説明

セラミック部品の検査方法

【課題】減圧環境下で使用されるセラミックス部品において、処理物への汚染の少ないセラミックス部品を検査し、有機物の汚染の少ない半導体製造装置用セラミック部品を提供する。
【解決手段】焼結体密度98%以上であり、X線光電子分光法で表面の深さ方向の測定をし、表面から5nm以深での深さで検出される吸着有機物由来の炭素量が5mass%以下であることを特徴とする半導体製造装置用セラミックス部品、更に、半導体製造装置の処理室内で曝露される主面の表面粗さが、表面平滑度でRa1μm以下であることを特徴とする前記半導体製造装置用セラミックス部品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック部品及びその検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置や液晶パネルをはじめとするフラットパネルディスプレイ製造装置は、減圧下の激しい腐食環境の工程や、高真空での工程で使用される。これらの工程で使用される装置部品は、耐食性や低脱ガス性が求められる。セラミックスは金属や樹脂類と比較して、これらの性能に優れることから、半導体製造装置や液晶パネルをはじめとするフラットパネルディスプレイ製造装置、化学薬品処理装置用部品に使用されることが多い。
【0003】
耐食性や低脱ガス性が求められる理由は、部品が腐食されるたり、部品から放出ガスが発生すると、処理室の中に異質の物質を放出することになり、製品を汚染してしまい、製品の歩留まり低下を引き起こすからである。
【0004】
近年、デバイスのデザインルールの微細化に伴い、処理室内により清浄な高真空の環境が、特に望まれるようになってきた。この様な環境下において使用される装置部品にセラミックスを用いることは好適である。しかしながら、セラミックスをこの様な環境下で使用したとき、セラミック部品表面の清浄度が十分でなく、処理物の歩留まり低下を生ずることがあり、上記環境下で使用可能なセラミックス部品であって、半導体製造装置用部品をあらかじめ検査する適当な方法がなかった。金属汚染を検査するために、セラミックを構成する金属原子を除く金属汚染を部品の表面を混酸によって処理し、誘導結合プラズマ−質量分析する例(特開2005-276891)が示されているが、表面の深さ方向の炭素の存在に関する状態分析には、不適である。また、炭素元素は、非破壊分析である蛍光X分析では、感度が低く、炭素の微量の状態分析には、不適であるとおもわれる。
【特許文献1】特開2005-276891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、減圧環境下で使用されるセラミックス部品において、処理物への汚染の少ないセラミックス部品を検査し、有機物の汚染の少ない半導体製造装置用セラミック部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
焼結体密度98%以上であり、X線光電子分光法で表面の深さ方向の測定をし、表面から5nm以深での深さで検出される炭素量が5mass%以下であることを特徴とする半導体製造装置用セラミックス部品(請求項1)、更に、半導体製造装置の処理室内で曝露される主面の表面粗さが、表面平滑度でRa1μm以下であることを特徴とする請求項1記載の半導体製造装置用セラミックス部品(請求項2)、を提供する。
【0007】
焼結体密度98%以上であって、X線光電子分光法で表面の深さ方向の測定をし、表面から5nm以深での深さで検出される炭素量が5mass%以下であるセラミックス部品を合格とする半導体製造装置用セラミックス部品の検査方法(請求項3)、更に、半導体製造装置の処理室内で曝露される主面の表面粗さが、表面平滑度でRa1μm以下であるセラミックス部品を合格とすることを特徴とする請求項3記載の半導体製造装置用セラミックス部品の検査方法(請求項4)、を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、減圧環境下で飛散炭素量が少ない半導体製造装置用セラミックス部品及びその検査が実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。減圧環境下で使用されるセラミックス部品において、処理物への汚染の原因は、セラミックスの表面に存在する有機物成分が原因であり、具体的には、セラミックスを減圧環境におくことで、表面に存在する有機物成分が処理室内に飛散する現象が汚染を引き起こす。特に、高温であるほど飛散しやすくなる。これは、処理室内が減圧であることから、セラミックス表面から飛散した有機物の障害が少なくなるため、処理室内の処理物に付着しやすくなるからである。有機物が処理物に付着してしまうと、微細な配線の形成に支障をきたす恐れがある。
【0010】
セラミックス部品としては、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素、コーディエライト、YAG等が好ましい。しかし、純度は問わない。セラミックスは、加工の摩擦により有機物系の汚れが強固に付着していることが多い。如何に高純度で表面平滑度が優れていてもこれがそのまま半導体製造装置用として適当であるということはできない。また、一旦、表面を清浄にしたものであっても、クリーンルーム以外の場所でパッキングしない状態で長時間保管した場合には、表面に有機物が強固に付着することが多い。そのため、半導体製造装置の真空チャンバー内に設置する前には十分に洗浄を行う必要がある。
【0011】
洗浄方法を概括すると、このような表面に吸着している有機物を除去するには、大気中での加熱、不活性ガス中でのスパッタ、薬品処理等がある。大気加熱は500℃以上で行うことが望ましい。500℃以下では、分子量が大きな有機物は炭化して飛散しにくいからである。500℃より上は特には規定されないが、大気加熱をすることでセラミックスの表面が改質しない温度であることが望ましい。大気加熱により、表面改質を望むのであればその改質が損なわれない限度となる。
【0012】
不活性ガス中のスパッタ、例えば、Arスパッタは短時間の処理でも有効であるが、セラミック表面を削り落とすことになるため、非常に高精度な平面度や表面粗さが必要とされる部品にこの方法を適用するのは好ましくない。
薬品については、例えば、脂を除去するには炭化水素系洗剤が有効である。しかし、これらの薬品は、洗浄が不十分であると、炭素だけでなく塩素やフッ素といった元素が残る恐れがある。
【0013】
これらの洗浄を有効に行うためには、焼結体密度は98%以上であることが望ましい。焼結体密度は、ケロシン浸漬等によるアルキメデス法等で測定できる。焼結体密度が98%未満であると、半導体製造装置用セラミックス部品としては、表面に有機物が吸着しやすくなる。気孔率が、高くなるためと思われる。次いで、表面の平滑性も洗浄効果に大きな影響がある。特に、半導体製造装置の処理室内で曝露される主面の表面粗さが問題となる。例えばこの主面の算術平均粗さRaで1μm以下であることが望ましい。Raが1μmを上回ると表面が粗く、洗浄しにくく、また、有機物が付着し易くなる。Raは、JIS B0601-1994による。粗さ曲線を中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線によって得られた面積を測定長さで割った値をμmで表わす。 一般的には、中心線平均粗さ測定器を用いる。
【0014】
検査方法として、従来、これら多様な洗浄方法の効果を迅速、確実に判断できる手段がなかった。焼結体密度、表面平滑性が所定の値を有するセラミックス部品であっても、当用途に適当であるかは、洗浄後の履歴で大きく変化するからである。しかし、セラミック表面に有機物がどれくらい付着しているか、その有機物に共通に含まれる炭素を、表面からの深さ方向で測定することで適切に判断できることを見出した。
【0015】
結果的には、焼結体密度98%以上であり、さらにX線光電子分光法で測定した場合に、5nm以深で検出される有機物由来の炭素量が5mass%以下のセラミックス部品ならば、半導体製造装置用部品として汚染に対して安全に使用できる。表面平滑度Ra1μm以下であれば、一層安全である。より洗浄しやすく、有機物が付着しにくいからである。有機物由来の炭素は、表面極近傍では、さまざまな分布をするが、5nm以深では、減衰するか、一定値を示す。
【0016】
ここに、X線光電子分光法(以下、ESCA。)とは、超高真空下におかれた固体表面に軟X線を照射し、光電効果により表面から放出される光電子の運動エネルギーを測定する分析手法である。光電子の脱出深さが数nmであることから、固体最表面に近い層を構成する原子や分子に関する情報が得られる。
【0017】
本発明に用いたX線光電子分光装置の主要な仕様は、X線源として、 MgKα,AlKα,単色化X線(Al)が用いられ、試料の分析面積が、直径3mm円領域で測定できる測定室を有するものを用いた。検出元素は、炭素(1s軌道)である。
【0018】
炭素測定方法は、アルゴンイオンを併用するイオンエッチング法で深さ方向の分析をおこなった。深さの算出は、イオンエッチング速度、時間で検量した。吸着炭素濃度(mass%)の算出は、結合エネルギー284eV近辺の位置から有機物由来の炭素元素を特定し、半定量分析によった。有機物由来の炭素は、隣接元素(炭素、水素、酸素等)を勘案して、帰属する。具体的には、帰属、特定した炭素のピークの面積を計算し、標準元素のピーク面積との比をとる。標準として内部標準又は外部標準法を用いることができる。例えば、既知量のイットリウムのピーク面積を基準とした比率を計算し、相対感度係数を乗ずる方法によった。本発明は、炭化物セラミックス部品にも応用できる。例えば炭化珪素製部品のバルクの炭素と有機物由来の炭素は、結合エネルギーが隣接原子の元素や数により相違するので、シグナルにケミカルシフトを生じる。そこで、炭素シグナルのピークを電気的シグナル処理やカーブリゾルバー等で有機物由来のピークとして分離し、そのピークの面積測定が可能だからである。
【0019】
各種窒化アルミニウム焼結体試料(焼結体密度98%以上)につき、ESCAによる深さ方向の炭素検出量を測定した結果、5nm深さまでは、有機物付着の多寡に拘らず、検出炭素量は、増加したり、減少したり、様々に変化する。表面から5nmまでは、有機物の付着状態がさまざまであることを反映している。しかし、実験誤差も考慮して、5nm以深では、有機物のすくない試料については、炭素量が増加する試料は認められず、5mass%以下の値を保持または、減衰することが認められた。汚染のおそれのある有機物付着試料は、5nm以下で炭素量が一定または、減衰するが、5nm深さでの炭素量が5mass%より大であることが判明した。
【0020】
さらに、5nm以深としたのは、表面で検出される炭素量は、ESCA測定時に測定室に存在する有機物が測定試料に付着することがあり、それを加えた値となりやすく、正確な付着量の測定値とならないからである。5nm以深でも炭素が5mass%以上検出されるようなセラミック部品は、真空チャンバー内に入れると、デバイスの汚染を引き起こす。つまり、それだけ飛散の恐れのある有機物が堆積しているということができる。
【0021】
焼結体密度98%を満たしていないセラミックス部品は、5nm以深で炭素が5mass%以上検出されなくとも、汚染源となりうる有機物を吸着し易いという理由で半導体装置用部品として不合格とした。しかし、このような部品であっても、ESCA測定の要件を満たせば、直ちに半導体製造装置用部品として使用すれば、充分に使用可能なものである。しかし、その後の長期間の使用には、適さない恐れを否定できない。
【0022】
半導体製造装置の処理室内で曝露される主面の表面粗さが、Ra1μm以下であると、洗浄も容易となり、有機物がすくなく、有機物の脱離による汚染の恐れの一層少ない部品が実現する。
【実施例】
【0023】
次に本発明の実施例について説明する。
試料は、寸法50×50×2mmの平板形状とし、材質は、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素製のものを用意した。試料は、表1の各Noにつき2系列とした。いずれの試料も半導体製造装置の処理室内で曝露される主面の表面粗さでRa1μm以下、焼結体密度98%を満たしている。焼結体密度98%を満たしていない試料は、前述の理由で不合格とし、前記主面の表面粗さでRa1μmを超える試料でも、焼結体密度98%を満たしている試料は、ESCAの結果を満たせば汚染のないことについて、ほぼ満足できる効果が得られている。
【0024】
試料No.1〜3は、炭化水素系洗剤で洗浄し、500℃で大気加熱し有機物の付着を除去した。本処理をした1系列はESCAによる炭素元素の深さ方向の表面分析をおこなった。同処理した他の1系列はSiウエハを置いた真空チャンバー内に入れ、Siウエハへの汚染度を測定した。即ち、試料を、真空チャンバー内のセラミックス製ヒータの上に置き、試料の横にはSiウエハを置いた。この状態で、試料とSiウエハを、真空度1×10-1Paで200℃、6hr加熱し、処理したSiウエハ表面をESCAで分析し、吸着有機物由来の炭素量を測定した。減圧状態の半導体製造工程を模擬したものである。
【0025】
試料No.4〜6は、クリーンルーム内で、無梱包状態で1週間放置した。その後、1系列はESCAによる炭素元素の深さ方向の表面分析をおこなった。もう1系列はSiウエハを置いた真空チャンバー内に入れ、Siウエハへの汚染度を測定した。ともに1系列の測定数は、n=5 である。
【0026】
【表1】

【0027】
有機物の飛散による汚染の有無は、試料の横においたSiウエハでその表面から5nmで検出された量のその表面で検出された量に対する比で2から3ならば汚染なし、4以上で汚染ありと判断できる。汚染が少ない本発明品を使用した製造工程を通過した半導体製品歩留まりは、良好であり、汚染がある比較品を使用した製造工程を通過した半導体製品歩留まりは、低下する。
【0028】
汚染度評価に照らして、合否判定結果は、次の通りである。まず、リファレンスのベアウエハ No.7;つまり新品ウエハの炭素量がブランク値(無汚染物)をあらわす。No.1〜3は、No.7のリファレンスと実験誤差範囲内で同じ、つまりセラミックから有機物飛散がなく、汚染がないと判断した。No.4〜6は、No.7より増えた、つまりセラミックから有機物が飛散している。従って、実施例No.1〜3は、合格品であってこのまま使用可能な部品である。比較例No.4〜6は、不合格品であってこのまま使用するには、再洗浄が必要か、再洗浄しても使用が困難な製品であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、減圧環境下で利用される半導体製造装置用セラミックス部品及びその検査方法に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結体密度98%以上であり、X線光電子分光法で表面の深さ方向の測定をし、表面から5nm以深での深さで検出される炭素量が5mass%以下であることを特徴とする半導体製造装置用セラミックス部品。
【請求項2】
更に、半導体製造装置の処理室内で曝露される主面の表面粗さが、表面平滑度でRa1μm以下であることを特徴とする請求項1記載の半導体製造装置用セラミックス部品。
【請求項3】
焼結体密度98%以上であって、X線光電子分光法で表面の深さ方向の測定をし、表面から5nm以深での深さで検出される炭素量が5mass%以下であるセラミックス部品を合格とする半導体製造装置用セラミックス部品の検査方法。
【請求項4】
更に、半導体製造装置の処理室内で曝露される主面の表面粗さが、表面平滑度でRa1μm以下であるセラミックス部品を合格とすることを特徴とする請求項3記載の半導体製造装置用セラミックス部品の検査方法。

【公開番号】特開2007−217207(P2007−217207A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37538(P2006−37538)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【特許番号】特許第3962756号(P3962756)
【特許公報発行日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】