説明

セラミック粒子を含むコーティング組成物

【課題】腐食保護のための金属器具、特に航空機用コーティング組成物。
【解決手段】セラミック粒子を含むコーティング組成物であって、上記粒子が各粒子全体に実質的に均一に分布した少なくとも一つのリリース可能な活性物質を有し、この活性材料の少なくとも一つが腐食防止剤であることを特徴とするコーティング組成物。腐食に対する金属機器の保護での上記コーティング組成物の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーティング組成物、特に金属器具のための被覆組成物に関するものである。本発明は特に航空機のためのコーティング組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機の構造物は一般に金属、特にアルミニウム合金から成る。現在の航空機の塗装システムは防蝕および環境保護、装飾、カモフラージュ、そして優れた機械的接着性を組み合わせたニーズに対応するものである。代表的な塗装系は3層から成っている。
【0003】
その底部層は陽極処理層または変換被覆膜である。この底部層は基本的に無機マトリックスを用いて形成され、防食性を与え、航空機の構造体および中間層である金属機材との間の接着性を改善する。
【0004】
中央層(プライマーともとばれる)は顔料を含む有機樹脂マトリックスを含む。このプライマーが主として航空機の構造体に防食性を与える。
【0005】
最近、ハイブリッドの有機-無機コーティング、特にプライマーに開発が集中している。このハイブリッドコーティングはゾル-ゲル法をベースにしている。この方法は低温で薄いコーティングを作るのに適し、大部分の金属基材に容易に適用できる。ゾル-ゲルコートは腐食に対して有効なパッシブ保護を提供する。この種のゾル-ゲルコートは例えば特許文献1、2に記載されている。
【0006】
プライマーの上には一般にトップコーティングが付けられる。このトップコーティングは耐環境性に対する主たる保護バリヤーの役目をし、航空機に装飾性とカモフラージュ性を与える。トップコーティングは一般にポリウレタン/ポリオール樹脂を使用して形成される。
【0007】
航空機の構造を形成しているアルミニウム合金には水、酸素および/または水素が存在すると腐食反応が起こる。この合金が腐食すると航空機の構造体に重大な損傷が生じる。
【0008】
これを防ぐために使われる戦略は2つある。最初の戦略はパッシブ保護で、これはカソード反応を抑制するバリヤー・コーティングを使用して、アルミニウム表面への侵食物、例えば水や酸素の拡散を制限する。
【0009】
第2の戦略はアクティブ防食である。例えば系中に腐食防止剤を入れて、活性腐食サイトを還元する。この還元生成物は不溶解性の酸化物コーティングの沈殿で、これが水、酸素または電解液の浸透に対するバリヤーを与える。
しかし、これらの戦略を組み合わせただけは電解液や湿った環境に絶えず接触している金属構造体を長期にわたって信頼性良く防食することはできない。
【0010】
六価クロムまたはクロメイトCr(VI)は酸化性が強いので現在のところアルミニウム合金の腐食抑制で最も効果的な方法である。しかし、この強い酸化性で環境に安全でない六価クロムも作られる。この化合物は発癌性があるということは知られている。
【0011】
従って、現在のコーティング組成物のさび止め性および/または保護性を維持したまま、毒性の低いコーティング組成物を提供する必要がある。
【0012】
毒性化合物が環境と接触するのを避けるためにそれをカプセル化した形で組成物中に導入するということは公知である。
【0013】
腐食防止剤の毒性を避ける他の方法は、クロメイトを含まないインヒビター(抑制剤)を使用することである。すなわち、一体性(integrity)を失わず、しかも、組成物の固有特性を維持したまま、所定のコーティング組成物中に一種または複数のインヒビターを導入しなければならない。そうした組成物は無機物、例えば変換 (conversion) コーティングにすることができ、また、有機/無機ハイブリッド組成物、例えばゾル-ゲルコートでもよい。さらに、有機組成物、例えばプライマーまたはペイントでもよい。
【0014】
しかし、コーティング組成物中に腐食防止剤を高レベルで直接添加すると、特にゾル-ゲルコートでは、得られたコーティングに有害な特性が生じる。
【0015】
この問題を克服するための1つの方法は放出性または徐放性(releasable)のカプセル化腐食防止剤を使用することである。このインヒビターが塗料から出るとコーティングの全体的機械的一体性が改善される。特許文献3(米国特許第US 6 933 046号明細書)にはアルミニウム・オキシ水酸化物表面を粒子に化学的にアンカーする腐食防止剤が記載されている。
【0016】
しかし、金属器具が腐食条件下に置かれた時に、充分な量のインヒビターを放出するように腐食防止剤のリリースを制御することと難しい。特許文献3では腐食防止剤のリリースはpHが高くなることでトリガーされるが、これはアルミニウム合金の一般的腐食条件に対応していない。
【0017】
コーティングを機材上に頻繁に塗布する必要性を避けるためには、金属機器の使用寿命の間、腐食防止剤のリリースが持続しなければならない。しかし、特許文献3に記載の粒子の表面アンカー方法ではインヒビターは低レベルに限られる。しかも、粒子表面上に有機インヒビターをアンカーすると、粒子表面がさらに疎水性になる。これは、コーティングに有機インヒビターを直接塗布した場合と同じように、コーティング構造に有害なことである。
【0018】
非特許文献1(M.L. Zheludkevich et al. (Chemistry of Materials, 2007, 19, 402-411)には、高分子電解質層で被覆されたシリカ粒子を腐食防止剤のコーティング中に入れることが記載されている。この方法では空の粒子を製造し、後でインヒビターを充填する必要がある。その結果、リリース速度は吸着速度と同じになり、インヒビターの溶解性のみで制御されることになる。さらに、カプセル化インヒビターのレベルが低く、充填後でも、粒子表面上に常にフリーなインヒビターが残り、これがコーティングに作用する。
【0019】
さらに、カプセル粒子が組成物のフォームレション(調整、製造)中に十分な機械特性、破断抵抗性を有することが重要である。ペイントのような組成物はグラインド(磨耗)段階または混合階段を有する。上記粒子はこの種の機械特性がないので、上記組成物中に入れるのは不適当である。
【0020】
セラミック粒子、特にシリカ粒子中に活性分子をカプセルし、そのリリースを制御することは公知である。この種のセラミック粒子は特に特許文献4(国際特許第WO2001/62232号公報)および特許文献5(国際特許第WO2006/133519号公報)に記載されている。この粒子には各種の活性分子、例えば腫瘍薬、化粧材料、栄養補給材料(neutraceuticals)、生物致死剤および工業的酵素が組み入れられてきた。この方法を用いるとリリース可能な化合物を多量にカプセル化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第US 5 939 197号明細書
【特許文献2】米国特許第US 6 579 472号明細書
【特許文献3】米国特許第US 6 933 046号明細書
【特許文献4】国際特許第WO2001/62232号公報
【特許文献5】国際特許第WO2006/133519号公報
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】M.L. Zheludkevich et al. (Chemistry of Materials, 2007, 19, 402-411)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は腐食防止剤をカプセル化するための上記セラミック粒子の使用と、上記粒子のコーティング組成物での使用と、腐食防止剤の制御されたリリースとに関するものである。
【0024】
上記セラミック粒子には広範囲の無機および有機の腐食防止剤を入れることが可能であるということが分かった。
【0025】
腐食防止剤のリリースは水の存在下でトリガーする(誘発させる)ことができる。腐食条件の一つは水の存在であるので、腐食防止剤を必要に応じてリリースできるという利点がある。セラミック粒子は腐食防止剤を長期間持続してリリースさせることができる。従って、本発明は自然治癒(self-healing)性を有するコーティング組成物を提供する。
【0026】
本発明のセラミック粒子は剛体の球である。その機械的抵抗力はペイントのようなコーティングの製造条件に十分に耐えることができる。
【課題を解決するための手段】
【0027】
一つの観点から、本発明は各粒子の全体にわたって実質的に均一に分布した少なくとも一つのリリース可能な活性物質を有するセラミック粒子に関するものであり、活性物質の少なくとも一つが腐食防止剤である点に特徴がある。
【0028】
均一に分布しているので、研摩を含む製造階段の後でもインヒビターを比較的安定にリリースすることができる。これとは逆に、上記の従来法のカプセル、その他のコア−シェル粒子ではシェルが引き裂かれるとその内容物が即座にリリースされる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例での、破損部を含む塗装系で被覆された金属基材の概念的断面図。
【図2】ゾル−ゲルプロセスの代表的な反応スキーム。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の好ましい実施例では、腐食防止剤は無機化合物、好ましくはセリウム塩またはモリブデン塩またはこれらの混合物である。本発明の好ましい実施例では腐食防止剤はCe(NO33、Ce2(SO43、Ce(CH3CO23、Ce2(MoO43、Na2MoO4およびこれらの混合物から成る群の中から選択される。
【0031】
本発明の好ましい実施例では、腐食防止剤は有機または有機金属化合物である。本発明のより好ましい実施例では、腐食防止剤はベンゾトリアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、8-ヒドロキシキノリン、10-メチルフェノチアジン、セリウム(III)サリチラート、セリウム(III)2,4-ペンタンジオナートおよびこれらの誘導体およびこれらの混合物から成る群の中から選択される。
【0032】
本発明の好ましい実施例では、セラミック粒子はシリカ、オルガノ−シリカ、ジルコニア、アルミナおよびチタニアから成る群の中から選択される酸化物から成る。セラミック粒子はシリカまたはオルガノ−シリカが好ましい。
【0033】
本発明の好ましい実施例では、セラミック粒子は腐食防止剤の0.1〜45%w/wから成る。
【0034】
本発明の好ましい実施例では、セラミック粒子はゾル-ゲルプロセスを使用して製造される。
【0035】
本発明の好ましい実施例では、セラミック粒子の平均寸法は10nm〜100μmの間にある。本発明の好ましい実施例ではセラミック粒子からの腐食防止剤のリリースは水の存在下でトリガーされる(引き起こされる)。
【0036】
別の態様から、本発明は、各粒子の全体に実質的に均一に分布した少なくとも一つのリリース可能な活性物質を有するセラミック粒子を含む金属機器、特に航空機用コーティング組成物に関するものである。
【0037】
上記活性物質は腐食防止剤にすることができる。しかし、セラミック粒子はコーティング組成物中に他のリリース可能な原料を含むことができる。セラミック粒子はコーティング組成物中に汚染防止用生物致死剤を含むことができる。この種の生物致死剤を含むセラミック粒子は特許文献6に記載されている。
【0038】
本発明の好ましい実施例では、各粒子全体にわたって分布した活性材料の少なくとも一つが腐食防止剤である。本発明のより好ましい実施例のセラミック粒子は上記に記載のものである。
【0039】
本発明組成物はモノ−成分またはポリ-成分にすることができる。この組成物は水ベースまたは有機溶剤ベースのものにすることができる。
【0040】
本発明の好ましい実施例ではコーティング組成物はハイブリッド有機/無機ゾル-ゲルコートである。このコーティング組成物はエポキシ・シランの中から選択される少なくとも一つの有機化合物および/またはジルコニウムアルコキシドの中から選択される少なくとも一つの無機化合物を含むのが好ましい。
【0041】
本発明の好ましい実施例ではコーティング組成物は有機の樹脂を含む。有機の樹脂は、エポキシ、ポリウレタン、ポリアミン、ビニル、ニトロ、ビニル、アクリル、ニトロ−アクリル、ビニル−アクリル、フェノール、アミノアクリレート、イソシアネート、ポリエステル、シリコーン、ポリアミド、アルキッド、塩素化樹脂およびこれらの混合物から成る群の中から選択するのが好ましい。
【0042】
本発明の好ましい実施例ではコーティング組成物は無機マトリックスを用いて形成される。
【0043】
本発明の好ましい実施例ではコーティング組成物は有毒量の六価クロムを含まない。より詳しくは、本発明の好ましい実施例では、コーティング組成物の六価クロムの含有量は0.01%w/w以下である。
【0044】
本発明の別の態様は上記コーティング組成物の金属機器を腐食から保護するための使用にある。
【0045】
本発明は添付図面を参照した下記実施例の説明からより良く理解できよう。しかし、下記実施例は例示であって、本発明の範囲を制限するものではない。
【0046】
本発明の目的は金属機器、特に航空機の構造を腐食から防ぐことにある。航空機の構造は一般にアルミニウム合金で作られる。
【0047】
[図1]は航空機の構造の一部である金属基材1を示している。この基材1はアルミニウム合金から作られている。基材1はプライマー2で被覆されている。[図1]に示す実施例ではプライマー2はハイブリッド有機/無機ゾル-ゲルコートである。このハイブリッドを使用することで、無機の底部層、例えば陽極処理層またはコンバーション皮膜を使用せずに、金属基材1へプライマー2の接着性は十分良好である。
【0048】
プライマー2はトップコーティング3、例えば有機マトリックスを有するペイントで被覆されている。
【0049】
塗装系に破損部4が生じた場合には、基材1のアルミニウム合金が環境条件と接触し、それによって腐食が誘導される。
【0050】
銅または亜鉛とのアルミニウム合金系の腐食を支配する主たる電気化学反応は下記で表される:
Al−>Al3++3e- (I)
4e-+O2+2H2O−>4OH- (II)
2H++2e−>H2(g) (III)
【0051】
アルミニウム合金と水および酸素または水素との接触で陽極サイト(アルミニウム)と陰極サイト(銅または亜鉛介在物)との間のガルバニ電池の生成が完成し、金属酸化が起こる。
【0052】
腐食を防ぐために自己治癒性すなわち防食性を有するプライマー2を使用することは公知である。
【0053】
六価クロムは有効な腐食防止剤であり、従来法では広く使用されている。特にクロム酸ストロンチウム(SrCr04)またはジンククロメート(H2CrO4Zn)顔料の形でコーティング組成物中に入れられる。これらの顔料は水に可溶であり、それによってCr6+イオンは活性腐食サイトに迅速に拡散できる。Cr6+の強い酸化力でそれはCr3+へ直ぐに還元され、対応するオキソ-水酸化物のパッシベーティブな不溶性沈殿層が形成される。
【0054】
しかし、Cr6+のこの酸化性が極めて有毒であり、発癌性がある。
【0055】
本発明の狙いの一つは、公知のコーティング組成物のさび止め性および/または保護性を維持したまま、コーティング組成物の毒性を下げることにある。
【0056】
その一つの解決策は、六価クロムより有毒でなく、しかも、それと同じ条件、特に同じパワー、長期的挙動および動度を有する腐食防止剤を使用することである。そうした特性を有するいくつかのインヒビターが知られている。そのいくつかは無機のインヒビターで、例えば希土類または第V族元素を含む。そのいくつかは有機のインヒビターは、例えばアゾールおよびキノン類である。無機のインヒビターと有機のインヒビターは異なる耐食機構を有する。
【0057】
コーティング組成物には所定のインヒビターを入れなければならない。腐食防止剤と組成物のマトリックスとが直接接触し、化学反応してマトリックス構造を劣化させるということは知られている。
【0058】
本発明が解決しようとする課題はセラミック粒子5中に腐食防止剤を均一に分布させることである。[図1]に示した例では粒子5はプライマー2中に入れてあるが、それをトップコーティング3に入れてもよい。
【0059】
セラミック粒子5は多孔性体である。その気孔6中に活性物質、例えば一種または複数の腐食防止剤が含まれる。一つの粒子が一種の腐食防止剤または少なくとも2種の腐食防止剤の混合物を含むことができる。
【0060】
この活性物質は、液体、例えば水の存在下で液体が溶解して気孔からリリース(開放)される。そのリリース速度は気孔6の寸法と活性物質の種類、特に活性物質の液体中での溶解度に依存する。
【0061】
通常の航空機の使用条件下では、基材1の腐食は水7の存在下で水7が基材1と接触した時にのみ起こるが、本発明では、水が存在すると粒子5の気孔6からの腐食防止剤のリリース8が誘発される。
【0062】
すなわち、本発明では腐食条件が腐食防止剤のリリースをトリガー(誘発)する。この特性によって本発明は非常に有効な自己治癒性の耐食塗装系を作ることができる。
【0063】
さらに、腐食防止剤は水中に拡散してリリースされるという利点がある。これに対して、従来の粒子では機械的な破壊によって活性物質が粒子からリリースされる。従って、クラックの場合には亀裂部分の粒子だけを介して活性物質がリリースされる。
【0064】
それとは逆に、本発明では亀裂部分の粒子10だけでなく亀裂の近傍の粒子9からも腐食防止剤がリリースされる。従って、従来法よりも多量の活性物質をリリースでき、防食効率が改善される。
【0065】
腐食防止剤のリリース速度を調整するために複数のインヒビターを含むコーティング組成物を使用するができる。
【0066】
水に対する溶解度が異なる複数のインヒビターを使用するのが特に重要である。水に難溶な成分のリリースは水に可溶な成分のリリースより低速で、長期間にわたる。例えば有機と無機の腐食防止剤の混合物を使用するのが有利である。
【0067】
本発明のコーティング組成物は異なる種類のセラミック粒子を含むことができ、各セラミック粒子が異なる種類のインヒビターを含むことができる。また、本発明のコーティング組成物はインヒビターの混合物を含む粒子を含むことができる。
【0068】
本発明の好ましい実施例では、無機の腐食防止剤がセリウム塩および/またはモリブデン塩である。本発明のより好ましい実施例では無機の腐食防止剤はCe(NO3)3、Ce2(SO4)3、Ce(CH3CO2)3、Ce2(MoO4)3、Na2MoO4およびこれらの混合物から成る群の中から選択される。
【0069】
本発明の好ましい実施例では、有機の腐食防止剤がベンジトリアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、8-ヒドロキシキノリン、10 メチルフェノチアジンおよびこれらの誘導体およびこれらの混合物から成る群の中から選択される。
【0070】
本発明の他の好ましい実施例では、腐食防止剤は有機金属化合物、特にオルガノセリウム(organoceric)化合物である。本発明のより好ましい実施例では有機金属系腐食防止剤はセリウム(III)サリチラート、セリウム(III)2,4-ペンタンジオナートまたはセリウムアセチルアセトネートおよびこれらの混合物から成る群の中から選択される。
【0071】
本発明のセラミック粒子を製造するのに適したプロセスはインヒビターの種類に依存する。水に可溶なインヒビター、例えば硝酸セリウムの場合のカプセル化方法はエマルションの水プール中に水可溶なインヒビターを溶かして油中水型のエマルジョンを製造する工程を含む。この階段の後にセラミックの先駆体を添加する。セラミックの先駆体は水滴中に移行し、加水分解する。次いで、極性溶媒を添加してエマルションを非安定化し、内部にインヒビターがカプセル化されて含むサブミクロンのミクロポーラス粒子となる。このプロセスは下記特許文献6に記載されている。
【特許文献6】国際特許第WO2006/05057号公報
【0072】
水に非可溶性のインヒビター、例えば8-ヒドロキシキノリの場合のカプセル化方法は油滴中にインヒビターを溶かして油−水乳濁液を作る工程を含む。このエマルションに疎水性の先駆体、例えばアルコキシシラン、特にトリアルコキシシランを加える。その後に、触媒、一般にはアミノシランを添加して他の先駆体を触媒縮合させて、サブミクロンのミクロポーラス粒子を製造する。この種のプロセスは特許文献5(国際特許第WO2006/05057号公報)に記載されている。
【0073】
特許文献4〜6に記載の通り、これらのプロセスでは異なる活性物質、例えば生物致死剤をセラミック粒子に入れることができる。得られたセラミック粒子は本発明のコーティング組成物に入れることができる。
【0074】
本発明の好ましい実施例ではセラミック粒子はゾル-ゲル法を用いて製造される。ゾル−ゲル法は適当な先駆体、例えばアルコキシドを加水解離し、縮合(コンデンセイション)することをベースにしたものである。代表的な反応スキームは[図2]に示してある。
【0075】
本発明の好ましい実施例では、セラミック粒子はシリカ、オルガノ−シリカ、ジルコニア、アルミナおよびチタニアから成る群の中から選択される酸化物から成る。好ましいセラミック粒子、シリカまたはオルガノ−シリカから成る。
【0076】
本発明のセラミック粒子は無機のマトリックスまたはハイブリッド有機/
無機マトリックスを用いたときと同様に、有機マトリックスと相溶するので、本発明のセラミック粒子は数種類のコーティング組成物に容易に組み込むことができる。
【0077】
コーティング組成物中にセラミック粒子を取込む利点は、防食性以外に、粒子の強度によって組成物の引掻き抵抗性を増加させることにある。さらに、粒子の機械的抵抗性があるので、研磨または混合工程を含むペイント製造工程の力に耐えることができる。
【0078】
セラミック粒子の寸法は調整できる。例えば、水に可溶なインヒビターを含むプロセスの場合、粒子の寸法は界面活性剤/極性溶媒比を変えることで調整できる。界面活性剤は上記油中水型のエマルジョンの一部である。従って、粒子の寸法は異なる厚さに合わせることができる。本発明の好ましい実施例では、セラミック粒子の平均直径は10nm〜100μmの間である。
【0079】
また、腐食防止剤のリリース速度を制御するために、気孔6の寸法を調整することもできる。気孔の寸法はプロセスで使用するゾル-ゲル化学に関連する製造パラメータ、例えば先駆体/水モル比、ゾル-ゲル反応で使用する触媒、pH等に依存する。
【0080】
本発明の好ましい実施例では、セラミック粒子は腐食防止剤の0.1〜45%w/wから成る。コーティング組成物に長期間持続する防食性を与えるためは、コーティング組成物中に多量の粒子を入れる必要がある。
【0081】
また、マトリックスを不安定にせずにセラミック粒子を高濃度で充填した、コーティング組成物を製造することもできる。例えば、本発明のコーティング組成物はセラミック粒子を50%w/w含むことができる。
【0082】
本発明のコーティング組成物に一種または複数のフリーな(遊離した)腐食防止剤を組み入れることもできる。ただし、フリーな腐食防止剤を入れることでマトリックスのグレードが下がってはならない。このフリーなインヒビターは、カプセル化したインヒビターの長期にわたる耐食効果に加えて、即座の耐食効果を与える。
【0083】
本発明の組成物の例はペイント、ゾル-ゲルコート、ニス、ラッカーまたはシーラントである。また、本発明の組成物は接着フィルムのような保護フィルムを作るのにも使用できる。
【0084】
本発明のコーティング組成物は従来技術、例えば吹付け法または浸漬塗装法で金属基材、例えばアルミニウム合金に塗布できる。
以下、本発明のいくらかの実施例を示す。
【実施例】
【0085】
実施例I
有機−無機ゾル−ゲルマトリックスの合成
48gの氷酢酸を撹拌下にジルコニウム(IV)パーオキサイド溶液(105g、1-プロパノール中70%)に加えた。脱イオン水(602g)を低速で加えた後、均一になるまで溶液を攪拌した(1時間)。それから245gの3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)を加え、溶液をさらに1時間攪拌する。得られた溶液を以下の実施例では「ゾル-ゲルマトリックス溶液」とよび、代表的コーティング溶液として使用する。
【0086】
実施例II
腐食防止剤を含むゾル-ゲル粒子の合成
実施例11.1
無機インヒビターのカプセル化
界面活性剤NP-5(160mmol)と、シクロヘキサン(800mL)とを混合して界面活性剤溶液を調製した。17.28mLのCe(NO3)3の水溶液(Ce3+が80mg/mL)を上記界面活性剤溶液に加え、30分間攪拌して透明な油中水型ミクナエマルジョンを作る。このミクナエマルジョンにテトラメチルオルトシリケート(144mmol、TMOS)を加え、10分間攪拌してから、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(3.6mmol、APTES)を加える。30℃で一晩(16〜24時間)合成した。温度を20℃に下げ、混合物に960mLのアセトンを加え、30分間攪拌してエマルションを不安定化させた。次いで、混合物を5000回転数/分で25分間遠心分離し、上澄みを分離し、粒子を回収した。それから、次の工程の要求に従って、粒子を凍結乾燥するか濃縮スラリー中に懸濁させた。
【0087】
実施例11.2
有機インヒビターのカプセル化
100gの有機インヒビター8-ヒドロキシキノリン(8HQ)を65mLのTHFに溶かし、それに800mmolのフェニルトリメトキシシラン(PTMS)を加えた。次いで、溶液を均一な界面活性剤水溶液(4リットルの水中に378のg NP-9)と混合した。30分間攪拌した後、この油-水乳濁液中に加水分解したAPTES溶液(480mmol APTESと116mLの水とを混合し製造)を加えた。20℃で一晩(16〜22時間)エージングしてフェニルシロキサンの粒子を形成した。エージング後、系を水(1:1v/v)で希釈し、8500回転数/分で25分間遠心分離して粒子は集めた。上澄みを沈殿分離し、粒子を回収した。それから、次の工程の要求に従って、粒子を凍結乾燥するか濃縮スラリー中に再懸濁させた。
同様なプロセスを2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)のカプセル化で用いた。
【0088】
実施例III
有機−無機ゾル-ゲルマトリックス中へのセラミック粒子の導入
セラミック粒子はスラリーまたは水-分散サスペンションの形でゾル-ゲルマトリックス中に組み入れた。以下の実施例では[表1]に記載の種々のセラミック粒子を組み入れ製造した。
【0089】
【表1】

【0090】
実施例III.1
12gの調整物A1を140gの実施例Iのゾル-ゲルマトリックス溶液と混合した。得られたサスペンションは15分間攪拌した。オレンジ色の均質な安定したサスペンションが得られた。
このサスペンションを通常の方法で製造したアルミニウム合金2024T3の表面上に塗布した。塗布は浸漬塗装(dip coating)によって10〜50cm/分の引出し速度、特に20〜40 cm/分の引出し速度で行った。
熱硬化は70℃〜210℃の間で実施できるが、熱硬化は100℃〜140℃で実施した。キュア時間は温度に依存し、10分から10時間である。得られたコーティングはわずかに黄色をした2〜1μmの均一な厚さ、特に5〜10μmの厚さを有する。この厚さは製造パラメータに依存する。
【0091】
実施例III.2
20gの調整物B2を140gの実施例Iのゾル-ゲルマトリックス溶液と混合した。得られたサスペンションを15分間攪拌すると、淡い色の均質な安定したサスペンションが得られた。このサスペンションを通常の方法で製造したアルミニウム合金2024T3の表面上に塗布した。塗布は浸漬塗装(dip coating)によって10〜50cm/分の引出し速度、特に20〜40 cm/分の引出し速度で行った。
熱硬化は実施例III.1と同じように実施した。得られたコーティングは透明で、2〜14μmの均一な厚さ、特に5〜10μmの厚さを有する。この厚さは製造パラメータに依存する。
【0092】
実施例III.3
18gの調整物A2と77.5gの調整物B2とを140gの実施例Iのゾル-ゲルマトリックス溶液と混合した。このサスペンションを15分間攪拌して、白色の均質な安定したサスペンションが得られた。このサスペンションを通常の方法で製造したアルミニウム合金2024T3の表面上に塗布した。塗布は浸漬塗装(dip coating)によって10〜50cm/分の引出し速度、特に20〜40 cm/分の引出し速度で行った。
熱硬化は実施例III.1と同じように実施した。得られたコーティングは黄色で、5〜20μmの均一な厚さ、特に10〜15μmの厚さを有する。この厚さは製造パラメータに依存する。
【0093】
実施例III.4
103.3 gの調整物B1と38gの調整物Cとを140gの実施例Iのゾル-ゲルマトリックス溶液と混合した。このサスペンションを15分間攪拌すると白色の均一な安定したサスペンションが得られた。このサスペンションを通常の方法で製造したアルミニウム合金2024T3の表面上に塗布した。塗布は浸漬塗装(dip coating)によって10〜50cm/分の引出し速度、特に20〜40 cm/分の引出し速度で行った。
熱硬化は実施例III.1と同じように実施した。得られたコーティングは透明で、5〜25μmの均一な厚さ、特に15〜20μmの厚さを有する。この厚さは製造パラメータに依存する。
【0094】
実施例III.5
12.5 gの調整物A1と、51.7gの調整物B1と、45.8gの調整物Cと140gの実施例Iのゾル-ゲルマトリックス溶液と混合した。このサスペンションを15分間攪拌すると黄色の均一な安定したサスペンションが得られた。このサスペンションを通常の方法で製造したアルミニウム合金2024T3の表面上に塗布した。塗布は浸漬塗装(dip coating)によって10〜50cm/分の引出し速度、特に20〜40 cm/分の引出し速度で行った。
熱硬化は実施例III.1と同じように実施した。得られたコーティングは黄色で、2〜15μmの均一な厚さ、特に5〜10μmの厚さを有する。この厚さは製造パラメータに依存する。
【0095】
実施例IV
性能試験
実施例IV.1
接着テスト(ISO2409)
実施例III.1、III.2、III.3、III.4およびIII.5で得られたコーティングに対してISO2409の接着試験を行った。接着は満足できるものであった。
実施例IV.2
中性塩水スプレーテスト(ISO9227)
実施例III.1、III.2、III.3、III.4およびIII.5のコーティングに対してISO9227(336h)の塩水噴霧試験を行った。全てのコーティングがバリヤー効果および自己治癒性を満足させた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粒子を含むコーティング組成物であって、上記粒子が各粒子全体に実質的に均一に分布した少なくとも一つのリリース可能な活性物質を有することを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
上記活性材料の少なくとも一つが腐食防止剤である請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
腐食防止剤が無機化合物である請求項2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
腐食防止剤がセリウム塩および/またはモリブデン塩である請求項3に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
腐食防止剤がCe(NO33、Ce2(SO43、Ce(CH3CO23、Ce2(MoO43、Na2MoO4およびこれらの混合物から成る群の中から選択される請求項4に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
腐食防止剤が有機化合物または有機金属化合物である請求項2〜5のいずれか一項に記載のーティング組成物。
【請求項7】
腐食防止剤がベンジトリアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、8-ヒドロキシキノリン、10-メチルフェノチアジン、セリウム(III)サリチラート、セリウム(III)2,4-ペンタンジオナート、これらの誘導体およびこれらの混合物から成る群の中から選択される請求項6に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
セラミック粒子がシリカ、オルガノ−シリカ、ジルコニア、アルミナおよびチタニアから成る群の中から選択される酸化物から成る請求項1〜7のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
セラミック粒子がシリカまたはオルガノ-シリカから成る請求項8に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
セラミック粒子が腐食防止剤の0.1〜45 w/w%である請求項2〜9のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
セラミック粒子からの腐食防止剤のリリースが水の存在下で引き起こされる請求項1〜10のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
ハイブリッド有機/無機ゾル-ゲルコートである請求項1〜11のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項13】
エポキシシラン誘導体の中から選択される少なくとも一つの有機化合物を含む請求項12に記載のコーティング組成物。
【請求項14】
少なくともジルコニウムアルコキシドの中から選択される無機化合物を含む請求項12または13に記載のコーティング組成物。
【請求項15】
有機樹脂を含む請求項1〜1つのいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項16】
有機樹脂がエポキシ、ポリウレタン、ポリアミン、ビニル、ニトロ−ビニル、アクリル、ニトロ−アクリル、ビニル-アクリル、フェノール、アミノアクリレート、イソシアネート、ポリエステル、シリコーン、ポリアミド、アルキッドアルキッド、塩素化樹脂およびこれらの混合物から成る群の中から選択される請求項15に記載のコーティング組成物。
【請求項17】
無機マトリックスを使用して形成される請求項1〜10のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項18】
有毒量の六価クロムを含まない請求項1〜17のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項19】
ペイント、ゾル-ゲルコート、ニス、ラッカーおよびシーラントから成る群の中から選択される請求項1〜18のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか一項に記載のコーティング組成物から得られる保護皮膜。
【請求項21】
請求項1〜19のいずれか一項に記載のコーティング組成物の、腐食に対する金属機器の保護での使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−528942(P2012−528942A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513642(P2012−513642)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058239
【国際公開番号】WO2010/146001
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(510022510)ヨーロピアン・アエロノーティック・ディフェンス・アンド・スペース・カンパニー・イーデス・フランス (7)
【出願人】(511292080)セラミスフェア ピーティーワイ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】