説明

セラミドの抽出方法

【課題】 真菌類(酵母、カビ、キノコ)の乾燥物からセラミドを抽出する際、乾燥物としては、製造コストの高い凍結乾燥品が使用されているが、その代替となる乾燥物を開発する。
【解決手段】 本発明によって、セラミドを抽出する対象物として、比表面積が7,000〜11,000cm2/g、平均粒径が400〜620μm、及び水分が2〜15wt%である真菌類の乾燥物が新たに開発された。この新規乾燥物は、攪拌流動層乾燥法等凍結乾燥法とは異なる乾燥方法によって製造することができ、得られた乾燥物は常法にしたがって有機溶媒抽出することにより効率的にセラミドを抽出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真菌類からセラミドを抽出する方法に関するものであり、更に詳細には、今回新たに開発するのに成功した真菌類の乾燥物を使用してセラミドを効率よく抽出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真菌類から生理活性物質を抽出する場合、抽出溶媒が水性であれば、真菌類について乾燥する条件を格別に検討する必要はない。しかしながら、セラミド等の脂質を抽出する場合には、抽出溶媒として有機溶媒を使用することが多いが、被抽出物(真菌類)に含まれる水分は抽出効率に悪影響を与える。そのため、被抽出物は乾燥して低水分とすることが求められる。
【0003】
真菌類を乾燥し粉末化する方法の1つには、菌体を凍結乾燥し、その後に粉砕して粉末を得る方法がある。凍結乾燥は菌体を一度凍結し、さらに減圧することで水分を昇華させて乾燥物を取得する方法であり、被乾燥物は低温経過を辿るため菌体内部の熱安定性の低い物質などを以後に抽出する場合には非常に優れた方法である。しかしながら、凍結と減圧昇華に必要なエネルギーが大きく、また、製造コストも増高になり、セラミドを大量に、工業的に製造するには適していない。
【0004】
一方で、加温による乾燥と乾燥物を物理的に粉砕する方法では、乾燥時および粉砕時に品温上昇を伴い、凍結乾燥と相反する条件に曝されるため、熱安定性の低い物質を得るには適当な方法とは言えない。温風中に被乾燥物のエアロゾルを噴霧して乾燥するスプレードライヤーは乾燥品の粒子も微細であり、良好な乾燥物を得るが、乾燥設備に占める乾燥室が大型となるため時間あたりの処理量を大きくするには、設備容積も大きくなる。
【0005】
植物からセラミド類を抽出する方法としてはいくつかの方法が提案されている(特許文献1、2、3参照)。一方、ある種の酵母にセラミドの一種であるセレブロシド(セラミドに糖が結合した物質)が含有されていることは知られているが(非特許文献1参照)、工業的に安定してセレブロシドを酵母から大量生産する方法は未だ確立されていない。もちろん、今回新たに開発するのに成功した酵母の特定の乾燥物を用いてきわめて効率的にセレブロシドを抽出する方法は従来知られていないし、該特定の乾燥物自体も知られておらず新規である。
【特許文献1】特開平11−92781号公報
【特許文献2】特開平11−193238
【特許文献3】特開2000−80394
【非特許文献1】FEMS Yeast Research vol.2 (2002) 533−538
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、酵母等真菌類から生理活性物質を抽出する場合には、抽出溶媒が水性であれば乾燥方法を検討する必要はない。例示すれば熱水抽出であれば酵母懸濁液をそのまま加熱し、抽出、濾過することで濾液画分に目的物を得ることはできる。しかしながら、抽出溶媒が疎水性あるいは極性溶媒である場合には、被抽出物に含まれる水分は抽出効率に悪影響を与える。そのため、被抽出物は低水分で接触面積の大きな微粉状である必要がある。凍結乾燥により得られる乾燥品が多孔質である特徴が脂質の抽出効率を高めていることを見いだしたが、凍結乾燥法が脂質抽出に好適な方法であるものの、乾燥コストが高く大量の酵母菌体を乾燥する方法としては優れた方法とはいえない。
【0007】
本発明は、セラミドを効率的に抽出するためのシステムを新たに開発することを目的とするものであるが、セラミドは脂質であるため有機溶媒抽出が好適であり、それには被抽出物(真菌類)は乾燥していることが好ましく、従来は凍結乾燥法が使用されていた。しかしながら、上記したように、凍結乾燥法は、コストもかかるし、操作も複雑であって工業的な方法とはいい難い。
【0008】
本発明は、真菌類からセラミド抽出を工業的規模且つ低コストで効率的に行う新規システムを新たに開発することを目的とした。そして各方面から検討の結果、真菌類に着目し、その乾燥方法について、凍結乾燥法とは全く異なる方法を開発すること、換言すれば、凍結乾燥法と同等の乾燥条件を新たに見出すことを目的とした。
【0009】
すなわち、本発明は真菌類からセラミド抽出を工業的規模で効率的に行うことを目的とした。具体的には、セラミドの濃縮物を多量に得るため、乾燥した真菌類を用い、且つその表面積が大きく、乾燥水分が低く、酸化の少ない乾燥物を製造する方法を検討し、その乾燥物から効率的にセラミドを抽出する方法を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するには、上記した各条件をすべて満足する乾燥物を製造しなければならないが、各条件の内、その1つの条件を達成することすら非常に困難であるところ、そのうえ更に、表面積を大きくすれば当然のことながら酸化され易くなるが、その一方で酸化は少ないという条件が要求されており、これらの条件は本来相反するものであって両立し難いないし両立し得ないものであるにもかかわらず、これらの条件を両立させねばならないことから、その最適値を見出すことはますます困難である。そして、すべて条件をバランスよく満たすことのできる最適値を見出すことなど、至難の業といっても過言ではない。
【0011】
本発明者らは、解決困難ないし解決不可能とっても過言ではない非常に厳しい技術課題の解決に挑戦したものであって、真菌類乾燥物からセラミドを抽出するには上記した各種の条件をすべて満たすことが重要であることを再度確認し、各方面から鋭意研究検討した結果、その乾燥物は水分量2〜15wt%が好適であり、比表面積が7,000〜11,000cm2/gであり、平均粒径が400〜620μmである乾燥物、更には、好ましくは、水分量が2〜10wt%、比表面積が8,000〜10,000cm2/gであり、平均粒径が400〜550μmの乾燥物が真菌類からセラミドを抽出することに適していることを初めて見出したものである。この乾燥物は、抽出溶媒との接触面積を大きくするため、微粉状である事が必要である。この理由として、低水分は疎水性あるいは極性の抽出溶媒への脂質の溶出が容易となること、かつ、微粉状は抽出溶媒との接触面積増加により、所要溶媒量の削減が可能となることが挙げられる。
【0012】
本発明は、このような真菌類の特定乾燥物をはじめて見出しただけでなく、この特定乾燥物を製造するための乾燥機、乾燥装置、乾燥条件等の特定にも成功し、このようにして製造した真菌類の特定乾燥物からセラミドを効率的に抽出できることも確認し、遂に完成されたものである。
以下、本発明について詳述する。
【0013】
真菌類の乾燥機は、乾燥物は水分含量2〜15wt%が好適であり、比表面積が7,000〜11,000cm2/gであり、平均粒径が400〜620μmを充足するものであればどのような乾燥形態のものであってもよい。例えば、攪拌流動層乾燥法(例アンハイドロ・スピンフラツシュドライヤ:株式会社マツボー)、気流乾燥法(例商品名ドライマイスター:ホソカワミクロン)、真空攪拌乾燥機、マイクロウエーブ乾燥機、パドルドライヤー等があげられる。これらと同等の性能を有する乾燥法であれば特に限定されない。
【0014】
乾燥機に導入される真菌類は、溶液状のもの、スラリー状のもの、ケーキ状のもの、固形状のもの等が、それぞれの乾燥機のタイプにあわせて使用できる。ケーキ状のものを得るには、真菌類培養液をドラム型デハイドレータ、フィルタープレス等を用いて菌体を分離して菌体ケーキを得る。ケーキ状の真菌類の乾燥には、攪拌流動層乾燥法が適しており、スラリー状の乾燥には、気流乾燥法が適している。
【0015】
乾燥菌体を溶媒と効率よく接触させ脂質を抽出するために超音波ホモジナイザー等が用いられる。同様な接触抽出効率が良いものであれば、超音波ホモジナイザーに限定されない。脂質抽出後、遠心分離で固液分離し、脂質が含有する上澄み液を得る。しかし、上澄み液に微細固体が残存する場合は、カートリッジフィルター、メンブランフィルター等を用いる。
【0016】
そこで、生酵母等の真菌類を乾燥・粉末化し凍結乾燥品と同等の脂質の抽出効率をもたらす乾燥条件を決定した。脂質は乾燥時の加熱により酸化作用を受ける懸念があることから、乾燥条件を検討し凍結乾燥法と同等の脂質抽出効率をもたらす乾燥物を得る条件を決定した。脂質抽出効率を検討するにあたっては、近年、多くの生理活性作用が見いだされているセラミドの抽出効率を指標としたが、セラミドにグルコースなどのヘキソースが結合したセレブロシドも同一の抽出方法で抽出されることから、本発明による乾燥品から効率的に抽出することが可能である。
【0017】
このようにして、セラミド抽出に適した真菌類乾燥物の各種条件を決定しただけでなくその工業的実施にも遂に成功した。
【0018】
本発明でいうセラミドとは、脂肪、グリセロ脂質及びステロール脂質を除く脂質を指すものであって、下記化1の構造式で表わされるものを包含するものである。
【0019】
【化1】

【0020】
なお、式中、R1〜3はそれぞれ次のことを表わす。
1:アルキル基
2:水素、又は糖、又は燐酸及びホスホン酸誘導体
3:水素、又は脂肪酸残基
【0021】
具体的には、スフィンゴシン塩基類(スフィンゴシン等)、スフィンゴ脂質(スフィンゴ糖脂質類、スフィンゴ燐脂質類)、セラミド(狭義のセラミド;R2=H)、セラミドに糖が結合したセレブロシド(例えば、糖としてグルコースが結合したグルコシルセラミド(グルコセレブロシド)、更に単糖結合よりも糖鎖の大きいガングリオシド、ラクトシルセラミド、クロボシセラミド等)、その他の各種セラミド誘導体(セラミド類)が各種広範に例示される。
【0022】
抽出原料となる真菌類としては、酵母、糸状菌(カビ)、担子菌(キノコ)が例示され、その部位は特に限定されない。
【0023】
酵母の例として、サッカロマイセス属、具体的にサッカロマイセス・クルイヴェリ(Saccharomyces kluyveri IFO 1685)など、クルイヴェロマイセス属、具体的にクルイヴェロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis IFO 1090)、クルイヴェロマイセス・サーモトレランス(Kluyveromyces thermotolerans IFO 10067)、クルイヴェロマイセス・ワルティ(Kluyveromyces waltii IFO 1666)、クルイヴェロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus IFO 0617)、クルイヴェロマイセス・ウィッケルハミ(Kluyveromyces wickerhamii IFO 1675)など、チゴサッカロマイセス属、具体的にチゴサッカロマイセス・シドリ(Zygosaccharomyces cidri IFO 1990)、チゴサッカロマイセス・フェルメンタティ(Zygosaccharomyces fermentati IFO 1996)などがある。
【0024】
また、カビの例として、アスペルギルス属、具体的にはアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae IFO 30104)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)など、リゾープス属、具体的にリゾープス・オリゼ(Rhizopus oryzae IFO 31005)など、ペニシリウム属、具体的にペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti IFO 8889)など、モナスクス属、具体的にモナスクス・アンカ(Monascus anka IFO 6540)などがある。
【0025】
また、キノコとしては食用できるキノコであれば特に制限はなく、子実体、菌糸体のいずれも使用することができる。キノコの例としてマイタケ(Grifola frondosa)、シイタケ(Lentinus edodes IFO 31866)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus IFO 30776)、エリンギ(Pleurotus eryngii)、タモギタケ(Pluerotus cornucopiae IFO 30528)、エノキダケ(Flammulina velutipes IFO 31862)、ナメコ(Pholiota nameko IFO 30373)、ツクリタケ(Agaricus bisporus IFO 30874)など、グリフォラ属、レンチナス属、プルーロタス属、フラムリナ属、フォリオタ属、アガリスク属に属する担子菌が広範に使用される。
【0026】
これらの真菌類を本発明で特定した乾燥物となし、これを溶媒抽出すれば効率的にセラミドを抽出することができる。溶媒抽出は、脂質抽出における常法にしたがって行えばよく、例えば次のようにして溶媒抽出を行うことができる。
【0027】
有機溶媒量:2〜100倍、好ましくは3〜10倍。
抽出温度:特に限定されないが、一般に20〜100℃、更に50〜70℃が好ましく、常温でも可能。
時間:5分〜24時間、好ましくは30分〜4時間。
抽出回数:1〜10回、好ましくは1〜3回であるが、連続抽出も可能。
有機溶媒種類:エタノールまたは含水エタノール(好適には70〜99%エタノール)が好ましいが、メタノール、含水メタノール、ヘキサン、アセトン、クロロホルム、クロロホルム−メタノール混液、ベンゼン、イソプロパノール等も使用可能。
抽出方法:攪拌抽出、還流抽出、浸漬抽出、振とう抽出、超音波抽出。
【0028】
このようにして得られた抽出液は、適当な濃縮操作により、例えばエバポレーターのような減圧濃縮装置や加熱による溶媒除去などにより、濃縮し、濃縮液を得ることができる。さらに濃縮乾燥させて、濃縮乾固物を得ることもできる。このようにして得た濃縮乾固物は、通常、黄色の固形油脂の形状である。
こうして得られた抽出物から適当な精製手段によりセラミド画分を得ることができ、更に所望するのであれば、更なる精製、分画手段を組み合わせたり、くり返したりすることにより、各成分を分離、取得することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、抽出効率のよい真菌類の乾燥物を提供することにより、セラミドを工業的に、効率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
具体的な乾燥条件は次のとおりである。ドラム型デハイドレータあるいはフィルタープレス等の方法により単位重量あたりの水分含量を60〜75%、好ましくは63%から73%更に好ましくは66%に脱水調整した酵母ケーキを少量ずつ乾燥通気下に投入する。この通気量は酵母菌体が飛散し乾燥室外へ散逸しない量とし、乾燥室の容積・形状に応じ変更できるパラメータであり、脂質の抽出効率あるいは脂質の酸化による変質を考慮した上では重要なパラメータではない。重要なパラメータは通気温度と被乾燥物に加わる熱量である。
【0031】
乾燥室への流入時温度は200℃から240℃、好ましくは205℃から210℃、乾燥室内での放熱ロスを除き、被乾燥物である酵母ケーキからの水分蒸発に利用される熱量として40Kから160K、好ましくは63Kから93Kの範囲にあることが望ましい脂質抽出効率を得る上で重要な条件である。
【実施例】
【0032】
以下に本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0033】
(実施例1:サッカロマイセス・セレビシエの乾燥)
パン酵母サッカロマイセス・セレビシエから脂質抽出を行うために乾燥菌体を製造した。パン酵母(日本甜菜製糖株式会社製品)はサトウキビ糖蜜と硫安などの窒素源と燐酸カリウムを用いて培養し、デハイドレータ(アルファラバル製VUS−8M型)により脱水を行い水分含量66%の酵母ケーキとした。酵母ケーキの一部は凍結乾燥を行い本法による乾燥方法と比較を行う乾燥菌体を調整した。
【0034】
乾燥方法としては、攪拌流動層乾燥法を採用し、装置としてはスピンフラッシュドライヤー(APV Nordic Anhydro社製)を使用した。本装置によれば、ヒーターで加熱された熱風は接線方向より乾燥室に入り、高速の旋回流となる一方、ローターで解砕された原料(酵母ケーキ)は旋回流に乗り、乾燥品のみ上方に向い、未乾燥品は自重により沈降して(この作用を分級機構が更に促進する)、流動層内に戻り、更に乾燥されるものである。
【0035】
スピンフラツシュドライヤー(APV Nordic Anhydro製)の放熱ロスを測定するために、流入空気温度を変化させて排気温度を測定したところ、装置自体での熱損失は50Kであった(表1)。
【0036】
【表1】

【0037】
温風の流人温度を変え酵母乾燥品の製造を行った。酵母へ加わる熱量は温風の設定温度と被乾燥物である酵母ケーキの供給量によって変化させた(表2)。
乾燥物の水分含量は2.32〜6.45%であり最も高いものでテスト番号2の6.45%であったが、この程度の水分含量は溶媒抽出に際して支障のないものである。その他については2〜6%であり、2〜3%程度で良好な乾燥状態であった。
水分の蒸発速度は最高で9.60kg/時であり66%水分含量の酵母ケーキでは1時間あたり28kg乾燥する能力である。
【0038】
【表2】

【0039】
一方、凍結乾燥については試験室レベルでのサンプル調製を行い、同じ酵母ケーキを用いて約300gの凍結乾燥品を調製し、また、噴霧乾燥については乾物濃度20%とした酵母懸濁液を使用し、アトマイザー回転数13,000rpm、供給液量80ml/分、通風温度125℃において約1.1kgの乾燥品を調製した。
【0040】
(実施例2:乾燥サンプルからの脂質抽出)
約0.5gの乾燥菌体を共栓付遠沈管に採取し、秤量後、6mlのメタノールを添加した。氷冷しながら10分の超音波ホモジナイザー(BRANSON製SONIFIER250型)処理を行い、次いで12mlのクロロホルムを添加し氷冷しながら10分の超音波ホモジナイザー処理を行った。3000rpmで10分間の遠心分離後、上清を別の試験管に移した(A)。残さにクロロホルム/メタノールの2:1混液を6ml添加し、氷冷しながら10分の超音波ホモジナイザー処理を行ない、3000rpmで10分間の遠心分離後、上清をAと同じ試験管に移した。残さにクロロホルム/メタノールの1:2混液を6ml添加し、氷冷しながら10分の超音波ホモジナイザー処理を行い、3000rpmで10分間の遠心分離後、上清をAと同じ試験管に移した。
【0041】
3回分の上清に対してクロロホルム6ml、1%塩化カリウム9mlを添加し、試験管を良く攪拌した。3000rpmで10分間の遠心分離後、クロロホルム層を100ml容ナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレータにて濃縮した。濃縮物をクロロホルム/メタノールの2:1混液に溶かし、秤量済試験管に移し窒素気流下で濃縮後デシケータにて約1時間乾燥させ、脂質収量を測定した。サンプル中に占める脂質含量は凍結乾燥品3.64%に対し、サンプルNo.7がほぼ同等の3.50%であった。なお、噴霧乾燥品は3.19%であって、本発明に係るサンプルNo.7よりも低いものであった(表3)。
【0042】
【表3】

【0043】
(実施例3:リン脂質含量の測定)
皮膚保全効果などの生体機能性が期待される有用な脂質関連物質は細胞膜成分であるセラミドがリン脂質画分に含まれていることから、抽出した全脂質に含まれるリン含量を定量することで、セラミド画分の抽出効率を推定した。
【0044】
実施例2において抽出した脂質約1mgを精秤し、パイレックス(登録商標)製長試験管に採取した。60%過塩素酸/濃硫酸の1:1の混合液0.7mlを添加し、湿式分解した。溶液が淡黄色に変化した後に放冷し、0.5mlの脱塩水を添加した。1%モリブデン酸アンモニウム水溶液を添加し、0.2ml還元試薬(1−アミノ−2−ナフトール−4−スルホン酸250mg、亜硫酸ナトリウム1g混合物を15%メタ重亜硫酸ナトリウム水溶液に溶解し濾過して調製)を添加・混合し、沸騰水中で10分間反応し発色させた。820nmの吸光度を測定し、既知のリン検量線からリン含量を算出した。(参考文献:化学と生物実験ライン23 脂質の分析法(廣川書店)p72)。
【0045】
全脂質の回収量はスピンフラツシュドライのサンプルNo.9,10の条件を除き乾燥方法による違いは見られなかった。機能性を持つ脂質が局在する膜脂質抽出の指標とすべく測定した全脂質中のリン含量においては噴霧乾燥が他の乾燥法よりも低かった。すなわち、機能性が期待されるセラミド等の脂質関連物質の収量を向上させるには脂質中のリン含量が高くなる乾燥条件あるいはサンプルの物理的条件を重要視する必要がある。スピンフラシュドライヤーを用いる乾燥法ではサンプルNo.7に対する被熱量76Kの乾燥条件において凍結乾燥法と同等のリン脂質回収効率が得られるものと推定される。
【0046】
【表4】

【0047】
(実施例4:過酸化物価POVの測定)
凍結乾燥法は乾燥工程が低温条件かつ低酸素分圧下で行われるため、脂質および脂質関連物質に対する酸化作用は非常に低いものと推定される。これに対して、加温通気条件で行うスピンフラツシュドライヤーは酸化作用がきわめて働きやすい条件での乾燥となることから、乾燥条件の差が脂質の酸化に及ぼす状況を調べた。供試したサッカロマイセス・セレビシエはその属・種の脂質組成は不飽和脂肪酸が少ない脂質組成を持っている菌であるため、際だった差が現れないとは考えられたが、油化学会誌(1991)40(1)巻20〜23頁に記載される方法により測定を行った。
【0048】
実施例2において抽出した脂質200μgを5ml褐色メスフラスコに採取し、クロロホルム/酢酸/エタノール=4:4:1の混合液2mlに溶解した。これに飽和ヨウ化カリウム溶液10μlを添加し、クロロホルム/酢酸/エタノール=4:4:1の混合液でメスアップした。30分間冷暗所に放置後、クロロホルム/酢酸/エタノール=4:4:1の混合液を対照として360nmの吸光度を測定した(吸光度a)。試薬対照区は脂質サンプルを加えないもの(吸光度b1)、試料対照区は飽和ヨウ化カリウム液を加えないもの(吸光度b2)を測定した。試料中の過酸化物とヨウ化カリウムが反応して生成したヨウ素により得られる吸光度はa−b1−b2で求められ、ヨウ素量は検量線から算出した。過酸化物価(meq/kg)は1000×ヨウ素ミリ当量(meq/5ml)/試料採取量で求めた。
【0049】
抽出されたサンプルの過酸化物価はサンプル番号3,4,5(被熱量42Kと52K)で高く、サンプル番号6,7,8(被熱量63K、76K、93K)で凍結乾燥よりも低いか同等であった。温度条件による脂質抽出効率とサンプルの酸化状況を相互勘案すると、乾燥条件としては63K〜93Kの範囲の熱量が乾燥対象である酵母ケーキに加わる条件が適当であると考えられる。噴霧乾燥は125Kの雰囲気中での乾燥であることから過酸化物価が最も高かった。
【0050】
(実施例5:各種乾燥酵母サンプルの表面積の測定)
酵母菌体から脂質関連の有用物質を抽出するにあたり、抽出溶媒との接触面積が大きいことが、抽出効率を高める重要な要因であると考えられることから、乾燥サンプルの比表面積を測定することにより乾燥時の粒度を制御することで、良好な抽出効率を示す乾燥品を製造することが可能と考えられ、粒度を製造時のパラメータとして汎用的に活用できるものと考えた。
【0051】
比表面積の測定は恒圧式空気透過法による島津製作所製粉体比表面積測定装置SS−100を使用した。表には各サンプルについて5回の測定を行った平均値を示した(表5)。
【0052】
【表5】

【0053】
このデータと実施例2の脂質抽出量(対サンプル%)との相関を調べたところ、比表面積と脂質抽出量には決定係数r2=0.6405の正の相関(図1)、平均粒径と脂質抽出量には決定係数r2=0.7339の負の相関(図2)が見られた。ただし、噴霧乾燥のデータは平均粒径において、他の乾燥方法との乖離が大きく相関が取れないため除外した。
【0054】
実施例4における過酸化物価と比表面積および平均粒径の間には相関は見られなかった。
【0055】
凍結乾燥と同等の脂質関連物質の抽出効率を得るためには、比表面積は噴霧乾燥と同程度まで小さくても脂質抽出効率は変わらないが、平均粒径が噴霧乾燥と同程度まで大きい場合にはリン脂質の抽出量が低下すると考えられる。従って、少なくともサンプル番号9,10よりも比表面積が大きく、平均粒径が小さくなる条件、即ち比表面積が6,210cm2/g以上であり平均粒径が686μm以下でサンプル調整を行う必要がある。比表面積や粒径を制御して乾燥粉体を製造することは、今回調製した乾燥法や、乾燥物の粉砕により微粉化する場合においては、抽出溶媒との充分な接触面積を得る目的で広く活用できるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】比表面積と脂質抽出量との相関を示す。
【図2】平均粒径と脂質抽出量との相関を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミドを抽出する対象物として、比表面積が7,000〜11,000cm2/g、平均粒径が400〜620μm、及び水分が2〜15wt%である真菌類の乾燥物。
【請求項2】
攪拌流動層乾燥法、気流乾燥法、真空攪拌乾燥法、マイクロウエーブ乾燥法、パドルドライヤー乾燥法の少なくともひとつによって製造してなること、を特徴とする請求項1に記載の真菌類の乾燥物。
【請求項3】
真菌類が酵母、糸状菌、担子菌から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする請求項1又は2に記載の真菌類の乾燥物。
【請求項4】
酵母がサッカロマイセス属、クルイヴェロマイセス属、チゴサッカロマイセス属の少なくともひとつに属する酵母であること、を特徴とする請求項3に記載の真菌類の乾燥物。
【請求項5】
糸状菌がアスペルギルス属、ペニシリウム属、リゾープス属、モナスクス属の少なくともひとつの属に属する糸状菌であること、を特徴とする請求項3に記載の真菌類の乾燥物。
【請求項6】
担子菌がグリフォラ属、レンチナス属、プルーロタス属、フラムリナ属、フォリオタ属、アガリスク属の少なくともひとつの属に属する担子菌であること、を特徴とする請求項3に記載の真菌類の乾燥物。
【請求項7】
水分60〜75%に脱水調整した真菌類ケーキを、通気温度200〜240℃、該ケーキに加わる熱量40〜160Kの条件で乾燥処理すること、を特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の真菌類の乾燥物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の真菌類の乾燥物を、破壊し又は破壊することなく有機溶媒抽出し、抽出物からセラミド又はセラミド含有画分を分画、採取すること、を特徴とする真菌類のセラミド抽出方法。
【請求項9】
セラミド又はセラミド含有画分がリン脂質画分であること、を特徴とする請求項8に記載のセラミド抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−67842(P2006−67842A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252706(P2004−252706)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000231981)日本甜菜製糖株式会社 (58)
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【Fターム(参考)】