜90質量%であり、好ましくは50質量%〜80質量%である。
【0033】
<有機バインダ>
上記有機バインダは、上記セラミック粉末を結合して形状を保持するためのものであり、該有機バインダを構成する材料自体は、従来公知のセラミック多孔体の製造に用いられるものと同様の材料であり得る。例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂や、メチルメタクリレート等のアクリル系樹脂が使用される。あるいは、ポリビニルブチラール系、ポリビニルアルコール系、アクリル‐スチレン系、ポリプロピレンカーボネート系、セルロース系等の単独重合体または共重合体を用いてもよい。中でも、焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、エチルセルロース等のセルロース系バインダの使用がより好ましい。これらのバインダは一種を用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記組成物中に占めるバインダの割合としては、概ね0.1質量%〜5質量%であり、好ましくは0.5質量%〜1.5質量%である。
【0034】
<非水溶性有機溶剤>
上記非水溶性有機溶剤としては、水に不溶かあるいは難溶であればいずれの有機溶剤を用いても構わないが、上述したセラミック粉末と有機バインダとを良好に分散させて混合できるものであることが好ましい。また、有機溶剤と水との相溶を適切に抑制する観点からは、25℃における水への溶解度が15(g/100ml)以下のものであることが好ましく、10(g/100ml)以下のものであることが特に好ましい。そのような有機溶剤としては、イソブチルアルコール(IBA)、1‐ブタノール、2‐ブタノール、tert‐ブチルアルコール、1‐ペンタノール、2‐ペンタノール、3‐ペンタノール、等の炭素数が4以上(好ましくは4〜10)のアルコール系溶剤が挙げられる。中でもイソブチルアルコール(IBA)の使用が好ましい。あるいは、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ジエチルベンゼン、スチレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶剤、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル系溶剤を使用することもできる。これらの有機溶剤は一種を単独で用いてもよく二種以上を組み合わせて用いてもよい。二種以上を組み合わせて用いる場合は、混合液が単一の連続する相を形成することが好ましい。上記組成物中に占める非水溶性有機溶剤の割合としては、概ね50質量%〜95質量%であり、好ましくは75質量%〜95質量%である。
【0035】
<水の含有量>
本実施形態のセラミック多孔体形成用組成物は、上述したセラミック粉末、有機バインダ、及び非水溶性有機溶剤のほかに、さらに所定量の水を含有する。上記組成物中における水の含有量としては、セラミック粉末とバインダと非水溶性有機溶剤との合計質量に対し、概ね1質量%〜50質量%に相当する量が適当であり、好ましくは5質量%〜50質量%であり、特に好ましくは20質量%〜50質量%である。かかる水含有量の組成物によると、該組成物をセラミック基材に塗工した際、組成物がセラミック基材に馴染みやすくなるため、焼成後に得られたセラミック多孔体のセラミック基材への密着性(アンカー効果等が寄与する接合強度)を向上することができる。水の含有量が少なすぎると、セラミック多孔体とセラミック基材との密着性(アンカー効果等が寄与する接合強度)が不足し、該セラミック多孔体が部分的にセラミック基材から浮き上がったり剥落しやすくなったりすることがある。その一方、水の含有量が多すぎると、有機溶剤と水とが相分離するため、上述した効果が適切に発揮されない場合がある。有機溶剤と水との相分離を抑制する観点からは、水の含有量が概ね50質量%以下であり、好ましくは40質量%以下であり、特に好ましくは25質量%以下である。
【0036】
ここに開示される好ましい一態様では、上記組成物中における非水溶性有機溶剤と水との混合比率は、質量比で有機溶剤:水=95:5〜30:70の範囲が好ましく、90:10〜40:60がより好ましく、80:20〜50:50が特に好ましい。有機溶剤:水=95:5よりも水が少なくなると、水の含有による性能向上効果(セラミック多孔体とセラミック基材との密着性向上効果)が不十分になる場合があり、その一方で、有機溶剤:水=30:70よりも水が多くなると、有機溶剤と水とが相分離するため、上述した効果が適切に発揮されない場合がある。
【0037】
<その他の成分>
上記セラミック多孔体形成用組成物には、本発明の効果を奏する限りにおいて、上述したセラミック粉末、有機バインダ、非水溶性有機溶剤、及び水の他に、一般的なセラミック多孔体の製造において使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。例えば、多孔質構造を安定化させたりする目的のために、種々の焼結助剤、可塑剤及び分散剤等、又は従来公知のいずれの添加剤を適宜添加することができる。
【0038】
<混練>
これらの各種成分の混合(混練)は、ボールミル、ホモディスパー、ジェットミル、超音波分散機、プラネタリーミキサー等の一般的な混練手段を用いて行うことができる。特に限定するものではないが、セラミック粉末と有機バインダと非水溶性有機溶剤と水とを混合する場合、水の添加に先立って、まず、セラミック粉末と有機バインダと非水溶性有機溶剤とを混合し、ボールミル等を用いてよく混練する。次いで、得られた混練物に水を加えて再度混練を行うとよい。このように水を後入れすることにより、セラミック粉末とバインダと水とが均一に分散したセラミック多孔体形成用組成物を調製することができる。好ましくは、上記混練物が白濁化(エマルション化)するように、上記混練条件(混練速度、混練時間など)を設定するとよい。
【0039】
<塗工工程>
このようにしてセラミック多孔体形成用組成物を調製したら、該組成物をセラミック基材の表面に塗工する。上記組成物をセラミック基材の表面に塗工する操作は、従来の一般的な塗工手段やセラミック材の成形手段を特に限定することなく使用することができる。例えば、適当な塗工手段(例えば凹版印刷法)を適用して、上記セラミック基材の一方の面に所定量の上記組成物を均一な厚さにコーティングすることにより塗工され得る。その際、非水溶性有機溶剤と水とを含有させたセラミック多孔体形成用組成物を用いることにより、該組成物をセラミック基材に塗工した際に該組成物がセラミック基材に馴染みやすくなる。そのため、該組成物がセラミック基材の表面上で弾かれることなく、均一な厚さに安定して塗工することができる。他に公知の塗布手段として、メタルマスク印刷法、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、ドクターブレード法、などがあり、これらにも適用することができる。
【0040】
<焼成工程>
このようにして上記組成物をセラミック基材の表面に塗工したら、その塗工物を大気中で焼成して、セラミック基材の表面にセラミック多孔体が接合(一体焼結)されたセラミック接合体を得る(ステップS30)。ここに開示されるセラミック接合体の製造方法では、上記塗工物の焼成は、最高焼成温度が600℃〜900℃となるように行われる。このことによって、セラミック多孔体とセラミック基材とが強固に一体焼結(接合)されたセラミック接合体を得ることができる。したがって、セラミック接合体に所要の耐久性が確保され、セラミック接合体の性能が安定する。
【0041】
上記焼成時の最高焼成温度は、例えば600℃〜900℃(好ましくは600℃〜800℃、より好ましくは600℃〜700℃)の範囲に決定され得る。係る範囲よりも焼成温度が高すぎるか或いは低すぎると、上記特性を満たすセラミック接合体が得られにくくなる。焼成温度(最高焼成温度)を保持する時間は、焼成温度にもよるが、概ね0.5時間〜2時間程度、好ましくは1時間〜1.5時間程度とするとよい。上記範囲よりも保持時間が長すぎると、上記特性を満たすセラミック接合体が得られにくくなる。例えば、所望するサイズよりも平均細孔径が小さくなったり気孔径分布がブロードになったりしがちである。上記焼成を行う雰囲気は、上述した大気雰囲気に限らず、必要に応じて大気より酸素がリッチな酸素雰囲気下、窒素ガス雰囲気下、不活性ガス雰囲気下等とすることができる。
【0042】
このようにして、セラミック多孔体10とセラミック基材20とが一体焼結(接合)されたセラミック接合体30を得ることができる。本実施形態のセラミック接合体製造方法によれば、非水溶性有機溶剤中に所定量の水を含有させたセラミック多孔体形成用組成物を用いることにより、該組成物をセラミック基材20に塗工した際に該組成物がセラミック基材20に馴染みやすくなる。そのため、焼成後に得られたセラミック多孔体10のセラミック基材20への密着性(アンカー効果等が寄与する接合強度)が向上し、セラミック多孔体10がセラミック基材20から浮き上がったり、剥落したりする事態を回避することができる。したがって、本実施形態によると、セラミック多孔体10とセラミック基材20とが剥離し難い、品質安定性に優れた(例えばセラミック多孔体10とセラミック基材20との剥離をより長時間に亘って阻止し得る)セラミック接合体30を安定して容易に製造することができる。
【0043】
なお、本発明を実施する上で、ここに開示される非水溶性有機溶剤中に所定量の水を含有させたセラミック多孔体形成用組成物を用いることにより、セラミック多孔体10とセラミック基材20との密着性(接合強度)が向上する機構について解明する必要はないが、以下のようなことが考えられる。すなわち、セラミック基材20は、その表面の一部が水和して多少なりともOH基を有している。非水溶性有機溶剤中に水分子が存在するセラミック多孔体形成用組成物を上記セラミック基材20の表面に付与すると、該組成物中の水分子がセラミック基材20の表面に存在するOH基と高い親和性を示すため、該組成物がセラミック基材20に馴染みやすくなる。そのため、焼成後に得られたセラミック多孔体10とセラミック基材20との間の密着性が向上し、セラミック多孔体10とセラミック基材20とをより強固に接合できるものと考えられる。
【0044】
ここに開示されるいずれかの製造方法により得られたセラミック接合体30は、セラミック多孔体10とセラミック基材20とを強固に接合できることから、接合部に耐圧性や耐荷重性が要求される用途、例えば、工業用砥石、工業用セラミック型、耐火物、焼成用セッター等のセラミック構造材や、セラミックフィルター、燃料電池用多孔質基材、触媒担体等の機能性セラミックの用途として好適に用いられ得る。従って、本発明の一側面として、セラミック構造材(例えば工業用砥石、工業用セラミック型、耐火物、焼成用セッター等)や機能性セラミック多孔体部材(例えば燃料電池用多孔質基材、セラミックフィルター、触媒担体等)の用途として好適に用いられるセラミック接合体の製造方法及び該方法によって得られたセラミック接合体が提供される。
【0045】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を係る実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0046】
<セラミック接合体の作製及び評価>
[サンプル1]
バインダとしてのエチルセルロース(EC)と、非水溶性有機溶剤としてのイソブチルアルコール(IBA)とを9:91の質量比で混合したビヒクルに、平均粒径55μmのシリカ粉末(セラミック粉末)を、シリカ粉末とビヒクルとの質量比が15:5となるように添加して混練した。この混練物に、所定量の水添加し、再度混練することによりセラミック多孔体形成用組成物を調製した。該組成物中における水の含有量は、ECとIBAとシリカ粉末との合計質量に対して(すなわち外添加で)5質量%とした。得られたセラミック多孔体形成用組成物を、セラミック基材(平均細孔径0.1μm、厚み約0.5mmの多孔質アルミナ基材を使用した。)の表面上に凹版印刷して、厚み約100μmの塗工物(薄膜)を形成した。その塗工物を大気中、約600℃で焼成することにより、セラミック基材上にセラミック多孔体が一体焼結(接合)されたセラミック接合体を得た。
【0047】
[サンプル2〜5]
上記組成物中における水の含有量を、外添加で25質量%(サンプル2)、50質量%(サンプル3)、75質量%(サンプル4)、0質量%(サンプル5;水の添加なし)としたこと以外はサンプル1と同様にしてセラミック接合体を作製した。
【0048】
[サンプル6]
上記組成物において、水の代わりにテルピネオールを添加したこと以外はサンプル1と同様にしてセラミック接合体を作製した。
【0049】
[サンプル7]
上記組成物において、水の代わりにエチルカルビトールを添加したこと以外はサンプル1と同様にしてセラミック接合体を作製した。
【0050】
上記得られた各サンプルのセラミック接合体について、セラミック基材からセラミック多孔体を引き剥がした。そして、セラミック多孔体の剥がした面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察し、接合面の状態に応じて「接合状態」を評価した。結果を表1に示す。表1では、セラミック多孔体がセラミック基材から綺麗に剥がれず、凹凸な接合面が観察されたものを接合状態が良好(○)とし、セラミック多孔体がセラミック基材から綺麗に剥がれ、平滑な接合面が観察されたものを接合状態が不良(×)と表記した。サンプル2,5,6の接合面の表面SEM像を図3〜5に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1、図3〜図5の結果から明らかなように、組成物中に水を添加しなかったサンプル5〜7のセラミック接合体は、セラミック多孔体がセラミック基材から綺麗に剥がれたため、平滑な接合面が観察された。これに対し、組成物中に水を添加したサンプル1〜3のセラミック接合体は、セラミック多孔体がセラミック基材から綺麗に剥がれず、凹凸な接合面が観察された。このことから、組成物中に水を添加することにより、セラミック多孔体とセラミック基材との接合強度が向上することが確認できた。なお、組成物中に水を添加したものの、水の含有量を75質量%とした例4のセラミック多孔体は、水とIBAとが相分離してしまい、製造に不適であった。相分離を抑制する観点からは、組成物中の水の含有量を50質量%以下(好ましくは25質量%以下)にすることが望ましい。
【0053】
以上の結果から、本試験例によると、非水溶性有機溶剤中に水を含有させたセラミック多孔体形成用組成物を用いることによって、セラミック多孔体とセラミック基材との接合強度を向上することができた。そのため、本構成によると、セラミック多孔体とセラミック基材とが剥離し難い、品質安定性に優れたセラミック接合体を実現することができる。
【0054】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 セラミック多孔体
20 セラミック基材
30 セラミック接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック基材の表面に塗工して用いられるセラミック多孔体形成用組成物であって、
少なくともセラミック粉末と有機バインダと非水溶性有機溶剤と水とを含有しており、
前記水の含有量が、前記セラミック粉末と前記バインダと前記非水溶性有機溶剤との合計質量に対して1質量%〜50質量%に相当する量である、セラミック多孔体形成用組成物。
【請求項2】
前記水の含有量が、前記セラミック粒子と前記バインダと前記非水溶性有機溶剤との合計質量に対して5質量%〜25質量%に相当する量である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記非水溶性有機溶剤と前記水との混合比率は、質量比で有機溶剤:水=95:5〜30:70である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記セラミック粉末のレーザ散乱法に基づく平均粒径が、50μm〜200μmである、請求項1〜3の何れか一つに記載の組成物。
【請求項5】
前記非水溶性有機溶剤が、アルコール系溶剤である、請求項1〜4の何れか一つに記載の組成物。
【請求項6】
前記セラミック粉末が、アルミナまたはシリカを主体として構成されている、請求項1〜5の何れか一つに記載の組成物。
【請求項7】
セラミック基材の表面にセラミック多孔体が接合されたセラミック接合体を製造する方法であって、
少なくともセラミック粉末と有機バインダと非水溶性有機溶剤と水とを含有しているセラミック多孔体形成用組成物を調製すること、ここで、該組成物中における水の含有量は前記セラミック粉末と前記バインダと前記非水溶性有機溶剤との合計質量に対して1質量%〜50質量%に相当する量である;
該組成物をセラミック基材の表面に塗工すること;及び、
その塗工物を焼成して前記セラミック基材の表面にセラミック多孔体が接合されたセラミック接合体を得ること;
を包含する、セラミック接合体の製造方法。
【請求項8】
前記セラミック多孔体の水銀圧入法に基づく平均細孔径が、50μm〜200μmである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記セラミック基材は、緻密質または前記セラミック多孔体より平均細孔径が相対的に小さい多孔質セラミック基材である、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記セラミック多孔体の厚さが、100μm以上である、請求項7〜9の何れか一つに記載の製造方法。
【請求項11】
前記組成物の塗工は、凹版印刷により行われる、請求項7〜10の何れか一つに記載の製造方法。
【請求項12】
前記塗工物の焼成は、最高焼成温度が600℃〜900℃となるように行われる、請求項7〜11の何れか一つに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−87034(P2013−87034A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231126(P2011−231126)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】